ダーク・ファンタジー小説

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叛逆の燈火
日時: 2022/08/01 23:16
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)



 傭兵の少年である「アレン・ミーティア」と傭兵団の仲間は、ある村を拠点として、人々の手助けをしていました。
 「弱きを守り、強きを挫く」……その信念に従い、戦い、守り続けていたのです。

 ですが、そこに暗雲が立ち込めてきました。
 傭兵団の存在を良しとしない帝国の者達が、傭兵団を誘い込み、殲滅しようと画策したのです。
 そして、傭兵団は帝国の罠にはまり、追い詰められてしまいます。

 アレンは傭兵団を逃がし、一人追い詰められてしまいました。
 追い詰められ、苛立ちで顔を歪めるアレン。

 ですが、アレンは右手に力を込めて握りしめます。
 黒いオーラが右手を包み、彼の右手は魔物の腕のように禍々しい物へと変わったのです。

 「もう二度と、お前達に好き勝手させてたまるか。奪わせてたまるか!」

 果たして彼の力は、守る為のものなのでしょうか?

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Re: 叛逆の燈火 ( No.5 )
日時: 2022/08/05 23:45
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 外に出ると、団長、その隣の赤い髪の姉ちゃん、それに服装や人種や性別年齢はてんでバラバラの人達がいた。部屋から出る俺はそんな人たちの注目を浴びる。

「起きたか」

 団長がそう言うと、姉ちゃんと一緒に俺に近づく。近づいてくると、団長程ではないけど背が俺より一回りも二回りもデカい。俺を見下ろしてくるもんだから、デカさがより際立ってるのか? 赤い長い髪と瞳が蛇っぽい。竜人か? それより、なんか酒臭いな、この姉ちゃん……。

「お前が「アレン」か。なんか右腕と右目が変な事になってんな」

 姉ちゃんは俺の全身を見てからそう言う。俺、そんなに変な見た目なのか?

「俺は「フィリドラ・ソレイズ」。このエクエス傭兵団の副団長みたいなもんさ。ま、事務的な仕事は"レベッカ"に任せっきりだけどな」

 カッカッカと笑い飛ばすフィリドラのねーちゃん。名前を呼ばれたからか、黒くて長い髪の牛の姉ちゃんがこっちに歩み寄ってくる。フィリドラ姉ちゃんよりは背は低いし、身軽そうな見た目だ。額から2本の角が生えてる。それに穏やかそうな見た目だなぁ。

「うふっ、まあそれもまた仲間の務めって奴じゃないかしら。ああ、私は「レベッカ・リジア」。ヨロシクね、アレン君♪」

 レベッカの姉ちゃんは笑みを浮かべて、俺に手を差し伸べる。握手を求めてるようだ。俺は頷きながらその手を握った。

「右手……なんだか、嫌なカンジね」

 レベッカ姉ちゃんはぼそっとつぶやく。俺もそう思う。
 フィリドラ姉ちゃんが俺に自己紹介をした事を皮切りに、傭兵団のみんなが次々に名前を名乗り出し、レベッカ姉ちゃんみたいに握手を求めてくる。俺もそれにこたえるが、エルはというと、首を振りながら握手に応じない。……いや、応じられないんだ。

「我の右手は今、アレンの物だ」
「あら、そうなの?」

 エルの答えに、レベッカ姉ちゃんは「ふぅん」と興味深そうに見つめている。

「あ、アレン君。これからヨロシクね」

 大体みんなの顔と名前を憶えてきたころ、最後に黒髪の男の子が俺に声をかける。帽子と服装からして、所謂吟遊詩人と言った感じだな。声も綺麗だけどなんか消え入りそうな感じだ。

「ああ、よろしく。……えーっと」
「ば、「バロン・ブラギアス」。吟遊詩人だよ」
「バロン、よろしくな」

 バロンは「えへへ」と言った後、皆と同じように俺と握手を交わした。その様子を見ていた団長が俺に近づいてくる。

「バロンは14歳。傭兵団では一番お前と年が近いはずさ。仲良くしてやってくれな」

 へえ、俺の5歳上なんだ。そう聞くと、なんだかバロンに親近感みたいなのが湧いてくる。

「あと、剣はレベッカから教えてもらえ。いいな、レベッカ」
「了解ちゃん。任せてちょうだいな」

 レベッカ姉ちゃんが俺に剣を教えてくれるのか。……言っちゃ悪いけど、姉ちゃんみたいに細っこい人が剣を振れるのか? 俺がそんな心配そうな目で姉ちゃんを見上げていると、それを察したかのように、姉ちゃんは俺の目を見てふふんと笑う。

「アレン君、そんな目で私を見てるけど、これでも私はこの傭兵団の中では一番の腕利きよ。未経験のアレン君でも、きっと私並……いいえ、私以上の剣士になれるわ。あなた次第だけどね」

 姉ちゃんの言葉に、俺は「本当か?」と疑問を抱いた。
 でも……まあ、何もしないより、教えてもらって自分のモノにできりゃ……早くエレノアとルゥを取り戻せるかもしれねえ。

「姉ちゃん、俺――」
「師匠と呼びなさいな。今からは私の弟子になるんだから」
「え、あ、し、師匠!」

 師匠と呼ぶと、姉ちゃんは満足げに笑う。……なんだかこそばゆいな。

「よし、傭兵団の紹介も終わった事だし、ちょっと村でも散策するか。アレン、ついてこい」

 団長が俺を手招きすると、フィリドラ姉ちゃんの方に向かって手を振った。

「てことでフィリドラ、少し出てくる。その間なんかあったら対応してくれ」
「あいよ」

 姉ちゃんは二つ返事で答える。
 そのすぐ後、バロンは「ぼ、僕もついてく!」と団長に走り寄ってきた。団長は笑い飛ばす。

「いいぞバロン。ついでに買い物でもするか、荷物持ち頼むぞ」
「う、うん。僕、頑張る」

 バロンは両腕を振り上げる。なんというか、バロンは頑張り屋なのか? なんとなく、気弱なところがルゥに似ている気がした。

Re: 叛逆の燈火 ( No.6 )
日時: 2022/08/06 23:05
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 俺と団長とバロン、そしてエルは村へと出てきていた。村と言っても活気はあるし、人もいる。俺も修道院にいたころはたまにだけど、ちょっと歩いた先に街があった。そこもかなり人がいたけど、そこに比べると少ない。
 村には広い田畑があった。農具を使うオジサンやオバサンが、汗を流しながら忙しそうに畑を耕している様子が見える。……シスターやエレノア、ルゥと一緒に畑で野菜を作ってた時を思い出すな。今年も野菜を育てる予定だったんだけどな。俺がそう暗い顔をしていると、エルが俺の顔を覗き込んでくる。

「どうした、アレン。浮かない顔だな」
「え? いや、俺も畑で野菜を作ってたんだけどさ」
「野菜……何を作っていた?」
「え、トマトとかトウモロコシとか、あとナスとかパプリカやピーマンとかも――って聞いてねえ」

 俺が話している途中で、エルは畑の方を見ていた。聞いてるのか聞いてないのかわからないが、そっちに興味を持ってかれたみたいだ。

「聞いていた。とにかく野菜を育て、それで自給自足していたのだろう」
「もちろん、それだけじゃ足りねえから、近くの街まで麦とか肉とか買いに来てたよ。なんて街かは忘れたけど」
「ちゃんと食べていたのか、お前」
「食べてたよ」

 エルは俺の身体を見るや、首を振る。

「年頃の子供にしては痩せている。これから戦う力を得ようというのだ。もっと体を鍛え、筋肉をつけろ。でなければ、弟妹を取り戻そうなど、夢のまた夢物語という奴だ」
「う、っせーな。わかってるよ言われなくても」

 俺達がそんなやり取りをしていると、俺とエルの間に団長が声をかけてくる。

「エルの言う通りだな、アレン。食事は身体を作る為に必要な事だ。今夜は豪勢にしてやるから、食べて飲んで寝て、明日から訓練を重ねりゃいい!」
「そりゃわかってるけどよ……隣にいるバロンも俺と同じくらい細いだろ」
「ん、僕……?」

 バロンを指さすと、彼はびくっと体を震わせ俺を見る。

「バロンは俺達みたいな戦士じゃないからいいんだよ、適材適所だ」
「ちぇっ、俺もぎんゆーしじんになりたいぜ」

 俺が冗談交じりに言うと、エルは表情と声音を変えずに俺に突っ込んでくる。

「お前の頭では無理だな」
「なっ……お前、俺がバカだって――」
「違うのか?」
「くっ……確かに座学は苦手だけどよ……」
「座学も子供の内にやるべきだ、我も付き合うぞ」

 エルの言葉に何も言い返さず、そっぽを向くと、団長が立ち止まる。

「行きつけの店だ。ちょっと待ってな」

 団長がそう言うと、店の中へと入っていった。
 残された俺とエルとバロン。バロンは困ったように「ま、待ってよ?」と一言。俺も頷いて、その場で待つことにした。だけど、なんか待ってるのにも飽きてきたし、バロンと会話することにした。バロンの事をもっと知りたいしな。

「バロン、お前はいつから傭兵団に?」
「ぼ、僕……その、ちょっと前からかな……」
「なんでこの傭兵団に入ってきたんだよ」
「え、っとぉ……僕の街が帝国軍に襲われて、それでっ、それで団長に助けられてって感じ、かな……」
「俺と同じ感じか。……じゃあさ、赤い髪の男、知らないか? 変な赤い剣を持ってるやつ」
「えっと、わかんない。僕、隠れてたから……」

 なんだ、街が襲われたからてっきりアイツもバロンを……とも思ったんだけどな。

「アレン、「赤い奴」とは?」

 エルが俺の方を見て赤い奴について聞いてくる。

「俺の腕と目を持って行った奴だよ。すげえ怖い奴で、俺の姿を見て笑ってたんだ……」
「腕と目を……?」

 バロンは俺の話を聞いて、ぎょっとしたように縮こまる。

「その、なんだか嫌な感じのする腕……エルちゃんのだって言ってたよね」
「ああ、そうだ」

 俺の代わりにエルが答える。

「エルちゃんは何者なの?」
「知らぬ」

 エルは即答した。まあ、俺にも知らんとか言ってたしな。

「でも、この黒い腕……きっと良くないものだよ。なんだか、怖い」

 バロンが俯きながらそう言うと、エルもそれに頷く。

「我もそう思う。今は腕の形をしているが、いつどうなるかはわからん」
「……この腕、一体――」

 俺が腕を見ていると、突然村の入り口の方で悲鳴が聞こえた。それに、何か血の臭い……血の臭い!?

「まさか!」

 俺はバロンが引き止める声が耳に入る前に、悲鳴の聞こえる場所へと駆け出した。急いで、なるべく急いで!

Re: 叛逆の燈火 ( No.7 )
日時: 2022/08/08 00:25
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 俺の目に入ったのは、村人が黒い鎧の奴らに襲われている、まさにその瞬間だった。俺はすかさず足元に落ちていた棒を手に取って、倒れこんでいるじいちゃんを襲う鎧のヤツの背後を狙った。
 コンッと軽い音が鳴り響くだけで、棒は折れる。背後に何かが当たったと気づいた鎧野郎は、俺の方を振り向くと、今度は俺に剣を振り下ろす。俺はその剣を間一髪で避けた。これでいい、じいちゃんがその間に逃げてくれたなら――
 そう思いながらじいちゃんの方を見ると、倒れこんでいたじいちゃんから赤い水たまりが広がっているのが目に入った。俺の血の気が引く……。
 いや、じいちゃんだけじゃない。周りから甲高い悲鳴と、肉を切る音がする。耳に入ってくる。この鎧野郎は何が目的で――
 俺が目の前に気を取られている隙に、俺の腹に衝撃が入った。鎧野郎が俺の腹に向かって蹴りを入れてきたんだ!

「ごぼぉ」

 腕を斬られた時の痛みほどじゃない。だけど、胃の中のモノがこみあげてくる、気持ち悪い。まだ昼飯食ってないはずなのに、俺の口からドボドボ音を立てて何かを吐き出す。クソッ、腹が……。

「こんのガキがぁ……」

 俺が必死に口元を抑えながら、鎧野郎を見ると、奴は俺に剣を振り下ろそうとしていた。

「アレン!」

 その時、背後から声がする。団長だ。団長は目の前の鎧野郎を手に持っている槍で貫いた。空を斬る音と風が俺の目の前を通り、赤いモノが舞い踊って地面に落ちる。

「アレン、お前は下がっていろ。俺がやる」

 団長は槍についた血糊を払って、一人鎧野郎たちの前に立ちふさがる。団長の目の前には、村人達が鎧野郎達に捕まっていたり、まさに首を斬り落とされていたり、赤と泥が混ざり合って直視できない光景が広がっている。団長は怒りで震えていた。

「貴様ら……! これも皇帝の意志なのか!?」

 団長がそう叫んで槍を握り、前へと突撃しようと構えた。
 だが――

「おおっと、動くなよ!」

 目の前の鎧野郎がそう言って後ろの方を指さす。後ろの方で子供の悲鳴がした。振り向くと、黒い帽子を被った黒い服の女が、いつの間にか子供の喉元に太いニードルを当てているのが見えた。……あれは、バロン?

「バ、ロン!? おい、なぜお前が? 団員を連れて来いと言ったはずだ!」
「あ、うぅ……」

 バロンは答えようにも、女が喉元に立てているニードルが怖くて動けないのだろう。

「その女はお前ら傭兵団に紛れ込んで情報を流していたんだ。気づかなかっただろ?」
「……ふふっ」

 鎧野郎の紹介に、女はせせら笑う。スパイって事か。なんだよそれ……!

「貴様ら……!」
「動くなよ、その黒髪のガキを五体満足で助けたいのならな」
「……」

 鎧野郎が地面に指をさす。「武器を捨てろ」って事だろ。団長は従わざるを得なかった。構えていた武器を地面に捨てる。ゴトンという金属音が鳴り響き、槍が地面に転がった。その後、「伏せろ」と言われて、無抵抗に従う団長。
 悔しい……俺に力がねえから……!

「さて、まずはさっきやられた奴のお返しをしねえとなぁ」

 鎧野郎がそう言うと、団長の持っていた槍を手に取る。かなりの重量があるのか、重たそうにしていた。鎧野郎は、槍をの切っ先を団長の方に向ける。そして、振り下ろした。
 鎧の砕ける音、そして肉を貫くような嫌な音。そんな音達が俺の耳に入ってくる。

「ぐおおぉぉぉぉーーーっ!!」

 団長が悲鳴を上げた。吹き出す血液。団長の着こんでいる鎧を赤く染めていく。
 だが、一回では終わらなかった。鎧野郎が槍を抜いては刺し、抜いては刺し、抜いては刺し。何度も、何度も何度もそれをつづけた。鎧野郎達はそれを見て笑い転げている。
 俺は歯を食いしばりながら、涙を流し、その場で団長が傷つく姿を見せられている。多分、バロンも同じように震えているんだろう。

 クソッ、クソクソクソクソッ!!
 俺に力さえありゃあ……あんな奴ら……!
 あいつらが憎い! 憎い憎い憎い!!

 俺は目の前の光景に耐えきれず、目の前を思わず駆け出す。

「やめろ!」

 だけど、俺なんかが大人の男にかなうはずもなかった。
 俺が無謀にも鎧野郎に立ち向かったって、俺は蹴り飛ばされて吹っ飛んで終わるだけだ。身体が宙を舞って、地面に背中から落ちる。蹴られた痛みも、背中の衝撃による痛みも相まって、俺は今度こそ動けなくなった。

 ――目の前が真っ暗に染まっていく。
 団長の悲鳴も、バロンの泣き叫ぶ声も聞こえなくなってくる。



「アレン」

 もうすべてが闇に包まれたような黒い中で、エルの声が耳元で響く。俺は声のする方を見ると、エルが立っていた。

「エル……!? お前、どこ行ってた!?」
「そんな些細な事はどうだっていい。今重要なのは――」

 エルは俺の目の前に立つと、あの時の……雨に打たれていた俺を見下ろしていたように。そう、あの時と同じように俺を見下ろした。

「お前は何故戦わない?」

 エルは俺に向かってそう尋ねてくる。

「……戦えねえだろ。俺には何もない」
「お前は望んだはずだ。戦う力が欲しいと」
「俺にはどうにもできねえよ」
「それはお前の意志が弱いからだ」
「じゃあ、どうしろってんだ!?」

 俺は声を張り上げて、エルを怒鳴りつける。エルは多分相も変わらず表情を変えずに俺を見下ろしているはずだ。

「俺にはもう何も出来ねえよ! 大人に……あいつらに勝てっこねえ! 村の人も団長もバロンも助けられねえ……俺なんかにあんな奴らをどうにかしようたって無理なんだよっ!!」

 俺の絶叫を聞いたエルは黙っていると、俺の右腕を指さす。

「だが、その力があれば、或いは……」
「右腕?」
「そう、それは可能性だ。お前が皆を救うための」
「可能性……」

 俺は右腕を見る。黒くて禍々しい。何か、脈打っている気がする。……目が覚めてからは気づかなかったけど、この腕。この腕さえあれば……!

「今一度、お前に聞くぞアレン。お前、生きたいか?」

 俺はその言葉を聞いて、腕をついて立ち上がる。そして、エルの顔……いや、目を見てエルの問いに答える。

「ああ」
「ならば我に従うといい、お前に力を与えよう」


「あいつらから奪われたものを取り戻せるなら、例え……悪魔にでもなったっていい。力をくれ!」

Re: 叛逆の燈火 ( No.8 )
日時: 2022/08/09 00:16
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)


 俺は腕を強く握りしめる。その時、俺の右腕が変形した。赤くて、でも漆黒で、まるで化け物みたいな腕。それに生きてるみたいに、ドクンドクンって脈打ってやがる。だけど、この力さえあれば……!

「ガアアアアァァァッ!」

 俺は獣の咆哮に似た雄たけびを上げる。思えば、その声は俺の物だったのか、右腕に呑まれて別の奴に乗っ取られた俺があげたのか。そいつはわかんねえ。だが今はどうでもいい。俺は目の前の闇を右手で切り裂くように払う。闇が紙が裂けていくように晴れていき、一瞬眩しい太陽の光で白が視界を支配したと思ったら、目の前にはさっきまでの胸糞悪い光景が広がっていた。俺の姿を見た連中は、驚いている様子だ。
 次は俺がお前らを蹂躙する番だ。怯えろ。慄け。恐怖しろ。目の前の連中を団長がされたみたいにしてやる。

「な、んだこいつ!?」
「魔物か!?」
「おい、子供を――」

 俺はギャーギャー喚く鎧野郎に近づく。ちょっと走ったつもりだったけど、一瞬でそいつの目の前に距離を詰めていた。まあ、そんなことは今はどうでもいい。右手でそいつの頭を握る。ちょっと握っただけなのに、瞬く間に破裂しやがった。ぶしゃって変な音と共に、トンカチで叩いたリンゴみてえに簡単に潰れやがる。脆いな。

「なんだこいつ、人を串焼きみてえにするから、血は何色かと思ったけど、赤いんだ」

 俺は多分無表情でそんなことを言う。
 俺のそんな言葉と返り血を浴びながらあちらを睨むもんだから、奴らは腰を抜かしてビビってる。ああ、それより、団長は? バロンは無事なのか?
 俺は振り返ってバロンにニードルを立ててやがった女の方を振り向く。女も鎧野郎と同じように俺にビビってる。笑えるな……こんな奴らに団長は何度も何度も……何度も串刺しにされたのか!

「殺す……殺す殺す殺す」

 俺の口から憎悪の言葉が漏れて発せられる。
 俺は女に向かって駆け出し、右腕で女の身体をつかみ、地面にそのまま叩きつける。身体が簡単にぐにゃりと曲がった。人間ってこんなにも簡単に……簡単に骨が変形するんだなぁ……。血って意外と生温かいんだな。よく本で殺人鬼の話を見たけど、あいつらもこんな気持ちで人を殺していたんだろうか?

「全員殺す……全員……」

 俺の言葉なのかこれは?
 いや、いい。鎧野郎共は全員この場で滅ぼしてやる。



―――



 その後はまるで作業のようだった。逃げ惑う鎧野郎共を追いかけて、捕まえて、叩き潰して。あとは引きちぎった奴もいたな。それに真っ二つにもしてやった。
 もう動けるやつがいないと思って周りを見たら、周りは血の海だった。村人も、鎧野郎も、皆死んでる……。腕も化け物のものじゃなくて、元に戻ってる。


 ふと我に返ってその状況を脳が理解を始める。身体が冷えていく感覚に襲われた。

「ひ、ああぁぁ!?」

 俺は情けない悲鳴を上げて、その場で後退って腰を抜かす。生きてるやつがいない……そうだ、団長! それにバロン!

「団長! バロン!」

 俺が団長に呼びかけると、意識はあった。生きてる。
 それから、バロンに近づく。

「バロ……」

 バロンはうつ伏せになって動かない。俺は名前を呼びながら必死に身体をゆする。だけど、よくよく見てみると、バロンの首筋に赤い点みたいな跡がある。……ニードルで一突きされたんだ。確か、首筋には大事なのが通ってて、そこを突かれるだけで簡単に人間は死ぬって、シスターが言って……。バロンの顔は恐怖で歪んでいた。
 人っていうのは本当に脆い。簡単に死んじまう。俺は項垂れて、彼に対する懺悔の言葉を繰り返した。
 バロン……ごめん、守れなくて……。俺は唇を噛み、涙が出そうなのをこらえる。

「嘆いている暇はないぞ」

 そう囁くようにエルの声が耳元で響く。俺が驚いて声のする方を見ると、エルが立っていた。

「アルテアが虫の息だ。アレン、早く運んでやれ」

 エルは左手で団長を指し示す。

 ……そうだ、まだ団長が生きてる。急がなきゃ! 早く行かなきゃ! 俺はそう思考を巡らせる前に、身体が勝手に動く。
 団長の上半身を起こして、俺は背中に背負う。重い……でも、早く。早く戻らねえと……! 俺は団長を引き摺って、なるべく早く小屋に戻る。

Re: 叛逆の燈火 ( No.9 )
日時: 2022/08/09 23:34
名前: 0801 ◆zFM5dOWfkI (ID: Hyf7mfn5)

 団長をなんとか連れ帰った後、何があったのかと団員の皆に根掘り葉掘り聞かれたけど、俺もよくわかってなかったから何も言えなかった。
 ただ……黒い鎧の奴らが急に村を襲ってきて、村人をどんどん斬っていって、団長を串刺しにして、バロンも……。そこまで言うと、師匠がそっと俺を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。

「怖かったでしょう、辛かったでしょう。いいのよ、もう大丈夫だから」

 俺は無言で俯くしかなかった。正直、俺の右腕が化け物みたいになった時、俺じゃない俺が入り込んできて、ずっと目の前の奴らに向かって……「全員殺す」って叫んでいた記憶が焼き付いている。
 あれは、俺の意志だったんだろうか? 俺が、あんな恐ろしい言葉や思考で、あんな事を……。俺はふと右腕を見る。もうとっくに血糊も洗って落とした。黒々としたモノなのに、恐ろしくて仕方がなかった。

「どこへ行くの?」

 俺が師匠の下を離れると、彼女が心配そうに俺に声をかけてくれる。俺は振り向かずに、「団長のとこ」と一言だけ。


 後ろから足音が聞こえる。多分エルだろう。俺はエルの方を向きもしないで声をかけた。

「エル、あれは俺の意志だったのか? それとも、別の何かだったのか?」
「あれはお前でありお前ではない」
「どういうことだ?」
「お前の憎悪がああさせたのだ」

 俺の憎悪? 俺は思わずエルに振り向いた。相も変わらずの無表情がそこにある。

「憎悪って……んなアホな。」
「アホな話かはお前が一番よくわかっているはずだ。もう一人の自分が自分の身体で何かをしていた。という感覚に陥らなかったか?」
「……ん」

 俺が言葉に詰まっていると、エルは肩をすくめてため息をつき、俺を腕で指す。

「お前はまだその腕の恐ろしさが解っていない。理解しろ、その腕はお前の感情で暴走しかねん。まだお前が子供である限りは」
「が、ガキ扱いすんじゃ――」
「そういうところが子供だというのだ、莫迦者。感情的になるな、怒りや憎しみといった負の感情は、悪とは言わん。だが、物事が見えなくなり、大切なものを守るどころか、失いかねん。今日の暴走ぶりでは、近いうちにお前は人ならざる者と成り果てるだろうな」

 エルは痛いところをどんどんついてくる。
 カチンときて反論しようにも、多分エルには口喧嘩で勝てそうにもねえや。確かに、俺は年齢はもちろん、言動行動すべてがガキだ。シスターにも「あなたはお兄ちゃんなんだから、しっかりね」って言われて、頑張ってエレノアやルゥ、シスターも守れる男になってやるって思ってたけど……。

「う、ぐ……。確かに、そうだよな……俺は、どうしようもなくガキだ。すぐ怒ってすぐ諦めて……。シスターにも叱られてたってのに、そんなこともわかってねえガキだよ」
「わかっているならいい、あとは自覚だけだ。……そんなことを言っていたら、アルテアの部屋についたな。話はあとにしよう」

 エルがそう言うと、ノブを捻ってドアを開ける。部屋の中には、ベッドの上で包帯まみれになった団長が横たわっていた。ドアを開けて部屋に入ってくる俺達に、団長の隣にいるフィリドラ姉ちゃんが声をかけてくれた。

「エルと楽しそうだったな。何を話していた?」
「全然楽しくねえよ」
「それでも、誰かと話すことは楽しい事だ。どんな話題だろうとな」

 姉ちゃんは笑いながら、手に持っている水筒の中身を口にする。……多分酒だろう。匂いでもわかる。

「なあ、姉ちゃん」
「なんだ?」
「あの黒い鎧の奴らってなんだよ?」
「帝国軍だ。見た事ないのか?」

 姉ちゃんは首を傾げると、俺は首を振った。

「俺、ずっと修道院でシスターに守ってもらってたんだ。知らなかった」
「ま、知らないならこれから知ればいい。無知は罪だが、知る事と学ぶ事は人間にとっての糧だぞぉ?」

 姉ちゃんは豪快に笑い、また水筒の中身を口に入れる。

「いやはや、スパイが紛れ込んでたとは。俺も驚きだぜ」

 姉ちゃんがそうこぼし、水筒を強く握りしめる。顔はいつもと変わらない笑顔……いや、目が笑ってなかった。スパイが紛れ込んでいた事に、それに気づけなかった自分に腹を立てているんだろう。

「アレン、団長はな。帝国に反旗を翻すつもりだってのはわかるな?」
「あ、ああ。なんとなく。でもなんでだ?」

 俺の質問に、姉ちゃんの顔から表情が消え失せる。

「帝国騎士だったんだ、団長。俺もな。」
「……なんで、騎士のあんたらが革命だの反旗だのなんて――」
「今の帝国ってのは腐りきってるんだ。先代皇帝に毒を盛り、幼い皇女を皇帝に仕立て上げる、宰相一派のせいでな」

 宰相一派に……? 宰相ってたしか、皇帝を補佐する人の事だよな?

「なんでだ? なんでそいつらが仕えてるはずの皇帝を毒殺するんだ?」
「野心高い野郎共だったんだよ、あいつら。誰もが平等である事を掲げた先代皇帝が心底邪魔だったんだろうさ。それで、毒を盛られた皇帝を病死でもなんでも適当に理由をつけて、娘を皇帝に仕立て上げて、傀儡の皇帝として裏から操れば、帝国……いや、この大陸は奴らの好き勝手できるって寸法だよ」

 ……なんて奴らだ。何も知らない子供を利用して、好きかってしようなんて……!

「俺と団長はもちろん、その企みを見抜いて、今の皇帝にその事を伝えたんだ。俺と団長は一応あの子が生まれた頃から近衛騎士として、世話してたからな。……だが、そんな助言がとんでもない事を招いちまった」

 姉ちゃんが、苦虫を噛み潰したような顔をする。何か言いづらい事でもあるんだろうか?

「どうしたんだよ?」
「……やめにしよう、酒がまずくなる」
「なんでだ!? ここまできて――」
「っせーな、子供は寝ろ!」

 姉ちゃんが俺とエルを子猫をつまむようにして、部屋から放り投げる。いてえ……なんなんだよ一体! 俺がドアを叩いても、中からは何も返事がない。無視決め込みやがって……!

「畜生、行こうぜエル!」
「……そうだな」

 エルは考え事をしていたのか、返事が1拍程遅れる。こいつもどうしたんだろう? ま、いいか。


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