複雑・ファジー小説
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- キチレツ大百科
- 日時： 2016/01/06 12:05
- 名前： 藤尾F藤子 （ID: .5n9hJ8s）
「起キル……」
「起キル……」
あぁ、うるせーな。俺は昨夜も”発明品”の開発でいそがしかったんだよ……眠らせてくれよ。
「起キル……」
「起キル……」
微睡みの海の底、聞こえる女の子の聲。少し擽ったい感覚が夢を揺さぶる波のよう。
ふと思うんだ、これがクラスメートで皆のアイドル、読田詠子、通称”よみちゃん”だったらいいな……て。いいさ、わかってる。どうせ夢だろ？
夢の狭間で間の抜けた自問自答。
そいつが、嘲るみたいに眠りの終わりを通告している。
「キチレツ、起キル”ナニ”！！！！」
Goddamit!
そう、いつもそうなんだ。俺の眠りが最高潮に気持の良い時に、決まってコイツが割り込んでくる。俺がご所望なのはテメーじゃねんだよ？
「くっ！？ 頭に響く、うるせーぞ、ポンコツ！ テメー解体して無に帰すぞガラクタがぁ！！」
「なんだと〜、やるかぁ！」
部屋の中には、日差しが差し込み、ご丁寧にスズメの鳴き声が張り付いてやがる。うっとおしい事この上ない程真っ当な朝だ。
「最悪だぜ……」
目の前の”ソレ”を突き飛ばし、机の上のタバコを探す。
「あん？ モクが無ぇぞ、昨日はまだ残ってたんだけどな……」
「中学生デ、煙草ハ駄目ナニィ！ 我輩、捨テテオイタ、ナニ！」
俺は目の前の”ソレ”の髪を掴んで手元に引き寄せる。
「テメー良い加減にし無ぇと、マジでバラすぞ。人形！」
「ちょっ、痛い痛い痛い！ やめてよ、キチの馬鹿！ 中学生で煙草吸うキチの方が悪いんじゃ無い！ い、いたぁあい、我輩のポニテから手を離すナニィ！！」
「キャラが崩れてんだよ、人形！！」
「に、人形じゃないナニ……殺蔵（コロスゾ）ナニ……」
くっ……頭が痛ぇ。
俺の名前は機智英二（きちえいじ）皆からはキチレツなんて呼ばれてる。
俺は江戸時代の大発明家、キチレツ斎の祖先だ。キチレツ斎は結構名の知れた人で、当時の幕府御用達の発明家て奴だったらしい。初代キチレツ斎は太田道灌の元で江戸城の築城に協力して以来、機智家は徳川家から引き立てられたという経緯と親父が言っていた。
そんな家だったら、何か凄い物があるだろうと物置を調べていた時に見つけちまった。
この少女の形をした”発明品”殺蔵を。しかも運悪くうっかり起動しちまいやがった。
わかるか？ 自分の先祖がこんな、少女人形を作成してた真性のド変態だと分かった時の気持ち……夜な夜なこんな人形使って遊んでたと思うと反吐がでるぜ！ その俺の気持ちを察したのか、俯いたまま殺蔵がぼそりと呟いた……
「我輩は、武士ナリよ……」
俺はイラつく。
「テメーのその見た目でどうして武士とか言えるんだよ？ どうみたって弱そうだし、大体女の武士とかいねーだろ？ じゃあ、なんでその見た目よ？ どう考えても、いかがわしいんだよ！ お前はそういう目的の為の人形だろう！？」
「違うナニィ！！ わ……我輩は、武士ナニィ！ 武士……ナニよ」
「チィ！ うぜぇ……」
曲がりなりにも尊敬していた先祖の正体が倒錯的な変態である……
そいつは憧れてた役者やアイドルがシャブ（覚せい剤）や痴漢で捕まった時位ショックなもんだ。
涙目で抗議する少女のカラクリは、俺らの年齢と大差ない姿形だ。
キチレツ斎さんよぉ、それぁ無ェぜ……
「英二〜、ごはんよぉ。殺ちゃんも早く降りてきなさ〜い」
この部屋の重たい空気も知らずに、圧倒的に間の抜けた声でお袋の声が聞こえてきた。
だが、そいつは俺にとっては好都合の助け舟だ。最早、徹也明けの眠気などどうでもよかった。殺蔵が急いでティッシュで涙を拭っている、その横を俺は知らんぷりで通り抜けた。
- Re: キチレツ大百科 ( No.6 )
- 日時： 2015/10/24 20:04
- 名前： 藤尾F藤子 （ID: KkQpSREq）
大砲の音が轟き、着弾と共に火炎が昇り爆煙が視界を塞ぐ。
「戊辰の仇ーっ！ 薩賊を討てぇ！！」
「きぃぁぁぁぁぁぁ！！」
「けぇぇぇぇぇぇい！」
気違いみたいな叫び声とともに、鈍い音とと悲鳴が聞こえる。
殺蔵と同じ顔の少女の小隊は、既に戦場の真っ只中に消えてゆきその姿は確認できない。
後に続いていた、フランス式の軍服の集団は荷車に乗せた大砲を準備している。
その砲台の中には、ガトリングガンを乗せた物も見受けられる。その後続からは、次々と歩兵と思しき一団が到着し、古臭いライフル銃を撃つ隊や白兵戦に臨む隊などが準備に入り乱れている。
「只今、先行行軍の少女巡査隊が一斉突撃を仕掛けております！」
「よぉし！ 連中があらかた仕事を終えるまでは各自隊列を維持し待機！！」
若い隊員が要領を得ない顔をして小隊長へ問う。
「は？ 一番隊は切り込まないのでありますか？」
小隊長が煙だらけの山中、見にくい前線を眺め言った。
「馬鹿モン、最初に先行進軍させた小隊は、幕府払い下げで鎮台に配属された化け物どもじゃ。今回の乱で警視庁に抜刀隊として転属された連中じゃ。女童みたいな見た目しとるがそう簡単には死なんらしい。連中を先に賊に当てさせて、ぎりぎりまで戦力を温存せいというのが川路大視警からのお達しじゃあ」
「大視警からですか！？」
「つべこべ言わんと、砲を配置に付け待機しとれ！ 突撃の準備はこちらで決める！」
そうか……あの子たちは、だから先頭を歩かされて居たんだ。
これじゃ、まるで盾みたいじゃないか。使い捨てにされてるのか？
一体これは、何の為の闘争なんだよ……
俺はふと思った。あの中に殺蔵は居たのか！？ みんな同じ顔だったから分からない、それに、そもそもおれには確認することなど出来やしないじゃないか！
いや、何をムキになってるんだ！ これは夢だろ？ 馬鹿馬鹿しい……早く、醒めてくれよ。
その瞬間、大砲のひゅゅんという音が聞こえる……
またあの音、もう勘弁してくれよ。
爆風とともに、一団の後方から悲鳴と爆煙が上がる。
ばっしゃぁという音と共に、血肉と土砂が一団へと降り注ぐ。一瞬で周囲に死体の山が築き上がる。
少しづつ土煙が晴れる、気づかない内に辺りはすっかり暗くなり始めている。
俺は空を見た……紫色の天井の深淵で、血みたいに真っ赤な紅月が嗤っていた。
- Re: キチレツ大百科 ( No.7 )
- 日時： 2015/10/29 04:58
- 名前： 風死 ◆Z1iQc90X/A （ID: 3rsK9oI3）
藤尾F藤子様始めまして、風死と申します。
題名を見て早とちりでキテレツ大百科と勘違い、二次でやれとか思った次第。申し訳ないです。
藤子F藤尾先生とは全く違う、スプラッタで荒々しい雰囲気が素敵です。
キチガイ染みた雰囲気が、私ではどうしても出せないだろう雰囲気で。
文章力自体も高いですし、注目の作品です。
更新頑張ってください。
- Re: キチレツ大百科 ( No.8 )
- 日時： 2015/11/03 03:48
- 名前： 藤尾F藤子 （ID: 6nOSsJSp）
御感想有難うございます。
初めまして、藤尾F藤子です。
風死様に御感想いただけるとは恐悦至極です。
拙作は、初めて一人称視点の作品を作る為に考えついた物です。
しかし、どうせ書くなら実験的な物がいいかなと思っていたのですが……
この様に見事な悪ふざけになった次第ですw
確か、キテレツ大百科の再放送のCMを見たのが切っ掛けです。
何を思ったか、元々投稿しようと思った自分の作品が藤子漫画の世界で展開したら
キテレツならぬキチガイ大百科だな。とふと思い、適当に書き始めました。
本作品は、キャラクターモチーフは基本をベースにオリジナルの人格設定をしています。敢えて、原案に対して一切リスペクトを取っておりません。
悪ノリから書き始めておりますが、話の骨子等はある程度決まっておりますw
悪ふざけから始まっております今作品ですが、応援して頂ける方や、読んで頂ける方がいらっしゃる以上は、皆様のご期待に応える悪ふざけで書かせて頂く所存です。
御感想有難うございました。
- Re: キチレツ大百科 ( No.9 )
- 日時： 2016/01/06 12:33
- 名前： 藤尾F藤子 （ID: .5n9hJ8s）
紅月が揺れる……
紅月が揺れる……
黒い宇宙（そら）の揺り籠が紅月を乗せて。
夢は、途切れ途切れに場面を映して消えていく。
もうそろそろいいだろう？
嫌な夢だぜ。だけど、この不思議な夢幻は確かな感触と輪郭を俺に告げる。
黒い宇宙が、滲んでいく。その朧の中に赤い建物が浮かぶ。
日本家屋ではあるが、何処となく異国の風が臭う。赤い柱、ステンドグラス。
何故か入り口には籠が吊るしてある。至る所に配置された盛り塩、不自然な榊と神棚。
黄金作りの仏像、とこどころに六防星の小さな紋が施されている。
其処は異国情緒溢れる歓楽街の一角らしい……
行き交う人、雑多な熱。其処から聞こえてくる声は、日本語でも英語でもない。
外国人だろうが、国籍は解らない。ただ、映画やテレビで俺達が外人と呼ぶ”白人”アングロサクソン・ゲルマン系ではない。まぁ、俺達の普段見慣れた外人は、テレビと映画の中が基本にあって、次に観光客だ。それでも此処の奴らは其れ等に該当しない。
良い身なりをしている。つばの大きめのハットをかぶり、ビロードのマントを肩にかけている。だが、その連中には凡そ気品というものが感じられない。例えるならば海賊だ。
白い肌に鷲鼻、赤茶の髪。粗野な冒険心で、炯炯と光る目をギラつかせる男達。
それを案内している風の黄色い肌の小男は、まるでコメツキバッタの様に謙っている。
気付いたことがある……この場にいる、日本人と思しき人間の事だ。
妙な共通点がある。それは”異形”だという事。
極端な体付き、歩行に困難をきたす者。手足の大きさの異なる者。めしいてる者、顔の曲がった者……俺の今までの少ない人生で、見た事もないタイプの人間達。
知性や教養など、欠片もなく醜悪極まりない。この言い方は酷な様だが、これしか言いようがない。多分、大体の人間がそう思い、決して口には出さずに目を背けるだろう。
よく電車や公共の場で、似たような経験が一度くらいはあるはずだ。母親が小さな声で
「見ちゃいけない」と……それよりも、酷くグロテスクに感じるのは、此れらの人達が、この街を構成する要素としてある種、生き生きと自然な様子だからだ。
粗野で乱暴な外人、異形の人々。しかし、この街は其れ等の人間の達の”熱”で構成されている。むせかえるよ様な”熱”だ。
この、どうしようもなく生々しい奇怪で煌びやかな世界には何処か人を魅了する引力がある。気色の悪い人間達が行き交い蠢き、趣味の悪い建物が威勢を放つ……
その熱と喧騒を縫う様にして、俺の耳に届く何かの音。
リン、リンと哭くその音はこの場と相反する様な可憐な音だ。
目の前の建物の中から届くその音に、吸い寄せられる様に誘われる俺の足。
古臭い屋内の階段がギイギイと音を立てる。赤い壁、洋風のランプ。
色の褪せた金屏風の中から、それは届く。
りん、りんと。ただ、りんりんと。
彩り鮮やかな、その部屋。格子窓が開いて、外からは街の熱が僅かに風に乗ってくる。
虫籠の中の小さな鈴虫が啼いている。
艶めく長い髪。それは、俺が見た今迄のこの夢の中で最も美しい光景だ。
惜しむらくは、その髪の持ち主は格子窓から外を眺めているので顔が見えない事だ。
顔は確認できないが、その人は泣いていた……外の”熱”を身に浴びて此の赤い部屋の中。俺の無力の声など、とどこう筈が無いのはわかってる。
無力、非力、薄弱と稚拙が俺の声に纏わり付いて離れない……
震える肩を慰める様に、虫籠の中の虫螻達がりんりんと奏でている啼き声。
りんりん……りんりん。
俺は現実と夢の胎の中、何にも成れ無い自分を知った。
空転する俺の声は、この世界の誰にも届かない。目を醒しても、それは変わらないのだろう。空辣に締め付けられる胸。
赤い部屋。
りんりんと、りんりんと……
その人の涙が落つる音が聞こえる。
だんだんと、意識が微睡みの海の底から浮かぶ感覚。唐突に俺を連れ回した夢が、ようやく俺を離してくれる気になったのだろうか？
赤い部屋、震える肩に長い黒髪。
りんりんと哭き声と泣き声が、俺をこの夢幻の世界から見送った。
「英二〜、ごはんよぉ。はやくおきなさ〜い」
目醒めを告げる、母の声。俺はそいつが初めて掛け替えのない事なのだという事に気付いたんだ。
瞼に焼き付いた、血と死を撒き散らす戦場。その真っ只中を駆け抜ける少女兵。
無力と薄弱の自分。涙と啼き声……
其れでも、相も変わらずに忌々しいほど燦燦とする太陽が、とても残酷に見えた。
- Re: キチレツ大百科 ( No.10 )
- 日時： 2015/11/08 20:05
- 名前： 藤尾F藤子 （ID: G1Gu4SBX）
目が覚めて、天井の木目が見える。
いつもの俺の目醒めの風景だ、あの幻夢から漸くおれは解放されたのだ。
何だろう……ひどく凄惨で生々しく、でもどこか幻想的で現実離れした夢。
不思議な気分で布団から起きようとした矢先、俺は隣に違和感を感じる。
妙な温もり……
酷い夢から覚めた突如で、眠気目を擦る。
何故か俺の隣で、殺蔵（コロスゾ）が寝息を立てている。
霧の行軍、悲しみを纏う軍歌、日の丸と黄金（こがね）の家紋。
戦場を駆けるフランス式の軍服、軍帽姿の少女兵たち。
赤い部屋で泣く女（ひと）
隣で眠る、少女人形。先祖、機智家の残したカラクリ。
眠る殺蔵の顔を見つめる。静かな寝息、白い肌。
誰もこいつが人の造ったカラクリ等とは思わないだろう。
殺蔵の頬に触れる、僅かに睫毛が揺れる。
皮膚に伝わる確かな温もりと血流。脳裏を過る、夢の中左目を撃ち抜かれた同じ顔の少女……
殺蔵の顔には銃創も無く、左の眼球に損傷はない。
「ん……」
寝言か？ 呑気な奴だな。俺は馬鹿馬鹿しい夢に、惑わされている自分が滑稽になった。
さてと、殺蔵を布団から叩き出して朝飯を食いに行こう……
布団から起きようとすると、眠る殺蔵から、ふと寝言のようなものが聞こえる。
「き……ち、れつ、さ……い、さ、ま」
閉じた瞼から落ちる、一筋の涙。
仄かな桃色の唇から漏れる言の葉。
今思えば、其れは俺にとっては避けて通れない”呪い”だったのかもしない。
古からの其の呪いを、人によっては歴史と呼ぶ。
権謀と策略、武力と無力。一握りの智者が多くの愚者を統べる事実。
機智烈斎……
俺は間違いなく、その呪いを構成したであろう自分の家の生業について、向き合わねばならないのだろう。天下泰平をせしめ、約２６０年間武士、士族（氏族）の頂点。
葵の御紋、徳川家。
カラクリの夢には何が浮かんでいるのだろう。
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