二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスターXY 命と破壊の遺産
日時: 2015/07/13 03:02
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

”読者の皆様へ”

 はい、どうも読者の皆様、自分はタクと申します。どこかで、見かけた事があるかもしれませんね。二次で、ポケモンとか、デュエマの小説を書いていました。
 今作は、ポケットモンスターXYのストーリーをモデルとしたものです。
また、オリジナル要素が多々あります。そして、今作から後書きを付けることにしました。まあ、書く事がないときは、何も書いてないかもしれませんけど。応援、よろしくお願いします!

ポケモン第六世代を最初に飾るゲームソフト、XYのノベライズ化!! 最後まで是非、ご覧あれ!!

登場人物紹介>>12
 
プロローグ
>>01

アサメタウン編
>>09 >>10 >>11

ハクダンシティ編
>>21 >>22 >>23 >>40 >>41 >>42 >>45 >>47

ミアレシティ編
>>50 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57 >>61

コボクタウン・パルファム宮殿編
>>62 >>68 >>69 >>71 >>76 >>77 >>79 >>80

コウジンタウン編
>>83 >>86 >>87 >>90 >>95 >>96 >>99 >>102 >>103 >>104 >>110 >>111 >>112 >>113

ショウヨウシティ編
>>114 >>115 >>119 >>120 >>121 >>124 >>125 >>126

シャラシティ編
>>127 >>131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>138 >>139 >>140 >>141 >>142 >>145 >>146 >>147 >>149 >>152 >>153 >>154 >>155 >>156 >>158 >>161

ヒヨクシティ編
>>164 >>165 >>166 >>169 >>170 >>171 >>172 >>173 >>174 >>175 >>176 >>179 >>182 >>183 >>184

ミアレシティ編2
>>185


ss・短編置き場

1.木登り騒動 >>148

飽き性な作者ですが、応援よろしくお願いします。また、読者の皆様の意見を聞きたいので、コメントには感想を添えてくださると幸いです。

第五十六話:パーティ ( No.138 )
日時: 2014/07/10 23:25
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ---------------カーマインさんか。本当に久しいな。会うのが楽しみだ。
 その晩、カルムはカーマインのことについて思い返せることを片っ端から思い返していた。
 ---------------あいつらも来るのか。好い加減、話しても良いよな。どーせ、僕を蝕むあの”呪い”のことさえ触れなければ良いだけだし。
 でも、と一瞬考える。
 ---------------こんなに友達ができて……僕ってやっぱり幸せ者だ。いずれ、あの呪いについても話すときがくるのかな。

 ***

 パーティ当日。あれから2日経ったが、シャラシティの指定場所に迎え用のシャトルバスが来るとの話だった。
 あの後、カルムはカーマインのことについては何も語らなかった。そして、カーマインが軍で大賞を取った記念という名目だと聞くと嬉しいような表情を浮かべていた。
 今朝、カルムは----------いつもの格好で「よし、行くか!」といった。そしたらテイルに小突かれた。

「バカかおめー、パーティなんだからちゃんとした正装で望むべきだろ」
「ぷっ、あはははは! テイルさん、スーツ似合ってなさすぎですよぉ」
「なぁ今度は本気で殴ろうか? うん?」

 確かにいつもカジュアルなシャツに白衣を纏っているというものだったので、違和感を感じる。
 すると、マロンも着替えたのか降りてきた。
 テイルは彼女のために衣服などを手配していた。曰く「研究以外興味ないんで白衣とかシャツとかしかもってないんですよ」とのことだったからだ。
 このままでは手入れの行き届いていない髪にぐるぐる眼鏡という残念な少女姿を他の連中に醸しかねない。
 仕方なく、泣く泣く(本当は)可愛い後輩のために有り金を叩いたのだった。
 ついでに髪の手入れも理髪店で行うようにアドバイスしておいた。眼鏡はあるならコンタクトにしておけとも言っておいた。
 完全に彼の好みの押し付けなのだが、彼女はむしろ「はいっ!」と気前よく答えてくれた。

「せんぱい、どうですかぁ」

 その後輩の声が聞こえる。
 振り向いた方から着替え終わった彼女の姿が。

「おっ。来たか……マジかよ」

 それを見た瞬間、テイルの胸は跳ねた。
 ”本当に”可愛い。
 いつものもっさりとした感じは払拭され、綺麗に手入れされた明るい色の長髪、眼鏡は外されコンタクトレンズになったことで彼女の澄んだ瞳がより一層美しく見えた。
 そして服装も普通の黒のブレザーというものだったが、はっきり言ってそれぐらいがいい。
 華奢な体付きが彼女の魅力を際立たせる。
 いつもの残念な少女姿はどこへ吹っ飛んでしまったのか、彼女自身も自分の容姿の変化に戸惑っているようである。

「せんぱい、へんじゃないですか?」
「ば、ばか言うな。何でいっつもそうしないんだ!?」
「ふぇ!?」

 ずいっ、と詰め寄るテイル。
 頭の中が色々と錯乱してしまっていて、思わず言葉が飛び出る。

「今度から、俺の前で眼鏡を掛けることは許さねえぞ! それだけじゃない、髪も綺麗にして、それとちゃんとおしゃれもして……とにかくっ! その姿でいてくれ!」

 何を言ってるんだろう、と。彼氏でもないのに発してしまった言葉を抑えたいが、もう遅い。

「うーん、お熱いですねお2人」

 傍から見ていたカルムが横槍を刺した。
 思えば、こいつが居たのを忘れていた。ぶん殴りてぇ、それが最初に感じた衝動だった。

「いっそ、パーティ会場で式挙げちゃいます?」

 というか此処がポケセンのロビーだったのを忘れていた。
 周りの視線が恥ずかしい。
 そうでなくとも身体の体温が急上昇するのを感じるのに。

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

 テイルは、言葉にならない声を真っ赤な顔で発するマロンの手を握り、とっととポケモンセンターを出てしまった。
 
 
「さーて、僕は何の服を着ていけばいいんだ?」

 仕方なく、ブティックに行って溜まった金でそれらしい服を買うことにした。
 
 ***

 買ったのは黒いコートに白いワイシャツ、そしてズボン。それを着こなし、お気に入りの帽子とワイドフレームサングラスを掛ければキマリ。どっちかと言えばラフな感じだと思う。
 ----------多分これで大丈夫だ。多分。
 シャトルバスには案の定、ようやく落ち着いたテイルの姿が。

「テイル先輩。彼女とはどうで、いだっ!!」
「おーおー、もう一回喰らいたいかい? うん? 地獄に送っちゃうからさ、思い出に一発打たせてあげることにしてんだけどよ」
「ヒィッ!! いや、悪かったですって」

 相当ゴキゲン斜めのようだ。自業自得、因果応報なのに。
 マロンは俯き加減に火照ったままの顔をそっぽに向けていた。
 少しからかいすぎたか? と流石に悪く思ったカルムだった。
 と思ってる間に他の面子も見えてきたようだった。

「お隣さんっ! まさか此処で再会するなんてね」

 セレナだ。今日は大きい唾の帽子を被り、髪を一括りにして纏めているようだった。そして、水色のパーティドレスを着ている。
 そして、サナにティエルノ、トロバも追いかけるようにやってくる。
 サナはピンクの短めのパーティドレス、ティエルノとトロバはスーツを着てやってきた。
 正直似合ってる。違和感なんて感じない。結構ティエルノもムーディなスーツ似あうんだなと思ったカルムだった。

「お待たせ、パーティといえばダンスだよねぇ。楽しみにしちゃうなぁ」
「ったく、ティエルノさんはそればっかりですから」
「とにかく、こんなことって二度とないんじゃないかな! ご馳走楽しみ♪」

 と思い思いの言葉が聞けた。

「君達らしーよ」
「本当だわ。後、バトルシャトーなんだから、ポケモンのコンディションもばっちり? 仮にもあそこはバトル施設よ、お隣さん」
「ああ、分かってるって」

 本当のところ、まさか、パーティの途中にバトルなんかやるか? と思っていた。
 それでもポケモン達のコンディションはいつも以上に整えたはずだ。
 だが、そのまさかが当たることになろうとは思いもしなかったのである。 
 カルムはシャトルバスの中で仲間達に告げた。

「なあ、バトルシャトーに着いたら君たちに伝えておきたいことがあるんだ。今の君たちなら話せる気がする」

 ***

「でっけぇ……」

 バトルシャトーは目の前に佇む古城だった。ショボンヌ城とは比べ物にならない。流石にパルファム宮殿と比べるのは酷だが、白レンガの壁が光沢を放つように見えるほど麗しい。そしておめぇなんざ眼中にねぇよと言わんばかりの巨大さ。
 一目で気に入った。
 すぐに回廊に通された。案内人と思われる中年男性に導かれながら、カルムは仲間達に語りだした。

「僕にとって、カーマインさんは恩人、いや家族みたいなものなんだ」
「え? どういうことなのよ」
「僕の母さんはサイホーンレーサーのサキ。この人の事は知ってるよね?」
「え!? そうだったの!?」
「でもでも、カルタロとサキさんってあんまり似てないよね」

 サナが思い出したように言う。サイホーンレーサー・サキの知名度はハンパではないらしい。

「ああ、それがポイントなんだ」

 そして、大広間に通される。
 遠い奥のステージには、老いて尚も放ち続ける貫禄を持つ男が居た。
 マントを羽織り、軍服を着た厳格そうなシワが寄せられている。ヒゲを沢山蓄えているため、口は見えない。だが鋭い眼光からは威圧的なものは感じない。
 今はまだ、穏やかだ。
 
「僕とサイホーンレーサー・サキと直接の血のつながりは無いんだ。僕は子供のいなかった今の母さんに引き取られただけ。それでも母さんには感謝してる。僕をこんな広い世界に送り出してくれたから」

 ふふっと笑みをこぼすカルム。
 
「どういうことですか? そ、それじゃあ、サキさんに引き取られるまでカルム君は----------」
「孤児だった」

 あっさりと、告げるようにカルムは言った。


「そして、僕が外の世界に出るまで、必死で守ってくれたのが---------今、目の前に居るカーマインさんなんだ」

第五十七話:カーマインとシェナ ( No.139 )
日時: 2014/07/11 04:33
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

「親の居なかったどころか、捨てられていた僕だけじゃなく、他にも孤児を子供のいない夫婦に引き取ってもらうまでカーマインさんは育ててくれたんだ。自分が今まで稼いだ費用をなげうってわざわざ孤児院まで作ってね。僕にとっては家族同然、いや恩人なんだよ」
「ですが、何故今……」
「さーね? 嫌になったのかな。隠し事してる自分が」

 そうこう言っているうちに、奥で佇むカーマインの前にまで一行はやってきてしまった。カルム達の意思ではない。案内人がそうさせたのだ。

「後ね、その頃に仲良くなった女の子が居てさ。孤児院に居た皆とは家族同然なんだけど、同年代でもその子とは仲良くってさ」
「幼馴染ってやつですか?」
「そうだろうね。でも、幼馴染という言葉じゃあいつとの関係は計れないかも。恥ずかしい話、結婚しよう♪ とか幼ながらに約束しちゃったもんな。ま、今考えればどうでも良いし、あいつも忘れちまってるだろ」

 セレナは妙にイライラする感情を覚えるのは何故だろうか、と思っていた。
 まあいい。どうせ昔の話なんだろうし。

「でも確か、カーマイン大尉は風のうわさによると1人娘がいるんだとか」
「じゃ、そいつかもしんないな」

 ***

 まさか、今此処で直接会わせて貰うとまでは思っていなかった。
 もう一度彼の姿を眺めるが、でっぷりとした中年太りの身体に蓄えられた白髭が良く似合う歴戦の戦士にして紳士だった。そして、その男の近くに見覚えのある若い男が似合わない黒いスーツを着て喋っていた。
 癖下や声から分かるが、正しくプラターヌ博士だった。

「久しいですね、カーマイン中尉。いえ、今は大佐にまでご出世なられたようだ。おめでたい話です」
「ナナカマド君にも報告したよ。実に遅い出世だったと自分の中では思っているがね。60になって大佐昇進というのは、若い頃の私の計画(プラン)では考えられんかったよ。やはり軍から身を引いていた時間が私には長過ぎたようだ」
「いいえ滅相も無い! その間、貴方が何人もの子供達を救っていたか! ナナカマド先生から聞いています。貴方は私や先生の誇りだ。素晴らしい人物であると感激しています。それに------------」

 プラターヌ博士の声はこちらが近づくに連れて、より聞き取りやすくなっていく。

「----------カルム君を図鑑の所有者に推薦していただいたのは間違いなく貴方なのですから! おかげで彼は今、素晴らしい体験をしている。勿論、彼の仲間もね!」
「彼には才能がある。それに、”能力”の件もひっくるめて、ポケモンを通して自分と向き合って欲しいと思ったのだよ」
「仰せの通りです」

 目を細くして語るカーマイン。しかし、瞳に影を落とすと続けた。

「だが、辛い思いを再び彼が味わっているというなら、私は彼に旅を止めさせたいんだがね」
「とんでもないよ!」

 気付けば、カルムの足は一歩を踏み出すどころか駆け出していた。
 そして口から勝手に言葉が飛び出ていた。
 カーマインは突然割り込んできた彼に驚いたようだった。

「……まさか、カルムか?」
「久しぶり……だね、カーマインさん!」

 彼の表情を見ると、彼はようやく自分の中にあった”カルム”と今目の前に居る少年が重なったようだった。
 そして、豪傑はガハハハと思い切り笑った。大きく重い口をあけて。

「大きくなったもんだ!! たったの2年の間にな!! 一目見て分かるくらいだ」
「驚いたよ。僕を博士に推薦してくれたのがカーマインさんだなんて」
「がはは、すまぬかったな。いきなり。だが私はお前に旅を通じて向き合って欲しいと思ったんだ。引き取ってもらったばかりのサキさんには申し訳ないと思って、後で何度も謝ったんだがね。あのときのニャスパーはどうだ?」
「ニャオニクスに進化したよ!」

 2人の姿は血は繋がっていなくとも正しく親子そのものだった。
 傍で見ていた友人達は思い思いを語る。

「ま、積もる話も沢山あると思うしね♪」
「見ていてこっちも笑顔になります」
「思わず踊りたくなっちゃうねぇ」
「あなたは本当そればっかりね。でも分かる気がする」

 すると、プラターヌ博士が歩んでくる。

「皆、久しいね! 元気かい? ははっ、聞かれてたみたいだね、結構前から。もしかしてカルム君から自分の過去をカミングアウトしたのかい?」
「あ、博士! 久々です! まあ、そんなかんじなんです」

 セレナが返す。

「は、博士! それより図鑑を直接見ていただけたいのですが!」
「それより、メガシンカについて分かったことは!?」
「それよりそれより、僕のダンスを!」
「それよりそれよりそれより、可愛いポケモンの」

 思わず苦笑いしながら博士は言った。
 相変わらず個性的な面々だ。

「はは、質問は一個ずつ、ね? それより彼の過去はどこまで聞いた?」
「えーっと、孤児でカーマインさんに育てられていたことですか?」
「それだけかい?」
「それだけって、まだあるんですか?」
「いや、実は---------------」

 博士が口を開こうとした次の瞬間、後ろから長身の少年の、テイルの頭髪が覗く。

「博士って! それより報告が!」
「ああ、ごめんごめん、そっちの方が大事だったね。君たち、悪いけど後で--------」

 そういって、テイルに連れられた博士はその場を去っていくのだった。

「博士も大変だね」
「同感です」

 今回は珍しくラストを締めたのはトロバの言葉だった。

 ***

「悪かったな。お前をあの時は守れなくて」
「ううん、あれは僕が外の世界に進むための大切な出来事だったんだって、今は思ってるんだ。それに、今の旅は苦しいことも辛いこともあるけど、面白いことや楽しいこともいっぱいあった。だからこのまま続けさせて欲しいんだ!」
「それが本音なら良いのだがね」

 やや憂鬱気にカーマインは言った。
 やはり何だかんだでカルムが心配なのだろう。

「それより、”シェナ”のヤツは?」
「もうすぐご来賓の皆様と挨拶を終えて来ると思うが----------全く、誰よりもお前に会うのを楽しみにしていたくせに早く来んものか」

 ふぅん、とカルムは呟いた。
 と、そのときだった。
 突然、目が何かに覆われる。誰かの手のようだ。

「だーっれだ♪」

 懐かしい声色。ああ、”彼女”だと気付く。
 凛とした静かな草原に響くような綺麗な声。

「シェナ! やっぱりお前だったのか!」
「だいっせいかーい!」

 そういって覆われていた目は光を取り戻し、ピンクのパーティドレスを着た少女が目の前にやってくる。
 髪の色は薄い黄色。まさに名前の由来どおりのバーントシェンナーそのものだと思える。だがとても綺麗で美しい。
 それを彼女は一括りにして後ろで纏めており、所謂ポニーテールだった。
 そして愛くるしいエメラルドの瞳に色白の肌。
 誰が見ても美少女そのものである。
 身長は自分よりも少し低い程度。

「忘れてなかったよね? ね?」
「もちろん」
「もーう、反応薄いんだからっ!」

 シェナはカーマインの孤児院でカルムが物心着いた頃から一緒に居た仲だった。
 カルムにとっては家族同然である。反応こそカーマインに比べれば素っ気無いが、久々に顔を合わせた幼馴染を前にしてついそうしてしまうだけだ。

「クチートは元気か?」
「もっちろん!! 元気だよっ! それより、カルム」

 ずいっ、と彼女が顔を寄せてくる。
 満面の笑顔で。

「あたしね、今日のこの日をすっごい楽しみにしてたんだよ!」
「ふ、ふーん、そうなんだ」
「だからね、心行くまで楽しんで欲しいな!」

 ならばお言葉に甘えるしかないだろう。
 幼馴染にしばしの別れを告げて、カルムは友人達の元に戻ったのだった。

(何か照れるな……まるでそれじゃ僕に会うのを楽しみにしてたみたいじゃないか)

第五十八話:婚約!? ( No.140 )
日時: 2014/07/11 08:08
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

 ***

 しばらくして、カーマインの宣言でパーティが始まった。
 全員が旨い料理や飲み物に舌鼓を打っていた。そして余興やその他色々に興じるものや、中にはナンパを仕掛けて頬を真っ赤に腫らすもの(誰かは大体お察しいただきたい)などそれぞれがそれぞれの形で楽しんだ。
 しかも手持ちも出して良いとの事だったので、面子の中にはポケモンと共に楽しむものも。
 勿論、カルムも例外ではない。

「あ、バカ! 勝手に僕が取ったのを食うな、プラスル!」
「プラプラー♪」

 プラスルの口には既に放り込まれたエビフライが。
 度々笑顔で悪戯をするのだからタチが悪い。
 と床の上を逃げ回るプラスルを利口なワカシャモが尻尾を掴んで捕らえた。と思ったが、電気で痺れさせられてしまった。
 
「ったくよォ……はぁ。お、モノズ。そのポフレ美味しいだろ? 最高級のヤツなんだとか」
「ギィ!」

 嬉しそうに鳴いたモノズは一口でポケモン用のお菓子、ポフレを平らげてしまった。
 本当に美味しそうに食べる姿は少し前までは想像できない。

「あれ? ゲコガシラもニャオニクスも食べなくて良いのか?」

 2匹とも首を縦に振る。
 どうやら、”何か”を感じているようだった。
 言葉には表しにくいが、何か嫌な予感がするのか。

「……僕もなんだか妙だと思った」

 最初はどうとでもなかったのだが、何かがおかしい。来賓客の視線、というか気配がこちらに向いているような気がする。
 そして、カルムの一番近くにいたゲコガシラとニャオニクスだけが感じ取っていたようだった。

 ***

「テイル君。どういうことだい?」
「此処の面子の顔を調べてみたんですけど、全員がポケモン学や科学関係の業界の連中なんです」
「そういえば知っている顔ばかりだとは思ったよ。カーマインさんはこんなに学者を集めて何をするつもりなんだろうね? どうも僕にはもう1つの目的があってこのパーティを開いたようにしか見えないんだ」

 華やかな会場だが、やはり何かがおかしいということは皆が感じ始めていた。
 視線、気配、そして面子。
 何かが1つの意思によって統率されているように感じる。

 ***

「ねー、カルム♪」

 そんなこんなでポケモンと戯れていたカルムだったが、シェナが話しかけてきたので全員を一旦ボールに戻す。目を離すとどうなるか分かったものではない。

「なんだよ」
「小さい頃、約束したよね?」

 訴えるような視線を投げかけられてカルムの胸が跳ねた。
 まるでコルニのときと同じだ。
 上目遣いで話す目の前の美少女に心ときめかない男子が一体この世に何人居るだろうか。
 そして約束と言うワード。
 やはり思い当たるのは1つしかない。

「い、いや、もしかして結婚のことか? でもさ、あれは小さい頃の訳が分からないうちにしたのであって」
「カルムは……あたしのこと嫌いになっちゃったの?」
「ち、違う」
「あたしはカルムのこと大好きなんだよ?」

 ---------っ!!
 顔が真っ赤に紅くなるのが分かった。
 目の前に居るシェナも同じように。
 心臓が聞いたことにないほどの爆音を鳴り散らせている。

「待っててね? もうすぐそれが現実になるから」

 頭が冷静に考えられないうちに放たれた言葉は、あまりにもカルムには理解し難かった。
 
 ***

 落ち着かない。気分が落ち着かない。
 あんな告白まがいのことを言われた後だからか、心臓は鳴ったままだ。

「お隣さん、どうしたの? 熱でもあるの?」
「あ? いや多分そうかも。でももうすぐ終わるみたいだから」
「それなら良いんだけど」

 -----------やめろやめろ! 今女子に話しかけられたら恥ずかしくて死ぬ!
 そう思っていた最中、カーマインの最後の演説が始まった。

「これより-----------主催者である私、カーマインによる閉会の儀を取り始めます」

 彼の静かで重い声が響き渡った。
 まず、来賓への謝辞などが主だったが、その他現状報告などが続いた。しかし、カルムは先ほどのできごとの所為でほとんどすっ飛ばしてしまった。
 だが、問題は次だった。

「そして、会場の皆様に嬉しい発表があります。私の血こそ繋がっていませんが、養子であるシェナの非常に喜ばしい出来事がありました。それについて、彼女本人から直接報告があります」

 ま、まさかとカルムは思った。
 彼女の引き取り先が決まったのか? いや違う。カーマインはもう、シェナを手放すつもりはないようだった。
 公に一人娘といっているのだからそうなのだろう。
 じゃあ一体、なんだ?
 さっきドキドキの中、彼女に言われた言葉を思い出す。

『待っててね? もうすぐそれが現実になるから』

 そして杞憂は本当に現実となってしまった。
 台詞は前半は聞き飛ばしたので聞こえなかったが、これだけははっきり聞こえた。シェナ自身の声で。

「-----------それはつまり、婚約相手の決定です!」

 冷や汗が伝う。
 何故今日、自分たちが呼ばれたのか。
 それがようやく分かった。
 セレナ達はオマケで呼ばれたに過ぎない。
 メインは自分そのものだったのだ。
 自分の予想が正しければ、こうだ。
 次の台詞は-------------

「相手は、アサメタウンのカルム君ですっ!!」

 次の瞬間、喝采が巻き起こった。
 つぅーっと額に溢れる汗が隠せない。
 セレナがぐいっとカルムを引き寄せる。

「ちょ、ちょっとお隣さん! 何時の間に婚約なんかしたのよ! 唯の幼馴染じゃなかったの!?」
「知らないよ! 勝手に-----------!!」

 尚---------とカーマインの言葉が続く。

「カルム君には我が娘の婿になる”義務”、そして--------------フレア団の一員となっていただく”義務”を得てもらいます!!」

 ------------は? 今何と言った!? フレア団!?
 次の瞬間だった。周りで立って話を聞いていた面々が豹変した。
 一気に、ガッと服を掴み脱ぎ捨てる。そして次の瞬間には全員が紅いスーツに身を包んでいた。
 さらに、カーマインも軍服を掴むと一気に脱ぎ捨てる。
 その下には紅い軍用コート。
 胸にはフレア団の紋様が付いたバッジが。
 隣に居たセレナ、そして纏まっていたサナ、ティエルノ、トロバはぞっとした表情を浮かべる。
 プラターヌ博士も傍にいたテイルとマロンが守るように囲み、身構えた。
 この場に居た来賓客が全員フレア団の一員だったとは!

「ど、どういうことだカーマインさんっ!!」
「許せカルム。お前の身を案じてのことだ。もうすぐ、この文明は滅びる。争いを繰り返す人間共が支配する愚かな文明は」

 すたすたと階段を下りるカーマイン。
 その眼光は鋭く光っており、軍人そのものだった。

「カーマインさん、これは……!」

 博士が呼びかける。

「プラターヌ君。進化するのは何もポケモンだけではない。人間もなのだよ」
「人間も……!?」

 博士の表情は更に困惑を増した。

「そうだ。我々は新人類へとステージを移すときが来たのだ!!」

 高らかに宣言したカーマイン。しかし、全く意味が分からない。

「そしてプラターヌ君。何故、メガストーンの在り処がフレア団に分かったのか、君ならもう見当が付いてるだろう」
「まさか、貴方が私の研究所の情報を流したんですね!? カーマイン大尉!!」
「その通りだ。しかし、今の私はカーマイン大尉ではない」

 赤いマントを翻し、手に持った杖にはキーストーンが埋め込まれている。
 その風貌には見覚えがある。キーストーンを持つフレア団員はいずれもこう名乗っていた。

「フレア団幹部、七炎魔将序列1位、『炎魔王邪(タルウィ)』だっ!!」

 カルムは目の前の全ては信じがたかった。
 わなわなと震える右手。
 思わず彼は駆け出して叫んだ。

「お、おい!! シェナ!! これは夢だよな!! まさかお前も七炎魔将なのか!!」
「違うよ、カルム」

 にこっ、と微笑んだ彼女の口角からは全くカルムが安心できる要素が見つからない。
 全て、不安を掻き立てられるものだ。
 すべてを知っていたはずなのに。

「あたしこそが、フレア団最高幹部、『絶望の使徒(ハッピーエンド・チルドレン)』の1人、『破壊の遺産(イベル・ミゼル)』のシェナなんだもの」

第五十九話:バトルシャトー攻防戦 ( No.141 )
日時: 2014/07/11 14:01
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

「は、はは……嘘だろ?」
「あたしはこの世界を壊す」

 にっこり笑顔で彼女は言った。確かにそう言った。何度聞かずとも分かる。
 あんなに優しかったはずの彼女が、どうして!? とカルムはつくづく思った。

「彼女は奴隷階級の出身だった。しかし、彼女の親は必死に私の元へ逃げてきて、赤ん坊の彼女を預けたのだ。そして---------力尽きて死んだ」

 奴隷……!?
 そんな話初耳だ。
 それに、そんな話は昔話だとばかり思っていたのだ。

「オーレ地方の南方。アヴァロンと呼ばれる監獄の島がある。だが、実態は奴隷の収容所だ。彼女は、そこで看守の白人と奴隷の黒人との間に生まれたハーフらしくてな。所謂、看守と奴隷の禁じられた恋愛というやつだったらしい。それで彼女は黒人が多い奴隷階級出身にも関わらず白人の特徴を色濃く受け継いでいる」

 だが、それだけではない、とカーマインは続けた。

「カルム。お前は憎いか? 能力だけでお前を忌み嫌ったこの世界を! お前を里親から離したこの世界を! 私は憎い。そうやって人の自由を奪う人間が居れば奪われる人間が居る。それだけで虫唾が走る!! すべてを平等に、すべてを新人類の元に1つにすれば世界は平和になる」
「あたしは従う。お父様に。あたしを生かしてくれたお父様に!!」

 能力-----------自分に秘められた能力のことだ。
 そして過去、自分がその能力でどんな目にあったのか、カルムは思い出していた。
 フレア団の下っ端達は今だ不気味に傍観するのみ。恐らく指示さえあれば動き出せるようになっているのだろうが。
 たたっとセレナ達はプラターヌ博士の下に行く。

「博士……! カルムに何があったんですか!?」
「……まさかこんな形で話すことになるなんて思わなかったけれど」

 博士の表情が暗くなった。
 
「プラターヌ君。そして選ばれし君たちは拘束させてもらう」

 直後、全員がポケモンを出す。
 マルノームにペンドラー、ズルズキンにミルホッグ、ローブシンにライボルトなど、次々に無数のポケモンが襲い掛かってきた-----------が、それらは途端に吹っ飛ばされる。
 シビルドンだ。テイルのシビルドンが長い腕から繰り出されるドレインパンチで襲い掛かってきたポケモン達を薙ぎ払ったのだ。
 さらに、マロンのバオッキーがミルホッグを蹴り飛ばす。

「おいっ、ポケモン出した後にボーッとしてんじゃねえぞ赤スーツゴルァ!! つーか誰がてめーらなんざに捕まるってんだ! おめーらにはそこらへんのポッポがお似合いだぜ!」
「ですっ! ているさんの言うとおり、はかせにはいっぽもちかづけさせないです!」

 だが囲まれたこの状況では圧倒的不利。しかし。

「私たちも行くわよ! 行け、ハリボーグ!」
「レッツステージオン、ヘイガニ!」
「頼みますよ、フラエッテ!」
「いっくよー! テールナー!」

 全員がそれぞれの相棒を繰り出した。

「よほど余裕があるのね。私達が博士の近くに寄るまで攻撃の指示を出さなかった辺り」
「それがあの人のポリシーだ。戦いはフェアな状態で圧倒してこそ真の勝利といえるって言っていた」

 博士もボールを投げる。中からは二足歩行の亀ポケモン、カメールが現われた。その名のとおり、亀そのものだが前述の通り二足歩行の上に目つきも精悍になっている。さらに毛で覆われたふさふさの耳と尻尾が生えているので、唯の亀とは一味も二味も違うのだ。

「頼むよカメール! 水鉄砲!」

 次の瞬間、物凄い水圧で水流が撃ちだされた。一気に仰け反ったポケモンが下っ端共々巻き込んで吹っ飛ばされる。

 ***

 一方のカルムは今だカーマインと決着をつけるためか、論をぶつけ合っていた。

「それでもカーマインさん達がやっていることは悪そのものだ! 人やポケモンをこれ以上傷つけないでくれ!」
「悪? それは世間一般論に過ぎない。ミスと言うのは周りが正しいからこそ見えてくるものだが、逆に言えば周囲すべてが間違っていればミスなど隠れて見えて来ぬまいよ!」
「ーッ!!」

 何が正しいんだ? 何を信じればいい?
 誰が間違っていて、誰を味方にすれば良い!?
 すべてが葛藤の渦に巻き込まれる。
 そのうち、すべてが、思考回路そのものを葬っていく------------


「こんのバカルムがぁぁぁぁぁ!! 迷ってる暇なんざあるか!!」


 怒鳴り声が聞こえた。右で必死に戦っているテイルの声だった。

「間違っていようがいまいが、テメェが正しいと思ったことをやれば良いだろ!! 他のヤツになんか惑わされんな! テメェはテメェ、アサメタウンのカルムだろうが、違うかぁー!!」

 その言葉が、再び自分の血を滾らせる。
 そうだ。何でここで燻ってる必要があるんだ。
 何も信じられないわけじゃない。
 信じられるものは此処にある。
 信じられる基準は此処にある。
 いつも見えないけどすぐ此処にある。
 まず、自分が居る。
 そして--------------こいつ(ポケモン)らがいる!!

「カーマインさんっ、シェナ!! ”俺”はそれでもアンタらが間違ってるとしか、思えないんだッ!!」

 チッと舌打ちするカーマイン。シェナの肩に手を置いた。

「もう良い。力づくでも仲間にする。シェナ、良いな?」
「オーケー。カルムの眼を覚まさせる!!」

 ステージの奥で2人のモンスターボールが投げられた。
 シェナのボールからはホイップポケモンのペロリーム。一方のカーマインのボールからは、サルのようなポケモンが現われたが、図鑑が認識を弾いてしまった。

「っ!?」
「こいつは火炎ポケモンのゴウカザル。北の地方に生息するポケモンだ。私とナナカマドは私が仕事でシンオウに出向いたときにポケモンの話で親友になった。あいつは熱心なヤツだよ。だから多くのものが惹かれたのだろうな。これはその絆の証なのだよ!!」

 そうカーマインが叫ぶと、ふぅっと炎を吐いたゴウカザルはキッと標的を見据える。

「ナナカマド博士だって、あんたがそんなことをするのを望んじゃいないはずだ!!」
「カルム。お前にもナナカマドにも申し訳ないと思っている。だから、世界をより美しく、あの方の元で変えることが私のせめてもの罪滅ぼしなのだよ!」
「んなもんは唯の自己満だろうが!!」

 だが、これ以上の問答は無用だと思ったのか、カルムもボールを構えた。
 と、そのときだった。

 -----------戦場を青い風が駆け抜けた。

 たちまちにしたっぱのポケモンは静まり返って、沈黙。そして倒れる。

「な、何が起こったって言うんだ!?」

 テイルでさえ、全く何が起こったのか分からないようだった。
 次々とフレア団のポケモンはバタバタバタと倒れていく。

「オーイオイオイオイ、何か面白そうな事やってんな、オイ」

 いつ割れたのかも分からない窓から不敵な笑みを浮かべてスパイダーマンよろしく入ってきたのは、あのゴーグルを掛けた少年だった。

第六十話:ブラック ( No.142 )
日時: 2014/10/02 22:58
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

「誰だ? 貴様は」

 怪訝な顔で聞いたカーマイン。直後、ゴウカザルがそれを排除せんとばかりに拳を炎で包んで殴りかかる。
 が、ゴウカザルの腕を包んだルカリオは、刹那それを高く天井へと投げ飛ばしてしまう。

「おいおい、ざっけんなよ。誰だ? て聞きながら攻撃とかマジ鬼ですかぁ!? リオ、波導弾!!」

 身体に波動が駆け巡る。エネルギーがバチバチと拳の一点に集められ、そして発せられた。
 ズドン、と打ち出される青い気合の玉。回避を試みるゴウカザルだが、空中で身体を立て直し、アクロバティックな動きで弾を避けた。
 しかし、次の瞬間、弾の軌道がぎゅん! と音を立てて曲がったのである。
 それだけではない。まるで吸い寄せられるようにゴウカザルを狙っていく。

「避けようとしても無駄だぜ。波導弾は相手の身体に宿るエネルギー、つまり波動に反応してぶつかるまで追尾し続ける!!」

 波動を導く弾と書いて、波導弾。精神エネルギーである波動はすべての生き物に存在するが、その中でもルカリオは波動が非常に強いポケモンである。故に、この技を扱える数少ないポケモンなのだ。
 たとえ、目を瞑っていたとしても、持ち主の波動が強ければ強いほどより標的の波動を読んで勝手に追尾してくれる。
 それが波導弾という技だ。
 ドォン、と爆発音が響いて煙が立ち込める。しばらくすると、ゴウカザルの身体はまっさかさまにパーティーテーブルへと落っこちた。

「ペ、ペロリーム、ムーンフォース!」
「やられる前にやれ、神速!!」

 青い風が吹く。そして、正拳突はしっかりとペロリームの腹を捉えた。
 呻き声を上げるペロリーム。そのまま前のめりに倒れた。

「あ、あんたは一体……!?」
「よーう、またまた会ったな。大体3度目ってところか? 俺の名はライ……じゃなかったブラック! 珍しいポケモンを探して旅をしてる物好きだ」

 カーマインとシェナを前にして、ゴーグルの少年は高らかに名乗った。
 自信満々といった笑みで続ける。

「で? これで終わりかよ。特に『絶望の使徒(ハッピーエンド・チルドレン)』のそいつに至っては何の能力も使っていないんじゃないか? この俺を舐めてもらっちゃ困……あれ?」

 ふとブラックは、目の前に居る相棒のルカリオを凝視した。動きが少しおかしい。
 ふらついているような感じだ。いや、それだけではない。
 前のめりに倒れたはずのペロリームの身体が起き上がり---------

「ペロリーム、火炎放射!!」

 余裕そうな顔で微笑んだペロリームの口が、ガバァッと開き、炎が放たれる。

「飛び退いて避けろ!」

 唯でさえ脚力の強い上にメガシンカした状態だ。一度地面を蹴ればルカリオは天井まで飛び上がれるはずだった。
 しかし、ジャンプは僅かそこで止まってしまう。
 さらに炎を一気に浴びたルカリオは、そのまま燃えながら倒れる。
 炎が治まった頃には完全に目を回していた。

「これがあたしの能力、『破壊の遺産(イベル・ミゼル)』。相手の生命力を”直接”トレーナーが奪い取るというもの。加えて、あたしのペロリームの脅威の耐久見た? あの程度じゃ半分も削れてないよ」
「ははっ、まさかメガドレインみたいに奪った生命力を自分のポケモンの力に変えたのか!?」
「それは違うかな? 別に奪ったところでどうこうできるものでもないみたいだし? でもね……」

 次の瞬間、ペロリームを中心に巨大な紫色のオーラが放たれた。
 圏内にいたしたっぱやそのポケモン、さらにはセレナやテイル達までも巻き込む。
 幸い、カルムとブラックはその圏内に納まっていなかったのかなんとも無かったが、リオが心配だ。
 そして、途端に彼らは胸を押さえてうずくまる。

「がはっ、ゲホゲホ、なんだこれは!!」
「あの子のポケモンを中心に輪が広がってる!?」
「気付いた? ”破壊の輪(デストロイ・リング)”。これは圏内にいる生命体の生命エネルギーを奪う代物。まあ今のあたし程度の力じゃ命そのものを奪うことはできないけどね」

 ククッ、と悪戯っ子のように微笑むシェナ。
 悪魔だ。
 家族同然だったはずの彼女が始めてそう思えた。
 憤りを感じる。
 歯を食いしばる。
 
「あははっ! でも、そのまま終わらない生き地獄を味あわせてあげなよ-------------」
「好い加減に、しろォーッ!!」

 怒りの咆哮とガッ、と鈍い音が響くと同時にペロリームの身体が吹っ飛ばされる。
 カルムのゲコガシラが電光石火でペロリームの懐にもぐりこんだのだ。

「何でお前たちはそうやって、俺の仲間を傷つけるんだァーッ!!」

 続けて水の波動。今度こそペロリームは唸り声を上げて倒れた。
 普通ではありえないほどゲコガシラの攻撃力は増していた。
 そう。ありえないほどに。
 見れば、カルムの身体を中心に青い輪が広がっていく。
 その中に入っているゲコガシラは、普段よりも生き生きとしていた。
 
「カルムのバカっ! 何でお父様のことを分かってあげないのよ!」
「言っても無駄だシェナ。一気に押しかけるぞ。行け、ハッサム」
「オーケー、頼んだよ、クチート!」

 2体のポケモンが現われる。
 大きな顎を持つ角を頭に生やした欺きポケモンのクチートと、赤い鋼鉄の身体に身を包んだ鋏ポケモンのハッサムが降り立つ。

「おいカルムとやら。俺で足りるかどうか分からねえが助太刀入れさせてもらうぜ」
「良く言いますよ。あんな凄いポケモンを操ってて!」
「いーや、それでもあいつのペロリームに一撃でやられちまった。御苦労、リオ!」

 そう言うとブラックはルカリオのニックネームを呼びながらボールに戻す。
 そして、別のボールを投げた。

「行ってこい、”リュー”!!」

 ボールから飛び出したのは水色の曲線的な身体を持つドラゴンポケモンのハクリューだった。
 美しい流線形のラインは神秘的なものを感じさせる。
 ぶつかり合う4つの視線。
 完全に包囲されたと思われた絶望的な戦線は1人の少年によって、1筋の光が差し始める。
 破壊の盤上で死のワルツを舞う破滅の歌姫。
 それを止めるのは誰なのか。

 ***

「あんのバカ、ちゃんとやってればいーんだけどねー」

 少年が岩山を歩いていた。
 それも、どこか幼さが残る少年だ。
 そして、その背後には親子ポケモンのガルーラが後を追うようについていっていた。
 地図を見ながら、辿りついた先には森がある。
 そこには多くの赤いスーツの面子が張り込んでいた。
 が、しかし。

「ガルーラ、10万ボルト!」

 ああいけません。ポケモンの技を人に向けて撃ったら、そりゃ気絶するに決まってます。
 というわけで黒焦げに調理されたそれらを踏み越えるどころか踏みにじって奥へ奥へ進んでいく。

「……時は一刻を争う……だから、ヤツを此処で止める!!」

 その右手には、キーストーンが埋め込まれたメガリングが嵌められていた。


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