ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.8 )
日時: 2022/08/09 00:16
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 俺は腕を強く握りしめる。その時、俺の右腕が変形した。赤くて、でも漆黒で、まるで化け物みたいな腕。それに生きてるみたいに、ドクンドクンって脈打ってやがる。だけど、この力さえあれば……!

「ガアアアアァァァッ!」

 俺は獣の咆哮に似た雄たけびを上げる。思えば、その声は俺の物だったのか、右腕に呑まれて別の奴に乗っ取られた俺があげたのか。そいつはわかんねえ。だが今はどうでもいい。俺は目の前の闇を右手で切り裂くように払う。闇が紙が裂けていくように晴れていき、一瞬眩しい太陽の光で白が視界を支配したと思ったら、目の前にはさっきまでの胸糞悪い光景が広がっていた。俺の姿を見た連中は、驚いている様子だ。
 次は俺がお前らを蹂躙する番だ。怯えろ。慄け。恐怖しろ。目の前の連中を団長がされたみたいにしてやる。

「な、んだこいつ!?」
「魔物か!?」
「おい、子供を――」

 俺はギャーギャー喚く鎧野郎に近づく。ちょっと走ったつもりだったけど、一瞬でそいつの目の前に距離を詰めていた。まあ、そんなことは今はどうでもいい。右手でそいつの頭を握る。ちょっと握っただけなのに、瞬く間に破裂しやがった。ぶしゃって変な音と共に、トンカチで叩いたリンゴみてえに簡単に潰れやがる。脆いな。

「なんだこいつ、人を串焼きみてえにするから、血は何色かと思ったけど、赤いんだ」

 俺は多分無表情でそんなことを言う。
 俺のそんな言葉と返り血を浴びながらあちらを睨むもんだから、奴らは腰を抜かしてビビってる。ああ、それより、団長は? バロンは無事なのか?
 俺は振り返ってバロンにニードルを立ててやがった女の方を振り向く。女も鎧野郎と同じように俺にビビってる。笑えるな……こんな奴らに団長は何度も何度も……何度も串刺しにされたのか!

「殺す……殺す殺す殺す」

 俺の口から憎悪の言葉が漏れて発せられる。
 俺は女に向かって駆け出し、右腕で女の身体をつかみ、地面にそのまま叩きつける。身体が簡単にぐにゃりと曲がった。人間ってこんなにも簡単に……簡単に骨が変形するんだなぁ……。血って意外と生温かいんだな。よく本で殺人鬼の話を見たけど、あいつらもこんな気持ちで人を殺していたんだろうか?

「全員殺す……全員……」

 俺の言葉なのかこれは?
 いや、いい。鎧野郎共は全員この場で滅ぼしてやる。



―――



 その後はまるで作業のようだった。逃げ惑う鎧野郎共を追いかけて、捕まえて、叩き潰して。あとは引きちぎった奴もいたな。それに真っ二つにもしてやった。
 もう動けるやつがいないと思って周りを見たら、周りは血の海だった。村人も、鎧野郎も、皆死んでる……。腕も化け物のものじゃなくて、元に戻ってる。


 ふと我に返ってその状況を脳が理解を始める。身体が冷えていく感覚に襲われた。

「ひ、ああぁぁ!?」

 俺は情けない悲鳴を上げて、その場で後退って腰を抜かす。生きてるやつがいない……そうだ、団長! それにバロン!

「団長! バロン!」

 俺が団長に呼びかけると、意識はあった。生きてる。
 それから、バロンに近づく。

「バロ……」

 バロンはうつ伏せになって動かない。俺は名前を呼びながら必死に身体をゆする。だけど、よくよく見てみると、バロンの首筋に赤い点みたいな跡がある。……ニードルで一突きされたんだ。確か、首筋には大事なのが通ってて、そこを突かれるだけで簡単に人間は死ぬって、シスターが言って……。バロンの顔は恐怖で歪んでいた。
 人っていうのは本当に脆い。簡単に死んじまう。俺は項垂れて、彼に対する懺悔の言葉を繰り返した。
 バロン……ごめん、守れなくて……。俺は唇を噛み、涙が出そうなのをこらえる。

「嘆いている暇はないぞ」

 そう囁くようにエルの声が耳元で響く。俺が驚いて声のする方を見ると、エルが立っていた。

「アルテアが虫の息だ。アレン、早く運んでやれ」

 エルは左手で団長を指し示す。

 ……そうだ、まだ団長が生きてる。急がなきゃ! 早く行かなきゃ! 俺はそう思考を巡らせる前に、身体が勝手に動く。
 団長の上半身を起こして、俺は背中に背負う。重い……でも、早く。早く戻らねえと……! 俺は団長を引き摺って、なるべく早く小屋に戻る。

Re: 叛逆の燈火 ( No.9 )
日時: 2022/08/11 22:18
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)

 団長をなんとか連れ帰った後、何があったのかと団員の皆に根掘り葉掘り聞かれたけど、俺もよくわかってなかったから何も言えなかった。
 ただ……黒い鎧の奴らが急に村を襲ってきて、村人をどんどん斬っていって、団長を串刺しにして、バロンも……。そこまで言うと、師匠がそっと俺を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。

「怖かったでしょう、辛かったでしょう。いいのよ、もう大丈夫だから」

 俺は無言で俯くしかなかった。正直、俺の右腕が化け物みたいになった時、俺じゃない俺が入り込んできて、ずっと目の前の奴らに向かって……「全員殺す」って叫んでいた記憶が焼き付いている。
 あれは、俺の意志だったんだろうか? 俺が、あんな恐ろしい言葉や思考で、あんな事を……。俺はふと右腕を見る。もうとっくに血糊も洗って落とした。黒々としたモノなのに、恐ろしくて仕方がなかった。それにバロンの事もあるし……かなり考えがぐっちゃぐちゃで、頭がおかしくなりそうだ。

「どこへ行くの?」

 俺が師匠の下を離れると、彼女が心配そうに俺に声をかけてくれる。俺は振り向かずに、「団長のとこ」と一言だけ。


 後ろから足音が聞こえる。多分エルだろう。俺はエルの方を向きもしないで声をかけた。

「エル、あれは俺の意志だったのか? それとも、別の何かだったのか?」
「あれはお前でありお前ではない」
「どういうことだ?」
「お前の憎悪がああさせたのだ」

 俺の憎悪? 俺は思わずエルに振り向いた。相も変わらずの無表情がそこにある。

「憎悪って……んなアホな。」
「アホな話かはお前が一番よくわかっているはずだ。もう一人の自分が自分の身体で何かをしていた。という感覚に陥らなかったか?」
「……ん」

 俺が言葉に詰まっていると、エルは肩をすくめてため息をつき、俺を腕で指す。

「お前はまだその腕の恐ろしさが解っていない。理解しろ、その腕はお前の感情で暴走しかねん。まだお前が子供である限りは」
「が、ガキ扱いすんじゃ――」
「そういうところが子供だというのだ、莫迦者。感情的になるな、怒りや憎しみといった負の感情は、悪とは言わん。だが、物事が見えなくなり、大切なものを守るどころか、失いかねん。今日の暴走ぶりでは、近いうちにお前は人ならざる者と成り果てるだろうな」

 エルは痛いところをどんどんついてくる。
 カチンときて反論しようにも、多分エルには口喧嘩で勝てそうにもねえや。確かに、俺は年齢はもちろん、言動行動すべてがガキだ。シスターにも「あなたはお兄ちゃんなんだから、しっかりね」って言われて、頑張ってエレノアやルゥ、シスターも守れる男になってやるって思ってたけど……。

「う、ぐ……。確かに、そうだよな……俺は、どうしようもなくガキだ。すぐ怒ってすぐ諦めて……。シスターにも叱られてたってのに、そんなこともわかってねえガキだよ」
「わかっているならいい、あとは自覚だけだ。……そんなことを言っていたら、アルテアの部屋についたな。話はあとにしよう」

 エルがそう言うと、ノブを捻ってドアを開ける。部屋の中には、ベッドの上で包帯まみれになった団長が横たわっていた。ドアを開けて部屋に入ってくる俺達に、団長の隣にいるフィリドラ姉ちゃんが声をかけてくれた。

「エルと楽しそうだったな。何を話していた?」
「全然楽しくねえよ」
「それでも、誰かと話すことは楽しい事だ。どんな話題だろうとな」

 姉ちゃんは笑いながら、手に持っている水筒の中身を口にする。……多分酒だろう。匂いでもわかる。

「なあ、姉ちゃん」
「なんだ?」
「あの黒い鎧の奴らってなんだよ?」
「帝国軍だ。見た事ないのか?」

 姉ちゃんは首を傾げると、俺は首を振った。

「俺、ずっと修道院でシスターに守ってもらってたんだ。知らなかった」
「ま、知らないならこれから知ればいい。無知は罪だが、知る事と学ぶ事は人間にとっての糧だぞぉ?」

 姉ちゃんは豪快に笑い、また水筒の中身を口に入れる。

「いやはや、スパイが紛れ込んでたとは。俺も驚きだぜ」

 姉ちゃんがそうこぼし、水筒を強く握りしめる。顔はいつもと変わらない笑顔……いや、目が笑ってなかった。スパイが紛れ込んでいた事に、それに気づけなかった自分に腹を立てているんだろう。

「アレン、団長はな。帝国に反旗を翻すつもりだってのはわかるな?」
「あ、ああ。なんとなく。でもなんでだ?」

 俺の質問に、姉ちゃんの顔から表情が消え失せる。

「帝国騎士だったんだ、団長。俺もな。」
「……なんで、騎士のあんたらが革命だの反旗だのなんて――」
「今の帝国ってのは腐りきってるんだ。先代皇帝に毒を盛り、幼い皇女を皇帝に仕立て上げる、宰相一派のせいでな」

 宰相一派に……? 宰相ってたしか、皇帝を補佐する人の事だよな?

「なんでだ? なんでそいつらが仕えてるはずの皇帝を毒殺するんだ?」
「野心高い野郎共だったんだよ、あいつら。誰もが平等である事を掲げた先代皇帝が心底邪魔だったんだろうさ。それで、毒を盛られた皇帝を病死でもなんでも適当に理由をつけて、娘を皇帝に仕立て上げて、傀儡の皇帝として裏から操れば、帝国……いや、この大陸は奴らの好き勝手できるって寸法だよ」

 ……なんて奴らだ。何も知らない子供を利用して、好きかってしようなんて……!

「俺と団長はもちろん、その企みを見抜いて、今の皇帝にその事を伝えたんだ。俺と団長は一応あの子が生まれた頃から近衛騎士として、世話してたからな。……だが、そんな助言がとんでもない事を招いちまった」

 姉ちゃんが、苦虫を噛み潰したような顔をする。何か言いづらい事でもあるんだろうか?

「どうしたんだよ?」
「……やめにしよう、酒がまずくなる」
「なんでだ!? ここまできて――」
「っせーな、子供は寝ろ!」

 姉ちゃんが俺とエルを子猫をつまむようにして、部屋から放り投げる。いてえ……なんなんだよ一体! 俺がドアを叩いても、中からは何も返事がない。無視決め込みやがって……!

「畜生、行こうぜエル!」
「……そうだな」

 エルは考え事をしていたのか、返事が1拍程遅れる。こいつもどうしたんだろう? ま、いいか。

Re: 叛逆の燈火 ( No.10 )
日時: 2022/08/11 21:54
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)

 その後は何事もなく、夜を迎えた。団長への晩飯は師匠が「フィリドラと会ったら気まずいだろうし」なんて気を使ってくれて、持って行ってくれたし。晩飯時には、傭兵団のみんながいろいろ気を使ってバロンや団長を一切話題に出さず、俺にいろいろ質問を投げかけてきた。「修道院ではどんな生活だったのか」、「好きな食べ物は」、「明日からの予定はどうするか」なんてとにかく無難なもの。まあ、それはそれで助かるんだけどさ。晩飯が終わった後は、部屋に案内された。小綺麗な小屋で、中は俺が目を覚ました部屋と同じような構造だった。俺はベッドに寝ころぶ。このまま眠ろうかと思った。
 ただ、その日は団長の事やバロンの事。それにフィリドラの姉ちゃんが気になる事を言うもんだから、寝つけなかったけど、姉ちゃんの言ってた事はとりあえず忘れることにした。今は団長の回復を待つしかねえしな。それに……バロンの事……守れなかった悔しさが今更涙になってこぼれる。

「クソッ、俺って本当に……」

 いや、とにかく今は寝るか。俺はベッドのシーツで涙を拭きとった。

「賢明な判断だ。お前は今は疲労困憊のはず。今は休め、我も楽できる」

 なんて言いながらエルは俺の寝ているベッドの脇で座っているだけで、寝ようともしない。部屋の明かりはもう月明かりだけ。青白い光に照らされる彼女は、なんだか神秘的な風貌な感じだ。

「なあ、昼の続きなんだけどさ」
「まずはお前自身が強くならねばならん。肉体的にも、精神的にも」
「なんだよ精神的にって。昔の修行とかじゃあるまいし」

 俺は小馬鹿にしたようにいう。精神論なんて結局気持ち次第だろ。

「莫迦者が」

 エルはそんな俺を一喝してくる。

「また同じ話をさせるつもりか」
「うぐっ……」
「まあいい。今日は我も疲れた。明日からはレベッカに手取り足取り教えてもらえ。我も手伝おう」

 なんだよ、手伝うって……まさか

「剣にでもなるつもりかよ」
「……む、その発想は無かった。考えておくとしよう」
「……は?」

 エルの予想外の反応に俺は思わず声を出す。まさか、剣になるとか言わねえだろうな? ……そんな馬鹿な。いくら不思議人間でも、剣になるなんて。

 そういやこいつ、一向に寝ようとしないな。

「エル、寝ないのかよ」
「我に睡眠は必要ない」
「寝ないで疲れをどうやってとるんだよ」
「我は人間のように欲求や生命維持の為の行動は必要ないのだ」

 ふぅん、じゃあそう言う事ならほっとくか。





―――






 翌日、俺達は村の広場にいた。とりあえず、互いの力量を図るべく師匠との手合わせをする事となり、俺は剣を手に取る。剣と言っても、練習用だから木刀なんだけどさ。すると、俺の手に取った木刀を見てエルが首を振る。

「そんなモノで強くなるなど到底無理だな」
「いや、だって真剣なんか使ったら死んじまうだろ」

 俺がそうエルに言うと、エルの姿が突然黒い影に飲み込まれた。ずずずって音を立てながら、どんどん小さくなっていく。俺も周りの皆も驚いていると、黒い影が晴れ、そこには赤と青色が交じり合った、毒々しい見た目の両手剣が転がっている。剣には動く竜の瞳があり、俺を見つめた。

『我を使うといい』
「どぅあえ!? 剣が剣がしゃべった!?」

 俺は剣から声がしたので、驚いて背後に腰を抜かして尻もちをついた。

『おい、我だ。エルだ。驚くな』
「い、いや、剣がしゃべるもんだから驚くだろ普通!」
『我は普通ではないぞ』
「……確かに」

 俺は納得すると、その様子を見ていた師匠が近づいてきて、にっこりと笑う。

「エル、私は木刀を使うから、刃をどうにかできたりしない?」

 師匠の言葉に、エルは目だけを師匠に向けて、「構わん」と答えた。刃がどうなったのかはわからんけど、多分これで師匠が怪我する心配はないと思う。

「ま、最初だしね。力量がどれくらいか試すだけだから。全力で来てね。ああ、"ドライブ"の使用は禁止ね」
「どらいぶ……?」

 初めて聞く言葉だ。

「ああ、そうか。ドライブっていうのは、ざっくり言わせてもらうと、ある日突然目覚める特殊能力みたいなものよ。私のドライブは速さに関するもので、素早く動けたり、物を速く投げたり。とにかく他人より速く動けるって覚えて頂戴」

 師匠が説明したあと、エルは「ほお」と声を漏らす。

『そういえば今更気づいたが、レベッカ。お前のドライブとやらが見えるな。確かに、スピードに関する能力のようだ』
「わかるのか?」
『レベッカだけでない、他の傭兵団の皆も"見える"』
「へえ」

 師匠が感心するように目を細めた。傭兵団の皆も「すげえな」とか、口々に言う。

「じゃあ、俺は?」
『お前自身のドライブはない。いや、我と同化した事で、我自身の力である「毒」と「影」を自在に操ることができるようだな。誇りに思うといい』
「うえ、なんだそれ。気持ち悪」
『……』

 エルは俺を睨みつけてくる。師匠は「まあまあ」とエルを宥めた。

「じゃあ、アレン。エルを使うって事でいいわね?」
「ああ」

 俺の返事に頷く師匠。やっと手合わせに入れそうだ。






―――






 俺と師匠は互いにドライブを使わずに武器を打ち合う。俺は初めての戦闘だからか、振りは正直適当だし、師匠に剣をぶつけようと大きく振りかぶる。だが、俺の動きを読むように、師匠は剣を躱しては俺の身体に木刀を当てる。結構いてえ。っていうか、エルは両手剣だから結構振りが大きくなっちまうのも原因だから、余計に疲れる……!

「私、ドライブ使ってないけど、動きが遅いわね」

 師匠は俺を挑発するように言いながら、俺を確実に疲弊させようと木刀を身体に当ててくる。俺はどんどん息を切らしながらされるがままだ。
 エルはというと、俺がだんだん疲れてきているのに、何も言わなかった。

 まあ、その後10分も経たない内に俺が疲れてその場で仰向けになって倒れちまうんだけど。

「エルぅ~、なんで何も言わねえんだよ~」

 俺がエルに向かって文句を垂れると、エルはもう元の姿に戻って俺の隣にしゃがみ込んで、俺を見下ろしていた。

「助言が必要だったか?」
「べつにぃ。ただ、ずーっと黙ってされるがままだったじゃんよ」
「お前がな」

 もう言い返す気力もなかった。悔しいけど、戦った事なんか昨日のアレ以前、全くなかったからな……戦闘の訓練や実戦を経験した師匠に敵うはずもない。悔しいが、それだけは確実にわかる。

「初めての戦闘はどうだった?」

 師匠は俺の顔を覗き込んで、笑みを浮かべている。

「俺の無力さに悔しさでいっぱい」
「最初はそんなモノでしょ。いきなり私が負けたら、私は必要ないしね。ま、これでも飲んで休憩して、早速修行を始めましょう」

 師匠がそう言うと、俺の頬に何か冷たい物を当ててくる。瓶……白い瓶だ。

「それ、井戸で冷やしておいた牛乳よ。頑張りましょ♪」

 俺はそれを受け取ると、「ありがとう」と一言言って、瓶の中身を口に入れた。……生き返る気分だ。そう思いながら牛乳を飲み干す。


 その後は何事も起きることなく数日経って、団長が目を覚ます。何とか動けるまでには回復したようだ。すげえな、団長。てなわけで、団員は一ヶ所に集まって会議中だ。俺もそこにいる。

「……心配かけたな、皆」

 団長の言葉に皆は様々な反応を見せるが、各々嬉しそうだったり喜んでいたり。信頼されてんだなぁと俺は思った。

「俺が寝ている間に、何か変わったことはなかったか?」
「特に。帝国軍の追撃でも来るかと思ったけどね」

 師匠がそう答える。

「だが、今日中に移動することにしよう。あっちには魔女がいる」
「いつか言ってた、皇帝ソフィアの手下だっけか」

 俺は思わず疑問を口にする。確か、そんな事言ってたっけ。

「ああ。「バーバラ・ゴーテル=ヤーガ」。奴は魔法が使える。俺達の居場所を割り当てるなど簡単だろう」
「……だったら結構マズい状況なんじゃねえの?」
「その通りだ」

 俺の質問に団長は頷く。じゃあ早く動かないと……。

「バーバラ。あいつは現皇帝を溺愛してる奴でな。皇帝の邪魔になると判断したものは容赦なく処刑する」

 フィリドラの姉ちゃんがため息をつきながらそう言う。

「ここ数日静かだったのは気持ち悪いが、急いで移動した方がいいな」

 姉ちゃんの言葉に、皆頷く。団長は「すぐ支度しろ」というと、皆行動を始めた。

「バーバラ……というのは、あの日遠くでこちらを見ていた奴の事か?」

 エルがふとそんなことを口にする。

「は? なんだよ、何の話だよ」
「帝国軍が攻めてきた日、遠くからこちらの様子を伺っていたカカシがいた。先ほど、魔女は魔法が使えると言っていたな。そのカカシは様々な色を持っていた……つまりは、そのカカシは、そのバーバラとかいう魔女ではないか?」
「……見てやがったって事かよ」
「そうだな。こっちの動きは筒抜けだったという事だ」
「その後は?」
「お前が暴走していたころはずっと見ていたが、お前が正気に戻ったころは消えていた」

 エルが淡々と答える。……魔女が直接俺達、いや、傭兵団を観察してたって事かよ。

「魔女、そいつとはどこかで確実に会いそうだな」

 俺は誰に言うでもなく、そうつぶやいた。

Re: 叛逆の燈火 ( No.11 )
日時: 2022/08/22 22:34
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 暗い部屋。扉には閂で開けられないように塞き止めてある。……でもそれも時間の問題だ。扉はドンドンと大きな音を立てながら破られようとしている。あいつら……ずっと前から「バーバラ」を封印してたんだ! 遠征だったなんて嘘ばっかり。それを信じていた私自身も能天気だった! そして私の味方を消して行って……。今日は私の番。私を消せば、帝国はあいつらのものなのだものね。何も知らない昨日までの私を叩いてやりたい。でも、そんなことはできない。

「ゴホッ、ゴホッ」

 私の口から血の混じった咳が出てくる。床に血がボタボタと落ちて行く。口が血の味でいっぱいだ。
 ……私が馬鹿だった。あいつら、私の食事に少しずつ毒を盛ってたんだわ。父上もこうやって同じように……! 金髪だった髪は毒で白くなっていった。瞳も毒の影響で、青から血のように赤くって。まるでウサギみたい。身体もどんどん弱くなっていって、今は人より体力がない。ああ、本当に。こんなになるまであいつらを信じていた馬鹿な自分もあいつらも、こういった内部事情を知ろうともしない無能な部下も、明日も平和だと信じ込んでのうのうと暮らす愚民達も! 
 全てが憎い。憎い、憎い憎い。

「陛下、もう観念してくださいよぉ」

 ねっとりと奴らの気持ち悪い声が聞こえてくる。
 観念? なんで、どうして私が?

「もっと早くできんのかっ」

 外の奴らの声が聞こえる。やっぱり木の扉じゃすぐに破られちゃう。
 ……早く、この状況を何とかしなきゃ……。殺される! こんな場所で、惨めに……父上のようになんかなりたくないっ!

 私はどうすればいいかあたふたと周りを見る。
 そういえば、ここは書庫だったわ。無我夢中だったけど、偶然にもこんな場所に。……もう一つ思い出した。バーバラと一緒に、「悪魔を召喚する方法」が書いてある本をこの辺りに隠してたんだっけ……。
 私は悪魔を召喚する方法の書いてある本を、隠し場所から取り出し、急いで開く。悪魔を召喚する方法は簡単だった。私は自分の吐いた血を指で掬う。……今できる事ならなんでもしないと。悪魔でもいい、なんなら魂でもなんでも売る。だから、お願い!

「助けて……! 私はまだ死にたくないの、全てを破滅させるような……こんな腐りきった世界へ叛逆する力を私に頂戴ッ!!」

 私がそう叫びながら、手を合わせて握り締める。強く、血が滲むくらい力強く。
 それと同時に書庫唯一の扉が破られた。間に合わなかった……。私は絶望し、書庫にぞろぞろと入ってくる奴らを、絶望の表情で見る。

「陛下、お戯れはここまでですよ」

 私が一番信頼していた宰相が私の前に出てきて、そうにやりと笑う。

「い、や……誰か……誰か!」

 宰相に腕をつかまれ、私は恐怖で涙がこぼれる。殺される! 父上のように――



 その瞬間、私が自分の血で描いた、床の「魔法陣」が眩い光を放つ。その場にいる全員が、その光に注目した。私も。
 その魔法陣の光が消え失せると、銀色の髪の幼女がその場に立っていた。……目はなんだか光を映しておらず虚ろで。でも口元はゆるく笑っているようで。灰色のワンピースを着ていて……普通じゃないのは、幼女の頭から竜の翼のような白い羽と、スカートからは太い竜の白い尻尾が生えていた。

「なんだ、この子供は?」

 奴らの一人がそうつぶやく。

「ねえ、わたしをよんだのはだあれ?」

 皆が沈黙する中で、その流れを断ち切るように、幼女がそう尋ねる。私と目が合った。私のボロボロの姿に、幼女は何も聞かず頷き、笑みを浮かべる。

「あなたね。おねがいをかなえてあげる」

 幼女が手をかざした。私の手をつかんでいる奴に向かって。

 ボシュッという何かが潰れる音が頭上からする。見上げると、血の雨が降ってきた。身体は医師が存在せず崩れ落ちていき、目の前の宰相は首のない死体と化した。
 そのおぞましい様子に、私を除いた皆が動揺をはじめ、口々に叫ぶ。

「みんな、にがさないよ」

 幼女がそう言うと、同じようにして皆に向かって手をかざした。そこからは阿鼻叫喚と地獄絵図のようだった。幼女の見えない力によって、ある者は宰相と同じく首が潰れ、ある者は捻じれて血液が絞り出され、ある者は四肢がありえない方向に曲がり、ある者は首だけになり……まともな神経ならその様子を間近で見ているだけで気がおかしくなるだろうけど。
 ……私は呆然とその場にいる全員が動かなくなるまで、へたり込んでみていた。私もきっと、おかしくなってるのかもしれない。

「よーいしょっと。おわりっ!」

 幼女は全員死んだ事を念入りに確認していると、笑みを浮かべて私に近づいてくる。銀色の綺麗な髪や、かわいらしい黄色の花飾り、灰色の服が真っ赤な返り血でべったりと汚れている。顔も返り血を浴びて真っ赤に染まっているが、彼女は気にしている様子はなかった。

「どう? わたし、ちゃんとおねがいかなえたでしょ?」

 褒めてと言わんばかりに私の両手を握り、無邪気な笑みで私を見つめる。

「あ……うん。……すごいね」

 私は状況がつかめておらず、頭が真っ白のままだ。

「えへへ。あなた、おなまえは?」

 幼女が尋ねてくる。

「わ、わたし……ソフィア。「ソフィア・アルゼリオン」」
「ソフィアちゃん! かわいいね」

 私の名前を聞いて、彼女はにこりと目を細めた。笑顔は血で汚れていても、無垢でかわいらしい。

「じゃあソフィアちゃん、わたしのなまえをつけて。わたし、うまれたばかりでなまえがないの」
「え?」
「はやくはやく」

 彼女が唐突にそんなことを言う。名前を付けろって……急にそんなこと――
 私がそんな事を考えながら周りを見ると、私が彼女を呼ぶ為に開いてた本のある文字が目に入る。私はその文字を短くして、彼女の目を見て口にした。

「――「ネク」」
「「ネク」?」
「どう?」
「……うん、いいなまえ! じゃあわたし、ネクにするー!」

 ネクはまた無邪気に笑った。
 無邪気に小躍りするネクを見ながら、私はある考えが脳裏に浮かぶ。

「……ネクの力は、使える。この世界を支配する為に」

 私は、この時、本当に悪魔に成り下がってしまったのかもしれない。でもいいの。父上も平等主義だなんて甘い考えを持っていたから殺されたんだ。だから……私は私のやり方で帝国を、ううん、愚民共が蔓延るこの美しい世界を守らなきゃ。
 憎まれてもいい。恨まれてもいい。力で捻じ伏せればいいんだから。ネクを使って……!

Re: 叛逆の燈火 ( No.12 )
日時: 2022/08/22 22:32
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

「ソフィアちゃん、わたし……うまれたばかりであなたのことをまったくしらないの。おしえて?」

 奴らの汚らわしい血で真っ赤に染まっているその部屋で、ネクが唐突にそう尋ねる。確かに、この子はこれから役に立ってもらわなきゃいけない。今までの事を知る必要があるわ。

「そうね……」

 私は物心ついたあの頃の事を思い出しながら、ネクに語る。




―――





 私が3歳の頃、私が覚えているのは乳母であるバーバラに、魔法の基礎やドライブの事。そして、私達の身体には必ずオーラと言う身を護るための魂の鎧がある事。魔法はドライブ……いえ、魂に直接干渉し、傷をつける事。その傷は治りが遅く、魔法は万物を凌駕する特別な力だって事。それを教わった。乳母である前に、バーバラは私のお母さまだわ。悩みも楽しみも、何もかも彼女と共有した。それほどまでに信用できる人だった。
 もちろん、父上の事も尊敬していた。立派な方で、心優しく、部下の信頼も厚い。そんな人だ。父上はその時から「平等主義」を掲げていた。誰もが平等でいられるよう、いずれは帝国のシステム自体を撤廃していく予定だという。素晴らしい人だ……この方がいればきっと帝国の、いいえ、世界の未来は明るいものだと信じて疑わなかった。
 ……だからこそ、心優しい故に、そこに付け込まれたのでしょうね。
 父が信頼する公家や、宰相一派の裏切りや謀反の意志を見抜けず、むしろ彼らはその信頼を逆手にとり、父上の喉元まで浸食していき、最終的に首を食いちぎったわけだ。

 父が亡くなったのは今から3年前。私がまだ6歳の頃だ。そのころには、バーバラも遠征で姿を消していた。実際は違ったんだけど。
 私の信頼する部下二人が、唯一心から信用できる人物だった。その二人も腹の中ではどう思ってるかなんてわかりっこないんだけどね。

「あなたは父上の後を継ぎ、皇帝にならねばならない」

 父が亡くなった翌日に言われた言葉……今でも鮮明に覚えてる。

「ですがあなたは幼い。ですから今は玉座に座るだけでいい。それで皇帝の役目を果たせる」

 あの時はわかってなかったけど。「傀儡になれ」と言っていたんでしょう。本当に、大人の言いなりにしかなっていなかった私自身が嫌い。バーバラの失踪も気づけなかった自分が忌々しい。何より、今まで腐った帝国を放置していた自分も、従うしか能のない愚民も、みんなみんな憎い!

 私は父上のようにはならない。この腐った世界を変える為には――






「あなたの力がいるの、ネク」
「ん」

 ネクの手を握り、私はネクの瞳をまじまじと見つめる。ネクは私の気持ちを汲み取ったように頷き、また笑みを浮かべた。

「うん、いいよ。わたしのちから、じゆうにつかって。ソフィアちゃんのためなら、なんでもするよ。わたしはそのためにうまれたんだから」

 まただ。「その為」っていうのがよくわからない。……もしかして、私があなたを呼んだ時に叫んだ事を言ってるのかしら? ……私はふいに鼻で笑う。それなら、私には権利がある。この子の力を使って、まずは片っ端から支配していきましょう。
 能天気に暮らしている愚かな民に恐怖を教えてあげなくては。

 ……その為にはまず、バーバラの力が必要だわ。早速行きましょう。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43