複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

キチレツ大百科
日時: 2016/01/06 12:05
名前: 藤尾F藤子 (ID: .5n9hJ8s)

「起キル……」
「起キル……」

あぁ、うるせーな。俺は昨夜も”発明品”の開発でいそがしかったんだよ……眠らせてくれよ。

「起キル……」
「起キル……」
微睡みの海の底、聞こえる女の子の聲。少し擽ったい感覚が夢を揺さぶる波のよう。
ふと思うんだ、これがクラスメートで皆のアイドル、読田詠子、通称”よみちゃん”だったらいいな……て。いいさ、わかってる。どうせ夢だろ? 
夢の狭間で間の抜けた自問自答。
そいつが、嘲るみたいに眠りの終わりを通告している。

「キチレツ、起キル”ナニ”!!!!」

Goddamit!
そう、いつもそうなんだ。俺の眠りが最高潮に気持の良い時に、決まってコイツが割り込んでくる。俺がご所望なのはテメーじゃねんだよ?
「くっ!? 頭に響く、うるせーぞ、ポンコツ! テメー解体して無に帰すぞガラクタがぁ!!」
「なんだと〜、やるかぁ!」
部屋の中には、日差しが差し込み、ご丁寧にスズメの鳴き声が張り付いてやがる。うっとおしい事この上ない程真っ当な朝だ。
「最悪だぜ……」
目の前の”ソレ”を突き飛ばし、机の上のタバコを探す。
「あん? モクが無ぇぞ、昨日はまだ残ってたんだけどな……」
「中学生デ、煙草ハ駄目ナニィ! 我輩、捨テテオイタ、ナニ!」
俺は目の前の”ソレ”の髪を掴んで手元に引き寄せる。
「テメー良い加減にし無ぇと、マジでバラすぞ。人形!」
「ちょっ、痛い痛い痛い! やめてよ、キチの馬鹿! 中学生で煙草吸うキチの方が悪いんじゃ無い! い、いたぁあい、我輩のポニテから手を離すナニィ!!」
「キャラが崩れてんだよ、人形!!」
「に、人形じゃないナニ……殺蔵(コロスゾ)ナニ……」

くっ……頭が痛ぇ。
 
俺の名前は機智英二(きちえいじ)皆からはキチレツなんて呼ばれてる。
俺は江戸時代の大発明家、キチレツ斎の祖先だ。キチレツ斎は結構名の知れた人で、当時の幕府御用達の発明家て奴だったらしい。初代キチレツ斎は太田道灌の元で江戸城の築城に協力して以来、機智家は徳川家から引き立てられたという経緯と親父が言っていた。
そんな家だったら、何か凄い物があるだろうと物置を調べていた時に見つけちまった。
この少女の形をした”発明品”殺蔵を。しかも運悪くうっかり起動しちまいやがった。

わかるか? 自分の先祖がこんな、少女人形を作成してた真性のド変態だと分かった時の気持ち……夜な夜なこんな人形使って遊んでたと思うと反吐がでるぜ! その俺の気持ちを察したのか、俯いたまま殺蔵がぼそりと呟いた……
「我輩は、武士ナリよ……」
俺はイラつく。
「テメーのその見た目でどうして武士とか言えるんだよ? どうみたって弱そうだし、大体女の武士とかいねーだろ? じゃあ、なんでその見た目よ? どう考えても、いかがわしいんだよ! お前はそういう目的の為の人形だろう!?」
「違うナニィ!! わ……我輩は、武士ナニィ! 武士……ナニよ」
「チィ! うぜぇ……」
曲がりなりにも尊敬していた先祖の正体が倒錯的な変態である……
そいつは憧れてた役者やアイドルがシャブ(覚せい剤)や痴漢で捕まった時位ショックなもんだ。
涙目で抗議する少女のカラクリは、俺らの年齢と大差ない姿形だ。
キチレツ斎さんよぉ、それぁ無ェぜ……

「英二〜、ごはんよぉ。殺ちゃんも早く降りてきなさ〜い」
この部屋の重たい空気も知らずに、圧倒的に間の抜けた声でお袋の声が聞こえてきた。
だが、そいつは俺にとっては好都合の助け舟だ。最早、徹也明けの眠気などどうでもよかった。殺蔵が急いでティッシュで涙を拭っている、その横を俺は知らんぷりで通り抜けた。

Re: キチレツ大百科 ( No.46 )
日時: 2016/01/07 23:45
名前: 藤尾F藤子 (ID: 9kDns1lV)

「では、イィーススの話をしよう。まずイィーススは、少年の頃には水溜りで遊ぶのが好きだったそこいらにいる子供じゃったんじゃが、ある日、子供同士の喧嘩で人を殺しとる」

「え!?」

驚いたのは巳白である。後世にイエス・キリストと呼ばれ、多くの信仰を集めたイエスが人を殺す? 馬鹿な……
「しかも、二人殺している。これは神学※の研究でも議題の上がった話じゃ」

〔※神学とはキリストを信仰や宗教、その奇跡や秘術とは違う角度、現実的な論点で研究する学問。代表的な大学では同志社大学(プロテスタント、会衆派)上智大学(カトリック修道会イエズス会)関西学院大(プロテスタント日本基督教団)等〕 


「子供の内に喧嘩闘争で人を殺すとは、尚武の精神だよ! 中々骨のある奴だね」
殺華はうんうんと変な感心を見せている。
「まぁ、しかし、当然の事ながら村中から苦情が殺到する訳じゃ。そしてイィーススは養父の大工ヨーセフから折檻を受ける。しかし、このイィーススと言う少年は逆にこう言うのだ……”私は、貴方のこの行為が、心からのものでは無い事を知っている。だから、黙っている事にしましょう。しかし、彼ら(村人)は罰を蒙るでしょう”と」
「何と!! トンデモナイ奴だな! 殺ったのなら、殺ったと胸を張ればいいじゃあないかね! それをそんな訳のわからん言い回しで言い訳をして、煙に巻こうと言うのかねっ!? 潔さが足り無いよ! 非を感ずるのなら即、潔く死ぬべきだよ」
ブンブンと緩やかな曲線のツインテールが横に揺れる。
不意に頼母は巳白に向けて視線を流す。
「巳白? 俺いは、教導団では、これからは中東情勢の問題が必ず迫り上がってくう言うち、アブラハムの三宗派の基本的な教義(ドグマ)を勉強す様に言うたが……進んどるか?」
「あ……あはは。少しではありますが、着実に……」
「自信が無さそうじゃいな? ん? フフ」
「仁八、それは理解できるけど、教導団は研究者団体ではないでしょうに。若い隊員にそんなもん仕込むのは酷よ」
篁は煙管の紫煙を吐きながら言う。
「篁、何も俺い達は、暗殺だけの部隊では無いぞ。いざと言う時は、戦争の諜報挑発行為、それに於いての情報工作、威力活動……まぁ、それらも教導団のまた”一部”には過ぎんがな? ところで巳白? 旧約、新約の聖書、コーラン、タムルードに先程の記述に拠ったテキストを見るこつが出来うかどうかは分っかや?」
「それは、ありません。聞いた事もありませんでした」
「そう……今の話のテキストは聖書の何処を探してもないじゃろ」
「なんだ、意味がわからないよ! ボクは与太話を聞きたいんじゃないやい!」
「与太話! 殺華、お前は中々賢いぞ。今の話は、神学の研究会からは偽典として、定義されちうる話じゃ。経緯は別としても、そういう話が議題に挙がった事実はある。では、其れを踏まえた上でまた別の話をしよう」
「頼母く〜んキミもやっと僕の真価を見出したのだな!」
「次の話は新約聖書、ヨハネによる福音書2章13-22編に記述されるちうる話をしよう」
殺華はぶーたれる。
「もう、キリストのおっさんの話はいいよ、つまんない……大体、耶蘇教(キリスト教)なんか僕は敵と言う以外の感慨なんかないんだからサ」
「次の話は中々エキサイティングな記述に富む話ぞ? お前さぁの大好きな、篁国友の今の商売とも関係しとるんじゃいな」

「キリストのおっさんとヤクザがかい?」

「だからっお前そういう事を言うんじゃないよ!」
巳白は慌てる、何しろそのヤクザが今二人もこの部屋に居るのだから。
篁は、さも如何でもいいといった顔だ。しかし、煙管を咥えたまま時折殺華を見やる目は何処となく柔らかい。

「ある日、イィーススはユダヤの過越祭が近づいた為、エルサレムの神殿に行くのじゃ。
神殿には沢山の商人達や、両替商達が店を広げ好き勝手に商売をしている。恐らく神殿側にも何らかのショバ代(商売の上で土地の持ち主に払う金)が渡っているのは明らかじゃった……国友? これと似た様な風習が日本にもあっじゃろ?」
「一緒にすんな! そりゃ香具師だろうが! 連中はテキ屋っつってな? ヤクザで一括りにするには少々乱暴よ。あれは神農が由来の神事の祭事だから、地方自治体の所もあれば、地元商工会もあるわ。まぁ、神農とテキ屋系ヤクザは確かに切っても切れない関係ではあるけど。ただ、このご時世に地道に細かい商売してやっているトコには頭が下がるわね」
「篁君はお祭りでタコ焼き売ったりするの?」
殺華は篁に縋り付く様にして、膝の上に腰をかける。
「あぁ、重たいし、うざったい! 甘えるな」
「いいじゃないか? ねぇ、ねぇタコの入っていないタコ焼きを売るのかい?」
「バッカヤロウ、滅多な事言いなさいな。私の所は博徒系よ? まぁもう賭場なんざ開いちゃいないけどね? ただ、由来といえば博徒に入るわね」

「まぁ古来、宗教というものは、人々の信仰、心の拠り所であったし、今でも古代からの宗教には歴史という事に裏付けられた”文化”と言う概念が付加されるものじゃ。拠って其処には沢山の人々が集まるわけじゃな? そうすれば、それは商人にとっては格好の稼ぎ時である訳なのだな。だが、イィーススはこの時それを見てこう言った」

『このような物はここから運び出せ。わたしの父の家を商売の家としてはならない』

頼母はニヤリと笑う。
「そう言うち、其処にいる商人達を蹴散らし、店の台を叩き壊し、品物を神殿内から全て叩き出した。エル・グレコの残した絵画、『神殿の商人を追い出すイエス』を見ると、其処には売春斡旋の商人や女が書かれている。恐らく原始の世界のこつじゃ、そういったこつもあっでん、全然不思議ではなかろう……」

殺華は頬を少し紅く染めながら呟く。
「は……春を売るとは、けけ、怪しからんゾ……な? 篁君?」
殺華は、篁の膝の上からその顔を見上げる。
「ん? そりゃ人が集まりゃ、飲む(酒)打つ(薬)買う(女)は必須よね? なぁ、辻村」
「はい、兄貴」
「馬鹿野郎、辻村ぁ、姉貴と呼べっつってんだろぉーが! あぁ!?」
「な、何ていかがわしいんだ。篁君はワルだよ、不良だよ!」
いやいや、それの頂点なんだよっ、お前が今膝に乗っているお姉さん? お兄さん? はよ!? 其の言葉を決して口から出すまいと巳白は必死に耐える。
「しかし、中々おっさんはやるもんだな、気概のある行動という訳だ、何だかキリストのおっさんは興味深いよ! なぁ篁君」
「まぁ日本で言えば、テキ屋の庭荒らしよ。中々ヤクザな野郎だわ、下手すりゃでかい喧嘩よ? ウフフ」
(※テキ屋の縄張りは庭。博徒はショバ) 

「主よ、あなたのいますところ(神殿)はどれほど愛されていることでしょう。
主の庭(神殿)を慕って、わたしの魂は絶え入りそうです。命の神に向かって、私の身も心も叫びます。あなたの祭壇に、鳥は住みかを作りつばめは巣をかけて、雛を置いています。万軍の主、わたしの王、わたしの神よ。いかに幸いなことでしょうあなたの家に住むことができるならましてあなたを讃美することができるなら……」

頼母はそう言って嗤った。

Re: キチレツ大百科 ( No.47 )
日時: 2016/01/08 08:26
名前: 電撃ダスククスsp (ID: M1RDs2BR)

ルパン出てこね−じゃん

雑魚すぎだなww




ハエ−

Re: キチレツ大百科 ( No.48 )
日時: 2016/01/09 07:08
名前: 藤尾F藤子 (ID: 5YBzL49o)

「ねえ、頼母くん? キリストのおっさんは”神”と言う存在なのかい?」
「いいや、”人”じゃい。そして、キリストと言うのは『香油を注がれた者』の意で救い主を指す言葉。それはキリスト教の信者が呼ぶべき尊称じゃい。だから、俺いは古ラテン語のイィーススと呼称し、この話をしうるのが理解しやすいと思うちいるわけじゃいな」
殺華はどうも要領を得ない顔をしている。

「じゃあ……”神”は何処にいるの?」
頼母は目を細める。
「殺華? お前は俺いが居るといえば、納得し神の存在を信じるのか?」
「ううん……わかんないよ。でもさ、ボク達(殺女)にはそれが理解できないし、何故、人はあんなにも”神”に恋焦がれるのかもわからないんだ」
「フフ、分からなくていい。お前だけではない、人間もそうじゃ……”神”は完全に定義できない事で良いんじゃ。それをファンダメンタリズム(原理主義)で押し付ける事が、果たしてモーセやイィーススやムハンマドが望んだ事とは俺いは思えんのじゃいな?」

殺華が小さく呟いた……
「なら……僕達の敵を、教えてくれよ? 頼母くん」
「敵が、欲しいのか? 殺華よ……」
「それは、そうだよ。僕達はその為に居るのじゃないか? それに頼母クン、キミは僕達にソレを与えてくれる為に存在するのじゃないか? キミの先代の頼母くん、その先代の頼母くんも、その為に僕達を束ねてきたじゃないか」

頼母は目を瞑る……

「そろそろ、お前さぁらにも云うべき刻が来た頃じゃな? しかし、その為にはもう少し俺いの話を聞いて腸んセ?」
「むぅ……」
殺華は篁の胸を枕代わり寄っ掛かる。
「重いわね……どうせまた隠れてお菓子ばっか食べてるわね?」
「!? むぅ! な、何故!?」

「イィーススにも明確な敵がおったのじゃ、そしてその敵との戦いこそが、この賢人のもっとも注目しうるこつじゃいな」
殺華は頼母の眼にゆっくりと自らの視線を合わせる。

「戦い……か」

「そう……それは、”国家”と”貨幣”じゃ……」



溜池山王パークタワー10階では、殺目と詠子が廊下を歩いている。殺死丸の突然の奇襲に備え、その足取りは慎重かつ重かった。

殺目は、周囲を警戒しながら歩くと同時に、詠子をどうやって戦域外へと逃がすかを思案している。恐らく殺死丸は政府側に立って行動している……となると、殺女と接触し、人質とされている立場である詠子は、警察や政府側に渡ってしまった場合にはかなり厳しい尋問に会う事は目に見えている。殺目にはそれを思うとどうしても詠子を容易く相手勢力に渡す事はできないでいた。

数々の戦場を渡り歩いた殺目には、常に最悪の状況を想定して考える。実際に生き死にの世界で生きる者は常にそうである。決して楽観はしない……
しかも、詠子の父は洋行の元社員で、現場の日本ミラージュに移籍した人物だ。そして恐らく殺目が斬った何れかの惨殺死体として14階で転がっているのだ。どうしても敵勢力は意地でも詠子から情報を引き出すつもりになるだろう。この状況にならば、相手が未成年であろうがそれは通用しない。それが国家であり、人間の社会であるのだ。
殺目は、人間の内にある酷薄さも、弱さも、それによる残忍さも良く識っているのだ。

面倒臭い事に成ったものだよ? どうする!? この娘を連れたままでは、一階に集まっている機動隊、銃隊等との交戦は不可能だ! だからと言って置いてもいけん。殺目は頭の中で自分の考えうる最適な手段を探る……

「ねぇ……私には貴女がどうしたいのか全然わからないわ。一体私をどうするの?」
「うるさい! 今それを考えている。ただ、私がお前を警察に引き渡したとしても、決してお前が安全である保証がない! だからお前が思っているほど簡単な事じゃないんだ」

「私はどうすればいいの? あやめちゃん」
「くそ! 私は一体何をしたいというのだ! くそっ、詠子。お前は……私を、惑わせる」
その時、一瞬影が揺らめいた。

Re: キチレツ大百科 ( No.49 )
日時: 2016/01/11 02:30
名前: 藤尾F藤子 (ID: l1ZIjquS)

揺らいだ影に向け、殺目(あやめ)の銃のサイトが向けられる。
が、そこに映ったのは殺死丸ではなく、この階の逃げ遅れた人間達だった。
「あ、ちょ、まっ!」
「キャァ!」
幾人かの男女、どこかのオフィスの者達だろう。太刀と銃を肩から下げた殺目の姿に慄いている。殺目は舌打ちと共に鋭い視線を投げつける。
「失せろぉ! 邪魔になるなら斬り捨てるぞ!!」
太刀の切っ先を向け、怒鳴りつける殺目。
それを見て、悲鳴を上げながら男女は一目散に逃げていった。

「待って! 酷い事しないで」
「黙れ、殺されないだけマシに思え!」
「ど、どうしたの?」
「お前は、勘違いしているな? 私がお前を殺さないのは、お前に利用価値がある為だ。なければ斬り殺すなど容易き事だ」
「あやめちゃん、そんなに簡単に人を殺せるの……?」
溜息が一つ、詠子の前を通り過ぎていった。
「殺せるんだよ、嫌になる程簡単に……お前みたいな、小娘がこの私にそれを問うか? 笑止!」
「小娘って! そんなに歳が違っている様には見えないけど」
「フン……」
殺目は、黙って頭に被っている黒いキャスケットを取った。長い栗色の髪が零れる。そして、前髪を手で捲る用に上げて見せた。
「お前の歳の娘に、こんな傷なぞある者がいるか……?」
殺目の額には、斜めに一文字の刀傷が刻まれていた。前髪が下ろされていれば、一見してすぐには分からないが白い肌にザックリと刻まれた疵は詠子の背筋をゾッとさせるには十分だった。

「それ、あっ……な、何て事……!」

それが何だと言うんだ……
だから、ガキは嫌なんだ。コイツらは、どいつもこいつも黙っていたって自動的に安全な明日が来るものだと思っている。殺目は内にある嘆きが知らない間に態度に表れていた。

時代が変わるに連れて、こういった考えがこの国に横溢してきた。
”平和と人命が第一”だと!?
吐き気がする程、魯鈍で愚図な馬鹿共め! お前達が平和で安全を享受できているのはどうしてか? その仕組みを考えようともしない癖によくもそんな言葉を吐けるものだ‼︎ そんな連中が、此の国に溢れて一杯になるのが耐えられない……
お前達、愚かき弱者なぞがのうのうと人生を謳歌できる様になったのは、ここ何十年かでだぞ! その癖に決まった様に口から出る言葉は、空辣で虚飾に彩られた甘言ばかりだ。
そしてお決まりの如く、よく意味もわからぬ様な外来語を喜んで使って事を誤魔化す。
マニュフェスト、イノヴェーションにコンセンサスだ? 終いにはパラダイムシフトと来たものだ。そんな下らない考え方で罷り通る国だ。そんな世の人間など殺す事にどう躊躇えばいいと言うのだ? どうしてこんな愚かになった!? どうして……
殺目の慟哭は、心の夜闇に滲んで消える。 

こんな世の為に、自分達は砂を噛み、汚泥を啜ってきた訳ではない!

でも殺目には、分かっている。その嘆きとて、決して正道たる事ではないという事に。だから、なおのことやるせないのだ。

「なんで、そんあに辛そうな顔をしているの? あ、あの……ごめんなさい、やっぱり私ね? 貴女がどうしても仲の良い友達に似ているものだから、つい余計な事を言っちゃうのね……ごめんなさい」
「その友達は、そんなに私に似ているのかい?」
「ん……それがね、不思議なの。どう言って良いかわからないけど……雰囲気なんかは全然違うわ。でも、時折見せる表情なんかが……上手く言葉で言い表せないの、でも」

さっき、日本ミラージュで命乞いのたねに使われた言葉が殺目に過る。
憂国か……

1と0の世界に現をぬかす人々、誰かが作った”意図的”な信用価値で喜び、絶望する人達。金融家の提示する金利情報と貯蓄額の奴隷。

「お前には、この世界は良き世界に見えるか?」
躊躇いの表情をする詠子を一瞥すると、再び殺目は歩き出した。詠子には、その細い背がまるで泣いている様な悲哀を纏って見えた。

Re: キチレツ大百科 ( No.50 )
日時: 2016/01/12 20:23
名前: 藤尾F藤子 (ID: 4gmoED8F)

「国家と貨幣ねぇ……国とお金? 僕のおこづかいも含まれるのかい?」
殺華は、自分のガマ口の財布を取り出し、まじまじと眺めている。

「そうじゃな、その貨幣”価値”という物にたどり着く話じゃいな」
「価値?」
「うむ、イィーススは最期どうなったかはしっちうるな?」
「うん、木馬に張り付けにされて、鞭を打たれたらしい。そして脇からグングニルの槍とやらを刺されて死に至ったのだよ! 惨い有様だ……」
「馬鹿野郎、十字架に磔刑(たっけい)にされたんだろうがよ!? 木馬に鞭打ちじゃあ、ド変態のプレイだろうが! それじゃ、どさくさに紛れて楽しもうとしてんじゃねーぞって話になっちまうだろ〜がよ!?」
篁は、殺華のバカみたいな言動に細く突っ込んでいる。恐らく、現役の頃もこんな感じであったのだろう事が伺える。
「そん槍は北欧神話のヴォーダン(オーディン)の槍じゃいな。イィーススが突かれたとされる槍はロンギニゥスの槍じゃな。これは止めを刺した本人のローマの百卒長のロンギニゥスの名からそう言われておる物じゃ」
「オーディン! オーディン!」
殺華がが喜ぶ。
「くっだらねぇ……イエス・キリストがどう死んだかなんて、クソどうでもいいのよ。問題は、甚八……貴方とどう関連して何故、今に至ったかよ? それを説明なさいな」
篁は今度は頼母に向け言い放った。
「ふふん、イィーススは当時の有力者、ユダヤ教のサリファイ派の律法学者や司祭長らと議論をし、完全論破しうる知的教養者じゃった……」
「オツムも回るおっさんだったのだね。何だか自らの信念で、神社の境内でテキ屋をブッ飛ばしたり、お偉い権力者に議論を吹っ掛けたり、凄い格好良いおっさんに見えてきたな」
「イエスは其れ等を”偽善な律法学者”と言うち、激しく非難しちうるこつじゃった。そして、イエスは当時のユダヤ教富裕層のサドカイ派によって、ローマ帝国に訴えられたのじゃ」
「偽善者と権力者を同時に敵に回し、宗主国にしょっ引かれたと言う訳かい!? なんと
! このおっさんの、決然たる剛毅精神は見上げたものだな!? 僕の隼人の尚武の心にも響く程だよ!」
「一々うるさいのね、殺華は。まったく」
殺華は篁の膝の上で興奮に打ち震えている。それを呆れるようにして、篁がグリグリ頭を撫でている。
「イィーススと言うち男は、奇跡は別にしても、恐らく何らかの信念を元にして、人々に分け隔てない教えを以って天道たる正き道を説いて周っていたんじゃな。それが、当時の宗教的権威や政治官僚的立場からは忌み嫌われたのじゃ」
「国家と貨幣、偽善と権威ねぇ……同じね、何時の時代も何処の国も」
篁が、微睡むような妖艶な瞳で煙管の紫煙を吐いた。
「ふふ、よぉく似ちうるなぁ……? ”此の国”も……」
篁は煙管の吸口を僅かに噛んだ。
「まるで、この国で繰り返される国会での与党(権力)と野党(偽善)の馴れ合い……でしょう?」
頼母は不敵な笑みでそれに答える。

「ほぅら……見てみんさいや、殺華。篁には俺いの言うこつが、本当は理解(わかっ)とうじゃっでん……そいじゃろ?」

篁は視線を外し答えない……
「篁くん?」
殺華は無邪気な瞳で篁の顔を見上げる。
「ふん、続けなさいよ」

「イィーススはサリファイ派、サドカイ派の有力者達の目の上のタンコブじゃ。だから、彼等はイィーススを人々を惑わし、ローマ国家に対する政治犯として告発した。その際に理由として挙げられた事は徴税に対しての拒否と言うこつじゃた。勿論、イィーススは直接的な言動を以って納税を拒否する様な喧伝はしてはいない」
「では、なんでブッ殺されたんだい?」
「ルカの福音書20章22-26編にこうある。”イエスは言った『デナリオン銀貨を見せなさい。そこには誰の肖像と銘があるか』彼等は言った『皇帝のものです』それを聞きイエスは言われた『では、皇帝のものは皇帝に、神のものは神のものに返しなさい』彼等はイエスの言葉の意味が理解できず、その場は静まり返った”とな。このテキストから、イエスの明確な意思が見て取れる……」

「ふん、さっぱりわからんちんだよ。僕は」

殺華は腰に手を当て。謎の自信で胸を張る。
「まな板張って、偉そうに言うんじゃないわよ」
「ぬがっ!? 篁君! 聞き捨てならんぞ!!」
「此れはイエスの国事犯としての裁判での一節を表したものじゃ」
「頼母君、待ち給え! そんな事より……ぼ、むぐぐ」
殺華の口を手で覆う篁。
「モガ、モゴ、お、おのれぇぇ……むぐぐ」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34