複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.225 )
日時: 2018/09/08 20:44
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

2018年夏小説カキコ大会で銅賞を受賞させていただいたマルキ・ド・サドです。
入賞作品を一覧を見て私の作品が載っているのを見て一瞬、言葉を失ってしまいましたww
2016年の夏以来、また賞を取れるなんて思ってもなかったし驚きしかありません。

ジャンヌ・ダルクの晩餐が始まってからもうすぐ3年が経とうとしています。
最初のページを投稿したあの日がまだ最近の出来事だと感じます。
これまでの事を振り返ると色々な思い出が浮かんできます。
たくさんの人に支えられ、温かいコメントを貰い時には技術や意見を与えられた事もありました。

私の実力なんてほんの少ししかありません。
皆様の作品を認める心、1人1人の評価、長所を見る優しさ。
その全てが一体となり成り立っているのがジャンヌ・ダルクの晩餐なのです。

決して楽ではない道のりでしたが小説を書いてて本当によかったと心の奥底から思っています。
苦労で得られたこの感激はしばらくは治まらない事でしょう。
この日を忘れずこれからも創作を生き甲斐にしていくつもりです。

今後ともこのマルキ・ド・サドをよろしくお願いします!
本当にありがとうございました!

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.226 )
日時: 2020/09/06 07:48
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「私と徹は地下を探索し、マザーコンピューターがある部屋を発見した。徹がスイッチを押したり色々いじっても機械は作動しなかった・・・・・・けど、私が手を触れた途端、両親が残した指輪が光り出し、コンピューターは電源が入り、作動した」

「凄い話ね」

「やがて、それが日本全体を監視できる次世代技術の機械だと分かり上手く利用しようと思った。まずはハッキングで政府の動きを監視しつつ、ネットの裏サイトで私達の広告を立ち上げた。そしたらそれが一気に広がって、組織は日に日に拡大していった。僅か2年で各県にいくつもの支部が設立されるほどにね」

香織は壮大な物語に無意識に苦笑していた。

「徹はこの組織のリーダーに私を任命した。私は子供だし、最初は断ったけど徹は言った。この機械を扱えるのは君しかいない。そんな君がいなくなれば組織は長くはもたないってね。だから仕方なく頼みを肯定した。私はマザーコンピューターや他の支部から送られた情報の管理に明け暮れ徹は人員を支える"生きた司令塔"となった。これがブラックジョーカー誕生と歴史の全て」

「謎が解けて晴れ晴れとしたし、感動もさせてもらった。あと、気になる事がもう1つ。どうしてブラックジョークなの?その名前の由来は?」

「知りたい?私達は黒い闇の中で腐った世間を偽って生きてる。『黒い偽り(ブラックジョーク)』・・・・・・」

「なるほど、それであなたは全ての糸を引く張本人"ブラックジョーカー"」

「そういう事、その例えとても好ましく感じるよ」

 永羅は香織の言葉に強く共感し照れたのか同時に恥ずかしそうな面持ちを浮かべる。

「私は散々質問攻めされたから次は香織の番。あなたの話を聞かせてくれない?」

「え・・・・・・私!?」

 突然の問いに香織は困惑したう〜ん・・・・・・しかめた顔で唸りこめかみを指で叩く。その様子を楽しそうに眺めている永羅。

「私の何が知りたいの?最初に忠告しておくけど、面白い話とかあまり期待できるようなものはないとはっきり宣言しておくわ」

「別にどんな内容でもいいよ」

「そうねぇ・・・・・・じゃあ、私がこの世で最も愛した人の話をしてあげる」

 期待に胸を膨らませる永羅に対し今度は香織が過去の思い出を振り返る。

「いじめられっ子だった私にも唯一心が許せる親友がいた。名前は詩織、笑顔が素敵で誰よりも素直で優しい子。ねえ、永羅?この事はやっぱりあなたも知ってるのよね?一応、BJの情報に資料として載っているんでしょ?」

 念のための確認に永羅はどこか切なく頭を縦に振り

「知ってるよ。詩織ちゃんはアメリカに行く翌日に学校の屋上で何者かに強姦され突き落とされた。そして、その事件の濡れ衣で捕まり不正裁判にかけられたあなたは無期懲役の判決を言い渡される。牢獄から脱走した直後、私に拾われ、埼玉支部に所属した」

「何でもお見通しなのね」

「でも、全てを熟知している訳じゃない。この話に関しては直接、香織の口から聞きたいな」

「あなたは勇気を出して自分の素顔と本名を告白してくれたしね。私もその期待に応えるわ」

 香織は詩織と出会い親しくなったきっかけを語る。

「詩織と初めて出会ったのは2年前、高校へ入学して半年が過ぎた時だった。ある日の夕方、学校から帰宅している途中、私はそこで脚を怪我して動けずに鳴いていた猫を見つけたの。道路沿いにいて苦しそうに何度も鳴いていて車にはねられたのは一目瞭然だった」

「車に引かれた猫ちゃん・・・・・・可哀想・・・・・・」

 哀れな状況に同情する永羅、共感に頷く香織。

「普通の人なら放っておくのけど私はどうしても見て見ぬふりをするのができなかった。急いで猫に駆け寄った時、自分と同じ行動をとった人がもう1人いた。それが詩織、あの子は猫に応急処置を施してあげた。そして、私が抱きかかえ動物病院へと連れて走ったの。その後の手術で猫は無事助かった。その日をきっかけに彼女との付き合いが始まり、親友になったの」

「香織もかつては幸せな人生を歩んでいたんだね。羨ましいなあ。純真な青春をいつも夢見てた。私の人生なんてトラウマそのもの、学校にも行けなかったし自分を守ってくれる味方さえいなかった」

「永羅が思ってるほど私の人生は輝いてはいなかったわ。いじめられない日なんてなかったし、あなたと同じ毎日が辛かった。それに・・・・・・大好きだった詩織はもういない。あの子に触れられない、無邪気な笑顔が二度と見られない現実が辛い」

「大切な人を奪われた憎しみは相当なものだよね・・・・・・復讐、したい?」

 その問いに香織ははっきりと同意する。

「したいわ。でも、それは叶いそうにない。だって永羅、あなたもう知っているんでしょ?」

永羅は静かに肯定し

「ええ、BJのメンバーは生年月日からプライバシーまでその人の個人情報は全て調べ上げられる。香織、あなたが仲間と結託して組織の掟を破り、密かに復讐を続けている事実はとっくに裏付けられている。」

「やっぱりね・・・・・・」

「バレてないとでも思った?残念だけどBJの情報収集技術はどの機関よりも優れている。あなたの犯した行為はすぐに私の耳に入ってきた」

「・・・・・・」

「だめでしょ?ルールはちゃんと守らなくちゃ。これはあなたのための組織じゃない。どんな理由があろうと違反者は裁かれるべき・・・・・・」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.227 )
日時: 2020/09/06 07:51
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 隠し通してきた秘密がバレていた事を知り香織は凍りついた。全身の力が抜けその場にふらふらと倒れ込む。違反行為を繰り返した事実は消せず今度こそ極刑である死が待っているだろう。逃げ場のない絶望の思いが頭の中を埋め尽くす。

「私達にどんな罰を受けさせるの・・・・・・?」

「主犯のあなたには間違いなく銃殺刑、共犯者には終身刑が相応しい。命乞いしても逃げ場はないから覚悟しなさい・・・・・・と言いたいけど私はあなたを罰するつもりはない」

「え・・・・・・?」

 香織は短い声を漏らし驚愕を重ねる。

「聞こえなかった?このまま復讐を続けても構わないって私が許しを与えてるの」

 繰り返される物事の逆転の連鎖に最早ついて行けなかった。互いに打ち解けたつもりだったがやはり永羅の性格は掴めない。香織は口に出さずそう思った。複雑な気持ちを抱いたまま理由を問いかけると

「答えは単純、あなたの復讐を応援したいと思ったからだよ」

 永羅が淡々と答え更に台詞を付け足す。

「孤独な世界を生きてきた私は香織と違って友達なんて1人もいなかった。だけどね、大切な人がいなくなる気持ちは嫌なくらいに分かる。悪く言えばBJは不幸な人間を捕まえては組織に加え人殺しで収入を得ている。やってる事は偽善だし姑息で汚い。でも、香織だけは違った。あなたは殺されるかも知れないリスクを差し置いてまで親友の仇を討とうとする。途切れない信念と危険をものともしない勇気に心を打たれた。だから私もその正義に協力すると決めた」

 香織は自身に対する讃美に相好を崩さず否定の言葉を返す。

「嬉しいけど違う。私の復讐は正義などではなくれっきとした悪よ。BJがしている事とほとんど変わらない。それはさておき、違反行為に目をつむってくれるのはありがたいけど指導者本人が不正を働いて大丈夫なの?」

「心配無用、何を隠そう組織の最高権力は私が握っているからね。いくらでも誤魔化しが効く。それ以前に香織は理不尽な過ちは犯さないと信用してる。じゃなきゃ、とっくに処刑台の階段を上らせているよ」

「どうして、こんなにも私の事を特別扱いするの?」

 永羅はふっと笑い

「何度も言ったでしょ?あなたには他とは違うオーラがある。私はそれに惹かれただけ・・・・・・初めて香織と会った時、何故かこの人と親しくなるべきだと感じたんだ。最初は恐くて迷ったけどやっぱりいても立ってもいられなくなって今日ここに呼んだ。そして、私が理想していた通りこうして一緒になれた。誰かと関わってこんなにも幸せを感じたのは家族と過ごしていた時以来、あなたのお陰で久しぶりに心が温かくなった。だからその恩返しをしたい。香織はこのまま復讐を続けていいよ。安心して、あなたの不正の痕跡は私が闇に葬るから」

「ありがとう・・・・・・永羅」

「その代わり1つだけ私の頼みを聞いてほしいの・・・・・・」

 永羅は頬を赤らめた顔をうつむかせる。何かを告白したいのか唇が小刻みに震えている。

「頼み?」

「その、あのね・・・・・・渡したい物があるから香織を東京に呼んだと言っていたけどそれは建前で本音は別にあるの。もし、嫌じゃなかったら私と・・・・・・『友達』になってほしいの。誰かと関わってこんなにも幸せな気分になれたのは初めて、胸が温かくなった。不幸だらけの人生だったけど生きててよかったとやっと思えたんだ。この温かい気持ちをこれからも忘れたくない。だからお願い・・・・・・私の初めての友達になってくれないかな?」

 香織は返事を返さず沈黙すると真剣に訴える永羅と睨み合う。彼女も決して淀みのない目をずらす事はなかった。しばらくして香織はふっと表情を緩めはっきりと頷く。

「あなたは私を守ると誓ってくれた。なら私もあなたを1人にしないと約束する。そう、友達ってお互いに支え合うものよね。心強い味方が一緒にいてくれると安心するわ。こんな私でもよければ改めてよろしくね、永羅」

「ありがとう・・・・・・香織・・・・・・こちらこそよろしく・・・・・・!」

 望みが叶った返答に永羅は嬉し泣きをせずにはいられなかった。鼻を啜り涙が目に浮かんだ顔を両手で覆い隠す。

「じゃあまた、色々な話をもっと聞かせてくれない?新しくできた友達の事、もっと知りたいから」

「ぐすっ、勿論・・・・・・!私のせいで果物とジュース零れちゃったね・・・・・・すぐに代わりを準備するから・・・・・・」


 それから2人は優雅な時間を過ごす。もてなしのフルーツを全て平らげるとしたい話を好きなだけ語り合った後はテレビゲームをして遊ぶ。香織は最初は不器用だったが永羅に操作を教わるうち次第に慣れていき楽しさを見いだした。

 昼が過ぎ2人の間に空腹が湧いたので一旦ゲームを中断する。ポーズ画面を作りコントローラーを置くと再びキッチンに行き昼食の準備に取り掛かる。香織も自分も何か作りたいと提案し興味本位で料理の手伝いをする事にした。やがて皿に盛り合わせたメニューをテーブルに並べた。そして、2人はパンを分け合い食べる前の挨拶をすると香織はオムライス、永羅はパスタを口に運ぶ。

 食事が済むと本を読みながらの休息を取り再びゲームにのめり込む。楽しい一時は夢中になればなるほど時の感覚を忘れさせる。ちょっと遊んだつもりが時計を見上げると針は既に夕暮れを指していた。愉快な時間にも終わりが近づいた頃、2人はソファーの上でのんびりと寛いでいた。

「もうすぐ、お別れの時間だね。あ〜あ、嫌だなあ〜香織と離れ離れにならなきゃいけないんだ・・・・・・いっその事あなたをここに閉じ込めてしまおうか・・・・・・けど、無理だよね。香織にはやり遂げなきゃいけない事があるんだもんね・・・・・・」

 永羅が香織の肩に頬を傾け切ない口調で言った。

「ねえ?私と一緒に過ごせて楽しかった?」

「ええ、とっても楽しかった。最初は不安だったけど、来た甲斐があったわ。知りたい事をたくさん学べたしかけがえのないあなたにだって出会えた」

「ありがとうだなんて・・・・・・お礼を言わなくちゃいけないのはこっちの方だよ。香織が友達になってくれて私は1人ぼっちを卒業した。この日を一生の宝物にする」

「忘れないで?どんなに遠くにいても大切な人を想う気持ちは変わらない。地球は1つ、世界は繋がっている・・・・・・これ、私が詩織に送った言葉。もうあの子には言えないけど・・・・・・」

「いい言葉・・・・・・私も大切な人がいる事、絶対に忘れない」

 2人はくすっと吹き出し明るい笑い声を響かせる。そして、仲のいい姉妹のように互いに寄り添い笑顔を見せ合う。

「でも、どうしても孤独に耐えられなくなったらまた呼んで。必ず会いに行くから」

「えへへ、楽しみにしてるね?その時はまたいっぱい遊ぼう。今度は今日よりも高雅な料理を用意してあげる」

「約束よ?」

「うん、約束」

 香織は永羅と指切りを交わし、ソファーから立ち上がる。

「じゃあ、そろそろここを出るわ。皆も私の帰りを待ってるだろうし。色々と世話になったわね」

「道中は危ないから気をつけてね?あ、いけない!忘れるとこだった!まだプレゼントを渡してなかったね!?ここにいて、今取ってくる!」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.228 )
日時: 2020/09/06 07:58
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 永羅は急いでどたどたと階段を駆け上り1分もしないうちに2階から降りて戻って来た。彼女は片手で持てるブラックの小型ケースを大事に抱えている。

「これこれ、これを渡したかったの」

「それってミリタリーケース?一体何が入ってるの?」

「驚かないでね?これは・・・・・・」

 中身を開いて香織は目を丸くした。ケースの中には1丁のピストルといくつかの弾倉が綺麗に収まっていたのだ。それは女でも扱いやすいであろう小口径の自動式拳銃だった。まるで位の高い将校に送られる献上品のような見事な銀細工の刻印が彫られている。グリップに描かれた聖母マリアの絵が印象的だ。

「これは私がエンジニアに作らせた武器、正確には護身用のお守りだけどね。私が持っていても使い道がないし、だったら香織が使った方がいいと思って」

「ハリウッド映画に出てきそうな代物ね。本当に貰っていいの?」

「遠慮はいらない。渡すのが嫌なら、こうして持ってきたりはしないよ」

 香織は無意識に苦笑しながらプレゼントのピストルに触れた。手に取ると思ったよりも軽くグリップを握っても違和感は特に感じられない。

「この銃は『マリア』と言って9mm弾を使用するの。装弾数は13発、BJの技術を集め作られた世界に2つとないレア物だよ。低威力だけど色々と改良が加えられているから性能は保障する。これがきっとあなたを守ってくれるはず」

「・・・・・・確かにこの銃を手にしてると神の加護が受けられそうな気がする。最も悪人の私に聖母が微笑んでくれるかは疑問だけど」

 香織は弾倉の1つを取り出しマリアに装填するとスライドをコッキングした。グリップを掴んだ右手を前に伸ばし銃口を自身が映る液晶画面に向ける。引き金は引かなかった。

「似合ってるよ。やっぱりこれはあなたが持つに相応しい。例え偽善や悪だと責められても自分が決めた信念を貫いて。それと・・・・・・どうか死なないでね?」

「勿論、詩織の仇を討つまでは私は死ぬつもりはない。あの子の殺人に関わった奴らは1人残らず葬るわ。この銃に誓ってね。ありがとう、永羅には返し切れない借りができたわね。あなたはもう私にとって最高の親友よ。出会えた事を誇りに思う」

 マリアをポケットにしまい香織は出入り口の方へ足を進める。

「・・・・・・待って、香織!」

 立ち去ろうとする彼女を永羅は必死に腕を掴み呼び止める。

「最後のお願いなんだけど、私の正体は私と香織だけの秘密にしていてほしいの・・・・・・この隠れ家の人達や他の友達にも言っちゃだめ。秘密を知られる事が何よりも嫌だから・・・・・・お願い」

 香織は振り返ったままの姿勢で優しく笑みを返した。

「大丈夫、あなたの正体は誰にも話さないしこれかもブラックジョーカーは謎の人物でいるべきよ。だから安心して指導者としての役目を果たしていけばいいわ。さようなら永羅、また会う日まで」

 別れを告げ香織は閉ざされた扉の外へ消えた。部屋に1人取り残された永羅はその場に立ち尽くしていた。彼女は仮面で素顔を覆い隠し再びブラックジョーカーへと移り変わる。

「サヨウナラ、香織・・・・・・マタ会ウ日マデ・・・・・・」


 司令室に戻ると扉は塞がれた壁に閉ざされた。手前では徹があらかじめ待機しており香織を出迎える。彼は相変わらず緩みのない厳格な面持ちで彼女の元へ来ると

「君が来たという事は面会は終了したようだな。無礼な振る舞いは慎んだか?」

 と生真面目な態度で問いかける。

「はい、大丈夫です。問題はありませんでした」

「なら早速、司令室を出よう。用が済んだ君はもうここの関係者ではないのでな。ついて来い、休憩所でお友達が待っているぞ」

 香織ははっきりとした返事を返し徹の背中を追う。永羅がいるであろう壁の向こうを一度だけ振り返り司令室を後にした。

 休憩所は相変わらず憩いを求める人員達で賑やかだった。兵士やエンジニア達が八方のトンネルから訪れては去ったりと行き来を繰り返していた。天井のスピーカーから間を開けた室内放送が響いて流れ呼ばれた者は持ち場へと急ぐ。徹の告げた通り埼玉支部のメンバー全員がその場に集合していた。博仁達は帰って来た香織の喜ばしい表情で一斉に彼女の元へ駆け寄った。一緒にいた美都樹も徹に対して即座に敬礼する。

「お帰りなさい香織、大丈夫だった?」

「なかなか帰って来なかったから心配してましたよ。ブラックジョーカーとの面会はどうでした?」

 愛利花が香織の両手を握り隣で慎一が破顔する。

「お帰りなさい香織さん!酷い事されませんでした?」

 透子も心配していたといわんばかりの眼差しで香織に抱きついた。

「しかし随分と長い面会だったな。パーティーでもやってたのか?」

 博仁は微妙ににやけた顔でジョーク混じりに聞いてメイフライも続いて問いかける。

「確か、香織さんに渡したい物があるから面会に招待されたんですよね?何を貰ったんですか?」

 芸能人を取り囲むマスコミような質問攻めに香織は思わず苦笑した。どう説明すればいいかと返答に困ったがとりあえず浮かんだ言葉を口に出し

「ええ、特に問題はなく面会は終わりましたよ。心配してくれてありがとうございました」

 と簡単に答えた。

「ところで香織、あなたブラックジョーカーと直接会って素顔を見たのよね?正体を教えなさいよ」

 愛利花の台詞に反応し全員の期待に輝いた目がこちらに向けられる。しかし、さっき承諾したばかりの約束を香織は破る事ができなかった。仲間の期待を裏切るのは気が引けるがここは永羅のために誤魔化した。

「残念ながら正体までは・・・・・・面会の間はずっと仮面を被っていたので。素顔の話を持ち出すとブラックジョーカーが急に怒り出したから詮索はしない事に・・・・・・」

「そう・・・・・・」

 優しい嘘に愛利花はがっかりした表情を下を向ける。他の皆も期待外れの失望に似たような反応を示す。

「んんっ・・・・・・ごほん!」

 香織達のやりとりをさっきから眺めていた徹は口に拳を当て強めの咳払いをした。我に返った一同は丸い列を崩し焦りながら横一列に並ぶ。全員が沈黙し彼に対して緊張感ときちんとした姿勢を取る。

「姫川香織の輸送任務の遂行、ご苦労だった。この事は埼玉支部の司令官にも報告しておく・・・・・・ところで諸君、君達はこれからどうするつもりだ?ここにはもう用はないのだろう?」

 すると博仁が一歩に出てしっかりと敬礼し

「俺達は無事、役目を果たし終えました。今日中に埼玉支部に帰還する予定です。司令官自らお出迎え頂き恐れ多い限りでした」

 普段の彼らしくない真剣な眼差しでこれからの意見を述べ敬意を示した。

「いいのか?私は君達を任務中の兵士であると同時にゲストとして迎えたつもりだ。今日一日、ここで夜を過ごす事を許可してもいい。食事も寝床も提供するぞ?」

 それでも博仁は肯定の意を示さず

「親切なもてなしに感謝します。ですが故郷の隠れ家では大勢の同胞が俺達の帰りを待っています。仲間達が戦っている時に自分達だけ呑気に休んでいるなど恥です」

「ふっ、大した心意気だ。それでこそBJの一員と言える。埼玉支部は優秀な精鋭が揃っていると聞いているが噂は本当らしいな」

 徹は微笑すると彼の歪みのない意気込みに感心を抱いた。

「なら引き止めはしない。皆から必要とされているんだからな。そうと決まればNO.1215、彼らを外までお送りするんだ。先にゲートへ向かってくれ」

「了解。」

 美都樹は姿勢を崩すと一足早く指定された場所へ急ぐ。

「私によるガイドはここまでだ。積もりに積もった仕事があるのでこれで失礼する。君達と出会えて光栄だった。縁があればまた会おう」

 香織達は1人1人徹と握手を交わし別れの挨拶として互いに敬礼した。去って行く彼の後ろ姿を見送り一同は外へ繋がる出入り口へと向かう。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.229 )
日時: 2020/09/06 08:10
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 エレベーターに乗り込んだ香織達は危険が蔓延る東京の地上へ上った。パーキングビルの2階に足を踏み入れると駐車スペースに止めてあった輸送車の方へ真っ直ぐ進んでいく。バックドアを開いたが埼玉支部のメンバーは車両に乗り込む前に後ろにいる美都樹の方を振り返り身近な距離を置いた。

「美都樹と言ったな?あんたにも色々と世話になった。隠れ家へ案内を務めてくれて感謝している」

 博仁は素直な謝意を示すが

「私はただ任務を全うしただけ。感謝されるような行いは何一つした覚えがない」

 と嬉しくなさそうに淡々と返事を返す。

「全員、輸送車に乗れ。すぐに東京を出るぞ」

 博仁は皆にそう言い聞かせ真っ先に運転席へ乗り込む。かかったエンジン音が物静かな廃墟に響き渡った。愛利花も早々に助手席に移る。

「・・・・・・あなたは行かないの?」

 美都樹が少し首を傾げて言った。愛利花達が後ろのスペースへ入って行くのにも関わらず慎一が1人彼女から離れない。もじもじと恥ずかしそうで何か言いたそうな様子だった。

「あ、あの・・・・・・美都樹さん。任務の件もありますけど、今日は本当にお世話になりました・・・・・・!た、たくさんのエリアを一緒に見て回ったり食事を共にしたり・・・・・・あ、あと俺のくだらない話を聞いてくれましたよね?東京支部の隠れ家はどんな所なんだろうと緊張していましたが美都樹さんのお陰でた、楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました・・・・・・!」

「・・・・・・」

 口説きに近い礼を言われても美都樹は顔色を変える事はなかった。だが、少しだけ相好を崩し彼に対して初めて笑顔を見せ

「私も行動を共にできて楽しかった。また会える日が訪れたらあなたの話、もっと聞かせて?埼玉に戻っても元気でね」

 と伸ばした右手を差し出す。

「は、はい・・・・・・!」

 慎一も照れ臭さを隠せないままその手を優しく包み直後にクラクションが鳴る。

「何やってんだ慎一!早く乗れ!」

 運転席から博仁が声を張り上げる。

「皆を待たせちゃいけないな。じ、じゃあ俺はこれで!美都樹さんの事、絶対忘れません・・・・・・!」

 最後に乗り込んだ慎一がバックドアを閉ざし輸送車はゆっくりと後退を始めた。駐車スペースを外れると通路を走りビルの出口がある下階へと降りていった。美都樹は輸送車が死角に入り見えなくなった後もずっと彼らを見送っていた。やがてエンジン音が聞こえなくなるとエレベーターに乗り自身も姿を消した。


 香織達の乗った車は起動していない信号を無視しドミノのように建ち並ぶ低い建物に挟まれた道を進んでいく。隣に対向車線がある一直線の道路で他に車両は見当たらず渋滞は皆無に等しかった。やはり人の姿もなく一帯を独占しているのは1台の輸送車だけだった。

「重要任務ももうすぐ幕引きだな。後は埼玉に帰ればゲームクリアだ。早く隠れ家に戻ってホットなコーヒーが飲みたいぜ」

 慣れた手つきでハンドルを握る博仁が言った。

「そうね。でもまあ、埼玉に帰ったら次の任務が用意されているだろうけど。一難去ってまた一難よ」

 退屈そうに窓の外を眺める愛利花も苦笑しながらネガティブなことわざを述べる。

「だろうな。BJに入隊した時点で難問は常に立ちはだかる。俺達に休んでる暇なんかねえんだ」

「認めるのも嫌だけど、違いないわね」

 共感を抱いた台詞を最後に2人の会話はばったりと途切れた。互いに何も喋りかけようとはせず黙りを決め込む。そのままの冷めた状態で輸送車は止まらず同じに見える景色の間を通り過ぎる。しばらくはこのありきたりな道のりも終わりそうにない。

 無言の空気に違和感を感じた愛利花は数分ぶりに隣にいる運転手に視線をやった。すると博仁の様子が微妙に不自然な事に気づく。その眼差しは真剣さを保っているがどこか寂しげな雰囲気をも感じさせる。いつも能天気な性格をした彼がまるで別人のように見えた。

「どうしたの?具合でも悪いの?」

 愛利花が心配になって聞くと

「いや、俺はいつでも好調だ。ただ、死んだおふくろの事を考えてたんだ。せっかく、故郷に帰って来たのに東京を出るとまた離れ離れになってしまうような気がしてな・・・・・・」

「その気持ち理解できるわ。私も死んだ母さんに会いたい。悲しくなった時、無理にでもこう考えるの。亡くなった家族は肉体を失っても魂として生きている。そして、私や父さんの傍で見守っている・・・・・・と」

「無理にでもか・・・・・・確かに悪くない暗示ではある。なら、おふくろも俺の背中に憑いてるんだろうか?」

「きっと、あなたの背中を押しているはずよ」

「俺とお前の間にいたりしてな。今なんか見えたんだが?」

「ちょっと!恐い事言わないでよ!」

 普段通りのジョークに笑う博仁、怒りの眼差しで彼の腕に拳を喰らわす愛利花。

「あんたのジョークは笑えないし不快の種なのよ!」

「はははは、最高の誉め言葉だ。はあ〜、しかし長時間運転に集中すると喉が渇くな。お前も何か飲まないか?」

「何か飲むって・・・・・・輸送車に飲み物が積んであるの?」

 博仁は遠くにある道路の左端を指差し愛利花はその指先を目で追う。不動産の看板がある建物に自動販売機が見える。

「俺も水なんてあんまり飲みたくねえしこの際、缶コーヒーでも構わん。今日ぐらいはおごってやるぞ?」

「それはありがたいけど、ここ廃墟が多いエリアよ?あの自動販売機ちゃんと動いてるの?」

「俺が降りて確かめて来る。だめだったら諦めよう」

 博仁がハンドルを回し左端の側の歩道に輸送車を停車させる。運転席を降りると反対側へと回り自動販売機に駆けつける。確認すると電気が通っており多種の飲料水が多く揃っていた。

「運がいいな、電源は入っているし売り切れはほとんどない。後ろの奴らにもご馳走してやるか」

 独り言を零し博仁は上機嫌な面持ちで輸送車の後ろに行きバックドアを開く。中にいた香織達はただならぬ表情で外側に注目を浴びせた。

「急に車が止まったからびっくりしました。何かあったんですか?」

 メイフライは深刻になって外にいる博仁に聞いた。

「私、ジュースが飲みたい!オランジーナがいい!」

 透子が我先にと輸送車を飛び出しメイフライが慌てて後を追う。

「香織も何か飲まないか?」

 気が利く親切に香織はうーんと短く唸るとやがて2回頷き

「たまには炭酸ジュースも悪くないかもね。じゃあ、ありがたく頂くわ。本当におごりなんでしょうね?」

「後で払ってくれなんて無しですよ?」

 香織と慎一も訝しげながらも小銭を貰い輸送車を降りる。博仁は愛利花も呼ぼうと車内から助手席に呼びかけるが

「愛利花、お前も早く降りろ・・・・・・よ・・・・・・」

 その瞬間、彼は言葉を失い温和な表情を崩した。前方から1台の護送車が向かってきたのが見えた。だがその車両は動きはどこか奇妙なものだった。通りやすい道にもかかわらず護送車は標準スピードよりもかなり遅いのろのろとした速度で道路の上を走っている。よく見ると背後からは白煙が吹き出したまにぼんっ!としょぼくれた爆音が鳴る。


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