ダーク・ファンタジー小説
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- 叛逆の燈火
- 日時: 2023/03/06 20:05
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Z0yvExs9)
傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。
ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。
アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。
ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。
「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」
果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?
余談
2022.9.26 小説☆カキコ大会2022・夏 金賞
2023.3.6 仕事が終わるまで執筆休止
目次
・序章1「胎動する燈火」>>1-10
・序章2「世界への叛逆」>>11-14
・序章3「邂逅する燈火」>>15-24
・第1章「王女様と俺」>>25-31
・第2章「消えない傷」>>32-37
・第3章「神が作りし人形」>>38-40
・第4章「だれかさんの本音」>>41-47
・第5章「大人と子供とおねーさんと」>>48-53
・第6章「俺とあいつの正体」>>54-60
・第7章「まさにそれは死闘」>>61-64
・外伝 「理想と現実」>>65-68
・第8章「波乱の予感」>>69-75
・第9章「東の異国の道中記」>>76-82
・第10章「蛇と蛇」>>83-88
・第11章「魂の邂逅」>>89-94
・第12章「妖精族のおばあさん」>>95-102
・第13章「強雨の最中」>>103-112
・外伝 「あの時に会った人」>>113-116
・第14章「すでに戦いは」>>117-129
・第15章「聖者ミーティア」>>130-133
・第16章「苦手は苦手のまま」>>134-143
・第17章「囚われの姫を救うために」>>144-147
・第18章「ぬくもり」>>148-156
・第19章「準備」>>157-163
・第20章「幕開けの暁」>>164-170
・第21章「善なる行い」>>171-177
・第22章「空」>>178-184
・第23章「要塞制圧」>>185-205
・第24章「」
- Re: 叛逆の燈火 ( No.18 )
- 日時: 2022/08/22 22:42
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
宿に入って、割り当てられた部屋に入る。まあ少ない部屋を十数人で分けるって感じだから、3人くらいと相部屋になるのは当たり前だよな……。俺がそう思いながら、部屋に既に入ってくつろいでいた、俺より年下の「ヘクト」と、にっこり笑った緑髪の兄ちゃんの「モーゼス」兄ちゃんが、俺を見る。
「あら、アレン君。こっちへいらっしゃいな」
モーゼス兄ちゃんがそう言うと、ベッドを叩いている。こっちに座れと示しているんだろうな。ヘクトはというと、本を読み始めた。俺が座ると、兄ちゃんは満足げに笑い、俺の頭をぽんぽんと叩く。痛くはないけど、なんか……腹立つな。
モーゼス兄ちゃんの名前は「モーゼス・クレイセント」、師匠と同じく傭兵団の古株で、昔は教団騎士をやっていたんだとか。だけど、教団は帝国の悪魔皇帝に潰されたから、仕方なく便利屋をやろうとしてたら、傭兵団に誘われたんだとか。……教団ってのはよくわかんねえけど、シスターも神サマに祈ろうとか毎週やってたし、多分教団の人なんだろうな。……ってか、神サマってのは本当にいんのかよ? って考えてながらずーっとぽんぽんと叩かれて、いい加減ウザくなってきた。
「やめろよ兄ちゃん。痛くねえけどムカつく」
「あーらら、お気に召さなかった?」
兄ちゃんは俺に手を振り払われるも、相変わらずのにっこり笑顔。なんだか大人の余裕というのが感じられる。
「ちょっと静かに。本に集中できません」
向かい側のベッドに座るヘクトが、こっちを睨む。
こいつ、「ヘクト・レターニャ」は、1週間前に滅んでいた村で蹲って倒れているところを保護した、俺より2歳年下のヤツだ。魔法に憧れて、魔法の勉強をするために毎日本を読み漁ってるせいか、なんか言う事が理屈っぽくて苦手なんだよな……。
「あらら、怒られちゃった。ま、俺達の事は気にしないで、読書、続けてちょーよ」
「言われなくても、今読んでますよ」
ヘクトは本を読み続けている。
「何の本なんだ?」
俺は尋ねてみると、ヘクトは目だけこちらに向けて「何の本でもいいじゃないですか」と一言。……こういうタイプは苦手だぜ……。
だけど、エルが近づいてヘクトの隣に座り、彼の読む本を一緒に見始める。
「ふむ。マホウ……とは、理の外にある力。所謂、万物を凌駕するものというわけか。そして、魂に干渉し、つけた傷跡は修復に時間がかかると。マホウの傷を治せるのは、「治癒魔法」という、万物を修復させる力のみ。本当に存在するのだろうか?」
エルの一言に、ヘクトはエルの方を見て大きく頷いた。
「もちろん、少数ながら魔法を使うヒトは存在します。例えば、帝国の魔女と呼ばれる、宰相ゴーテル卿! 彼女は万能属性といって、治癒魔法は扱う事はできませんが、この世に存在する全ての属性を司る魔法を行使することができるんです。しかも、学校の教科書にも載る人物ですよ。その功績は、己の魔法を応用し、誰でも魔法に似た技術を扱えるようになれる「術式」の開発。そして、機械や一部武器などの要となっている「星霊石」の精錬……そのほかにもありますが、そこは端折ります。とにかくですね――」
「ストーップストーップ、ヘクト君」
突然ヘクトが早口で語り始めた為、流石にまずいと兄ちゃんが止めに入る。良かった、結構眠くてキツかったし……。
「とにかく魔法はすごいって事ね」
「ええ。僕も魔法を使う素質があれば、ゴーテル卿のような素晴らしい人の右腕になれるよう努力していたのですが」
ヘクトは残念そうに肩を落とした。
「今や彼女は帝国の悪魔の手下と成り下がってしまいました。……素晴らしい人なのに、なぜ皇帝なんかに下ってしまったのか。本当に惜しい話です」
ヘクトはその後も淡々と、帝国の悪口に近いような話を続け、俺はいつの間にか眠ってしまったようだ。気が付くと、窓から明るい日差しが入ってきていた。
「おはよ、アレン君」
「おはようございます、アレンさん。僕の話の途中で寝てしまうなど、言語道断です。この恨みは忘れませんから」
……やっぱこいつ好きになれねえや。俺のヘクトへの評価はそれだった。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.19 )
- 日時: 2022/08/20 22:34
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
私達は今、フォートレス王国の「ロンディーネ・クルーガー」公爵が統治する、クルーガー領へとやってきていた。本来ならば、わざわざ私が出向く迄もないんだけど……彼には父上が生きていた頃に世話になっていたし。私自身で「けじめ」をつけるのも、道理って奴だと思ったからだわ。
「この領地の領主である「クルーガー公」は、密かに帝国への謀反を企てていると、密偵の報告がありました。いかがいたしますか?」
「……当然のことを。あの男に私に牙を向ける事の無意味さを教えて差し上げるのですよ」
私はバーバラの問いに、即答する。悪い芽はさっさと間引きするに限るわ。だけど、一度だけ慈悲も与えてもいいかもしれないわね。どんな反応をするのか……もしかしたら、命乞いでもしてくれるのかしら。なんて考えていた。
「ねえ、なにするつもりなの?」
ネクが私に尋ねてくる。ネクはわかっていない様子だ。
クルーガー公には一人娘がいる。そりゃあもう、目に入れても痛くない程のかわいい娘さん。そいつを使えば、面白い結果になりそうだわ。……もし、従わなかったとしても別に問題ではない。捻じ伏せればいい、いつものように。
私達は騎士達を引き連れ、クルーガー公のいる居城へ出向いた。私の姿を見るや、即座に公の元まで案内される。白を基調とした、上品な白亜。廊下は歩きやすいよう、絨毯が敷かれている。そこをしばらく歩くと、応接室へと通された。中には長い波打ったような黒髪を持つ壮年の男……「ロンディーネ・クルーガー」が向かい合ったソファの前で、私達を迎え入れる。彼は私を向かい側のソファに座るよう促した。お言葉に甘えましょうか。私はそう意思表示し、彼の向かい側に座る。公が、近くの使用人に手で合図し、私にお茶を持ってこさせていた。ま、使用人が私達の目の前にカップを置く迄、私達は無言だったのだけれど。
長い沈黙を破るように、公は口を開いた。
「陛下……突然の御訪問、驚きましたぞ。いかがされたのですかな?」
とぼけちゃって。ま、当然か。反逆しようって人間が、「陛下、あなたを今ここで殺します」なんて口にするわけがない。そんなマヌケも見た事もない。我ながら笑ってしまうわ。
とはいえ、私もポーカーフェイスは慣れたもの。私は、カップの中身を口にする。……毒でも入ってるかと思ったけど、普通の粗茶ね。私はカップで口元を隠しながら、彼に向かって一言。
「いえ。面白い噂を聞きましてね」
「面白い噂ですか」
「ええ。あなたが謀反を企てているという」
かすかに彼の眉が動く。にらめっこは苦手みたいね。
「なるほど。……ですが見ての通り、我々はこうして陛下を招き入れ、この部屋にいる者といえば、私の使用人二人、そして、ゴーテル卿とあなたの妹君だけではありませぬか。それでも信用ならぬと?」
「ええ。私……他人は信用していませんから」
「ふむ、それは正しい判断です」
私の言葉を肯定する公。ま、その余裕がいつまでもつか。
「公、私は一応あなたの事を一目置いていたのですよ。あなたは過去に父上を補佐した宰相の一人でしたから」
「やめてください。今は違います。こんな辺境の土地に追いやられ、寂しく余生を過ごしている」
「あなたには、愛する妻、そして一人娘がいらっしゃいます。それは大変幸福な事ですね」
「……妻は昨年亡くなりました。今は一人娘だけです」
「それはご愁傷様。まあ、それはいいとして」
私の意図が読めないのか、公は怪訝な顔をする。そりゃそうだ。傍から見ればただ世間話をしに来ているような会話だ。
「何が仰りたいのですか?」
流石に突っ込んできたわね。私はその言葉に反応するように、カップをテーブルに置く。カタンと音が鳴り響いた。
「あなたの娘、「アイリス・クルーガー」は今、どこにいると思いますか?」
私がそう問うと、公は「は?」と本当に笑ってしまいそうな間抜けな声を出す。
「娘は今、騎士団の兵舎で訓練をしていると思いますが。それが何か?」
「本当に、訓練している最中だと思う?」
私は質問で質問を返す。私は指を組んでその上に顔を乗せる。ま、ここまで言えば、今がどういう状況か……サルでもわかるわ。
「――貴様!」
ようやく状況を理解できたのか、公は声を荒げて立ち上がる。テーブルが音を立ててひっくり返り、公が私の喉元に剣先を突きつける。……とんだ親バカね、娘の危機と知れば例え皇帝相手だろうが、剣を向ける。愚かだわ。本当に、本当に……
「愚かな男」
私はくすりと笑う。私は彼を見上げる形となり、彼の表情は憎悪で満ちて歪んでいた。怒りと殺意……それが交じり合ってる顔。
「娘はどこだ!?」
「大丈夫ですよ、娘さんをちょっと借りに来ただけですから。最も……あなたが謀反なんて馬鹿な事を考えなければ、今頃娘さんは幸せにお父様と一緒にいられたんですが……」
私はそう答え、彼が向ける剣を握る。手からは血が滲む。今更血が流れたって、たいして変わらない。
「皇帝たる私に無礼な真似を。『跪きなさい』」
そう言い放つと、ネクが拳を振り上げ、一気に振り下ろす。彼の身体が何か重石に叩き潰されたように、圧し潰されていた。ミチミチと音が鳴り、彼も床に突っ伏し、口から真っ赤な血を吐き出した。
「ぐ、ぅ……ぎっ……貴様……!」
彼はまだ反抗的な目で私を見る。……手加減してあげてたのに、まだ睨む元気があるみたいね。……ま、いいわ。どうせ公は私の道には必要のない人間。ここで片づけてしまうか。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.20 )
- 日時: 2022/08/22 22:50
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
その刹那、バーバラは私の脇へ瞬時に割って入った。
「陛下ッ!」
バーバラの怒号と同時に部屋の窓が壁ごと耳障りな音を立てながら破壊される。その拍子にネクは公へかけていた重力を解き、バーバラは光の壁を私の前に貼った。砂埃が立ち込め、奥から姿を現したのは……
私が近衛騎士から解任したはずの「アルテア・エクエス」だ。相変わらずの巨体。銀色の鎧が光を反射し、のっそりと一歩前に出る。紫の長い髪を揺らし、宝石のような翠色の瞳をこちらに向けた。……いや、厳密には、公の方を見ていたのか。
「ロンド公。お助けが必要でありましたかな?」
アルテアがそう笑いながら彼に向かって言い放つ。
「馬鹿な……。この通り、私は心配されるほど年老いちゃいないし怪我もしていない。貴殿こそ、些か遅いのではないか? 私はもう少しで殺されるところだったぞ。それに、壁を壊しおってからに。これは報酬を減らさせてもらう他ないな」
「そりゃあ申し訳ない。では、今からご期待に添いますので、何卒ご勘弁を」
アルテアの目が私に向けられると、持っていた太い槍を私達に向ける。
アルテア……元近衛騎士であるあなたが、私にその槍を向けるだなんてね。その槍……「プログレス・リターナ」は、父上から賜った物なのでしょう? 父上への忠誠の証だと。バーバラに術式を施してもらった、特別な長槍なのでしょう?
私が口を開こうとすると、バーバラがそれを制する。
「アルテア……その槍を陛下に向ける事が、どういう意味なのかわかっているの?」
彼はバーバラの姿を見やると、少々驚いたように目を見開く。
「ゴーテル卿……!? 行方不明だったと報告を受けていたが――」
「この通り、私は地獄の底から舞い戻ってきたわ。陛下の望みを叶える為にね」
バーバラの言葉に、アルテアは怒りを露にする。
「……貴様こそ、陛下が今まで何をしていて、それを解って言っているのか!?」
「ええ。全て目にし、時には私も加担した。だけど、それがこの子の望みなら、私は叶えなければならない。それが、亡き皇后の願いでもあるのよ!」
「ふざけやがって……亡き皇后があんな……っ! ……あのような虐殺を望んでいると思っているのか!」
「それでも、私はこの子の唯一の味方でいなければならない。この子の心の拠り所でなくてはいけないのよ! その為なら、世界を敵に回してもいい。あんたなんかには死んでもわからないのよッ!」
バーバラがそう言い終わり、手に炎の魔力を集め、アルテアに投げつけた。炎がまるで銃弾のように速く飛ぶ。アルテアはそれをぼーっと見ているわけでもなく、手に持っている槍を構え、その火炎弾ごと貫き、バーバラへと突進した。アルテアが叫ぶ。
「フィリドラ! ロンド公を避難させろ!」
気が付かなかったが、背後には赤髪の女――「フィリドラ・ソレイズ」が控えていて、ロンド公を脇に抱えてアルテアの背後を素早く抜けて行った。そういえば気づかなかったけど、ロンド公の使用人二人も見当たらない。……クルーガー公、それにアルテア。最初から私が来ることを予見していたとでも? いえ、半分当たりで、半分不正解みたいね。娘の件は本当に気づいていなかったようなのだから。
「陛下に逆らうなら、あんたも燃やし尽くしてあげるわ!」
「やれるもんならな……俺のしぶとさは、あんたも知ってるだろうよ!」
「ほざけ!」
アルテアとバーバラが槍と魔法の打ち合いをしている。加勢しないと……バーバラが皆が恐れる魔女だからといって、アルテア相手なら手古摺るはずだわ。
そう思い、私はアルテアに向かって手をかざそうとした。
「――やらせない!」
私の目の前に一瞬で肉薄した黒い影が迫った。黒い長い波打った髪をなびかせて私の目の前で剣を振り下ろす女剣士……。私は、瞬時に「ネク!」と叫ぶ。ネクは私の前に立ちはだかり、光に包まれる。私はそれを手にとって女剣士の剣を受け止めた。
「っ!? なに、それ……女の子が剣に……エルと同じ!?」
女剣士が叫びながら後退する。私は無表情で手に持ったネクに纏わりつく光を払うように振った。光が取り払われると、光を反射する程の光沢がある白銀色の両手剣が姿を現す。穢れのないその剣を初めて見た時は、私もその美しさに目を奪われたものだわ。
「ネク、あの女をまず殺す。次はアルテアよ。わかってるわね」
『うん』
私の言葉に元気よく返事をするネク。いい子ね。
私は彼女を真っ二つにしようと、両手剣を思い切り横に振る。光の斬撃が弧を描き、銃弾のように放たれた。
だけど、彼女はそれを身体を捻らせてひらりと躱し、残像が見える程の素早い動きで私の懐へと迫る。……スピード系のドライブか。厄介だけど、敵ではないわ。
私は彼女の動きを読み、懐に入る瞬間に横へ剣を振った。
「きゃあ……っ!」
彼女は悲鳴を上げる。そのはずだ。私が彼女を斬ったのだから。でも傷は浅いみたい。仕方ない、私はまだ両手剣に慣れていない。……というより、戦闘経験が皆無だしね。
女剣士の傷は胸から横腹にかけての浅傷。でも、十分よ。私のドライブ能力はネクと同じく、オーラ……いえ、魂に直接干渉できる。バーバラの魔法と全く同じ性質を持つ!
「その程度で済んでよかったわね。名も知らない、牛の剣士さん」
「くっ……! あなたも、魂に傷をつける事ができるようね……」
あなた"も"? 他にもいるのかしら。まあ、どうでもいいか。
「どうせあなたはここで死ぬ。いいえ、この領地は我々帝国が掌握します。私に従わぬ者がどうなるか……あなたもその身で痛感し、あの世の宰相達と共に知るといいわ」
私がそう言い放つと、剣を振り下ろした。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.21 )
- 日時: 2022/08/22 22:53
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
だけど突然、ネクが今までにない叫び声をあげた。
『ソフィアちゃん、あぶないのがちかづいてくる、よけてっ!!』
私も突然の事で女剣士へのトドメの一撃を逸らしてしまった。その隙を狙ってか、彼女は傷口を素早く抑えながら後退する。アルテアの方も槍でバーバラの火炎魔法を貫き、薙ぎ払った。バーバラが危ない!
「でありゃああぁぁぁっ!」
私がバーバラに気を取られていたからか、すぐに迫る黒い影には気が向いたなかった。魔物のような化け物の右手が、私を襲う。私はそれを回避したつもりだったけど、できてなかった。頬と胸に獣の爪で切り裂かれたように傷ができる。……それにこの傷。オーラごと引っかかれてる? こいつ……一体。
「師匠、団長! 無事か!?」
黒衣の少年が唐突に現れ、私の事を見向きもしない。腹が立つわね。
「待ってろ、こいつを――……っ!?」
彼は私の顔を見て目を剥いた。……私も彼の顔を見て、その場で硬直したわ。
……だって彼、私と同じ顔をしているんだもの……!
な、なにこれ。鏡? それとも幻覚? ……なによ、これ。なんなのよ!?
「顔が、同じ……!? クソ、気持ち悪い。お前は一体何なんだ!?」
彼も私の顔を見て憤怒している様子だ。それはこちらのセリフよ。なぜ貴様は私と同じ顔をしているの!?
「同じ顔が目の前にあるなんて、本当に気持ち悪い!」
私は脳裏に浮かんだ言葉をそのまま彼にぶつけた。訳が分からない! こいつ、一体何なの!?
―――
なんなんだよこいつ……! 俺と同じ顔してやがる!? 気持ち悪ぃ……「同じ顔が目の前にあるなんて気持ち悪い」? そりゃこっちのセリフだっつーの!
「エル、こいつ一体なんなんだよ!?」
『我に聞くな。だが、我もこいつの持つ武器に対しては、お前に同意する』
エルが俺に目を向けながら、ため息をつく。それを聞いた、あっち側から
『それはこっちもおなじだよ! わたし、あなたとあなたのもつぶき、きらーい!』
幼い女の子の声だ。……あの武器、しゃべんのか!? エルの友達か? ……ってなわけねえか。
「……貴様はここで殺すべきだわ。存在が許されない。私と同じ顔を持つなんて、虫唾が走る!」
こいつ……無表情だけど、なんだか心の底から怒ってるみたいだ。いや、嫌悪感? なんだろう、俺を拒絶してるって感じかもしれない。とにかく、そんな感情が伝わってくる。……だけど、その気持ち、わかるぜ。
「うるせえよ……俺も貴様は殺したくなるほどムカついて仕方ねえ……! 俺の顔で気色悪ぃ事言ってんじゃねえよッ!!」
俺はそう言ってエルを握り締める。エルも俺と同じ気持ちなのか、それとも別の意図があるのか……とにかく、いつものように諭してこなかった。と、思う。正直、ここからは周りの事は全然見えてなかった。
俺と奴は互いに剣を振る。剣同士がぶつかり合い、鋭い音と衝撃が走る。
「貴様は殺す……!」
俺が叫ぶと、右手で奴の身体を切り裂こうと振った。だが、奴はわざと俺に腕を捕まえさせ、俺の顔目掛けて、剣を槍のように突き刺す。俺は咄嗟に横へと顔を逸らした。だが、奴は剣をそのまま振り下ろそうとする。
「フン!」
「クソがっ!」
俺は掴んでいた腕を放し、咄嗟に転がる。
だけどすぐに立て直し、俺の影に手を当てた。
「喰ってやる!」
俺と奴を飲み込もうと、俺の影が大きく伸び、まるでそれは人の何倍もある大蛇が、獲物2匹を飲み込むように口を開いていた。だが簡単には飲み込まれまいと、奴も剣を両手で握り締め、光を放って影を切り裂く。
「跪け!」
奴が握り拳を力強く振り下ろす。その瞬間、俺の身体に重石が降ってきたかのような重みを感じた。いや、感じただけじゃない! まるで俺の一回りも二回りもでけえ岩が、俺の身体を圧し潰している感じだ! 俺は重みに耐えきれず、喉からドロッとしたものがこみ上げ、口から鉄臭いモノを吐きだす。血だ。クソ、このままじゃ……!
『好きにさせん』
エルの声と同時に、俺への重みが消えた。……サンキュ、エル。
『やっぱおまえ、きらい! だいっきらい!』
俺への拘束が解かれて、あっちの武器が心底お怒りのようだ。まあ、いいや。そういや、奴はさっきから表情が全く変わらない。そういうところも気持ち悪い!
俺は右腕を振り上げて、奴の頭を狙う。
「私に触れるな!」
奴はそう叫ぶと俺の右腕を薙ぎ払う。
だが、俺は全くひるまず、左手のエルを振り下ろした。ザシュッと、肉を斬る手応えと音が響く。奴も突然の事で目を白黒させていた。……やったのか!?
「……ごぼっ」
奴は静かに血を吐き出すした。血が床にビタビタッという音を立てながら広がる。奴の白い服も真っ赤な液体が広がっていく。俺の斬撃で服も赤と白のまだら模様になっていた。
「……貴様」
奴が憤怒と憎悪に満ちた表情を俺に向ける。
「殺す……殺す、貴様は絶対殺す……!」
憎悪の言葉を口に出す。その瞳は赤く、俺を捉えている。
俺に対する怒りと憎しみの感情を剥き出しにした奴が、俺との距離を詰め、剣を振った。その斬撃を見抜けず、俺は腹を斬られた。しかも、深い!
「があっ!」
俺は悲鳴を上げて、後ろへと倒れこんで仰向けになった。上半身だけ起こすも、俺は先ほどの圧し潰しと怒りの一撃によって、体力がかなり消耗していた。それに、激痛で上半身を建たせて奴を睨むのが精いっぱいだ……!
「しね……しねっ、しねっ、死ね!」
奴の剣が俺に襲い掛かる。俺は思わず目を瞑って顔を逸らした。
- Re: 叛逆の燈火 ( No.22 )
- 日時: 2022/08/23 23:11
- 名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Xi0rnEhO)
いつまで経っても痛みは襲ってこない。だけど、代わりに、温かい物が俺に覆いかぶさった。……瞼を開ける。黒い髪がさらさらと流れている。誰かの背中――
師匠!?
「し、しょう……師匠! なん、で!? 師匠、目を開け――」
師匠の肩をつかんで起こそうとする。だけど、手にはべっとりと赤いものがついていた。一瞬理解できなかった。
冷たくて、大量に溢れて、ずっと流れてて……
「な、ん、で……おい、嘘だろ……ししょう……!?」
俺が叫んでも目を閉じたまま開かない。嘘だろ、こんな……嘘だ……!
脳裏にシスターのあの姿が映る。高らかに嘲笑うあの赤い奴の声が響く。燃える修道院の前で、何もできずに呆然と見ていた、あいつの後ろ姿が目に浮かぶ。……いやだ、なんでだ。また俺が無力だから……!
「今度は貴様だ……」
耳障りな声が聞こえる。ああ、うぜえ。貴様のせいでこんな事になったんだろうが……!
貴様が! 貴様さえいなけりゃ! キサマガッ!!
「キサマガアアァァァァァァッ!!」
俺の意識はそこで途切れた。
―――
その瞬間、背中に衝撃……いや、壁を貫いて私は吹き飛ばされる。奴は右目が赤く、顔が……いや、身体の半分が黒く染まり、何かに侵食されているような見た目。背中からは漆黒の翼のようなモノを広げている。瞳は右目は真っ赤に染まり、こちらへの殺意を剥き出しにしている。禍々しい……彼の今の見た目は、そう。昔読んだ本に載っていた。「魔神」って名前だったかしら。
「ハハハハハハッ!」
突然奴は高笑いを上げた。まるで、気が触れておかしくなった狂人のような笑い方……今まで我を忘れていたけど、その笑い声を聞くだけで現実に引き戻された気分だわ。
「この力さえあれば、シスターも、エレノアもルゥも、バロンも! 師匠も! 取り戻せる! 貴様を殺せばあああああっ!!」
彼はそう言いながら瞬時に肉薄し、私の目の前に現れた。右手で私の身体をさも簡単そうに握り、私を床へと叩きつける。まるで、地面で卵を割るように。身体全体に衝撃と激痛が走り、私は口から血を吐き出す。床に穴が開き、瓦礫が飛び跳ねた。爆発したみたいに。
「あっけねえなァ、あっけねえよ! もっと抵抗してみろよ! アハハハハハハハッ!」
奴が高笑いを上げて私の頭を踏みつぶす。そのまま、頭を潰してしまおうと、力が込められる。
だが、私の眼前に氷の破片が飛び散る。……氷魔法。バーバラだわ。
「陛下ッ、今お救いします!」
「てめえも……こいつの仲間かよ。てめえもッ!」
奴の狙いがバーバラへと向けられる……ダメ、バーバラ!
「邪魔すんじゃねえよ、クソ野郎が!」
奴はバーバラの首をつかみ、私と同じように壁に叩きつけた。壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。このままじゃ……!
バーバラに続いて、帝国軍の騎士達が私を守ろうとしたのか、それとも奴を止めようとしたのか。どちらにせよ、武器を手にこちらへと突進してくる。だけど、結果は目に見えていた。彼は右腕で騎士達を薙ぎ払い、追い打ちに自身の翼を伸ばして、そう、翼が蛇のように長く蠢いて、騎士達の四肢や腕に食らいつき、引きちぎった。なんて奴……!
でも、奴の狙いは再び私へと向いた。私の頭をつかみ、宙に浮く。首だけで体を支えているような形だ。……首がもげそう。奴はそのまま私を投げ飛ばす。壁に叩きつけられ、また壁が埃をまき散らしながら瓦礫を作っていく。私はされるがままだった。
「てめえから死んじまえよ、なあ!」
彼は再び私の頭をつかみ、ガンガンと何度も床に叩きつけた。叩きつけられるたびに、肌に亀裂ができてそこから血が噴き出す。次第にぐしゃりぐしゃりと潰れる音が鳴り響き、私の反応が薄くなる度に彼は激昂していた。
「ああ、うぜえうぜえうぜえ! 全員殺す、皆殺しにしねえと――」
奴がそう目を見開きながら叫んだ。凄まじい憎悪を感じる。まるで……そう、私が皆から裏切られて、怒りでどうにかなりそうだった、あの時みたいに。
「やめろ、アレン!」
だけど、狂いながら叫ぶ彼に向かってかけられた声が。アルテアだ。
「アレン、レベッカは生きている! だからもう鎮まれ!」
アレン……それが貴様の名前なのね。
アレンは首だけをアルテアの方に向けて、憎悪に満ちた目で睨んでいた。
「なんで止めるんだよ……こいつらは帝国軍だぞ。帝国軍なんか一人残らずぶっ殺しちまえばいいだろうがッ!」
「お前まで帝国の悪魔と同じムジナの穴に落ちるつもりか!?」
「うるせえ! うるせえうるせえ、邪魔すんじゃねえよ!」
言い争っている……今が逃げるチャンスかしら。
私がそう考えながら体を起こそうとする。ダメだ、骨を折ったのかしら。身体が動きやしないわ。……いいえ。この感覚は、多分……体を守るオーラが消えた。「オーラ切れ」ってところかしら。
「アレン、私は無事よ……お願いやめて!」
私が斬った牛の剣士さんの声が聞こえる。姿は見えないけど、よく無事だったわね。
「アレンさん!」
幼い子の声。男? それとも女?
「アレン君、駄目だ、そんなものに身をゆだねては……!」
年上の男の声も聞こえる。皆必死にアレンに呼びかけている。……いや、目線を彼の方に向けると、皆彼の身体を抱いて、何とか止めようと必死みたいだ。
彼の仲間かしら。口々に叫んで、暴れるアレンを抑え込もうとしている。抵抗されて怪我まで負っているっていうのに、彼らは止まらない。大切な大切なお仲間がいるって事?
いいわね、恵まれてる人って。……私にはそんな人はいなかった。叱りつけてくれる人も、必死に呼びかけてくれる人も、寄り添ってくれる人も。バーバラとアルテア、それにフィリドラ以外にそんな人はいなかったわ。
ふと、私の目から熱い物がこみあげて零れる。
うらやましいなぁ……。
私はそう思いながら彼らから目を逸らす。これ以上見ていたら、きっと羨ましくて仕方なくなってくる。
そこにバーバラが近づき、私を軽々と抱き上げて、外に向かって叫んだ。
「撤退! 陛下が負傷されたわ、全軍撤退よ!」
……撤退。そうか、私は負けたのか。まあ、いいか。あんな化け物に勝てっこないし。私はバーバラの胸の中で瞼を閉じた。いや、それと同時に意識がぶつりと切れてしまったみたいだ。
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