コメディ・ライト小説(新)

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COSMOS【無期限更新停止・親記事にてお知らせ有】
日時: 2018/12/27 00:44
名前: Garnet (ID: lQjP23yG)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?mode=view&no=10581


 こんにちは、Garnetです。クリック・閲覧、ありがとうございます。

□このスレッドは未完結作品であり、今後の更新は無期限で見合わせていること
□最低限以上の物語の構成力を求める方にはおすすめできないこと

 をご理解ください。
 それでも読みたい、と言ってくださる方は、ありがとうございます。もくじから閲覧、またはスレッドから直接どうぞ。



まえがき 兼 お知らせ

 カキコにたどり着いてから、もう何年が経ったのでしょうか。記憶力があやしいもので……。
 おそらく、このスレッドは初めてGarnetとして立てたものです。衝動的にプロローグ(真っ暗で、何も ~ 見つけ出します のやつです)をダダダダッと書いたのは覚えています。とりあえず短いのを一本書いてみるか、というノリでした。
 当時、自分なりの癒しのひとつを探した仮の結果が『COSMOS』の執筆という形になったのでしょう。しかし、今読み返すとひどいものです。まず物語の構成がなっていない。「あなたは何を書きたかったの?」と、過去の自分に問いただしたいくらいに。この物語のために、貴重な時間を割いて読んでくださった方には、とてもとても申し訳なくてたまらないです。登場人物への愛情も、薄いものでした。
 昔の自分に言いたいこと。やめてほしかったこと、逆に、してほしかったこと。山ほどありますが、書き出したところでどうにかなるわけではありません。
 黒歴史、と言いきり、管理人さんに削除依頼を出せば、少なくともわたし自身はすっきりします。でも、それはどうしても躊躇われました。もし自分が、この作品を好きだと言ってくれる読者の立場だったら。応援してくれていた方の立場であったら。そう考えたとき、何もなかったことにはできないなと思ったのです。Garnetという存在の、原点でもありますし。
 書く側にとっても読む側にとってもベストなのは、きっと、きちんと作品が書き上がり、物語が終わりを迎えることです。それがここではできなくなってしまった。ならばできることは何かと考えて、ひとまずスレッドにはロックを掛けず、そのままにしておく、という選択に至りました。
 もしかしたら、気が変わって、ある日突然削除しているかもしれませんし、執筆を再開して、完結させているかもしれません。
 この考えをだれかに押し付ける気はありません。あくまでも、ひとつの、わたしのやり方として受け取っていただけたらいいなと思います。
 本作の番外編やスピンオフ作品の扱いについては、追々、ゆっくりと決めていく予定です。

 
 これまで、この作品をすこしでも読んでくださった方、アドバイスやコメントをくださった方、応援してくださったり、大会のとき、投票してくださった方々に感謝を込めて。
 改めて、ありがとうございました。







真っ暗で、何も見えない。
何も聴こえない。

自分が何者かも、わからない。

でも、
貴方のことは
ちゃんと憶えている…

碧い瞳

真白な肌

琥珀みたいな髪

長い睫

細い指

クリスタルみたいに、透きとおった声。


すべてが
自分を包み込む。

でも、空しく その記憶さえも風化していく…

名前…
なんだったっけ?


次に目を覚ましたときも

必ず貴方を

見つけ出します―――――――






(2017/8/14)新板へのスレ移動が完了しました。

(2015/4/6)URL欄に プロフィールのURLを貼り付けました。
一部を除き、各スレッドのURLを整理してあります。


【もくじ(新)】>>163

【もくじ(旧)】>>160


Special thanks(`ー´ゞ-☆

【Guests】>>302 ☆いつもありがとう☆
【Anniversary】>>131(記録停止)


【Information】>>383

【Twitter】
@cosmosNHTR(こちらは「Garnet」の名前で。更新のお知らせなど、創作関連メインで動かしています)
@garnetynhtr(こちらは今のところ「がーねっと」の名前で)





念のため、養護施設や乳児院、児童とその保護者についての法律関連のことや実例などは調べさせていただいたりしましたが、すべて正確にこの世界に写しとることは不可能と判断したため、本作ではこのような設定や物語の形をとらせていただきました。
違和感、不快感などありましたら申し訳ございません。
 
 
 

Re: COSMOS ( No.382 )
日時: 2016/03/02 14:52
名前: Garnet (ID: ihccHRsB)






柔らかい陽の光を感じる。
身体が自然にそれを求めて、目蓋が勝手に開いた。

何故か自分の部屋に居て、布団で眠っていたみたいだ。
優しく、肩まで毛布が掛けられている。
それを退かして、身体を起こそうとしたのだけど、右手が何かに引っ掛かっていることに気がついて、其方のほうへ目をやった。

「……あ」

蘭ちゃんだった。
毛布に包まって、温もりのなかで 私の手のひらを握っている。

そうか。
あの後、私…。

そういえば、拓にーちゃんも、同じように傍に居てくれてたっけ。
あの日のことが、遠い昔のよう。

そんなことを考えているうちに、段々と、部屋が金色の光に染まり始めた。
そして、また"あの日"と同じように。
音もなくドアが開いた。

偶然か否かはわからないけど、蘭ちゃんも、寝惚け気味に起き上がる。
とろりとした瞳が私を捉えると、その目は大きく見開かれた。

「な、奈苗ちゃんっ?!」

気が付いたら、繋がれていた手は解かれていて、また、あの日と同じように ぐっと抱き締められた。
ずっと前からお揃いの、甘酸っぱい香りに包まれる。

「良かった……!
 心配したんやで、ほんまに…もう二度と目を覚まさないんじゃないかって、心配したんだから……っ。」
「ごめんね蘭ちゃん、大丈夫だよ。私は大丈夫だよ。
 ……ありがとう。ずっと傍に居てくれたんでしょ?」
「せやで、物置から奈苗ちゃんが見つかってから、ずっと隣に居ったんよ?
 ほんま良かったっ、痛いとこは無い?気分は悪くない?」

大丈夫だってば。なんて笑いながら言ってみる。
髪を撫でられながら、ほんと、きょうだいだな、なんて思ってしまった。

そんな笑いも止まぬうちに、部屋のドアを開けた人物も、此方へやって来た。
眩しい光の中、歳の割りに細い影を落として、綺麗な銀色の髪を揺らして。

「ダニエル!!」

蘭ちゃんが声をあげる。
しかし、黙って見つめ合う私たちを見たからか、彼女は 次に出てきそうになっていた言葉を 喉の奥へ押し込んだ。

――何時も通りに、感情の見えない表情。
何時も通りに、透き通った青い瞳。

「私を見付けてくれたの、貴方なんでしょ?」

無意識に微笑んで訊けば、彼は 驚いたように微細に目蓋を震わせた。

「何となくだよ、何となく。勘、ってやつかな。
 ありがとう。ダニエル。」
「……何故礼を言う」
「え?」
「僕は、お前を殺そうとしたんだぞ。なのに如何して……」

何だ、そんなこと。
落ち着いていた口調が また荒れそうになっていたので、私はゆっくりと立ち上がって、ダニエルに近づいていった。

「前にも言ったでしょ。貴方は、私たちの家族だ、って。
 それ以外には何も理由なんてないよ。理由なんか要らないよ。」
「ナナエ…」
「ありがとう、ダニエル。」

もう一度、お礼を言った。
例え、ダニエルが 私を家族だと見ていなくても、私は。
私は、彼のことを家族だと思っているから。

そして、じっと見詰めてくる私に困ってしまったのか、

「降参だよ」

白い眉毛を下げて、諦めたように微笑された。

あ……やっと。
やっと、冷たい氷が解けた。

後ろで、蘭ちゃんが微笑む気配がする。

「頭も首も、打ってないか?」
「うん、大丈夫」

訳もなく、互いに笑みが零れる。

「さ、二人とも!早く支度せな!」

すると、栗色の髪をぼさぼさにした儘の蘭ちゃんが、スキップしながら私たちのところへやって来た。

「は?まだ朝食迄は時間が有り余ってるじゃねーか」
「何言うてんのダニエル。
 昨夜の地震から、未だ連絡の取れてない子供たちは大勢居るんやで?
 私たちも何か出来ることをしないと。」
「……そうか」
「えっ、皆と連絡つかないの?」

初耳の事実だ。
あれから眠り姫と化していた私には、衝撃的すぎて 文字通り頭が痛くなってしまいそうな話。

「ああ…うん。結構混み合ってて……。
 震源近くの小千谷市に行ってる知美ちゃんにも、電話が繋がらんのよ。」
「うそ…」

ふわふわと空の上を浮かんでいた気分が、一気に谷底へ落ちていくような感覚。
辺りが一気に陰って、気温がぐんと落ちた。

「そんな顔せんでよ奈苗ちゃん。きっと、皆無事やで。」
「うん……」
「んー、じゃ、まあ、兎に角 顔洗って着替えよ!詳しい話はそれから!ね!」

私の肩を軽く叩いて、蘭ちゃんはささっと部屋を出ていった。
ドアを開けっ放しにしていってくれたのは、細やかな心遣いだろうか。

「ほら、奈苗も行くぞ。僕は、食事以外の支度は済ませてあるけどね」

最後の一言に驚いて、ダニエルをもう一回見やると、確かにきちんと洋服に着替えてあった。
この人は一体、何処まで確りしているんだろう。

うん、と頷きながら、彼に付いて部屋を出ていく。

何時もの 見慣れた殺風景な廊下を歩き続けていると、前を歩いていくダニエルが、何気なく口を開いた。

「……そういえば」
「ん?」

大人びている背中に、聞き返す。

「奈苗が見付けたあの本、隠しておいた。
 もう一度見たければ、後で渡すけど、如何する?」
「え……」
「他人に見られたらマズい物なんだろ」
「そ、そうだけど、何で……」

"私の考えたこと、わかったの?"
階段に差し掛かったところで、彼が歩みを止めた。
飛び出しそうになっていた言葉を飲み込んで、私も 彼の数歩後ろで足を止める。

彼は、そっと振り返って。

「勘、ってやつ」

随分日本語にも馴れたといった口調で、さっきの私の真似をするように、おどけてみせた。
口元が柔らかく動いて、嘘のない動きで銀の睫毛が震えて。

―――――あ、笑った

「えっと、落ち着いたら、元の場所に戻しておいてくれる?
 ありがと、態々、気を遣ってくれて。」
「別に。じゃ、先に行ってる。
 あ、あの本、昨日見つけてからは、中身は見てない。見る積りもないから」

再び、素早く背を向けて階段を駆け降りていく後ろ姿に、ついこの間初めて覚えた 彼の故郷の言葉を投げ掛けてみた。

「Go raibh maith agat.(ゴローマァガット)」

気持ち切り替えて、頑張らなくちゃね。
知美ちゃんたちが、無事でありますように。


《『繋ぎ欠けの星座』完》

【Information】 ( No.383 )
日時: 2018/12/26 22:23
名前: Garnet (ID: /48JlrDe)



〔New!〕(2016/2/24)(2018/12/26 訂正)

時間軸の凡ミスに気付いた為、訂正があります。
>>376最後の台詞。誤:「3年前までアメリカに住んでた」→正:「6年前までアメリカに住んでた」
●鈴木さんの経歴……『大学卒業後、最初から施設で働いていた』ということに変更(表記のあるところは後々ささっと直します)
他にも沢山あるかもしれません。
何しろ、この物語は1940年代前後から現在までを行ったり来たり、舞台も日本国内から英国まで、ころころ変わるため、このぽんこつ頭には少々難題なところがあるのです。

なお、ストーリー上の都合により、登場人物の年齢がはっきりしていないこともありますが、今のところ問題はありません。



(2015/11/19更新)(2018/12/26 訂正)

スレッドのクリック数が5000を超えました。
改めまして、感謝申し上げます。

編集・更新等を進めていく都合上で、本編のレス数を節約(?)しようと思います。
目次も、使い易くなるよう編集します。旧式と新式を作成しました。(2015/4/18 目次編集済み)

Re: COSMOS ( No.384 )
日時: 2016/03/03 23:20
名前: Garnet (ID: aZaWcxCE)


〔翔 9歳秋〜冬〕『まだ、蕾さえ。』



「え?!知美が新潟に?!!」

10月25日。あっちで大地震が起きてから、1日以上経った。
山を越えた 僕たちのいる群馬にも、ところによっては大きな揺れが伝わってきたと聞いている。

先週、エマから借りた本を返そうと思って 隣のクラスに顔を出したんだけど、もう居ても良い筈の知美が居なかった。
教室の壁に掛けられた時計は、もう8時過ぎを指しているというのに。
訳を訊けば、知美の住んでいる施設の人から 電話が掛かってきたらしい。

「うん。結構前から聞いてたんだけど、里親候補の方のところに、金曜日から泊まってるらしくて。
 しかも、ニュースで火事が凄いって言ってた、小千谷市ってところ。」
「えっ……」

ドアから離れて、廊下の窓際へと歩いていく。

そういえば、夏休みに遊んだとき、彼女がそんなことを言っていたような気がする。
もっと詳しく聞いておけばよかった。

「心配になって、今朝も施設に尋ねてきたんだけど、連絡がつかないみたい。
 今日はお休みってことになるね。」
「う、嘘…」

身体から力が抜けて、手に持っていた本が 廊下の白い床に落ちていく。
ふらついた僕を、エマが慌てて支えてくれた。

知美とは、1年生の頃からの付き合いだ。
保育園のときから一緒の 引っ込み思案な麻衣と 良い友達になってくれたし、僕の良い相談相手でもいてくれた。
沢山いっしょに遊んで、いっしょに笑って……。
なのに、それなのに、あんな地震に遭ったって。
あれほどの被害なら、知美の身に何が起きていてもおかしくない。

「ショウ!」
「平気、へいき、一寸目眩がしただけだから。」

そうは言っても立ち直れそうにない。
壁に寄り掛かりながら、ゆっくり座り込んだ。
エマの長い髪が揺れて、僕に手を添えながら 彼女も隣にしゃがむ。
近くを通りかかった2・3人の上級生が、心配そうに 保健室に行った方良いんじゃないか、と声を掛けてきたけど、丁寧に断っておいた。
早退なんて冗談じゃない。

「大丈夫、トモはきっと無事だよ。」
「うん……」

膝を抱えて、顔を埋める。
自分で思っているより、ショックが大きいみたいだ。

小学校受験のときは 心がぼろぼろになっても鞭を打ってずっと前を向き続けてきた。
でも、今は無理みたいだ。
大丈夫、大丈夫、とあのときのように頭の中で唱え続けても、その3文字は はらはらと散って消えてしまう。

どうしよう、もし、もしも知美が   っ

「ど、どうしたの?!」

そんなことを考えていたら、頭上から麻衣の声が聞こえてきた。
慌てて顔を上げて、立ち上がりきれずに彼女の腕を掴んだ。

「と、知美が、学校に来ないんだ。新潟に行ったまんま、帰ってこないんだよ。」
「え、嘘?!」

麻衣が目を真ん丸にして、本を抱えた 僕の隣のエマを凝視する。

「昨日、施設から電話を貰って……。其方に連絡が来てないかって。
 マイとショウの家にも、私から電話を掛けてみたんだけど、居なかったみたいだから言えなかったんだ、ごめんね。」
「ううん、それは気にしてないよ。
 …って、翔くん、顔色悪いよ?大丈夫?!」

幼い顔立ちがぼやけてくる、耳の奥が重くなって、声が曇ってくる。

「あぁ…やっぱり、大丈夫、じゃ、ないかも……」

収まらない耳鳴りに顔をしかめながら、僕は……

「しょ、翔く…!」
「…ョウ」
「ちょっと、そこの君…!」
「村…く……!!」

大声で呼ばれ、肩を揺さぶられ。
離れていく意識に、もがいてみたけど、それは叶わなかった。
真っ黒な闇に呑み込まれていく。

その瞬間が怖くて仕方なかったけど、気付かぬうちに、何も考えられなくなっていた。

Re: COSMOS ( No.385 )
日時: 2016/03/11 19:02
名前: Garnet (ID: lRYj7iSh)

夢も見ずに目が覚めた。
真っ白な天井、吊られた冷たそうな銀色のレール、そこに掛かった淡いクリーム色のカーテン。
静かに響く加湿器と洗濯機の音。
布団や部屋に染み付いた、特有のにおい。

一瞬で、自分が保健室に居るのだとわかってしまった。
絶望的な気分だ。またパパ―――お父さんとお母さんが喧嘩してしまう。

早く起きて、教室に戻ろう。
今、何時だろ?

そう、思って、身体を起こして 靴下越しに床に足を付いたのに。
力が入らず、ぺたりと座り込んでしまった。

「翔くん……?!」

まるで ずっと見張っていたみたいに、素早くカーテンが退かされた。

熱と倦怠感が酷い。
もしかしてインフルエンザなんじゃないかと思ったけど、多分違う気がする。

「熱も下がってないみたいだし……今日は早退したほうが良いわ。
 おうちの人には、担任の先生が連絡してくれたから。」
「えっ。」
「当然でしょう、皆に風邪を感染うつしちゃうかもしれないじゃない。」

保健の先生が そっと手を添えて、僕をベッドに座らせる。
彼女も床にしゃがんでいるので、嫌でも目が合ってしまって気分が悪い。

よく大人は、人の話を聞くときは相手の目を見て聞きなさい、なんていうけど、そんなの嫌に決まってるじゃんか。
偽善と自己中と汚い色でぐるんぐるんの目を見つめろって言うの?
気持ち悪い。

「荷物は、次の休み時間に クラスの子が持ってきてくれるって。
 道具箱の中身が一杯だって言ってたから、教科書とノートと筆箱、あと、連絡帳だけ、ランドセルに入れてくるように伝えたわよ。」
「あ……でも、塾の宿題が…っ。」
「今日は止めておきなさい。家に帰ったら、ちゃんと休養をとること、いいわね?」
「…………はい。」

解ったならよろしい、と、先生は 僕の肩を軽く叩く。
彼女は、きびきびした動きで立ち上がって、直ぐ近くの ノートパソコンが置いてある仕事用の机へ戻っていった。

……何も知らない癖に。

込み上げてきそうな怒りを 必死に押さえ込む。
そのせいか、頭がぼうっとしてきてしまった。
反抗して痛い目を見る位なら、黙ってイイコを演じるほうがましだ。
それに、目眩に負けて また倒れてしまったら、敗けを認めたようで悔しい。

そのあと、長針が 3から4を指す迄ずっと、正面の壁に掛かった時計を睨み付けていた。

Re: COSMOS ( No.386 )
日時: 2016/03/23 22:05
名前: Garnet (ID: LC3jwNYo)




「お昼ご飯は食べられそう?」
「……うん」
「じゃあ、翔の好きなチーズリゾット作ろうか。
 途中でスーパー寄るけど、車の中で待ってられる?」
「……うん」

ルームミラーの奥に見える、お母さんの目元。
マスカラで長くなった睫毛が ぱちぱちと忙しなく動いていて、何だか此方が心配したくなる。

あの後、休み時間が始まってから直ぐに お母さんが迎えに来た。
"先生"にはイイコを貫いて、さっさとランドセルを背負い学校を出ていった。

家の車の後部座席に寝転がり、お母さんが持ってきてくれた毛布に包まって、保健室で貰った氷の袋を手に。
帰りたくて帰りたくない家へと向かう。

足元に置いてあるランドセルの中身は、言うまでもなく、いつもより高い音を響かせていた。

「…………翔。」

冷たさを弄んでいたら、丁度、袋の中の氷に 光が射し込んだ。
キラキラ光って、じっと見詰めていたら、夢の中にいるみたい。

「何?」
「……その、」
「…。」
「ううん、何でもない。」
「…………そ。」

僕がミラーを見なければ、目は合わない。

透明な氷にヒビができて、虹の欠片が 音もなく入り込んだ。







知美だったら、誰も傷付けずに。
思ったこと、素直に言えるんだろうな。

2年生の二学期のとき、麻衣を守っていた、あの真っ直ぐな瞳。

きっと本人は忘れているかもわからないけど。


――――麻衣ちゃんは、あなたたちよりもずっと綺麗な心を持ってる!
    中途半端な努力しか知らないあんたたちとは天と地ほどの差があるの!!
    文句があんなら、私の目ぇ見て直接言えってんじゃボケ!!!!


まあ、あの台詞には流石に驚いたけど。
施設のほうに、親が関西出身のお姉さんが居るそうで、ついつい、うつった癖が爆風に乗ってしまったみたいだ。

何時ものように、朝 学校に着いて荷物を整頓していたら、すごい勢いで知美が教室に入ってきて。
ロッカーの前に群がっていた、例の、麻衣を苛めていたらしい女子たちに突っ込んでいった。文字通りに。
両者ともそれで冷静さを失ったのか、やいのやいのとやり始め、喧嘩途中で登校してきた麻衣本人が 蒼い顔をする始末。

「……っと、知美ちゃん!もういいって!」

2人掛かりで何とか喧嘩を止めた後、先生や 他のクラスメートに波紋が広がってはまずいと、アホらしくはあるものの、一応交換条件を取り付けることに成功した。
こっそり、耳打ちをして。

もし、今のメンバー、若しくはその伝いで また麻衣を苛めようものなら、先週 担任の先生が出張してたときのテストでカンニングしてたことをバラす。
ただし、何も手を出さなければ 自分達もそのことは黙っている、と。
……このやり方が正解なのか不正解なのかは、僕には解らない。

「ご、ごめんなさいっ!
 今朝家を出るとき、瑞くんから初めて聞いて……つい、やり過ぎちゃった……。」

その日の昼休み。
知美が教室の隅に僕たちを呼び出して、真っ赤な顔をして手を合わせてきたものだから、笑い出しそうになったのを覚えている。

「ともちゃんは謝らなくて良いんだよ、私を守ってくれたんだから……」
「僕も、麻衣が苛められてたのに気付かなかったし…」
「もう、やだやだ、気を遣ってくれなくてもいいのにっ、ああ恥ずかしい。」
「ともちゃん……もう忘れようよ。」

麻衣が知美の顔を覗き込もうとするも、彼女は 両手で顔を覆ってしまって、話にならない。
更に僕らの後ろから、

「ねえ、3人とも、そんなとこで何してるの?」

なんて、朝に起こったことを何も知らないエマが訊いてくるんだ、もう。

「ご、ごめん、此方の話〜。」

まあ彼女には適当に誤魔化すとして。
……っていっても、何時か絶対にバレるんだけどね。

そんなことを思いながら苦笑していると、エマは ふうん…と目を細め、回れ右して教室の何処かに消えていった。

「それに、元はと言えば私が……ともちゃんのことを避けてたからだよ。」
「えっ」

知美が、乾いた陰の中で顔を上げた。

「嫉妬してたの、私。
 エマとも、奈苗ちゃんとも、翔くんとも、解り合ってるって感じがして。
 私は……毎日、わっかの外にいるような気がしてた。」
「麻衣ちゃん…」
「だって、4人の中で一番馬鹿なのって、私じゃん。」

麻衣から初めて、その心中を聞いたときのことを思い出した。

皆は皆、友達同士。
私は、誰とも友達じゃないんだ。

エマの家に遊びに行って、僕と麻衣だけ先に帰されたこと。
知美の誕生日会に、当の彼女は エマと奈苗ちゃんと一緒にいたってこと。
僕にとっては、大したこと無いじゃんかって思うことだけど、麻衣には相当堪えたんだろう。
そして、こんなに長い間"わっかの外"に立っていたら、見たくないものまで見えてきてしまう。

何とか彼女をフォローしてあげたいけど、やっぱり、こういうときに限って良い言葉が出てこない。
こうなったら、強制終了させて頭を冷やしてもらおう。そう思った瞬間。

「そんなことないよ!」

知美が、麻衣の両肩を掴んで、また叫んだ。

「麻衣ちゃんは、私にないもの、沢山持ってるじゃない!
 私なんかよりずっと優しくて、思いやりがあって、成績も良くて、持ち物はいつも可愛いし、良いお母さんやお父さんだっている!!
 学校にだって友達は沢山居るし、先生とも仲いいし、塾にだって行けてるでしょ!ピアノだって弾けるでしょ!
 これ以上の幸せって何?!」

目を真ん丸にして固まる麻衣の後ろで、教室に居るクラスメートたちが 一気に此方へ視線を向けた。
勿論、その中にはエマも居る。

嫉妬、僻み、その他諸々。
そんな感情も背中にチクチクと感じられるけど、それって本当は、ただ羨ましいだけなんじゃないの?
それなのに、そういう自分の気持ちに素直になれずに、ひん曲がっちゃう。
どうして、人間ってこうなんだろうね。
誰にだって良いところはあって、誰にだって、悪いところはあるものなのに。

「誰が何と言おうと、私たちは 麻衣ちゃんのこと、ずっと大好きなんだよ?」

人を傷つけずに想いを言葉にできる。
僕は、そんな知美を尊敬している。

そして、そんな知美が、絶対に此処へ帰ってこられるように、祈っている。
曖昧な微睡みの中で。


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