複雑・ファジー小説
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- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.164 )
- 日時: 2017/10/10 07:54
- 名前: 爆走総長ナオキ ◆UuU8VWSBGw (ID: pmOIN4oE)
小説おもしろいです!!
まだ途中までしか読んでおりませんが応援しています
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.167 )
- 日時: 2019/01/30 20:14
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
やる気に溢れた博仁が楽しそうにアクセルを踏む。バンは勢いよく走り出し隠れ家から飛び出した。香織は後ろにある窓の外を覗いてみる。ゲートの向こうで手を振り見送る愛利花達が見える。軽く笑顔を作りその姿が見えなくなるまでずっと眺めていた。
3人を乗せた車は獣道を抜け止まる事なく道路を走り抜ける。山を下ると香織がかつて住んでいた埼玉の街が木々の間から見えてきた。いつもと変わらない平穏そうな光景が広がっている。大切な物を守るためまたあそこへ出向くのだ。
「2人共いいか?これから街を抜け次のターゲットのいる場所へ向かう。前は見事に上手くいったが油断は禁物、あっちはどんな卑劣な手を使ってくるか予測できんからな。凶暴でずる賢い獣を狩るつもりでいけ。それと香織、誰を狙うかお前ならもう分かっているな?」
「ええ、『山田伊織』を殺るのね?」
香織は殺意がこもった口ぶりで標的の名を口にする。親友を奪った憎しみが沸き上がってきたのか拳を強く握りしめる。
「そうだ。奴の居場所は既に分かっている。お前が銃の訓練をしてる最中に情報を調べ上げた」
「で?そいつはどこにいるの?」
香織は怒りを鎮め冷静に問いかける。
「これも奇妙な話だが伊織は街中にある『廃校』に行くのが日課らしい。理由は分からん。そこが奴にとって憩いの場なのか単なる廃墟マニアなのか知らんがお前を陥れた同級生は変人が多いな。もっともいじめなんかする奴にまともな奴などいないと思うが」
博仁は淡々と皮肉混じりに言い放った。彼はちらっと短く振り向き話の内容を変える。
「戦場となる今度の舞台は前のよりもそう遠くない。意外とあっという間だ。だから各員、今の内に持って来た装備を身に着けろ。椅子の下にケースがあるはずだ」
香織とメイフライは言われた通りそれぞれに支給された大きさの違うケースを引っ張り出し留め具を外した。開いてみると武器や道具に一式が丁寧に収納されていた。香織のケースには新たな武器であるショットガンとピストル、相棒である刀、そして仮面が入っていた。その下に戦服が畳まれて入れてある。
「こんな危ない物を日本で使う日が来るなんて人生というのは波乱万丈で先が読めないわね・・・・・・」
香織はショットガンを抱え思わず苦笑した。
「間違っても銃口をこちらに向けないで下さいね?」
メイフライも香織と同じ顔をして恐がる素振りを見せた。
「とりあえず目的地に着く前に準備しましょう。目をつぶっておきますから安心して着替えて下さい」
香織は着ている服を脱ぎ空いたスペースに置いた。迷彩柄の戦服を下着の上に被せ身なりを整える。更にレザーアーマーを取りつけ動いてもずれないようにしっかりと固定する。
「もう目を開けても大丈夫です。着替え終わりました」
次はショットガンに1発ずつ20ゲージの散弾を込めた。8発目を入れ終えると銃口を天井に向けてスライドをコッキングする。ピストルにもマガジンを押し込み後半は同じように弾を薬室へ装填する。それを右の腰ホルスターに収め使い慣れた刀は反対のベルトに差し込んだ。最後は余った弾倉をポーチに差しいつでも戦える状態を作り出す。メイフライも短刀とピストルだけの簡単な装備を終えたところだった。
「よし、全員武装を完了したな?無線機を取りつけろ」
2人の準備を見届けた博仁が言った。
「香織さん、緊張を少しでも和らげるためにお喋りでもしませんか?」
メイフライが普段通りの言い方で言った。
「・・・・・・話ですか?・・・・・・何かありますかね?」
何を喋ればいいか困惑する香織に彼は真剣な眼差しで
「あなたをいじめていた次の標的、山田伊織について教えてくれませんか?」
「あの人は・・・・・・伊織は静かで大人しい人間でクラスの人と関わる事はあまりなかった。ピアノがとても上手くて休み時間になると決まって音楽室で演奏をしていました。だけど陰湿でずる賢く卑怯な手段ならいくらでも思いつく奴でしたね。私をいじめている時だけは他の奴らと意気投合してましたよ。私の財布からお金を盗んだり鞄にゴミを入れたのもあいつです」
「実に現代らしい陰湿な犯行ですね。バカな奴ほど変な所に知恵が働くとはよく言ったものです」
メイフライも軽く怒りを覚えながら皮肉を言った。
「あいつには死にたくなるほど散々傷つけられた。そして挙句には私の大切な親友を奪った。どんな手を使ってでも、例えあいつと同じレベルの人間になったとしても必ず息の根を止めてやるわ」
「その意気です。俺も喜んでサポートしますよ。言うまでもないと思いますが・・・・・・」
「ええ、殺す前に詩織を殺した黒幕の正体を吐かせる・・・・・・ですよね?」
以心伝心にメイフライは何も言わずただ頷いた。彼は気紛れにカーテンの隙間から顔を覗かせ窓の先を確認する。まだ山道の途中らしく木々が生い茂っていた。だがバンはもうすぐ山を抜ける。目的地に近づくにつれ香織の緊張はさっきよりも増してきていた。深い悩みを抱えているように表情は曇る。
「今から街に入る。ここからが本番だぞ?決して気を抜くな」
香織にとってそれが地獄への到着を知らせる合図に聞こえた。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.169 )
- 日時: 2019/01/30 20:30
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
廃校はアパートが並ぶ住宅街のすぐ隣に聳え立っていた。都市の中心部に位置するはずの場所だが人の姿がなく陰気くさい雰囲気を放つ。夕日の光が遮断され夜のように暗い。
「このエリア全体が廃墟みたいだな」
博仁が薄暗い外を車内から眺め思っていた事を口に出す。廃校の正面玄関は封鎖され太い鎖が巻かれていたためここからの侵入は無理に等しかった。とりあえず建物のまわりを沿っていくと金網にちょうど1人の人間が通れそうな穴を見つけた。車はそこで停車した。
「標的はここから校内へ入っているんだろう。俺が思うに侵入口はここだけだ。奴が中にいる可能性は十分に考えられるな」
香織は真っ先に車内から降りて廃校を見上げる。至る所がボロボロで人の気配は感じない。だが、割れた窓に流れていく風の音は何かの唸り声にも聞こえなくなった。それ以外はしーんと静まり返っている。
「肝試しするなら持って来いの場所ですね・・・・・・」
メイフライが少々怖気づきながら車から顔を出し夜に近い一帯を見回す。相変わらず他の誰かが現れる事はない。どこか遠くで犬が吠える。
「こんな所に1人で行くとは・・・・・・伊織って女は相当に頭がイっちまってるとしか思えん。俺だったら金を出されても絶対にお断りだ」
博仁も標的の神経を疑いきっぱりと言い放つ。
「行きましょう。中に入ってあいつを探さなくちゃ」
香織は無線のスイッチを入れショットガンを背負うと仮面を手にそそくさと穴をくぐり校内へ侵入する。
「あ!待ってください!」
メイフライも慌てて後を追う。2人は辺りを警戒しながら狭いグランドの上を歩く。草むらに木の影、物置の小屋、待ち伏せに利用できそうな場所はどれも残らず確認する。こちらの動きを窺っていないかと窓もチェックも忘れずに建物の入口へと向かう。
「近くで見れば見るほどホラー感が増すな・・・・・・この学校、随分な古さですが閉鎖されてからどれくらい経つんだろう?」
後ろからメイフライの独り言が聞こえた。
「私の感覚が正しければ20年くらいってとこかしら?相当な古さですよ」
「20年前と言ったら俺達が生まれるちょっと前か・・・・・・」
「ええ、そして21世紀の始まり。平成は短かったですね」
どうでもいい話を言い合いながらあっという間に玄関に辿り着く。扉は2つ並んでいた。どちらも金属部分が錆びて汚い色に変色し切っており片方は外れかけ斜めに倒れるように傾いている。地面には割れた鋭いガラスやひびで崩れた建物の破片、埃や枯れ葉が積もる形で散らばっていた。どこから見てもゴミ屋敷への入り口にしか見えない。
「ガラスに気をつけて下さいね?」
メイフライは下を指差し注意を促す。香織は黙って頷くと取っ手に手を触れる。
「開いてる・・・・・・」
扉には鍵は掛かっておらず片手で容易に開いた。
「多分、奴はいますよ」
確信したメイフライが普段の声を半分にしていった。同時に銃をホルスターから抜き取りサイレンサーを取りつける。香織は武器を取らずに代わりに持っていた仮面を顔に着けた。
「この服装には似合わないわね・・・・・・」
廃校の中は灯りがないため外より遥かに暗かった。この場所も細かい建物のの一部が散乱しており数十年の放置が手に取るように分かる。通路の奥でたまに聞こえる風の唸りが恐怖感を更に引き立てる。香織達は下駄箱の間を通り廊下で立ち止まった。
「いよいよこれからが本番ですね」
「戦いはもう始まっているわ。油断せず慎重にいきましょう?」
「この広い空間から1人の人間を探すんですね?簡単に見つかればいいけど・・・・・・」
「メイフライさん、私に考えが・・・・・・」
香織は自身の作戦を響かない声で囁いた。
「・・・・・・えっ!?二手に分かれる・・・・・・ですかっ!?」
1番言われたくなかった事を言われて彼は怖気づいてしまう。
「一緒の状態で奇襲でもされたら終わりです。だから単独行動で少しでもそのリスクを減らしましょう。それにこの方が効率よくあいつを探し出せると思うから」
「それが得策かも知れませんけど・・・・・・」
「"ははは!何だよメイフライ、男のくせにビビってんのかよ!?"」
弱腰のメイフライを愉快に笑う博仁の声が無線から聞こえてきた。
「博仁さん、何もないかも知れないけどそっちはどう?」
香織が無線に口を寄せて向こうの状況を聞き出す。
「"お前の勘が見事に的中、こっちは暗いだけで特に何もない。人っ子一人現れん。だがそれが好都合でもある。そっちはこれから陰湿女を探すんだろ?"」
「そうよ?知りたい情報を吐かせたら息の根を止めるつもり」
「"気をつけろよ?前の零花の時みたいに今回の奴もどんな汚い手を使ってくるか予測ができんからな"」
「分かってる、じゃあ任務に戻るわ。何かあったら連絡して?」
「"ああ、すぐに知らせる。幸運を祈る"」
無線から博仁の声は聞こえなくなった。
「私はあっちに行ってみるからメイフライさんは反対方向をお願いします」
「・・・・・・分かりました」
メイフライは不満そうに"はあ〜"と息を吐きしぶしぶ指示された方向へ歩き出した。香織は彼を見送ると後ろを振り返り
(暗視・・・・・・)
と頭の中で思い浮かべた。仮面が反応し目にすぐさま変化が現れる。視界は緑に染まり校内はさっきよりも見通しのいい世界へと化した。今まで見えなかった物まであらゆる所がはっきりと映る。
「実戦で使うのは初めてだけど上手く扱えそうね」
香織は期待した言い方で小さく呟き自身も足を進めた。少しばかり歩き角があったので曲がってみると遠くまで続く長い道へと出た。横にはいくつもの部屋が並んでおり反対側は窓の列、先ほど通ってきたばかりのグランドが見える。香織は手前の一室の扉の前で立ち止まった。上にあった札を確かめると読みづらいが理科室と書いてある。
「ここは教室の一帯ではないわね。隣は家庭科室かしら?」
気紛れに左右を交互に眺め再び向き直す。やはり誰もいない。
「本当にあいつはいるのかしら?情報に誤りがあったんじゃ・・・・・・メイフライさん?聞こえますか?」
と通路に響かないトーンで呼びかけた。
「"は・・・・・・?は、はい!どうしました!?"」
すぐに焦った返事が送られてくる。
「そっちはどこにいるんですか?」
「"俺は今、体育館にいますが誰もいませんよ。無音だし懐中電灯がないから恐さが半端ないです・・・・・・ちなみにそっちは何かありましたか?"」
「いえ、特には何もないです。」
「"なるほど、ここならそういうのがいても可笑しくないですね。1階の探索が済んだら合流して2階へ上ってみましょう"」
香織は見えない話し相手に頷き
「分かりました。ではまた後で」
と無線での会話をやめようとした時
「ひっ・・・・・・!?」
香織は情けない声を上げた。今まで静かだった朽ちた学園に美しい音色が流れ始めたのだ。
「・・・・・・ピアノ?」
香織はとっさに天井を見上げた。音色はそう遠くない上階の方から聞こえてくる。
「メイフライさん聞こえますか・・・・・・!?」
香織は落ち着けない様子で再び無線に声をかける。
「"聞こえてますよ。急にピアノが鳴り出したから驚きました。多分、奴でしょうね・・・・・・ひとまず落ち着いて、決して1人では行かないで下さい。まずは落ち合いましょう。玄関で待ってます"」
香織は"分かりました"と答え急いで合流地点へ向かう。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.171 )
- 日時: 2019/01/30 20:57
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「あそこが音楽室で間違いないでしょう」
メイフライが通路の向こうを指さす。いくつも並ぶ部屋の1つに音楽室の札がかけてあった。
「相手は油断してるだろうからすぐに決着が着くと思いますよ。今回は初めての時よりも簡単にいくかも知れません」
「メイフライさんだったらどうしますか?」
香織が背を壁に寄せてパートナーの意見を聞く。
「部屋に入ったら俺が銃を向けて奴を脅します。それで動きを封じたら香織さんが黒幕の情報を聞き出し終いに息の根を止める。この作戦は当てになりますか?」
「博仁さんの作戦よりも正確性がありますね?成功する気がしてきましたよ」
香織は一度だけ深呼吸し、まずは顔を覗かせ中に入り込んだ。
音楽室は他の場所とは大分異なっていた。廃校である事が忘れてしまう程に部屋は綺麗に掃除され汚れまでもがしっかりと拭き取られている。新品同様の教室に見えこれから生徒達が訪れて来そうな雰囲気を生み出していた。一クラス分の椅子が並べられ真後ろに多くの楽器が置かれている。天井近くの壁に飾られた無数の音楽家の肖像画が部屋にいる人間達を不気味に睨んでいた。
奥にあるピアノを1人の少女が夢中になって弾いていた。カーテンを揺らす外の風で後ろに結った髪がなびいている。背は低く細い体格をしている。服装は香織にとって懐かしい、かつて通っていた学園の制服だった。伊織はここへ来たばかりの男女の存在に気づき黙って彼らを見つめた。同時にピアノの音が止まる。
「伊織・・・・・・!」
香織は仮面を外し殺意を剥き出しにした鋭い目つきで刀のグリップを掴む。
「・・・・・・」
伊織は無言で椅子から立ち上がり鍵盤蓋を下ろしてピアノの横に立った。棒のような姿勢で右手だけを上げ人差し指を鼻の前に当てる。そして、そっと口を開いた。
「聞こえる?風の音。耳を澄ませると妖精の歌声に聞こえるよ」
訳の分からない発言に2人は軽蔑の表情を浮かべ互いの顔を見る。静かになった部屋に吹く風は相変わらず気味の悪い唸り声そのもので美しい歌声とは程遠い。
「久しぶりだね?香織ちゃん。兵士のコスプレ?随分とかっこいい格好をしてるんだね?でも、その悪趣味な仮面で台無しだよ。それはそうと後ろにいるのは彼氏さんかな?」
質問を無視し香織は怒りを込めて言った。
「仲良く話をするためにこんな所まで来たわけじゃないわ。私は詩織の殺人に関わっている人間に復讐するために来た。あなたを殺しにね」
銀の刀身を抜き長い刃を目の前の無防備な少女に見せつけるとすぐに構えて刃先を向ける。
「・・・・・・」
伊織は恐がる素振りすら見せず自分に向けられた刀を見た。大して興味がない眼差しで軽く微笑む。
「森川詩織を殺害した男の名前を言え。そうすれば楽に殺してやる」
メイフライも香織と同じ態度であらかじめ持っていた銃を正面に向ける。銃口の上のエイムを伊織の頭部に合わせた。
「あなたの奏でる演奏、胸に染み渡ったわ・・・・・・でも、それが今日で命日を迎えるあなたのレクイエムとなるのよ」
香織は姿勢を変えずに数歩近寄り相手を追い詰める。
「あなた達が私を殺す?」
伊織はそれだけ言って同じ表情を保っていた。やはり恐れる事もなくましてや抵抗しようとする気配もなくピアノに手を乗せた。我が子を可愛がるみたいに巨大な楽器を撫で下ろす。
「香織ちゃんがやりたい事は大体理解できた。だけど死にたくないな〜。だって大好きなピアノ、弾けなくなっちゃうから」
と軽い口調で香織達を見た。
「自業自得よ。もしあなたが詩織の殺人に関わっていなかったらこうして命を狙われずに好きなだけ自分の趣味に没頭できたのにね」
吐き捨てた嫌みに対して伊織は何も言い返さなかった。代わりに劇を演じる役者のように両手を広げ
「私ね、貰った沢山のお金でベーゼンドルファーの高級ピアノを買いたいの。そしてもっといろんな曲を演奏したい。ねえ、素敵だと思わない?」
身勝手な希望を抱き共感を求める。
「悪いけどあなたのくだらない理想には皮肉も言えないわ」
「俺も同意見だ。罪のない人間を殺した奴の輪舞曲なんて死んでも聞きたくねえ。一言で例えるなら腐りきった芸術だ」
「・・・・・・そうなんだ・・・・・・何かがっかり・・・・・・」
伊織は失望した下を向いた。再び顔を上げると彼女の表情は今までとは異なり穏やかだった顔つきは一変し殺気の形相が浮かび上がっている。香織は突然の豹変にに思わず後退りしてしまった。精神に圧力がかかり刀を持つ手が震える。
「私は死なない・・・・・・死ぬのはあなた達・・・・・・」
呪いの呪文みたくぼっそと呟く。気づかれないように両手をスカートに入れ素早く瞬時に何かを取り出した。左手には火のついたライターが握られておりもう片方の手には・・・・・・
「危ないっ!!」
それが何なのか瞬時に見抜いたメイフライは香織の裏地を掴み音楽室の外の壁へ引きずり出す。2人は吹き飛ばされたように廊下に倒れ込んだ。音楽室の方から何かが飛んできた。ビール瓶くらいの黒い容器で先端が燃えている。それは回る形で宙を舞い窓側の壁に当たった。ガラスの容器は粉々に砕け中身の得体の知れない液体がびしゃっ!と弾ける。やがて火に引火し一瞬で燃え上がった。
「え・・・・・・?・・・・・・火?」
香織は何が起きたのか分からず口をぽかんと開け火事になった場所を凝視する。
「火炎瓶!」
メイフライは叫んで急いで香織を立たせる。炎から少し下がらせ銃口を部屋の入口に合わせた。音楽室から伊織がゆっくりと出てきた。静かな笑顔だったが目は笑っていなかった。彼女は火炎瓶をもう1つ取り出して口を覆った布切れに火を灯して言った。
「これ、理科室にあった化学薬品で作ったんだ。私って手先が器用で知識もそれなりに頭に入っている。凄いでしょ?勉強はやって損はないよ」
香織とメイフライは相手の厄介な先手に打たれてしまった。予想すら出来なかった不意打ちに悔しそうに歯を噛みしめる。
「香織ちゃん、さっきの曲はあなたへのレクレイムだよ」
くすっと笑い2本目の火炎瓶を香織目掛けて投げつける。
「くっ・・・・・・!」
香織達はとっさに後ろに飛び跳ね何とかかわした。立っていた地面に炎の池が広がる。
「迂闊に近寄れないわね・・・・・・」
「ここはもうすぐ火に包まれます。ひとまず下の階に下りこのエリアから抜け出しましょう。先に行って下さい」
メイフライが隣にいる人間だけに聞こえる声で言った。
「分かりました」
香織はメイフライを背に傍にあった階段に向けて一足先に走り出す。
「何だ逃げちゃうのか・・・・・・やっぱり香織ちゃんって弱虫なんだね・・・・・・で、彼氏さんが代わりに相手してくれるの?」
楽しそうに言った。
「それが望みなら少しだけ付き合ってやる。もっともそれでお前が楽しめるかどうかは保証できないけどな」
メイフライは表情を一層険しくして再び銃口を向ける。
「お気遣いどうも。死んじゃえ」
伊織が目の色を変え火炎瓶を振り上げる。メイフライは瞬時に銃口の向きを変え引き金を引いた。弾頭が発射されプシュッ!と乾いた銃声がした。
コインよりも小さな弾は光線の如く伊織の肩にめり込んだ。いとも容易く人体を貫通し肉と服を引き裂いた。多量の血しぶきが跳ね撃たれた人間の顔にふりかかる。右腕に強い衝撃を受け同時に持っていたお手製の武器を手放した。落ちた火炎瓶は砕けず爆発もしないで廊下を転がっていく。
「・・・・・・どういう事だ・・・・・・?」
メイフライは姿勢を変えず信じられない顔をした。確かに弾は命中したはず・・・・・・だが・・・・・・
「痛がるとでも思った?」
伊織は撃った相手を見て不気味ににやける。彼女は悲痛の声を上げるどころか痛がる素振りすら全く表さなかった。皮膚がえぐられた所をちらっと見下ろしたがこれといった反応は示さない。何事もなかったかのように平然としている。
「こいつ・・・・・・神経がないのか!?」
予想外の展開にメイフライは驚愕し同時に恐れ戦いた。両腕の微小の痙攣が止まらず標準が定まらない。一歩ずつこっちに近づいてくる少女が化け物に見えた。
「どうしたの?撃たないの?」
「・・・・・・くそっ!」
メイフライは何か方法はないかと必死に考えたが焦りのせいで頭が上手く働かない。どうしようもなくなりついに彼も背を向けて走り階段に姿を消した。
「ま、逃がさないけどね・・・・・・」
伊織は不気味な口調で呟き2本の指で顔に付いた血をすくって舐めた。
1階の廊下に香織はいた。メイフライが来るのをここで待っていたらしい。下りてきた仲間の姿を見て嬉しそうに駆け寄ってきた。2人は合流し火が放たれたエリアから遠ざかる。
「無事だったんですね?よかった・・・・・・ん?火薬の臭い・・・・・・撃ったんですか?」
「ええ・・・・・・弾は見事に命中しましたよ・・・・・・」
「はっ、あいつが苦しむ様を見れなかったのが残念、よくやってくれまし・・・・・・どうしたんですか?」
彼のただならぬ様子を見て歓喜の表情を崩す。
「香織さん・・・・・・あの伊織って奴は体が病気なんですか?」
メイフライは声を震わせ問いかけた。
「え?どうしてですか?・・・・・・まあ、あいつは存在自体が病気と言えるでしょうね。細身で貧弱、血も涙もないし感情も欠如してますから」
香織は言いたい放題に悪口を零す。
「いえ、そうじゃないんです・・・・・・」
「・・・・・・え?」
メイフライは最初にそれだけ言ってついさっき目にした真実をそのまま話す。
「確かに俺はあいつを撃ちました・・・・・・ですが、あいつは全然痛がらず笑っていたんです」
「何ですって・・・・・・!?」
「ゾンビみたいで凄く恐ろしかったです」
「一体どこを撃ったんですか?」
メイフライは銃弾を撃ち込んだ部位を指で突き
「右の肩です。殺さないようにわざと急所を外しました。それでも大きなダメージを与えた事には変わらないはずなんですが・・・・・・」
その時、2人の無線に通信が入る。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.173 )
- 日時: 2019/01/30 21:16
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「"両方共まだ生きてるか?どうやら今回も一筋縄ではいかないようだな"」
と博仁の呑気な口調が聞こえてきた。
「博仁さん、メイフライさんが伊織を撃ったんです!でもあいつは全然・・・・・・!」
香織はメイフライが言った事を今度は校舎の向こうの車両にいる博仁に伝えた。しかし、彼は最初から分かっていたらしく話に横やりを入れる。
「"ああ、銃声は勿論、お前らのバトルは一部始終聞いていた。どんなに狂った奴でもまともに銃弾を受けて泣き叫びすら上げないのは可笑しいと言いたいんだろ?答えは簡単だ。恐らく、あいつは鎮痛作用のある『薬』を体内に取り入れているんだ。そうとしか考えられん"」
「薬って・・・・・・もしかして麻薬!?」
「"だろうな。自慢する気はないが俺は始めから気づいていた。あいつはさっき風の音が妖精の歌声に聞こえると言っていたよな?それは薬の服用した際に出る幻聴だ。ここまで来たら最早完璧なヤク中の域だな"」
「何か策はありませんか?情報を聞き出すまで殺すわけにはいかないし、痛みを感じないとなれば動きを止めるのは難しいかと・・・・・・」
メイフライが悩ましく問いかける。
「"もっとも効率的な方法はやはり腕か脚を負傷させて戦えなくするのがいいだろう。だが、ピストルじゃ効果は薄いな。香織、お前は何のためにショットガンを持って来たんだ?それはお飾りじゃないだろ?"」
そう言われて香織は忘れていたもう1つの武器の存在を思い出した。頭だけを振り向かせ肩から突き出た銃身を見る。
「"まともに喰らえば熊だってくたばる程の威力、しかも軍事利用されてる代物だから性能は期待できる。奴の手足を吹っ飛ばすには最適だ"」
「悪くないアイディアだと思うけど上手く扱える気がしないわ・・・・・・」
香織はネガティブ思考でひとまず刀を鞘に納めた。スワットスリング(銃火器に着けるベルト)を身体から外し銃口を下にして両手で抱える。全く自身が満ち溢れていない表情をしてトリガーに指をかけた。
「"ちなみにお前らは今どこにいるんだ"?」
「ちょうど体育館の前まで来たところよ」
「"体育館か・・・・・・決闘には持って来いの空間だな。よし、じゃあ改めて聞け"」
博仁は冷静に次の作戦を伝える。
「"火炎瓶を投げつけられるんじゃ下手に前には出れないよな?だったら待ち伏せして不意を突くしかない。体育館には部室やスポーツ用品置き場など隠れられる場所ならいくらでもあるはずだ。そこに身を潜めて奴がのこのこやって来るのを待つ。そして十分に引き寄せたら飛び出してズドン!どうだ?"」
「どうだと言われても・・・・・・」
香織はその考えに完全には納得しきれず
「あなたの意見はいつも単純過ぎるのよ。もう少し細かい所も指摘して策を練った方がいいと思うわ」
「では、こんなのはどうです?」
横にいたメイフライが何か閃いたらしく真剣な目で香織に問いかける。
「伊織が体育館にやってきたら俺達で同時に襲い掛かるのはどうでしょう?あいつが持てる火炎瓶の数は恐らく1本だけ、2人まとめて攻撃する事は不可能なはずです」
「なるほど!」
香織はコクコク頷きながら深く感心しその先も理解して続きを口にした。
「1人を狙えばもう1人に対して大きな隙ができる!それがチャンスですね!?それに上手くいけば相手はどっちを狙えばいいか錯乱して抵抗すらままならないかも!?」
「高いリスクがつきますが俺はこの賭けに乗りますよ」
「私も同意見よ。逃げるのはうんざり、姑息で陰湿なあのバカに一泡吹かせてやりましょう」
香織もショットガンをしっかりと握りやる気に溢れた戦意を抱く。考えがまとまった2人は早速行動に移し体育館の中へ走って行った。
遠い昔に朽ち果てた小さな学園でも体育館は広大だった。少し汚れているが床は滑らかさを保っている。天井はドーム状の作りになっていて外れた照明がぶら下がっていた。部活の際に使われたであろうバスケのリングがそのまま残っている。足を踏み入れて右を向けばステージがあった。
「俺はあそこにあるカーテンに身を潜めようと思いますが大丈夫ですか?」
メイフライが先に提案しステージを指差した。香織は迷うことなく頷き
「なら私はステージの反対側にある扉の内側に隠れます」
「いい考えです。そうすれば標的に対して真横からの挟み撃ち可能になりますね」
「決まりですね。早く奴がここに来る前に配置に着きましょう」
2人は行動を開始し背中合わせに足を進める。メイフライはステージの段差を上り敗れたカーテンの影に姿を消した。顔半分を覗かせ体育館の出入り口を見張る。香織は扉に鍵が掛かってないか確かめ少しだけ狭い隙間を開け中に侵入した。
入った扉の先はスポーツ用品の倉庫となっていた。体育の授業に用いられたとされる道具がズラリと並べられ保管されていた。マットや籠に詰められたバレーボール、ハードルや走高跳のバー、綱引きの縄まで置いてあった。香織は扉に背をつけショットガンを強く握りしめる。銃口を天井に向け大きく息を吸いそして吐き出した。訓練で学んだ暗示を自分に言い聞かせプレッシャーを鎮める。
「姿勢は真っ直ぐ、手足に力を入れストックを腕に固定する。そして狙った所を素早く撃つ・・・・・・大丈夫、必ず上手くいく・・・・・・!」
「"そうだ。弾を撃ったら即スライドをコッキングし次弾を装填するんだ。お前が最初の1発を外す方に賭けてるからな。ははは、冗談だ"」
無線から博仁の品のないジョークが聞こえた。
「心強いアドバイスとユーモアをどうも。ところで繰り返し聞くけど外の様子はどう?」
「"こっちの状況か?相変わらず何もない。人が全然現れないんだ。埼玉のど真ん中にこんなにも寂しいエリアがあるなんてな。ただ・・・・・・"」
「ただ?」
香織は最後の発言に耳を傾ける。
「"車内から廃校を眺めているんだが2階から燃え上がる火が確認できる。どうやら炎が広がっているみたいだ。この朽ちた学園が火事に包まれるのは時間の問題かもな。十分に気をつけろよ。この付近に住む住人達もそろそろ異変に気づく頃だろう"」
「その前にあいつを仕留めて脱出してみせるわ。勝つのはこっちよ」
香織には自信満ちた返答を堂々と返した。
「"その意気だ。まあ、熱くなり過ぎずにクールにな?俺はこのまま外を見張ってる"」
「あの・・・・・・博仁さん?」
「"ん?どうした?"」
香織は何を思ったのか急に照れ臭い表情を作り始める。そして少し間を開けて恥ずかしそうに言った。
「えっと、その・・・・・・ありがとう・・・・・・」
唐突な香織の一言に博仁は言葉が詰まった。なんて言い返せばいいのか思いつけない、そんな感じだった。
「"お、お前らしくないな・・・・・・?どういった心境だ?"」
「別に深い意味はないわ。だけどあの時から凄く感謝してる。掟違反のリスクを犯してでも私の復讐を手伝ってくれて・・・・・・メイフライさんや隠れ家にいる愛利花さん達に対しても同じ思いよ?」
「"・・・・・・"」
「こんなにも嬉しさを感じたのは久しぶり、私の人生は散々だったけどようやく花が咲いた気分よ」
「"嬉しいのはお前だけじゃないぞ香織"」
「え?」
博仁はすっきりとした息を吐き出し
「"俺は組織の命令だけに従い金のために働いていた。時に必要とあれば人を殺した。そうやって過ごしている内に理性が壊れ良心さえも死にかけていた。俺がわずかな正気を保っていられたのは仲間がいたからなんだと思う。本当は逃げ出したくなるほど嫌だったんだよ。ただの殺し屋として生きる人生が"」
「・・・・・・」
「"お前が心から愛した親友の無念を晴らしたいと言われた時、消えかけていた俺の人としての心が奥底から溢れ出てきたんだ。やるべき事、辿るべき道を見つけたみたいにな。ほんの少しだがお前のお陰で本当の自分を取り戻せた。だから礼を言わなきゃいけないのはこっちの方かも知れん"」
「博仁さん・・・・・・」
「"香織さん、奴が来ました!"」
話の途中でメイフライから通信が入る。香織は鋭い面持ちで扉の隙間を覗く。彼の知らせ通り体育館の入り口を抜ける伊織の姿が見えた。手にはあらかじめ火が灯された火炎瓶を所持している。奴は香織を探しているのか広い部屋をキョロキョロと見回す。
「いいところで邪魔が入ったな。いよいよ作戦実行か、存分に地獄を味わわせてこい」
「言われなくても最初からそのつもりよ。じゃ、私は任務に集中するわ。それと話を聞いてくれてありがとう」
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