二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- イナズマイレブン4 呪われたフィールド! エース/ジョーカー
- 日時: 2012/11/23 17:03
- 名前: しろお (ID: 1umF9w7B)
「俺が……、エースか」
伝説の高校生ストライカー豪炎寺修也———を従兄弟に持つ普通の高校生、豪炎寺真人(まさと)。彼は親の仕事の都合で日の出島という、自然豊富な田舎へ越すことになった。初日、見晴らしのいい岬で彼は大きな石につまずきそれを壊してしまう。実はその石というのが、ただの石ではなくかつての大戦の戦死者の慰霊碑だった。
“サッカーに勝たないと消える”
全てを賭して、呪われたピッチに少年は立つ。
イナズマイレブンシリーズ第4弾。
呪われたフィールド! エース
テーマは「代償」
〜作者挨拶〜
ジョーカーの更新始めました
『強くなれ』
愛媛にある至って普通の高校、花丸高校に入学した不動は、性格正反対、生涯のライバルとなる正義漢、立沢仁之介と出会う。
競り合い、そして成長する中である日、試合中に謎の人物が乱入してくる。
それこそが本当の、波乱に満ちた2人のサッカー人生の始まりだった。
強さとは何か? 正義とは何か?
2人の少年はサッカーを通してその答えを求める。
イナズマイレブンシリーズ第四弾
呪われたフィールド! ジョーカー
テーマは「正義」
……多分
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- Re: イナズマイレブン4 呪われたフィールド! エース ( No.64 )
- 日時: 2012/03/17 13:10
- 名前: しろお (ID: dKbIszRw)
2月1週
外は雨。
バレンタインデーが近づいてきている。が、真人が机につっぷくして暗い雰囲気をかもしだしているのは、そのせいではない。
真人は、大事なものを、かけがえの無い仲間を、また失った。あの日の夜も雨だった。
灰色の雲は今日も空を漂っている。
「真人くん、元気ないでやんすね。きっと一つくらいならチョコもらえるでやんす! だから元気だせ、でやんす!」
山田に肩をバンバン叩かれて、真人は顔をあげる。
「山田くん……。そうじゃないんだよ……島岡くんが……」
「島岡くん? 誰でやんすか?」
「……いや、いいんだ……」
真人は悲しげに視線を落としてから、顔を腕のまくらにうずめた。
うとうととし始め、とうとうまた眠ってしまったのである。
真人は夢を見ている。場所はどうやら、サッカー部の部室のようだ。
(懐かしい。これは、俺の記憶……?)
夢は、記憶を元に作られているという論文があるが、果たしてどうなのだろうか。
真人は片づけをしていて、練習はもう終わった後だった。真人が部室の前に来ると、中から声が聞こえた。ドアが少し開いていて、その隙間から真人は覗く。
島岡が神木を抱擁している。真人は言葉が出ず、「なんだこの夢は!」と心の中で叫んで走ってその場から離れた。
(夢だ! 全部夢だ! これも、島岡が消えたことも全部……!)
目を覚ますと、いつもの教室に真人はいた。
「大丈夫? 真人くん。サッカー、頑張りすぎなんじゃない?」
神木が心配そうに言う。島岡が消えてからというものの、真人は雨の日でも狂ったようにサッカーボールを蹴り続けていた。
「私も最近なんか変なのよね。前は、チョコをあげる相手がいたような気がするのに、今年になって……。うーん、気のせいかな?」
真人は、それが島岡のことだとなんとなく感じた。もしかすれば、そのチョコを渡す相手は富田先輩だったかも知れないし、小林ということもありえる。それでも島岡だとしか思えなかった。
雑談でにぎわう教室に、HRの予鈴と共にみゆき先生が入ってきた。
「はいはいみんな、静かにー」
生徒は徐々に席に着き始める。
「今日は転校生がいます! えーっ、イタリアから来た……えーっと、読めないな……。おに、みちくん? かな。入りなさーい」
真人は死んだ魚のような目で、教室の前のドアに視線を向けている。
入ってきた生徒を見て、クラスは騒然とした———全員が息を呑んだ。
「鬼道有人だ。よろしく頼む」
誰も、何も反応できなかった。目の前の人物がいくら奇妙なゴーグルをつけていようとエビフライのようなパーマ頭をポニーテールにしていても鬼道と名乗っても、こんな田舎高校に、あのイナズマイレブンの一人鬼道有人が転校してくると、誰が信じられるのだろうか。
「あれー。みんな、なんで固まってるの?」
みゆきはサッカーに関しての知識は疎いため、鬼道のことをよく知らないらしい。
「先生。俺の席はどこですか」
「え? えっとそうね、あそこの席よ」
かつて島岡が座っていた席だった。鬼道は視線を集めながら、席に向かっていく。
(本物だ……! 本物の鬼道有人だ……! テレビで見るより背が低いような……!?)
真人は息をするのも忘れていた。
「あ、あれ、これ。夢でやんすか。おかしいな、富士くん、オイラの頬をつねってほしいでやんす」
「僕も驚いたよ……。えいっ」
「いたたっ。痛いでやんす」
真人は無我夢中で、まだHRは終わっていないというのに鬼道の方へ向かった。生徒も呆然としてただ目の前の出来事を刮目している。
「き、鬼道くん、なんだよな」
「ああ。ん? おまえ、どこかで会ったことあるか?」
「いや会ったことはない。でも、俺の従兄弟と会ったことはあるはずだ」
「従兄弟だと?」
「俺、豪炎寺修也の従兄弟なんだ。サッカー部に入ってくれないか?」
- Re: イナズマイレブン4 呪われたフィールド! エース ( No.65 )
- 日時: 2012/03/21 22:16
- 名前: しろお (ID: udG14aXH)
そして放課後————
「真人くん! なんで豪炎寺さんの従兄弟だって黙ってたでやんすか!」
「そうですよ。出し惜しみしてかっこつけたつもりですか?」
「い、いや、そうじゃなくて。ほら、俺サッカーそんなに上手くないだろ?」
真人は拳をぐっと握り、唇を噛みしめる。その顔からは、今までの苦労がにじみ出ているように、堤と山田には思えた。
「……俺、昔は従兄弟と同じ風になろうって思って、無理してクールぶってた。でも、結局、人は誰かに完全になりきることなんかできなくて、サッカーだって下手なままで……。それで従兄弟と比較されるのが嫌になって、日の出高校では、サッカーはやらないつもりだったんだ」
「あ、あれ? な、なんかごめんでやんす」
「私も軽率な発言をしてしまったようですね」
「いいんだ。みんなと会えて、やっと最近、自分らしさが見えてきたから」
「そうなんでやんすか。ところで、鬼道さんは入ってくれるんでやんすか?」
「いや、……『すまない、サッカーは辞めた』だってさ」
「こ、ことわり方までかっこいいでやんすね……! なんで辞めたんでやんすかねー。勿体ないでやんす。天才とまで言われてたのに」
「はいはい、それなら私が答えちゃうよー!」
「あ、神木さん」
「みんな鬼道財閥は知ってるでしょ? 日本有数の大企業。それが、この島をリゾート地にするためにここに来てるんだってさ。ニュースでやってたよ!」
「ああ、それなら僕も知っていましたが、まさか鬼道くんが転校してくるとは思いませんでしたよ。細かく説明すると、僕が作ったHPが話題を呼んで、鬼道財閥がそれを聞きつけてここに来たんです」
「じゃあ会社を継ぐから、サッカーを辞めたということでやんすね」
「そうね。でも鬼道くんがサッカー部にいたら本当に儲けものよねー。だって、親のコネで設備とかも一流のを揃えてくれるだろうし、部費も浮くんだろうなー」
「よし、明日もう一回アタックしてみるよ」
真人達は、教室を出てグラウンドへ練習しに向かった。
今日もサッカー部は汗を流して練習に励む。5月にある春の大会に向けて、勢いは増すばかりだ。
職員室の窓から、部員達を眺める鬼道。
鬼道有人は大会社の社長である父親の都合で、イタリアへ行っていた。中学サッカー界では『天才ゲームメーカー』と呼ばれていた彼は、そこでもサッカーは続けたのだった。
鬼道は、職員室の窓から、真人達の練習を見ている。
気配を感じ、はっと我に返る鬼道。
「鬼道くん? 何か用?」
「申し訳ありません、ヨミ先生。書類を提出するのを忘れていたので」
「あ、ああ。これね。ねえ鬼道くん、サッカー部入らない?」
「入る気はありません」
「そっかー。でも豪炎寺くんすごい熱心だし、先生としては助けてあげたいのよねー」
「(豪炎寺、真人。俺にサッカー部の話を持ちかけてきたあいつか。豪炎寺の従兄弟だと言うからどんなのかと思ってみれば……)」
鬼道はちらっと窓の外に目をやる。真人はシュート練習をしている。
「(はっきり言って二流、いや三流だな。あれじゃ高校サッカー界は勝ち抜けないだろう。部室も練習環境も最悪だ)」
鬼道はイタリアでプレーしていたので水準が少し高めなのもあるだろうが、彼の目にはそう見えた。
「鬼道くん? おーい」
「あ、ああ。すみません。これで失礼します」
- Re: イナズマイレブン4 呪われたフィールド! エース ( No.66 )
- 日時: 2012/03/17 16:59
- 名前: しろお (ID: .Gl5yjBY)
平日、鬼道と真人は、偶然玄関で会った。
「あっ、鬼道くんおはよう」
「サッカーならやらないぞ」
「頼む! 国立に行かないとダメなんだ! いや、絶対に国立に行くから入ってくれ! 俺は、俺達は本気なんだ!」
真人の気迫に、鬼道は圧倒される。島岡の思いを背負っているだけあって真人の目には強い意志がある。
「……いいだろう。おもしろい、だが一つ聞かせてくれ」
「本当か! なんでも聞いてくれ!」
「何がお前を動かす?」
「え?」
「どう考えても、お前らの環境じゃ国立に行くことは不可能だ。サッカーをやっていればそのくらい分かる。しかしお前の目は本気だ。何がお前をそこまで本気にさせる?」
「……そ、そんなの。それは……」
「大切な何かのため、とか言う奴か? そんな答えだったら俺は入らない」
「違う!」
「じゃあ、答えを言ってみろ」
鬼道の問いに、真人は少し考えてから答える。
「……この島は田舎で、俺が前にいたところに比べたらすごく退屈なところだよ。娯楽は無いし、きれいな自然以外何も無い。でも、いろいろなことがあって分かったんだ」
足を止めて、真人は鬼道の方を見る。鬼道は向かい合う。
「大切じゃないものなんて、無い。俺が本気なのは、俺だけの問題じゃ無いからだ」
鬼道は黙って、真人の目の奧の、心を見る。真人はなんだか照れくさくなって、視線を逸らし、他のことを話し始めようとした。
「俺、鬼道くんが最後のチャンスだって思うんだ。島岡くんが残してくれた、俺達サッカー部最大のチャンス。奇跡は待つものじゃなかった。自分たちで起こすものだった。信じられないよ! あの鬼道有人が目の前にいるんだ! 夢だよな、夢じゃなかったらもう俺、訳分かんないよ……」
真人は困惑の表情を浮かべて見せる。鬼道はふっと笑い、「それがお前の答えか」と呟いた。
鬼道はゴーグルを外し、裸眼を真人に見せる。赤みを帯びた茶色の、鋭い瞳である。
「多分、よく分からないけど、そうだと思う」
「それなら俺が見せてやろう。夢の続きをな」
- Re: イナズマイレブン4 呪われたフィールド! エース ( No.67 )
- 日時: 2012/03/17 22:03
- 名前: しろお (ID: D2NnH/3T)
鬼道がサッカー部に入部し、部員達は歓喜に沸いた。夢の気分とはまさにこのことだろう、現実とは誰一人思えない。
「部室はどこだ」
真人が案内する。掘っ立て小屋のような、風が吹けばパタンと倒れそうなしょぼくれた部室だった。
鬼道は「これが部室だと?」と憤り、早速鬼道財閥の力を使って工事を頼み、どでかいクラブハウスのようなものを創設した。トレーニングルームを内蔵しており、ランニングマシンから流水プールまで、まるで一流のスポーツ施設だった。
「グラウンドはどこだ」
真人が案内する。荒れ果てた、ボコボコの地面と、砂埃の多いグラウンドだった。
鬼道は「これが練習場だと?」と怒り狂い、またも鬼道財閥の力を使って工事を頼み、サッカー部が使っているスペースに人工芝を敷き、何に使うんだかよくわからない巨大なマシーンを設置した上に、ナイター練習ができるようライトまで準備された。
「雨の日は地下で練習を行う」
そしてあげくの果てに、地下に第二練習場を作り始めている。
「一流の監督を呼んだ。紹介する。かつて木戸川清修中で監督をやっていた二階堂監督だ」
「初めまして。今日から私が監督だ」
「そしてコーチも呼んでいる。スペインのユースクラブでコーチしていた経験もある、アルベルトコーチだ」
「ハーイ、コンバンハー」
「そして最後に……俺の仲間が駆けつけてくれた。紹介する。元帝国学園の参謀、佐久間と、守護神キーパー源田だ」
「よろしく。佐久間次郎だ」
「源田と言う者だ」
「元々二人は市立船橋高校のサッカー部だったんだが、俺がサッカー界に復帰すると言ったら協力してくれたんだ」
佐久間と源田がにっと笑う。
「もう一度だけ、鬼道と一緒のチームでプレーが出来ると聞いて、俺と源田はいてもたってもいられなかったんだ」
眼帯をつけた長髪の少年、佐久間が言う。女性的な柔らかい顔つきである。
部員達は開いた口を塞げずにいる。 真人は目を疑い、ごしごし何度もこする。富士は緊張しすぎて、心臓が飛び出しそうになる。山田は眼鏡を一旦外し、拭いてからもう一度かけるを繰り返す。黒野三兄弟は特に動かない。堤は絶句している。小山と森本は卒倒している。宮市は、固まったままただ唖然としている。
佐久間と、源田と、鬼道が並んでいる。部員達の目にうつるのは別世界の空間のようで、目の前の光景を信じることなど誰もできない。
鬼道の携帯電話が鳴る。父親からだった。鬼道はその場をいったん離れ、通話に出る。
『有人。どういうことだ。サッカーは辞めると言っただろう?』
「申し訳ありません、父上。ですが、見つけてしまったのです。面白い奴を」
『……私は』
「分かっています。もし……もし僕が全国大会で優勝出来なければ、二度とサッカーには関わらないと誓います」
『私にだってサッカーの知識くらいある。そこまでサッカーがやりたいなら、無理にとは言わない。お前の人生だからな。高校で全国制覇なんて、不可能だ。そんな条件など付けなくていい』
「いえ。これは僕なりのけじめです。今回こそ……未練を断ち切ることができる気がするんです」
『まあお前が言うなら、それでいい。だが本当にいいんだな?』
「はい」
『……わかった。私にできることがあれば、なんでも協力しよう』
「ありがとうございます、父上」
- Re: イナズマイレブン4 呪われたフィールド! エース ( No.68 )
- 日時: 2012/03/17 21:59
- 名前: しろお (ID: D2NnH/3T)
2月2週
バレンタインデー当日。
「やあ、真人くん。調子良さそうでやんすね。チョコはもらえそうでやんすか」
「いいや。でも、神様からチョコよりもありがたいプレゼントをもらったから、もらえなくても満足だよ」
「鬼道くんのことでやんすか。本当、夢を見てる気分でやんすよ。これが現実なんだから、きっと国立も夢じゃないでやんす」
「はは……。佐久間くんと源田くんのプレーを見たけど、凄かったね。別次元のサッカーだよあれは」
「源田さんと言えば、、立向居さんと円堂さんがユース所属でやんすから。実質高校サッカー界のゴールキーパーでは最強クラスでやんす。たしか去年の大会で連続無失点記録を塗り替えたんでやんすよね」
山田と話していても、島岡のことばかりが頭をよぎって、真人は現実に集中できない。
「まあ真人君はチョコなんてもらえないに違いないでやんすから、オイラが代わりにプレゼントしてやるでやんす!」
「これは……」
真人は『福引き券』を手に入れた!
「福引き券?」
「今月まででやんすから、そこのところは気をつけろ、でやんす」
「ありがとう!」
その後英語の授業でみゆき先生が抜き打ちテストを行い、満点を取った者がチョコをプレゼントするというのがあらかじめ言ってあったので鬼道と堤が見事に獲得した。
放課後、真人がグラウンドへ向かう途中の道で、天本が手に何かを持って真人に駆け寄ってきた。
「これをあげます」
「えっ。いいの? ていうか、え、何で?」
困惑しつつも、驚きと喜びが真人の顔には表現されている。
「真人さん、この間授業中寝ている時に『あー誰かチョコくれたら俺ぜったい呪い勝てるわー。余裕だわー』と寝言を言っていらしたので、つくってみました」
「俺そんなこと言ってたのかよ……。え!? 手作りなの!? ちょっと開けていい!?」
真人の口元はゆるんできている。
「どうぞ」
真人が包装から中身を取り出すと、黒っぽい肉の塊のようなものが入ったタッパーが出てきた。
「祖母が和菓子ばかり好むので私も和菓子しか知らず、『チョコ』なるものが一体なんなのか分からなかったので想像でつくってみました」
「えっと……。これは……」
とりあえずは、どう見ても食べ物では無かった。
「あら。食べないんですか」
「い、いただきます……」
真人は腹痛で、その日の練習に参加できなかったという。
2月3週
島岡のことを考えてぼーっとしている真人のところに、山田が変なダンスをしながら向かってくる。
「最近、梅岡先生を見ないでやんすね」
「ん? ああ、たしかに、そうだな」
山田と真人が言うとおり、梅岡は欠勤が続いている。そのため体育の授業は自由時間となり、真人達はその時間はサッカーをしている。サッカー部としてはありがたいことである。
「ねえ、最近みゆき先生が裏庭で泣いてるところを、よく見るんだけど」
富士が素っ気なく、話題を出す軽い口調で言う。
「どこで?」と真人が聞くと、「だから裏庭だって」と富士が答えた。真人はそれを聞いて、島岡が消えた日のことを思い出していた。
(まさか梅岡……!)
真人が裏庭に行くと、誰かがむせび泣いているのが分かった。
「先生。なんで泣いてるんですか」
「え……豪炎寺くん……」
「梅岡っすね」
「違……違うのよ……」
裏庭の陰で、富士と山田が会話をこっそり盗み聞きしている。小さい声で、「もうちょっと近づかないと聞こえないでやんすー……」と山田が言う。
みゆきは黙ったままで、涙を拭いている。
「なんで何も言ってくれないんだよ! 俺が生徒だからか? 部員だから? いつもみゆき先生には顧問の仕事とかやってもらって感謝してる! だから、相談とかあったらのってあげたいんだよ!」
「先生……もう少し、ここにいていいのかな」
「はぁ? 何言ってるんだか全然分からないよ!」
「先生、サッカー部のみんなの役に立ってるかな……?」
「そんなの当たり前ですよ!」
「そっか。ありがとう、そうだ! 豪炎寺くんにチョコレートまだ渡してなかったよね? みんなにはもうあげたんだけど、真人くんあの日部活休んだじゃない?」
「え、いいんですか。ありがとう、ございます……」
「いいのよ。豪炎寺くん頑張ってね! 先生も、頑張ることにしたから!」
「元気が出たみたいでよかった」
その時、ぐーっと間の抜けた音が辺りに響いた。音のした方を見ると、山田と富士が草の茂みからこちらを見ていた。
「……何やってんの」
「ああ、ホラ! 山田くんのお腹の虫が鳴いたせいで気づかれちゃったよ!」
「お腹が空いてたんだからしょうがないでやんす! まあとにかくみゆき先生が元気になったから結果オーライってことにするでやんす!」
真人が何か発言する暇も無く、次の授業の予鈴がなった。
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