ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.68 )
- 日時: 2022/10/08 20:03
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
そんなこんなでまた翌日。
昨晩はバーバラもメラムちゃんも兄上も呼んだんだけど、皆口を揃えて「明日になればわかる」なーんてだけ言って消化不良気味だ。でもどんなに心配事があっても、夜がくれば朝はくる。そして人は必ず睡眠を欲しがる。僕はモヤモヤしたままベッドの中で朝を迎えたってわけさ。
そして会議の時間まで僕はアシュレイと昨日の事を話していたが、「まあなるようになれでしょう」と肩をすくめる。そりゃあそうなんだけど。
そんなわけで昨日の続きとして、議会が開かれた。昨日と同じ場所、昨日と同じ面々。2日目に入る議会は数か月ぶりだ。
長い話になるから、割愛させてもらうけど。一言で言えば……兄上が皇帝に選ばれた。
うん、それはいいんだけど、一番気がかりなのは、カティーアが昨日とは打って変わって、兄上を推薦した事だ。いや、昨日とは変わり身速すぎてびっくりだよ。
「まあ、あなたが皇帝になっても、すぐに逃げだすのは目に見えてるでしょう」
バーバラに「なんで兄上は皇帝になれたのかな」と聞いたら、バーバラの答えがこれ。……いや、失礼すぎ! 僕も確かに皇帝になりたくなーいって言ってたけど、そんな理由で皇帝になれなかったって思うと、なんか腹立つ……!
「ま、あなたみたいなチャランポランが皇帝にならなくて良かったわ。その点ではザ・ワンに感謝ね」
と、アシュレイがうんうん頷く。……ほんっと腹立つ。
「だけど、これからが大変よ、ラケル。あいつらが次にどう出るか……」
「大丈夫。これからは私が取り仕切る。それに、バーバラもアシュレイも、メラムさんもロンドもルチアだっている。何も怖い事はないさ」
「えぇ、なんかちょっと不安だなぁ先行き」
僕はそうこぼすと、皆笑っていた。
だけどその後ロンド君がうーんと唸り始める。その姿に、ルチアちゃんが首を傾げた。
「どうしたのだ、ロディ。いつになく険しい顔だが」
「いや、静かすぎるなと思って」
「何がだ?」
ルチアが腕を組む。静かすぎる……ああ、確かに。
ザ・ワンを始めとする支配派がなぜか兄上を推薦し始めて、しかも何事も滞りもなく今日の議会はすんなりと終わった。……おかしくないかな。昨日といい、今日といい。メラムちゃんの言葉を聞いて素直に引き下がるって絶対何かありそう。そんな予感がするよ。
「流石に心配しすぎじゃないかしら」
アシュレイはそうは言いながらも、顔を曇らせている。やっぱりそれが気がかりなんだろうな。そりゃそうだ。僕だってそこまで能天気じゃないし。
「今後の動きに要注意だよね……」
僕らの予想には反して、兄上が皇帝になるまで平和そのものだった。気持ち悪いくらいに。
だけど、兄上が皇帝に即位した翌日、カティーアが行動を始める。彼女たち支配派が大きく動き始めたんだ。
メラムちゃんが「ある予言」をした後、カティーアに告発されて、父上に処分を言い渡された。……メラムちゃんはその未来も見えていたんだろう。とくに取り乱しもせず、それを受け入れた。もちろん、一番親しい仲だったバーバラは抗議をしたが、何よりメラムちゃんがそれを止めたんだ。
「おかしいわ、こんなの……あなたが何をしたって言うのよっ!」
バーバラは彼女の処刑の日まで毎日地下牢に入り、彼女の前で泣き続けていた。そんなバーバラに対して優しい言葉で彼女の頭を撫で、メラムちゃんは自分の帽子をバーバラに被せ、優しく諭している。
「ワタシが死んだらあの子を……パメラを頼むよ。そうだな。あんたは誰かの為に尽くしてあげな。そしたらきっと良い事ある。きっとね」
……思えば、バーバラが誰かの為に文字通り必死になるのは、きっとメラムちゃんのこの言葉がきっかけなのかもしれない。メラムちゃんの最期の予言でもあるんだろうか。多分、メラムちゃんは、自分の死すらも見えていたって言うから、この未来も見えていたんだろうなぁ。
その後はメラムちゃんの処刑をきっかけに、支配派の勢力が増していった。それは、僕がアレンに言った真実通り。兄上はアシュレイと結婚して、アレンとソフィアを生む。その双子がカティーアの手で化け物になってしまう。その後、僕とロンド君、それにマリアちゃんや元ナインズヴァルプルギスの面々は辺境の領地に追いやられた。
その後は、ソフィアの暴走で現状に至る。っと。大体こんなものか。
僕はアレンが寝ている間にとりあえず自分の過去を整理しつつ、自分の思いを一冊の日記帳に全部綴った。あとはこれを……
「閣下。アレン様を客室に運びました」
「お、ありがとね、フリジアちゃん」
フリジアが部屋に入ってきたので、僕は手に持っている日記帳を彼女に渡した。
「こちらは?」
「アレン君の仲間に渡してくれないかな。アレン君に読んでもらいたい、大事なモノなんだ」
僕がそう言うと、フリジアは何かを悟ったように顔を歪めた。……そんな顔しないでほしいな。主人の死を悟られるなんて、一番キツいんだよ。僕はそう思いながら、笑みを作った。
「とにかくお願いね。アレン君の仲間はこの街の宿屋にいると思う。会ったら逃げてって伝えておいて」
「閣下……私は、いつまでもあなたの御傍にいます。兄様も同じ気持ちです。もちろん、あなたの部下……この邸宅にいる皆が同じ考えです」
僕はその言葉を聞いて、鼻がツンとして涙が出そうになる。だけど、毅然とした態度で、首を振り。
「ダメだよ、ちゃんと邸宅にいる皆を逃がして。魔王が来る前に。いいね?」
フリジアは黙って俯くと、無言で部屋を出た。もう、「失礼しました」も忘れちゃうなんて。……って考えつつも、彼女たちには逃げてほしいから、いざとなればなりふり構わず遠くへ行ってほしい。
「……兄上、アシュレイ。僕ももうすぐそっちに行くから」
僕は窓を撫でながら外の方を見つめ、そうつぶやいた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.69 )
- 日時: 2022/10/09 14:52
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
イルミナル領は滅びた。という報告を受け、私はただ、「そうですか」と一言だけ返事をした後、報告に来たバーバラに退室するよう命じた。
あの日、奴につけられた傷は意外に重く、私はまたベッドの上で療養しなければならなかった。ネクも私の傍を離れず、ずっと私の顔を覗き込んだり、頭を撫でてくれたり、ずっとせわしなく動いている。
私は窓の外にある景色、それを見つめていた。今日はしとしとと雨が降っている。灰色の空から、無数の雫が落ちてきて、窓を含めて全てを濡らしていた。
「……ネク」
「なあに?」
私の呼びかけに、すぐネクは駆けつけてくる。こうして一人ベッドで寝込んでいても、ネクだけは私の呼びかけに応えてくれるから、すごく安心する。
「雨って私は好き。嫌なものとか、全部洗い流してくれる気がするし」
私が自分に言い聞かせるようにそう言うと、ネクがまた私の額に手を当てて、そのまま優しく撫でてくれた。
「わたしも~。あめはいいよね。ソフィアちゃんがきらいなもの、つぎのひになったらぜーんぶながして、けしてくれるもん。だいすき!」
満面の笑み。私の言った事とほぼ同じことだけど、いいの。ネクだけでも同意してくれる人がいるなら、それで。
私はふと真上を見上げる。私のベッドは天蓋があり、それを見つめた。何の理由があるわけでもないけど。まあ、それ以外見るものがないっていのもあるんだけどね。
イルミナル領は消えた。「ラケル・イルミナル」が放ったあの光によって。文字通り、光と消えた。その後、イルミナル領の領民達は、他所へ逃げて行ったらしい。バーバラがそう言ってくれた。バーバラが観測してくれた通り、イルミナル領にはあいつがいた。だから、ビスク――エレノアとルゥの試運転を兼ねて、あいつとあの二人を会わせれば、どんな反応してくれるか楽しみでもあった。予想通り、あいつは動きを止めて、成す術なく瀕死に追い込めた。……本当はラケルを捕らえて、お母さまの事や父上の事、それに有益な情報を彼の口から聞こうとしたし、マギリエルに任せて強制的に私に従わせようとも考えてたんだけど。奴のせいで全部ダメになってしまった。本当に、肝心なところをいつも邪魔される。腹が立つ。あんな奴……死んでしまえば清々するのに! どうしてあの時死んでくれなかったのッ!
「ああ、本当に。あんな奴、この世からいなくなればいいのに」
私は無意識に憎悪が口から出てしまった。でも、別にいい。ネク以外誰もいないんだから。
「失礼いたします」
誰もいないと思って安心しきっていたところに……嫌な奴がきた。ネクも警戒している。私もこいつの事は好きじゃない。むしろ、嫌いで仕方ない。
「アストリア・ベルフォーダー」。
フルフェイスの兜を被って素顔は見た事ない。鎧を常に着てて、腹を見せないようにしている。最初は男かと思ってたけど、声は中性的で、多分女だと思う。
こいつは7年前のあの日以降に突然姿を現して、私の前にアイツらの残党の首を手土産に跪いてきた。で、開口一番「私はあなたに従います」なんて言う。信用できるはずもない。アイツらの仲間ってだけで本当はすぐに首を刎ね飛ばしたかった。……でも彼女は堂々とし、しかも首元に剣を突き立てられてもその態度を崩さなかった。だから気持ち悪くて、適当にあしらった。だけど、それがいけなかったのかも。今では何かと私に取り入ろうと近づいてくる。私の影に忍び寄り、今じゃ喉元近くまで這いよって来てる。まるで蛇。
だけど。こいつのおかげで私の最終的な目的に確実に近づいているのは事実。イルミナル領を襲う計画も、こいつが立てたんだ。「ラケル・イルミナル」を引き込むと考えたのもこいつ。最近は、こいつの言いなりになってるんじゃないかってくらい、何かとこいつの提案を飲んでいる気がする。本当はもっと早くに有無を言わさず首を刎ね飛ばすべきだったわ。……本当に。
私の嫌悪感丸出しの表情を見たのか、それとも見ていないのか。はたまた無視したのか。わからないけど、アストリアは私の様子を見て口を開いた。……のかも。
「陛下。お加減はいかがです?」
無難な質問。見ればわかるでしょう。
「何の用ですか? 手短にお願いします」
こいつのせいで、心も休まらない。イライラする。でも、それを顔に出すと相手の思うつぼね。
「いえ、ただのお見舞いなのですが。配下が上の様子を見に来るのは、おかしなことですかな?」
と、彼女は小馬鹿にするように言う。……私の被害妄想かもしれないけど、でも……こいつが私を心から心配なんかするはずもない。意味のない事をするような奴じゃない事はわかってるのよ。
「なら、早く立ち去りなさい。あなたと同じ部屋に、1秒でもいたくないんです」
私はそう嫌悪感丸出しで彼女に、吐き捨てるように言った。ネクも「そーだそーだ!」と言って、アストリアを追い出そうとしている。だが、彼女は動こうとしない。
「随分嫌われたものです。私は、あなたに全てを賭して尽くしているというのに」
へえ。そうだったんだ。
「ふうん。あなたにとってはどうかと思いますが、一応仲間であった宰相達の残党の首を斬り落とし、私の前に出したり、私を煽るような事を言って発破をかけたり、私を言葉巧みに動かそうとしたり。あれがあなたの忠誠とでも? 正直言って、あなたが私を操ろうとするあの宰相一派とやってる事は変わらないし、信用できるはずもない。なんせ、あいつらと同じような目をしているんだもの」
私は思っていることを全部とは言わないけど、言ってやった。まあ、こいつがどんな反応するかなんて予想通りだ。その予想通りの表情と反応。やっぱりこいつ嫌い。こいつは何か言おうと口を開く。……だけど、私は今この通り、まともに話せる状態じゃない。だから遮った。
「出ていきなさい。今はあなたとは話したくもない」
私はそう言ってシーツの中に顔をうずめた。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.70 )
- 日時: 2022/10/10 15:25
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
アストリアが「失礼します」と言い残し、素直に部屋を出たようだ。私は彼女が出て行ったことを確認する為にシーツから顔を出す。ネク以外は誰もいない、私の自室。……やっと心が休まる。私はため息をつくと、心配そうにネクが近づいてきて私の頭をまた優しく撫でてくれた。
ふと自分につけられた傷を見る。奴も力の使い方に慣れてきているようで、動きや力量、戦術は精度を上げてきているようだ。7年前よりも手強かった。私も……なんとか強くなってきていると思っていたけれど、それは自分の手駒に比べれば。その程度ってワケだわ。慢心は良くないわね。勉強になった。
「早速修行……とはいかないわね」
毒や身体の病は、ネクと繋がっている御蔭で瞬時に浄化されるからいいんだけど、傷はどうしようもない。自分の身体の治癒力が何とかしてくれるのを待つのみだ。
だけど、私が動けない分、バーバラが私の代わりに軍を動かしてくれている。
今の目的は、エクエス傭兵団を潰す事。奴らの存在は目の上のたん瘤というべきだろう。今は小さくとも、必ず近々私の邪魔になる。これは確信できる。……だから、バーバラに追跡してもらい、何としてでも葬り去ろうと指示を仰いでいるのだけれど。
「アレン・ミーティア」。アレの存在のせいで、今一歩順調に計画が進まない。本当に鬱陶しい。どうにかしてアイツを消してしまわないと。……とはいえ、奴のしぶとさも相当の物。今までも消してしまおうと考えはするものの、うまくいかなかった。
……手駒をうまく使わないと。奴らが本格的に私に牙を向ける前に、その牙をへし折ってあげないと。
私は、身体を起こす。身体全体を覆う軋む痛み。いや、この程度の痛み……完全に毒が全身に回って苦しくて死んじゃう思いをした7年前に比べれば、全然苦しくないし辛くない。そう思いながら、部屋の片隅にあるパンテレグラフに近づく。……バーバラに次の指示を送らないと。
[ブラッドを動かしなさい]
それだけ打ち込んで送信した。……多分、これで伝わると思う。
まだやるべきことがある。ブラッドが失敗した時の保険の為に、"彼"も動かさないとね。ちょうどいい、最近暇を持て余して遊ばせていたから、こういう処理も、彼なら十分やり遂げるでしょう。
「……っ」
身体に軋んだ痛みが走って、思わずその場に座り込む。ネクが心配そうに私に寄り添って、背中を摩ってくれた。
「大丈夫よ、ネク」
「ほんと?」
「うん。ネクのおかげで、少し痛みが和らいだ」
私はネクに向かって微笑みを作って見せた。
最近は、ネクとバーバラ以外にこんな顔は見せてない。人形のように振舞うのは別に慣れてるけど、意外に体力を使うのよね。……でも、そんな弱音なんか吐いてられない。計画を進める為に、障害を排除しなくては。
私は身体を引き摺りながら、ベッドまで歩み寄り、倒れ込む。そして、ある物に視線をやった。それを見る度に、私は自分の計画を再確認する。
……「全ての人間に死を」。私の意志はとうに固まっている。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.71 )
- 日時: 2022/10/12 18:31
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
イルミナル領が消えたあの日。あの後。俺の身体には傷一つない……というか、綺麗さっぱり消えていた。立てなくなるほどの失血だったはずなのに、それも嘘のようになくなっている。これも、ラケルのおかげなのか。よくわかんねえけど……でもこれだけはわかる。ラケルは、俺に命をくれたんだって。……これは師匠が言ってた言葉なんだけどさ。
で、イルミナル領が消え去った後、俺達は一先ず拠点へ戻る事にした。その拠点って言うのは、スティライア王国の辺境の廃村……だったのを、そこを拠点にしていた「クーゴ・フェイカー」というお兄さんと彼が束ねる義賊の集団「ユートピア」、そしてクルーガー公の友人でもある剣士の「シャオ・ウーロン」というお兄さんがクルーガー公と協力して、快適に住めるよう改造した場所なんだってさ。もちろん、俺達も一応帰る場所として使わせてもらってる。
イルミナル領の領民達は、クルーガー公やエスティア公、その他協力者の皆が匿ってくれて、なんとか無事だ。ラケルが予め根回しをしてくれていたから、皆無事で済んだってワケ。……それでも、ラケルを失ったのはかなりデカいようだ。ラケルは彼ら同盟の司令塔のような存在。それを失った今、帝国との戦いは苦戦を強いられるだろう。……と、エスティア公が言っていた。それがどう意味するのかは、まだわからないけど、いずれにせよ。今後は今まで以上に慎重にならなくては。って団長も言ってた。
「さて、堅苦しい話はこれくらいにしようか」
団長が要人を集めての軍議――最も、軍と言う程人はまだいない。でも、着々と革命の日が近づいている。それは、味方が増えていっているという事だ。今は村の大きな天幕の中で大事な話し合い。エスティア公、クルーガー公、クーゴ兄ちゃん、シャオ兄ちゃん、それぞれの側近。それに団長と副長と俺。皆が丸テーブルに世界地図を広げ、チェスの駒を使って各国の情勢を皆で意見交換、計画を練りつつ、今後の動きについて話している。
「ちょいと質問だよ、エクエスさん」
軍議に参加していた背の高い兄さん。黒髪のボッサボサの短髪で、右頬になんかよくわかんない模様の入れ墨? がある。ぼんやりしてる風貌で、割とズボラそうな割に、結構綺麗目のシャツとかジャケットとか着てるし。意外と綺麗好きなのかもな。
そんなクーゴ兄ちゃんが手を挙げた。
「クーゴ、なんだ?」
「そこの金髪のガキんちょは、どうしてこの軍議に参加してるんだ?」
うん。兄ちゃんの言いたい事もわかる。俺もなぜ今日ここにいるのかよくわかんねえ。っていうか、今までは外で聞いていたから。俺もなんで? と言いたげに目線を団長に送る。団長は頷くと、皆に目を配った。
「彼、「アレン・ミーティア」は……この同盟にとっての星だ。希望の星となって瞬くか、死兆星となって消えるのか。それは俺にもわからん。だが、間違いなく。この革命において、アレンという存在は確実に意味を持つ。ラケルもそう言っていた」
「ほぉう」
クーゴ兄ちゃんが腕を組んで感心するような声を出す。
「そりゃええなぁ。うちら同盟に瞬く極星ってワケかいな。ウンウン、確かにごっつい強そうなんね」
なんだか独特の喋り方で、ニコニコしながら俺の頭を、くしゃくしゃと掻きまわすシャオ兄ちゃん。シャオ兄ちゃんもかなり背が高く、腰近くまである深緑の長髪と、ニッコニコの満面の笑みが特徴的だ。この辺じゃ見た事ない変な服着てて、腰には剣をぶら下げている。そんな兄ちゃんなんだが、結構ガタイがいい。しかも力も強いから、割とぐしゃぐしゃと掻きまわされて、髪がボッサボサになっちまった。
なんで俺、背の高い人に高確率で頭を掻きまわされんだよ……!
「アレンクンはもう少し、おまんま食いな~? 男らしくおっきなりいよ~?」
よくわからんけど、小馬鹿にされている事はよくわかる。超腹立つ……。だけど気にしないでおこう。俺が成長すればいいだけだもんな。うん。
そんな様子を見かねて、団長が咳払いをした。
「で、だ。それはさておき。次に向かう場所は――」
「ン。ル・フェアリオ王国はどーかな?」
団長を遮ってシャオ兄ちゃんが提案する。結構マイペースな人だと思ったが、団長は慣れているのか、それをスルーして首を振った。
「いや、あそこは今どういう状況か不明だ。迂闊に入れない。なんせ、エクエス傭兵団は指名手配されている。帝国の隣国であるあそこは、まだ触れない方がいいだろう」
それを聞いて、エスティア公が頭を抱えてため息をついた。
「そうも言ってられぬだろう、アルテア。確かにフォートレス、スティライアの協力はなんとか秘密裏に得ることはできた。だが、残りル・フェアリオにも協力を仰がねば……帝国のあの魔王に勝つなどできぬだろうに。魔王は強い。しかも着実に力をつけている。それに魔女や人体兵器である「合成魔物」、それに最近各地で騒がせている狂犬、死人を操る死霊術師、他にも問題は山積みだ。それらに勝とうと思うのなら……少しでも仲間を増やさねばならぬだろう?」
それを聞いたクルーガー公はうんうんと頷く。確かに、帝国には強力な力を持つ奴、兵器や軍事力……それらは圧倒的で。あいつらがその気になれば、俺達の居場所を割り出してさっさと潰しに来るだろう。それでも今こうしてこうやって軍議なんかを開けるのは、単純に魔王ソフィアが俺達を泳がせているだけなんだろうさ。それとも、他になんか理由でもあんのかね。まあ、今考えても答えなんか出ねえんだけどさ。
「それだったらよ。オレがル・フェアリオに行くってのはど~かな?」
クーゴ兄ちゃんはそっと手を挙げて、「ちょっと近くの河原に釣りに行ってくる」的軽い感じでそう言うので、俺は「えっ、大丈夫なのか?」と思った。それを見て、クルーガー公も挙手をする。
「……正直クーゴだけじゃ心配だ。俺もついていこう」
「む……いいんだけどさ」
クルーガー公が頭を抱えながらついていくと言った後、クーゴ兄ちゃんは明らかに不服そうだ。……うん、俺も多分クルーガー公の立場なら、ついて行くと思う。まあ、それはさておき。
「で、俺達はどうすんだ?」
副長がぐびぐびと、手に持っている水筒の中身を口に入れながら、団長に尋ねる。団長が「そうだな」と一言言った後。
「ン。じゃあさ、東郷武国に行くってのはどうや?」
シャオ兄ちゃんがそう言った。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.72 )
- 日時: 2022/10/14 18:39
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
俺達エクエス傭兵団は、シャオ兄ちゃんの案内で東郷武国へ向かっている。馬車を使おうって提案してみたが、東郷武国に行くには、雪の山脈を抜けなくてはいけないらしく……。
なんとか数日を使って山を越え谷を越え、洞窟を抜けて、東郷武国の近辺までやってきたというわけである。
シャオ兄ちゃんは東郷武国の近辺の村に住んでいたらしく、元々名前は「霧龍小」なんだってさ。よくわかんねえけど、あの国では名前が後ろに来るみたいだ。兄ちゃんは彼の国について詳しく教えてくれた。
あの国は元々他国と干渉したがらず、篭国を始めたのは7年前。あいつが動き始めた直後らしい。今は国のトップである「幕府」? の首長が魔王に討たれたから、各自治領の領主も、国民も、皆混乱しているようで。その間にも奴らの残党処理があって、それで東郷武国は壊滅状態なんだって。……もう国として機能してないけど、もしかしたら、どこかに機会を伺っている人がいるかもしれない。
って兄ちゃんは言うんだけど、その「どこか」ってどこなんだよ一体。
「あん国の王都……みたいなんがあってな。カグツチっちゅー国一番のでっけえ街があんのよ。あそこならなんか情報とかありそうなんよね。ありそうってだけなんやが」
兄ちゃんがそう言うと、遠くの方を指さす。そういえば、景色も変わってる。なんか細い枝みたいな葉っぱ? が生えたぐねぐねしてる木が生えてる。なんだろうこれ。そう思って近づいて見ると、なんか茶色の実が生ってる?
「あ、それは松や。別にこの辺だけの木っちゅーわけやないで。多分帝国とか、ル・フェアリオとかにも生えとると思うわ」
「思う?」
「ん、実際には見た事ないんや。そっちに行った事ないねんなぁ」
兄ちゃんが遠い目をしながらそういう。
今日は雨が降っている。風はないし、小雨だから特に支障なく俺達は歩いているけど、やっぱりこの中で一番体力のないヘクトは、小雨に打たれて唇を紫色に変色させていた。俺が自分の黒衣を渡そうとするも、強がって「結構です」と言う。でも震え声。
「何言ってんだよ、お前は体弱いんだから、素直に被っとけ」
「……いいです」
「なんでお前はそう強情なんだか」
ヘクトを無視して、俺は自分の黒衣を脱いでヘクトに被せた。まあ俺が小雨に打たれる事になるわけだが、別に構わない。なんというか、あの日。修道院が襲われたあの日から、なんとなく身体が軽く感じるし、滅多な事では病気もしなくなった。元々健康優良体が自慢だし、あの日からじゃないかもしんねえけどさ。
「あ、ありがとございます……」
ヘクトは小声で言うと、素直にフードを深く被った。サイズは合ってないけど、しばらく雨宿りはできるだろう。
その様子を見ていた師匠とスカイ兄ちゃん、モーゼス兄ちゃん――いや、傭兵団の皆が生温かい目で俺達を見ていた。……なんだよ!?
「いやあ、んふふ~」
師匠はもはや気持ち悪いくらいに笑みを浮かべてこちらを見ている。
「ヘクト君も素直になったわねぇ。お兄さん、嬉しいわよ~」
「べ、別に。アレンさんが無理やり着せるからです」
「素直じゃないッスねぇ」
くそっ、居心地悪いな……。とは思うものの。なんだか悪い気はしなかった。不思議だ。
「あ、ははっ」
俺は無意識だと思う。思わず笑った。顔も口も緩んで……心から楽しいと思えた。
そんな俺を見て、皆驚いたような神妙な顔をする。……なんで!?
「おっ、なんだアレン。そんな顔見たの初めてだぜ」
副長が俺に近づいて、肩を組んでくる。結構体重かけてくるので重い。
「な、なんだよ……悪いかよ」
「ううん。あなた、ラケルに会ってから変わったわね」
師匠もそう言いながら近づいてきて、俺の頬を人差し指でつつく。
「……そんなに変わったか?」
「そうですね。お兄ちゃん面する鬱陶しさは変わってませんが」
ヘクトの余計な一言でちょっと怒りたくなった。……が、ただの挑発。戯言。うん。あんなのでいちいち怒ってられん。団長は腕を組みながらヘクトを叱りつける。
「お前は余計なこと言うんじゃない、ヘクト」
「あら、すみません」
叱られたヘクトが素直に謝ってきた。……ヘクトもちょっと変わったかもしれない。昔なら、もっと突っかかってきてたけど。張り合いが無くなったもんだ。
「だんちょ~。エクエス傭兵団は仲いいんやねぇ~」
「まあな。ガキ共が精神的に大人になってきたってのもあるが。良いだろう?」
「せやねぇ。うちもあんたらに会うのがもっと早かったら、傭兵団に入っとったなぁ~」
シャオ兄ちゃんがそんなことをこぼす。
「兄ちゃん、傭兵団に入らねえの?」
俺が何気なく聞いてみる。すると、兄ちゃんは困ったように笑い、頬を指で掻き始めた。
「うち、もう所属してるとこがあんねんなぁ。せやから、お誘いは嬉しいんやが、堪忍ね~」
ふぅん。兄ちゃん、クーゴ兄ちゃんのとこにでも所属してんのかな? まあいいか。そういうのはあんまり詮索しない方がいいって、師匠も言ってたしな。
俺達がそうこう話しているうちに、雨は強くなっていく。ちょうどその頃、村にたどり着いた。
その村は、既に焼き焦げていて、人の死体で埋め尽くされていたんだけど。
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