複雑・ファジー小説

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キチレツ大百科
日時: 2016/01/06 12:05
名前: 藤尾F藤子 (ID: .5n9hJ8s)

「起キル……」
「起キル……」

あぁ、うるせーな。俺は昨夜も”発明品”の開発でいそがしかったんだよ……眠らせてくれよ。

「起キル……」
「起キル……」
微睡みの海の底、聞こえる女の子の聲。少し擽ったい感覚が夢を揺さぶる波のよう。
ふと思うんだ、これがクラスメートで皆のアイドル、読田詠子、通称”よみちゃん”だったらいいな……て。いいさ、わかってる。どうせ夢だろ? 
夢の狭間で間の抜けた自問自答。
そいつが、嘲るみたいに眠りの終わりを通告している。

「キチレツ、起キル”ナニ”!!!!」

Goddamit!
そう、いつもそうなんだ。俺の眠りが最高潮に気持の良い時に、決まってコイツが割り込んでくる。俺がご所望なのはテメーじゃねんだよ?
「くっ!? 頭に響く、うるせーぞ、ポンコツ! テメー解体して無に帰すぞガラクタがぁ!!」
「なんだと〜、やるかぁ!」
部屋の中には、日差しが差し込み、ご丁寧にスズメの鳴き声が張り付いてやがる。うっとおしい事この上ない程真っ当な朝だ。
「最悪だぜ……」
目の前の”ソレ”を突き飛ばし、机の上のタバコを探す。
「あん? モクが無ぇぞ、昨日はまだ残ってたんだけどな……」
「中学生デ、煙草ハ駄目ナニィ! 我輩、捨テテオイタ、ナニ!」
俺は目の前の”ソレ”の髪を掴んで手元に引き寄せる。
「テメー良い加減にし無ぇと、マジでバラすぞ。人形!」
「ちょっ、痛い痛い痛い! やめてよ、キチの馬鹿! 中学生で煙草吸うキチの方が悪いんじゃ無い! い、いたぁあい、我輩のポニテから手を離すナニィ!!」
「キャラが崩れてんだよ、人形!!」
「に、人形じゃないナニ……殺蔵(コロスゾ)ナニ……」

くっ……頭が痛ぇ。
 
俺の名前は機智英二(きちえいじ)皆からはキチレツなんて呼ばれてる。
俺は江戸時代の大発明家、キチレツ斎の祖先だ。キチレツ斎は結構名の知れた人で、当時の幕府御用達の発明家て奴だったらしい。初代キチレツ斎は太田道灌の元で江戸城の築城に協力して以来、機智家は徳川家から引き立てられたという経緯と親父が言っていた。
そんな家だったら、何か凄い物があるだろうと物置を調べていた時に見つけちまった。
この少女の形をした”発明品”殺蔵を。しかも運悪くうっかり起動しちまいやがった。

わかるか? 自分の先祖がこんな、少女人形を作成してた真性のド変態だと分かった時の気持ち……夜な夜なこんな人形使って遊んでたと思うと反吐がでるぜ! その俺の気持ちを察したのか、俯いたまま殺蔵がぼそりと呟いた……
「我輩は、武士ナリよ……」
俺はイラつく。
「テメーのその見た目でどうして武士とか言えるんだよ? どうみたって弱そうだし、大体女の武士とかいねーだろ? じゃあ、なんでその見た目よ? どう考えても、いかがわしいんだよ! お前はそういう目的の為の人形だろう!?」
「違うナニィ!! わ……我輩は、武士ナニィ! 武士……ナニよ」
「チィ! うぜぇ……」
曲がりなりにも尊敬していた先祖の正体が倒錯的な変態である……
そいつは憧れてた役者やアイドルがシャブ(覚せい剤)や痴漢で捕まった時位ショックなもんだ。
涙目で抗議する少女のカラクリは、俺らの年齢と大差ない姿形だ。
キチレツ斎さんよぉ、それぁ無ェぜ……

「英二〜、ごはんよぉ。殺ちゃんも早く降りてきなさ〜い」
この部屋の重たい空気も知らずに、圧倒的に間の抜けた声でお袋の声が聞こえてきた。
だが、そいつは俺にとっては好都合の助け舟だ。最早、徹也明けの眠気などどうでもよかった。殺蔵が急いでティッシュで涙を拭っている、その横を俺は知らんぷりで通り抜けた。

Re: キチレツ大百科 ( No.86 )
日時: 2016/04/24 01:56
名前: 藤尾F藤子 (ID: bkovp2sD)

黒い影が、日枝神社方面を背にして猛スピードで向かってくる……
山王パークタワー付近に配備されている、機動隊員から勢い良く笛が鳴らされる。
交通規制された都道405号の警官隊、機動隊員が其れを見て一斉に集まる。しかし、その影の持ち主は隊服の列を見るや否や、地面を蹴って飛び上がる。
「Hahn! Thanks a lot」
警官達の頭上を悠に飛び越え影が笑う、パークタワーの歩道に待機してた後列の警官達が其処に迫る。すると、影が突然進攻を止め、警官達のさらに後方を見て大声で叫ぶ。
「Hey! hey hey! Holy shit! Lock out guys!」
黒いマントコートを羽織った女が、指を刺した方向から常駐警備車が逆走してくる。警官達は、それを見て一瞬呆気に取られる。あろう事か、警察車輌が暴走し。此方に突っ込んできているのだ。
「Shit! It was late. U(you) did what?」
都心環状線方面から、カマボコ型の装甲を纏う常駐警備車が四車線の道路を縦横に突っ切って突入する。
「なんだ、誰が乗っている! 警備車が逆走してきたぞ、何やってんだ! 何処の馬鹿だ!」
「検問はどうした!? 止まれ!」
女は、唇を食む。その視線の先の逆走する警備車が機動隊の装甲車に体当たりした。腹に響く様な衝撃音が轟き、装甲車は弾かれスピンしながら、駐車されているパトカーの列に追突した。当てられたパトカーは、その衝撃にエアバックが破裂しクラクションが鳴りっぱなしの状態になる。
逆走してきた車輌は、そのまま歩道に乗り上げ、パークタワー敷地内の地下鉄の連絡口に追突して停車した。
「Hah! Awesome. Its disgusted」
マントの女は、口中の舌の上で弄んでいたガムを地面へと吐き捨てる。
「おい、お前は何やってるんだ!! 規制線を飛び越えて、公務執行妨害までしやがって正気か!? 大人しくこっちに来い」
「チッ、I don't believe this……」
機動隊員が、女の腕を後ろに捻るように掴む。しかし、女は微動だにしない。
「何なんだ? 何が起きて……誰か早く車輌を調べろ! 乗っている奴は緊急確保!」
「くそ! 何がどうなってんだ!」
警官達から困惑の声が散る。
「お前もこっちに来い、大人しくしろ!」
「When I do not say such a thing! ソンナ場合ジャネーダロ!?」
そう言うと、女は後ろに腕を掴まれたまま、頭を下げる格好を取る。
「? おい、何やってんだ! おかしな真似するな早くこっちに来い!」
女は、トンと軽く飛び跳ねると、体を丸めグルりと反転し機動隊員の帯革を取ってそのまま前転する様に倒れこむ。機動隊員は顔面から地面に叩き付けられる。
「This sucks! Annoying ya!(you) It is already a battlefield here!」
女は平然と起き上がり、迫る警官達を次々に蹴散らしビルの入り口へと消えていった。
「U already return! テメーラ、モウ帰リヤガレ! イイカ? Don't useless die! 手ヲ出スンジャネーゾ!? 死ヌゾ」
「おい、追え、追え!!」
一人の機動隊員が其れに気付いた……
「何やってる……? どうした!?」 
「おい、おいおい!! もう一台きたぞ!!」

黒く反射する車体を光らせ、逆走してくる車がまた一つ。
そのサンルーフから、黒い目出し帽姿の人影が現れる……
次の瞬間、乾いた音が次々と鳴らされる。
それは、ライフルの銃声だ。
実包は5.56mmのNATO弾、これは厚さ3mm程度の鉄板は抜ける貫通力がある。
その射撃音の数だけ、紺色の隊服が路上に倒れ、少し遅れて其処に赤い血溜まりを作る。倒れた者は、皆精密に首から上だけを狙われ撃ち抜かれている。それは、かなり高度な射撃訓練を受けていなければ出来ない芸当だ。動き回る人間を狙って一発で即死させる事は、実際には非常に難しい事で特殊な技術を必要とする。しかも、移動する車上からであれば尚更だ。
その銃声は、ライフルとしては比較的軽い部類であるが四方によく響く音だ。しかし、射撃時の反動が少なく、精度が高い。それが今撃ち込まれている、M16ライフルの非常に優れた点である。軍用のアサルトライフルには、流石に此の場の機動隊も正面からは敵わない。パンパンと疎らに拳銃の応戦は見られるも、火力、つまり貫通力と射程範囲、目標への到達速度が違いすぎる。これでは、実際に応戦しようにも話にならない程の差がある。

「着弾……着弾、着弾。フフ、まだまだ現役で通じるわね、私」
サンルーフからライフル射撃を行っている、篁国友(たかむらくにとも)が独り言を呟きながら笑う。
「国友、粗方掃射しおったら、俺いは少し出てくっがよ。巳白(みしろ)を宜しく頼もんせ」
頼母仁八(たのもじんぱち)はそう言って車のドアを開ける。
「仁八! 銃持ってけ、ツラも晒したまんま出るんじゃないわよバカ!」
「おいは殺華(さつか)と殺目(あやめ)を回収に行くがぞ、そうさな、20分を過ぎたら合流ポイントにいっちくいやんせ?」
「はぁ!? アンタが丸腰で行ってどうすんのよ! 大将が殺られたらどうするつもりよ、アタシが一番困るのよ! もう何人かサツカン殺っちゃたわよ!! もう後戻りできないんだからね」
「ふふふ、わっかちううぞ。大丈夫じゃ手持ちの銃があるでよ、そいに俺いには、殺華がおるでよ。あん娘子(おじょご)がいっでん十分じゃい。今更、顔なぞ隠してん分かるモンにゃ分かっじゃろ。よかよか、そいどん、此処は俺いの良か男振りを見せつけてやいもそ」
頼母はそう言って、爽快を纏い外に出て行く。
「馬鹿野郎! 冗談言ってんじゃないわよ! 15分よ!? 二等兵と私で持ち堪えられるのは! 銃隊の狙撃(班)が出てくるとアサルトライフルじゃあ対処できない! 速攻で殺目の馬鹿を回収してきなさい、15分で車を出す」
「おう! 気張ってくいやんせ」
頼母は、黒いトレンチコートの裾を靡かせ、背中越しに手を振る。

篁は車内に引っ込むと、車のドアを開け其れを盾にしながらライフルを構える。
「二等兵! いいか、お前は後方。無駄に撃つんじゃねーぞ? お前は十分引き付けてから撃て! 言わなくても分かるよな!?」
三条巳白(さんじょうみしろ)は、緊張しながらも車の後方で迎撃の態勢を取っている。
「了解です、此方は自分が踏ん張ります……」
「いい事、暫くデッドロック(膠着状態)よ? 相手は人数と装備が整い次第接近する。擲弾に注意しろ」
篁は、要点だけを手短に言うと、射程範囲内の細かい動きを見、それが再び頭を上げた時を狙って引き金を引いた。続けて威圧射撃を行う、こうする事で敵を遠ざけるのだ。
「篁さん、道路を塞がれて包囲された場合は?」
「グレネードと手榴弾で、切り抜ける積りだが、その際に近接で制圧しなきゃならない。そん時は腹括れ。だが、その前に殺華が戻って来て欲しいわね」

M16の薬莢が周囲に散らばり、道路と歩道には無数の警官達の骸が横たわる……

Re: キチレツ大百科 ( No.87 )
日時: 2016/05/05 00:50
名前: 藤尾F藤子 (ID: E8lgSYnB)

殺目(あやめ)は、非常階段の2個小隊(6個分隊で32名)を単独突破し一階に下る。
その際、銃弾薬は全て殺害した隊員から戦時調達した。そして、奪ったポリカーボネート製のライオットシールドを、手持ちの軍事用アラミド繊維を用いて二枚に重ねる。それを近接格闘時にハンマーの様に振り回し使用する為だ。
距離が離れた相手には、肩から下げた短機関銃を掃射しながら間合いを詰める。距離が詰まれば、タクティカルナイフ・盾を使い白兵戦術へと持ち込む。それらを繰り返し非常階段を駆け抜けた。
だが、一階のホールではそうはいかない。無闇に単騎突撃を仕掛ければ、多勢から包囲されての三方同時射撃を喰らってしまう為だ。殺目は相手の人数・距離・場所に応じ武器を変え、戦術展開を組み立てている。ポリカーボネイトの盾は、一枚でも7.62x25mmの銃弾に対し完全防弾が出来る。しかし、此の場に居る部隊の装備であるH&K社のMP5と言う短機関銃は9x19mmパラベラム弾である。集中砲火を浴びてしまえば一溜まりも無い、広い地形と狭い地形では其々に合った戦術を立てなければならない。

ホールには、一個小隊が残り待機していた。

殺目は威圧射撃を加えながら、どうやってホールを突破するかを思案する。通路の壁を遮蔽物にして銃撃をしながら、やがて殺目は肩に下げられている銃を離しホールへと飛び出す。

「なんだ……あれは!? 未成年の、少女じゃないのか……!?」
捜査一課の刑事が”其れ”を見て呟いた。
ホールは激しい銃声の音……
盾を前に、殺目は右手で持っていた最後の手榴弾のピンを口で抜く。そして、前方の警官隊の頭上に目掛け投擲する。

「!?」

炸裂と同時に鉄片が飛び散る、間髪入れずに殺目は短機関銃を撃ちながら疾る。
銃弾が飛び交う中、割れる紺の隊服の列。素早く其処に滑り込む殺目。
マガジンを取り替える事なく、肩に下げられた次の短機関銃を撃ち続ける。崩れる隊員達を、また遮蔽物にして低い姿勢のまま銃撃戦を行う。32発きっちり撃ち尽くすと、それを投げ捨てる。そして、倒れている隊員から新しい銃を徴用する。
後退した後列の部隊から銃撃が始まるが、距離が空いた銃撃には反応せず、殺目はまた倒れた隊員達から装備を補充する。
その際に、今度は倒れている瀕死の隊員を掴み上げる。弾除けの盾とし利用する為だ。


「信じられん……ありえない、相手はたった一人だぞ?」
「課長! 応援を……」
その時、突然前方側から催涙弾が撃ち込まれる。
殺目が、警官隊から奪った物を投擲したのだ。煙幕とばかりに白いガスが次々と発煙する。その煙の中で、警備部の刑事達は予想外の圧倒的戦力差になす術のない事を痛感した。S型の催涙弾の煙の中、螺旋を描いて弾丸が飛翔する。

殺目は煙幕の中、僅かでも動く影を見つけるとそこに掃射を開始する。
引き金を引くと、直後に人が倒れる感触がした……
煙幕の隨、動くシルエットが浮かぶ度引き金を引く。その都度、仕留めた感触が殺目の五感に打ち響く。

また、影が地面に倒れ伏した。肉が弾けて、血が咲いた。
また一人、また一人と折り重なるシルエット。赤が床を這い、硝煙が空を舞う。
煙の中、悲鳴と呻きが立ち上り、消えていった。

其れはまるで……立ち昇る霞に散華した命が巻き上げられる様。

殺目は姿勢を低く、辺りの気配を探る。
白い煙幕弾の人工の霧が、殺目を包み姿を隠す。教導団で、催涙弾に充てられた際の訓練は既に受けている。

毒の霧中……声鳴る方へ、執意。
屍の床……気配点る方へ、殺意。


殺死丸(あやしまる)は、後方からその様を凝視する。
「ほほ、ご当主、彼れなるものをご覧為され……? 最早、為す術も在りませぬ」
機知烈斎(きちれつさい)も、その様子を静観している。
「なぁ、殺死丸? 自衛隊には、あと何体、殺女(さつめ)が属していると思う?」
「それは、ご当主が直接、母者の母胎へと問うた方が宜しいかと」
殺死丸は、視線を動かさずに謂った。

機知烈斎は、果敢無く咲む。
「俺には遥けき”母”は応えまいよ、あの女(ひと)は俺に顔さえ向けてくれずに、哭くだけさ。どんなに俺が、言葉を投げ付けようとも」

「ふふ……其れは、ご当主? アナタの意志薄弱が為」
「はっきり言ってくれる」
殺死丸が、まるで機知烈斎に何か請う様な表情で、眼差しを向ける。
機知烈斎の、黒いナロータイを引き寄せると頬を合わせ耳元に問いかける。

「ご当主……ここは是非、この殺死丸めに”勅下”賜りたく御座候」

殺死丸は、機知烈斎の腰に自らの右足を絡みつかせ、しっかりと身体を密着させる。
「なれば、この殺死丸……何でもご当主が為に此の身捧げまする。殺死丸は、ご当主ただ一人だけのもので御座候……」
機知烈斎の胸に顔を埋め、右手の人差し指を遊ばせる様に這わせる……
機知烈斎は、恐ろしく冷然な瞳で殺死丸を見下ろす。

次の言葉を、哀願の眼が待つ。

「やむ得まい」

殺死丸は、その言葉を聞くと、両手を顔の前で合わせ、まるで少女の様な表情で笑んだ。

「貴方が望みとあらば、此の私が、鬼胎を孕み産み落としましょう……」
鋭い獣眼が潤む、僅か唇を食む殺死丸。

機知烈斎は黒い手袋を脱ぎ、左手の小指の爪を歯で噛み千切る。ギチュッという嫌な音共に指先から血の雫が床に零れ落ちる。千切った爪を吐き捨てる機知烈斎。

「所長!? 突然何を!」
その異常、異形の二人の様子に、唖然としていた内調と公安の職員たちが驚愕する。

「んん……くっ!! 皆、参考人の二人と共に屋外へと退去! 早くしろ……っっ!!」

銃撃の音が迫る。困惑が辺りを包むが、死の匂いが徐々に濃くなってきた。炸裂音と発煙筒、弾雨が降り始める。

「そう、私は、母者とは違いまする。私だけは、貴方を甘やかしてあげましょう……貴方には、母者を愛せない。母者は……アナタを愛さない。もう、焦がれ疲れたのしょう? でも、この殺死丸は……共に紅月(くづき)と共に新しい夜へと沈んであげましょう」

そう謂って、血膿の匂いを背に纏う殺死丸。
背後で鮮血が散って、また一人、誰かが死んだ。

潤む獣眼の下に開く、刃物の嗤い……

Re: キチレツ大百科 ( No.88 )
日時: 2016/05/07 21:13
名前: 藤尾F藤子 (ID: J8qgC5Zh)

立ち込める毒霧の中、佇む白狐……
まるで、靄の中で弾ける血の花弁が、その背を彩るかの様に一瞬咲き乱れた。

殺死丸(あやしまる)は獣の瞳を潤ませながら、謂った。
「貴方には、愛せない……”母”も、貴方を愛せない。でも、私は貴方を愛しましょう。私だけは、貴方を認めましょう。言ってくれたでしょ? 貴方が私の最後の機知烈斎になってくれるって……ならば、この場に於いて”勅下”を下さいまし。私の、私だけの可愛い機知烈斎……」

銃撃の硝煙が香る、それに混じる人の悲鳴と怒号。
一階に配備された部隊は、意図せぬ発煙弾により態勢と布陣が乱され。その場は泥沼の白兵戦が展開されている。白煙の隙間から惨状が覗く。
近接格闘に持ち込まれ、ナイフで首を掻き切られた隊員が赤子の様な叫び声を上げのたうち回り、動かなくなった。第一撃の手榴弾で肩口から手を吹き飛ばされた隊員が地面を掻く様に地を這っている。


機知烈斎は、無言で殺死丸を睨む。
「所長! どういう事です!? 説明を、一体何を?」
「早く行け……事態が変わったのだ」
内調の職員は、その尋常ならざる光景に色を失う。機知烈斎達の前方では、激しい銃撃戦が展開している。
「事態が、変わった? 何をする気だ!?」
歪む顔で機知烈斎は歯噛む。
「”勅下”と言うのは機智家当主だけが使える殺女(さつめ)の本能への絶対指令だ。使えば、殺女は全細胞を解放し、力を余す事無く使いきれる。しかし100メートル四方の生体反応(生物が発する熱)に対し殲滅行動を開始する……それは完全にその場を殲滅せしめる迄は止まらない」
「じ。冗談じゃあない! 首相官邸がすぐ後ろにあるんだぞ!? そんな事は許可できない! 首都の命令系統に危険が及ぶのは看過できない」

殺死丸は、ツカツカと内調職員の前に出る。

「なら……お前が、お前達が政府があれらを止めて見せよ? できるのか? 因みに、先程、外界にてライフル音が聞こえました。反響音からM855、つまり5.56ミリ口径の銃声です。次弾の装填、発射からリュングマン方式のガス圧作動、M16ライフルと想定されます」
「この、銃撃戦の中で、そんな事がわかるのか……? M16!? なぜ米軍採用ライフルを……!?」
殺死丸は職員の首を絞め上げる!
「いいか!? 敵は異なる位置への銃声を出したところから二名以上が予想される! その中に別の殺女が居らば、どうしようもない! この殺死丸が、力を存分に使わば、殺目もその賊徒も全てを屠り去れる! 最早躊躇う場面ではない!」
そう言うと、殺死丸は職員を突き飛ばす。
「機智所長も、アンタも目標の援軍に気付いていたのか!? この銃撃音の中で?」
「敵は、誘っていたのだと遅まきながら気付いたよ? 何故に、こんな馬鹿げた事を起こしたのか疑問だった……もし、秘密裏に叛乱等を企てるのならば、こんな目立つ事は起こさない。恐らく、敵の思惑は……機智家とその殺女」
「大事を起こして、機智烈斎を引っ張り出したと!? しかし、そんなリスキーな事をする意味が分からない! こんな事を……」
「敵の本当の思惑はわからない。だが、俺達は挑発にまんまと乗せられたのかもしれない……もう猶予は無い。殺目毎この場を滅する他無い……敵の殺女が、もう一体増えれば、どの道、国家政府など言ってはいられまい」

「そう……それでこそ、ご当主様。目的の為に手段を選んではいけません、逆らう者は排除しなければいけません。そして……この殺死丸との約束を果たしてくれねばいけません……」

機智烈斎は皮肉交じりに笑う。

「別に、お前と約束を交わした訳じゃない。あれは俺の決意を云った迄さ……」
殺死丸は、機智烈斎の唇に人差し指を這わす。
「ほら? ご当主は、女の気持ちをわかっておりませぬ……なってくれるのでしょう? 私の、殺女の、この世界の、最期の機智烈斎……」

機知烈斎は、血染の左手を差し出す。
その手を取り、ゆっくりと自らの唇を当てる殺死丸。

「家令、仔に告げる、身命を棄て、諸共屠殲せよ……」  

Re: キチレツ大百科 ( No.89 )
日時: 2016/05/13 03:31
名前: 藤尾F藤子 (ID: QJG1DFOg)

「血受の盟約により”勅下”謹んで承り候。隷従の契約により家令謹んで為果て候……」
殺死丸(あやしまる)は、恍惚の眼でそう言いながら機智烈斎の左手を取る。

その時、頭上に現れる黒い形影。
一瞬にしてその輪郭は、鴉が羽根を広げるか如く膨張した。

「!?」

影が吼える!

「Knock it off!! (いい加減にしやがれ!!)」

影は瞬間で飛び込むと、機智烈斎の背に向かい、飛び蹴りを放つ。
「ぐぉ!?」
機智烈斎は、その衝撃で転がりながら床に倒れる。

「……まぁまぁ、大きな鴉。貴女、何で此処に居ますの? 死連(しづれ)?」
殺死丸は、擬とした瞳でその影を睨める。

片膝を付いて着地した、女の黒いマントコートが遅れて舞った。
白塗りに黒いシャドー、黒い口紅のGothicメイク。側頭部を埋めるトライバルタトゥー、頭頂部で纏められた辮髪が、背に靡く。

その突然の光景に、周囲の公安や内調の職員は一瞬遅れて反応する。
「!? 貴様っ」
女の頭に向け拳銃が突き付けられる、しかし女はそれに構わずユラリと立ち上がると、殺死丸に向け言い放つ。

「What da(the)fuck? bitch!(こりゃ、一体どういう事よ? クソアマ!)」
死連(しづれ)と呼ばれた女は、殺死丸のシャツの襟を掴む。
「You guilty of a fuck'n blunder!(てめー、しでかしやがったな!)」
「この手は……なんぞ、死連?」
すると、殺死丸は襟を掴んでいる死連に向かい頭突きを見舞う。
ゴチン! と音が轟くが、二人の前方で展開する白兵戦の合間の銃撃によりその音は掻き消される。
「貴女……こそ、何を、しております! のっ!!」
頭突きを放った後、グリグリとおデコを擦り当てる殺死丸。
「Ou! Suck ya(you) Who the fuck do you think you are?(いって! ざっけんな、てめー何様だよ?)」
死連も負けじとおデコをグリグリ殺死丸に擦り付ける。
「だまらっしゃい! 折角、ご当主より直々に”勅下”を得る絶好の機会に水を差して! ご当主! 何をそんな所で転がっておるのです! しゃんとなされい!」
殺死丸は死連を突き飛ばすと、倒れている機知烈斎の元へ駆け寄る。
その様子に死連が呟く。
「It is a slovenly guy(だらしねぇ奴だな)」
機智烈斎はうつ伏せに倒れたまま動かない……
殺死丸はクワッ! と目を見開いて機智烈斎を抱え上げる。
「ご……ご当主!!」
機智烈斎は、受け身を取らないまま頭から地面に倒れこみ、一回転して目を回している。
「HAHA! That's so loserish(アハハ!格好悪ぃ)」

「死連……?」

殺死丸が、目を剥きながらぐるりと死連に顔を向ける。

「ひっ!」
周囲が凍りつく。
内調の職員も、公安の刑事達も皆一様にその様に背に冷たいものを感じた。
殺死丸の周りの空気が、震える様な錯覚を覚える。

ただ、殺死丸は、死連に向け顔を向けているだけだ……
目を普段より大きく見開いてはいるものの、怒りで顔を歪めている訳ではない。
だが、それだけで、その動作だけで、周囲の者に明確な死の感触を告げる。それは、ビリビリと空気を通して空間を歪ませるが如く……
死色の匂いを纏った獣。
夥しい”殺氣”が殺死丸から滲む。

周囲の刑事達は、この時初めて実感した。この殺女という存在が敵味方に関わらず如何に脅威である事を……
普通の人間などに制御しきれる筈がないと、使役出来得る筈がないと。

もし、これらが一斉に国家政府の敵になったのならば、この国は完全に現状の体制を維持できない。最終的に待っている最悪の展開は、自衛隊の治安維持出動である。

各都道県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない場合は、各当該の公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊の出動を要請する事ができる。其れに拠って内閣総理大臣が、事態やむ無しと判断する場合は、部隊等の出動を命ずる事が出来る。

しかし、現在首相官邸では、この事態をどう曖昧かつ無難にやり過ごすかで話が進んでいる。だが、実際にこの惨状や、殺しの少女人形”殺女”を目の当たりにしたならば、最早、現状はそんな悠長な話ではないと痛感できるに違いない。

だが、現実はそうではない。政府、国家の運営者達は、この場に居ない。運営者とは、高級官僚、つまり国家公務員の最高職である事務次官だ。そして事実上その上に、内閣官房があり、その中の内閣危機管理監をはじめとした内閣安全保障・危機管理室がこの問題をブラックボックスとして表沙汰にしたくないのだ。しかも、日本は徳川幕府から、明治維新を経て、第二次世界大戦後、現在に至る迄、この殺女と言う存在を暗黙に認め、その都度、戦争や政権争いに都合良く使ってきたのだ。
今更、そんな存在を政府自体が明るみにすることはできないだろう。

「殺死丸……What did ya say a while ago?(てめー、さっき何て言っていた?)」
「この……殺死丸にものを問いたければ日本語で問え」

死連は、コキリと首を鳴らす。

「You said”勅下”ソイツァ、Not acceptable.許容デキナイ、重要ナコト。之、国家の安寧。Da public Peace! Aiight?」

「ホッ! 国家の安寧!? 笑わせる! だからこそ今我らは此処におるのです。お前はスッコンでいらっしゃい! でなければ……斬りますよ?」


殺死丸が槍を引寄せる、死連はマントの下に攣った軍刀拵えの刀の柄に手をかける。

ひりつく空気と、死線が張り詰める。

Re: キチレツ大百科 ( No.90 )
日時: 2016/05/18 00:22
名前: 藤尾F藤子 (ID: 2iNdd8Sa)

「ナラバ、言イ換エヨウ……公共ノ守護ト」
死連(しづれ)は謂った。

殺死丸(あやしまる)は、にべの無い顔で首を傾げ死連を見つめる。

「殺死丸? オマエハ、Already how long.モウドレ位、人ヲ斬ッテナイ?」
「……はぁ? これはまた、率爾(そつじ:いきなり)な。んん、確か、戦後の混乱期、三国人共を斬って以来か……それが何だというのですか?」
「So……ナラ、日本ノ占領期、昭和27年位カ……大体、60年位前ダナ」
「それが、いかがしましたの?」
「Are you sucks? You seem to be bored. オ前ハ、退屈シテキタンダロ? モウ此ノ時代二……秩序アル世界二」

殺死丸は応えない。

「ワカルさ……私、オ前ヨリ少シダケ、オ姉サン。私ハ、戦争デ頭、Head shotされてブッ壊レタ。However, therefore.ダカラコソ、私オ前達、殺女ト違ウ視点デ物事見レル様二ナタ。 ”勅下”はYou should never .無辜ノ民が死ヌノハ忍ビナイ。モウ、ソウイウ時代じゃナイ。Blieve that?」

「無辜の民か……ホホホ、笑わせる!」

「オ前ダッテ、Lillebit.少シハ、Do you like it? 此ノ時代ヲ……」
殺死丸は忌々しそうな顔で吐き捨てる。
「いいえ! 気に入り申さん。此の国の今の原型たる、明治政府を叩き上げたのはわたくし達です。それが時代を経て、今やこの体たらく。呆れて物が言えませぬ、御代の平和を他国に媚びて、金で買っております! そんな虚栄と、極めて小児性の横溢せし太平など、真の安寧の世と言えようか? 死連……」
「But! 殺死丸? 此の時代ノ機知烈斎ト共に居ル時ノオ前ハ、昔ノオ前カラはDifficult to imagine.想像出来ナイ程楽シソウ……コンナ時代モ悪クナイ、ソウだろ?」
「……」
死連は軍刀を抜き払った。
「モウ私達、殺女ハ、時代遅れ。It's a thing of the past. 過去の遺物サ。イイヤ、the thing which there must not be originally.本当ハ、在ッテハナラナイ存在だヨ。自然の摂理二背いテイル……ソンナ物ガ、今また此処で”勅下”ヲ賜サレて暴虐を始めるナンテ、Nonsenseジャナイカ? 無駄ナ血、コレ以上流すナ」

「ふん、馬鹿者同士が、勝手に殺し合っているのです。我らは、此の場所に召喚されしだけ。着いてみれば、まぁ、彼方此方で面子だ都合だと、あーでもない、こーでもないで、対応が変わる。内閣政府、警察も内輪揉め……最初から、この私に全部任せていれば斯様なグダグダの泥仕合にはならなかった筈。ご当主だって良い迷惑です。そんな馬鹿共などは幾ら死んでも構いません、この殺死丸の、与り知らぬ事」
死連は、苦笑しながら前方の惨状を見やる。
「都合がアルノサ……人間達にハ。ダガ、私ニモ都合アル。somehow understand me」
殺死丸は怪訝な顔をする。
「死連、貴女……ご当主以外に、命を受けたか!? 二心に仕えると? 機知家以外にたれ(誰)ぞと通じているのか?」
「It is not it.ソンナンジャアないサ……タダ、”お願い”サレタダケ」
「フン! どうせお前の事、薩摩の旧警視庁の子孫かその筋であろう? 今だに警視隊気取りか! 気に入りませぬっ、プン!」
「お前ダッテ、今ダに官軍気取り。That’s tacky」
死連は口に手を当てて笑う。
「お黙らっしゃいっ! 機知家は常に”官軍”であります! 機智家に向こうを張る者は常に”賊軍”です」
「モウ、其ノ考え方モ旧いノサ……? 止メヨウ、今ハ”アレ等”ヲ討伐スル。Will it be so?」
「ですから”勅下”を貰おうと……!?」
殺死丸が、急に周囲を見回す。
「ご当主が、いないですわ……」
「HAHA! イイサ、彼奴ハ彼奴デやる事ガ有るンダロウ? 殺死丸、オ前ト、私デ此処ヲ鎮メル。イイネ? バカ高ェ、ヒール脱いデ、本気デ殺るンダゼ? 長州諸隊のオ仲間ダカラって情ケ掛ケルノハ無シだ。ソイツァBADダ、That’s out of style.妹云々関係ナイねっ! Is it good? Aiight(All lights)?」
死連は、片手で抜いた軍刀を手首をヒュンと音を立て廻した。それはまるで風が切れる様な刃音。
「”勅下”頂きたかったのにぃ……」
殺死丸は、口を突き出していじけながら槍を肩にかける。
二人は、殺目(あやめ)と銃隊が戦っている、一階のホール中央へと足を向ける。


金色の髪が風に遊ぶ……
殺華(さつか)は、長いツインテールの尾を後方に引きながら、ご機嫌に山王パークタワーの1階に突入した。
「ちぇぇ〜い、うぉぉぉ! 今日は技が冴えるよぉぉ〜」
ホール内に入ると、既に前方では銃撃戦が始まっていた。しかし、発煙弾がかなり炸裂した後であろう視界が極めて不良だ。
「あちゃぁぁ、殺目ちゃん頑張ってるなぁ。でも、臭いし、よく見えないなぁ」
殺華は、血刀を肩に担いで殺目を探す。
「殺目ちゃぁぁん、迎えに来たよ!!」
しかし、銃撃音やら怒号やらで、殺目には届きそうにもない。
「ふむ、どうしよ……」
殺華は考え込む。
壁に沿いながら、ホール中央の様子を見るように配置確認をしてからの抜刀突撃。それとも、このまま中央まで殺目を捉えるまで斬り進む。事前の殺目の連絡に依れば、殺女が一名居て、其れを退けたと言っていた。しかし、戦場と言うものは刻一刻と状況が変わる。政府側の殺女が未だ存在し、加勢に来ていたとしても不思議ではない。しかも、この視界不良の中、敵勢力と殺目の配置もわからずに突撃するのはリスクが高い。
「むむむっ、困ったな……う〜ん、はっ!? いっ、いけない、ぼぼ、僕は何て事を!? 味方を助けるのに、今更、細々策を練ろうなどとは、隼人(はやひと)にあるまじき行為だ! よぉぉし、突撃あるのみだよっ、チェースト!!」

結局はこうである……
しかし、殺華には余計な気負いや畏れがない。そして、何より単純なのだ。だがこの単純さ、そしてある種の爽快さは、頼母家より授けられた薩摩隼人の精神学によるものだ。
しかし、言い換えれば其れは人を殺す為の気負いや罪悪感も無いという事なのだ。殺女と言う存在は、得てして精神が不安定である。殺華も例外では無く、その精神は極めて幼児性が顕著にある。
しかし、頼母家はこの幼児性を逆手に取った形で、殺華の精神の安定を促す為に徹底的な薩摩の士族精神を叩き込んだのだろう。
畏れ、不安、罪悪感、其れらに殺華は縛られ無いのだ……

「よしっ! 行くゾォォ……? え!?」

殺華の目の前に揺らぐ黒い影。
しかし、其れに明確な敵意や殺氣が感じられ無い。
不思議な男が、殺華の目の前に歩いてくる。だが、此処はもう戦場だ。
それにも関わらず、その男は敵意も殺氣も、怯えて逃げる様子でも無く殺華の方へやってくる。

「誰? 此処、危ないよ?」
殺華は謂った……

「そうだな、此処は危ないな……」
不思議な雰囲気の男が謂った。
「早く、逃げた方がいいよ?」
「お前は、その危ない場所に何の用?」
男は気付けば、殺華の目の前に居た。
「え? あの、あの……」

黒い山高帽、黒尽くめの服。妖しい男だった。
殺華は忽然と現れた、見たことも無いミステリアスな雰囲気の男に、面を食らい出し抜かれた形となった。

白い肌、少し隈掛かった冷たい瞳が殺華を見下ろす……


(敵じゃなさそうだな……でもなんだろ、この人)
しかし、殺華の胸の鼓動が僅かに速まる。

「僕、行かなきゃ……大事な用があるんだ! さよなら、危ないから、気をつけてね」

「殺目を迎えに来たのか……?」
「!?」
殺華の鼓動が、また速まる!

「誰!?」

男が、謂った。
「機知烈斎である」

殺華は、思わず左手で口を覆う。声が漏れてしまいそうになったから……
その聲は、銃声より疾く、弾丸より鋭く、殺華の心を撃ち抜いた。


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