複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.270 )
日時: 2020/03/01 21:23
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「でも、それなら尚更、透子ちゃんが周の手先でだという線は薄くなったわね。だって、周が透子ちゃんを隠れ家に送り込む理由なんてないわけだし、仮に私を見張る監視役だったとしても、私が来る事さえも想定されなかった1年前に予めスパイを忍ばせるなんて、どうしても辻褄が合わないわ」

「論破するようで悪いんだけどさ、現に君の人生の歯車を狂わせた男の隠れ家であの子の肖像画を発見してしまったんだよ?関係性を疑わない方が余計変でしょ?この証拠に関してはどう説明する気?」

 姫川は信憑性に物足りない推理の穴を指摘し、香織を問い詰める。

「何とも言えないわ。正しい結論を出そうにも手掛かりが少なすぎる。間違いじゃない事実を上げられるとすれば、周は透子ちゃんを知っている・・・・・・それしかはっきりしないわ」

「盛り上がっている最中にすまないが、探偵ごっこは後回しにした方がいいかも知れん。俺としては早くここを離れたいし、怪我人だって控えているんだ。早く宝物を探そう」

 博仁が横やりを入れ、要求とやるべき事を促す。

「ごめんなさい。謎解きに夢中になってる場合じゃないわね」

 香織は改めて捜索を続行し、次は祭壇の上にある宝箱に関心を示す。

「これ?何が入っているのかかしら?」

 調べようと蓋を開けると、内側に仕込まれていた歯車が回り出して箱は綺麗な音色を奏で始める。心当たりのない旋律だが、その場にいた全員がオルゴールだと確信した。香織は中から何かを見つけ、指で摘まんで取り出す。

「指輪・・・・・・?」

 蝋燭の光を反射する銀色のリングだった。輪の幅は細指にしかはめられないくらいに狭く、植物の刻印が施されている。礼拝堂へと導いた鍵とは違い、変哲もなければ妖気も帯びていない。

「オルゴールに隠された指輪か・・・・・・ロマンチックだな」

 情緒的な事柄に博仁は感動を抱かず苦笑で評価を示した。

「これが答え・・・・・・?」

「そうみたいだよ・・・・・・だって・・・・・・」

 姫川が普段とは異なる弱気な声で語尾を最後まで繋げなかった。不可解に思った香織達は彼の向く先を追いかけ、その理由を知った。背筋が芯から凍りつく。

 礼拝堂を取り巻く肖像画に異変が生じ、描かれた少女達が1人も不変なく、血涙を流し始めたのだ。赤黒く充血した目は可愛げの面影もない憎悪の塊、そんな悍ましい錯覚を生み出していた。気分が和むオルゴールの音色も刺々しい音程へと変貌を遂げる。

「しまった!もしかして、罠か!?」

 メイフライが抜刀した短刀を構え、迫りくるかも知れない脅威に備える。

「非常にまずいな。この雰囲気からすれば8割は正解だろう」

「求めていた物は多分、手に入れたわ!ここにいたら危ない!」

「俺が女を運ぶ!メイフライ、お前が先に行け!」


 得られた物を手に6人は礼拝堂を脱する。前列を行くメイフライと姫川が扉を潜り抜け、博仁も女を抱きながら外へ出た。香織も由利子の手を引き、彼らに追いつこうとしたが・・・・・・

「香織ちゃん危ないっ!!」

 黒い何かが香織の頭上に目掛けて降る。由利子はとっさに警告を叫び、彼女を押し倒して地面に横転させた。香織は姿勢を半分戻し、自身を庇ったクラスメイトの末路を瞳孔に焼き付ける。博仁達も真後ろで起きたばかりの悲劇に酸素の吸入が止まり、愕然と立ち尽くす。

 由利子はあげき、黒い体液を多量に嘔吐した。銀の棘が肩を貫通し、腰から先端が突き出ているのは紛れもない鋭利な剣だ。彼女の胸部の裏には絶望の使徒の影が。狩るはずだった標的を仕留め損ない、実に不快そうに歯を噛みしめていた。

「由利子・・・・・・そんなっ・・・・・・!いやあああ!!」

 呆気ない惨劇に耐えかね、泣き叫ぶ香織。使徒は表情に殺意を映したまま、致命傷に至らしめた深く刺さった剣を抜くと由利子を粗暴に投げ捨て、こちらに間合いを詰めてくる。

「香織さんっ!!」

 メイフライの逃げて伝えたかった叫びも思考が止まった香織には届かなかった。使徒は血の滴る剣先を香織に変え、今度こそはしくじらないと情けを無にし、襲いかかる。絶望に染まった香織は余命が尽きるのを、みすみすと許すしかなかった。自身の心臓を貫くつもりであろう凶刃を待ち、人生を諦めかけた。しかし、その金縛りは1発の銃声によって打ち消される。

 響いた火薬の破裂に香織は再び、目に光を宿す。刃はあと数ミリで喉元に達する範囲で止まっていた。動きが止まった使徒は武器を力みが緩んだ手から落とし、絶命した体が横たわる。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.271 )
日時: 2020/12/19 21:23
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「え・・・・・・?」

 4人は不意に起こった変事にしーんと静まり返った。彼らは1人たりとも、銃なんて握っていない。

「・・・・・・誰が撃ったの?」

 姫川がきょとんとした顔で言った。

「俺じゃないぞ・・・・・・?」

 メイフライも混乱し、不審死を遂げた使徒を目視する。唯一、博仁だけが奇跡の要因を傍観していた。

「お・・・・・・お前・・・・・・」

 無意識に出た囁き。腕に抱いていた女が煙を吹いた銃口を香織のいる方向に定めていた。博仁のホルスターから抜き取って、瞬時に発砲したのだろう。1発の銃弾は的確に急所を撃っていた。

「誰かを守るために・・・・・・命を奪ったのは初めて・・・・・・」

 女は微小に笑みを繕うと銃を手放し、ぐったりと博仁の胸に項垂れる。香織は命拾いした幸運に喜ばず、真っ先に身代わりとなった由利子の元へ走った。

「由利子っ!」

「か・・・・・・香織ちゃ・・・・・・ん・・・・・・ぐ・・・・・・」

 由利子はかろうじて、命を繋ぎ止めていた。ぼやけてはっきりとしない香織に崩れそうな笑みを無理に作る。溢れ出る出血が衣服や土に染み込み、変色していく。

「しっかりして!死んじゃだめよ!」

「マジかよ・・・・・・くそっ!」

 博仁は香織の恩人である女を一旦は原の上に降ろすと

「香織!退いてろ!おい!お前らもぼさっとしてないで、手を貸せ!」

 と自我を喪失していた姫川とメイフライを呼び集めた。

 血で湿った上半身を脱がし、傷口を診察する。負わされた深手は怪我の一言では済まされないほど治療の施しようがない有様だった。姫川も立ち会おうとするが、あまりにも悲惨な光景に吐き気を及ぼしたじろいでしまう。

「全部殺したと思ってたんだが・・・・・・まさか、生き残りがいたとはな・・・・・・」

「迂闊でした。俺の不注意が、こんな事態を招いてしまうなんて・・・・・・」

「助かるか?・・・・・・と聞いても、頷けないよな・・・・・・?」

「出血が激しくて止血ができない・・・・・・傷の位置からして、心臓もやられています。恐らく、もってあと・・・・・・」

 メイフライは無力な現状に、これ以上は言わなかった。

「わ、私のせいで・・・・・・」

 責任に縛られた香織は自身を責め、髪をくしゃくしゃに掻きむしる。

「かお・・・・・・りちゃ・・・・・・んは、悪く・・・・・・ない・・・・・・よ・・・・・・無事・・・・・・でよ・・・・・・かった・・・・・・」

 由利子は嬉しかった。犠牲を選んだ選択に後悔など微塵もなかったのだ。贖罪を果たせた喜びに満ちて、その表情は温和で清々しい。

「私・・・・・・罪を・・・・・・償え・・・・・・たかな・・・・・・?」

「ええ!もう、十分に償ったわ!あなたはとっくに私を陥れた犯罪者なんかじゃない!だから、死んじゃだめ!」

「無理だ・・・・・・よ・・・・・・だって、こ・・・・・・んなに血・・・・・・が出て・・・・・・助からな・・・・・・いよ・・・・・・ごほっ・・・・・・」

「弱音を吐かないで!一緒に帰ろう!?」

 死を拒んだ訴えも耳に届かなくなっていた。次第に意識が薄れていく由利子は夜みたいに黒ずんだ青空を見上げ

「香織・・・・・・ちゃ・・・・・・ん・・・・・・私は・・・・・・早く死に・・・・・・たかった・・・・・・でも・・・・・・あ・・・・・・なたが・・・・・・私・・・・・・を殺さなか・・・・・・ったから・・・・・・私は・・・・・・人間ら・・・・・・し・・・・・・い行い・・・・・・ができ・・・・・・た・・・・・・生か・・・・・・してくれて・・・・・・ありが・・・・・・と・・・・・・う・・・・・・」

 "ありがとう"を死に際に由利子の呼吸の連鎖はついに止まった。明るい笑みを残したまま、永遠の眠りにつく。

「嫌・・・・・・嫌!だめよ!逝かないで!死んじゃだめぇ!!」

「香織、よすんだ。こいつはもう、あの世に旅立って行った・・・・・・」

 まだ、体温が残った遺体を揺さぶる香織の腕を博仁が掴む。為す術もなかった悔しさに駆られ、メイフライも彼女の肩に手を置く。

「不思議だね。関わり合いなんてほとんどなかったのに。人の人生を踏みにじった奴なのに。どうしてだろ?変に寂しい気分だよ・・・・・・10年間、付き合っていた友人が急逝したみたいだ・・・・・・」

 妙な切なさに姫川も下を向き、抱えていたライフルを下ろし、銃口を地面に付かせた。

「こいつ、どうしますか?」

 メイフライが由利子の処理について聞くと

「遺体を遺族に届けに行くわけにもいかないだろう。だからと言って、こんな場所に放置したんじゃ、こいつの魂も成仏できんな。ここは広い山奥だ。どこか、いい場所を探して埋めてやろう。行くぞ?香織」

「あああああ・・・・・・!!」

 博仁は同情はしているものの、泣きじゃくる香織に構いもせず、由利子の額を撫でて目蓋を閉ざした。

「姫川、お前が女を車まで運べ。俺の手はこいつの血で汚れている。体液に病原菌が含まれていないとも言い切れんからな。メイフライも帰ったら、念入りに消毒しておけ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.272 )
日時: 2020/09/22 17:37
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 隠れ家に生還を果たした香織達はぐったりと疲れ果てた姿で車両からガレージに降り立つ。すれ違う度に気に留められる注目の連鎖を気にせず、囚われていた女を医務室に預け、自分達は居住区へと足を運んだ。階段を一段ずつ上って行き、仲間が待つ寝室の扉を開けると、挨拶なしに入室する。

「香織!」 「姫川さん!」

 部屋にいた4人のうち、2人が帰還者の名を呼んだ。特に怪我もしていない無事な到着に歓喜し、我先にと駆けつける。押し寄せる歓迎に対しても、彼らは晴れやかにはなれなかった。

「お帰りなさい。あれからずっと、心配していたのよ?あなた達の身にもしもの事があったら・・・・・・」

 愛利花は香織の無事に安堵し、涙を潤わせる。細長い足の影で静流が顔を覗かせ、こちらを見上げていた。

「怪我もしてないようで何よりです。それで探していた物は見つかりましたか?」

 慎一が要点について尋ねると

「え?ああ・・・・・・うん、まあね・・・・・・」

 姫川も無理に明るい性格を演じようとするが、どうしても落ち込みが浮き出てしまう。

 収穫があったはずなのに、全員が曇った空気に愛利花は違和感を覚えた。その直後、いるべき人数が1人足りない事に気づく。

「ちょっと待って。あの子はどうしたの・・・・・・?」

 聞かれたくない事を率直に聞かれ、香織は一層、不幸な顔を歪ませ沈黙する。代わりに博仁が頭を横に振り、曖昧だが伝わるであろう訳を話した。

「あいつはもう、この世界にはいない・・・・・・」

「・・・・・・やっぱり、危険が潜んでいたのね・・・・・・」

「由利子は香織を守って死んだんだ・・・・・・僕には真似できない、かっこいい最期だったよ・・・・・・」

 姫川が死因を告げ、どうにもできない悔しさに、ただ呆然と立ち尽くす。愛利花は答えを知ると、残念さを繕ってこれ以上は詮索しなかった。

「どこまでも可哀想な子ね・・・・・・優しい扱いをしなかった自分が腹立たしいわ・・・・・・」

「ああ、同感だ」

 博仁が切なく言って、メイフライがついでに由利子の埋葬について話した。

「遺体は土の柔らかい場所を適当に探して埋めました。花を添えたので、喜んでくれたと思います・・・・・・多分・・・・・・」

「成仏してほしいわね。さあ、長い遠出で疲れが溜まったでしょう?ゆっくり休みなさい。悲しみに暮れるのは後回しにした方がいいわ」

 博仁が賛成し、4人は異常な怠さがのしかかる重い体を引きずりベッドに潜り込んだ。柔らかいクッションの上で起きた体勢を崩すと、力を緩ませ一息つく。

「お兄ちゃん。大丈夫?どこも痛くしなかった?」

 透子が決まって親しい人間の傍へ寄る。メイフライは返事をするまでに数秒の時間を空白にした。

「ああ、問題ないよ。心配かけちゃったみたいで悪かったね」

 友好的とは言えない声。隠れ家に出向いた4人はあそこで目にした信じ難い真実が脳裏に焼き付けられていたのだ。いや、忘れるなんて毛頭無理な話だった。ちらちらと、どうしても透子に気が向いてしまう。

「?」

 透子もいつもと異なった雰囲気に気づき、不審を募らせた。

「ところでさっき、収穫があったような言い方だったけど、周の隠れ家には何があったの?」

 質問を重ねる愛利花に博仁は詳しい説明を躊躇う。

「一言にまとめれば、あそこはこの世の地獄だった。マジで頭がイカれても不思議じゃない」

「流石のあなたがそこまで言うからには、相当やばかったのね。得られた物について教えてくれない?」

「人だ」

「人・・・・・・?」

「地下室に女が1人監禁されていた。今は医務室で安静にさせている」

 博仁はまるっきり、掟破りの自覚がない言い方で淡々と言った。しかし、幾度となく繰り返してきた違反行為の連続に愛利花はどういう心境か、怒りと興奮を鎮めて

「最早・・・・・・あんたには叱る意欲すら湧かないわ。いくら警告したって、結局は無視するだけなんだし。まあ、人1人の命を救ったんだから、今回くらいは大目に見てあげるし、ヒーローだって褒めてあげるわ」

 と所々、皮肉が入り混じった称賛を浴びせる。

「他にはないの?」

「いや、まだある。香織が指輪を見つけた。持ち主は不明だが、これも地下室に大事に保管されていたんだ。取り出した途端、警報が作動したから重要な物である可能性は十分に高い」

「指輪?」

「あと、これは・・・・・・えっと・・・・・・」

 博仁は最も肝心な内容を喋ろうとしたが、一瞬の迷いが生じて台詞が序盤で途切れてしまう。彼は目を逸らし、視界の範囲に透子を入れる。静流と仲良く遊ぶ無邪気な姿が告白する覚悟を余計に鈍らせた。

「どうしたの?かっこ悪いわね。はっきりしなさいよ」

 博仁は心の靄を残したまま、トーンを低く

「構わんが、この内容は強制的に脳裏に反射的に刺激が走る。驚いてもいいが、発狂だけはしないと約束してくれ」

 忠告を始めに耳元で真実を打ち明けた。その囁きに愛利花は真剣な表情はより深刻へと変貌を遂げる。焦った早さで透子のいる方を振り返り、そして急いで向き直った。気がつけば、無意識に博仁の肩を掴んでいた。

「嘘でしょ・・・・・・!?あり得ないわ・・・・・・!」

「俺だって信じたくないさ。だが、このタイミングで嘘をつく性格じゃないのはお前もよく知ってるだろ?」

 博仁のふざけた欠片もない生真面目な態度に疑いを抱けなかった。愛利花もまわりを気にしながら、トーンを合わせ

「じゃあ一体、あの子は何者なの・・・・・・!?」

 博仁は神経を張り詰め

「さあな。だが最悪、危険人物であるという線も視野に入れておく必要があるだろう」

「まさか、あんな優しくて穏やかな子が・・・・・・そんな・・・・・・」

「とにかく、下手に刺激しない方が身のためだ。あくまでも勘だが、あいつの正体はいずれ明らかになるかも知れん」

「組織の情報網で探るつもり?」

「いや、違うな。もっと最適な方法がある。お前も協力してくれ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.273 )
日時: 2020/10/05 19:41
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 静寂しかない深夜。消灯時間がとっくに過ぎ、組織の人間のほとんどが寝静まった頃、香織達は居住区の外にいた。皆はいい加減な列でまとまるが、透子に対してだけは微かに距離を置く。

「透子、寒くないか?」

 博仁が普段の接し方で気を遣う。

「うん、大丈夫」

 透子は眠そうにしょぼしょぼした目を擦りながら答えた。香織達は1人の少女の正体に迫ろうとする行為に多大な不安を募らせる。中でもメイフライは嫌な結末の予感ばかりが頭を過り、憂鬱になって俯く。

「おお・・・・・・お・・・・・・あん・・・・・・」

 静流は友達が孤立させられている事に気づき、透子の元へ行こうとした。肩を掴まれ接触を阻んだ誰かの方を向くと、愛利花が切ない顔を横に振る。

「大事な話って何?」

 透子が首を傾げ、自分を呼び出した理由について尋ねた。香織が言いたい事を伝えようとしたが、博仁が一足先に序章の幕開けを取り仕切る。

「まずはどの部分から言えばいいんだろうな?くそっ、肝心な時に限って頭がこんがらがるな・・・・・・でもな、最初にこれだけは誓っておく。白木透子はBJの正式な一員であり、俺達の家族だ。お前がどんな奴であっても、俺達はお前を嫌いになったりはしない」

「博仁さん・・・・・・それってどういう・・・・・・」

 唐突な台詞に透子は戸惑う。明らかに日常的とは異なる雰囲気に不吉な緊張が芽生える。

「透子ちゃん。あなたに聞きたい事があるの。今から言う内容はあなたにとって、凄く辛い内容かも知れない。でも、それはここにいる私達も一緒。恐がらなくていい。でも、ほんの少しだけ覚悟を決めてほしいの。透子ちゃん、あなたは・・・・・・きゃっ!?」

 その時、いてもたってもいられなくなったメイフライが抑え切れなくなった忍耐を爆発させた。優しく探りを入れようとした香織を力づくで後ろへ追いやると透子の身柄を押さえて詰め寄る。

「透子ちゃん、君は一体何者なんだ!?」

 そして、率直かつ強引な尋問に持ち込む。

「お、お兄ちゃん・・・・・・!?」

「周の隠れ家にどうして君がいたんだ!?肖像画に描かれた人物は間違いなく君だった!君は周の手先なのか!?ずっと俺達を騙してたのか!?」

 急な事態に愛利花と慎一が2人かかりでメイフライの暴走を食い止める。"放せ!"とわめく少年を無理にでも下がらせた。

「メイフライさん、落ち着いてっ!透子ちゃんが悪者だと決めつけるのは早過ぎるわ!」

 香織もいざこざに加わり、必死に言い聞かせようと懸命になる。

「そうだよ!1番、信じて疑わなかったのは君じゃないか!そんな奴が真っ先に大切な人を敵視してどうなるんだ!?真実が明るみに出るまで信じてやれよ!いつもの君でいてやれっ!」

 姫川も失った想いを呼び起こさせようと怒りをぶつける。

 2人に宥められ、自我を取り戻したのかメイフライは高ぶりを鎮め、大人しくなった。しかし、失意は悲しみに変わり、今度は子供みたいに泣き出してしまう。円らな瞳に映るその様子を透子はじっと黙視していた。

「すまんな、透子。不愉快にさせられただろうが、メイフライは・・・・・・こいつはお前が嫌いなんじゃない。むしろ、ここにいる誰よりもお前の事が大好きなんだ。だからこそ、お前が潔白でいてほしいんだよ・・・・・・」

 博仁も物柔らかく、優しい言い方で言った。その束の間を終え、甘い感情を捨て去ると

「でもな、今の俺達には厳格になる義務があるんだ。俺達は本当のお前というものを知りたい。その秘密を明かす事がお前のためでもあるんだ。家族だって言ったろ?だったら、隠し事なんてなしにしようぜ?」

 博仁は場を取り仕切り、改めて問いかける。

「透子、お前は何者なんだ?」


「その子については、私の口から説明した方がいいだろう」


 ふいに、ここにいないはずの異例な声がした。香織達は鳥肌を立たせ、後ろを振り返る。近くに真面目な面持ちを整えたファントムが立っていた。

「ファ、ファントム・・・・・・さん!?」

 意外な訪問者に香織が無意識に彼の名前を呼ぶ。

「ファントムって・・・・・・おいおい、香織に何度か聞かされたあの殺人鬼かよ!?そんな奴が何の用だ・・・・・・!?」

「一体、どこから・・・・・・そもそも、どうやってこの隠れ家に侵入したんだ・・・・・・!?」

 博仁も慎一も彼の存在と奇術に驚愕を隠せなかった。

「恐れなくてもいい。お前達の命の花を摘みに来たのではない。生憎、今日は死神を演じたい気分ではないのでな・・・・・・」

 ファントムは相変わらずも芝居がかった喋り方で皆の視線を浴びながら、堂々と向かってくる。香織以外の者は初対面である彼を恐れ、後ろへ退く。殺人鬼は知り合いである香織に気味悪く笑みを送ると、次は自身を黙して見上げる透子に視線を移した。

「随分、久しいな。透子」

「・・・・・・どういう事?」

 胸騒ぎに苛まれながらも、香織は落ち着いた振る舞いでファントムに問いかけた。

「姫川 香織、お前は私の苦悩を晴らしてくれた・・・・・・心から礼を言うぞ。最早、隠し事しても意味を意味を成さないだろう。今日、この日に全てを明かそうではないか」

 ファントムは決意を宣言し、最初の告白を告げる。


「透子は私のかけがえのない"娘"なのだ」


 その発言に数人だけの群衆は一斉にざわつく。

「透子ちゃんが・・・・・・ファントムの娘・・・・・・!?」

「・・・・・・どういう事だ!?」

 信じられないあまり愛利花が耳を疑い、メイフライも一驚を喫する。

「あなたは今まで、一度もたりとも嘘をつかなかった。どいう事か説明してくれる?」

 香織が言って、ファントムは次の秘密のベールを脱ぐ。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.274 )
日時: 2020/10/05 19:49
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「お前は、手品師すら真似できない私の奇術を幾度となく目の当たりにしてきただろう。私の正体は悪魔の血が入り混じった魔物なのだ。しかし、かつては"ただの人間"だった。まともな生活と平凡な家庭を持つ普通の人間としての人生を歩んでいた・・・・・・例の男が幸福に満ちた日常に穢れを吹き込むまでは・・・・・・」

「・・・・・・周ね?」

 香織の的確な予想に肯定を言葉に出さず、ただ頷いて続きを語り始める。

「あの男は突如として現れ、妻・・・・・・つまりはその子の母親を殺害した。家は燃やされ、私達父子は囚われの身となった」

「あなたにそんな過去が・・・・・・」

「あの男は私を傀儡(操り人形)にしようと人を人ならざる者に変える儀式の生贄とした。悪魔の血を飲まされ、心臓を毒されたのだ。こうして、私はファントムという怪物と化した。娘は私が裏切らないための人質、言わば保険と例えるべきか・・・・・・私達一家が狙われたのは特別な意味などなく、気紛れに選ばれたに過ぎなかったのだ」

「酷過ぎる・・・・・・これほどまでに残酷な悲劇はないわ」

 傍で会話に耳を傾けていた愛利花が鋭い声で囁く。ファントム以上に透子に降りかかった理不尽極まりない運命に猛烈な怒りが込み上げ、拳が震えていた。

「・・・・・・ちょっと待ってくれ。じゃあ、隠れ家に透子がいたのは・・・・・・」

 博仁が邪魔をしている自覚に恐縮しながら、2人の言葉のやりとりの間に割り込んだ。

「私を支配し、油断してしていたあの男の目を盗んで娘を檻から連れ出す事に成功した。しかし、追われる身となった時、私と共にいれば娘にも危険が及ぶ事が真っ先に浮かんだ。せめて、娘だけでも無事でいてほしいと安全な場所へ逃がす決意をした」

「だから何故、この隠れなんだ?わざわざBJを選んだわけはなんだ?」

 博仁が疑問を投げかける。すると、ファントムは何がおかしいのか、再び不気味な笑みを繕い

「お前達が属している組織は、ただの影に隠れし武装勢力ではない。報酬と引き換えに悪を滅ぼそうとするのは表に生業。実際はお前達の想像がつかないような秘密を多く抱え込んでいるのだ」

「何?それはどういう意味だ!?」

 聞き捨てならない証言を耳に捉え、更なる詮索を求める博仁。しかし、ファントムはそれ以上の事は黙秘し、語る相手を香織に戻した。

「私はかつての人生を奪われた復讐のため、周の魂をもぎ取ろうと至る所で暗躍した。世間は私の犯行を無差別殺人と報道しが、手にかけた者達は無実の市民ではない。生を絶ち、枯らした命は全て、あの男に加担した取り巻き達だったのだ」

「ちょっと待って」

 香織はとある点に不自然さを覚え、迷わず指摘する。

「あなたの正体についても、私と同じ周の被害者である事もはっきりした。でも、1つだけ不思議な点があるわ。あなたはどうして、見ず知らずで赤の他人でしかない私を牢獄から救い出してくれたの?ここまで辛い過去を持ち、大切な人のために命を懸けられるあなたが快楽や遊び半分で復讐ゲームを提案したとは思えない。私にクラスメイトを殺害させたのは、違う目的があったからなんじゃ・・・・・・?」

 その発言にファントムは今までになかった複雑な感情を生んだ。言葉の出ない状態のまま、しばらく間を開けて真剣にこちらに釘専念する香織を黙視する。やがて、"お前を誤魔化すなど不可能に等しい"と言わんばかりに観念した苦笑の後、静かに新たな真実を明かす。

「怨讐の殺戮を繰り返し、私は悲劇の元凶である周を追い詰めるまでに至った。皮肉にも憎むべき相手に植え付けられた神に等しい力を使い挑めば、貧相な彼奴など簡単に捻り潰せた・・・・・・だが、目論みは一歩手前で失敗に終わった」

「どうして、あいつを殺し損ねたの?」

「奴はどこまでも抜けなく、強力な守護者を予め暗闇に潜ませ、待ち伏せを謀ったのだ。奇襲にまんまと不意を突かれ、敗北を喫しただけではなく、ある物まで奪われてしまった」

「ひょっとすると、その守護者って・・・・・・僕の勘に狂いがなければ・・・・・・」

 姫川が心当たりがあるいくつかの記憶に基づいて推し量ると

「なかなかの頭脳だな。そう、周の暗殺を終わらせ私の最後の復讐を妨げたのは、お前達が奴の隠れ家で救い出した赤目の少女だ」

「あの女。周に監禁されていた、ただの芸術作品の材料ではなかったのか・・・・・・銃を巧みに扱える芸当からして、怪しいと踏んでいたが、あの得体の知れない女こそが周の手先だったとは・・・・・・とんでもない怪我人を招いてしまったものだ」

 博仁は人生の選択を誤ったように深い後悔を抱く。やはり、厄介事しか持ち込まない彼の失態に愛利花の信用に後悔が根付き、いつもの失望を買った。

「心配するな」

 ファントムが平然とした一言で2人の怪訝な反応を煽る。

「あの女は殺戮兵器として造られたが、理性という欠陥を持ち合わせている。周の凶行に嫌気が差し、逆らったが故に制裁を加えられていたのだろう。少なくとも、憎しみだけを生きる理由にしていた私よりは信用できるのではないか?会って、説得を試みるのはどうだ?頼もしい味方になってくれるかも知れんぞ?」

「まだ、聞きたい答えを聞いてないわ。教えて?どうして、私の前に現れたの?」

 香織は他の話には関心がなく、知りたい事だけを問いただす。


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