ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2023/03/06 20:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)

 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?


余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞

2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止


目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」

Re: 叛逆の燈火 ( No.58 )
日時: 2022/09/29 20:20
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 誰かが俺の手を握ってる。
 そんな温かさを感じて、俺は目をゆっくりと開ける。やっぱり見覚えのない天井……いや、見覚えは少しある。多分、ラケルの邸宅の天井だと思う。白い天井が光を反射して、目に光が入ってくる。結構眩しいな……。
 俺が起き上がると、俺の手を握っていた人物が目に入った。赤い髪、竜の角、真っ赤な瞳の女の子のような男の子のような容姿の――
 エルだ。

 エルは俺の手を握り、こちらを真顔で見ている。そして口を開いて、老人のようなしわがれた声を出した。

「4度目だな」
「うん……もういいよ、数えなくても」
「数えているつもりはない」

 エルの手は意外にも温かい。なんだか、シスターが握ってくれてるみたいに、穏やかな気持ちになれる。そんな気がするんだ。……安心するっていうか。
 ふと、エルの反対側を見ると、団長が椅子に座ってこっちを見てた。

「起きたな、アレン」
「えぇーっと、俺……またなんか――」
「やっちまったぞ」

 団長がそんなことを言って、腕を組む。難しい顔をしているが、怒っているわけじゃなさそうだ。……難しい顔をしてるってことは機嫌が悪いって事かも。うん……これはやらかした。きっととんでもない事をやったんだろうなぁ。
 でもあれ、つーか俺……何やってたんだっけ。確か、ラケルと話してたら急に――

「おはようございまーっす!」

 俺が額に手を当てて思い出そうとすると同時に、突然部屋のドアが蹴破られる勢いで開いた。俺は驚いて飛び跳ねてしまった。
 部屋に入ってきたのは、ラケル。それとメイドと執事だ。後ろで控えている。俺は声が上擦りながらラケルに怒鳴った。

「びっくりするだろうが!」
「おほほ、ごめんごめーん。それより、身体は大丈夫かな?」

 ラケルは悪びれもなく何事も無かったように、にっこりと笑みを張りつけながら、俺に尋ねてくる。俺は「ああ、なんとか」と胸をぽんぽん叩きながら答えた。
 すると、エルが一歩前に出てラケルに顔を近づける。そして、いつもの調子で彼に質問をぶつけた。

「ラケル。お前には光が何重にも重なって見える。空間から細剣を取り出して、暴走したアレンの心臓に向かって、細剣を突き刺していたようだが。あれはお前のドライブなのか?」
「え゛っ!? 俺、何ともないけど!?」

 俺は慌てて上半身を脱いで胸を覗き込む。何ともないというか、何事もないというか。無傷だった。ラケルはそんな様子が面白おかしかったのか、「あはははっ」と腹を抱えて笑い出した。

「ああ、じゃあ答え合わせね。アレンを突き刺したアレは僕のドライブじゃなくて、僕とゴーテルとで作った合作。「スイッチ・ルーン」だよ」

 ラケルは続ける。

「「スイッチ・ルーン」。言わば君と神竜の繋がりを一時的に切り離す為の武器でね。いや、武器じゃないな。装置とかみたいなものだね。これは、万が一神竜が君達双子を飲み込もうとした時に、隙間に差し込んであげると、神竜の憎悪を鎮める事ができるんだ。まあ、一時的にだけど。これは2本あってね。もう1本はゴーテルが持ってるはずだよ」

 武器じゃねえんだ。不思議だな……剣って言うより、なんというか……中に閉じ込めておくみたいで、鍵みたいな役割だなぁって感心する。
 いや、それよりも――

「俺、また暴走しちまったのか」
「うん。そうだね。真実を受け入れられずにね」
「受け入れられなくて、か」

 俺……そうか。

「アレン、君にもさっき言ったけど、君は宰相一派が作り出した人体兵器だ。それは、受け入れてくれ。隠しようのない、真実だ」
「……俺、人間ヒトじゃねえんだな」


 ――人間ヒトだと思い込んでた化け物だったんだ、俺。人間のフリしてた化け物だったって事だ。俺はそう考えながら俯く。
 だけど、そんな俺に対して、ラケルは「ううん」と否定した。

「いや。君はアレンだ。人間ではないかもしれないけどさ。でも、今まで生きていた君は、間違いなく人間でも、兵器でも、魔物でもない。「君」である事はわかってほしい」
「意味わかんねえ」
「じゃあさ、君が人間じゃないとしよう。それで、アルテアや君の仲間たちはどう思うかな?」

 どう思うか……。俺が人間じゃないって事は、団長も、多分副長も知ってたはずだ。多分、モーゼス兄ちゃんも。となると、シスターも知っていたのかもしれない。もう確認できねえけど。
 そんな俺をどう思っているんだろう、皆……。
 俺の思いを汲み取るように、ラケルは頷いて団長の方に顔を向けた。

「じゃあ実際……アルテア、どう思う?」
「いや、いきなり振ってくんな」

 いきなりの質問に流石に団長も戸惑っていたが、迷いの欠片もなく、即答した。

「俺は少なくとも、お前自身がどうであれ、俺の仲間で、俺の傭兵団の一員だって事は思ってる。働きさえすりゃ、追い出したりもしないし、待遇だって良くしてる方だぞ」

 団長の答えに、エルは首を傾げた。

「お前は、自分が人間でなくてはいけない理由でもあるのか? お前を信じる仲間は、家族は、お前が人間でないだけで蔑んだり、詰ってくるような、そんな器の小さい者達なのか?」

 ……そんな事はない、と思う。
 だけど、すぐにそんなに切り替えらんねえ。自分が人間じゃなかっただなんて、今でも想像が追い付かねえのに。――ああ、でも。俺の中のもう一人の俺の正体がわかって良かったかもしれない。知らないままだったら、何もわからないまま、「アレン」は死んでたかもしれない。知らないままじゃダメなんだ。知らなきゃ、いけない事だったのかもしれない。
 そう考えると、俺はもっと知らなければいけないんだ。という気になってきた。

「ラケル、お前の知ってる事を全部教えてくれ。でないと、進めない。俺がアレンでいる為に……お願いします」

 俺は頭を下げた。今すぐ切り替えるのは無理でも、知らないままでいたくない。そう考えながら。

「ん、そりゃもちろん。その為に君達を呼んだようなものだし」

 と、ラケルはあっさりと即答したもんだから、俺は拍子抜けして思わずラケルを見上げる。彼は満面の笑みで、俺の肩を掴んだ。

「長くてキツい話になるかもだけど、とりあえず。お茶の続きしよっか♪」

 満面の笑み。なのになんだか不穏な感じもする。そんな笑顔だ。ってかどんだけ飲むつもりだよ!? なんて思っていると、ラケルはその不穏な笑顔を団長に向ける。ニッコリニコニコ。ニコーっと無邪気でもあり邪悪な笑顔だ。

「あ、アルテア。アレンが壊してくれた壁代は、あとで請求するから。フリジア、請求書作っといて」
「承知しました。アルテア様、あて先は?」

 メイドが了承して団長を見る。
 団長は苦虫を噛み潰したような顔をして、フリジアの耳元まで顔を近づけて、小声でひっそりとささやきかける。その会話が耳に入ってきた。

「あ、うん……「ロンディーネ・クルーガー」にツケておいてくれ」
「承知しました」

 クルーガー公にツケるつもりか……。

Re: 叛逆の燈火 ( No.59 )
日時: 2022/09/29 21:40
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 俺と団長、そしてエルはとりあえず別室を案内され、そこで話の続きをすることにした。長くなるとのことで、大きめのポット――多分俺の頭の二回りくらい大きい。それが乗っているワゴンを運んでくるメイドと執事。……全部飲むつもりかよ。
 テーブルにカップが丁寧に並べられて、俺達は話ができる万全の準備ができた。
 ラケルは「じゃ、語るわよ~」なんて言いながら、表情は真剣そのものとなり、改めて全てを語り出す。

 「神竜グラディウス」。それは帝国の皇城の地下深くに封じ込められていた、ひかりやみを司る魔物で、初代皇帝が封印したらしく、代々皇帝のみがその地下へと行くための鍵を受け継いで、その封印を守っていたらしい。その入り口は、城が蓋をするように建てられていて、少なくとも50年前までは塞がれていたらしい。……だけど、ナインズヴァルプルギス第2位「カティーア」は何らかの理由でその鍵を盗み、第1位「ザ・ワン」の技術をも盗んで、グラディウスを生きたまま捕縛することに成功。グラディウスの魂に至るまで、その存在を2本の剣へと作り替えた。
 それだけにとどまらず、魂を二分して、俺とソフィアの身体に組み込んだんだと。そして、身体は母さん……その時の皇后である「アシュレイ・ルーギウス・アルゼリオン」を二分して、俺達の身体に組み込んで、ヒトの形にしたんだと。あとは奴らが情報操作して、母さんは病死したという事にすればいい。その事実を知っているのは、ナインズヴァルプルギスの面々と、一部の宰相達、そして当時の近衛騎士だった者達。団長とか、副長、それにモーゼス兄ちゃん、それからクルーガー公と東郷武国を除く各国の王様達も知っているんだと。だけど、その事を口外しないように、カティーアは口封じの為に彼ら全員に術式を刻んだ。「口外すれば体の内側にいる蛇がお前達を喰らうぞ」と彼女はせせら笑ったそうだ。今は、カティーア自身が死んでいるので、その術式は効果を失っているそうだが、時間が経ちすぎた今では、それを公表したところで、世界も人々も今更変わる事はないだろう。
 ラケルはカップの中身を口にしながら、諦めたように言う。

「君達を赤ん坊の頃から育てれば、将来必ず帝国、そして世界を良い様に支配できる。と、考えた。だから実行されたんだ。その恐ろしい計画が」

 ラケルの表情に陰りが見える。

「カティーアは、真実を知り、陛下を守る為につきっきりになったゴーテルも、いずれ自分の邪魔になる僕達もあらかじめ封じておき、僕らは辺境に追いやられた。国王たちにも同じように術式を刻んでおき、陛下を飼い殺しに……とはいかなかったね」

 力なく笑いながら、再びカップの中身を口にするラケル。飲み干した後、「おかわり~」と気の抜けた声でカップを指で躍らせながら、メイドを呼んでいた。

「まあ、アルテアも知ってると思うけど、カティーアは野心に溺れた宰相共に闇に葬られちゃった」

 ラケルは肩をすくめ、ケラケラ笑った。……もう笑うしかない。という脱力感すら感じる。

「宰相共はなんで陛下を殺そうと思ったと思う?」

 ついでと言わんばかりに、ラケルは俺を見て尋ねてきた。……そういやなんでだ? ソフィアを傀儡にして、操って、気に入らない奴はあいつに処理させりゃいい。でもそうしなかった理由ってなんだ?
 俺は首を傾げると、それまで静かに腕を組んで話を聞いていた団長が口を開いた。

「神竜の憎悪の影響……とかか」

 また非現実的な事を……と俺は鼻で笑っていたが、エルもラケルもその言葉を聞いて、真顔で俯いてしまった。

「僕はそう考える。「憎悪の連鎖」って奴かな。憎悪はまた憎悪を呼ぶ。しかも、神竜と呼ばれるくらいの魔物だ。何かしらの影響力はあっても不思議じゃない。……とはいえ、こんなの机上の空論だし、その辺の真実は僕にも、ましてやゴーテルにもわからない。もしかしたら何も関係なくて、頭の弱い奴らが勝手な行動を起こして、陛下の恨みを買っただけかもしれない。そのおかげで今大陸はとんでもない事になってるっていうのに、無責任に死んじゃうんだから……」

 ラケルは頭を抱えてため息をつく。
 俺は気になっていることがあるので、ラケルに質問をしようとした。

「なあ、ラケル」
「……アレン君。僕、一応君の一回りも二回りも年上なんだよ。年上に向かって呼び捨てはないかなぁ」

 笑顔なのだが、邪悪すぎる何かを感じるその表情に、俺はぎょっとして咳払いをする。

「か、閣下」
「はい、なんでしょう。閣下です」

 ダメだ、もう疲れる。ツッコまないでおこう。

「エルと、あいつの傍にいるあの小さい子……って一体なんだ?」
「ああ、エルとその子が「呪われた聖魔の双剣」そのものだよ。名前は「影毒のアニムス」と「光念のアニムス」。武器としての名前は「影毒の竜剣「アジ・ダハーカ」」と「光輪の聖剣「アルトリウス」」ってゴーテルが教えてくれた気がするなあ。ややこしいから僕はどっちも「グラディ・アニムス」って呼んでるんだけど」

 確かにややこしい。もうエルでいいよ。
 エルはというと、器用に片手でカップを持って、中身を口にしてる。俺はもう一つ気になる事があるので、ラケ……閣下に顔を向けた。

「もう一つ気になる事があるんだけど」
「なんだい?」

 ラケルが笑みを浮かべ、お茶のおかわりを口にする。

「エルとあの子はなんで人の姿をしているんだ?」
「お、いいところに気づいたね」

 ラケルはにっこりと笑い、とりあえずカップの中身をまた飲み干して、一滴も残さない。そして、カップをテーブルに置くと、エルを指さした。

「アレン、君が強く願ったから、エルがここにいるんだ。エルは君の望みに呼応して、君の手助けをしている。……陛下の傍にいるあの子も同じさ。君達の望んだ通りに力を与え、望んだ通りの容姿もしている。なぜなら、グラディウスの魂が双剣を呼び出して、君達の願いを叶えたから。分かれていた魂が強い願いで呼び寄せて、アレンとエルを引き合わせたってワケ」

 ……エルは俺が望んできてくれたのか。
 俺はエルを見るが、エルはその話を聞いても涼しい顔で、テーブルのビスケットを、さくさくと音を立てながら口に入れていく。だんだんリスみたいに口の中が膨らんでいった。

「エル、話を聞いて思う事は――」
「あいあ(ないな)」
「ああ、うん……お前はいつも通りでよかった」

 エルは口に含んだビスケットを飲み込むと、俺を見る。

「我は、お前に望まれて生まれたが、お前ではない。我は我だ。グラディウスがなんだとか、アレンがどうとか、お前の正体がなんだとか、我には関係ない。我は我の考えでこれからも動く。それだけだ」
「なんでエルは俺を助けてくれるんだよ」
「我がそうしたいからだ。問題か?」

 こいつは……

「いや」
「なら、今まで通りでいいだろう」

 エルはそう言うと、またビスケットを口に含む作業を始めた。……確かこいつ、別に食べなくても大丈夫とか言ってなかったっけ。なんて考えているが、こいつも少しずつ変わってるのかもしれない。
 俺達のやり取りをラケルはじっと静観していた。

「エルがいる限りは、アレン、君は大丈夫かもしれないね」

 ラケルがそうつぶやくと、にっこりと笑った。

「え、どういう意味だよそれ」

 俺がそう聞くと、ラケルは笑うだけで何も答えない。よくわかんねえや……。
 ラケルはその後、一息置いてカップをテーブルに置くと、顔を上げて俺達を見た。

「アルテア、イルミナル家は同盟は結ぶ。アレンとエルは、世界を変える為の鍵になりそうだ。ま、変わらず世界は滅ぶかもしれない。どちらにせよ、彼らの存在はターニングパーソンって奴かな」

 なんかスカしたような表情とか態度は、最初は気に入らなかったけど、「俺はこいつの事好きかも」。俺はそう思った。



 俺達の話が終わると、ラケルは立ち上がり、窓の外を見る。俺はそんなラケルを見上げると、彼の表情の変化に不穏な物を感じ取った。ラケルの表情が一変し、怒りと焦りが混じったように歪めていたからだ。

「――フラクタ、フリジア!」

 ラケルが叫ぶと同時に、部屋が爆散した。

Re: 叛逆の燈火 ( No.60 )
日時: 2022/10/01 18:45
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)

 部屋の壁が、ガラガラと音を立てながら爆散して、大穴がぽっかりと開く。土埃が舞い、俺達は臨戦態勢に入った。何の前触れもなく、突然の奇襲。一体何が起こってやがる!? エルはすぐさま剣となって俺の手に握られた。

『アレン。土埃の中に誰かがいる』
「……だろうな。でなきゃ、壁が勝手に爆発するはずもねえ」
『気をしっかり持てよ』

 エルの言葉の意味はわからなかったが、土埃が晴れる前に先制攻撃を仕掛けりゃ、案外勝てるんじゃね? 俺は剣を強く握りしめ、足に力を込めて、土埃の中へと駆け出す。

「いけない、アレン!」

 ラケルの叫びが聞こえた気がしたが、問題ない。お互いの顔がまだ認識できていない今がチャンスだ! 俺は剣を振り上げて、土埃の中にいる敵に向かって刃を振り下ろす。
 だが、その剣は振り下ろされる事なく、奴が剣を受け止めた。……しかも、素手で。

「――ッ!?」

 俺は声にならず、咄嗟に後退する。土埃が晴れていき、黒い影が露になっていく。身体は俺くらいなのに、両腕は歪で、魔物の物じゃないかってくらい、人間にふさわしくない大きさ。だけど、身体はツギハギ。まるで布を掛け合わせた、修繕した後のぬいぐるみのように、様々な肉を繋ぎ合わせている。肌の色もてんでバラバラ。
 ……顔が見える。俺はその顔を見て、目を見開き、硬直した。

「え……る……」

 声に出せない。鼓動が早まって止まらない。指先から腕にかけて震えて、握っている力が乱れてくる。変な汗も額から流れ、俺は一歩、また一歩後退した。その目の前の奴は、俺を認識すると、ニマァっと笑う。全身のあらゆる毛が逆立ち、全身が震える。恐怖なんだろうか。それとも、怒り? わからない。
 目の前の奴の顔……7年前に消息不明だった、妹の「エレノア」と弟の「ルゥ」。見間違えるはずもない。だけど、二人の顔が半分ずつ繋ぎ合わされて、身もよだつ笑みを浮かべてて……。
 叫びたくなった。どういう感情で、目の前のそれにどう接すればいいのか。頭が真っ白になって、何も考えられない。

『アレン、避けろ!』

 エルが叫んでいるが、耳に入ってこない。だからか、奴が俺の腹に向かって拳を振りかぶった事に全く気付かなかった。重く、ずしっとくる衝撃。そして、内臓全部に重圧が加わって、喉から胃の中の物がこみあげてくる。揺れる世界。
 俺はあえなく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。壁を貫いて、隣の部屋まで吹っ飛んだようだ。

「アレン!」

 団長がそう叫んだ直後に、団長の悲鳴も耳に入った。奴が、団長も攻撃したんだ! その直後、ラケルの怒声と、メイドと執事の声も聞こえる。交戦の音が響き渡っていた。
 いや、それよりも……あれは一体何なんだ……!?
 

『あれの正体。お前もわかっているだろう?』
「……」

 俺は剣を杖代わりにしながら、よろよろと立ち上がり、壁の向こう側にいるアレを見据える。髪の色もエレノアとルゥを繋ぎ合わせたような継ぎ接ぎ。顔も、髪も、肌の色も……目の色は多分、片方は俺の目の色だ。なんなんだよ、あれ。わけわかんねえ!

合成魔物キマイラだろう。……でなければ、あんな醜い姿になっている理由が見つからない。仮に自然にああなったとすれば、神という生き物は、人間の存在が嫌いなのだろうな』

 エルが答え合わせをしてくれる。……そんなの、頭ではわかってるんだ。わかってるけど……俺自身が拒絶反応を起こしているのか? 身体が動かない。動かないと。皆が戦ってるのに。だけど、身体が震えるだけで、力が入らない。

 ――俺が、武器を取って、エレノアとルゥを傷つけるのか?

 俺の脳裏にそう浮かんでくる。

『アレン』

 エルの言葉に俺は現実へと引き戻された。ハッとして俺は隣の部屋を見る。エレノアとルゥ、あの二人の攻撃は一撃一撃が重く、団長も投げ飛ばされたり、ラケルも武器を手に取ってメイドと執事と連携をとっているが、全然歯が立たない。
 エレノア……ルゥ……なんで、なんでそんな姿になってるんだ……。7年後に、久しぶりに会ったと思ったら、そんな姿になって。皆を傷つけてる。その顔に表情はなく、淡々と作業をこなす様に、団長達を殺そうと追い詰めていく。
 やめろ……そんなことしたら、シスターが悲しむだろうが!
 やっと、脳が冷静な判断ができる程鮮明になり、俺の身体が動き出した。

「エレノア、ルゥ!」

 俺は無我夢中で二人の前に飛び出し、投げ飛ばされたラケルの前で仁王立ちした。

「やめろ、二人とも!」

 俺はもう一度叫ぶと、二人の動きがぴたりと止まる。俺の顔を認識したようで、目を見開いた。

「にーちゃ? 兄さん。どうしてとめるの?」

 拙い言葉遣いとすこしおどおどとした口調が混ざり合っている。二人は、二人のままみたいだ。7年前と何も変わらない。元気で無邪気なエレノアと、控えめだけど芯は通ってるルゥ。……ずっと探している二人が目の前にいる。二人が一人になって。

「こんな事はやめてくれ、二人とも。こんな事に意味はない――」
「意味はあるわ」

 突然、声が二人の背後から響き渡る。魔女の帽子とマント。それを翻しながら、壁の外から姿を現した人物。その人物の手には、見覚えがある……。門番をやっていた男女の騎士。その二人が首だけになっている、無残な姿があった。そしてもう一人……忘れもしない。俺の中のどす黒いモノが、それを目にした瞬間、マグマが流れるような熱を帯び、脈動を始める。


 俺はその人物の、忌むべき名を口に出した。

「ソフィアァァァッ!」

Re: 叛逆の燈火 ( No.61 )
日時: 2022/10/01 22:42
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


「気安く私の名を口にしないでください。不愉快です」

 表情は無く、俺を見下すように俺に言い放つ。白い髪、赤い瞳の女。手には白い剣。……俺の中のもう一人の俺が――いや、神竜が。俺に「この女を殺せ」と叫んでいる。ぐつぐつと音を立てながら、体内の血液が高速で流れるような感覚すらする。
 だけど、突然俺の服のフードを掴まれて、引っ張られた。ぐいっと引き寄せられ、俺は床に尻もちをつく。見上げると、銀色の棒……いや、棒じゃない。杖だ。杖の先端を目の前にいる敵に向けていたラケルの後ろ姿が目に入る。

「はじめまして、陛下。お久しぶり、「バーバラ」」
「ラケル……」

 ラケルの名を呼ぶ魔女。ゴーテルだっけ。なんだか表情が堅い。躊躇っている様子だ。

「はじめまして、「ラケル・イルミナル」。容姿は子供に見えますが、魔人だからでしょうか。それはそうと、ゴーテルから聞きました。私が生まれる前から、大層帝国に尽くしてくれたと」

 ソフィアは表情を変えずにラケルに声をかけている。相変わらず表情と感情の無い声。人形がしゃべったらこんな感じなのかもしれねえな。

「ええ。ですから、非常に遺憾であります。あなたは、御父上のような思想を持っていらっしゃったとお聞きしましたが、このように皇帝とはいえ、礼儀知らずのならず者のように壁を壊してまで侵入してくるとは」

 ラケルの声から、普段の軽口を叩くお調子者からかけ離れ、静かな怒りを感じる。

「それは失礼いたしました。……ですが、皇帝たる私に対し、武器を突きつけるとは。そちらの方が無礼……いいえ。不敬ではありませんか?」
「申し訳ありません。ですが、私の部下二人をそのような姿にされた以上、私も自分の憤りを抑えることはできません」

 ソフィアは「ああ」と言い、口角が吊り上がった。

「これは、皇帝たる私に無礼にも剣を向けたから。当然の報いですよ。私は今回、あなたに用があって来たというのに」
「……部下を殺すに値する用件とは?」

 ラケルの声が震えている。後ろ姿だけど、怒りを抑え込んでいるんだ。

「「ラケル・イルミナル」。私に下りなさい」

 ……は? 何言ってんだこいつ。
 俺は突然の奴の言葉に戸惑った。多分、メイドも執事も団長も同じことを思ったのか、背後から声が出ているのが聞こえる。だけどラケルは微動だにしない。

「それは嬉しいお申し出……お言葉ですが。なぜ、今、ここで、このタイミングで。なのですか?」
「質問は受け付けません。あなたの答えは「はい」か「いいえ」。どちらかを私に示せばいいのです」
「時間はいただけないでしょうか」
「時間など与えません。皇帝の命令ですよ」

 勝手な事ばかり言いやがって――

「あなたが、仕えるに値する御方であれば、私は涙を流しながら即答したでしょう。「この身は陛下、御身の為に捧げましょう」と。……ですが、今の答えは――」

 ラケルは突きつけていた杖を握り締め、振り上げる。光が集まって、鎌の刃となって杖が振り下ろされる。以前に見た「マギリエル」とかいう奴の大鎌みたいな形だ!


「エレノア、ルゥ! 私を守りなさい!」

 ソフィアが叫ぶと、振り下ろされるはずだった鎌の刃を受け止める二人。
 なんで!? なんで、あの二人……ソフィアの命令に従ってんだよ!?

「不敬ですよ、ラケル」
「承知しています。――フラクタ、フリジア!」

 メイドと執事は瞬時に武器を手に取り、エレノアとルゥに向かって斬りつける。でも、斬りつけたはずなのに、傷はない。いや、傷がすぐに塞がってるんだ。

「ラケル……!」

 団長も同時に動き出す。――けど、魔女が団長の前に立ちふさがった。

「アルテア、私の相手をしなさい。この二人みたいにしてあげるわ!」
「この魔女め……! 邪魔をするな!」

 魔女が炎の壁を作り、団長は手に持った槍でそれを薙ぎ払う。
 俺はソフィアの方を見た。ラケルの鎌を持っている白い剣で薙ぐ。ラケルの持つ鎌が杖に戻り、その瞬間を狙ってソフィアは剣を手に彼の身体を貫こうと突いてきた。

『何をしている、アレン!』

 エルの叫びと同時に、俺はラケルとソフィアの間に入り、ソフィアの剣を受け止めた。ガキンと鋭い音が鳴り響く。

「邪魔をするな、片割れ」

 俺を赤い瞳が見下す。無表情なのに、氷のように冷たいようで、瞳の中は憎悪が燃えていた。

 ……うるせえよ、また奪うつもりか。
 俺の頭にそんな言葉が浮かんでくる。いや、俺もそう考えていると思う。

「喰らえ……!」

 俺は自分の影を伸ばし、蛇の顎のように奴を飲み込もうと影で覆わせる。だけどそんなの、奴の光で打ち消される。奴が剣を振り回して影を切り裂いた。その瞬間を待っていた!
 俺は剣を握り締て奴に向かって、剣から黒い毒液を発射させる。発射した毒が奴の身体に命中した。ソフィアは初めて表情を歪ませて、目を見開き、自分の身体に侵食してくる黒い毒の存在を見る。

「貴様――」

 自分にされた事を理解し、ソフィアは怒っていた。だけど、即座にその毒は浄化されたのか、奴の肌に広がっていた黒い毒が消え去る。……それは予想外だった。
 ソフィアは剣を振って光の弾を周囲に浮かび上がらせ、俺に向けて銃弾のように発射した。光の自弾丸が俺に降り注ぎ、俺は身体にそれを何発か受ける。身体の端々が弾丸による傷で、赤く滲んでいた。いってぇな、畜生! 俺はそう思いながらも、奴に肉薄する。傷なんかあとで塞がる、どうとでもなる! 俺はそう思いながら、自分の影を槍のように奴に向かって突き出した。
 ソフィアの身体に槍が命中し、身体から血液がぼたりと滴っている。
 だけど、そんなことは奴にとって些細なことのようだ。奴は好機とばかりに、隙だらけの俺に剣を突き出した。

「死ね……!」

 奴は静かに。だけど、俺に向かってはっきりとそう言った。

「うるせえよ」

 俺も同じように、剣を握り直して、奴の身体に向かって剣を突き出した。互いの剣が互いの身体を貫く。血が迸る。俺の物なのか、奴の物なのか。そんなのはわかっらないし、知ったこっちゃない。
 俺は脇腹に受けた白い剣を握って固定し、自分の影を長く鋭いトゲのように無数に突出させた。まるで、剣山のように。奴も同時に、自分の下半身を貫いた黒い剣を手に取り、光の剣を三本突出させ、俺に向けて刺突する。
 俺達の身体は、光の剣と影の剣山で、血の華を咲かせた。

Re: 叛逆の燈火 ( No.62 )
日時: 2022/10/02 21:27
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)


 お互い、致命的とはいかなくても、かなりの失血のはず。……なのに、目の前のこの女は表情を全く変えない。そういうところも気持ち悪い!

「さっさと死ねよ……魔王。さっさと死ねよ、死ねよおおおおぉぉぉっ!!!」

 俺は怒りのあまり、獣のような咆哮を上げる。右腕を変形させ、奴に傷をつけようと手を振り上げた。そんな時でもこいつは、涼しい顔で俺を見ている。右手を剣で受け止め、俺の目を見据えている。


「お前が死ねばいいじゃない。生まれるべきでなかった、お前が」

 ソフィアは空いている手に光を集めて剣を作り、俺の心臓目掛けて剣を振り下ろした。
 
 ――生まれるべきじゃなかったのは、お前の方だよ!

 俺は光の剣に影を伸ばし、影の腕を作って光の剣を握り消す。奴は表情は変わらないものの、追撃を受けないように退く。俺も、咄嗟に後ろへと転がって、すぐさま起き上がろうと立ち上がろうとした。――けど、目の前がくらりと回る。世界が歪んで見える。
 ……失血のせいか!? クソッ、あいつを追い詰めてる。今がチャンスだっつーのに!
 だけど、あっちも同じように失血のせいか、膝をついて肩で息をしている。動かねえと……! 今動かないで、いつあいつをやるんだ!? 俺は歯を食いしばり、ふらふらと立ち上がる。

『アレン、これ以上の失血は命に係わる。最悪死ぬぞ、いいのか?』
「じゃあ最悪にならなきゃいい。エル、今やらなきゃ。今がチャンスなんだ」
『……承知した』

 エルはそれ以上何も言わなかった。
 俺は手の剣を強く握りしめる。傷で裂けている肌から、赤く滴り落ちる血液。力むことでその血液がどぼっと噴き出てくる。身体が少しずつ冷えてくるような気がするけど……いい。ソフィアを殺せるチャンスは今しかない。俺は奴に向かって駆け出した。力強く、バネが飛び出す様に、早く!


「エレノア、ルゥ。私を守りなさい」

 奴がそう静かに、つぶやくように口にすると、俺の横から強い衝撃が走った。俺は吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。ようやく衝撃が痛みに変わった。何が起きたんだ!?

「いい子ね、エレノア、ルゥ。その男をやっつけなさい。その男は悪者に憑りつかれているの。痛めつけて、動かなくすれば、きっと"元のお兄ちゃん"に戻るわ」
「うん、兄さん。エレゥがもどしてあげなきゃ」

 俺は立ち上がろうとする。……ダメだ、身体が動かねえ。
 エレノアとルゥはメイドと執事とラケルが相手してたと思ってたのに……。俺はエレノアとルゥが近づいてくるのを、ただ無防備に待つしかない。二人が俺の髪を掴んで自分の目で顔が確認できるように近づける。全身がいてえ……身体も宙にぶら下がって、血がぼたぼたと、地面に赤い水たまりを作りながら、広がっていく。身体も動かねえ……。
 俺の顔をじっとみつめる、無邪気な表情。二人の顔と、俺の目が俺の顔を捉える。二人の目に、俺の顔が映り込んで、自分の血で汚れて、ぐちゃぐちゃになっているそれが、反射して俺の目にも映っている。

「にーちゃ。今、助けるよ」

 声も、二人が混ざり合ってるような、無邪気だけどおどおどしている。そんな声だ。
 その瞬間、俺の腹に拳が叩き込まれる。サンドバッグに拳を入れたら、多分こんな風になるんだろうか? 俺は「ごぼっ」と音を立てながら、血と胃の中身を吐きだす。
 2回目。今度は別の場所だが、同じ腹に拳が入る。衝撃の後の痛み。そして、吐き出される血。
 それを何度も繰り返されているのに、俺はまだ死んでいない。……もういっそ殺してほしいくらいの苦痛。もう何も考えられない。痛みで、何もかも考えたくない。身体の感覚も、少しずつ消えて行ってる気がする。

 俺は、二人の顔を見上げる。
 ……あれ? 幻覚なんだろうか。目の前の二人が、俺の姿になった。俺が俺の髪を掴んで、俺に顔を近づけて、口角を吊り上げ、三日月のように口元が歪み、歯を見せて笑っていた。邪悪で、慈悲の欠片も感じられないその笑み。容姿も声も全部俺の物だ。……前に見た、幻覚。右目が見せていたっていう、あの幻覚か。
 幻覚まで見えちまうなんて、もういよいよ、俺もダメだな。

<なあ、もう死んじまうけどいいのか?>

 目の前の奴が、ニヤニヤ笑いながら、俺に問いかけてくる。

<死んじまうなら、"俺"がまた全部ぶっ壊してやるけど。いいよな? お前、弱虫だし。俺が代わりにお前の憎い奴全部ぶっ壊してやるよ。いいだろ? なあ?>

 ……それも悪くないかもしれない。もう何の感覚もないし。
 ――そういや俺、なんでこんな目に遭ってるんだっけ。ああ、でも、考えるのももう面倒だなあ。

<そうそう。全部俺に委ねりゃいい。そしたら楽になれる。あとは俺に任せろ、お前はもう休んでるといいさ>

 周囲が黒く染まっていく。目の前にいる俺以外、黒に染まって何も見えなくなっていく。指先からずっと感覚がなくなっていってる。
 ……疲れたな、休みたい。

「俺――」
『アレン、目を覚ませ!』

 突如聞きなれたしわがれた声がする。それが黒の中で響き渡ってきた。

『アレン、お前は……奪われたものを取り戻すのではないのか?』

 その声が大きくなっていく。その度に、黒く染まっていた周囲が晴れていっていた。呼びかけられるたび、俺は自分の感覚を取り戻していくような、そんな気になってくる。

<……>

 目の前の俺の姿も消えてなくなっていく。
 ああ、そうだ。呑まれちゃいけない。エル、ごめん。また俺……!

『そんな事はどうだっていい。早く我を握れ!』



 俺は我に返り、エレノアとルゥに掴まれている腕を足で蹴飛ばした。腕の力が緩み、俺は床に落ちて、そのまま倒れ込む。ダメだ、ダメージが大きすぎて立ち上がれねえ……! だけど、目の前に転がっているエルを握りしめた。今立ち上がらねえと、二度と立ち上がれない気がする。俺は剣を握り締め、自分の足に力を込めてしっかりと踏みしめ、立ち上がって握った剣を大きく振りかぶった。


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