複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.255 )
日時: 2019/08/14 21:59
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「う・・・・・・ううん・・・・・・」

 誰かが目を覚まし、眠気が残った唸りを上げた。目をつぶっているはずなのに、何故か視界が妙に明るい。ゆっくり目蓋を開くと、それは蛍光灯の光である事を知る。同時に自分がベッドの上で仰向けに横たわっているのにも気づく。

「ここは・・・・・・」

 かざした手で眩しさを遮断し、ゆっくりと体を起こす。どれくらい眠っていたのか、全身が異常に怠くズキズキと激しい痛みを感じた。

「いてっ・・・・・・いてて!ここ、隠れ家の病室だよな・・・・・・?何で俺、こんな所で寝てたんだ・・・・・・?確か、東京に行って・・・・・・」

「・・・・・・あっ!し、慎一さん!」

 誰かが慌てて叫んだ。ふいに聞こえた声に驚き、顔から手を退かすと白衣を着たドクターが急いでこちらへ駆け寄って来た。

「慎一さん!意識を取り戻したんですね!?もう目を覚まさないんじゃないかと心配してたんですよ!?今、薬を打ちますので腕を出してくれませんか!?」

 ドクターは実に喜ばしく、注射針のキャップを外した。差し出された腕の血管に消毒を塗り、薬品を注入する。

「体に違和感はありませんか?例えば、手足の感覚がないとか・・・・・・」

「いえ、特には・・・・・・ただ、全身が酷く怠くて、痛みがあります・・・・・・」

「無理もありません。だって、慎一さんは東京で大怪我を負って、ずっと意識不明の重体だったんですから」

「俺はどれくらい、意識を失っていたんですか?」

「3日くらいです」

 慎一は大して慌てた反応はせず、疲労感のあるため息を漏らした。

「そんなに眠っていたのか・・・・・・」

 そして、気紛れにちらっと隣のベッドに視線をやった。ぼさぼさの白い髪を生やした少女が眠っている。既に永眠しているような具合の悪い面持ち、痩せ細った体格に青ざめた肌。その患者からは生きている気配が感じられない。

「こんな人、隠れ家にいたかな・・・・・・?ドクター、この女性の方は・・・・・・?」

 ドクターは"ああ、この人"と最初に言って、哀れな目をしながら少女を見下ろし

「この人は香織さん達が連れて来たんです。何か大事な情報を持っているらしいんですが、重い病気を患っているので現在治療を施しているところです」

「香織さん・・・・・・そうだ!香織さんは!?皆はどこに!?」

 香織の名を聞いた途端、慎一の活気のない態度は豹変した。ベッドから降りようとした彼をドクターが慌てて止める。

「あ、だめです!急に激しく動いちゃ!落ち着いて下さい!香織さんはここにいるから安心して!」

「大丈夫です・・・・・・!もう十分休んだし、行かせてくれませんか・・・・・・!?俺が目を覚ましたと知ったら、きっと香織さん達、驚くだろうな・・・・・・」

「病み上がりの患者を1人で行かせるわけにはいきません!どうしてもと言うなら、私も付き添います!」

「お心遣いありがとうございます・・・・・・本当に大丈夫ですから・・・・・・」


「・・・・・・全く、あんた達といると寿命が縮むばかりよ!」

 メンバーが集まる寝室では完全に機嫌を損ねた愛利花が3人を座らせ、厳しい説教を垂れていた。申し訳なさそうに反省の姿勢を取って横列に並ぶ香織達。後ろでは透子と静流がびくびくとベッドのカーテンから顔を覗かせる。

「復讐をやってる時点で危ない橋を渡っているのに、今度は敵である人間を殺さず隠れ家で匿うわけ!?バッカじゃないの!?嫌々ながら付き合ってるこっちの身になってよ!あんた達の身勝手で透子ちゃんや静流ちゃんにも危険が及ぶのよ!?あんた達にも脳みそがあるなら、もっとリスクというものを考えて!」

「ところがどっこい、今回も何とかバレずに済んだじゃないか。正直、上手くいく可能性には自信がなかったんだが、俺がやると成功しちまうんだよな。流石は俺」

 ふいに本性を曝け出した博仁の頭上に拳が落とされた。続いて罵倒を吐き捨てられる。

「あんたは死ね!ホント、お願いだから死んでくれない!?」

「愛利花さんは間違ってないし、激怒するのも無理はありません。ですが、由利子は楪の情報を知っているらしいんです。真実かどうかは怪しいですか、生かす価値はあったと信じたい」

 メイフライが真面目になって、自身達の行為を弁護し

「まともに会話もできないほど、弱り果てた病人だけどね・・・・・・掟破りの刑罰を覚悟してまで、ここまで運んだんだ。臨終しない事を祈ろう」

 姫川がふざけた態度で皮肉を付け足す。

「ところで、由利子の容態はどう?」

 香織の質問に博仁が答える。

「あの女か?今は病室で眠り姫になってる頃だ。あいつって鬱病だろ?SDS(鬱の程度を客観的に数値化する検査)を行ったら、数値を50を超えていた。具体的に言えば、かなりの重症患者だ。あの女も長い間、死ぬより辛い思いをしてきたんだな。憎むべき奴も流石にここまでくると、哀れが芽生え始める」

「治せるんですか?」

「ああ、ドクターがTMSという磁気治療を施すそうだ。毎日続けていれば、精神病は改善するだろう」

「あんた達!私の話聞いてんの!?」

 愛利花が邪険になって叫んだ時

「「「!!」」」

 がちゃがちゃと取っ手が回り、部屋の扉が開く。部屋にいた全員は自分達の会話を聞きつけ、上官が来たのかとはっとした顔を向けたが、別の意味でその感情を露にした。

「慎一さん・・・・・・?」

 慎一が不安定な体制を引きずり、3日ぶりに自分の寝室に足を踏み入れる。顔を上げ、仲間の姿を視界に入れるとにっと口角を上げた。

「皆さん・・・・・・やっぱり、ここにいたんですね・・・・・・」

「慎一さん!」 「慎一お兄ちゃん!」 「慎一!」

 香織達は歓喜に狂い、我先にと慎一に駆け寄り盛大な歓迎を開く。メイフライが彼の体を支え、透子が脚を力一杯に抱きしめる。

「し、信じられない・・・・・・!まさか、あなたが来るなんて・・・・・・!」

 愛利花が目に涙を滲ませ、慎一の肩を掴む。博仁も鼻を啜り、やや涙声になりながら

「だから言ったろ!?こいつが簡単に死ぬわけねえって!」

「こんな俺なんかの帰りを、ずっと待っていてくれたなんて・・・・・・どうお礼をすればいいか・・・・・・それ以前に、皆さんに心配をおかけした事、お詫びしてもし切れません・・・・・・」

 香織は"気にしないで"と物柔らかな喋りで

「罪悪感なんて、感じる必要はありませんよ。また、慎一さんと生活が共にできるようになって嬉しい限りです。そういえば、忘れてはいけない。あなたに紹介たい人がいるんです」

 そう言って、香織は皆の注目を姫川と静流の方へ集めさせた。2人は前に出て、意識が戻った慎一と対面する。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.256 )
日時: 2019/08/22 21:40
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「僕は姫川。東京で救われて以来、狙撃手としてBJの一員に加わる事になった。末永くよろしく。で、こっちは上条静流ちゃん。わけあって言葉を話せないけど、とてもいい子で透子ちゃんと友達になったんだ」

「お・・・・・・おお・・・・・・しう・・・・・・」

 静流も言葉にならない挨拶を述べる。

「怪我を負ってまで僕達を救ってくれたって博仁から聞いた。ありがとう、命の恩人にやっとお礼が言えたよ」

「俺は大した事はしてません・・・・・・当然の行いをしたまで・・・・・・」

 2人は友好の握手を交わす。慎一は相好を崩すも照れた感情までは抱かず、凛としていた。そんないい雰囲気を間から眺めていた愛利花は顔を逸らし、"似た者同士ね・・・・・・"と心の中で呟く。

「ところで、俺が眠っている間・・・・・・香織さんの復讐に進展はありましたか・・・・・・?」

 慎一は自分が知らない気にかけていた内容を誰でもいいから問いかける。

「ああ、お前が幽体離脱を満喫している間に2人の標的を片付けた。正確には1人を殺して、もう1人を生け捕りにしたと言うべきか」

 質問には博仁が答えた。

「生け捕り・・・・・・?ああ、病室で俺の隣で寝ていた病気の少女が・・・・・・って事はあの女は、香織さんの親友を殺したクラスメイトの1人・・・・・・」

 支える重さに耐えかねたメイフライは、とりあえず慎一を椅子に座らせる。

「あの女は菊田由利子と言って、詩織さんを殺害した黒幕に関する情報を握っています。とある閉鎖病棟で監禁されていたところを俺達が保護しました。そこでも色々あって、死にかけましたけどね・・・・・・」

 と事情説明の後半をわざとらしく言って、隣にいた姫川を睨んだ。姫川はそんな嫌みのこもった素振りを気にも留めず

「ヤクザ女の渚が死に、黒幕の手掛かりを握る由利子を捕らえた。復讐ゲームのルールを破った事を除けば、完璧な勝利と言えるね。でも、肝心の由利子は病に伏せていて、とても尋問できる状態じゃないんでしょ?だったら、彼女が医療処置を受けている間に次の標的を葬る計画を立てるべきだ。今度の奴らも大人しく命を明け渡すとは思えないけど」

 とこれからの作戦会議を促す。

「俺もちょうど、同じ事を言おうとしていた。残りの標的も黒幕を除けばあと4人・・・・・・ようやく半分を切ったところか」

 博仁が言って愛利花が"やっとね・・・・・・"とぼやいた。

「俺達に悠長に休んでいる暇はありません。香織さん、次は誰を殺るか決めてますか?」

 メイフライが聞いて、その場にいた全員が香織の返答を待つ。彼女は迷わず決断を下した。

「『北見 楓』、次はあいつを葬る。存分に苦痛を味わわせてね・・・・・・」

 香織は歯を強く噛みしめ、握った拳を震わせる。今、口にした標的だけは絶対に許さないと、強張った表情がそれを物語っていた。

「うわ、凄い怒り・・・・・・そいつの事、かなり恨んでるみたいだね?」

「当たり前じゃない・・・・・・何故ならあいつは、いじめの主犯格の1人よ!詩織を殺す計画を立てたのも、きっとあいつに違いないわ・・・・・・!」

 姫川は香織の爆発寸前の怒りに恐れをなしたのか、納得しながら、とりあえず後ろへ引き下がった。

「ちなみに、北見 楓って女は具体的にどんな奴だったんですか?最初の話だけでも、かなりの性悪みたいですが?」

メイフライが標的の詳細を聞くと

「あいつは暇さえあれば取り巻きを使って私を襲い、何度もリンチにして・・・・・・!それに飽き足らず、カッターナイフで私の手首を深く切り裂いた!その時の悔しさと痛みは今になっても忘れられない・・・・・・!」

「手首を・・・・・・ナイフで・・・・・・!?」

「・・・・・・有り得ない人格ね。その楓って女、どうして少年刑務所に入れられなかったの?」

慎一がぞっと背筋を凍らせ、愛利花が不愉快なあまり、苦笑を浮かべてしまう。

「最近の子供って、恐ろしい事を平気でやるよね。度が過ぎると言うか・・・・・・僕も昔は酷いいじめに遭っていたけど、そこまで猟奇的な凶行はなかった」

いつも落ち着いた性格を保つ姫川も、流石に苦い顔をせずにはいられなかった。

「それだけ、この世の中が病んでしまってるって事だ。そして、そういう悪意に快感を覚えてしまった者は殺す事でしか治療できない。最早、人間とは呼べない生き物だからな」

「そうね。消えた方が世のためになる奴だっているわ。楓は正にそういう類の人間よ・・・・・・で、今度の戦いの舞台になるのはどこかしら?あいつに関する調べは、とっくについてるのよね?」

 香織が改めて次の復讐に対する気合を見せるが、逆に博仁はあまり乗り気ではない様子だ。

「情報収集は完璧だが、1つ問題があってな。お前がかつてのクラスメイトを殺しまくってる影響で楓は学校に足を運ばなくなった。今では不登校生になり果て、自宅に引きこもり、自分に死の順番が回るのを恐れている。一歩も外出はしてないらしい」

「それのどこが問題なの?家に引きこもってるなら、簡単に殺せるじゃない。向こうもビビってるなら、こっちが断然有利よ」

「それが問題なんだ。楓は名の知れた国会議員の父を持ち、莫大な財産を持っている。住んでる家だって貴族の別荘とも言える豪邸だ。何が言いたいかと言うと、あいつの親は自分の娘を守るため、大勢の警備員を雇い常時見張りをつけている。今や、その豪邸は誰も立ち入れない要塞と化している。今度の敵は渚以上の悪徳令嬢と言えるな」

「なるほど、権力者の娘か・・・・・・だから、重傷害を犯しても年少送りにならなかったんだ。でも、清々しい気分だよね。人の手首を切るサイコビッチをここまでビビらせてるんだから」

 愉快にほくそ笑む姫川のこめかみに愛利花が軽く拳を当てる。

「ざまあみろと思いたくなる気持ちも分かりますが、笑っていられないのも事実です・・・・・・警備が厳重な豪邸にどうやって侵入するか・・・・・・」

 慎一は生真面目になって、もっともな意見を述べる。

「別に侵入なんてしなくてもいいんじゃないかな?僕が狙撃手だって事を忘れた?50口径で頭を吹き飛ばせば、それでクリアじゃん。だってもう、尋問する必要はないんでしょ?」

 今度はメイフライが脇から脚に蹴りを入れる。

「俺は別にそれでも構わんが、肝心の香織は納得できないんじゃないか?」

「ええ、あの女だけは絶対にこの手で殺す・・・・・・!じゃなきゃ、私も詩織も浮かばれないわ・・・・・・!」

「憎しみはその日が来るまでとっておけ。心配するな。今まで通り、きっと今回も上手くいくさ。シールドチーム随一の俺に任せてくれ。明日までに最高の策を練ってやるから楽しみにしていろ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.257 )
日時: 2019/10/16 20:36
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 消灯時間が過ぎた頃、香織は1人、居住区の外にいた。冷たい手すりに腕を預け、特に意味もなく下階を眺めている。後ろ向きな事を考えているのだろうか?落ち込んだみたいに俯いたその表情はどこか切ない。

 ふいに背筋に寒気を感じた。霧に触れた感触に似た涼しい感覚。漂う空気が書き換えられ、全身いそわそわと違和感を覚え始める。どこから現れたのか、背後には人の気配がしない男が、いつの間にか立ち尽くしていた。

「そろそろ、現れる頃だと思っていたわ」

 香織は振り返らず、男に声をかけた。

「久しぶりだな。我が友よ・・・・・・」

 ファントムは短い挨拶を済ませ、ゆっくりと歩み寄ると香織の横に並び、同じ姿勢を取る。不気味な笑みを送ったが、彼女はこちらに視線をよこさなかった。

「私が考案した復讐ゲームは順調に進んでいるようだな。かけがえのない親友を殺した標的の残りは半分、次はどんな血濡れの芸術を描くものか、非常に楽しみだ。しかし、あろうことかお前は由利子の命を絶たず生かす道を選んだ。私はそんな選択肢を与えた覚えはない。いささか失望してしまったぞ?」

 ファントムの声は半分は狂喜、半分は脅迫にも聞き取れた。香織は動揺の兆しすらなく、淡々とした理由を述べる。

「好きで殺さなかったわけじゃないわ。由利子は詩織を殺した張本人の手掛かりを握っている。知りたい情報を洗い浚い吐かせたら、今までの奴ら同様、始末するつもりよ」

「そうでなくては困る。あの女の別れ際にわざわざ死の宣告をした格好がつかないのでな」

 ようやく、香織がちらっと隣に視線を移した。その緩みのない目つきには疑いを映しているようにも見える。

「あの病院で危うく命を落としかけたわ。襲って来た化け物は一体何だったの?由利子は監視者だと言っていたけど?まさか、あれはあなたが仕組んだギミックじゃないわよね?」

 ファントムは実に愉快だと言いたそうに気味の悪い作り笑いを吹き出し

「私がそんな意地悪な存在に見えるのか?自分が選んだゲームの主人公の殺害を自分で図ったとでも?少しは冗談が器用になったものだな」

「じゃあ、あのゾンビの群れはどう説明するのよ?」

 香織は信用を抱かず、不機嫌な面持ちを保つ。

「あんな非現実的な経験を味わった直後なのだ。気になって仕方ないのも無理はない。お前が疑っている通り、奴らが何者なのかは知っている・・・・・・が、私は関係していない。まあ、詳しい事は最後に話すとしよう。まずはお前に2つ、土産を持って来た」

「お土産?」

「情報と道具だ。先に欲しいのがどっちだ?」

 香織は視線を逸らすと再び下階を眺め、最初に情報を要求した。

「情報の方からお願いするわ」

「いいだろう。一時は生かすと決めた由利子だが、お前達が睨んでいる通り、事件の黒幕の正体や秘密を知っている。あの女は奴と深く関りを築いていた。容態が回復したら、色々と話を聞いてみるのだな」

「そんなのとっくに分かってるわよ。ぱっとしない情報ね。道具については?」

 まんまと糠喜びさせられた香織は文句を零し、もう1つの土産の件を促す。しかし、ファントムは何も教えず、ポケットからじゃらじゃらと音を鳴らし、何かを取り出した。錆びついたネックレスチェーンに繋がれた古い鍵だ。緑の宝石が埋め込まれ、禍々しい妖気を帯びている。香織はその異様なオーラに魅了され、鍵を凝視した。

「復讐を果たしたいと願うなら、これが必ず必要になる。手に入れるのに、いささか骨を折ったがな」

「一体、何の鍵?どこで使うの?」

「真実をばらしてしまっては面白くない。使い道は自力で探し出すといい。安心しろ。その鍵がいずれ、導いてくれるはずだ」

 相変わらず、ファントムは偏屈に勿体ぶり、詳細を告げるつもりはなかった。鍵を受け取った香織は曲がった人格に呆れ果て、彼を蔑んだ。

「いらないプレゼントをありがとう。さて、改めてさっきの話を聞かせて?これだけは打ち明けてもらうわよ?」

「随分と知りたがりなのだな。好奇心がある少女は嫌いではなない。もっと早くに伝えておくべきだと思っていたが、今にでも遅くはないな。これはお前がこの先、無様な最期を迎えないための重要な内容だ。覚悟して聞け」

「・・・・・・」

「この復讐ゲームはただの人間狩りではない。裏の世界すら結びつける大規模な殺し合いだ」

 香織は首を傾げ、その意味を問う。

「お前達が殺そうとしているクラスメイトの背後には本人達にとっても、ほとんど知られていない『人ならざる存在』が潜んでいる。その『第三勢力』が親友を死に追いやった黒幕の真の正体だ」

「・・・・・・どういう事?詩織を殺した奴らが楪以外にもいて・・・・・・しかも、そいつらは人間じゃないって事?」

 眉をひそめる彼女にファントムは淡々と話の続きを改める。

「事件に加担したクラスメイトは単純に言えば、捨て駒だ。お前程度の排除になら事足りる理由で、黒幕等に利用されていたに過ぎない。いつかの日に話した事を覚えていると思うが、今までの復讐の対象としていた女子を葬る度に、亡き親友の姿を象った謎めいた少女もその1人だ」

 彼の不気味で妖々しい紫色の目は、今まで以上に真剣な思いを映していた。これから起きる良からぬ前触れを訴えている・・・・・・そのようにも感じられる。芝居がかった喋りをし、狂気や絶望を芸術視していた普段の彼とは違う。いつもと異なる、らしくない雰囲気が余計に胸の不安を誘った。

「珍しいわね。こんなにも生真面目に振る舞うあなたは始めて。このゲームの裏では余程、深い闇が渦巻いているのね。あなたの助言は曖昧で偽りにしか捉えられない証言ばかりだけど、嘘なんて一度たりともつかなかった。認めるのは恐ろしいけど、きっと今回も事実を述べている・・・・・・じゃあ、病院にいたあの化け物の群れは・・・・・・?」

「第三者が造り出した魔物達だ。正確には造魔と呼ぶべきか・・・・・・病院の患者達を殺害し、邪悪な血と呪いを植え付けては操り人形に仕立て、由利子を監視していた。彼女の見舞いはスリルに溢れた命懸けのプライベートだったな」

 ファントムは病院の全貌を語り、鼻で一息を入れた。

「私はとんでもない奴らを敵に回していたのね・・・・・・そうとは知らないで、あなたのゲームに乗った・・・・・・」

「そういう事だ。奴らはお前による復讐の魔の手が自分達に迫っている事をとっくに熟知している。時が来れば、その姿を露にするだろう。十分に気をつけろ。ただの人間がまともに太刀打ちできる相手ではないのだからな」

「太刀打ちできないって・・・・・・だったら、奴らにどうやって対抗すればいいの?」

「確かに普通に戦っては勝ち目はない。だからこそ、その鍵が封じ込めている秘密を探すのだ。そうすれば、奴らに対抗できる術を手に入れられるだろう」

 鍵についての追及は諦め、香織は別にこれで何度目かの質問を重ねる。

「例え、膝まづいてもネタばらしはしてくれないだろうから、鍵穴は自分で探すわ」

「さて、ここにいても退屈で埃の臭いが衣服に染み込むだけ・・・・・・すまないが、私はそろそろ失礼させてもらう。香織、私の好意に応えぬまま、命を落とすんじゃないぞ?さらばだ。また会える日の訪れを心から願っている」

 ファントムは肝心の質問を無視し、再び背を向けるとその身を黒く散らし、今度こそ姿形もなくなった。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.258 )
日時: 2019/09/17 19:10
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 暗雲に覆われた夜風が涼しい深夜。街の景色が一望できる高い鉄塔の上に2つの人影があった。雲の裂け目から差し込んだ月の光に照らされながら、双眼鏡とライフルのスコープを覗く。暗視機能が付いたレンズは遠くを見通し、一軒の豪邸を眺める。

 洒落た造りの玄関には武装した警備隊が警備に当たり、門の内側にも同じ格好をした人間が巡回していた。庭、玄関付近には場にそぐわない監視塔が設置され、隊員がサーチライトで周辺を照らしている。例えるなら、小さな要塞だ。屋敷は灯りが点いているが、住人らしき影は現れない。

「かなり厳重な警戒網だね。僕が友達と暮らしていた家も、こんな秘密基地だったらよかったのに」

 スコープの倍率を調節しながら、姫川が理想的な想像を浮かべる。

「同意できん。俺だったら、あんな武装拠点みたいな家になんて住みたくはない。それ以前に金持ち自体が好きになれん」

「え?博仁って金持ちが嫌いなの?てっきり、君はそういうものに憧れるタイプだと思ってたんだけど・・・・・・意外だなぁ」

「冗談じゃない。俺は金や権力がこの世で1番嫌いだ。あんな物は純粋な人間を最低なクズに変えるからな・・・・・・そんな事より今の仕事に集中しろ。お前は見張りの数をどれくらい把握した?」

「僕が見た限りじゃ、正面玄関に2人。3つの監視塔に1人ずつ、中庭に6人かな?奴らの装備はオートマチック拳銃に警棒、ボディーアーマーに防弾ヘルメット。間違いじゃなければ、大口径をも防げる分厚い代物だね。標的が立てこもってるだろう豪邸の窓は全てカーテンで覆われているから、中に何人の敵がいるかまでは把握できない・・・・・・説明はこれでいい?」

 姫川は独自にマークした機動隊の人数を数え、ついでに彼らの武装についても詳しく隣の観測手に教える。

「俺の偵察結果と同じだな・・・・・・にしても、重武装のポリ公を雇い、全体の窓を遮断しているか・・・・・・奴も相当、精神に痛手を負っているらしい。共犯が次々と手にかけられ、いつ自分に復讐の矛先を向けられるか知る由もないから当然か・・・・・・今回の敵が陣を構えるのも、こっちとしては想定範囲内だ。とうとう死神がお前の命を狩りに来た事を教えてやる。姫川、50口径をぶっ放す用意は整ったか?」

「とっくにできてるよ。誰から殺ってほしい?」

「・・・・・・だそうだ。おい、下にいるチーム。聞こえるか?」

 鉄塔の真下の丘に香織とメイフライが待機していた。闇夜の茂みに潜み、草木の間から屋敷の様子を窺う。2人はサイレンサーが装着されたマリアと9mm自動拳銃を手にしている。メイフライはいつもと異なり、頭に暗視ゴーグルを身に着け、上半身をアーマーで固めていた。

「聞こえてるわよ。こっちもいつでも行けるわ」

 香織がバトルスーツの襟に口を寄せ、無線越しに返事を返した。

「"作戦は覚えているな?俺の指示に従って動くんだ。まず、お前らは豪邸の玄関付近に移動してくれ。無論、隠密にな?姿を晒してしまえばそれまでだ"」

「了解よ。行きましょう。メイフライさん」

 香織とメイフライは銃の再確認を済ませ、丘を下っていく。ふもとの歩道に距離を縮めると途中で道を外れ、再び茂みの中に身を潜めた。生い茂る草木に紛れてはサーチライトの光を避け、豪邸の門に迫る。出入り口を見張る警備員は2人の存在に気づいていない。

「"配置についたわ"」

「よし、次の指示が出るまで待て。姫川、出番だ」

「了解、任せて」

 姫川は気が緩んだ表情を鋭く一変させ、ライフルのグリップを強く握った。深く鼻で息を吸い、呼吸を止める。

「まずは監視塔の見張りを片付ける。12時の方向、距離は200メートル。最奥の中庭だ」

 博仁が指定したターゲットに姫川が狙いを定めた。倍率を上げたスコープの標準は警備員の胸部に重なる。

「撃て」

 風が止んだタイミングに合わせ、引き金を引いた。遠くまで届かない乾いた銃声が鳴り響く。50口径の弾丸は音速の速さで、ターゲットに命中する。警備員は身に着けていた防具を貫かれ、胴体が肉片となり弾けた。吐血した頭が転がって下半身が横たわり、赤い水溜りが溜まる。空を向いたサーチライトには関節から千切れた腕がぶら下がっていた。

「ん?どうした?」

 別の監視塔が異変に気づき、確かめようとライトを向けた瞬間、ひゅんと風の音が過り、頭部と胸元が破裂した。手前の監視塔にいた見張りも同じように体半分を吹き飛ばされ、体液を派手にぶちまける。

「クリア、監視塔は制圧したよ」

 姫川はふう・・・・・・息を吐き、口角を上げる。一旦は集中力を断ち切り、頬に伝った汗を拭う。

「"よし、次はお前らが出入り口を制圧しろ"」

「メイフライさんは左をお願い、私は右側を」

「分かりました」

 香織とメイフライは互いに頷くと、茂みから飛び出し、銃口を構える。引き金がカチンと音を立て、反動と共にスライドが前後に動く。警備員は急襲に抵抗の兆しすら出せぬまま、ヘルメットごと額を撃ち抜かれた。崩れた死体の後ろには、血痕がべったりと付着する。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.259 )
日時: 2019/09/29 22:02
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「こっちもクリアよ」

 香織は銃口を地面に下ろし、作戦の成功を知らせる。メイフライがまだ、多くの残弾が込められた銃を眺め

「防弾性の物をいとも容易く貫通するなんて・・・・・・『徹甲弾』の威力は凄いですね」

「金持ちの警備となれば、防弾着に身を包んだ警備が配置されるだろうからな。俺の推理はいつも当たるんだ。じゃあ、次は豪邸の敷地に侵入しろ。門の鍵は最新式の電子ロック式に電子ロックになってるはずだ。詩織のスマホを使え?それでセキュリティシステムをハッキングしろ」

 香織はスマホを手に、ハッキングモジュールをツールから選択し、指紋認証のスキャナーにかざす。1分も経たずに暗号プログラムが解読され、施錠は解除された。

「"鍵を開けたわ"」

「まだ中に入るな。警備員が庭を巡回している。機会が来たら合図を送る」

 博仁は双眼鏡で警備員の行動ルートを目で追った。門に背を向け、遠ざかるタイミングを見計らう。

「"今だ。行け"」

 香織とメイフライは静かに門を開き、敷地内へと入り込む。あらゆる方向に銃を向け、辺りを警戒しながら壁際にある植木の裏に背を預けた。顔半分を覗かせ、豪邸と庭を交互に見る。

「"侵入したわ。庭の植木に隠れてる。壁際だから死角になってると思うけど"」

「庭にいる見張りは4人、奴らの仲間は豪邸内にもいるな」

 博仁が誰にでも当てられそうな予想をする。

「どうする?中の様子が分からない以上、狙撃は不可能だ」

 姫川も手も足も出ない状況に舌打ちした。

「いや、あながち不可能ではないな。一か八か試してみるか」

「何かいい方法でも思いついた?」

「姫川、豪邸の裏にある『配電盤』が見えるか?」

 姫川は言われた位置にスコープの向きを合わせた。確かに、そこには小さなや小屋くらいの大きさの電気を供給する装置が設置されている。

「あれを撃ってくれ。豪邸そのものを停電させるんだ」

「停電?何のために?」

「いいから言われた通りにしろ」

 姫川は返事を返さず、再び息を止めると引き金に指をかける。ブレを安定させ、1発だけ発砲した。狙った場所に弾は命中する。装置の大部分を破壊された配電盤は電流を放出し、火花と共に燃え上がった。配線が断たれた事で豪邸内の灯りがショートし、一帯が暗闇に包まれる。

 香織はエディスの仮面を身に着け、頭の中で暗視と唱える。メイフライもナイトビジョンのゴーグルを目先に取り付けて電源を入れる。

「ん?どうした?・・・・・・何故、灯りが消えた・・・・・・!?」

 突然の停電に庭の警備員達は異変が起きた豪邸に釘付けになっている様がはっきりと映る。玄関の扉が開き、暗闇から更に数人の警備員が慌てて出て来た。

「おい!明かりが消えたぞ!どうなってるんだ!?」

「俺が知るわけねーだろ!?」

「配電盤が故障したんじゃないのか?」

 想定範囲外の異常事態に慌てふためく警備員達。その様子を暗闇と遠くの高台から、目を光らせている人間がいる事を彼らは知る由もなかった。

「"いいか?姫川が先に撃つ。最初の1発を合図に全員を排除しろ"」

 博仁が命令を下す。

「くそっ・・・・・・勘弁してほしいぜ・・・・・・」

「全くだ!怒られんのはいつも俺たぶきゅっ・・・・・・!」

 愚痴を零そうとした警備員の台詞が途中で途切れる。目の前にいたはずの仲間の姿は消え、同時にヘルメットのガラスに赤い液体と肉片がべったりと付着した。訳が分からない本人も一瞬の頭痛を感じた直後、意識を失う。短い痛手の声とばたばたと地面に加わる音がリズミカルに幾度か続いた。

「・・・・・・うわっ!?・・・・・・ど、どうした?」

 倒れた仲間の体をとっさに抱き留める警備員。しかし、声をかけても返事はなく、手に生温い感触が伝わった。まさかと思いおそるおそる確かめると、それが紛れもない血だと分かり、背筋を凍らせる。

「一体、何が起きて・・・・・・?」

 それが彼の最期の遺言となった。直後にこめかみから血を吹き出し、屍は屍を抱いて倒れる。

「「「クリア」」」

 武器を手にした3人は口を揃える。双眼鏡を顔から遠ざけ、博仁の表情も和らいだ。

「砦は崩れたな。後は城に攻め入るだけだ」

「停電させて屋内の敵を誘き出す作戦なんて、僕には到底思いつけない。博仁は発想の天才だね」

 姫川の素直な尊敬に、博仁は照れずにふっと笑って

「銃で撃ち合うだけが戦争じゃない。むしろ、頭脳戦こそが戦いの本筋と言える」

 と得意気に力説を語った。

「これでようやく、楓との決着が着けられるわね。詩織を殺し、私の手首を斬った落とし前をつけてやる・・・・・・!」

「俺達は豪邸内に侵入します。こっちに何かありましたら、すぐに知らせますので」

 メイフライは高台のチームにそう告げると、2人は残り僅かとなった銃の弾倉を交換する。

「了解だ。だが、くれぐれも警戒を絶やすな。見張りは一掃したつもりだが、まだ内側に残党が潜んでいるかも知れん。こっちはいつでも、援護できる状態を保っておく。気をつけろよ?」


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