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彼女が消えた理由。 完結 そして、
日時: 2011/08/31 01:40
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://lyze.jp/ix3x/

キャラ説明
>>79

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Re: 彼女が消えた理由。 ちょっとしたお知らせ ( No.135 )
日時: 2011/08/07 08:59
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://ameblo.jp/ix3x-luv/

園松ミユキは小さい頃から母親であるヒロカにべったりで、世話はヒロカにすべてしてもらった。
服を着るのも、お風呂に入るのも、髪をとかすのも、すべて。
ヒロカがやってきた。
そのせいか、ミユキはひとりで何もできない女の子になってしまった。

「あら、千尋。 来てくれてたんだ」

白い病室で俺を迎えてくれたのは、ミユキの叔母さんだった。
名前……忘れたな。 顔は何度も見ていたんだけど。

「えっと……どうも。 ミユ……園松さんは?」

この人の姉を殺した女の息子が、馴れ馴れしくミユキって呼んじゃいけないと思う。
俺は、一応、加害者の息子なわけだし。

「いいよ」 「え?」 「いつも呼んでるふうでいいよ、千尋」

言って。
ニコリと笑う。
不思議な人だ。 目の前にいるのは殺人者の息子なのに。 どうしてそんなに笑っていられるんだろう。

「えっと……ミユキは大丈夫……ですか」
「落ち着いて寝ちゃってる。 んまあ、今回のことは警察とかには公にしないよう言ってあるから」

この人はいつもまっすぐで、ミユキを守ってる。 なんの職業なのかは、未だに分からない。
フワフワとした髪の毛が、小動物を連想させる。 ちなみに、ヒロカにもミユキにも似ていない。

一人用の病室にある、一人用のベッド。
そこにミユキは眠っていた。 左腕には包帯が巻かれており、点滴のチューブが通っていた。

「止血したのはいいけど、けっこう暴れてね。 安定剤を点滴からいれてるの」
「…………えっと」
「蓮奈、よ。 いい加減名前覚えなさいよね、千尋」

そうだ蓮奈さん。
ヒロカのお姉さん。 似てないけど。

「蓮奈さん……は、その……悲しくないんですか」
「なにをだね?」

からっと笑いながら、蓮奈さんが首をかしげる。

「────だから、ミユキが……こんな……自殺未遂して……」
「それは、ミユキが自殺未遂したことを悲しんでるのかって聞いてるの? それとも」

続けて、蓮奈さんが言う。

「それとも、ミユキが死ななかったことが悲しいのかって聞いてるの?」
「もしそっちなら、俺はあなたを軽蔑すると思います」
「ごめん。 ちょっと行きすぎたジョークだったね」

ミユキの髪をサラリと撫でながら、蓮奈さんが優しい目をする。
母親のようだと思った。 少なくとも、ヒロカのようだとは思わないけど。

「この子を引き取る時に覚悟を決めてるの。 わたしが、この子のすべてを守るって。 どんなことがあっても、この子の味方でいるって」
「それがエゴだとしても?」
「それがエゴだとしてもよ」

肝の据わった人だ。 感服してしまう。

「そしてわたしはキミの味方でもある」
「俺の……? どうして」
「簡単だよ。 キミがミユキと同じだから」
「どこがだよ」

俺は、殺人者の息子なのに。 この人だって、自分の姉を殺されてるのに。
どうしてこんなふうに優しいんだ。

「いま、キミすごく泣きそうな顔になってるぞ。 千尋」

人に優しさをむけられるのは、未だに慣れていなくて。
吉川にですら、少し無器用に接しているのに。

「うるさいです」
「淡いねぇ、14歳。 まだ若いんだから、しっかり人生楽しめよ」

蓮奈さんの手が伸びて、同じように俺の頭を撫でる。
そういえば、ヒロカもよく人の頭を撫でていたなと、思い出した。

Re: 彼女が消えた理由。 ちょっとしたお知らせ ( No.136 )
日時: 2011/08/07 19:20
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://ameblo.jp/ix3x-luv/


ミユキの自殺未遂を機に、宮脇はクラスの皆から避けられるようになり、期末の終わりには引っ越ししてしまった。
当の本人であるミユキは、手首の傷が治ると何事もなかったかのように学校に来て、ひとりで普通に学校生活を送っていた。
誰も彼女に近寄らなくて、担任でさえも、彼女を見ないようにしていた。

「園松って、苦しいんだと思う」

放課後、日誌を書いていた俺に吉川が近づいてきて、そう言った。
同情などしていない、ポソリと呟いた声。

「どうして?」

手を止めずにたずねる。

「わかんないけど……俺は園松のことを可哀想とかは思えないけど、すごく苦しいってだけはわかる」
「そうだな。 俺もそう思うよ」
「────お前は同情されることも、過去に触れられることも嫌いだってことは知ってるけどなあ、俺はお前を友だちだと思ってる。 俺はお前が好きでもある」
「ど、どうも……」

直球で好きだと言われると、少し胸がざわっとする。
慣れてないから。

「だから、俺はお前と一緒にいる。 お前の過去のことは人並みに知ってるけど……まあ、園松とのこととも。 だけど、俺はお前を他の奴らと同じように扱ってるし、まあ、園松は少し近寄りがたいけど!」

一気にそこまで言って、吉川ははぁっと息をつく。
ゼエゼエ言ってるけど熱烈な告白をどうも、と思う。 それだけでもないけど。

「だけど! 俺は園松もお前も同じだし、つうかお前は親友だし。 なんかずっと友だちでいやがれバカヤローみたいな!」

事件後、小学校でまともに話してくれたのはコイツだけだった。
いま思うと吉川がいて助かった部分もある。 こういうときとか。

「友だちでいるって。 俺バカじゃないし」
「お、おう。 …………ど、どうも」

照れんな。

「で、わざわざ残って俺にそれを言うために来たの?」
「いやあ……ふふふ。 なんか、お前ときどき分かってなさそうだから」
「いや? ちゃんと分かってるよ」

痛々しいくらいに。
優しさを向けられると少し戸惑って、自分が優しさを向けるのは少し怖い。 人間をやめたくなる時もあるし、投げ出したくなる時もあるけど。
吉川みたいな人間と触れ合っているときは、そんなに嫌でもない。

「俺も吉川のこと、嫌いじゃないし」
「──お、おう……」

だから照れるな。

「日誌もう終わるから。 俺が出て行ったあと、鍵、職員室まで持って行って」
「おう! ……え、俺が?」

Re: 彼女が消えた理由。 ちょっとしたお知らせ ( No.137 )
日時: 2011/08/08 19:41
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://ameblo.jp/ix3x-luv/


第3部、いっきます。

この3部が終わると、このお話は終わりです。

設定に時間がかかりました。

最後まで、お付き合いしてくれたらうれしいです。

Re: 彼女が消えた理由。 ちょっとしたお知らせ ( No.138 )
日時: 2011/08/08 19:47
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: YZiYs9.d)

なんだろう、この気持ち。
終わってほしくないのに終わりが見たい。矛盾した感じです。
カキコに来てたぶん一番更新を楽しみにしていた小説です。
むしろ是非とも最後まで読ませていただければと思います。

Re: 彼女が消えた理由。 ちょっとしたお知らせ ( No.139 )
日時: 2011/08/08 19:53
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://ameblo.jp/ix3x-luv/


はじまり
『眩しい朝を嫌う』


田舎町の片隅にある、和装風な一軒家。
床を歩けば、ミシリと音がたちそうな、古い造りの家。
しかし、家の中はキレイにされていて、壁紙やインテリアは洒落た雰囲気を漂わせていた。

いつもと変わらない、10月半ばの、涼しい秋のひと時。

ただ、そのリビングに座りこむ一人の少女と、その片隅に横たわっている一体の死体の存在が、平凡な日常の歪みを意味していた。

「あぁあ……おば、さん……」

声にならない声でそれだけ言うと、少女の顔に恐怖が生まれる。
いま、彼女の目の前に広がっているのは、10年前にトラウマとなった赤い血と、大切な唯一の肉親の死体だった。

「うそだ……あ、あぁあ……あ」

学校から帰宅したら、叔母が死んでいた。
少女は完璧に自我を崩壊させ、両手を頭にやって、痙攣しだした。

「……ち……ろ、ちひ……ちひろ……」

少女が呼んだのは、自分が最も苦手とする少年の名だった。

「いやだ……あぁ、ああぁあ、ひろ……ッ」

過呼吸状態となった少女の懇願する声は、当然少年の耳に届くことなどなく。
そのまま、血だまりの中、少女は気を失った。




 △           △          △




中学ン時に、すっげえ美人な女に会った。

大人なくせにガキみてえで、世間を全然知らなくて。

そんなコイツを、俺は愛していたのか?

なあ、ヒロカ。

俺はいまでもお前を愛してると思うんだ。

過去はどうあれ、「いま」は。


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