ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.183 )
日時: 2023/02/02 23:08
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)


 スカイ兄ちゃんの胸に、黒い棘のようなものが深く刺さって貫いていたんだ。スカイ兄ちゃんは悲鳴を上げる事をせず、歯を食いしばって声を出すのを必死に我慢しているように、顔が歪んでいる。

「はずれたわ」

 背後からの声が、耳に入る。魔女の声だ。振り返ると、とても残念だといった感じで肩をすくめている。

「やっぱり察しのいい子って嫌いだわ。何かと邪魔をしてくるんだもの」
「バーバラ、貴様、何をやった!?」

 団長が魔女につかみかかろうとするが、魔女の姿がすり抜ける。幻みたいに。……魔法で別の場所から、これを映しているのか。

「残念ね、私は既に遠く離れた場所から、これを映しているわ。さて、種明かしでもしましょうか。その子に打ち込んだものは、所謂「ヒトを魔物化させる」モノ。ああ、そうね、さっきマギリエルに使ったものと同じモノよ」
「……それをアレンに打ち込んで、何をするつもりだったんだ!?」

 副長が身体から火の粉を発しながら、今までに見たことも聞いたことのない、激しく燃える炎のような怒りを露にしている。

「アレンに打ち込んで何をするつもりかって? そんなのわかりきっている事じゃない。魔物化させ、あんた達を全員殺し、その後は私の術式で制御して、大陸の生物を全員殺してやる予定だったわ! ああ、残念。本当に残念ね……」

 魔女はわざとらしく冷ややかに、意地の悪い微笑みを口元に浮かべて、俺達を煽るようにそう言い放った。

「おのれ、鬼女め! 貴様はやはり人でなしであったかッ!!」

 カズマサが感情的に飛び掛かろうとするが、服をつかんでそれを阻止するディルク兄ちゃん。顔は見えなかったが、珍しく本気で怒っているのか、ドスのきいた低い声で口を開いたようだ。

「魔女ゴーテル。そこまでして、お前達は人を根絶やしにしたいのか」
「……当然でしょ。あの子がそう望んでいるんだから」

 魔女は一切動じず、ディルク兄ちゃんを睨み返す。
 突然、ディルク兄ちゃんは手に持っていた銃を魔女に向け、一発銃弾を撃ち込む。パァンと乾いた音がしたかと思うと、魔女の背後の岩に銃弾の跡が一つだけ点になって、煙が上がっていた。

「今は、胸糞悪い。失せろ」

 ディルク兄ちゃんがそう一言だけ言うと、魔女は表情を変えず、そのまま消えた。
 俺ははっとして、スカイ兄ちゃんの方へ駆け寄る。兄ちゃんは苦悶の表情で、呼吸する事すら苦痛に感じているのか、呼吸が乱れている。エルが兄ちゃんを介抱し、なんとか苦痛を取り除こうとしているようだが、どんどん顔色が悪くなっていく。むしろ、胸に刺さった黒い棘から、黒いものがどんどん浸食していって、ゆっくりと兄ちゃんを蝕んでいる。

「ハァ……くっ、アレン、君……俺はもうダメッス……魔物になって、皆に襲い掛かる、くらいなら……いっそ……!」

 スカイ兄ちゃんが俺の腕をつかみ、自分を殺せと懇願してくる。

「ま、待てよ兄ちゃん……どうして――」
「俺、さっき……自分の弓銃で自害しようとしたッス、けど……どうも、別の何かのせいでそれができない……お願いだ、早く……俺を、殺してくれ……!」

 兄ちゃんは涙を流しながら、そう訴えてくる。

「アレン、やれ」

 エルがそう言いながら、剣となって俺に握られた。

「……っ! お前も兄ちゃんを殺せっていうのかよ!?」
『本人の望みだ』
「やだよ! なんで、なんでこんなことしなきゃなんねえんだよ!」

 俺はもちろん拒否する。
 スカイ兄ちゃんは、ヘクトと一緒になって俺をからかってきたり、時には大切な事を教えてくれたり、励ましてくれたり、それに……それに! ずっと一緒に戦ってきた仲間なんだ。そう簡単に割り切れねえよ!

「……ぎ、グ……アガアアアアアアアッ!!」

 スカイ兄ちゃんの苦しむ声と、激しく苦しんでいる表情が、視覚と聴覚が感じ取る。俺の握る剣がぶるぶると震えた。こうして燻っている間に、兄ちゃんは兄ちゃんでなくなっていく。
 でも……でも!
 俺が躊躇している間にも、兄ちゃんの肌が黒く染まって、異形のものに変わっていくのが目に入ってくる。どうすればいいのかわからず、泣きたくなった。


『我がいる、お前ひとりの罪ではない』

 エルがそう囁いた。
 それを聞いた瞬間、俺は何かに弾かれたように、覚悟が決まり、躊躇なく兄ちゃんの首元に剣を向けた。



「……ごめん、兄ちゃん。本当にごめん……!」

 俺がそう言って、剣を横に振る。涙声になってるし、今、すごく前が見えない程、目から涙が溢れて止まらない。鼻もつんとしてる。


「……謝るこたないッス」

 兄ちゃんが俺の顔と声を聞いて、安心したように一瞬だけ、顔が安堵したように緩んでいた。


 それが、「スカイ・ムー」の最期だった。

Re: 叛逆の燈火 ( No.184 )
日時: 2023/02/03 23:13
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)


 その場から離れた場所で、野営をする事になった。皆、俺に気遣ってか、俺には休むよう言ってくる。でも、何もしないのは落ち着かないから、俺はこの場所に戻ってきた。……あいつ、マギリエルと死闘をした、この場所。皆で、死んだ仲間や、犠牲になった子供達を弔うための、小さく粗末だけど、鎮魂碑をそこに置いた。もちろん、友達の為に自分を犠牲にしたマギリエルも含まれている。
 風が吹く。髪がなびいて、かすかに生臭いにおいも鼻についた。

<スカイや皆が死んだ事に、責任を感じる必要はねえぞ>

 クラテルの声が頭に響く。

「……」
<スカイは、お前を守る為にああしたんだ。マギリエルだって、あの魔女の為にやった事。死んだ傭兵団の皆だって――>
「励まし、下手くそだなぁ」

 俺は笑いながら空を仰ぐ。陽が沈み始めて、茜色の光が俺達を照らしていた。

「クラテル、いっつも本当にありがとな。スカイ兄ちゃんをやる時だって、お前が手を貸してくれなかったら……きっと、後悔で引き籠ってたかもしれねえや」

 俺がそう言いながら、その場に胡坐をかく。

<手を貸すのは、ここまでだ。これからはお前がやらないと意味がない>
「わかってるよ……俺だって、さ」

 スカイ兄ちゃんをやった時、またクラテルが俺に成り代わって、俺の代わりに罪を背負ってくれた。エルも、お前だけの罪ではないと言ってくれた。……罪か。こうして身代わりになってもらう事は、俺の怠慢という名の罪じゃないか。そう思えてきた。
 結局、クラテルに甘えて、エルに頼って、ラケルにも母さんにも助けてもらって、自分で成した事なんて一つもないんじゃないかなって、そう思えてくる。

<誰かに頼る事自体、悪い事でもないし、それは怠慢じゃあないよ>

 ラケルの声が響く。

<僕も、たくさんの人に頼りに頼りまくって、頼られたら頑張ってお返しして、期待に応えていろいろやってたし。前も言ったかもしれないけど、君には素晴らしい仲間がついてるんだから。頼らないともったいないよ?>

 ラケルがそれだけ言うと、言いたい事を一方的に言ったら満足したみたいで、直後は静寂が流れる。



「……マギリエル、あんたには感謝するよ」

 俺は、鎮魂碑を見つめながら、独り言をぶつけるように声を出した。

「あんたのおかげで、俺は仲間に頼って、背中を預ける事を覚えたよ。あんたは、好きになれないし、これから先も好きになる事はないだろうけど、あんたも多分俺が嫌いだったんだろうな。だけど、あんたから大切な事を教わった、その事だけに感謝する。だから、次に生まれ変わったとしたら、仲良くなれるといいよな」

 言いたい事がまとまらなかったけど、いいや。どうせ、魂はもうここにないし。いや、もしかしたら谷底の中にまだいて、魂を子供達と共に縛られて、ある意味永遠の闇の中で地獄を見ているのかもしれない。……哀れとは思わない、今まで命を弄んだ分、子供達に憎まれながら闇の中をさまよってればいい。
 俺はすっと立ち上がり、皆のところへ戻る事にした。

「スカイ兄ちゃん、次に会うとしたら……一緒に旅をしよう」

 振り返らず、空にいるだろう兄ちゃんの魂に向かって、そう言葉を投げた。ま、もうとっくに女神の御許にいるかもしれねえけどさ。

Re: 叛逆の燈火 ( No.185 )
日時: 2023/02/04 23:16
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)


 そこから数日歩いて、やっと帝国の国境にある要塞が見えてきた。あと、怪我人を運んでいた傭兵団の皆が途中で追いついて合流して、俺達は要塞の前にある森で息をひそめていた。ジェニー姉ちゃんが望遠鏡を持っていたので、それを覗き込んで、随時状況を報告してくれた。

「要塞に、鎌を持った女の子がいるわね。あれは多分、「エルメルス」じゃないかしら」
「エルメルス……ああ、あのカタブツ野郎の子供かな。ちょっと貸せ」

 副長が望遠鏡を受け取って覗き込むと、頷きながら声を出した。

「おぉ、やっぱあの法官の制服に、人形みてーな面。あいつそっくりじゃねえか~。つーか、法官がこんな要塞までご苦労なこったな」
「ちょっと見せてください」

 副長の隣にヘクトが現れて手を伸ばす。副長は、「ほれ」と渡すと、ヘクトも望遠鏡を覗き込んだ。

「隣に、赤いバンダナの人がいますよ」
「バンダナ?」

 俺が首を傾げてヘクトの方を見ると、ヘクトは頷く。

「ええ、前にチサトさんを連れ去った、帽子被ったお兄さんです。なんというか、傭兵っぽい人。僕、あの人に蹴られたんで覚えてます」

 ヘクトが淡々と言って、俺に望遠鏡を渡してきた。
 俺は渡されるまま望遠鏡を覗き込んでみると、確かに、黒髪の鎌女と、茶色帽子のバンダナ野郎が見えた。……ん?

「どうしたの、アレン。何か見えた?」

 隣にいたチサトが俺に向かってそう尋ねてくるが、俺は答えられなかった。……あの兄ちゃん、見たことがある。それも、昔の話だけど。でも、あの時はすごく優しそうっていうか、少なくとも、あんな怖い顔をしてる兄ちゃんじゃなかった。俺はそう思いながらもう一度覗き込んだ。

「……ちょっと見せて」

 チサトがそういうので、俺は素直に渡して、地面を見ながら考え込む。

 名前は思い出せないけど……確か、俺がまだ修道院で平和に暮らしてた頃、シスターとエレノアとルゥの4人で出かけて、川に落ちるところを助けてくれた人だ。……ったと思う。
 その時、飯も作ってくれて、俺達を退屈させないように話もしてくれてたような……もうほとんど覚えてないけど、優しくしてくれた事だけは覚えてる。

「ねえ、結構人数がいるみたいだけど。傭兵もいるし、帝国軍もいる。このまま正面突破は絶対ありえないですよ、どうするんですか?」

 チサトはそう言いながら、要塞の周囲を見回しているようで。

「どうするんでござるか?」

 カズマサも団長の方を見て、そう聞いてきた。団長は腕を組みながら顎を撫でている。団長が悩んでいる時にする癖だ。
 とはいえ、簡単に答えは出ねえ。だって、こっちはせいぜい十数人。……まあ、正面突破をしようものなら、一瞬で片がつくよな。俺は頭を抱えた。


「……いや、簡単な事だ」

 その場にいる全員が腕を組んで悩んでいると、スペルビアが人差し指を立てて、そう言った。皆がそれに注目し、スペルビアが腕を組んで頷く。

「まあ、夜襲は鉄則だが、あの要塞は実は抜け道が二つあってな。一つは地下水道、一つは近くの遺跡から繋がる抜け道だ」
「ああ、それか」

 団長が頷いた。

「それは確か、どっちも塞がれたはずだろう、俺が塞いだから覚えているぞ」
「いや、確かに塞がれたが、どちらも簡単に壊れるぞ」
「馬鹿な」

 スペルビアの答えに、団長は驚いた。

「術式も組んで、魔女でない限りは簡単に壊れないはず……」
「いや、壊せる人ならここに三人くらい揃ってるじゃないか、団長」

 副長が何かを思い出したように、俺と団長を指さす。
 術式による結界、か。確かに、ドライブじゃ壊せないけど、俺には魂を貫くエルの力が。団長には、魔女に造ってもらったっていう槍がある。あとチサトもエイトの力を借りれば、術式を簡単に壊す事も容易じゃないかな。うん、それなら問題ない。
 と思い始めたが、そこでモーゼス兄ちゃんが口を挟んだ。

「まだ問題があってよ、スペルビアちゃん。壊すとなると、地鳴りか何かが起きて、確実に場所がバレるわ。その時点で、隠密行動に意味がなくなって、袋叩き似合うのも時間の問題になるでしょうね。どうするの?」

 確かに、術式による結界なんか壊したら、必ず何かが起きて居場所がバレるだろう。それに、一本道なら前から、そして後ろから挟み撃ちに遭って……ああ、うん。考えたくない。

「……あの、それじゃあ」

 チサトがそう言うと、皆の視線がそっちに集まる。

「私が囮になるのはどうでしょう。私、アレン程ではありませんが、空を飛べますし、エイトがいるし、何とかなります。多分」
「私は気が進まないが」
「私は気が進むけど」

 エイトが眉をひそめて心配そうにおろおろとしているが、チサトはばっさりと切る。……お転婆な子だなぁ。と思いつつ、俺は考える。

「空を飛んで、奇襲でもするってのか? でも、お前……」
「アレン、大丈夫よ。私だって強いんだから!」

 いや、そういう事じゃなくって……

「でもさぁ……」
「なんなら、ヘクト君についてもらうわ。この子だったら、敵に位置を知られずに潜むことができるし」

 と、チサトはヘクトの肩をつかむと、ヘクトは心なしか顔を紅潮させた。
 確かに、ヘクトのドライブは「ファントムステップ」。他者に気づかれる事なく素早く行動ができる、いわば「無意識」に潜む力だ。こいつが故郷の街が全滅したというのに、一人生き残っていたのは、無意識に潜んで身を守っていたからだろう。それに、こいつ自身も身体は弱いけど、傭兵団で誰よりも速く動けて、誰よりも賢いし、心配はいらないかもしれない。
 ……ヘクトなら大丈夫そうだな。と俺が頷いた。

「ヘクト、チサトを守れよ」
「言われずとも。僕も男ですから、女の人を守るのは当然ですよ」

 ヘクトはそう言いながら、どこか誇らし気だ。

Re: 叛逆の燈火 ( No.186 )
日時: 2023/02/05 22:59
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)


 で、早速作戦会議が始まった。陽が沈む前にやらないと、灯りを付けたら確実に居場所がバレる。だから、まだ陽が高いうちに作戦を練って、次の日の日が昇らない内に決行する。という大まかな流れは決まった。
 俺達の目的は、要塞を制圧することじゃない。突破することだ。チサトが暴れまわっている隙に要塞の機能を掌握するってのもアリではあるが、少人数ではまあまず無理だろう。俺達は伝説の勇者でもなんでもない。俺だって、チサトだって、囲まれたら終わりだ。
 じゃあ、どうするのか?

「たった十数人程度なら、突破は楽じゃないができるだろう」

 副長がそういいながらボトルを口にする。

「しかし、それをやっこさんらは許してくれるんやろうか?」

 シャオ兄ちゃんがジェニー姉ちゃんの望遠鏡で、要塞の様子を観察しながら、ため息をつく。カズマサも同じようにため息をつきながら、腕を組んで空を仰ぐ。

「しかし、どの道進むしかないでござるよ。ここ以外に道はないのでござろう」
「ないわねぇ。あっても、同じように国境の砦やら要塞やら。それらに兵士が配置されているでしょうね」
「むむ、手薄なところは――」
「ここ」

 やっぱりここを指さすモーゼス兄ちゃん。

「ま、突破するならするで、敵を一時的に機能停止させないといけなくなるし。やっぱり制圧の方が楽じゃないかしら」
「ジェニーちゃんはもうちょっと賢い方だと思っておりましたがね」

 ジェニー姉ちゃんの提案に、思いっきり小馬鹿にしたように、わざとらしくため息をついてみるディルク兄ちゃん。

「なによ! じゃあ他に何か考えがあるって言うの!?」
「まあチサトちゃんが囮になって攪乱している間に、抜け道から内部に侵入まではいいが、騎士の数は絶対的にあっちの方が上だ。何か罠とかでも仕掛けるか、逆に要塞の機能を使って奴らを掌握する的な感じじゃないと、まあ全滅するわなぁ」

 確かに。人数が極端に少ない今、要塞の機能を利用して内部を攪乱させたりしないと、突破すらできなさそうだなぁ。
 そこで、副長が思い出したかのように、指を鳴らした。

「あの要塞は確か、俺が作った侵入者撃退機能があってな。俺が抜けてからは知らんが、まだあるとすればそれを使えば、少人数でも突破できそうだぜ」
「侵入者撃退機能~?」

 俺は首を傾げて副長を見ると、副長はにやりと笑う。

「俺もまだ若かった。先代皇帝陛下に頼み込んで1年かけて作り上げたんだ。あの要塞、こっからじゃ良く見えんが、こういう構造になってるんだが……」

 団長が地面に指で絵を描き始めた。
 遺跡を貫くように作られた塁壁。なんでも、侵入者撃退機能っていうのは、この遺跡を参考に作ったらしく、壁の上に、対魔物用のバリスタ、投石用の砲台なんかを設置しているらしい。さらに、侵入者に入られてもいい様に、様々なトラップが副長の手によって仕掛けられたんだって。
 その全容を知るのは、もちろん現在では副長のみ。副長からすればこの要塞は自分の身体の一部みたいなもんだ……と鼻を高くしてどや顔を見せているんだが……

「なんでそれをさっき言わなかった……」

 と、団長は呆れて項垂れた。

「聞かれなかったからだ」

 と、涼しい顔の副長。

「しかし、あの要塞の警邏を任されたことがあったが、あの要塞の全容は半分もわからなかった。まさか、フィリドラ殿が改造していたとはな……」
「ああ、ぶっちゃけ……今日ほど帝国の騎士でよかった~なんて思った事はねえな。マジで」

 副長はケラケラ笑いながらまたボトルを口にした。

Re: 叛逆の燈火 ( No.187 )
日時: 2023/02/06 22:09
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)


 副長が言うには、トラップの制御装置は自分しか把握していないとのこと。制御装置のカギも、遺跡の中に隠しているんだってさ。……なんでこうも誰にも言わずに、そういう大事な事を隠すんかなぁ。と、頭の中でぼやいていたはずなのに、顔を見て察したのか、副長が大笑いした。

「俺、先代皇帝とラケルとは酒を飲む程度の仲だったんだが、魔王ソフィア様の事は無茶苦茶嫌いになったから、腹いせに引き継ぎ報告をせず離反しちゃってさ。でも、よくこの要塞を使おうと思ったな。俺だったら放棄するぞ」
「この場所は、君達の様な反逆者や魔物達を迎え撃つのにうってつけなんだ。バリスタや投石が使えるだけだったら、十分すぎる設備だしな」

 副長の疑問に、スペルビアが答えてくれる。

 その後は組み分けをする事になったんだが、陽も傾き始めて、視界が赤く染まっていく。副長が人数分の石を地面にならべ、石を二つ拾って、地面に描かれた見取り図の……遺跡側に落とした。

「俺とアレン。遺跡側でカギを回収するよ。あとの全員は、地下水道から回ってくれ」
「ん、そんなんでいいのか?」

 俺が首を傾げると、副長は頷いた。

「いや、隠し場所がすごい場所でな……」
「は?」

 俺がそう声を出すと、副長がなんだか苦虫を噛み潰したような顔をして俯く。いや、何があるのかすっげえ気になんだけど!?

「……遺跡に伏兵がいる可能性とか、そういうのは考えない?」

 ジェニー姉ちゃんがそう尋ねると、副長は笑い飛ばした。

「まあいるだろうな。そして、この会話も聞かれている可能性もある。敵側には筒抜けじゃないかな」
「……あっ」

 チサトが周囲を見回しながら慌てていた。

「……冗談だよ」

 と、副長は「にひひ」と笑う。

「フィリドラ、心臓に悪い冗談はよせ」
「だがよ、あっちは魔女がいるんだから、大体筒抜けじゃないか? で、敢えて誘い込もうと作戦を練っているかもしれねえ。魔法使いに俺達ゃ勝てないのさ。それはもう、魔法を作った奴に文句を言ってくれ」
「で、筒抜けとわかっていながら、どう勝つってんだ?」

 ディルク兄ちゃんあそう尋ねると、副長はニヤニヤ笑っていた。

「まあ、当日のお楽しみだ。俺が戦場をかき乱す、「トリックスター」になってやるよ」

 そして、俺に肩を組んで寄りかかりながら、俺の頬を人差し指でつんつんつついてきた。

「明日は頼むぜ、アレン。お前と俺で、戦場に華を咲かせようじゃねえか」
「……酒臭い」

 俺は、言いたい事はあるんだが、副長がどう動くのかわかんねえし、もう……そう答えるしかできなかった。


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