複雑・ファジー小説
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- キチレツ大百科
- 日時: 2016/01/06 12:05
- 名前: 藤尾F藤子 (ID: .5n9hJ8s)
「起キル……」
「起キル……」
あぁ、うるせーな。俺は昨夜も”発明品”の開発でいそがしかったんだよ……眠らせてくれよ。
「起キル……」
「起キル……」
微睡みの海の底、聞こえる女の子の聲。少し擽ったい感覚が夢を揺さぶる波のよう。
ふと思うんだ、これがクラスメートで皆のアイドル、読田詠子、通称”よみちゃん”だったらいいな……て。いいさ、わかってる。どうせ夢だろ?
夢の狭間で間の抜けた自問自答。
そいつが、嘲るみたいに眠りの終わりを通告している。
「キチレツ、起キル”ナニ”!!!!」
Goddamit!
そう、いつもそうなんだ。俺の眠りが最高潮に気持の良い時に、決まってコイツが割り込んでくる。俺がご所望なのはテメーじゃねんだよ?
「くっ!? 頭に響く、うるせーぞ、ポンコツ! テメー解体して無に帰すぞガラクタがぁ!!」
「なんだと〜、やるかぁ!」
部屋の中には、日差しが差し込み、ご丁寧にスズメの鳴き声が張り付いてやがる。うっとおしい事この上ない程真っ当な朝だ。
「最悪だぜ……」
目の前の”ソレ”を突き飛ばし、机の上のタバコを探す。
「あん? モクが無ぇぞ、昨日はまだ残ってたんだけどな……」
「中学生デ、煙草ハ駄目ナニィ! 我輩、捨テテオイタ、ナニ!」
俺は目の前の”ソレ”の髪を掴んで手元に引き寄せる。
「テメー良い加減にし無ぇと、マジでバラすぞ。人形!」
「ちょっ、痛い痛い痛い! やめてよ、キチの馬鹿! 中学生で煙草吸うキチの方が悪いんじゃ無い! い、いたぁあい、我輩のポニテから手を離すナニィ!!」
「キャラが崩れてんだよ、人形!!」
「に、人形じゃないナニ……殺蔵(コロスゾ)ナニ……」
くっ……頭が痛ぇ。
俺の名前は機智英二(きちえいじ)皆からはキチレツなんて呼ばれてる。
俺は江戸時代の大発明家、キチレツ斎の祖先だ。キチレツ斎は結構名の知れた人で、当時の幕府御用達の発明家て奴だったらしい。初代キチレツ斎は太田道灌の元で江戸城の築城に協力して以来、機智家は徳川家から引き立てられたという経緯と親父が言っていた。
そんな家だったら、何か凄い物があるだろうと物置を調べていた時に見つけちまった。
この少女の形をした”発明品”殺蔵を。しかも運悪くうっかり起動しちまいやがった。
わかるか? 自分の先祖がこんな、少女人形を作成してた真性のド変態だと分かった時の気持ち……夜な夜なこんな人形使って遊んでたと思うと反吐がでるぜ! その俺の気持ちを察したのか、俯いたまま殺蔵がぼそりと呟いた……
「我輩は、武士ナリよ……」
俺はイラつく。
「テメーのその見た目でどうして武士とか言えるんだよ? どうみたって弱そうだし、大体女の武士とかいねーだろ? じゃあ、なんでその見た目よ? どう考えても、いかがわしいんだよ! お前はそういう目的の為の人形だろう!?」
「違うナニィ!! わ……我輩は、武士ナニィ! 武士……ナニよ」
「チィ! うぜぇ……」
曲がりなりにも尊敬していた先祖の正体が倒錯的な変態である……
そいつは憧れてた役者やアイドルがシャブ(覚せい剤)や痴漢で捕まった時位ショックなもんだ。
涙目で抗議する少女のカラクリは、俺らの年齢と大差ない姿形だ。
キチレツ斎さんよぉ、それぁ無ェぜ……
「英二〜、ごはんよぉ。殺ちゃんも早く降りてきなさ〜い」
この部屋の重たい空気も知らずに、圧倒的に間の抜けた声でお袋の声が聞こえてきた。
だが、そいつは俺にとっては好都合の助け舟だ。最早、徹也明けの眠気などどうでもよかった。殺蔵が急いでティッシュで涙を拭っている、その横を俺は知らんぷりで通り抜けた。
- Re: キチレツ大百科 ( No.71 )
- 日時: 2016/02/22 13:58
- 名前: 藤尾F藤子 (ID: tAwbt3.x)
「あやめちゃん! あやめ……ちゃん、ねぇ……」
溜池山王パークタワー。
廊下は、電源を落とされて頼りない非常灯だけがその光芒を灯していた。
その燈の中で詠子(よみこ)の呼声(よびごえ)は徐々にそのルフランを小さくしていった。
薄闇の、更にその奥の濃霧のような黒に殺目は去っていった。
「あやめちゃん!」
詠子は思わず、その仄暗い帳へと駆け出そうとする。
「待たれよ! 娘!!」
詠子の背から殺死丸(あやしまる)の聲がした。
殺死丸は、腹に太刀が突き刺さり口の周りやその身は既にドス黒い血液で塗れている。その中には殺目の返り血もあるだろう。どちらにせよ、この状態で生きて喋っていること自体が詠子にはとても考えられない状態だった。
”そうさ、私達は人に造られし、暗殺人形だよ?”
詠子はふと殺目の云った言葉が、頭の中に浮かんだ。
殺死丸は、べっ! と口腔に絡む血反吐を吐き捨てる。
「其方に行ってはなりません事……娘」
詠子は、その場で足を止めたまま暫し思い悩んでしまった。どうしてか、分からない。
ついさっき会ったばかりの少女。ショック状態に陥った自分を助けてくれた。しかし、殺目はこのビルの、しかも父の勤務しているオフィスに押し入り殺人を冒している。それも、一人や二人ではない。そして、折に触れさえすれば父親や自分だって殺されていただろう。詠子は此の世に生を受けて、此れ程の危険や身の恐怖を感じたのは初めてだった。
なのに……何故だろう? 殺目の寂しそうな貌が離れない。
自分の友達に似ていたから? 自分を助けてくれたから? 父親を見逃してくれたから?
分からない、詠子にはそれがわからない。分からないが……あの少女を放っておけない。そんな気持ちが胸の中に募る。もう薄闇の中に殺目を見つける事はできない。
でも、今ならばまだ追いつくのではないか? 詠子はそう思った。
「おやめなさい、娘よ……」
「だって、放っておけないわ。あ、貴女、あやめちゃんのお姉さん? なんでしょ!? どうして、こんな事に……今行けば、まだ間に合うかも!」
殺死丸は、それを聞くと矢庭に微笑した。
「お前が行って、なんになるか……娘?」
「だって、私、止めなきゃ!? このままじゃ」
「アチラは……暗がりぞ?」
ゾッとするような殺死丸の聲。
詠子に、怖気が奔る。しかし、詠子の焦慮は失せる事はなかった。
「でも……」
「デモもストもありません事! お前なぞが殺目と関わっても如何に非ずと申しています! アナタ、以外と強情ですわね……」
殺死丸は稍も呆れたような表情を作った。
「あやめちゃんは、私を助けてくれたの。お父さんも殺さないでくれたわ? だから! ううん、どうしても気になってしょうがないの。だって……!」
「続けて申す。其方は、お前の路にならずんば、殺目の事は金輪際わすられよ。娘、お前の為だ。あの不肖の妹は、お前達人間風情がどうできるものではありますまいよ」
詠子にはそれ以上言葉がでなかった。
そう、自分などがどうこうできる問題ではないのだ。
そう考えると、徐々に現実の焦燥と恐怖が詠子に実感を与えていく。
「ふふ、何故だか不思議な気も致します。あの殺目が斯様に人の娘などに顧みられる事なぞ私の記憶にも無き事故にな。何分、我々は特に血生臭い渦中にいた……まぁ、あの娘は今又その混渦に身を投ずる気でいる様ですが。ホホホ」
そう言うと、殺死丸は太刀を引き抜こうと柄に手を掛ける。
「ぬっ! んん……グカカ!!」
しかし、太刀は自販機に刺さりその刀身が歪んでしまっているので上手く抜く事ができない。
「ギィィ!! チッ! キィィィィ!! あ、あやめぇぇぇ! よりによって、こんなにも深く斬突してっ! 馬鹿、馬鹿!! 馬鹿妹がぁ、畜生がァ! くっベヘァ!」
殺死丸の腹から出血する。
「ひぃ」
詠子と父親は、その有様に口を覆う。
「ん? あら、丁度よろしき事! 其処な貴方これ、抜いて下さります?」
「え!? わ、私がですか?」
詠子の父親がギョッとし、詠子と二人は顔を見合わせる。
「さぁさ……早うなさりあそばせ!」
詠子の父親は、恐る恐る殺死丸に突き刺さる太刀の柄へと手を伸ばす。
殺死丸は、血みどろの口元に微笑を湛える。
- Re: キチレツ大百科 ( No.72 )
- 日時: 2016/02/24 18:07
- 名前: 藤尾F藤子 (ID: LgNHLtHH)
「ン……もう、少し……ゆっくり、駄目! ま、待たれい。そんなに焦るな。まだ、んんっ!」
殺死丸は(あやしまる)下唇を噛みながら時折強く目を瞑る。額には汗が玉を作り、藍色の長い髪が頬に張り付いている。殺目(あやめ)との交戦中に、緩く後ろで髪を纏めていたリボンが解けかけている。
「んん、ちょっ、またれ! しばし……んっ! くぅぅ……きぃぃ、ならん! それはならぬ! しばし、待ってっ! んっ、んん!」
「ひ、ひぃぃ〜、ど、どど、この後、どど、どうすれば!?」
「んんっ! そんな事を、聞く奴がっ! じ、自分で……んんっっ!! ダメ! 其処、しばし、優しくっっ!」
「す、すいません! ひぃ……」
殺死丸は、その切れ長の薄目の目尻に涙を浮かべている。
戦闘時には、其の眼は獣性を帯び見開かれる。しかし、普段は開いているのか、閉じているのか解らない様な飄々とした不気味な表情をしているのだが、今は眉を顰め涙目になっている。先程の殺目との交戦時の貌からは想像もできない表情だ。
「馬鹿、腰抜け……い、潔く、一息で……頼む、あ! ちょっと、待て……馬鹿!余計な処に触れるでない! ひ、一息だぞ? い、痛いのは、嫌いだ、一気に……な?」
殺死丸が涙声で呟く。
「じ、じゃあ、一気に引き抜きます……ひぃぃ、くそ! なんでこんな事に……」
詠子の父親の額にも汗が滲む。
「んん……んっ! きぃぃぃ!! あっあぁ!! 駄目駄目、またれっ!? 駄目、下に当てるな、バッ、いや、あっ、ぎぃぃぃやぁぁぁぁ!!」
「す、すいません!」
「このうつけがぁぁ! 貴様ァ太刀の物打ち所が下にいったぞ!? がぁぁぁあ! 抜けとは言ったが引き切れとは申していないゾォォ!! あががが……ゲヘェ……ベェっ!」
「ひ、ひィィ! すいません!」
思わず詠子の父親が太刀の柄から手を離す。
刀身が歪んだまま、殺死丸の身体を貫き自販機へ貫通しているので抜くのがままならない。おまけに、慣れない刀剣に手元が震え傷口が広がってしまった……
刀の物打ち所の反りが強い為に、真っ直ぐ引いてしまいえば身体の中を引き切ってしまうのだ。
「この下手糞! 呆気者っ、よもやここ迄魯鈍とはっ! さすらば、殺目などらに誅殺の口実にされたる事も然もありなん! 馬鹿馬鹿っこの愚図!」
詠子の父親は、手元を震わせ尻餅をつく。
「すいません、何分慣れていないもので……」
「チィッ! 斯様な情けなき姿、ご当主様にお見せできぬわ! 親父っ、お前はこの階のテナントに憶えは!?」
詠子の父親が辺りを見回す……
「ここの階はTOEICのオフィスが借り切っているはずだと思いますが……」
「ならばっ! 梱包用のガムテープか、ビニルテープが有る筈! 行って取ってこい、後薬箱の如きの物があらば全部持ってこい! 行け」
「はは、はい!」
詠子の父はテナントのオフィスに駆け足で消えていく。恐らく今までこういった緊急を要する事態に遭った事はないのであろう。だが、此の様な異常異形の危機的状況など、一般社会を生きる者には経験がなくて当然だ。
詠子の父などは、若い時でさえ血を見る様な経験は無かったのであろう。
「ふん! お前の親父は、温室か何かで育てられたのか? 男の癖に、まるで処女の様な慌てふためき様で……ん? んんっなんぞ?」
詠子は、殺死丸の血反吐と返り血で塗れた顔を、持っていたハンカチで拭いている。
「貴女も、あやめちゃんと一緒なの……?」
詠子は、殺目に被せられたキャスケットをまだ被っている。
殺死丸は、まるで猫の様に目を瞑って詠子に顔を拭かれている。
「んん、お前には理解できまいとは、思われますが……ん、我らは殺女衆(さつめしゅう)と言われし、んんっ、殺し、戦争の飼われ者として造られました。人には暗殺人形と言わせしめた程のな。ホホホ、殺しの女だから『コロ・スケ』なんぞと陰では侮蔑されたる下賤の存在でございましたわ。んんっ! も、もう顔はよい……忝い(かたじけない)」
詠子のハンカチはみるみる血で赤く染まっていった。
「造られた……誰に?」
殺死丸は、首を傾げ不思議そうな顔をする。
「何故にその様な事が気になりますの? しかも、今の話を戯言と思わぬのかや?」
「貴女とあやめちゃんを見れば、普通の人間ではあり得ない事が沢山あるわ。だから、その話だって嘘だとは思わない……」
「ふん……お前も変わった娘だこと。ホホ、悍しくはないのか?」
「こ、怖いに決まってるじゃない! もうさっきから、何が何だか分からないわよ!」
詠子は、思わず叫喚する様に殺死丸に声をぶつけた。
「私にそんな事、申されましても困ります! 然れども……斯様な様では如何にもありなん……娘、お前がこの太刀めを抜きたもれ」
「え!? うん……どうすれば、いい?」
顔を拭われ化粧が落ちた殺死丸の顔は、狐の様な鋭利な顔立ちではあるが、不思議なあどけなさが香っている。
「よし、では私に足をかけ、そこを基軸とし両の掌で握りたる柄を一気に体毎後ろに抜くのです。太刀の反りに合わせるように、やや上に抜くのですよ!? ひ、一思いにやるのですよ? お前の親父のやうにビクビク震えながらでは困ります! 一気にで御座いまするぞ? いっ、一気にですわよ!?」
詠子は殺死丸の腰骨あたりに足をかけ、太刀を握る。
「これでいい? い、痛くない?」
「構わぬ! は、早うせい! あっ、い痛くするなよ? 嬲らずに直ぐ抜くのですよ!」
「貴女、さっきまであやめちゃんとこれで戦ってたのに今更痛いなんて言われたって困るわ! これを抜くんだからどうしたって痛いわよ!!」
「それとこれとは別の話! 戦の最中(さなか)とは違うのですわ! あっ! ちょっ、まだ駄目! 心積もりがまだできておらぬ故……」
「ダメ! 一気にっていったわ! このままだともっと酷くなっちゃう」
「あ、待って! 待たれよ娘! そうだ! お前の親父が、道具を持ってこらぬ時に抜からば、出血を止める事が叶わぬ! そのままっ、そのままその体勢にてしばし待たれよ」
「あ、そうか……ごめんなさい」
しばらくの沈黙が流れる……
詠子は殺死丸の顔を眺める形で、何時でも太刀を抜く体勢を取ったままだ。
「貴女はあやめちゃんとあまり似てないのね」
”貴女は?”
殺死丸はその言葉を心に留める。
「興味深きこと……さすらば、殺目が殺さぬと言う訳か」
「え?」
「何でもない、それよりあの親父は何をグズグズしているのだ! 間抜けめ、馬鹿馬鹿! 愚図親父!」
詠子がそれを聞くと、殺死丸に顔を近づける。
「お父さんをそんな風に言わないで! それ以上馬鹿にするなら、これ抜いてあげないわよ」
「くっ! 何だとぉお前、娘!! この私にその様な口振り、許しません事よ! グッ、べへっ」
「ほら! 大きな声出すから。顔、こっち向けて」
殺死丸の口を拭く詠子。鼻につまる血も丹念に拭き取る。
「はい……チンして!」
殺死丸の鼻にハンカチを当てがる詠子、ジロリと殺死丸の視線が詠子へと向く。
「娘、余り私を見くびり遊ばすな。ぶふっ! ぬぬ……」
「はやく!」
「……」
殺死丸は、鼻に当てられたハンカチに鼻血を出した。
鼻をかむ音が響く。
すると、詠子の父親が段ボールに何やら抱えて戻って来た。
「ガムテープに、給湯室から薬箱を持ってきました!」
詠子はそれを見ると、確認するかの様に殺死丸に視線を移す。
頷く殺死丸、額に汗が滲む。詠子は僅かばかりに震える手に力をこめる。
「で、では……良しなに、頼みますよ。娘?」
少々怯えた様子で殺死丸は呟いた……
「じ、じゃあ、いきます……」
詠子は覚悟を決めた様に呟いた。
「あ、あ、ちょ! ま、待たれよよ! しばし、しばぁし……!」
「もう! じゃあ、3、2、1で抜くわ? いい?」
「わわ、わかった。3、2、1だな!? 再度聞くぞ、321だな? そうだな!?」
殺死丸は今にも泣き出しそうな顔をする……詠子が再び視線を合わせ頷く。
「3!」
そのまま詠子は、渾身の力で太刀を抜き後ろに倒れこむ。
「ぎぃぁあぁぁ! おのれ、貴様謀ったなぁぁ!! ぃあぁぁぁああ!!」
崩れ落ちのたうつ殺死丸は、さも恨めしい顔付きで詠子を睨む。
「お父さん、包帯ある!? それと、あつち向いてて!」
「わ、わかった……」
詠子は、構わず薬箱を漁る。
殺死丸は何事か喚いているが、詠子は気にならなかった。何故か不思議と手が動いたのだ。この短い時間で、激烈な物事の移り変わりが詠子の中で心の何処かを麻痺させてしまったのだろうか。そんな自分に気付かずに、詠子は忙しなく手を動かした。
「そのシャツ脱いで!」
「いぃぃぃ! 嘘吐きぃぃ」
「もう! 動かないで。貴女暗殺人形のナントカなんでしょ!! 痛がってばかり!」
「先程も申した! 痛いものは痛い。うう……何故に、私が怒られるのだ馬鹿馬鹿! ぎぎぎ……」
- Re: キチレツ大百科 ( No.73 )
- 日時: 2016/02/29 20:10
- 名前: 藤尾F藤子 (ID: 1MUYAKfT)
溜池山王パークタワーの10階。
薄闇の中、光は専用型の非常灯が健気に灯っているのみだ。
殺目(あやめ)は、事前に渡されていたトバしの携帯電話のメールで暗号文を素早く打つと、直様携帯のバッテリーパックを外した。トバしの携帯とは、非合法な手段で他人や架空の名義で契約している携帯電話の事だ。教導団にて用意された端末は、既に名義人が死亡している物だ。之は作戦の終了を以って、焼却廃棄され隠滅される事となる手筈になっている。
しかし、一度電波に乗ってしまった情報は会話であろうが、メールであろうが、照会を掛ければキャリア(電気通信事業社、携帯電話会社)から復元されてしまう。
其の為、殺目は特殊な数字配列を、暗号文として現作戦で同じトバしの端末を持つ三条巳白(さんじょうみしろ)へと作戦の状況報告として送信したのだ。それが終わると、今度は非常階段付近へ向かう。
気配を消して闇へ溶ける様に歩む殺目。階段付近の誘導灯が見えると、其処で突然座り込んで壁に耳を当てだした。
息を止め、目を閉じて階段からの部隊進行を搜る。
約、二分間近くそのままの体勢で殺目は動かない、振動の微かな音も見逃さず聞く為だ。
この場合、もし扉の付近に部隊が潜んでいるのなら、片膝を引きずる様に地面に接地した体勢で這いずる様に近付いて扉を僅かに開け、発煙筒とともに特殊閃光弾を投げ入れ、目標を行動不能にしてから一斉突入をする戦術を企てるだろう。と、殺目は頭の中で予測シミュレートしていた。しかし、幸いにもまだ部隊の進行は此処まで迫っていないらしい。
扉のシリンダーを静かに少しづつ回す、限界点まで捻り速やかに停止する。ゆっくりと音もなく扉を引いて、状況を確認。最初の交戦時に突入部隊から奪った短機関銃の銃口で付近を睨め回す。
そして、素早く伏せると、次は床に直接耳を当てる殺目。
(振動は、ないか……まだ、相手の動きは見られ無い)
完全に付近の状況を確認し終えると、殺目はちょこんとその場に座る。
階段の防火扉の上に配置された、緑色の誘導灯。その光の人型のシルエットに、殺目は妙な可愛気の様なものを感じ見やっていた。
相手勢力は、最終的に後何分もしない内に非常階段からの突入を開始するだろう。そして、別働の部隊がビルの一般区画から上階へと上がり、このオフィステナント専用区域のエレベータから降下後、突入して挟撃という形での制圧作戦に乗り出す事が予測できる。
エレベータの電源システムは、ビルの照明電源と別に発電機がある筈だ。明かりを落としたとしても、ビルの管理センターで別箇に運用可能な筈である。恐らく、殺目の威圧戦術的に使用した手榴弾が、突入、進攻への遅延を効果的に発揮しているだろう事が伺える。
しかし殺目には、この嵐の前の静けさが妙に寂しく感じられた。
静寂に揺蕩う空虚、薄闇の向こうからは何も無い。
先程までは、殺目の左手には詠子(よみこ)と言う少女の手が握られていた。静けき時は冷たさのみで、温もりなどは微塵もない。当たり前だ……殺目は今、独りなのだから。
薄闇に独り、何も無い。
殺目は、自分でも己が如何に不可解な行動を取ったのか理解できないでいた。何故、見逃した? いや、何故あんな子供等にかかずらった? 殺死丸(あやしまる)を仕留める事等、またと無い機会を何故にみすみす見逃した? 殺しの少女人形、殺女(さつめ)の最もたる強者の一人、殺死丸。正しく、今を置いて他には無かった絶好の機会だった筈である。たかが小娘一人の為に、何故ああ迄してやったのか。
哀愍、惻隠の情? それとも、あの詠子自体が持つ憐情の様な風に当てられてしまったからなのだろうか。殺目は、禍する感情に嘖まれる自分が口惜しくて堪らない。
「此れは、己(おの)が弱さよ……」
思わず、その薄い唇から漏れる小さな言葉が空虚へ泳ぎ沈んでいった。
自らも、あの暗澹の闇に融けて消えてしまえたのならばどんなに楽だろうか……
その揺らいだ望みに、明瞭が存在しない事も殺目には分かっている。ただ、闇と融ければ其処に安寧な”何か”があると妄執的な夢想を持っているのだ。
人間ならば、其れは胎内回帰の願望に近いのであろうが、殺目には母たる存在がよく解らない。気付いた時には刀を握り、命ぜられた殺人を熟し、何時からか戦場を駆けていた。
母も、父も無い。順って殺目には幼少期に親を通して物事、世界を理解する事、他者との関係性を認識する機会が無かった。其れ故に殺目は、主観(subject)と客観(object)のバランスが常に不安定だ。
そして、支点になるものは朧げな観念(idea)
他を鑑みる事なく、自らも鑑み無い。他者を思いやる事なく、自らを省み無い。
しかし、其れ自体も実に曖昧で揺蕩いながら永い時を過ごしてきた。
人間の原始の本能、暴力や闘争だけに身を預け、戦闘行為のみを磨きながら……
薄闇の、さらに奥の闇へと手を伸ばし進んでも其処はまた薄闇で、その奥の本当の闇には届かない。遠くの闇に辿り着いてしまえども、其処からはまた別の闇が見えるだけ。
この空虚で不鮮明な回帰の切望だけが、何処に向かえどもそこはかとなく横たわっているのだ。
進んでも、進んでも……
其の時、殺目の中にある言葉が鮮烈に浮かぶ。
”機智烈斎”
其の言葉が、殺目の心を鷲掴みにするかの如く持っていった……
囚われた想いは、遥か彼方に棄てて来たはずなのに。
瞬間、殺目はかぶりを振るうと心を空(から)にするかの様に必死と努めた。しかし、灼き尽くす様に、其の言葉が心の中を埋め尽くしその虚を冒していく。
此の時代の機智烈斎は、一体如何なる人だろう。想いは心を焦がす様に殺目を縛っていった……遠くから、一瞬だけ自分を呼ぶ詠子の聲が聞こえた気がした。
ほんの一瞬だけ。しかし、その聲は殺目の朧を確かと吹抜けていった気がした。
ギリっと歯を噛むと、殺目は現(うつつ)を見出した。
そして、正氣(しょうき)と共に今置かれている状況の再認識への没頭に身を委ねる。
すると、忘れていた自らの状態が次に殺目に見えてきた。
殺死丸の槍の柄で、刺突された脇腹の粉砕、亀裂骨折。それが熱を持ってきた。これでは、いずれ呼吸をするたびに痛みが酷くなる。それは心肺機能に影響し、著しく戦闘、闘争行動に支障を来す。
殺目は、ヒップバッグからメタルケースを取り出すと、其処から鎮痛剤と解熱剤を取り出し噛み砕く。口腔内から直接摂取する事で、効果を速める為だ。
そしてケースの中からパケに入ったシリンジ(注射器)を出し封を切る。
「……」
殺目には余り気が進まない。此れはモルヒネと呼ばれる痛み止めだ。ケシを原料とするアヘンを精製して作られる強力な鎮痛、鎮静剤である。このモルヒネのアルカロイド(植物塩基)に無水酢酸を加え煮佛したものが半合成麻薬のヘロインだ。
ヘロイン、モルヒネは軍事用途の戦闘薬として戦場ではメディック(衛生兵)だけが持つ事を許されている。しかし、実際には前線に於いてコマンド(この場合は意はDOD-1に基づいた指揮者に相当する者)用に配られ、一般兵にも投与される。
しかし、殺目にはその中身云々ではなく注射そのものが怖いのだ。
だが、今更注射が怖くて作戦行動に不備を来す訳にはいかない。モヘアのニットの袖を捲り、腕の血管を探す。捲った袖口を脇で絞る様にして締め血流を止める、すると血管が浮き出てくる。殺目の白い肌に青白い管が浮き上がる……
薬品の量が多い場合は、静脈に直接打ち込む事で、血行に沿って速やかに体内に行き渡る。ニードルを刺してブランジャを押すと、予めシリンジ内に入っている液体状のモルヒネが体内へと流入する。
「……!」
暫しの痛みに耐える殺目。
(ガキじゃあるまいに……)
心の中で強がりを呟くが、殺目は口を結んで涙目になっている。
しかし、その効果は10分を待たずして殺目へと訪れた。
鎮痛が……殺死丸との戦いの疵(きず)を忘れ、
鎮静が……詠子の顔と声を忘れ、
次の闘諍の渇望と逃避が、機智烈斎への思慕を忘却の彼方へと撃ち攘っていった。
其れは、闇よりも優しく、霽月を引き攣れた様に響く錯覚か。
- Re: キチレツ大百科 ( No.74 )
- 日時: 2016/03/07 20:38
- 名前: 藤尾F藤子 (ID: W16flDsP)
ズバン! と破裂音が鳴り響き、之がファースト・ストライク(出会い頭での第一撃)としての始りを告げる鐘となった。
非常階段を進攻する、前衛の第六機動隊で編成された突入隊の頭上で炸裂する殺目(あやめ)の手榴弾……
ほんの僅かな閃光が闇に咲き、破裂音と共に千から成る鉄片が前衛の上に飛散した。
悲鳴と怒声がうねりを揚る。そして、それはやがて銃声へと姿を変えた。
殺目は、予め闇に慣らした眼を頼りに、非常階段の手摺を蹴り上げて飛び上がる。そして、崩れた前衛を超えて中衛の隊員達に降り立つ。
前衛の分隊(8〜12人迄)は、既に交戦できる状態の者は少ない。前列の隊員が持っていた、ジュラルミン製のライオットシールド(防弾盾)が転がり階段を滑り落ちる。
手榴弾というのは、相手に直接投げるよりも、相手勢力の中央上で炸裂させるさせる方が破裂の運動エネルギーを効果的に与える。そのほうが、より広範囲へと殺傷効果を期待できるのだ。
硝煙と鉄の匂いの中、突然の爆発物の頭上からの強襲。混乱と怒号と叫び、その中をふわりと降り立つ人影。
長い栗色の髪が遅れて、紗と舞った。
白い肌の虚ろの少女……
その、非現実的な様が中衛の隊員に一瞬状況を遊離させた。
構え、標準、引き金に指、この間一秒半。
hand-to-hand combat__又は、ハンド・トゥ・ハンド・ファイティング、近接白兵戦術はコンマの判断能力が勝負を決める。
殺目は、降り立った場所の一番近くの隊員に素早く身体を密着させる。
右手にナイフ、左手は空手(くうしゅ)の平手。
左手で相手の顎を上に持っていく様に掴み上げると、隊員のケブラーメットの首と顎部の隙間から頚動脈に向けナイフを突き立てる。
「ぇぇぐ!!」
メットのバイザーが吐血で赤くなる。
そして、左手で相手をコントロールするかの如く回して後方へ投げる様に押し出す。その際に刃先を外側に引っ掛ける様に勢いよく抜く。そうすることで、より出血が激しいものになる。相手は弧を描く様に回転して血の棒を吹き上げながら階段滑り落ちる。
「撃て! 撃て!」
怒声、その中へ、サーっと音を立て血しぶきが舞い散った。
「じぇぇやぁあ」
甲声と共に、銃声に一歩も怯まず急襲を掛ける殺目。
超ショートレンジでの近接戦では、銃火器よりも刃物の方が有利になる。
そして、屋内の射撃はというものは精密性がより求められる。映画などで警察の特殊部隊がバンバン連射で銃を撃つシーンがあるが、実際は跳弾の危険性があるのでフルオート(全自動射撃機能)は使わない。なにより警察特殊部隊の装備の短機関銃はセミオート(半自動)である。そして、目標である殺目の後方には前衛の隊員達がいる。多くは倒れたまま動かないが、中には生存している者がいる恐れがある。
薄闇の空間で、紺色の隊服の壁が僅かに割れる。その隙間に向かい飛び込む様に突撃する殺目。
これは、中央突破である。優先する項目は、突破、つまりこの状況からの離脱だ。
其処にいる全員を完殺する必要はないのだ。
近代白兵戦術の大前提は、一人の殺人につき30秒以内が常識だ。しかし殺目は一人につき10秒以内で収めている。
殺目は、密集する場所では近接のknife fighting術を巧みに使い、強行突破を仕掛ける。そして、それを抜け間を取ると階上に向け手持ちのMP-5を使い掃射するとまた下階へ滑り落ちる様に駆けていく……
非常階段に漂う、硝煙と血煙。倒れる隊員からの呻き声が僅かと響く。
ビルの中央管理センターから、山王パークタワーの一階に早足で向かう数人。
その中で、一際目立つ黒尽くめの男は苛立ちを隠せないまま、その怜悧な顔を一層に強張らせている。
「なぜ、また突入を掛けたんだ! 警備部は!?」
随行する様に歩く公安の職員に憤りながら、機智烈斎は歩みを緩める事なく進む。
「捜査権は警備部です。いくら公安といえども捜査権を取り上げる事はできませんし、そんな事を言えば、タダでさえ良好と言えない関係に余計に軋轢が生まれますよ……」
細いフレームの眼鏡から、やや隈の掛かった機智烈斎の眼光が鈍く揺らいだ。
「所詮は警察組織だ。当てにしてはいないさ? ただ、殺女(さつめ)を侮った責任は重い。キミ達は、無駄に若い機動隊員を死なせた! 上層部の人間はそれ相応の責任を取らざる得ないだろうさ」
若造が知った口を叩いて……公安職員は表情一つ変えずに、その言葉を飲み込み閉口している。
「しかし……殺死丸のやらかした失策は、私の監督不行き届けだね? 私にも十分責がある」
内閣情報調査室の職員が機智烈斎に尋ねる。
「殺死丸が戦線から退いたこの状況で、どうすればいい? 機智所長、貴方はあの暗殺少女の殺女を実際問題、幾つ保有しているんだ?」
「……通常稼働は殺死丸だけだ」
「では、もうこれ以上の手は施しようがないと?」
機智烈斎は、早足で歩きながらも何か思う様に視線は厳しく前方を睨んでいる。
「今は……だ」
「いまは? 事が事だけに明確に仰って頂きたい。これは国家の行く末を左右する事ですよ?」
「だからこそ、へんな期待を政府に持たせたくない! しかも私の手の内はある意味で国家の防衛に関わる重要な機密である! 今の段階で希望的観測を言ってどうなるものでもあるまいよ」
「しかし、希望的なものの準備はあるととれるが、いかがですか?」
機智烈斎は、ポーラーハットのつばに指をを掛け職員を見やる。
「しかし、残念ながら今はこの状況下を少ない手持ちでどう乗り切るかを思案するのが精一杯だ。すまない……」
「いえ……それだけで十分でしょう? 目標には速やかに撤退して貰うのがやはり得策です」
内調の職員は、どこか冷酷な声で言った。
「しかし、警察の面子がそうはさせないだろう。警備部が今のままで部隊を退く事は難しい」
公安職員が言った。
「幸いな事に、殺死丸はまだ首が繋がっている。まだ、戦線から完全に退いた訳では無い。しかも重要参考人は確保している、其れ等を保護次第もう一度殺目にぶつける」
「むりでしょう! とても戦える様な状況には見えなかった、視認し難いビデオでそうなんだ不可能ですよ」
「連中は普通の人間じゃないさ……殺死丸にはもう少し踏ん張ってもらおう。アレはね? 戊辰戦争の鳥羽伏見の戦いでは、官軍側の長州諸隊で先陣を駆けた殺女だよ。それ以降は、士官で殺女の集団戦を指揮した程さ。アイツの力は、こんなものじゃあない筈だ。しかし、どうもムラっ気が強くて叶わんな」
「そんな事が……いや、そうだな。奴らは普通じゃない、あれで生きている事自体がありえ無いんだ。あの連中は、どうもその実力の得体が知れない。もしかしたら……」
「だが、そうは上手くいかないのが戦争だよ?」
「戦争……止めて下さいよ、そんな事ができる国ではないのです。此の国は」
機智烈斎は自嘲的に笑う。
「だから、できる国にしたいんだろう? 教導団は」
スーツ姿の一団は足音を大きく響かせながら廊下を抜けた。
- Re: キチレツ大百科 ( No.75 )
- 日時: 2016/03/08 20:47
- 名前: 藤尾F藤子 (ID: Ba9T.ag9)
赤坂方面から来たタクシーが、外堀通りで警察の規制線で止められている。
運転手は、辟易しながら後ろのアブナすぎるヴィジュアルの乗客を見やった。何時もなら、一発でこんなヤバい出で立ちの客は乗車拒否だが、しかし事もあろうにこの客はスピードを上げたタクシーを見ると付近に留めてあった自転車を道路に投げ入れてタクシーを強制停止させたのだ。
視点の合わ無い斜視の瞳。黒い口紅、どデカイ黒のアイラインのゴスメイク。髪の毛は、頭頂部を残し剃り上げられ辮髪のように上で束ねれれ長く背中まで伸ばされている。しかも剃り上げられた箇所には、後頭部から側頭部迄トライバル(黒い荊や蔦の紋様、元々は部族間の繋がりを意味する彫り物)の刺青でビッシリ埋め尽くされている。
真っ黒いケープマントを思わせるコートを軽く羽織っているが、露出度の高いホットパンツに生足でDr.マーティンのスチートゥの編み上げブーツを履いている。
ドイツあたりの白人至上主義(Neo-Nazi)とチンピラ(punk’s)とGothicを合わせた様な過激な格好だ。とてもじゃないがマトモな女には見え無い。
そして、この女はコートの下に何やら70cm超の棒状の物を攣っている。
(日本刀じゃないのか……)
運転手は、これ以上の関わりを持ちたくないが為それ以上は口を出さ無いと決めた。
この後ろに座った女は、終始訳のわから無い事をわめき散らしながら、あっちでも無い、コッチでも無いと言いながらシートを蹴り上げるのだ。溜まったものでは無い。
(とっとと金払って降りてくれよ……このイカレ女)
祈るような思いで、運転手はハンドルを握り言いつけられた溜池山王パークタワー付近まで車を廻してきたのだ。
「お、お客さん! 何だか警察が規制線張ってるみたいですね! うわっすごい数、火事かなんかですかね。へへ、その、これ以上行けないみたいなので、ここまでっていう事でお支払い良いですか?」
「I don’t give a fuck!. イイカラ、テメェ、トットトgo ahead! Do you not understand it? bastard!」
「そんな無理言わ無いでくださいよ! 大体ね……」
「yoyoyoyo! Hey Donkey! don'tファカランン!(fuck around!)オマエdo not mind! イイカラride up! at fuck'n park tower!」
「無理ですよ! この辺り周辺、警察で溢れかえってますよ。もう降りてくださいよ〜」
「チッ! You fucking useless. Oh it is good.Yeah OK! オールゥライッ! very well…… How much is it?」
メーターを見る運転手。
「え〜と、24480円ですね」
「Hey don't chert タケ〜ヨ! what's the big idea? ボッタクりヤガッタな!」
「そんなわけ無いでしょ! こっちはメーターで測ってんだよ、だからこんな客乗せたくなかったんだ! もう限界だ、警察呼ぶぞ!」
「HAHA! oioi? コノ国ノ最初のオマワリサン、私ネ? ドウダ? Were you surprised man? HAHA!」
「お客さんが警察官? またまた、冗談はよして下さいよ? 貴女みたいな格好のおじょうさんが警察に居る訳無いでしょうに?」
「Aーha? 冗談はヨシコサン!? シャタッファカッメ〜ン!(shut up fuck up man)
冗談モ休み休みダロ? very funnyダHAHAn but! 私のお小遣いemptyスルso bad mother fucker! マケロヨ、オッさん!? fuck the meterを巻き戻セ! hurry up man!」
「無茶言わないでくださいよ! こっちゃメーターで商売してんだよ、警察官ならキッチリ支払いくらいするでしょ! タダでさえ、最近タクシー増えちゃってコッチは商売揚がったりなんだから!」
「Oh Man! This is a rough world we are living in 何処も世知辛イ、私のdough(所持金)も」
女は、財布からしぶしぶ三万円出すとそれを運転手へと投げる。
「あの、お客さん……言っちゃなんだけど、今その格好で外に出ると警察官に速攻で職質だよ……幾らがお嬢さんが自分で警察官だって言い張っても、ねぇ? やっぱり違う所で降ろそうか?」
女はそれを聞くと、視点の合わない斜視のままニタリと笑う。
「non.non! 私ノ頃ハ警察官違うyo……said”警視隊”This should be called……云うナレバ、此の国の安寧の守護者。soアナタニdank(ダンケ)! 持ッテケ泥棒、グゥラツィィアッ、chao!」
「え!? ちょっと、お客さん! お釣りお釣り! あっちょ!」
困惑する運転手を他所に、女は外堀通りを溜池方面へと向かい歩いて行った。靡くケープマントから護拳の付いたサーベル拵えの軍刀が覗く。
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