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彼女が消えた理由。 完結 そして、
日時: 2011/08/31 01:40
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://lyze.jp/ix3x/

キャラ説明
>>79

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Re: 彼女が消えた理由。 ( No.90 )
日時: 2011/07/24 19:49
名前: 朝倉疾風 (ID: 96KXzMoT)
参照: http://lyze.jp/ix3x/


曳詰ヤス。

彼女はあまりに不自然で、あまりに違和感があった。
髪の毛はサイとは違い、無理やり脱色している。 目もカラコンを入れており、ビー玉みたいな青色だった。 だけど、前髪が長くて顔の左半面が隠れている。
性別は女らしいけど、男だと言われても納得のいくほど、中性的な顔立ちだ。

「いままでどこにいたよ。 心配はしてねぇけど、何しでかすんだってハラハラした」
「ここ数日まともに寝てないんだ。 サイの家で寝られる?」
「好きにしろ」

わかった、と了承して、ヤスがふいにこちらを見た。
目が合う。
不安定な存在を前にして、背筋が戦慄く。

「こいつは同じクラスの陽忍千尋。 おとなしい奴だから、あんまからかうなよ」
「ひしのぶ……。 ああ……ふうん。 かっこいいね」
「棒読みじゃんか」

あ、しまった。
思わずつっこんでしまった。
こいつには色々と聞かなきゃならんことがあるのに。

「なあ、単刀直入に聞くけど。 アンタが吉川を刺したのか?」
「よしかわ……? んー……同じ制服を着ている奴なら、刺したけど」
「それ吉川だよ」

怒りより呆れがきた。
人を刺すことに何の罪悪感も感じていないようだ。

「なんで」
「どうして刺したかって? 最初は自転車のライトが眩しかったから。 傷口を弄ったのは、わたしのことをヘンだって言ったからだよ」

ヤスの手が伸びて、俺の首元に触れる。 血管をなぞって、軽く爪でひっかく。
亡霊だ、と思った。
こいつの存在自体、この世にあるとは思えない。 薄気味悪い。

「そこまで」

横からサイがヤスの腕を掴む。
軽く舌打ちをし、ヤスは手を振り払った。

「ってゆうか、お前は見つけたのかよ」
「全然ダメなんだよね。 ここら辺探しても、見つからない。 どうしようか」
「……? 妹は見つかったんだろ。 まだ誰か探してもんのかよ」
「んー、まあ実はヤスよりもこっちのほうが重要なんだけどよ。 アンタ、知ってるか?」






「ノリトって奴を、探してんだよ」










目が覚めても、「あの人」 はそこにいるものだと思っていた。

「彼」 ではなく、僕を見てくれると信じていた。

だけど、そんな都合のいい夢は所詮ハッタリで。

「あの人」 はやっぱり、過去に縛られたままだった。


「僕は×××じゃない。 ねえ、名前を呼んでよ。 ×××じゃないよ」


何度言っても聞いてもらえない。

怖い。

ただ、恐ろしいだけだった。

この恐怖をどこで紛らわせればいいのか。

僕らは愛情に飢え、ふたりで何度も悦楽に浸りながら、夜を明かした。

Re: 彼女が消えた理由。 ( No.91 )
日時: 2011/07/25 01:14
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: YZiYs9.d)
参照: 夏バテ注意。

ッ………!
ノリトって、ノリトって……!

やばい、ぞわってしました。マジで。やばい。やばいやばいやばい。
え、ノリトって言ったらあの少年しか想像できないのですが。
久しぶりに来て一気読みしたら、ちょ。
…なんというか、感想が出ないほどに凄まじい感覚を今体験しました。

この小説はもう既にカキコで一番好きだったのに、更に深みに嵌るという。どゆことですか。

Re: 彼女が消えた理由。 ( No.92 )
日時: 2011/07/25 21:46
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://lyze.jp/ix3x/


包帯戦争。は終わってしまったけれど、
そこに残されている登場人物のそれぞれの人生は
まだ終わってません。
朝倉の脳内で輝いてます←

彼らの物語を、どうか最後まで見届けてあげてください。

Re: 彼女が消えた理由。 ( No.93 )
日時: 2011/07/27 21:50
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://lyze.jp/ix3x/


「五鈴ってさあ、曳詰兄弟と知り合いなのか?」

そう聞くと、ソファで寝ころんでいた五鈴が、なにかのおやくそくみたいに派手にずっこけた。
リアルにこんな奴いたんだな。 軽く引いたわ。

「えっと……なんで?」
「お前が捜してるノリトって奴を、あの兄弟たちも捜してたから」
「あー……なんだ。 もうネタばれしちゃったんだ」

あの後、ノリトという奴を知っているかと聞かれたとき、俺は自分の兄もそいつを捜しているとヤスたちに告げた。
あいつらは特別驚いた顔もしていなかったから、なんとなく。 知り合いかなーって。

「どういう関係だよ。 曳詰たちと」
「初対面はヴィジュアル系バンドのライブかな。 1年くらい前だ」
「なんで知り合いになったわけ」
「────襲われた」

冷蔵庫の戸を閉めて、なるべく顔がひきつらないように五鈴を見る。

「────笑いが堪えきれてねぇぞ」
「いやだって、アンタ襲われるってタチかよ」
「誤解だって。 そっちの襲うじゃなくて、奇襲のほうな。 ナイフ持っててビビッたわ」
「なんで急に襲われたんだよ」

サイはともかく、ヤスは手が荒いと思う。
吉川の話からしても、理不尽な理由で斬りつけてくるのは分かっている。
五鈴が何か気に入らないことをしたのか、それとも……。

「ヘンだって言ったんだ。 曳詰ヤスに」

五鈴の顔が曇る。
ヘン、だと言われて、彼女が何を思ったのか、感じ取ったのかはわからない。
だけど、彼女にとってその言葉は、タブーだったとしたら。

「ライブの途中にすっげぇ力で外に引っ張り出されてさ。 いきなり肩を抉られたんだ。 ありゃー参ったわ」
「────どこがヘンだって言ったんだよ」

聞くと、五鈴はゆっくりと俺の左目の前に手をかざした。

「曳詰ヤスはなぁ、左目が抉れてて、顔がケロイド化してんだよ」

ヒッソリと。
ここには俺たちしかいないはずなのに、小声で。

「前髪で隠れてて見えなかった」
「あいつ異様に長いからな。 気にしてるらしいぜ」

あの白い髪の奥に、赤黒い肌があるとすると、それはけっこうエグいと思う。

「なあ、そのノリトって奴は誰なんだよ」
「実はだなぁ……俺も知らんのだわ」

知らんのかい。
さっきの五鈴のようにこけそうになった。 あぶねぇ。

「知らないってなんで。 五鈴、捜してたじゃん」
「俺は曳詰兄弟に捜してほしいって言われたからな。 まあ、いろいろとあって」
「────もしかして、そいつを捜すためだけに帰ってきたのか?」

目があった五鈴がニヤリと笑い、肯定の意を表してくる。
それなら、ノリトという奴が見つかれば、こいつはまた都心のほうに戻るのか。

「バカかおまえ……第一そんなに手間かけて捜すくらいなら、警察に頼めよ」
「俺もそう言ったんだけど、あいつらが嫌だって」
「それ本当にただの人探しなわけ……? なんかヤバいことしてんじゃねぇの?」

あいつらに出会ったこと自体が、もうヤバいことだと思う。
ヤスなんか知り合いたくもないというのが、正直な感想だったから。

「んーそこんところは怖ぇから深読みして無ぇ」

チキンか、おまえは。

「んで、訳も分からんノリトって奴を捜してるけど、自分はそのノリトって奴を知らないってか。 なんで曳詰兄弟に肩入れするわけ」
「あれ、嫉妬してんのか?」
「べつに」

10年も実の弟をほったらかした兄なんて、もう兄だと思ってもいない。
嫉妬ではなく、苛立ち。
そんな他人の頼みをここまで聞き入れるなら、どうして10年前も一緒にしてくれなかったのかと。
今責め立てたところでどうしようもない苛立ちを、抱えている。

Re: 彼女が消えた理由。 ( No.94 )
日時: 2011/07/27 22:40
名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
参照: http://lyze.jp/ix3x/



第4章
『傷に触れ、痛みに触れ、心に触れ』


ノリトという少年を捜していた。

僕もヤスも知らない、「あの人」 が今も想っている相手。

小さいころから何度も 「彼」 の話を聞かされた。

「彼」 になるよう、命じられた。

「あの人」 は表情ひとつ変えなかった。

ヤスの顔面を油で溶かしても、僕の首をしめて殺そうとしても。

ノリトは? ノリトはどこ? ノリトはだれ? ノリト、ノリト、ノリト

のりとのりとのりとのりと。

「あの人」 が探し求める 「彼」 は、どんな人なんだろう。

会ってみたい。

会って、それから、どうしようか。

どうしてやろうか。


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