複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.230 )
日時: 2020/09/15 07:10
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 護送車は相変わらず白い排気ガスを撒き散らしながら不運にも輸送車のちょうど向かいに停車した。エンジンが切られ運転席、助手席から困り果てた顔をした2人の警官が車内の外に降り立つ。しゅ〜と音を立てる煙たい排気口を覗き更に表情を歪めさせた。彼らの不機嫌な愚痴がそう遠くない距離から聞こえてくる。


「あの護送車、ちょっと様子が変じゃないですか?」

 慎一が不可解に思いながら聞くと

「恐らく故障したに違いない。しかし、よりにもよってここでエンストを起こすとはな・・・・・・香織、その仮面には透視機能がついているんだったな?早速そいつで向こうの状況を確かめてくれ。」

「分かったわ」

 香織は仮面を被り頭の中で透視と唱えた。変わった視界が車体の壁を透き通り目の前の護送車が映し出される。車の後方には警備員が2人、故障した個所を為す術もなく眺めていた。車内にも連行される途中の囚人の姿も2人確認できる。

「警官が2人いて後部にいて車内には囚人が乗せられてるわ。片方は男性でもう片方は子供よ」

「子供の囚人?」

 メイフライが目を丸くして聞き返すと

「年齢は身長は低く年齢は10歳くらいで髪型からして多分女の子です」

「幼い女の子が護送車に乗せられるってある?一線を越えた少年犯罪でも犯したのかしら?」

愛利花の予想を香織が即座に否定する。

「いえ、囚人のデータも解析しましたがあの2人に前科はなく、罪を犯したデータも浮かび上がりません」

「それって、冤罪で捕まっているって事ですか!?」

「恐らくは・・・・・・」

「助けようよ!」

 透子が必死に訴えるが、博仁は冷静沈着に対応する。

「ふざけるんじゃない。こっちには武器と呼べる物がほとんどないんだ。助けに行ったら返り討ちは確実だ。一度深呼吸して落ち着いて考えろ。囚人を解放して俺達に何のメリットがある?どんな見返りが得られる?いいか?BJは報酬と引き換えに人を殺す汚れた組織で正義のヒーローなんかじゃない。いちいち情に流されていたら命がいくつあっても足りないぞ」

「・・・・・・ですが!」

「この任務でのメインゲストは香織だがリーダーは俺だ。お前らを安全に護衛し無事に隠れ家に送り届ける義務がある。俺は全員をこの地獄の街から生きて帰す事を誓った。だから絶対に行かせねえぞ。気持ちは分かるがその良心はいざという時のためにとっておけ」

「・・・・・・」 「・・・・・・」

 救出を促した2人は納得しきれない感情に苛まれながら黙り込んだ。メイフライが泣きそうになる透子を優しく慰める。

「香織、あいつらの動きはどうだ?変わりないか?」

 博仁は質問の矛先を香織に向ける。

「そうね、しばらくはこの状態が続きそう。その方が好都合だわ。この機を逃す手はない」

「・・・・・・どういう意味だ?」

 香織は何も答えず仮面を取り外すと1人、バックドアの方へ向かう。

「おい、どこに行くつもりだ?」

 彼女はしらっとした顔を振り返らせると

「決まってるじゃない。囚人を助けに行くのよ」

「は?」

 博仁は短い一言を漏らすと彼女の正気を疑い声を張り上げた。

「お前バカか!?東京に来て頭がイカれちまったんじゃねえのか!?しかも1人で行くなんて・・・・・・無謀だし、確実に死ぬぞ!?」

 香織は暴言を気にせずわざとらしいため息をつくと

「私は全てを救うような神様にはなりたくない・・・・・・でも、無抵抗な人を見殺しにするような悪魔にもなりたくない。確かに私達はお金と交換に悪人を殺す偽善者の集まりよ。正義の味方なんてお世辞にも言えない。でも、私はブラックジョークがただの悪人よりはマシな存在だと思っている。卑劣な組織だけど、その卑劣が暴虐に苦しむ人々を救っていると信じたい」

 すると彼女の背中にメイフライが加わった。呆れた表情を浮かべていたがその口の両端は吊り上がっている。

「香織さん。その言葉早く聞きたかったです。そう言う事でしたら俺もお供させてもらいますよ」

「メイフライ!お前まで何を・・・・・・!?」

「嫌いな警察に鉢合わせして、むかむかしていたところです。1人や2人ぶん殴って帰らなきゃ気が済みません」

「お兄ちゃん私にも手伝わせて!」

「迷惑じゃなければ俺にも参加させてくれませんか?歪んだ本心ですが一度政府の奴らをぼこぼこにしてみたかったんです」

 慎一と透子も迷わず賛成した。

「揃いも揃ってバカばっかりだ。こんな事で命をかけて粗末にする必要なんてないだろう?」

 反対意見を押し通そうとする博仁を睨み慎一が言った。

「確かに俺達は命を粗末にするバカかも知れません。勿論死ぬのは嫌だし恐いです。だけど、助けられる命を見殺しにして一生後悔するのはもっと嫌だ。誰かが死ぬのを指をくわえて見てる生き方なんてもううんざりなんですよ。いくらバカと罵られても本当のクズにだけはなりたくないんです。俺も香織さんについていきますよ」

「・・・・・・」

「博仁さんだって分かってるはずです。今の自分は本心に背いてるって、だったらありのままの自分を見失わないで下さい。BJの一員としてではなく人間としてやるべき事をやるんです」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.231 )
日時: 2020/09/15 07:26
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 博仁は何を言えばいいか悩んだ面持ちで4人から目を逸らした。再び視線の向きを戻すと観念したような苦笑を浮かべ

「乗り気はしないが人生はスリルがあった方が楽しいかもな・・・・・・やっちまうか?」

 素直じゃない肯定に5人は相好を崩す。

「決まりですね!早く助けに行きましょう!」

「待てメイフライ。作戦を立てずに突っ込む気か?まずは策を練るのが先だ」

「その方がいいわね。計画的にやった方が上手くいくと思うわ。」

「車が故障したとなればポリ公は無線機で救援を要請したはずだ。応援が来る前に奴らを無力化しなければならん。戦闘の経験はあっちも玄人だろうがこっちだって殺し慣れた熟練の兵士が2人いる。俺も含めて3人か・・・・・・数では有利だな」


「いいえ、4人よ」


 どこからか声がしたかと思うと助手席から愛利花が話し合いに割り込んできた。

「なんだ・・・・・・お前も聞いてたのかよ」

 博仁の嫌味口調に愛利花は勿論と堂々と答え

「私を仲間外れにしてもらっては困るわ。全く本当に救いようがないアホ共ね。あなた達と一緒にいると退屈しない。特に博仁、ミイラがミイラ取りになってどうするのよ?リーダーなんだからもっとしっかりしなさい」

「はいはい・・・・・・」

「私の身勝手に巻き込んでしまってすみません。でもこれで6人全員が一致団結しましたね」

 香織達は改めて作戦会議を再開する。

「1番の問題はろくな武器がない俺達がどうやって戦うかだ」

「心配いらないわ。こっちにも銃がある。東京支部の隠れ家でブラックジョーカーから貰った」

 香織はポケットからマリアを取り出すと両手でグリップを掴んで安全装置を外した。

「随分と立派な代物を授かったな。売れば相当な値打ちが付きそうだ」

 博仁は銀細工の銃身を眺めいかがわしい評価を述べた。

「確か博仁さんも銃を所持してたでしょ?暗器と呼んでた消音のリボルバー拳銃」

 メイフライがその話を持ち掛けると博仁は顔をしかめ

「そこが問題なんだ」

「え?」 「え?」

 意味を理解できず香織とメイフライは同じ声を合わせた。

「マリアって言ったな?その銃はサイレンサーがなく銃声がするから使わない方がいい。そもそも銃自体がご法度だ」

「どういう事?」

 訳が分からないまま理由を尋ねると

「こんな大都市で銃をぶっ放したら、本末転倒だぞ。ポリ公は勤務中、無線のスイッチを切る事はまずないんだよ。銃声がはっきり伝わったら、奴らの本部が大勢の援軍を動員して、こっちに押し寄せて来る」

「実に難題ね。無線を無力化できれば、こっちにも有利な点ができるのに・・・・・・」

なかなかいい案が浮かばず香織達は無力に沈黙してしまう。

「あの・・・・・・!」

 すると慎一が何かを思い出したのか、はっとした顔を作った。

「ん?どうした慎一?」

「もしかしたら、これが役に立つんじゃないでしょうか?」

 慎一が取り出したのはスマホくらいの大きさのケースだった。蓋を開けると、得体の知れない小型の電子器具がいくつか収まっている。メイフライはそれが何なのか聞く。

「実は皆さんに内緒でこっそり持ち出したんです。コレクションがないとなんだか落ち着かなくて。因みにこれは特殊な妨害電波を発生させる機械で一定時間、低範囲内にある通信器具の電波を無力化します」

「それだ!」

 幸運とも言える転機に博仁は歓喜に狂った。香織達も尊敬の眼差しを1人の青年に浴びせる。

「でかしたぞ、妨害電波を使えば警察本部も無線の不調だと勘違いする。問題は解決したも同然だ。お前のコレクションは金塊の山よりも価値があるな」

 肩を強めに叩かれながら顔を赤らめる慎一。博仁は早速、それを1つ受け取り上手く利用する事にした。

「これで護送車を襲う手筈は整った。だが、銃を持った敵相手に素手で立ち向かうのはほぼ自殺行為だ。どうにかして不意を突かねば勝ち目はない。危険が伴うが誰かが囮になって奴らを油断させる必要がある」

「なら、俺が行きますよ。俺が警官の注意を逸らしている間に香織さん達は輸送車の死角から回り込んで背後から襲撃して下さい」

 その危険な役に慎一が迷いなく立候補した。

「慎一、お前はもう十分にやってくれた。ここは戦の経験がある俺達に任せてくれないか?」

 博仁が待機するよう促すが慎一は素直にはいとは言わず

「俺みたいな弱そうな人間の方が相手もきっと油断します。それに4人で不意を突いた方が効率的だと思いますよ」

 と恐れを感じさせない余裕の笑みを零した。

「だったら私も囮になりたい!慎一お兄ちゃん1人に危ない橋を渡らせないから!」

 透子も慎一にしがみつく。

「だめだよ透子ちゃん!君には危険過ぎる!大人しく車内に隠れているんだ!」

 それでも透子は勢いよく頭を横に振り

「私はいつもお兄ちゃん達に守られてばかり・・・・・・私だって皆を守りたい!ただついていくだけのお荷物でいたくない!」

「・・・・・・初めて会った時は泣き虫だったのに随分成長したな。いいんじゃないか?こいつも連れてってやれよ」

 博仁はあっさりと透子の申し出を許可した。

「博仁さん!」

「幼女がいた方がより油断させられるんじゃないか?俺は作戦としてはいいと思うぞ?」

「お願い、絶対に足手まといにはならないから!」

 メイフライはどうしようもないため息をつき目の前にいる慎一を睨んだ。

「慎一さん。どうか、この子をお願いします」

「大丈夫。万が一の事があったら俺が盾になってでも守り抜きますので」

「決まりだな。外に出たらジャマーで無線をだめにし囮で油断しているポリ公を後ろから叩く。お前ら死ぬなよ?」

「そっちこそね。運転手のあんたが死んだら、一生恨むわよ?」

 愛利花が声を鋭くして言った。

「慎一、この妨害電波発信機はどれくらい有効なんだ?」

「10分くらいです」

「それくらいあれば余裕だな。覚悟はいいか?作戦開始だ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.232 )
日時: 2020/09/20 18:43
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「これは治せそうにないな・・・・・・ああくそっ!これ明らかに整備不良だ!整備係は何をやってたんだ!?」

 警官の1人が車両の後部を蹴飛ばし文句を口走る。

「全くだ!こっちは囚人を運んでる途中だってのに!上にどう説明する?怒られるのは俺達なんだぞ!?」

 もう1人も実に不機嫌そうに言った。排気口から漏れる煙を手で払い苦しそうに咳込む。

「そういえば無線で救援を要請しただろ?到着までどれくらいだ?」

「ここは巡回コースを外れた廃墟だからな。早くても15分程度だろう。この道を選んだのが間違いだったな・・・・・・ん?」

 車両を蹴飛ばした警官が何かに気づき取り出しかけていた煙草を胸ポケットにしまい正面を見た。ん?に反応しもう1人の警官も車体から顔を覗かせる。

「なんだあいつら?こんな人気のない廃墟で何してる?」

「怪しいな。お前はここにいて一応無線で連絡しろ。俺はあいつらに事情聴取をしてくる」

 警官は無線連絡を相方に任せ目つきを鋭くすると拳銃の収まったホルスターに手を伸ばし不審者の元へ駆け出した。

「おかしい。何故、無線が繋がらないんだ?もしかして、これも壊れたのか?勘弁してくれっ・・・・・・!」

 使い物にならない電子器具に警官は胸糞悪く愚痴を吐き捨てる。

「止まれ!お前らそこで何してる!?」

 気迫のある剣幕で警官が声を張り上げ2人は足の動きを止めた。青年が先頭に立ち少女が背後に隠れる。

「お前ら近辺の住人か?こんな無人地帯で何をしていた!?」

 警官が厳しい口調で同じ内容の質問を繰り返す。青年は震えとプレッシャーを押し殺し重い口を開く。

「お、俺達はこの近くの居住区に住んでいる者ですけど食べ物が買うお金がないからここに来て売れそうな物がないか探していたんです!け、決して怪しい者ではありません!」

「廃品漁りでもやってたってのか?」

 警官は露骨に顔をしかめ呆れた視線を2人に送る。

「あの・・・・・・えっとその・・・・・・少しばかりお金を恵んでくれませんか!?俺達、もう2日間何も口にしてないんです!」

「はっ、お前らみたいな薄汚い物乞いにやる金銭などないわ。そんなに食い物が欲しけりゃ共食いでもするんだな」

「そんな・・・・・・お願いです!少しでいいから!せめてこの子だけでも・・・・・・大切な妹なんです!」

 そうしつこく頼むと警官は見下した敬遠の眼差しを一変させ殺意の形相を露にした。ホルスターから拳銃を取り出しハンマーを倒すと銃口の狙いを青年の額に定める。

「ひっ・・・・・・!」

 少女は怯えきった面持ちを浮かべ青年を盾にしがみつく。

「最後の警告だ。これ以上、勤務の邪魔をするなら危険人物と見なして発泡するぞ。もう一度だけ言う。大人しく家に帰っ・・・・・・!?」

 警官は語尾の台詞を喋り損ない身体の自由を奪われる。香織とメイフライに後ろから取り押さえられたのだ。銃口の狙いは逸らされ闇雲に放った弾丸は空の真上へと消えた。

「な!?・・・・・・がっ!」

 もう1人の警官もまんまと不意を突かれ先手を打たれた。とっさに警棒で殴り掛かるも博仁は焦りで鈍った攻撃を容易に受け止めカウンターを喰らわす。愛利花も怯んだその隙を逃さず、相手の股間に蹴りを入れ情けない悲鳴を上げさせる。更にうずくまった背中に肘を落とし顔面を膝で蹴り蹴り上げた。

「き、貴様らぁ・・・・・・!」

 暴れ狂う勢いの激しさに香織は後ろへ突き離されメイフライは1人で警官に抗う。頭上に振り下ろされたグリップの打撃を受け止め短い競り合いの末、頭突きで顔を潰す。腕の関節に手刀を打ち込むと武装を強引に解かせ、痙攣した手から落ちた拳銃を蹴飛ばして、手が届かぬ距離へ弾いた。慎一と透子もメイフライに加勢し警官に飛び掛かり全身を押さえつける。

「このクソガキ共がっ!!」

 逆上した警官は拘束される力に逆らい、何とか警棒に手を伸ばすとシャフトを伸ばしメイフライの顎を強打した。

「がっ・・・・・・!」

 重い一撃が頭蓋骨に衝撃と激痛が伝わる。メイフライは意識を遠のかせふらふらと背中から倒れ込んだ。透子も腹部を硬い先端で突かれ胸部にも加減のない脚がめり込む。蹴り飛ばされ、輸送車に背中と後頭部を打ちつけると嘔吐に近い咳を吐き散らす。

「なめた真似しやがって!ぶっ殺してやる!」

 あっけなく3人を返り討ちにした警官は理性を捨てたまま最後に残った慎一を殴り倒した。無我夢中で何度も彼の全身を金属の棒で殴打し続ける。両腕をかざし攻撃を防ごうにも一撃一撃が当たる度、見るに堪えない痣が増えていく。

「ぎゃあっ!!?」

 もう何発目か分からない警棒を振り上げた途端、間の抜けた悲鳴を上げる警官。痛感した脚を見下ろすとふくらはぎに噛みつく透子の姿があった。警官は殴打の矛先を彼女に向けようとしたが何故が警棒は振り下ろされなかった。手首が掴まれている事に気づき背後を振り向くと一瞬メイフライの顔が映り直後に対顔は逸らされる。

 警官は頬に深々と拳を突き出され、人間とは思えない惨い顔を作った。折れた歯と血液を吹き出し目線を上にやる。血がぼたぼたと流れ出る口を塞ぎふらふらと無意味に彷徨うとやけくそに警棒を振り回す。やがて意識のほとんどを喪失し倒れかかった所を止めに香織が後頭部を鷲掴みし顔を地面に叩きつけた。警官は完全に失神しアスファルトに垂れた血が蛇のように伝っていく。

「お返しよ。クズ野郎」

 香織が鋭い決め台詞を述べ、後ろでメイフライが口内に溜まった血を吐き捨てる。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.233 )
日時: 2020/09/20 18:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「お休み。ポリ公共。後でたっぷり上司に叱られろよ」

 博仁達もたった今、もう1人警官の始末を終えたところだった。

「5分もしない内に片付いたな。おーい、そっちに怪我はないか?」

「俺は大丈夫ですが慎一さんが・・・・・・!」

 メイフライが叫びを返し香織が慎一を抱き起こす。

「慎一さん、しっかりして下さい!」

 慎一は目を細く開けているものの全身に打撲を負わされ虫の息だった。服はボロボロに破け見るに堪えない痣が無数に浮かび上がっている。自力ではとても立ち上がれそうにない状態だ。

「・・・・・・ごめ・・・・・・なさい・・・・・・加勢し・・・・・・たのに・・・・・・役に・・・・・・立てなくて・・・・・・」

「何言ってるんですか!?慎一さんがいたからここまで成し遂げられたんですよ!?」

「香織さんの言う通りです!慎一さんに落ち度なんてありません!」

「ありが・・・・・・とう・・・・・・痛いけ・・・・・・ど・・・・・・誇らしい・・・・・・気分・・・・・・です・・・・・・」

 そう言うと慎一は温和な笑顔を零し気を失った。

「死んじゃだめです!生きて埼玉に帰りましょう!また大事なコレクションを見せて下さい!」

 香織は身体を揺するが反応がない。

「メイフライ、慎一を輸送車に運べ。透子も乗るんだ。囚人を解放したら、すぐにここを離れるぞ」

 深刻な状況でも博仁は冷静に判断を下す。

「分かりました!透子ちゃんは大丈夫!?1人で歩ける!?」

「まだ、お腹痛いけど・・・・・・平気・・・・・・」

 透子は蹴られた部分を両手で押さえ車両に乗り込んだ。

「愛利花、お前は俺と一緒に囚人を逃がすのを手伝ってくれ。香織、そいつの所持品を漁れ。ドアを開ける鍵を持ってるはずだ」

「了解よ!」

 香織は急いで横たわる警官の上着を捲ると予想通りいくつかの鍵をぶら下げていた。それを奪い投げ渡すと博仁が鍵穴に刺し込みドアを開錠する。

「・・・・・・!」 「・・・・・・!」

 勢いよく開いたドアの音と差し込んだ光に2人の囚人は驚いた顔で外を凝視した。現れたのが警官ではない事を知ると不可解に思ったのか、目を丸くする。長い間、狭い空間に閉じ込められていたせいなのか2人共、精神的に弱っている様子だ。

 仮面が透視した通り1人はまだ若い青年だった。年齢は20代〜30代くらい、ぼさぼさの乱れた茶髪を生やし少年のような穏やかな顔立ちをしている。ぱっちりとした目に肌はやや白く艶やかな色をしている。白い毛が伸びるフード付きの緑ジャケットを着ており茶色のジーンズ、スニーカー履いていた。

 もう1人は10代を過ぎたばかりの少女。髪型は黒いミディアムで肌の色は青く目には光がない。とても怯えきってる様子で視界に映る人間を窺っていた。服装も暗く飾りのない長袖の黒服に同色のスカートを履いている。まるでカラスを擬人化したような、そんな陰気な容姿をしていた。

「・・・・・・君達は?」

 青年が疲労感のある口調で問いかける。

「安心しろ。俺達は味方だ。お前らを助けに来た」

 博仁は焦り気味に答え2人にかけられた手錠を外す。手首には金属の輪に締めつけられた跡がくっきりと浮かぶ。

「早く俺達の車に乗れ。大分お疲れみたいだが1人で歩けるか?」

「僕は大丈夫、先にこの子を外に出してくれないかな?」

「こいつか?おいお前、立てるか?」

 博仁は話の相手を変え少女に話し掛けるが

「あ・・・・・・うう・・・・・・え・・・・・・」

 少女は返した返事は言葉にならない唸り声だった。

「はあ?すまん。もう一度言ってくれ」

「あうう・・・・・・ええ・・・・・・」

「もしかしてこいつ、喋れないのか?マジか・・・・・・自力で動けそうもないしな。仕方ない愛利花、この少女を頼む。輸送車まで運んでくれ」

「はいはい。なら、茶髪のお兄さんはあなたに任せる。おいで嬢ちゃん。こっちよ」

 愛利花は少女を抱き抱えると直ちに護送車から連れ出した。輸送車まで走り広々としたバックスペースの座席に座らせる。

「やっぱり、外の空気は上手いな。手錠をかけられて何日も監禁されてたから体中が痛む」

 自由の身となった青年は狭い護送車から抜け出し息を深く吸い吐き出す。背伸びと軽い運動で凝り固まっていた骨を鳴らし久々の解放感を味わう。そんな能天気な性格に隣にいた博仁は呆れた視線を送る。

「喜んでもらえて何よりだ。輸送車に乗れ」

「あ、ちょっと待って!"あれ"を忘れる所だった!」

 時間稼ぎの工作のため護送車のドアを閉じようとした時、青年は何かを思い出し慌てて自身が閉じ込められていた車内に飛び込んだ。彼は車内の奥から忘れ物を大事に抱えてすぐ戻って来た。

「忘れ物って・・・・・・嘘だろ!?」

 博仁は予想だにしなかった代物に驚愕せざるを得なかった。青年が言った"あれ"というのは銃器の事を示していた。黒光りするボディーにバレルは長く反対側にはストック、トリガーの前に弾倉が装填されていた。銃身の中心には高倍率のスコープを銃口の先にはサイレンサーが取り付けられている。紛れもない狙撃銃だった。

「それってスナイパーライフルか!?バレットM82、軍用対物狙撃銃なんて生で始めて見たぞ・・・・・・!こんなやばいもんどうやって手に入れたんだよ!?」

「理由は後で話すよ。ここから逃げるんでしょ?早く行こう」

 青年は冷静な態度で事情を話す事なく輸送車に乗り込んだ。

「よし、救出も済んだ事だし急いで東京を抜けるぞ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.234 )
日時: 2020/09/20 18:57
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 博仁は再び運転席に乗り込みアクセルを踏みハンドルを右に回す。輸送車は失態を犯した2人の警官と無人の護送車を残し走り出した。移動を始めてから、しばらくしないうちに別の護送車とすれ違う。

「危機一髪だったわね」

 反対方向へ通り過ぎた警察車両を見て愛利花が言った。

「ああ、一歩遅けりゃゲームオーバーだったな。東京に侵入する以前からプレッシャーが酷かったがさっきの作戦は本当に生きた心地がしなかった。冗談抜きで死ぬかと思ったぞ」

 まだ緊張が残っているのか博仁の身体は寒さに凍えているかのように震えていた。呼吸も微かに落ち着きがなくいつもより多い瞬きを繰り返す。

「博仁、あんた兵士でもないのに随分と戦い慣れていたわね?意外だわ。運転とくだらないジョークしか取り柄がないと思っていたけど、あの実力には正直驚かされたわ」

 愛利花が見直した口調で博仁に対して珍しく尊敬を抱く。

「当然だ。シールドチームってのはな、組織の人員を守る義務がある。格闘術の心得の1つや2つくらい持ち合わせているさ。それの俺だって訓練場で日々身体を鍛えているんだぜ?まあ、隠れ家の連中が寝静まっている時、こっそり修行に励んでいるわけだが」

「へえー、密かに訓練を・・・・・・影で努力するタイプなのね。これまた意外だわ。あんたにそんな一面があったなんて」

「それを言えばお前の腕前にも感心したぞ。背中に肘をかまして顔面を膝で蹴り上げる。あれは素人のやり方じゃない。お前、あんなに強かったんだな」

 愛利花は当然でしょと言わんばかりに

「こう見えても私は自衛官の娘よ。女だからってなめてもらっては困るわ。それに幼い頃から空手をやってるからケンカなら大の男でも圧勝できる自信がある。いつか父のような優秀な自衛官になって大勢の人々を助けるのが夢だったの。素敵でしょ?」

「蛙の子は蛙か・・・・・・血は争えんな」

 博仁は隣には聞こえない声で呟くと静かに笑いを吹き出した。


 後ろの席では香織達が助け出した2人の囚人達の対応に当たっていた。奥に積まれていたケースからミネラルウォーターを惜しみなく与える。囚人達は温い水を飲み苦しそうに何度も咳込む。退屈や恐怖、不安などで精神を犯されていたが命拾いした事にようやく安堵が芽生え始めていた。青年は溜まりに溜まった疲労に疲労に目を細めながらも無理に顔を上げ薄笑いを浮かべた。

「助けてくれてありがとう。君達は?」

「私達の正体については詮索しないで。大丈夫、誓ってあなた達には危害を加えたりはしない。だから安心して休んでていいわ」

「よく分からないけど、複雑な事情がありそうだね。でも見ず知らずの俺達を助けてくれたんだから信用はできるかな。お言葉に甘えてゆっくり鋭気を養わせてもらうよ。ところで君達の後ろで横たわってる人は?全身が傷だらけだね?何かあったの?」

 すると、香織達は青年にきっとした厳しい視線を浴びせる。青年は聞いていけない事を聞いてしまったのかと無意識に口を塞いだ。とりあえず謝ろうとした直後に

「慎一さんは君達を助けようとした際、警官に叩きのめされ大怪我を負ったんだ。自ら進んで囮になったりかなりの危険を冒してまで正義を貫いた。感謝なら彼にしてくれ」

 メイフライがしかめつらしい喋り方で理由を説明した。

「僕達を救うためこんな事に・・・・・・彼が目を覚ましたら必ず礼を言うよ」

 今度は香織が質問を返す。

「勘違いかも知れないけど、あなたとはどこかで会わなかったかしら?その顔、何か身に覚えがあるのよね」

 すると青年は当然かもと口の端を上に引き上げ、不気味ににやける。

「身に覚えはあるだろうね。何故なら僕は国がこうなる前は歌手をやっていた。自分で言うのもなんだけどかなり有名で評判なバンドだったし、色んな映画の主題歌だって歌ったよ」

 理由を知った香織達は特にこれと言った反応は示さずただ、納得した。

「歌手をやってたんですか!?凄い!」

 青年の正体を知り透子だけが単純に驚く。感激に目を輝かる少女に青年は困り果てる。

「ファンになってくれて嬉しいけど、サインなら遠慮させてもらうよ」

「道理で目にした事があるはず・・・・・・でも、バンド名がどうしても思い出せない。あなたの名前は?」

「無礼なのは百も承知だけど名乗るときはまず自分からじゃない?」

 素直とは真逆な正確とオウム返しに似た返答に香織はむっとしたが不快を堪え自己紹介する。

「姫川 香織よ。よろしく」

 次は透子が友好的な振る舞いで

「私、白木 透子っていいます!有名な歌手の人に会えて嬉しいです!」

 続いてメイフライが

「俺はメイフライ、皆からはそう呼ばれている。因みに前席の2人は三村 博仁さんと草野 愛利花さんだ」

「さあ、要求には堪えたし次はあなたの番よ。名前を教えなさい」

 全員の自己紹介が済み香織が青年の名を改めて問いただす。

「僕はえっと・・・・・・姫川・・・・・・」

 明かされた苗字に香織達ははあ?と顔をしかめ口をぽかんと開いた。

「姫川って・・・・・・あなた私と同じ苗字だったっけ?」

「勿論違う。身の安全の安全のためにも本名は明かすなって昔の恩人に教わったんだ。だってほら、メイフライさんも本名を隠してるでしょ?」

 どこまでもついていけない性格に一同は言葉を失い呆れ果てる。往生際の悪さに香織とメイフライは流石に怒りを覚え始めていた。

「あんたねえ・・・・・・!」

 香織は理性を捨て前に押し寄せるがメイフライが止めに入り彼女の代わりに青年を睨んだ。

「ごめん、やっぱり怒りたくなるよね・・・・・・僕って昔からこんな性格だから・・・・・・最初から偽名を言えばよかったね・・・・・・」

 青年は本意に反省しているのか申し訳なさそうに頭を下げる。

「じゃあ姫川、本名を明かしたくないならそれでいい。質問を変えよう。正直に答えられるものもあるだろ?」

「ああ、いいよ。何でも聞いて」

「そもそも、君はどうして護送車に乗せられ連行されていたんだ?」

 姫川はああ、それね・・・・・・と思い出したくもなさそうな面持ちで理由を語り始める。


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