ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 彼女が消えた理由。 完結 そして、
- 日時: 2011/08/31 01:40
- 名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
キャラ説明
>>79
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.100 )
- 日時: 2011/07/30 00:44
- 名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
そんな恐れ多い……。
技術なんて、わたしが欲しいくらいです。
ぷりーず。
あなたの描写力には頭が上がりません。
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.101 )
- 日時: 2011/07/30 00:44
- 名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
せっかくの土日をただの暇つぶしに使うのは、ナンセンスだと思う。
携帯のメールボックスには、何人かから遊びの誘いのメールが入っている。 俺のこの顔のせいか、10年前の被害者だと知っていても、近づいてくる人間が多い。
もちろん、嫌悪する奴もいるんだけど。
たとえばミユキとか。 あいつ、いま何してんだろうな。
「五鈴。 ずっと家に居るようだけど、お前はノリトを捜してんのか。 さっさと出て行ってほしいんだけど」
「唯一の肉親に何言ってんだよ。 可愛くねぇな」
「10年も家出してたんだ。 俺はお前を兄だと思ってない」
曳詰兄弟はともかく、五鈴はずっと家に居るようだ。
俺が学校に行っている間は分からないけれど。
「それもそうさね。 ……捜してるよ、ノリト。 俺だってあの兄弟が心配だし」
「心配……ねえ。 初対面でいきなり襲われたのに?」
「────見たんだよ」
テレビの音を小さくし、掠める程度の微音にした後、五鈴がこちらに向く。
「あいつらの……家庭の事情ってやつ?」
「俺ン所よりひどかったのか」
「そこは比べる所じゃねェよ。 人間それぞれの価値観は違うから」
だけど五鈴には、俺より彼らのほうが心配げに映るのだろう。
「曳詰兄弟は、異常だ」 「分かってるよ」
そんなこと。
異常なことくらい。
……異常?
じゃあ、俺とミユキの関係は何なんだろう。
幼なじみ?
あんな事があって、幼なじみって呼べるのか。 異常、じゃないのか。
俺と、彼女の、かんけいも。
「………………」
やめた。
10年前のことを考えるのは、いまはよそう。
「あいつらの父親に対する執着心と……依存心は、怖い」
「────同情、してるの?」
そうかもな。
五鈴はそう言って笑ったけど、同情だけで人は救えない。
そうだろ、ミユキ。
「曳詰兄弟を救いたいんだ」
「ああ、そう……」
ドンッという音がして。
いきなりリビングの戸が開いた。
「っ、は?」
入ってきたのは、ヤス。
なんで、玄関、鍵かけてなかったけど。
どうして、突然、こんな、おしかけてくるんだ。
ヤスは俺に目もくれず、真っ先に五鈴の髪を掴んだ。 五鈴も急な彼女の登場に驚いたのか、太刀打ちできず、無抵抗のまま床に転がる。
咳き込む五鈴の腹を2発蹴り、ヤスがボソボソと何か呟いた。
「────はッ? な……に、聞こえな……ッ」
「サイが消えた。 お前が隠したんじゃないのか」
「ッ、なんで俺が……ッ」
抵抗すると危険だと判断したのか、五鈴は息を整えるだけで何もしなかった。
ヤスは乱れた髪を整えもせず、視線を俺に移動させる。
「ねえ、サイが消えちゃったんだ。 きみ、知ってる?」
五鈴とは違い、口調が柔らかい。
「知らないな……。 昨日、学校にも着ていなかったんだ」
「どうして消えたと思う?」
曳詰サイが消えた理由……?
そんなの、俺が知るわけない。
「五鈴は何か知ってるのかな。 サイの居場所」
「知らん。 というか、どうやってここの場所が分かった」
「きみの弟を追ってた」
マジかよ。
全然気づかなかった。 行動力が半端ない。
「サイが居なくなって……動揺して、蹴っちゃった……。 ごめんね」
ヤスの口調がコロコロ変わる。
五鈴の腹を撫で、目つきも優しいものになる。
しかし、次の瞬間には柔和な表情は消え、焦燥感と混乱があらわになる。
「でも、ねえ。 どうしよう。 サイが居ないとわたしはわたしじゃなくなっちゃう。 わたし、サイが居ないとだめなんだ。 わたし、サイが好き。 サイが大好き。 サイが好きすぎて、わたし、だからここまで来たのに。 ねえ、なんでサイは居なくなったんだろ。 どうしよう」
ガタガタと。
肩を震わせ、ヤスが座り込む。 痙攣していた。
「おい、ヤス 「あっ、げぇっ、お、がはっ」
その痙攣がピークになり、ヤスが嘔吐する。 五鈴が一歩下がり、ヤスの背中をさする。
ゲロゲロと吐き続け、ようやく胃液の中がからになり、スッキリしたのか、ヤスが顔を上げる。
「わたし、サイを見つけてくる」
その顔には、先ほどの焦燥感など皆無で。
どこか不安定な形の笑顔を残して、立ち去ろうとする。
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.102 )
- 日時: 2011/07/30 01:11
- 名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
立ち去ろうとする彼女の腕を、俺は掴むことはできなかった。
引き止めることが、できなかった。
彼女の不安定さを目の前にして、これ以上は関わりたくないと体が拒否した。
五鈴もそれは同じなようで、ヤスのゲロの残滓を眺めながら茫然としている。
「────あいつらの父親は、人を殺したらしい」
しばらく時間が経って、五鈴が口を開いた。
関わりたくないのに、どうして俺は聞いてしまうんだ。
「これは曳詰サイに聞いたことだ。 彼は近所の噂とか陰口で聞いたらしいんだが」
殺人。
人を、殺す。
字面にすれば簡単だが、人を殺すことも、また簡単だ。
「精神病院で隔離までされていたらしい。 そんな男が、どうやって病棟から出てきたのかは知らねえけどな」
「あの兄弟は、どうしてノリトを捜してるんだよ」
雑巾を浸して、胃液の酸っぱい匂いのするそれを拭きとる。
嫌悪感はさほどなかった。
「父親が、ノリトという少年を求めていたからだ」
「…………?」
「俺もよく知らんが、あいつらの父親は未だに幼い心のままらしい。 その頃に出会ったノリトに執着し、彼らにもノリトとして接するようになった」
サイと、ヤス。
ふたりの兄弟は父親に違う存在として認識された。
ひとりの少年、ノリトとして。
「自我があるのはサイのほうだ。 あいつはまだギリギリで踏みとどまっているが……ヤスのほうは、完全に崩壊したらしい」
人格を受け入れられなかった妹は、自分は少女ではなく、少年なのだと思い込む。
そして、閉ざされた世界で唯一自分の味方となってくれた 「兄」 を……サイだけを愛するようになる。
「ヤスは肉体的性別は女だが、明らかに父親が求めたノリトを面影を人格に宿している」
「────人格は男性ってわけか」
サイは、そんな彼女を受け入れた。
そして決意した。
ノリトを見つけ出して、父親に自分たちは 「ふたり」 なのだと、認識してもらうために。
「そのノリトが、ここに居るわけ?」
「らしいな。 そいつの特徴は何もわからないから、名前だけであたってみるしかない。 年齢も、名字もわからない」
雲を掴むような話だ。
田舎とはいえ、人口はそれなりに多い。 ここでたった一人を見つけるなんて。
夢物語だ。
「ちょっと調べてみようか」
「は? ……どれで」
「インターネット。 殺人事件を起こしてるんだろ? 絶対に何件かはヒットすんじゃねぇの? 曳詰なんて、名字も珍しいし」
ゲロをすべて片づけて、五鈴が持ってきたノートパソコンをあけてみる。
「あいつらの父親の名前、なんだよ」
「曳詰ヤシロ」
曳詰ヤシロ……か。
名前まで変わった名前だな。 ヤシロ、か。 神社みたいな……。
「あ、でた」
そして、俺たちは知ってしまう。
30年前に起こった、とある少年と少女を中心にして起きた事件のことを。
そして、
ノリトという少年がすでに、この世から消えてしまっていることも。
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.103 )
- 日時: 2011/07/30 01:39
- 名前: 朝倉疾風 (ID: 0nxNeEFs)
- 参照: http://lyze.jp/ix3x/
△
この本を読んで、俺はすべてを悟った。
これに出てきている 「少年A」 というのは、俺の父親なのだと。
そして、俺の父親があれほどまでに求めていた 「彼」 は、実はふたりいたことも。
ひとりは、紅桜ノリト。 彼は幼い頃に殺されている。
これも父親がやったと思う。
思えば、この少年があの人をここまで狂わせた、最初のノリトなのだろう。
もうひとりは、祝詞という少年。
この少年は、俺の父親と精神病棟が同じだったらしい。
「……はは」
最終的に。
この祝詞という少年は、恋人である茅野ヒナトという女性を失って、自殺している。
「……ははははははは」
なんだこれ。
著者、天川ナチ。 誰だよ。
なんでこいつ、俺の父親がぜんぶ悪いみたいに言ってんの。
暴露本か、これ。
つうか、本にまでなってたのか。 俺の父親は。
「はっはははははははははははははははははははははははははははッ」
なんだよ。
ノリトなんか捜しにこなくても。
本屋の隅で売られてる本を見りゃ、わかったことなのに。
おかしいな。
何してんだろ。
最初から、ノリトなんていないのに。
「お客様、店内ではお静かに 「うるせぇッ!」
あの人はいつも、俺たちをノリトと呼んだ。
母親がつけてくれた、サイとヤスという名前は、一度も呼んでくれなかった。
──キレイな心で育ってほしいと、沙衣とつけたの。
すべからく美しく育ってほしいと、夜須とつけたの。
与えられた名前も廃れて、いつしか意味を失くした。
ただの、サイとヤスになった。
「じゃあなんで……俺らはノリトって奴の身代わりかよッ」
ヤスに、こんなこと言えるか?
ノリトは死んでいました。 父親の醜態は本にまでされていました。
俺らは完璧に、加害者の子どもです。
言えるか?
ノリトが居てくれれば、親父は 「俺たち」 を見てくれると信じていたのに。
「チクショウ! 糞がッ、信じねえぞッ! ノリトは生きてる、生きてる、生きてんだよチクショウッ!」
こんなの、誰が信じるか。
信じるもんか。
「ねえ、ちょっと 「うるせぇっつってんだろ……、」
怒鳴る勢いは消えて、茫然としてしまった。
そこに居たのは、予想外の人物だった。
「園松……ミユキ……」
- Re: 彼女が消えた理由。 ( No.104 )
- 日時: 2011/07/30 04:34
- 名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: YZiYs9.d)
ヤシロ出た。ナチ出た。ヒナト出たぁぁぁ。
親から必要とされない子供の気持ちって、どういうものなんでしょうね。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46