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- 彼女が消えた理由。 完結 そして、
- 日時: 2011/08/31 01:40
- 名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
キャラ説明
>>79
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- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.34 )
- 日時: 2011/07/03 00:19
- 名前: 朝倉疾風 (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
教室についてからは、一度もミユキと話さなかった。
席が隣なのにも関わらず、目も合わせようとしない。 俺の前に座る吉川が気まずそうにミユキに話しかけても、無視だった。
「なんかさあ、園松って訳わからんよな」
「そうか? フツーの女子じゃねえの」
昼休み。
購買で買ったパンを屋上で咀嚼する、男子高校生2名。
青空の下、とかなんとかつけ足せば爽やかな青春系の絵になるんだろうけど、この暑さのせいで、汗がダラダラ。
教室にクーラーはついているけど、極限の暑さを耐えて、教室に入ったときの涼しさがくせになっている。
「中学ン時はさ、けっこう人気あったじゃん。 美人だし」
「んーまあね」
話題になっているのは、ミユキのこと。
小、中学校と一緒の吉川は昔のミユキを知っているから、その変化にも敏感なんだろう。
「中学ン時は、よく笑ってて、ちょっと天然で、なんかこう……クラスの看板娘みたいなさあ」
「へえ。 俺はミユキと同じクラスになったの、1回しかないからな」
「俺ともけっこう喋ってたんだぜ。 けっこう……好き、ではいたけど」
吉川の言う「好き」は、恋愛感情よりも憧れのほうが強いんだろうな。
こいつの性格のことだから、ミユキと話せるだけで幸せだと感じていたに違いない。 つくづくおめでたい奴だ。
「ある日さあ、急に授業中に暴れだして。 コンパスを手首にあてて、死ぬとか言ってさあ。 けっこうビビったなぁ」
それは知ってる。 うちのクラスの女子らが噂で話してたから。
「人気がた落ちよ。 精神が病んだ危ない奴って女子らが言って……。 園松はそれからよく暴れるようになったし」
「ミユキはもともと依存性が強かったから。 みんなの目が自分に向いていないと、不安になるんだ」
自分を見てくれない。
ミユキにとってこれは、とても耐えがたいことになる。 自分を見てほしいがために、小学校のころから仮病や、自演の過呼吸が多くあった。
そのたびに周りが心配して、声をかける。 それがとても嬉しいらしい。
「末長を殺したのって、園松じゃねえよな」
「それは違うと思う。 まあ末長もけっこう女にモテてたらしいじゃん。 幼なじみの徳実っていう子。 あいつも末長のこと好きっぽいし」
まったくの憶測だけど。 今日の朝話してみて、こいつ末長が好きだったのかなって思った。
────遠まわしに、ミユキに嫌味を言ってたし。
「徳実って……徳実柚木?」
「知ってたのか」
「委員会が同じなだけで、あまり喋ったことねえけど。 前にさあ、その委員会の集まりのときに、やたらと園松のこと聞いてきたんだけど」
「───へえ」
吉川にミユキのことをねえ。
「どんな奴だとか、昔の……その、10年前のこと、とか。 彼氏はいまいるのかとか」
「末長と徳実さんは中学校も違うかったよな」
「ああ。 2人とも高校からだけど」
この高校に通ってくるのは、旭川中学校と穂波中学校の生徒が圧倒的に多い。
場所が田舎のほうにあるから、あまり人気がないし。 この2つの中学校から近い距離にあるため、生徒の大半数がこの中学校から来ている。
「2人とも……穂波中か」
「どうせ旭川中の奴らが面白半分に話したんだろ、穂波中の奴らに。 園松のこと」
「10年前のこともかな」
それはそれで、なんというか、ムカつく。
「10年も前だから、詳しく覚えている奴はいねえだろ。 表面上のことだけ話したんじゃねえの」
「────そっか」
最後の一口を食べ終えて、立ち上がる。
涼しい教室に戻りますか。
「ありがとな、吉川」 「え? あ、ああ」
そんなに珍しいものを見るような眼で見るなよ。
少しだけ、胸がくすぐったい。
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.35 )
- 日時: 2011/07/03 00:50
- 名前: 朝倉疾風 (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
何事もなく、5日が過ぎた。
末長を殺した犯人の有力な手掛かりもないまま、6月も半ばを迎え入れるというころ。
あの人が、帰ってきた。
「いやあ、助かったよ千尋。 おかげで楽しい旅行ができた。 はい、お土産だよ〜ん」
「────いま何時だと思ってんだ」
早朝の5時だぞ。
ちょっとは時間を考えろ。
「あんた隠してたカギどこ置いたのさ。 植木鉢の下に無かったんだけど」
「ミユキの服を取りに行って、返すの忘れてた。 とりあえず、あがって」
アパート内で大声を出さないでほしい。 強制的に中へ入れて、ドアを閉める。
あいかわらずのフザけた口調と、どこかあの人に面影が似ているのはあいかわらずだ。
「蓮奈さん、ミユキはまだ寝てるんだから、静かにしとけよ」
「あいあいさー。 ねえ、チューハイある?」
「あるけど」
園松蓮奈さん。
ミユキの母親の妹で、現在のミユキの保護者。 髪の毛が短いけど、フワフワしていて、マルチーズを思い浮かべさせる。
「未成年がお酒を飲んじゃダメなんだゾ☆」
「ほっとけ」
「大人の意見は大切なんだゾ〜。 あたしの言うことを聞かんか、千尋」
無視。
蓮奈さんが捨てて行った上着を拾い、ソファに畳んでおく。
「ねえ千尋。 あの子殺されたでしょ」
「末長のことか。 ミユキからなんか聞いてた?」
「うん。 名前だけね。 殺されたってニュースでやってるの見て、ビビったわ〜。 ミユキも驚いてた」
チューハイの缶を指でつつきながら、蓮奈さんが呟く。
「ねえ、千尋。 あの子はどこから間違っていったのかなぁ。 10年前? それとも末長クンが死んでから? それとも……」
俺を試すかのように、蓮奈さんがこちらを見る。
その顔が、あの人と重なった。
「自分の母親が、アンタの父親と浮気をしてから?」
思い出す。
一つの終わり。 崩壊。 渇望。 嫉妬。 絶望。
あのときほど男女の仲を醜いと思った瞬間はない。 汚れた意識を塗り替えるため、何度も女とは体を重ねたけれど。
思い出すのは、いつだって、あの汚い光景ばかりだ。
「千尋を責めてるわけじゃないよ」
「────誰を責めてるんですか」
「いま死んだ奴らを責めたって、あの子とあんたが正常になることは、もう不可能じゃん」
正常、ねえ。 どれほど俺らが異端に見えてるんだろうな。
「もうあんたは、まともにピュアな恋愛はできないだろうねえ」
「ミユキもじゃねえか。 あいつはただ、自分だけを見てくれる奴がほしいだけなんだから」
末長のことだって、恋愛感情があったわけじゃない。
蓮奈さんに対しての気持ちだって、ただ依存していた母親に似ているからだろう。
「あんたもただ、自分を見てくれる人がほしいだけっしょ」
心臓が、痛い。
鼓動が体全体に響いてくる。
だから俺は、
この人が苦手なんだ。
「───知るか」
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.36 )
- 日時: 2011/07/03 11:55
- 名前: 朝倉疾風 (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
ミユキはまだ眠っているし、酒を飲んだ蓮奈さんも寝てしまった。
まだ学校に行くまで1時間ほどある。
ミユキの隣にもどって、横になるけれど、眠れないから。
少し、昔話をしようと思う。
俺の母親は、ミユキの母親と高校時代からの親友で、卒業して就職して、お互い結婚しても、付き合いは続いていた。
感情の起伏が激しく、いつでも強気な母親と、おとなしめのミユキの母親は、性格が合ったのかもしれない。
ミユキの母親が、夫と離婚したときも、母親は彼女をなぐさめていた。
俺が小さいときから、当たり前のように家に来て、息子のように可愛がっていてくれた。 家族ぐるみのつきあい。
──千尋の「尋」 はね、わたしの名前からとったの。
──千里が、あなたの名前にわたしの漢字を使ってくれたのよ。
──来年から一緒の小学校になるわね。 この子、わたしの娘のミユキ。 仲良くしてあげてね。
ミユキと会ったのも、そのころだった。
俺の母親が、帰りがいつも遅くなる父親とひどい喧嘩をしだしたころ。
あの人は娘と一緒に家に来て、父親の帰りが遅くなると愚痴る母親の相談相手になっていた。
──千里はいつもわたしを助けてくれたよ。
──だから、いつでも頼ってちょうだい。 わたし、あなたの力になるから。
そして、10年前。
その相談事から、1年後。
すべての嘘がばれ、淑女の仮面は壊れ、俺の母親は殺人者となった。
「……………………」
そしてその怒りは、その時一緒にいたミユキに向けられる。
ミユキが、俺の父親と彼女の母親との子どもなのだと誤解したらしい。
2人を惨殺した後、泣き叫び、嘔吐し、失禁しかけのミユキに、
「 」
刃を、むけた。
むけた、むけた、むけた、
それから、っ、殺した。 だれがだれを? おれが、がっ。
俺が、ころした
みゆきを守るために、おれが母親をころした
ちが、血が、チ、がついて、みゆきが、ないてて、
それからそれからそれからそれからそれからそれから、、
あれ、蓮奈さんだ。 蓮奈さんがなんか俺をよんでる。
なんでーだーろーうなーっ
っていうか、苦しい。 人間やめたいかも。 そんなお年頃。
うわー洪水だ。 なあんも聞こえない。 あ、でもちょっと苦しいかも。
──自分の母親が、アンタの父親と浮気をしてから?
そうかも。 だって普通さあ、ヤるか? だって、俺ら見たんだよ。
ミユキと、ふたりで。
そしたら、さあ、なんだあれ。
「俺さあ、女とヤるときいっつも、尋花だと思ってん、だよね」
思っていた言葉が口から出た。
驚いている、蓮奈さんの顔。
そりゃそうか。 自分の姉とのことを妄想してるって言われてんだから。
「尋花はなんで親父を選んだんだろうな。 俺が大人になったら、尋花、好きになるのに。 なんで、俺じゃなくて、親父なんだろ」
「────泣いてるよ、千尋」
──チヒロ。
──千尋、わたしの名前 「ヒロカ」っていうの。 よろしくね。
──おばさんって呼んでほしくないなぁ。 ヒロカって呼んで。
「泣いていいよ、ガキ」
「 」
死にたい。
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.37 )
- 日時: 2011/07/03 10:21
- 名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: nx/9fFvO)
ぞわっとしました。
ああ、包帯戦争の過去編読んだ時の感覚に似てるかも。
以前より大分時間が経過しているのでこの狂った感じを再び見ることは出来ないかなー、
とか半ば諦めかけていたらきたよもう。朝倉節ですね。もう。まったくもう。
続きに期待せざるを得ない……。
泣いたところで、千尋君とミユキさんは正常に戻れないのでしょうね。
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.38 )
- 日時: 2011/07/03 11:53
- 名前: 猫凪唯兎 ◆xJZzeRrr.U (ID: khvYzXY.)
はじめまして。猫凪と申します。
以前から少し覗かせていただいていましたが、コメさせていただきます。
まだ、第一章を読み終えたところなんですが…
言葉の言い回しがとても好きです。
僕らは、なにもしていないのに。
というところがお気に入りです。
…鮮明、ですよね、文章が。
大好きです、ストーカー並に応援させていただきます。
では、失礼しました。
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