複雑・ファジー小説

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キチレツ大百科
日時: 2016/01/06 12:05
名前: 藤尾F藤子 (ID: .5n9hJ8s)

「起キル……」
「起キル……」

あぁ、うるせーな。俺は昨夜も”発明品”の開発でいそがしかったんだよ……眠らせてくれよ。

「起キル……」
「起キル……」
微睡みの海の底、聞こえる女の子の聲。少し擽ったい感覚が夢を揺さぶる波のよう。
ふと思うんだ、これがクラスメートで皆のアイドル、読田詠子、通称”よみちゃん”だったらいいな……て。いいさ、わかってる。どうせ夢だろ? 
夢の狭間で間の抜けた自問自答。
そいつが、嘲るみたいに眠りの終わりを通告している。

「キチレツ、起キル”ナニ”!!!!」

Goddamit!
そう、いつもそうなんだ。俺の眠りが最高潮に気持の良い時に、決まってコイツが割り込んでくる。俺がご所望なのはテメーじゃねんだよ?
「くっ!? 頭に響く、うるせーぞ、ポンコツ! テメー解体して無に帰すぞガラクタがぁ!!」
「なんだと〜、やるかぁ!」
部屋の中には、日差しが差し込み、ご丁寧にスズメの鳴き声が張り付いてやがる。うっとおしい事この上ない程真っ当な朝だ。
「最悪だぜ……」
目の前の”ソレ”を突き飛ばし、机の上のタバコを探す。
「あん? モクが無ぇぞ、昨日はまだ残ってたんだけどな……」
「中学生デ、煙草ハ駄目ナニィ! 我輩、捨テテオイタ、ナニ!」
俺は目の前の”ソレ”の髪を掴んで手元に引き寄せる。
「テメー良い加減にし無ぇと、マジでバラすぞ。人形!」
「ちょっ、痛い痛い痛い! やめてよ、キチの馬鹿! 中学生で煙草吸うキチの方が悪いんじゃ無い! い、いたぁあい、我輩のポニテから手を離すナニィ!!」
「キャラが崩れてんだよ、人形!!」
「に、人形じゃないナニ……殺蔵(コロスゾ)ナニ……」

くっ……頭が痛ぇ。
 
俺の名前は機智英二(きちえいじ)皆からはキチレツなんて呼ばれてる。
俺は江戸時代の大発明家、キチレツ斎の祖先だ。キチレツ斎は結構名の知れた人で、当時の幕府御用達の発明家て奴だったらしい。初代キチレツ斎は太田道灌の元で江戸城の築城に協力して以来、機智家は徳川家から引き立てられたという経緯と親父が言っていた。
そんな家だったら、何か凄い物があるだろうと物置を調べていた時に見つけちまった。
この少女の形をした”発明品”殺蔵を。しかも運悪くうっかり起動しちまいやがった。

わかるか? 自分の先祖がこんな、少女人形を作成してた真性のド変態だと分かった時の気持ち……夜な夜なこんな人形使って遊んでたと思うと反吐がでるぜ! その俺の気持ちを察したのか、俯いたまま殺蔵がぼそりと呟いた……
「我輩は、武士ナリよ……」
俺はイラつく。
「テメーのその見た目でどうして武士とか言えるんだよ? どうみたって弱そうだし、大体女の武士とかいねーだろ? じゃあ、なんでその見た目よ? どう考えても、いかがわしいんだよ! お前はそういう目的の為の人形だろう!?」
「違うナニィ!! わ……我輩は、武士ナニィ! 武士……ナニよ」
「チィ! うぜぇ……」
曲がりなりにも尊敬していた先祖の正体が倒錯的な変態である……
そいつは憧れてた役者やアイドルがシャブ(覚せい剤)や痴漢で捕まった時位ショックなもんだ。
涙目で抗議する少女のカラクリは、俺らの年齢と大差ない姿形だ。
キチレツ斎さんよぉ、それぁ無ェぜ……

「英二〜、ごはんよぉ。殺ちゃんも早く降りてきなさ〜い」
この部屋の重たい空気も知らずに、圧倒的に間の抜けた声でお袋の声が聞こえてきた。
だが、そいつは俺にとっては好都合の助け舟だ。最早、徹也明けの眠気などどうでもよかった。殺蔵が急いでティッシュで涙を拭っている、その横を俺は知らんぷりで通り抜けた。

Re: キチレツ大百科 ( No.141 )
日時: 2017/02/06 19:28
名前: 藤尾F藤子 (ID: hgzyUMgo)

 Rosenkreuzeri der Ritter、ローゼンクロイツィアー・ダァー・リッター……
 この組織の発祥は1614年の神聖ローマ帝国にて、「友愛の声明」という文章でその存在が明らかとされた。これは後にドイツの神学者ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエの小説だとも言われている。ここに出てくる人物クリスチャン・ローゼンクロイツの作った結社が有名な薔薇十字団(Rosenkreuzer:ローゼンクロイツ)である。このローゼンクロイツを自称する有名な人物が詐欺師のカリオストロ伯や18世紀の科学者サンジェルマン伯である。
 このRosenkreuzeri der Ritterも薔薇十字団の意思を受け継いだ結社である。しかし世に言う秘密結社というような大仰な陰謀めいた組織ではない。
 このローゼンクロツァダァーリッターはスイス(スヴィース州)で組織された医療科学を研究する欧州の名士、有志を中心に結成された結社である。
 元々はキリスト教下の元、医療科学は魔術とされ、その研究を見つかれば異端とみなされ火炙りに処せられる原始的風習下の元でカバラ学者や錬金術、そして普遍医学(クローニング)の知識人たちが隠れて知識を共有するサロンが元になっている。
 江戸中期にかけ、日本に多くこの人間達が、オランダ人と偽り交易や日本の医科学技術を知る為に入港した。そこで、機智烈斎と機智家に接触したのである。

 そして、この老紳士、カルル・ハウツ・ホーファーもその薔薇十字の騎士団のメンバーであり医師でもある……

「ん? 血影、熱があるか? 見せてごらん」
 血影の頬を触りカルルは言った……

「少し、だけですもの。大丈夫……」

「大分無理をしているようだね。やはり、思った通りだ」

 カルルは、そのまま血影を背負う。
「待って! 私……」

「戦時病院まで運ぼう。怪我も診なくてはいけないね」
「私には、時間がないのです先生……」
 カルルは、血影を背に抱えながらその言葉を聞き過ごす。



「はうあっ!!」

 殺華が蘇生すると、もう日が少し茜色が差していた。

「あれ!? また僕は庭で寝ていたぞ! どういうことだ?」

「おぉ殺華どんが生き返りおったぞ!」
「死んだんなかかと思っちおったぞ! ガハハ」

「うるさいな、死んでないよ、元気そのものだよ! 人を勝手に殺さないでくれたまえ!」

「おう、殺華! 目ェが覚めたか?」
「十字郎くん、ぼくは何で此処で寝ていたんだろう?」

「わはははっ気絶していおったんじゃい! そいじゃっどん、今日はもう家に帰りやんせ
? 家人の方も心配しておっじゃろい? よろしく伝えてくいやんせ」

 そう言うと十字郎は包みを殺華へと投げた。
「なにこれ?」
「土産ぞ。そいで当流に入門すっ話は自分でしいやい」

「ありがと、じゃあ今日はもう帰るよ。明日からまた来る」

「ないじゃ、殺華どん! 一日でへばいよったか?」
「がはははは」

 薩摩兵児達が殺華をからかう。
「へばってないよ、明日から君達をバシバシ鍛えてやるんだから」

「がははは、そや楽しみッじゃ!」

 殺華は、軽く兵児達と戯れながら名残惜しそうに帰って行った。その背には渡されたユスの木の長棒が下げられている。

「これなんだろ?」
 殺華は肝付邸を出てしばらくすると速攻で包みを開ける。

「ふぁあ! お餅だよ! これは良い物だよ」
 薩摩のお菓子、かるかんである。
「いやお餅ではないな、お饅頭かな? それにしても美味いぞパクパク」

 この当時、物を食べながら歩くという行為というのは甚だ下品な行為として無作法に当たる。特に武士階級では尚更である。しかし、殺華にはそういう武士階級の道徳など微塵もなく不遜極まりなく育っている為に作法という秩序に縛られない。要は無法者である。

「もぐもぐ……これはお茶が欲しくなるな」

 殺華は、お土産に渡されたかるかんを呑気にもぐもぐしながら廃寺に帰っていく。

「あ、殺目ちゃんと頼母くんと指宿くん位の分は残しておかなきゃ……」
 基本的に、あの寺にいつもいる面子である。他の薩摩藩士達は方々へと散り、自分達のこれから身を寄せられる場所を探っていたり、新しい政府の動きを探っている。

 殺華は城下を抜けると、此処は郷士と言われる階級の武士家と百姓の田畑が広がった地帯にでる。

「それにしても全然分かりづらいんだよ、あの斬り下ろしは。あのままじゃ、いざと言うときに役に立たないよ。やっぱり示現流のほうが良かったのかなぁ」

 殺華は、棒を振り回しながらブツクサ言って歩いている。殺華はこの当時既に歩き方が現代風である。それは何故なら官軍から近衛鎮台に配属された時に、嫌という程行進の仕方を叩き込まれた為だ。特に長州諸隊では太鼓と笛での軍隊行進が日本で初めて行われていた。殺華はこう見えても笛が得意で戦列行進の時は日本初の軍歌『トコトンヤレ節』を演奏しながら行軍していた。この時代の歩き方は、歌舞伎などに残っている大げさな運足などに名残がある。そもそも現代の様に腰を伸ばして、手足を左右交互に出す歩き方ではないナンバ歩きが主流である。

 殺華が順調にテクテク歩いて行くと、郷士達の部落に差し掛かった。此処は城下士よりさらに身分の低い武士達が住んでいる。皆普段は百姓仕事で身を立てている半農半士である。

「うわぁ、なんだみんなボロ長屋だなぁ。城下士も貧乏揃いだけど、此処もひどいな。長州も大概皆んな貧乏だったけど、薩摩の方が貧しいんだな……」
 殺華はその有様に独りごちた。

 道の端で座っている者がいた。俯いたまま下を向いている、どうやら子供の様である。

「?」
 その背にする長屋の屋根に鴉がグルグル飛翔している。猫も身を伏せ忍んでいる。やがて、子供が身を捩りながら地面に伏した。

「コ、子供ガ死ンダ!?」

 殺華は急いで子供に駆け寄る。その子供は少年だ、全身の肌が灰色の様な色になっている。目が開いたまま僅かに動くのみである。

「うわぁ君ぃ! どうしたんだね!? 寝たら死んでしまうぞ」

 殺華は、腰に下げているアルミの水筒の蓋を開ける。官軍時代に殺死丸に買って貰った殺華の宝物である。
「飲むんだよ! 飲まなきゃ死ぬぞぉ」

 この少年の症状は、典型的な、栄養失調と脱水症状である。腹だけが何故か痩身から奇妙に突き出ていた。

「そうだ! このかるかんを食べるんだよ!」
「あ、あんたさんはだれね……おいは武士の子じゃあ。施しなぞ受けん。このまま此処で死なせてくれろ」

「おいおい! 冗談じゃないんだよ、ぼくは薩摩隼人だぞぉ! 生き倒れの餓鬼を見殺しにするなんて僕の隼人の精神が許さないんだぞ」
「……それより、早く逃げてくいやんせ、奴らがもうそろそろおいが死ぬのを聞きつけて襲って来いじゃろ……あんたさんに迷惑がかかっと。死に際に人に迷惑をかけ、晩節を汚したくなか」

「なら、君はこれを食って水を飲め! 腹が減って死ぬなんてそれこそ武士の名折れというやつじゃないか! 早く水を飲むんだ!」

 その時、背後から身もうち震えるほどの獣の遠吠え。
 しかも、一匹ではない。群である……

「おいを置いていっちくいやい……おいが身代わりにあやつらを引き付け致しもんそ」

 この少年はまだ幼いながらも、薩摩武士らしい死を恐れぬ勇気を持っている。殺華はその姿に大いにうたれた。と、同時に自分でも訳の分からぬ身の打ち震えに気付いた。それは、全身がカッカッと熱くなり足元の感覚が揺らぐ程である。
 そう、これは”怒り”である。
「チィィエストォォォ!!」
 殺華が赫怒する。

「畜生が寄って集って人間様を襲おうなんて許せないんだよぉぉ! よぉし、いいぞ! この薬丸自顕流、見習いの僕が相手になってやる! そのかわり! 本気の死合いだぞ!?」

 殺華は、少年の前に仁王立ちになり背中のユスの長棒を振るった。
 ブンと音を立てて、地面の砂が蹴散らされる。しかし、集まる野犬の群の眼は赤く充血しそうな位に目の前の獲物を捕らえて離さない。

 殺華はトンボに姿勢をとった。しかし、まだ殺華は肝付邸で半日ほど横木を打ちまくっただけである。しかし、不思議と殺華に恐れはなかった。
 
 殺華には、短い中にもある事が分かっていた。それは極単純な事である。
 余計な事はいいのだ……
 ただ、シンプルに。ただ無欲、無私に。

 その時、一匹の野犬が地面にチャッと音を立てて飛び込んでくる。

 極自然に、殺華は棒を刀に見立てた。そして、それを肩からヘソに届くまで斬り下ろし、膝下まで全身を一気に沈める。

 ただシンプルだ、その無欲無私が”無死”になれる。

 犬が棒に打ち据えられ、地面に叩きつけられると、そのままその衝撃で再び宙を舞った。

「ちぇぇぇぇぇぇい!!」

 犬は頭蓋を割られ、頭部がぺしゃんこになり、もう何の動物だか分からない程である。
 すると、一斉に野犬共が飛び掛かってくる。

「来い!! キィイアチェストシネー!!」

 殺華は、その野犬の嵐に飛び込んでいく。

Re: キチレツ大百科 ( No.142 )
日時: 2017/02/16 20:10
名前: 藤尾F藤子 (ID: TUeqjs.K)

 官軍の兵舎に、蒼白の表情をしながら安死喩(あんじゅ)が帰舎してきた……

 日が暮れかけていた。暫く甲突川の川辺で放心していたが、よく覚えていない。 安死喩は、最早足元さえも覚束ない。 


 自分の落ち度で、今回の騒ぎに”殺死丸”が介入してくるかもしれない!

 この事を、一番懸念しているのは何も死連だけではない。警察、つまり薩摩系の大警視、川路利良、いや長州系軍人もである。そして、その頭目である陸軍卿、山縣有朋もそうだ。しかし最終的に山縣が幾ら陸軍卿であろうとも、山縣は志士時代は奇兵隊の軍鑑という地位にはあったが、殺死丸に指図出来る様な立場ではなかった。今の陸軍を占めている高級将校達も元は奇兵隊の生き残りや長州諸隊の尉官達である。
 幾ら明治の階級機構が構築されたとは言え、同じ元志士上がりでもある殺死丸を帝都に押し留めて行く事には限界がある。もし、機智烈斎以外に殺死丸に物を言えるとすれば、死んだ高杉晋作か木戸孝允である。それでも殺死丸が聞かない時は、長州藩主である毛利敬親しかない。抑、あの様な得体の知れない者は、政府に於いて最も厄介な存在である。
 しかも、明治政府はこの時期、西郷の征韓論、西郷私学校党軍の暴発、それらも同時期に対処せねばならず、殺死丸の様な者に構っている暇もなければ、その対処も曖昧なまま時を過ごしていた。その点を上手くカバーしていたのは、全て死連達、薩摩系の殺女達である。
 だが、最早、西郷も亡く、近衛系薩摩兵も多くが戦死していった。
 もし、今まさに此の機を窺って殺死丸が何らかの動きを見せれば、長州系軍人と殺女を巻き込んだ新たな内戦へと容易く動いてしまう恐れがある。
 征韓論騒ぎでいけば、長州系軍人達は朝鮮などに軍事的重要度を見出していない。それよりも韓国というのは清(中国)の属国である。その宗主国の更に宗主国がイギリスである事を知っているのだ。いくら西郷が軍を率いず韓国に行き、清に向かい、ロシアの南下政策への対応の為に同盟を呼び掛けようとも、そもそも韓国自体今まで一度たりとも独立国であった事はないのである。戦略的価値は今の所皆無で、その戦費などは今のこの日本のどこにもないのである。そして、もし清と戦争を起こせば、上海に駐留している第七艦隊が朝鮮半島に入る。そうすれば、あっという間に補給線が断たれ、鶏道八林を進む軍は餓死するだろう……
 殺死丸は、こういった政治にはすでに興味がないらしいが、戦の事になれば興味を示すかもしれない……それが一番危険である。

 安死喩は、心底後悔していた。近衛にいた頃に、暇つぶしに殺華を揶揄いがてら有り金を巻き上げ、芝浦の近衛兵舎の池に叩き落とした事を……まさかこんな事に繋がろうとは思いもしなかったのである。しかも、近衛御親兵ではない会津の血影がそんな事を知っているなんて思いも依らなかった。会津出身者は、人間でも近衛鎮台には配属されないのである。安死喩もまさか、殺死丸が殺華を虐めたのを理由に介入してくるとは思っていない。しかし、殺死丸は火を入れれば忽ち爆発する火薬庫の様な存在である。其れを”建前”に機智烈斎を飛び越えて薩摩に躍り込んでくる可能性は決して無いとは言えないのである。

「うっうぇぇぇっぁ……」

 安死喩は、其れを想像すると嘔吐した。

 あり得る……安死喩は、あの恐ろしい殺女の貌を思い出すだけで、今でも震えが止まらない。

 薩摩系の殺女と長州系の殺女は蛤御門の変と言う京都の市街戦で一度斬り結んでいる。と、いうより、薩摩が長州を京都から駆逐したという方が正しい。1864年、元治元年に度重なる京都での新撰組の志士狩りに長州が怒り、軍を京都に向け、会津藩兵の警備を切り進み、長州遊撃隊総督、来島又兵衛、石川小五郎と京都御所に突入するも、薩摩銃砲隊がギリギリで到着し之を退けた事変である。
 

 その時、安死喩は、殺死丸を初めて見た……

 藍色の長い髪、折れそうな程細い腰の括れが分かる、オーダーメイドのマンテルコートを靡かせていた。まるで……優しく微笑んでいるかの様な半目半笑に隠された獣眼。安死喩の所属した銃隊最前列に、慄きもせずそのまま突っ込み、先頭の薩摩兵を一刀両断したかと思えば其れを弾き飛ばして、そのまま大将である西郷吉之助(隆盛)へと突貫したのだ。
 まるで狐の啼き聲の様な甲高い嬌声を上げながら……

 それを中村半次郎が寸手で止めるも、殺死丸は刀を押し回し、半次郎と死闘を繰り広げた。

 その様、鬼神の如くなどというのは生温いほどの、殺死丸の羅刹女(らせつじょ)ぶりを安死喩は今でも忘れていない。来島又兵衛が、後の大警視、川路利良によって狙撃されると、長州軍は撤退を始めた。その時、殺死丸は来島達を逃がす為に一人で薩摩銃砲隊を相手に御所の屋根瓦から飛び掛かり、文字通りの遊撃戦(一人で多人数を相手に各乱戦をする事)を壮絶に繰り広げ、時間を稼ぐという荒業をやってのけた。
 薩摩兵も薩摩系殺女も殺死丸に全く容赦無く攻撃された。
 この時代の銃砲隊は戦列を組み、一斉掃射が基本なので、殺死丸の撹乱戦には完全には対処ができなかったのだ。しかし、薩摩の猛者が集う尉官達は違った。人斬り半次郎、村田新八などは殺死丸と手を変え品をかえ肉薄した。二人ともに示現流、小示現流、薬丸自顕流などを極めた薩摩の大胆者(ぼっけもの)である。
 殺死丸は、銃砲隊の殺女を首生づかみにして盾として使うと、今度は銃砲を奪い村田の足を撃ち抜き、それに迫ると、今度は半次郎の得意の薬丸流の『抜き』が殺死丸を襲う……
 そんな応酬が四半刻(約三十分)も続いた。しかし、西郷隆盛はその様子に一切身じろぎ一つせず巨眼を見開き仁王立ちしていた。そこに殺死丸が襲いかかろうとも、まばたき一つせずにである。

 キェアアと殺死丸が啼き、チェエイと半次郎の甲声が木霊する。
 二人の刀が同時に青い火花を咲かせ斬り飛んでいった……

 その時半次郎の背後からの川路の隊からの一斉掃射で殺死丸が退いて行く時に言ったのだ。

 ”腰抜けの妹なぞ何の役に立ちようか、再びまみえんとする時に、之を間引く”

 その呪いの言葉は、薩摩系の自分達に向けられた言葉である。
 これ以降、薩長同盟締結後も安死喩は、殺死丸の恐怖が抜けていないのだ。

「ど、どうしよう……アヤシマルが……殺死丸来たらっ!! う、おええ、げほぁ」

 安死喩が兵舎の壁にもたれ掛かり四隅で嘔吐する。
「わ、わわっわ……私のセキニン!? マズイマズイマズイ!!」
 安死喩は、発狂するほどの恐怖を感ずる。死連への申し開きと殺死丸への戦慄である……
 それを考えると、益々吐き気と眩暈で視界が霞み足元がフラつき覚束ない。やがて、安死喩はグラつき倒れこむ。

 その間際、安死喩を抱き留める一人の青年。

「ど、どうなされましたか!? 安死喩様!!」

 大徳寺政直であった。
「お、お前ハ……! 公家上がり……!?」

「お気分が悪いのですか? すぐ医務室に、お運び致しましょう」
 安死喩は、大徳寺を突き飛ばす。

「ヤメロ! 触るなっ……きっ様! 今、今見た事は誰にも言うな!! イイか!? 言ったら殺すぞ!?」

 大徳寺は呆気にとられる。

「何か……ございましたか?」

 安死喩は、寄りに依って大徳寺に見られた事に歯噛みする。

「いいか? ころすぞ……いいな」

 安死喩は壁にもたれ掛かり、時折つまづきながら兵舎へと去っていった。


 殺華は、気付くと、血塗れの棒を蜻蛉に構えたまま其処に立っていた……
 辺りには、少年が死んだ後にそれにありつこうとしていた、野犬、野良猫、鴉すら何羽か落ちていた。殺華の周りの肉の塊は、どれも奇妙な事に、頭部以外は動物の形を留めている。これはどの野犬、猫も一撃で打ち倒している証である……
 低い姿勢の、素早く動く動物を一発で仕留めるのは非常に難しい。殺華は知らずの内に、薬丸自顕流の横木打ちの低い姿勢を動物を打ち倒す事で体得したのだ。

「ありゃ……僕はやったのか? これは……!?」

 殺華は正気に戻ると辺りの景色がぼんやりと広がった。頭を叩き割られ目玉が飛び出した野犬、ざくろが砕けた様な頭部をして血を吹く猫。ぺしゃんこに潰れている鴉……

「これは……よく覚えていないが確かに僕はやったぞ、しかし不思議な気分だ。どうやったのかを細かくは思い出せないや。でも無我夢中とはこういう事か……はぁっ、おい! 少年!! 生きているか」

 殺華は、倒れている少年に駆け寄った。しかし少年は動かなかった……
「ごめん、間に合わなかったね……」

 殺華は少し考え込むと、長屋に少年の体を運ぶ。其処には誰もいなく、長屋の裏に少年が造ったのだろうか? 小さな石の墓石が並んでいた。

「皆、貧困に喘いで死んでいったのか……この辺りの長屋も皆んないないや」

 殺華は不思議であった。何故に此処まで貧乏をあまつさえ受けていたのかを。こんな場所は捨て別の土地に行けばいいしゃないかと。しかし、殺華も仮にとはいえ武士の家で育てられたのだ。百姓や穢多などの土地に縛られ武士、領主に搾取される階級の事などは分からないのである。先程までいた肝付家でもこんな郷士の事情など分かりはしないし、気にかける事もないのである。平等などという甘ったれた概念がやっと通用する様になったのは近代から現代にかけてである。

 殺華は、棒で穴を掘って少年を長屋の裏に埋めてやった。

「そうだ、これ持っておいき」
 殺華はお土産のかるかんとお気に入りの水筒を一緒に埋めてやった。

「はぁ〜あ、また袴が泥だらけになっちった。殺目ちゃんに怒られちゃう……」

 殺華は寝ぐらにしている廃寺に帰っていった……

Re: キチレツ大百科 ( No.143 )
日時: 2017/02/10 09:24
名前: 藤尾F藤子 (ID: zH2NFO0g)

「「お待ちになられなさい! これ! そちらに入ってはなられませぬ!」

 少女を追いかける、女官の声がけたたましく鳴り響いていた。

 その少女はその声から必死に逃げるべく、敷地内の一番奥の屋敷へと逃げて行く。

 門を潜ると、少女はその屋敷の中を見て呆然とした。その庭はロクに手入れなどされておらず雑草と木がひたすらに生い茂っていた。

 少女はその茂った草の中を隠れる様に身を潜める……
 暫く経つと、漸く女官が屋敷の門へとたどり着いた。荒い息遣いが聞こえる。

「ち、血影殿! はぁはぁ、もう、逃げられませぬぞ! 此処は殺女は近づく事憚られる場所にてございます! こんな所に入ったとあっては折檻は免れますまいぞ!」

 血影は震えて身を隠す……

「こんな所を、ご当主が見られでもしたらこの私も罰せられてしまいます! 早く出ておいでなさい! ささっ早う!」

 女官は、徐々にヒステリックになっていく。

 血影は恐怖で動けなくなってしまった。動けば草木の音で場所が分かってしまう風がそよいで、よもぎが揺れる。その音に隠れて、血影は身を動かそうとする。
「見ぃぃつけたぁ!!」
「いゃあ、止めて、もう彼処には行きたくないわ! やだ!!」
「お黙りなされ! 貴女は行く行くは松平侯の元へ行くのでございます。今からあれ位の躾に根を上げてどうなさいます! ささっ来られぃ!!」
「いやっ痛い、行きたくないわ! いやだぁぁ!」
 女官は既に血影の髪をふん縛っている。
「さぁ! これではもうにげられますいぞ!!」
「いや、いやだぁぁぁ……」

 とうとう血影は、赤子の様に泣き出してしまった。
「いやぁぁぁぁあ行きたくない、松平様の所にも行きたくないわ! 私は母者の所に還りたい! もう、何処にも……生きたくないのっ!!」

 女官は、その言葉を聞くと顔色を変えた。
 ビシャリと肌を叩く音。
 血影は髪を掴まれている為に逃れられない。
 もう一度、さらに激しく血影の頬を張る音……

「もう、いやぁ……」

 また激しく音が鳴った……

 ヨモギが揺れて、その奥に塀の近くにシャクナゲの花が一面に咲いているのが見えた。
 
 血の様に赤い石楠花の花びらが、一つ、音に揺らされる様に舞った……
 血影は思うのだ、この風に揺らされて、自分も花の胞子の様に何処かに吹き飛ばされて仕舞えばいいと……


「なんだか、さわがしいね……? 今日は祭か何かあるのだろうかな?」

 先程まで誰も居なかった筈の庭の隅に男が立っていた……

「ひっ!?」
 女官はその男を見ると、血影を放し、その場に平伏する。

 血影は何が何だかわからずに、痛む頬に手を当てがったまま凍りつく。

 その男、この江戸に居るも関わらず、まるで都の公卿の様な狩衣を着ていた。しかし、烏帽子は被っていない。眉も落とさずに白塗りでもない。奇妙な出で立ちである。白い定紋狩衣と淡い水色の指貫。ちょうど、平安時代にいた官人達の様な服装なのである。

 血影はその姿に恐怖した、肌は薄く、眼光鋭いその男を……
 
 まるで、薄墨で線を引いた様な、鋭利な顔である。全身から冷酷な風をまとっている様なその男。

「礼はいい、それよりお前? 余り乱暴に扱ってくれるなよ? 殺女とは言え、まだ女童(めわら)ではないか……それに、嫌がる者を強引に抑えつけたとしても、躾には成り得まいよ? 以降、気をつけられよ」

 女官は恐縮する。
「ははっ!」
「いいよ、もう下がって。その子は任せなさい」
 女官は、その意外な言葉に戸惑う。
「は? しかし」

「いいさ、お前はお帰り」
 男は左手を払う仕草をした。女官は取りつく島もなく帰っていった。

「どうした? 少女、まだ痛むかね?」

 コクリと頷く血影。

「ふむ、なら、私が造りしこの軟膏を塗ってみるといい」

 男は懐から何やら怪しい印籠を取り出し、中身を開ける。

「くさい……」

 男は其れを手に取り、小さな血影に合わせ、腰を屈め自ら血影の頬に薬を塗った。
 香の香りだろうか? 何だか甘い匂いがその男から漂っている。妖気と冷気が交わったような男の顔が血影に近づいた。
 思わず、血影は赤面する。思えば、この様な壮年の男性と口を聞く、間近に接する事など、血影には初めての事かもしれない。

「なんだか臭いのだけど、ひんやりしているわ」
「うむ、、私の新しい薬の発明品でヨモギと、蛤蛤(大ヤモリ)を干した物を煎じた薬だ」

「発……明!? 貴方は……? 誰?」

 男がそれを言った時、太陽が雲間に隠れて、陽射しが翳っていった……

「俺かい? 機智英右衛門、機智烈斎と、呼ばれている……」

「貴方が、機智烈斎? 御当主、様……!?」

 男は、薬を塗り終わると立ち上がる。
「あのあの私、あの!!」

 血影は、頭が真っ白になり、普段厳しく躾けられている礼の儀を忘れてしまった。緊張で言葉が出てこない。

「ふぅん? どうした……」
 男は翳った中天を眺めるように眉間に手をかざしている。
「わ、わ、わたくし! ほ、本日は失礼を……!」

「シッ!」
 機智烈斎は血影の唇に人差し指を当てる。
「空を見てごらん、ほら」

 翳る空、雲が渦を巻くように太陽を邪魔している。
「?」
「いいかい? いくよ……見ておいで」
 機智烈斎は、右手を握り、人差し指と中指だけを立て刀印を作ると、自分の手に当てた。

「鉄火、之を以って、一切を終生とし、破邪の顕彰を示せ! 急急如律、中央五方五千乙護法、唯今行じ奉る」

 すると、雲間ができ、そこから陽光が天に差し込んだ。薄黒い雲間が割れて、黄金の太陽が顔を見せ、金鴉がそこから舞い降りる……
 それは正しく天上の世界のようで、八百万の住まう土地であるかの様な祝福と僥倖の世界……
 血影は、その余りの美しさに息を飲み、ただただ見惚れてしまった。
 宙(そら)を操ったこの男にも。
「すごいわ、信じ、られない……どうして、こんな事……」

「昔々、平安の世に陰陽師という官職があったんだ。連中が今の様な事をやっていた……」

「おまじないや呪術? の事?」

「いいや、ただのデタラメさ……」
 機智烈斎は、初めて悪戯っぽく笑った。

「でも今のは!?」
「ふふ、天候だよ? それに雲の動きと上空の風の動きさ。草木の揺れを事細かに見ればわかる。陰陽師というのはね? 祭祀と暦の作成が本職の官僚なのさ。さっきのような呪いごとなんかはバカな公家を騙す為だよ? 大体暦や宮中の祭祀を司る事だって人心の掌握と言うだけなのさ。でも無知な民はそれに騙されるんだ……加茂家や土御門家にね」

「騙される? じゃあ、お呪いはないの?」
「無いよ? そんな物を後生大事に有り難がっているのは無知で愚かな事だよ」
 血影は、この機智烈斎という男にすっかり魅入られてしまった。
 なんという不思議な男だろう……まるで、自分の知らない全てを知っているかの様な顔をして、先ほどの事をデタラメと無邪気に答えるこの男の何処か子供っぽい様が血影には新鮮だった。その話ぶりは今までに出会った事のないこの人物をより魅惑的に彩っている……

「俺はね、世間では発明家と呼ばれているが、ただ……ただ知りたいだけなのさ」
「なにを?」
「この”世界”と”人間”を……」
「意味がわからないわ」
「人はね? ただ生きているだけでは、人を識るという事は決して叶わない。いいかい? 人間はまぐわる事で子を成し子を産む。しかし、それは人間を一から作ったとは言えないのだ。一からつまり塵芥から”造り上げた物”では無いのだ。それはただの人間や動物の約束事に過ぎないのだ。交尾をして子孫を増やす……それではただの動物の本能ごとに従っているのみである」
「交尾……」
「そう、雄の茎を以って雌の子宮に種を植え付ける行為だ」
「……」
「では、なぜその本能に従うのか? 何故生き物は子孫を残すという行為を繰り返すのか? その中で人間だけが何故知能を著しく他の動物より小賢しく持ち得ているのか……そして群れをなし、その群れを社会とし同族の繁栄を尊ぶのか、その中では政治が発生し、民族が、宗教が、神が其れに理由を付けて戦争をし殺し合うのか。では人間が仮定とする”神”なる存在は何処にいるのか?」

「私には分かりません」
「あぁ、この俺でさえ未だに何も分からないんだ。しかし、恐らく”神”なる存在は居ないのだ。しかし、そこにはこの日本の神道に我々は解決の道があると俺は思っている」

「八百万の神様? お日様、天照大神?」
「うむ、しかし、それは心象と象徴に過ぎないのだ。しかし此処に我々日本の文化の明快な見るべきところがあるのだ。それは天地自然と言う全てに畏敬を払っておこうという、人間の限界を認めているという事だ」
 血影は、機智烈斎の話に置いて行かれない様に。必死と言葉を頭に刻み付ける様聞いている。
「しかし、それは、私にとってみれば取り敢えずの処置と言わざる得ない……私は無神論者ではない。それは自分本位でこの世の全てが何かしらで割り切れるという、無知蒙昧な考え方である。いいかい、血影? それをもっと突き詰めたい知りたいと思った結果が……我が機智家のお前達、殺女である」
「私達……殺女が!?」

「そう……人間の禁忌、人が造り出したる人工なる傀儡”人間”だ……私は、いや、私達機智家の機智烈斎という存在は、行く行くはお前達に、恨まれ、憎まれ、憎悪される事になるだろう……死ぬよりも辛き目に合い、悲歎に呉れる事になるだろう……だが、私達の、いや、人間の指したる未知のその先へ導く、鍵なのだ。お前達こそが……!」
 血影は、何を言われているのか理解できなかった。
 そっと、機智烈斎は血影を袂に手繰り寄せ抱いた。
「許せとは言わぬ、その代わり、好きなだけ憎め、罵れ、お前達に投げかけられよう怨嗟の言葉、この機智烈斎、決して避けはせぬ」
 血影は、香の匂いに身を任せ、目を閉じた。
 深い深い、闇の中……甘い香りだけが残った。

Re: キチレツ大百科 ( No.144 )
日時: 2017/02/12 15:15
名前: 藤尾F藤子 (ID: MXL14IX2)

「はぁぁ!!」

 血影は病院のベッドで目を覚ます。
 寝巻きは、汗でグッショリとしていて、動悸が止まらない……

(私は……私は! 此の期に及んで、まだ”あの人”を……愛している!?)
 夢の中で微笑む、あの男の顔がまた浮かぶ。
 体から、熱が失せ無い。いや、熱だけでは無いのだ……この身を焦がしたる情念は。
 血影は病室の窓を開ける。

 夜風が血影に差し込んで、吹き抜けていく。熱は一向に止む気配は無いが、代わりにそこはかと無いうら寂しさ。たまらない位の喪失感……
 空を躍る月と雲が、そんな血影を見下ろしていた。

 皓月に照らされて、血影の灰色の髪がまるで透ける様に闇に馴染む。

「あぁ、血膿の紅月(くづき)……どうして、私にはあなたが、もうこんじきに見えないの? どうして……どうして、あの人はあれ程残酷なの……1? 私は、結局……何処に、行けばいい?」
 月にいくら問いかけようとも、応えがあろうはずも無い。夢の中の、あの男も一緒だ。幾ら何かを問いかけても、幾ら何かをぶつけても、夢はまた夢。
 その幻像は何も応えてはくれぬのだ。

 嘲笑う、月が浮かんだ闇夜、傀儡が啼く……

 其の泣き声を聞き、医師カルル・ハウツ・ホーファーが病室を訪れた。手には水差しとタオルケットを携えている……

「どうした血影?」

「夢を見ました……”あの人”が……機智烈斎が! 夢に迄、私の、夢に迄来て、自分を憎めと申しました! 私は……」

 その、傀儡の少女の乱れた姿は、憐れで、何処か退廃とした被虐心を煽るようで後ろめたい気持ちになる……
 
 そう……まるで、壊れて棄ててしまう人形を、最後にもう一度捻り潰してしまいたくなるような人間の暗い部分を擽るかのように。
 だが、カルルはこの人形を、血影を傀儡と言うよりかは、娘の様に思ってしまっている。カルルの、幼くして亡くしてしまった娘の事を、知らず知らずに血影に重ねているのである。
 だから、血影がこの後、陸軍鎮台に配属する事を聞きつけたカルルは、こうして薩摩くんだりまで駆けつけたのである。
 カルルは、出来れば血影をスイスに引き取りたいとさえ思っているのでる。しかし、それは望めない。血影は、機智家の殺女として機智家の所有物である。いくら、機智烈斎と同じローゼン・クロイツァ・ダァー・リッターのメンバーであろうとも、それは許されない。そもそも、機智家は殺女を一族総出で管理運用しているのである。それは、カルル個人でどうにか出来る簡単なものではない。しかもカルルはもう年老いてる。仮に血影を伴ったとしても先は短いのである。
 それは、カルル本人にも重々分かっている。しかし、余りにも哀れなる、この少女人形達を診察している間に情というものが湧くのも人の性である。
 だからこそ、機智家は殺女に対し冷徹であるのである……
 カルルでさえ、機智烈斎を呪いたくなってしまう。
 ”何故、彼女らを物言わぬ、物考えぬただの木偶として作らなかったのだ”と……

「おぉ……血影、お前は、なんと、何と言う哀れな……やはりそうか、今迄、苦しかったろう。その胸、張り裂けんばかりであったろう? 何と言う事か! お前は……お前は、愛してしまったんだね? 心から……ヘルツォーグ、機智烈候を……」

「ちがっ……! 違う! 違うの!! 私は、松平様の保科血影……機智烈斎の事などとうに……心のなかにはっ、心の中になんか!!」

 愛を知った、暗殺人形。その末路は悲嘆非業の道一つ。
 それは、死ぬよりもつらく、生き続けるには余りにも悲哀悲愴であった。しかも、愛した相手は冷酷なる創造者である。慙愧に絶えぬとはこの事である。

 カルルは血影にブランケットを掛け、ベッドに座る様、進める。しかし、血影はその場に倒れ伏す。まるでガラスが砕ける様に……

「私は……私は、機智烈斎を殺す為に、機智烈斎によって造られた殺女……!! だから、だから会津に送られた! こんなのって……でも、私は”あの人”を愛してしまった……だから、会津共々打ち果たせられた」
「違う! そうではない! 機智烈斎が会津を攻めたのではない、これはこの国の政治の問題だ。お前のせいじゃない。いいか、血影!?」
「私は、私は殺死丸や死連と戦う為に造られた殺女です……それは、機智家が倒幕を演出する駒なのです! そして、倒幕を成し得なかった時に、自分を殺す様にと私に命じました! っわ、私は……そういった盤上の駒なのです。

「いいえ、私は呪われているのです。あの時”あの人”に想いを寄せなかったのならば……今でもそう思います。カルル先生……私は、たった一言を預かる為だけに、また”あの人”へ会わねばなりません。でも、その時、その時私は! きっと……」

 カルルは血影の悲愴な瞳に危機を感じた。
「い、いけない! それだけはいけない!! そんな事すれば君は、今度こそ死ぬぞ!」

「それが望みなのです!!」
 血影は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。 
「他に! 他に私に何がありましょうか!? もう……死なせて。これ以上、”あの人”を想いながら憎悪するのは嫌です……助けてカルル先生……」

「いいから、今日はもう遅い。おやすみなさい。これを飲んで」
 
「”あの人”が一瞬だけ見せた……あの優しい眼差しが、今も、色褪せずに、瞼の奥に焼き付いているのです……」
「わかった、もう言うな。わかった……」

 カルルは、薬を血影に飲ませると、ベッドにブランケットをかけてやった。
 
 眠る少女の頬を伝う、涙の痕が消え無い……

 
 殺華は、廃寺に帰ってきてから、しこたま殺目に叱られていた……

「どうしてそう服を汚すのだ! しかもその血だらけの棒はなんだ!?」

 殺華はバツの悪そうにちょこんと正座している。
「む〜ん、抜き差しならぬ事情があったのだよ。殺目ちゃんよ」
 殺華は、何故か正座しているくせに長者の装いを気取っている。それが、実にふてぶてしい様になっている。

「で! 何故昨日は帰宅せなんだ? 薬丸流とはどうなったんだ?」
 殺目が言うと、殺華は早くも胡座をかき、腕を組んだ。そして鼻息荒く発奮する。
「チェーストだよぉぉお!! 僕は門下としてみとめられたのだよおお」

「……そうか」 
 殺目はそれだけ言った。

 何時もの囲炉裏の前の頼母壮八と指宿熊八は笑って頷いている。この二人は、殺華を信じていたようだ。

「ようがす」
「喜ばしいこっ」

 二人はそれだけ殺華にかけてやった。

「うぉおおお! チェーストぉ!!」

 殺華は余程嬉しいのか、立ち上がって興奮している。
「うるさい! 埃が立つから大人しくしていろ!!」

「あ、それから殺目ちゃん……僕ね、暫く肝付君の家で自顕流の荒稽古だよ! 武者修行なんだよぉ!!」
「わかったから、一々怒鳴らなくていい!」 

「うむ、イッタコンメ!」
 壮八が目を瞑って一言吐いた。

 イッタコンメ、という言葉は”早急にするがいい”という言葉である。

「おおぅ! チェ……」
 その口を塞ぐ殺目、そして壮八を見やる。
「その意は!?」
 すると、壮八に変わり、指宿が話し始める。
「近い内に、肥後(熊本)の同志たちと合流し、本州に船で出ます」

「船で? 筏でも作るのか?」
「いいえ、肥後の同志たちが何艘か出してくれるそうです。勿論、殺目殿と殺華の分も」

「私は、まだ……」
 殺目はまだ気持ちを固めきれていないらしい。
「それでも構いません、しかし、薩摩にずっと足止めするより良いでしょう? 悪い話ではありません。勿論、道中我々が、命を掛けてお守りしもす」

「止めてくれ、守られて行を共にするのなんてガラじゃないよ……私は」

「でも、殺目ちゃんは寂しがり屋じゃないか! 本当は誰かといつも一緒に居たい癖してさ! 今更隠したって遅いんだから」

 殺華は殺目の手を振りほどき言った。
「なんだと! 貴様っ」
「なんだよ!」

 殺女の喧嘩である。

 二人は表で素手で殴り合い出した。

 薩摩では、喧嘩など日常茶飯事なので壮八も指宿も気にも留めない。
 細かい事で遺恨を重ねていくより、素手で殴り合ってその場で解決すというのが薩摩の作法である、そのかわり、これ以降に遺恨を続けるものは”卑怯”とみなされるのだ。

「ナンダ殺目ちゃんのコノヤロー! 僕だって負けないいんだゾ!!」
「きさまぁぁ!! 妹の癖に生意気な真似をするなぁぁ!」

 殺目は、地面に殺華を引き倒し殴りつけている。しかし、殺華は下から足を殺目の腰に絡め背筋を伸ばし殺目の腕が顔面に届かない様に重心移動をし出した。これは所謂現代の柔術のではガードポジションといわれる戦術である。
「うわぁぁぁん痛いよ! このっ絶対に許さないぞ、殺目ちゃんには言いたい事が山程あるんだよ!」
「うるさい! 足を解け馬鹿め! このっこの!」

 殺華は殺目の右手を掴むと、そのまま思い切り自分の頭を支柱にして前方にでんぐり返しする!

 すると、それに引っ張られる様に、殺目は前方にもっていかれて地面に頭を打つけるが、殺華も頭が痛いので大した返し技ではない。しかし、ここでもつれる事が殺華の狙いであるのだ。

「うわぁぁぁこのこのお!」
 殺華は両手をぐるぐるさせて殺目の上に被さった。しかし、同じ様に殺目も足で殺華が腰に足を入れられない様にコントロールしている。殺華が殺目の腰に足を差せばマウントポジションである。そうすれば脱出が困難な上に上からパンチを浴びせ放題である。

「この! 殺目ちゃんは卑怯なんだよ! 自分の思いを隠してる癖に、自分じゃ何もしない! その癖に昔を引きずって、いつも独りになろうとする! でも僕知ってるんだ! 殺目ちゃんは時々布団で寝ながら泣いてるじゃないか!!」
「きしゃぁ(貴様)になんぞ、わかっちゃっか!? 餓鬼が!」
「だったら僕がわからせてやるんだから!! チェェエ!」

「騒がしか……」
 壮八が二人を見て微笑んだ。  

Re: キチレツ大百科 ( No.145 )
日時: 2017/02/16 07:16
名前: 藤尾F藤子 (ID: ZVqxEqci)

「あ〜ん!! うぎゃーん痛いよぉお」

 殺華のガチ泣きである。
 殺華は、本気で泣くと、元々の幼児性が更に顕著となる。戦や殺伐の場で泣き出し逃げると言う事がない代わりに、普段何気のない喧嘩や気に食わない事があると、こうして子供のように泣き喚き癇癪を起こすのである。

「あ〜〜! うわぁぁぁぁぁ!! わああああ」

 殺華は、ゴロゴロと転がりながら喚いている。

 半刻余り、二人は殴り合い縺れて罵り合った挙句のこの有様である。

「はっはぁ……! 見苦しいぞ殺華!!」
「あぁぁぁぁぁあん! ウェエエエ……おええん! うぇうぇっ」

 もはや殺華は何を言っても聞かない。

「このっ!」
 もう一度駄目押しで殺目が蹴りを入れた。すると殺華は地面に突っ伏しておいおい泣き出した。殺目は、明らかに何時もよりイラついていた。

「もうよかとよ、こい以上はやめときいやい」
 頼母壮八が、殺目の肩を掴む。
「チッ……忌々しい泣き声だ」
「うぇぇぇぇ」  

 壮八が殺華を抱き上げる。
「薩摩隼人は喧嘩に負けても泣かんかぞ……殺華、ん? ホレ」
 殺華の鼻先をツンと自分の鼻で突つく。壮八には江戸の薩摩藩邸詰にて妻子がいる。子供の扱いは慣れているようである。
「うぇ、うぇ! うぶぶっえええ〜ん」

「貴様! いい加減にしろ! それでも殺女か!」
「うわぁぁぁん」
 壮八が言う。
「何時もん殺目さぁらしくなか……」
「!? うるさい! そいつを甘やかすな……!」
 壮八に抱かれている殺華に掴みかかろうとする殺目。
 そのとき、壮八が左手で殺目の頬を平手打ちにした。
「!」
「げんなか真似っ晒すな!!」
「……」

 殺目は俯き拳を握ると、そのまま後ろを向き寺の門を出て行った。

 殺華の鳴き声は、寺の外にも延々と聞こえていた。


 官軍第一旅団兵舎。
 漸く、仕事を終え、一息つく死連の横に安死喩が珈琲を淹れに来た。
「本日は、コレニテ?」
「ええ、もう書物仕事はウンザリよ、一息入れたら湯浴みをして就寝する……」
 死連は、カップを持つ手を止める。
「ならば、温めたミルクも用、意……!?

「……」
 死連が、カップからその艶かしい紅を引いた唇を離す。すると、その間から桜に色付いた舌先がゆるりと現れた。
 それが、右下から唇の端を美しく、妖しく這いずるのである……
 その姿は、この世の者とは言われぬ妖美がへばり付いている。それと同時に、少し伏し目がちな死連の眼(まなこ)が安死喩を捕らえた。
「……?」
 安死喩は、もう足元が覚束無い。震えながら、知らずの内に盆を前に抱え内股になってしまう……そんな眼で見つめられると、もしかしたら自分はこの場でへたり込んでしまいそうになる。それは恐怖よりも、安死喩にとっては愉悦である……安死喩は、死連になら殺されても構わない。それは、言わずもがなであると同時に、死連の為に身を捧げ、死ぬと言う事に囚われているのである。
 それは、後ろ暗いほどに淫鬱たる安死喩の個人的欲望だ。そこには最早機智烈斎など介入する余地などなく、政府の事などは、本当は安死喩にとってはどうでも良い事なのだ。

 本来、尉官や、高位の殺女達にはこの種の個人的立場と言うものを抑える訓練が童女の頃より堅く躾けられている。私(わたくし)よりも公(おおやけ)を尊ばなくてはならない。そこには、機智家の衆愚……この場合は、馬鹿な者達ではなく、非知識人、非教養人=民衆であると仮定した衆愚。その人心、政治と言うものを、殺女を操り、倒幕そして、来たるべき新国家にとって都合の良い様に誘導すると言う明確な運用目的に他ならない。
 
 それが、機智家にとっての明治維新であった。

 しかし、下位の殺女はどうしても、個人的立場(私)を尊重しがちである。それを頭から押さえ付けたのは、殺死丸である。そしてそれに、もう少し理知的な立場から下士官にアプローチし統制をとったのが死連である。しかし、この安死喩と言う殺女は薩摩・精忠組系の殺女にとっては一番の問題児であった。民への謂れ無い斬人、同じ殺女への暴行、差別的階級意識の発露。この安死喩が長州に送られていたならば、その命は一日と保たなかったかもしれない。しかし、死連は、この安死喩をこのまま殺すより、然るべき教養を与えて海軍にやる方が生産的と判断したのであった。その為に死連はこの安死喩を側に置き、自ら使役しているのだ。
 
 安死喩は、太腿の内側に、軽く線を引く温もりに、この場を逃げ出したくなる程に赤面している。

「安死喩? 何かあったか……?」
「エッ!! 何もナイ!?」
 見事な迄に即答してしまった安死喩。  
 しかし、死連は特に態度を変えず、そのままカップの珈琲を残すと、舶来の煙草を取り出し、石で火を点けた。
「いいえ……解るわよ?」
「ひっぃ!」
 死連は、独特な煙草の吸い方をする。左手の人差し指と中指の間に、煙草を挟み、口を覆う様な仕草で煙草を吸うのである。そして暫く肺に貯めた紫煙を吐く時は、少し優しげに上空へ舞わす様に吐くのである。
 死連の視線が紫煙と共に上空を揺らいだ後、再び安死喩に戻ってくる。
 安死喩は、この恐ろしく勘の良い殺女の頭目の一人である死連に畏敬した。
「ひひぃ、そ、その! ご、ごめ……!」
 もう、この場でいっそ手打ちに成って呉れようか……?
 頬を赤く染めながら、引き攣る愉悦の顔。
 
 「そう、少し豆の撹拌が足りないかしらね……? 恐らく、粉がお湯を注いだ後、平になっていないわ。恐らく火からサイフォンを離すタイミングが早かったのね。ふふ、さりげなく……そうさりげなく粉をヘラで撫でてやるのよ? 優しくね……」

 それだけ言うと、死連は又、煙草をふかした。カップの珈琲はもう手を付けていない……

「は、はいいぃ……」
「お前も、もうおやすみ。安死喩」

 安死喩は、急いで自分の部屋に戻るとそのままへたり込んだ。
「バレては……いなっ……いっ!!」
 安死喩は涙目でそのまま頭から倒れ伏す。
 下半身から、床に広がる染み。その中でうっとり目を閉じる安死喩……


「ふ……む」
 煙草を吹かしながら、死連は天井を仰いだ。

 確証はない。しかし、あれだけの珈琲の味のブレは記憶にはなかった……
 実は、死連は珈琲が特別好きで飲んでいるのではなかった。しかし、何故ワザワザ安死喩に毎日、事ある毎にサイフォンで丁寧に珈琲を淹れさせるのかと言うと、その日の安死喩の精神状態を図る為である。死連は、こうした極日常の習慣にこそ目を配っている。

 ”何か隠している”それは間違いない。
 
 死連は廊下に出て、兵舎の一階に下る。
 この施設は、西郷私学校党軍施設を戦後接収した建物である。
 それに新政府軍が手を加え兵舎としている。簡素ながらもレンガ製である。
 

 その兵舎の傍には下士官達の宿舎施設がある。
 そこに、死連が秘書としている文官の大徳寺の部屋もある。そこへ、夜半過ぎにも関わらず死連が訪れる。
 仰天したのは大徳寺である。この様な時間に女人が部屋を訪れるなどは、此の時代では常識外である。夜這いと思われても仕方がない。

「どうなさったのです!?」
 大徳寺は、何を言っていいのやら焦りまくる。

「夜分にすまない、すこし……いいかな。そう月夜の”散歩”でもどうかしら?」
 大徳寺は公家であっても愚かではない。何かあったかと一瞬で感じ取った。そしてそれは、安死喩の事であるとも。

 二人は兵舎を出て夜の市内を歩く。提灯行灯には、薩摩藩の島津円十字が書かれた物を使う。この紋に斬りつけて来る物は薩摩にはいないからだ。

 大徳寺は、死連の後ろを歩きながら、迷っていた。安私喩の事を言うべきか……
 暗い、市中。この時代まだガス灯ですら薩摩にはない。帝都の日本橋などでは、もうすっかり夜は煌々と明かりが煌めいている。

 暗闇を提灯一つで歩く二人。行燈の油に混じり、死連の高雅な香りが大徳寺の鼻を掠めていく。
「夜は冷えます、死連様。私のこの羽織を着て下され……」
「ふふ、ありがとう。貴方のそういうところは、とても素敵よ?」

「まま、誠にき、恐縮の至りです」
 大徳寺は、緊張しながら自分の羽織を死連へと掛ける。
「気が効くというのは大切な事よ? 大事になさい……」
「は、はい」

 死連は、そう言うと、また夜闇を提灯の明かりで切り裂き歩き始める。

 少し経つと、大徳寺が恐る恐る切り出した。
「安死喩様の事でありましょうか……?」
 死連は、口の端を上げる。
「貴方は、やはり私の期待に応え得る人物ね?」
 そう呟くと、死連は厳しい口調に変え、大徳寺に言った。
「大徳寺政直、申し渡す。本日より暫く安私喩を見張りなさい……これは命令である」

 死連は、命令という言葉を使ったからには、大徳寺にこれを断る権利はない。また、その動機を死連れに聞くことも許されない。

「はっ! 命令、頂戴いたしました! 身命に賭しましても」
 直立で答える大徳寺。

 しかし、死連はこのまだうら若い、青年を殺女にみすみす殺させると言う事も良しとしていない。

「命は大事だよ? これを持っていけ」
 死連は、島津円十字の入った自分のハンケチーフを大徳寺に投げる。
「万が一の時は其れを見せるんだ、そうすれば決して安死喩はお前を殺せない」
「は、はぁ……」
 唖然とする大徳寺を捨て置いたまま、死連は思案する……

「ふふ、安死喩、血影、殺目、殺華……私と”殺死丸”か……」

 戦力的には殺目。殺華は今のところ、論外である。血影は傷物……安死喩をどうするか……殺死丸はこの薩摩に入るとすれば猶予は半月と見て良い。半月以内に殺華、殺目両名を挙げるか。討ち果たす……だが、血影は何を考えているかわからない。安死喩も何かを隠している。

 死連は、頼りのない光の月を無視して冷笑した。


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