ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.188 )
- 日時: 2023/02/07 22:38
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
翌朝……つっても日が昇りきらない早朝に、副長に起こされる。いつもは蹴飛ばされるもんだが、今日は肩を揺すられる程度だった。多分、騒ぎにならないように副長も気を使っているんだろう。俺が目を開けると、口に冷たい水の入ったボトルを突っ込まれる。
「飲んで目ぇ覚めたら、さっさと行くぞ」
副長がそれだけ言うと、ついてこいと言わんばかりに、手を振った。俺はずっと俺を見守っていたエルに、行くぞと言うと、エルは無言で頷く。朝は音がよく響く。だから、エルはあまり声を出さないように注意しているんだろう。
俺は挨拶もままならず、副長について行くと、俺の名を呼ぶ声に振り返る。チサトだ。
「……もういくの?」
「もちろん。お前も頑張れよ」
俺が笑いかけると、チサトは何故か微妙な顔をしている。心配事がある時にする顔だ。
「ねえ、アレン。無事に戻ってきてよ、ちゃんと」
「……ああ、それは約束する。心配はいらない、だからお前もちゃんとやれよ」
「……うん」
チサトは短く返事をした後、俺は忍び足でその場から走り去った。すぐに副長に追いつくと、副長は朝の、それも寝起きだというのに、酒を飲んでいた。確実に酒だ、においでわかる。
「アレン」
前を向いたまま俺に向かって手を伸ばす。その手には、くしゃくしゃになった紙が握られていたので、俺は受け取ってその紙を伸ばして見る。中身は、副長からの指示だった。
これから遺跡に向かう。俺は関係のない話をするから、お前もそれに合わせろ。いいな?
俺は副長の伸ばしてきた手に、返事を書く。「うん」と。
副長が満足げに頷くと、声を出し始めた。
「ヒトって目を閉じると目が潰れるようになったら、ずっと目を開けなくちゃいけなくなるだろ?」
「ん? え、うん」
唐突の意味不明な問いかけに、俺は戸惑いつつ答えた。
「ずっと目を開けてたらさ、目が乾いて開けられなくなっちまうだろ。だから俺は考えた。目を開けていたいなら、目薬を買えばいい。目薬を使えば、目を開けっ放しでも潤いっぱなしだ。ナイスアイデアだと思わんか?」
「そうだな、じゃあ目薬が爆売れしちまう」
「ああ、それだと目薬が品切れになっちまうな。だったら買い占めて、高値で売っちまえば、みんな喜ぶし、俺達は大金持ちで、全員winwinだと思わんか?」
……いや、それって。
「そもそも目を閉じたって目は潰れねえよ」
「あら、そうなのか? アレンってばあったまいいなぁ~」
副長は笑いながら、俺に手を伸ばす。その手には例のごとく、神が握られている。その紙にはまた指示が書いてあった。
カギの場所は実は、だいぶ地下深くにあってな、遺跡の守護者2体の守る、宝部屋の中にあるんだ。その道のりがめちゃくちゃ複雑なんだ。だからお前と俺で協力して、団長達が起きる前に終わらせて、団長達が地下水道側の結界にたどり着いた瞬間に、俺達も結界にたどり着くって寸法だ。わかったか?
……いやいやいや。いくらなんでもツッコミどころが多すぎるぞ。道のりが複雑なのに、団長達が起きる前に終わらせて、あっちにたどり着いたころに目的地に行くって……そんなん、神様に愛されてなきゃ無理だろ!
と一人でツッコミつつも、俺の頭はやけに冴えていた。そして、エルを見る。
<なあ、エル>
<どうした?>
<っ!?>
いや、冗談半分でやってみたが、頭で考えた声がエルに届くなんて……と思ってエルを見ていると、エルが俺の疑問に答えてくれた。
<お前と我は繋がっているんだから、こう言う事ができても何ら不思議ではない。で、我に何か用なのだろう?>
もっともらしい事を言う。だけど、いいや。都合がいい。
<お前、影があればこっちに戻れるだろ? あっちに戻って団長の様子を逐一報告してくれないか?>
<武器はどうするのだ?>
エルが当然そう聞いてくるので、俺は腰に固定してある短剣を、服を翻して見せた。
<師匠の短剣がある。大抵の魔物くらい、俺一人でも……いや、俺とクラテル、あと副長でなんとかなるさ>
<承知した>
エルはなんだか安心したように、俺の影に潜り込んでしまった。そして、前を向いて副長の手に返事を書いた。「わかった」とね。
「アレン、ある日雨が降ってきた時、さ。俺はそのまま出かけたんだよ、用事があったからな。なぜかわかるか?」
「さあ、なんで?」
副長がにやにやと笑っているのが、背を向けていてもよく分かる。
「その日の昨日は、水浴びしてなかったんだよ」
「ふーん、それ、帝国流のジョークか?」
「よくわかったな」
副長はまた笑い飛ばした。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.189 )
- 日時: 2023/02/08 22:22
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
遺跡にたどり着くと、そこはまさに「遺跡」といった見た目だった。石造りの建物、どれくらいの年月が経っているのかはわからないが、植物が生え放題の荒れ放題。外見は今にも崩れそうな、オンボロなんだけど……副長は迷わず入り口らしき穴を見つけ、そこにずんずん進んでいく。
「……」
副長も俺も終始無言だった。副長が、口元に指を立てて、「しゃべるな」と合図をしてきたからだ。……まあ、副長の言いたい事もわかる。俺が起きてからなんだか、何か、こう……"まとわりつくような視線"を感じ続けているからだ。昨日副長が言っていたのは、あながち冗談じゃなさそうだ。
こうも無言だと、いざって時に副長に合わせられるか、不安だなぁ。
そう思いながら周囲を見渡す。中も外見と同じくオンボロな石造りの建物って感じ。だけど、それは入り口周辺だけで、中へ進んでいくと綺麗なもんだった。不思議と魔物も少なく、副長も俺も楽に倒す事が出来た。いや、副長が終始炎のオーラを放っているおかげで、弱い魔物が怖気づいて逃げていくんだ。大丈夫なんだろうかと思いながら副長を見やると、相変わらず酒を飲んでる。……心配はいらなさそうだな。
俺達は無言で、襲い掛かってくる魔物を倒しながら、進んでいく。俺は、倒した魔物を埋めて手を合わせ、神の御許へ見送った。副長はそれを静かに見守り、表情を見ると、柔らかく感じる。
だいぶ奥まで進んだかと思うと、副長が声を出した。
「もう喋っていいぞ」
そういうもんだから、俺は大きくため息をついて、「ふあああ」と我ながら情けない声を出してしまう。
「なんだよ、その情けない声」
「だって、ずっと緊張しっぱなしだったもんよ~」
俺がそう言うと、目だけを動かして、周囲の気配を確認する。
あのまとわりついた視線を感じなくなった。……多分あれは、誰かの力だろうと思うけど、一体誰の……。
「今朝起きた時から感じてた視線、あれはエルメルスの力だよ。アイツは親譲りの、他人の情報を覗き込めるって力を持ってる。罪が視えるっていうのは、その一部でな。いやぁ、親子揃って何でもかんでも見透かしたような目で見るから、マジしんどかったぜ。オチオチ酒も飲めんかったし」
「だからあんな小芝居してたのかよ……」
俺は肩をすくめた。
「で、アイツの力は結構広範囲でな、まあ、俺達が隠れていたことも承知の上だろ。……いや、報告はもう魔女に済ませてあるかもな。その上で、だ。俺達を泳がせてるんだろうぜ。制御装置のカギを奪うためにさ」
「なんだよそれ、卑怯な連中だな、相変わらず」
「戦争なんて、卑怯でナンボだろ。だから、俺も細心の注意を払った。あとは……そうだな。視線が消えたって事は、俺達を視る必要がなくなったって事で……」
俺は腕を組んで頷く。
「刺客を俺達に差し向けてる?」
「賢いね。流石アレンきゅん」
「アレン、きゅ……?」
副長が「がははは」と大きな声で笑った。
「ま、俺とお前なら大丈夫だよ。できない事はねえ」
「……ああ」
副長が期待してくれている。俺はそれを感じ取り、すごく誇らしく思えた。副長はちょっと前まで、俺の事を子供扱いしてたけど、俺の事をちゃんと見てくれていた。それがとても嬉しかった。
「なぁに照れてやがる」
「照れてない、けど。嬉しいんだ、副長がやっと俺を認めてくれたみたいでさ」
俺がそう言うと、副長はまた大笑いした。
「……ま、ちょっと前まで小さい子供だと思ってたさ。でも……やっぱさぁ。成長するんだなぁ、子供だって大人になるんだなあって」
「副長、何泣いてんだよ」
「いや、俺、意外と涙もろいんだよ」
副長がなんだか情緒不安定になってきてるみたいで、俺は心配していたが、すぐに副長は涙を引っ込め、前を指さした。
「あれだ。あの土人形2体。あれが見えるだろ」
そう言われて前を見ると、そこには大きな扉。その前に扉を塞ぐように、手に持っているハルバードと大剣を交差させた、背中に翼の生やした巨漢の石像2体。それに近づいていくと、天井まで見上げる程の広い空間に出た。道中の魔物は大した事はなかったけど、目の前の石像に、俺は本能的に危険を感じ取った。
「何アレ。すごく……不気味な感じの」
「アレは、俺が作ったんだ」
「……へぇ」
俺は感心して何も考えず返事をして、しばしの静寂。
「へ、えっ!?」
ワンテンポ遅れて俺は副長を見ると、副長は腕を組んだ。
「いや、セキュリティを考えて、俺の力を練りながら半年かけてできたのが、あの石像なんだよな。なんか、こう……地下にいるのに天使みたいな姿の守護者ってのをイメージしてさ。で、焼き上げてできちゃったんだよね。思えば、俺も若かったわ。若さゆえの過ちという奴か……」
そんな事言ってるけど、普通にすごいと思う。と、俺は呆れて声も出なかった。
「あ、やべ。ちょっと喋りすぎたな」
副長がそう言った瞬間、奴らが、石をこすり合わせる音を立てながら、動き始めたんだ!
- Re: 叛逆の燈火 ( No.190 )
- 日時: 2023/02/09 23:00
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
目の前のガーゴイルは、俺達を敵と認識したようで、手に持っている武器を振り回した。ハルバードと大剣が大きな音を立てながら振り下ろされる! 俺達はそれを避け、ガーゴイル達の懐に入った。ヒビだらけの石像だっていうのに、武器を振り下ろしてもものともしない。……力を練り上げて作ったんだから、当然といえば当然か。俺も似たような事ができる……試したことないけど。
「副長、あんたが作ったんならさ、あんたの制御下におくとか……そういうのできねえのか!?」
「できたらもうやってる!」
俺の質問に、逆ギレした感じで怒鳴りつけてくるので、そりゃあそうだと納得するしかなかった。右のガーゴイルがハルバードを横振りする。俺は首を引っ込めた。あやうく、首が飛ぶところだった……!
ハルバードは隣にいたガーゴイルに武器を、思いっきり当てたのか、ゴチンと重い音が唸る。だけど、ハルバードに当たったというのに、隣のガーゴイルは特に何も問題ないといった様子で、再び俺達に向けて、大剣を振り下ろした。
「同士討ちの線はナシか……!」
大剣を避け、俺は背後へ身体を翻し、着地と同時に自分の影に手を当てた。影を大きく伸ばし、鋭く刺々しい黒い槍を射出する。勢いよく撃ち込まれたが、その影を大剣のガーゴイルが切り払った。
「ダメだ、エルがいねえと全然力が出せねえ!」
俺は歯を食いしばりながら、迫るガーゴイルの大剣を、飛翔して回避。だけど、やっぱりエルがいないから、一瞬で影の翼が消える。そんな落ちてくる俺を目掛けて、ガーゴイルがハルバードを振った。
「やべ――!」
俺が叫んで思わず目を瞑る。
「そのまま飛べ!」
副長の絶叫が耳に入ったので、俺は背中に意識を集中して、そこからさらに上に飛翔する。すると、地上の方から、ボォという空気の揺れと、空気を焼くような熱気と臭い、そして爆発音が轟いた。俺は天井に着地した地上を見下ろすと、ガーゴイル達を包む爆炎が目に入る。
副長の炎ではこんな炎を出すことはできない。……じゃあ。
「アルコールか!?」
副長がいつも酒を飲んでいるのは、体内の「命の炎」を絶やさないでもあるって聞いたことがある。それもあるけど、副長はアルコールを駆使して戦闘時の自分の炎の熱量と火力を爆発的に上げているらしい。それが、これか。
「アレン、まだ油断すんじゃねえぞ。こいつらは、俺が作ったんだからな!」
副長がそう叫ぶと同時に、俺の背中の翼が消え、地上へ落ちて行く。ガーゴイル二体はまだまだ元気そうだった。……いや、表面が焦げている。流石にさっきの爆炎で一部が焼き焦げたみたいだ。俺は、短剣を振りかぶり、ハルバードの方を狙い、黒く焦げた部分を武器を振り下ろした。
「はあぁぁっ!!」
一直線を描くように、短剣に体重を乗せ、ハルバードを叩き切る。俺は着地した後、頭上を見上げた。土がバラバラと降ってくる。ハルバードが砕け散ったんだ。ガーゴイルは武器を失う。
「よし、あといった――」
「油断するなつってるだろ!」
副長が俺の身体に手を回すと、その場から転がるように、飛んで逃げ出した。俺がいた場所に、武器が振り下ろされる。大剣の方かと思ったけど、違った。
あれは、さっき叩き切ったはずのハルバードだった。それが、焼き焦げた跡なんかなかったかのように、新品同然で復活しているのを、理解した。
「えぇ!? あれ、壊したはずじゃ――」
「あいつらは中心部に埋め込んだ星霊石が無事である限り、ああやって再生することができる。俺がそう設定したからな!」
副長は俺を放すと、俺は地面に叩きつけられる。
星霊石は、所謂オーパーツ。この世界にぶつかったっていう、星の欠片がいろんな環境の条件で精錬されて、掘り起こされた、「無限の可能性を秘めた石」だって、シスターから聞いたことがある。武器やアクセサリー、さらには力の増強や、果ては今稼働している機械の動力にもなっている、まさに世界の要ともいえる代物だ。
それが埋め込まれているってことは、それを砕けばいいのはわかった。でも……
「ごほっ……じゃ、じゃあどうすんだ!? その星霊石って、どこにあんだよ!?」
「忘れた」
「……マジ使えねえ」
「じゃあ手あたり次第ぶっ壊せばいいだろ!」
「副長って頭悪いだろ」
「理屈で動くガキとはちげーんだよ」
「んだと!?」
「ほーらそうやって怒る、すぐ怒る~」
俺達がそんな下らないやり取りをしている隙に、やはりガーゴイル2体が迫ってくる。俺と副長は同時に武器を手に取った。
「ま、今は目の前のこれを片付けてからだ。話はその後!」
「わかったよ!」
俺はそう叫んで、短剣を強く握りしめる。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.191 )
- 日時: 2023/02/10 23:26
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
奴らの動きはまるで生身の人間かってくらい、自然で、俊敏だ。油断したら、トマトみたいに潰されてしまいそうだ。……そういやトマトって、ケチャップにするとそんなに美味しく感じないよなぁ。
と、変な事を考えている事を、副長が心を読むように突っ込まれた。
「おい、余計な事を考えてんな!」
「わ、悪い!」
俺は短剣を握り締め、奴らの足を狙った。少し傷を与え、俺はその場から素早く逃げる。そして、奴らが武器を振った瞬間に、別の個所を狙い、傷をつけた。
それを繰り返すうちに、奴らの足が傷だらけになっていく。奴らが動くたびに、ミシミシと音が鳴り、砂埃が噴出されて舞う。
「動きが鈍くなってきたな」
副長は、俺のやりたい事を察したように、地面に持っているボトルを投げ捨て、持っている酒を振りまいた。
「アレン、隙を作る。あとは好きにやれ!」
副長はそう叫びながら、炎を纏う剣を撒かれた酒に向かって深く突き立てた。と、同時に凄まじい爆炎が足元に広がり、俺は一瞬宙へと飛ぶ。背中の翼は一瞬だけだが、十分だ。ガーゴイル達は足元が崩され、背中から倒れる。だけど、星霊石のおかげで奴らの足は再生していく。
でも、この瞬間を待っていた!
俺はハルバードのガーゴイルの顔に向かって、空から剣を振り下ろして突き立てた。深く突き刺さり、ガーゴイルの目に埋め込まれていた青いサファイアが、砕け散る。パリンと音が鳴ると同時に、ガーゴイルが崩れて、ただの土塊へと戻っていった。
安心する暇も無く、背後から大剣が襲い掛かってくる。風を切る音。俺は対応が遅れて、大剣が襲ってくるのをぼうっと見ていた。
<ぼさっとすんじゃねえ!>
クラテルの叫びと同時に、俺の身体に浮遊感を感じた。一瞬、クラテルが身体に入れ替わり、すぐに自分の足が地面につく。
片割れを失ったせいか、ガーゴイルは絶えず大剣を右往左往させ、さっきみたいに足元に近づくこともできない。
「アレン、さっきの作戦は悪くはなかったが、俺はもう酒切れで、今ある残ってるオーラを節約しなけりゃいけなくなった。二度目はもうできんぞ」
「だよな。ボトルを投げ捨ててたし。次はどうする?」
「星霊石を探して、一発で終わらせる以外ないだろ」
簡単に言ってくれる。
俺はそう思いながらも、なんだかやれるような気がしてならなかった。なぜなら、今迫ってくるガーゴイルの胸に、大きく輝くルビーが見えたからだ。今までなんで気づかなかったんだとか、そういうのは、俺もそう思う。多分、図体がでかくて、俊敏な動きに翻弄されていたんだろう。いや、ホント。
俺は脳内でそう言い訳してると、クラテルが呆れたように言った。
<確かに、目の前にあんなでかいモノがあるのに、なんで気づかなかったんだろうな>
も、もういいだろ。
俺は、また振り下ろされる大剣を転がって避けた。だけど、副長が振り下ろされる剣の真下にいるのが目に入り、俺は副長の名を叫んだ。
バァンと破裂するような音と共に、大剣がぶるぶると震えている。副長が大剣の下で、剣を受け止めていたんだ。
「うるせえ、早く星霊石を壊せ!」
そう言われたんで、俺は短剣を握り、奴に近づこうとするが、奴がこちらを向く。……こいつ、作られた存在だけど、馬鹿ではないみたいだ。俺はそう思いながら、奴の胸に向かって人差し指を向ける。
指先に意識を集中し、俺の持っている力を、そこに集約させた。黒い玉が浮かび上がり、大きくなっていく。それにつれ、奴との距離も縮んでいき、奴の大剣の範囲にはいったところで、奴は大剣を振り下ろした。
だが――
「射出!」
俺の方が一歩早かった。
俺の指先から、黒い一閃が奴の胸のルビーに向かって発射され、奴の胸を貫く。黒い一閃を射出する反動で、俺は一歩後退った。シュンっと音と共に、ガーゴイルのルビーごと上半身が消し飛び、遺跡にも穴が開いて、外の光が漏れてくる。もう、朝日が昇っていたのか、とのんきに考えていた。
ただの土塊になったガーゴイルを見て、俺は深く息を吐いて、その場に座り込んで項垂れる。
「どうだ、クラテル……俺もなかなかやるだろ」
俺はそう彼に言ってやると、珍しく
<……ああ、本当に>
クラテルはそう言って、俺を認めるように、驚きの声を漏らしていた。
「アレン、お疲れさん。土壇場でよくあんなのが使えたな」
副長が近づいてきて、俺は副長を見上げて頷いた。
「……ああ、もうなんか、無意識だった」
「随分疲れているな。帰りもあるんだから、こんなとこでへばるなよ」
「……うん、大丈夫。少し休憩すればさ」
「いや、休憩してる暇はねえ」
副長がそう言うと、奥の扉を指さした。
俺は頷いて、扉に近づいて、副長と二人でその扉を開いた。ズゴゴと岩がこすり合うような音と共に、扉がゆっくりと開く。中には、金銀財宝――ではなく、翠色の宝石が台座の上にあるだけだった。……これが、俺達の求めていた、
「制御装置のカギ?」
「おう。これがそうさ」
副長がそう言いながら、カギをズボンのポケットにしまう。
「これをはめこむだけで、あの要塞の100%を掌握できる。つまりは、俺達が要塞を自由にできるってわけだ」
「そうなんだ。では……君達を殺して、それを奪う事にしよう」
扉の向こうから突如、少年の声が聞こえたかと思うと、炎の柱が扉を溶かしながらこちらに噴き出してくる。熱気と火炎が眼前に迫った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.192 )
- 日時: 2023/02/14 22:49
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
俺達はとっさに伏せてそれをやり過ごした。だが、扉の残骸を砕いて、何かが突進してきた。そのスピードに、団長はありったけの炎を纏って、目の前に迫る何かから身を守ろうとしたが、そいつの突進で、壁まで吹き飛ばされ、小さい悲鳴を残して壁に縫い付けられた。
「副長!?」
「よそ見しない!」
俺が副長に振り向こうとすると、目の前まで迫ってきた男が、剣を振り下ろす。俺は短剣で受け止めたが、短剣にヒビが入り始めた。
「君、アレン・ミーティアだろ? はじめまして。俺は「シラベ・ホウライ」。あっちは「ユキ」。無礼を承知で申し訳ないが、帝国の為に死んでもらえないかな!?」
「な、なに、を……!」
淡々と作業的に、目の前の男は早口気味に言い放つもんだから、俺は影に手を当てた。影から鞭のように蛇がうねり、シラベを叩きつける。シラベはそれに驚いて、素早く後退った。さっきの攻撃で大半のオーラを消費したもんだから、大したことはできないけど、敵を追っ払うくらいの事なら簡単だ。
同時に、副長も「オラァ!」と咆哮を上げて、ユキとかいう女を蹴り飛ばした。ユキは扉の外まで吹っ飛び、地面を滑る。
「ユキ!」
シラベはユキに近づくと、すぐにユキは上体を起こした。
「問題ありません」
淡々と、機械的に、無機質な声でそう言う。……あいつ、生きてないな。魂は入ってるけど。
二人が立ちあがって、ようやく二人の姿がまともによく見えた。
シラベは黒髪の所々に赤い髪が流れた、見た目は俺くらいの少年。白装束を羽織る、華奢な人物だ。多分、さっきの炎の柱は、シラベの力だろう。
で、隣のユキは、水色の髪で、額からは氷の様な青い角を2本生やしている。服装は、シラベと同じく白装束。だけど、ユキの方は変な術式の絵が描かれた布を顔に被せているせいで、顔が良く見えない。
一つ分かった事がある。シラベもユキも、確実に今の消耗している俺達を確実に蹂躙できる。それを理解しているからこそ、俺達にあえて消耗させてカギを回収させて、そこを狙う。まあ、敵を消耗させてそこを討つっていうのが、一番賢くて楽に事が運ぶからな。
だけど、シラベは俺の持つ短剣を指さしながら、俺達に言い放った。
「アレン、それとフィリドラ。君達には大人しく投降してもらいたい。そうすれば、仲間に危害は加えない。君達の戦力では、この戦争では勝てない。君の短剣もそうだ。もうひびが入って、攻撃をしたり防いだだけで折れてしまうだろうさ。もう、無益な戦いはやめた方がいい。君達は、いたずらに血を流すのを、もう見たくないはずだろ?」
さっきの奇襲とは打って変わって、俺達を説得するつもりか?
……それに仲間に危害は加えない、って。団長達を捕まえたような口ぶりだな。……俺は、副長に目配せし、副長にシラベと対話してもらった。
「無益な戦い……それを仕掛けたのは、帝国側だろ?」
「……それは、そうだが……」
二人が話を始めた隙に、俺はエルに問いかける。
<エル……!>
<どうした、アレン>
<団長達は無事か?>
<ああ>
良かった。それと、エルは続ける。
<お前の放った黒い閃光が空を貫いたのが見えたのでな、アルテア達は既に動いている。そちらは、大丈夫なのか?>
エルの問いに、俺は答えた。
<ちょっとヤバい。エル、加勢に来てくれ。だけど……俺の合図があるまでは、姿を出さないでくれ。本気でヤバいからさ……>
<……承知した>
俺とエルの会話が終わると、シラベがこちらを見る。
「アレン、誰と話していたの?」
どきりと心臓が飛び跳ねそうになる。……こいつ、勘が鋭いのか?
「考え事してたんだよ、そっちのねーちゃん、ゾンビみたいに身体と魂が不安定だからさ。……どうせマギリエルの作った人形なんだろ――」
「ユキを人形呼ばわりするなッ!」
俺の言葉を遮るように絶叫するシラベ。怒りで顔が真っ赤になり、今にも飛び掛かりそうな殺気と、憎悪に満ちた顔へと、一瞬で変貌させた。
「彼女は生きているんだ、こうして、大地に立ってる! それで十分だろ!? ユキは人間なんだ、生きてるんだ。人形じゃない!」
俺は驚いて固まっていた。冷静そうな彼があんなにも激昂するって事は……理解できる。死を受け止められていないんだ。
「……だが、死人に魂を入れて、無理やりつなぎとめても、それは人間じゃない。ゾンビなんだよ。しかも、その術式の書かれた布がないと、魂を繋ぎ留められないんだたら……それは人間じゃねえんだよ」
副長がユキを指さして、冷たくも現実を突きつける。シラベはそれを聞いてプルプルと震えた。身体から炎が噴き出し、怒りで周りに熱気が放たれているのか、肌に熱を感じる。
「……違う。ユキは、ここにいる。彼女は人間なんだ、生きている、人間なんだぁぁぁーっ!!」
シラベの張り裂けんばかりの絶叫と共に、彼の剣が副長を襲った。
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