複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.184 )
- 日時: 2019/12/22 09:31
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
そこへ香織がやって来た。広く寂しげなホールを見上げ次に鳴り響くピアノを見る。すぐに中で待っていた2人の後ろ姿が視界に映る。香織は席にいる偽物の親友をじっと睨んだ。詩織に似た少女も同じ眼差しをする。彼女はそっと口を開き隣の席を右手で叩く。
「隣、座って。何もしないから・・・・・・」
香織は何も答えず指示に従った。恐れる動作もせず淡々と歩み寄って言われた席に腰を下ろす。相手に襲ってくる気配はなく寂しげな雰囲気を放っているだけ。香織はちらっと少女を様子を窺いすぐさま目を逸らした。2人は何も喋らず伊織の演奏を聴き始める。
まるで壊れた蓄音機のようだ。いつまで経っても終わりは訪れない。変わらない曲、メロディーが幾度となく繰り返される。
「いい曲だね?」
結構な時間が流れやっと少女が口を開く。相変わらずピアノから視線を離さず永遠と弾き続ける演奏者を眺めていた。香織も同じくそうしていた。
「どこまでも深い負の連鎖の表現、私は嫌いじゃないよ」
「腕は確かだけど私は好きになれない」
香織は隣に座る少女とは真逆の感想を述べた。
「この曲には美しさの欠片もない。芸術性もなく素晴らしいとはお世辞にも言えないわ。伊織はこんな風にピアノを弾く子じゃなかった。本来の彼女ならもっと・・・・・・」
「香織ちゃんのせいだよ・・・・・・」
少女は話の途中でぼそっと横やりを入れた。
「香織ちゃんが殺したからこの子は絶望に狂ってしまった。だからこんな暗い曲しか弾けなくなった」
「明らかにそれが原因でしょうね・・・・・・罪悪感は湧かないけど」
香織は皮肉めいた口調で言い返す。反省の色がない態度に少女は静かに怒りを露にした。
「香織ちゃんは自分の立場が分かっているの?あなたはもう、2人の人間の命を奪っているんだよ?それがどれほど罪深い事なのか考えなよ」
「あなたの言う通り私は大きな過ちを犯している。だけどあいつらだって金のために詩織を殺してその罪を私に擦り付けた。向こうにだってこっちを責める資格などない。お互い様よ」
「最低だよ・・・・・・香織ちゃん・・・・・・」
「今更あなたに何を言われようと構わない。だって、あなたは詩織ではないのだから」
「・・・・・・」
失望したのか少女は沈黙する。これで何度目か分からない間奏が流れ過ぎて行った。
「そもそも、あなたはいったい何者なの?どうして詩織を装っているの?本当に現実の世界に存在するの?」
容赦なく香織が問いかける。
「私は・・・・・・」
少女が何かを言おうとした途端、コンサートホールに音色ではない騒音が一瞬鳴り響き、高い天井に木霊する。やがて音は小さくなり静寂だけが残った。観客席の2人は何が起こったかを理解するのに数秒掛かった。伊織が握った拳を思いきり鍵盤に叩きつけたのだ。
「伊織・・・・・・ちゃん・・・・・・?」
少女は途切れそうな声で伊織の名を口にした。彼女は椅子から立ち上がりそして、自らの手で楽譜を破り足元に投げ捨てる。
「違う・・・・・・私は・・・・・・こんなのが弾きたいんじゃない・・・・・・!私は・・・・・・!私は・・・・・・!」
伊織は涙ぐんで観客席を振り返る。睨んだ先に香織がいた。
「私はピアノが弾けるだけで幸せだった・・・・・・!他の皆に聴いてもらえるだけで・・・・・・!」
流れ出た一粒の涙は赤く染まり血涙として頬を伝った。かつて銃で吹き飛ばされた部位もどろどろに黒く溶け始めていた。
「でも、私は死んじゃった・・・・・・愛の夢も子犬のワルツも月の光も二度と奏でられない・・・・・・香織、全部お前のせいだっ!!」
伊織は椅子を蹴飛ばし香織を怒鳴りつけた。
「お前さえいなければもっともっともっともっとっ!!ピアノを弾く事が出来たっ!!私の芸術に溢れた人生はお前みたいなくだらない一生よりもずっと価値があったのにそれを平然と奪ったんだっ!!」
これがこの女の心に潜んでいた本心なのだろう。普段の冷静で大人しい面影は見当たらず絶望を吐き散らすだけの怨霊と化していた。死んでも変わらない呆れた言い分だったが、香織は何も言い返せなかった。
「殺してやる・・・・・・香織、今ここでっ・・・・・・!!」
伊織が殺意を剥き出しにし自分を殺した相手に襲い掛かろうとした時、真上でブチッ!とロープが千切れる音がした。
「危ないっ!」
香織が反射的に叫んだが、手遅れだった。天井に吊り下げられた照明が瞬く間に真下へと垂直落下した。巨大で重いシャンデリアは狂った演奏者をピアノごと押し潰す。衝撃で割れたガラス細工が砕け散り大量の破片が八方へ飛び散った。鼓膜に痛感を与える轟音が止んだと同時に埃の波が押し寄せる。
「・・・・・・げほっ!」
香織は破片の直撃を防ぐため覆っていた腕をずらし事故があった場所を覗いた。ピアノは修理が不可能なくらい酷く破損し原形を留めていなかった。コーティングが削ぎ落され丸見えになった木材に散らばった鍵盤、もう二度と音を発する事はないだろう。
すぐ傍に下半身が下敷きとなった伊織の死体があった。あれだけ発狂していた事がまるで嘘だったかのように指先一つ動かない。誰がどう判断しても即死、絶望のレクイエムを最後に永遠の眠りについたようだ。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.185 )
- 日時: 2019/12/22 09:36
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「こんなの酷過ぎるよ・・・・・・」
悲惨な光景を目の当たりにして少女が静かに言った。彼女は同じように立ち尽くす香織を睨んで
「これでもまだ、自分は悪くないと言えるの?」
「・・・・・・」
香織は沈黙する。
「これだけの悲劇を見ても尚、何も感じないなら香織ちゃんは人間じゃないよ」
「・・・・・・」
「あなたもう、ただの鬼畜。それ以外の何者でもない」
「・・・・・・そうよ」
香織はそっと口を開き隣にいる少女を睨み返した。
「私はかつての人生を奪われ仮面を貰った時から『まとも』を捨てた。そしてずっと、親友の仇を討つためだけにこれまで生きてきた。後戻りのできない第二の人生に足を踏み入れてね。今更、後悔なんか・・・・・・それだけが私の生きる理由だから。これから先も復讐をやめる気はない。最後の標的を葬るまで私は鬼畜であり続ける」
「そう・・・・・・なんだ・・・・・・」
少女は力の抜けた声で悲しそうに下を向いた。銀色の鋭い前髪が影となり赤い瞳を覆い隠す。何を思ったのか彼女は右手の拳を上げそれをゆっくりと開いた。すると手の平に黒い霧が集まり徐々に形が構築されていく。それは自分の身長よりも長い漆黒の剣だった。
「それで私を殺す気なの?」
香織は表情を変えず平然とした口調で言った。
「私はあなたを許さない・・・・・・」
「許さなくて結構よ。詩織と似ているだけでどこの誰なのかも分からないあなたに何を言われても別に気にしないわ。いくら脅されてもここは夢の世界、恐がると思う?」
恐れをなしてない様子で淡々と返事を返す。
「・・・・・・」
「どうしたの?今の私は無防備、しかも隣にいる。命を奪うなんて簡単な事でしょ?」
少女は黙ったままゆっくりと剣を振り上げる。だが、黒い刀身が振り下ろされる事はなかった。少女はどうでもよさそうな顔をして斬撃を中止する。剣先を下に下ろすとアーチの形に地面をなぞった。
「ここで香織ちゃんを殺してもつまらない。あなたの心臓は現実の世界で貰う事にするわ」
「本当にそこで会えればいいわね。その時は改めて初めましてと言っておくわ。実に退屈な一時だった」
香織はそれをさよなら代わりに城の外へ去って行った。修羅場の果てに滅茶苦茶になったコンサートホール。壊れて静寂になった空間に1人の少女と1つの死体が取り残された。
「あいつとの再会が済んだから、もうここには用はない。目を覚ましたらまた別の地獄ね・・・・・・」
香織は現実で待ち受ける展開に嫌がった愚痴を零した。虚無の空気を吸って吐き出し軽い運動をする。そして価値のなさそうな世界を見渡して他には特に何もしなかった。
「!」
地震のような揺れと音が始まった。振り返ると香織が出たばかりの城がばらばらに崩れ落ちていく。どうやら虚無の世界が崩壊する時が来たようだ。香織が踏んでいる岩の道にもひびが入って通路は断たれた。もう下へ落ちるのを待つだけの状態だ。
「また落ちるの?こういうのは最初の時だけで勘弁してほしかったわ・・・・・・」
足場が砕け香織は背中を下に永遠よりも深い闇へと堕ちていった・・・・・・
気がつくと香織は仰向けに横たわっていた。さっきまであった無の感覚は消え黴臭い臭い空気が漂う。外ではない狭い空間の中で他の誰かの気配を感じた。胸から下が何かが被さっていて心地よく温かい。それが何を意味しているのか香織は理解した。
「どうやら、元の世界に戻って来たみたいね・・・・・・」
安心して目を開けると布団から出てカーテンをずらした。部屋は薄暗く仲間達の寝息が辺りから聞こえる。どうやら朝の訪れはまだ先のようだ。
香織はベッドから足を出し靴を履いた。外の空気を吸いたかったがすぐにはそうせず部屋の奥の方へ行った。下にある別のベッドを覗きメイフライの容態を確かめる。彼は気持ちよさそうな寝顔を作って熟睡している。あれだけの怪我を負った事が嘘のように。
「よかった・・・・・・大丈夫そうね・・・・・・」
香織はにっこりと微笑んでそっとしておく。まわりを起こさないよう足音を立てず静かに廊下に出た。
居住区の外はいつも涼しくひんやりとしている。灯りがなくここにいると朝と夜の区別がつかなくなる程だ。不気味や寂しげを絵に描いたような空間。だが、1人になりたい香織にとっては都合のいい憩いの場だった。
「はあ〜・・・・・・」
香織は何も考えず手すりに手を乗せ寄りかかる。考えるのをやめ頭を空にし理由もなく黄昏れた。そのままじっとして心を落ち着かせる。
「随分と早起きだな。眠れないのか?」
すぐ隣で男の声がした。香織はビクッと身体を震わせとっさに横を向く。偉そうに腕を組む博仁が立っていた。
「博仁さん・・・・・・あなたも起きてたの?」
「ああ、最近は夜中に起きる事が多くてな。カフェインの摂り過ぎかもな」
博仁は香織に並び同じ姿勢を取った。
「お前がこの組織に来て3ヶ月近くになるな。ここでの生活には慣れたか?」
「何よ急に?」
「ふっ、何となくな」
「・・・・・・まあ、大分慣れたわ。まだまだ分からない事がいっぱいあるけど」
「そうか・・・・・・」
博仁はそれだけ言うと沈黙し、言葉を途切れさせる。話したい気分じゃない香織もそうした。
「すぐにでも3人目を葬る気か?」
2分くらい経ったところで博仁が会話を再開した。
「お前がその気ならいつでもバンを出してやるぞ?」
「そうしたいけどそうはしない」
香織は頭を振り否定する。
「私は伊織との戦いで自分がまだ未熟だと思い知らされた。次の復讐はもっと戦いの術を学んでからにするわ」
「確かに、その判断は利口だ。メイフライに頼っているうちは素人を卒業する事は難しいからな」
「必ず1人でも戦えるように努力するわ」
「だが忘れるなよ?お前には味方がたくさんいるんだ。決して1人で問題を抱え込むな。分かったな?」
「覚えておくわ」
言いたい事を言った博仁はあくびをし、じゃあなと言って立ち去る。広い空間に彼の足音だけが聞こえやがて静かになった。香織も涼しい風の影響で再び眠気に誘われる。十分な睡眠を取るため寝室へ戻った。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.186 )
- 日時: 2019/12/22 10:00
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
2週間後・・・・・・
2人目の標的を葬ってから数週間があっという間に流れた。廃校での出来事はすぐにニュースとなり全国に報道された。全焼を免れた体育館で1人の遺体が発見されたが肉体の損傷があまりにも激しかったため身元を特定する事はできなかった。現場からいくつの薬莢が発見された事から警察は暴力団が絡んだ事件と見て現在も捜査を続けている。
また、近所に住む住人によると校内からピアノの音が聞こえるという証言も多数得られた事から幽霊がいると噂され、一部の人間からは心霊スポットとして話題となるのだった。
「凄い話題になってるわね」
香織は最近のネットニュースを眺めながら廊下を歩いていた。自身が世間を騒がせた事に未だに信じられず申し訳さない気持ちにかられる。開いたサイトを閉じると詩織のスマホをポケットにしまう。今のところ復讐計画は順調。組織にバレる事なく普段通りの生活を送っていた。愛利花や博仁も十分に気をつけているため幹部達にも怪しまれずに済んでいる。負傷したメイフライもまだ痛みは残っているものの普通に歩けるくらいに回復していた。食事の後は再び訓練場に顔を出ししっかりと鍛えている。
香織が最後に到着しガレージにメンバー全員が集まった。バンの整備もとっくに終え装備も全て積み込まれている。外の世界へ出発する準備はいつでも整っていた。今日が三度目の戦いの当日である。
「主役が来たな。じゃあ乗れ。出発するぞ」
運転席から博仁が顔を出し乗車を促す。香織は行ってきますを一言に早々とバンに乗り込んだ。
「待って!」
愛利花が後に続こうとしたメイフライの腕を掴み呼び止める。
「あなた、その身体で本当に行くつもり?全治2ヶ月なのよ?」
「心配してくれてどうも、もうすっかり良くなりましたよ。ほら、この通りです。それに香織さんの戦いは俺の戦いでもあります。仲間が命を懸けるって時にのんびりと寝てるわけにはいきませんから」
身体を大きく動かし余裕さをアピールする。愛梨花は心配が絶えず困り果てていたが苦渋の決断のように頷き
「・・・・・・痛みが酷くなったら、すぐにモルヒネを打ちなさい。いいわね?」
「分かってます。決して無理はしませんから」
「お兄ちゃん、死なないでね?」
透子も泣きそうな面持ちでメイフライを見上げていた。
「大丈夫だよ。透子ちゃんがいる限り、俺は絶対に死なない」
優しい笑顔で幼い少女の頭を撫でる。
「それじゃ行ってきます」
手を振る皆に別れを告げメイフライもバンに乗り込んだ。バックドアは閉ざされ車のエンジンがかかると同時にゲートが開く。博仁が後ろの席に確認を取りアクセルを踏む。バンはタイヤを回転させ飛び出すように隠れ家を抜け出した。いつもの獣道の上をガタガタと音を立て進んでいく。
「どうか彼らが無事に帰って来ますように・・・・・・」
愛利花が誰にも聞こえない声で祈りを唱える。残った3人は見えなくなるまで車両をずっと見送っていた。
獣道を出てバンは平らな道路に出る。さっきまで酷かった揺れは治まり滑らかな走りとなった。このまま山道をスムーズに下り街へと走り続ける。昼間から数時間が経過し今は夕方の時間帯。青かった空も色が変わり夜の訪れももうすぐやって来るだろう。オレンジに染まり始めた太陽の日差しが木々の隙間から流れ込んでくる。
2人は早くも戦う準備を整える。装備品が詰まったケースを取り出し蓋を開けた。香織は銃器に弾を込めいつでも撃てる状態のショットガンとハンドガンを横に置く。次は着ていた私服を脱ぎ捨て戦闘服を装着、レザーアーマーを部位に取りつける。最後は刀を取り出し全ての武器を装備しモルヒネも入れた。
「こっちの準備は整いました。香織さんは?」
短刀を腰に忍ばせ、メイフライが聞いた。
「ええ、こっちも全部終わりました。ですが・・・・・・」
張り切るメイフライに対し香織は元気のない暗い表情で
「メイフライさん、本当に大丈夫なんですか?怪我はほとんど治っているとはいえまだ2週間しか経ってないんですよ?無理に戦ったら傷口が開いてしまうんじゃ?」
「心配には及びません。破片がめり込んだ所は愛利花さんがきっちりと縫い付けてくれましたから。
それに火傷なんて消毒と軟膏を塗っていれば自然に治ります。俺はもう健康体です」
「でも、これは私の戦い・・・・・・自分が傷つき勝たなければ意味がない・・・・・・なのに、私のせいであなたに生死を彷徨う思いをさせてしまった。1人では生き残れない無力な女よ」
香織は仲間を危険に晒した事に罪の意識を抱く。あの時の失敗をまだ根に持っているらしく許せない自分を責め立てる。彼女はこれから先の自信が持てない程、深く落ち込んでいた。
「それは違いますよ」
その時、メイフライは目の前にいる相手にはっきりと言った。
「あれは誰にも予測できなかったトラップです。超能力者でもない限り感づく事は不可能だったと思います。俺は仲間が危険だったから自分から助けに走った。ただそれだけの事、だから申し訳ないとか気を病む必要はこれっぽっちもありませんよ」
「・・・・・・」
「それに香織さんは零花を殺した時だって自分の実力だけで勝つ事ができた。不利な戦況にも関わらず。俺は手を出さず決着が着くのをただ見ていただけですよ?あなたは自分が思っているよりも強く賢い人間、だからもっと自信を持って下さい。香織さんは無力な存在とは程遠い人間です」
「ありがとう、メイフライさん・・・・・・」
優しい慰めに香織はほんの少し相好を崩した。
「私も二度と同じヘマは犯さないように気をつけます。まだ戦いは始まったばかりなんだし」
「その意気です。でも、力み過ぎないで気楽に行きましょう」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.187 )
- 日時: 2019/12/22 10:40
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「そう言えばお前らニュースは見たか?」
急に博仁が浮かれた口調で後ろの2人に聞いた。
「ニュースって伊織をあの世送りにした廃校の話?ええ、見たわよ。スマホのネットニュースで」
「そうだ。凄い話題になってるよな?」
「俺もラジオで聞きました。結構な騒ぎになってしまいましたね。暴力団が絡んだ事件が発生したとかって・・・・・・」
メイフライは耳にした内容の記憶を曖昧に辿る。
「何か興奮するくらいの達成感を感じないか?世間に革命を起こした、そんな瞬間みたいな」
博仁の子供染みた発想に2人は呆れるしかなかった。少し真面目になり運転席に向かって
「残念ながら俺はそうは思えません。世間に迷惑をかけて申し訳ない気持ちで一杯です。何度も謝罪したいくらいにね。」
「私もメイフライさんと同意見、その神経はどうかしてるわ。あの事件で近所に住む人達がどれだけ恐怖したか考えてもないでしょう?現実はゲームじゃないのよ?問題を起こせばそれだけ誰かを苦しめるの。あなただってそれくらい分かってるはずよ」
香織の説教に博仁は軽く笑い
「確かに、正論は認めよう。でもな、物の見方を変えてみるのもいいものだ。例えば廃校の事件、あれは暴力団の仕業だと警察の連中は思ってるんだろ?そのまま捜査が行き詰まれば俺達が疑われる事はない。発見された遺体も原形を留めておらず身元の確認は不可能。自爆した伊織は当分、行方不明者として扱われるだろうな。そう解釈すれば、ちょっとはポジティブになれるだろ?」
「どうかしら?」
香織は同意し切れず、軽蔑の視線を逸らした。
「おい、香織」
「・・・・・・え?あ、何?」
博仁に呼ばれ香織は我に返った。
「ところで、次は誰を殺るのか予想はついてるな?」
「次は・・・・・・藤堂冬美よね?」
「正解だ。次の冬美の居場所はこの数週間の間に調べ上げた。どうやら奴は街を抜けた所の住宅街に住んでいるようだな。俗に言うニュータウンってやつだ。そこへ向かうが、ここから結構な距離だ」
「知ってるわ。私、あいつの家に言った事あるから」
「は?家にお邪魔したって?昔は仲がよかったのか?・・・・・・ってか知ってたのかよ・・・・・・まあ得た情報は無駄にはならないと思うが・・・・・・」
「調べ上げた奴の詳細を教えてくれる?」
香織は早速、博仁が得た情報を聞き出す。
「この時間、奴は自宅で寛いでいるはずだ。違ったら、近くのホールかも知れん」
「ホール?ひょっとして家の隣にあるドーム状の建物?入った事はないけど」
「送られてきた資料によれば、ドームはあいつ専用の訓練場らしい。毎晩そこで腕に磨きをかけているそうだ。零花と似たパターンだな。香織、お前が仕返しに来ることも向こうは想定済みだろう。油断するなよ?」
「上等よ。返り討ちにして地べたを這いつくばらせてやるわ。命乞いだけなら聞いてあげようかしら」
「おお、こわっ・・・・・・」
バンは何度も交差点を曲がっては商店街や繁華街を後にしていく。最後は高速道路を使い街を抜け人だらけの都会から離れる。やがて道路は閑寂し広く進み具合のいい直線となった。それからしばらく進んで間もなく目的地に到着した。
この地区はさっきまでいた街とは裏腹、田舎に近い場所だった。人も車もほとんど見当たらず一帯そのものが静けさを保っている。ビルといった高い建造物はなく住み心地がよさそうなお洒落な一軒家が並んでいた。自然が豊富で緑豊かな公園や森林などが窺える。日当たりもよく沈む夕日を一望できる地形となっていた。
「いい所ですね」
香織と同じ外を見ていたメイフライが短く評価する。
「着いたぞ。あそこが標的の家だ」
坂道の途中でバンは停車した。香織はメイフライが座る席の窓から下の一帯を眺める。視界に入る民家はどれも似たり寄ったりだが一軒だけ異様な物があった。家の隣にドーム状の黒いテントのような屋舎がある。
「間違いないわ。あそこが冬美の家よ・・・・・・2年ぶりね」
「行きますか?」
メイフライがピストルの安全装置を外す。
「いや、まだ行くな。少しあのエリアを調べさせてくれ。今のうちに緊張をほぐしていろ」
博仁はエンジンを切り助手席へ移った。グローブボックスから双眼鏡を取り出し偵察を始める。
「出陣までまだ、かかりそうですね?」
「待ってる間、冬美がどんな奴なのか教えて下さいよ」
「いいですよ」
香織は標的の詳細を語る。
「冬美は同級生だけどクラスが違う子なんです。運動神経に優れていてあらゆる武道が得意な人材、それだけに暴力的で好戦的な性格の持ち主でした」
「筋肉ムキムキサディスト女子・・・・・・零花といい伊織といい、お前の同級生には変人しかいねーのか?」
盗み聞きしていた博仁のツッコミを無視し、話を続ける。
「さっき、香織さんは冬美の家に行った事があるって言いましたよね?昔は仲が良かったんですか?」
「ええ、詩織の次に大事な友達で好きな物が一緒だったから・・・・・・気も合ったし、結構遊んだりもしてました。1年前の事件が起きる前までは・・・・・・」
「1年前の事件?」
思い出したくないのか香織は言いにくそうに
「冬美には1つ下の妹がいて剣道部に入部していました。つまり私の後輩です。その子との模擬戦の際に誤って怪我を負わせてしまったんです。腕が骨折し、手に後遺症が残って・・・・・・」
「そんな事が・・・・・・」
「冬美は泣きながら私を罵りました。お前なんか友達じゃないって・・・・・・その翌日から彼女は私に対するいじめに加担するようになって・・・・・・」
「なるほどな、それはいわゆる『両成敗』というやつだ。お前は冬美や妹を傷つけ、あいつはお前や詩織を苦しめた。だが、お前はわざと過ちを犯したわけじゃない反面、向こうはいじめという卑怯な手段を取り最終的に関係のない人間を大金と引き換えに殺害している。誰がどう判断しても悪いのはあっちだ」
双眼鏡を覗いたまま博仁が言った。
「でも、妹さんを不幸にしたのは事実よ」
「おい?戦う気あるのか?余計な邪念を捨てられないなら、手が震え剣先も鈍る。そんな状態でやり合ったら確実にお前は死ぬ。呆気なく返り討ちにされてな。それとも懐かしい過去に浸って諦めて帰るか?」
香織は力の入った声で
「帰るわけないでしょ。私は妹さんには申し訳ないと言ってるだけで、冬美本人に関してはすぐにでも殺したい気持ちでいっぱいよ。私にとってもあいつはもう友達じゃない。詩織を殺したただのクズよ」
「やる気は十分みたいだな。そうでなきゃ、ここまで連れて来た意味がない」
博仁はよかったと言いたそうな顔で偵察に集中する。
「何か怪しい物は見当たりますか?」
メイフライが運転席に声をかける。
「特には何も。ただの家々が並んでるだけで面白そうなものは・・・・・・いや、ちょっと待て!」
その時、博仁が何かを発見し退屈そうな態度を一変させる。
「標的の家から誰かが出てきたぞ?背が低くて髪の長い少女だ。バッグを手にしている。体格は細身で運動は得意そうじゃない。冬美じゃないな」
「多分、彼女の妹よ。これからどこかに出かけるみたいね」
博仁が言った特徴に香織は確信した。
「窓にはカーテンがひかれ明かりは点いている様子はない。家は無人の可能性が高いな。だったら好都合だ。香織、誰にも邪魔されず復讐できるチャンスだ」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.192 )
- 日時: 2019/12/22 11:01
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
階段を降り歩道を渡って真っ直ぐ行くとすぐに目的地へと辿り着いた。家は低い木製の柵に囲まれており敷地内への侵入だけは容易な作りとなっていた。まず2人は開けっ放しの門の前に立ち建物を見上げる。内側からの音もなく誰かが中にいるような気配は感じられなかった。
「留守ですかね?」
メイフライは視線をそのままにして言った。
「多分、誰もいない可能性が高いと思いますが、念のためこれを使って確かめてみますね?」
香織はそう言って仮面を顔にはめる。
「エディスの仮面でしたっけ?今度、俺にも貸して下さいよ」
「勿論、任務以外の時だったらいいですよ」
頭の中で透視を唱える。視界が大きく変わり建物の内部の構造が透かして映し出される。
「やっぱりメイフライさんの読みは通り、中には誰もいません」
短時間でそう判断した。家全体を覗いたが生命反応は検出されなかったのだ。
「無人って事は肝心の標的も?」
「いえ、残念ながらそれだけは目算が狂ったみたいです」
香織は後半の予想を否定し、目の先は違う方向に向けられていた。家の隣にあるドーム、仮面はその中に人型の姿を捉えていた。そいつは広い一室の端で何かしらの行動を取っているが、詳しい分析は難しい。
「いたわ。冬美ね」
「間違いありませんか?」
メイフライは拳銃をホルスターから抜き取り
「行きましょう・・・・・・今度こそ黒幕に関する情報を手に入れないと。だけど冬美は多彩な武術を学んだ手練れ、大人しくやられてくれるなんてあり得ない。腕は私と互角、それ以上かも知れない。これまでとはわけが違うわ」
香織はプレッシャーで震えた手で刀のグリップを握りメイフライを背後にドームへ向かった・・・・・・しかし
「まずいですね・・・・・・」
標的がいる出入り口の前で突然、メイフライが後ろ向きな台詞を零した。
「どうしたんですか?」
「これを見て下さい」
指された指の先にその理由があった。厄介な事にこのドームには古臭い外見に似合わず扉には指紋認証の電子ロックが設置されていた。細長い液晶の画面にROCKと赤い文字が表示されている。
「こんな屋舎にセキュリティ対策が施されてるなんて・・・・・・」
「蹴り破るにはドアが堅過ぎる。足が折れるでしょうね。流石に防弾性ではないでしょうけどショットガンを外で使うのもまずい」
「じゃあどうすれば?」
為す術もなく2人は悩んだ。試しにセンサーを置こうとも考えたが警報が鳴る危険があったため下手な行いは避ける。
「"どうやらお困りのようだな?"」
タイミングよく博仁の声が無線越しに聞こえてきた。
「"高見からお前達の動きを見物している。香織、スマホの出番だ。今から俺の言う指示に従え。最初に難しくないとだけ知らせておく"」
「・・・・・・どうすればいいの?」
香織は短く質問を返し取り出したスマホの待ち受け画面を開く。
「"『設定』があるだろ?まずはそこを押せ"」
「押したわ。次は?」
「"色々とリストが出てきただろ?その中に『HS』という文字があるはず、ドクロのアイコンが目印だ"」
リストを下にスクロールし難なくそれを探し当てる。
「あった」
「"よし、そこを押し電子ロックの機械にかざせ。なるべく近づけるんだ"」
理解しがたい思いで言われた通りにするとスマホの中で何かのインストールが始まった。メーターは徐々に蓄積され僅かな時間で100パーセントに達しドアがカチッと音を立てる。センサーを覗くと画面が緑に変わりUNROCKと表示されていた。
「え、鍵が開いた・・・・・・!?」
香織は信じ切れない気持ちで目と口を丸くする。
「"驚いたか?次世代スマホの感想を聞かせてくれ"」
「えっ!一体、どういう仕組みですか!?」
驚愕を隠せず、2人は博仁に説明を促した。
「"HSとは『ハッキングシステム』の略だ。あらゆる電子器具にウィルスを侵入させ暗号プログラムを解読、パスワードを解除する。色々と役立つぞ"」
「どうやってこの機能を付け加えたの?」
「"慎一のコレクションは知ってるだろ?あいつが1つ、小型のハッキングモジュールを持っていたんだ。長い交渉の末、大金と引き換えに譲ってもらったのさ。そしてスマホを分解して組み込んだって訳だ"」
「慎一さん様々ですね」
メイフライが感心しているのか呆れているのか判断できない口調で言った。
「"あいつのジャンクはどれも値打ちが付く物ばかりだからな"」
「無事に帰れたら慎一さんにお礼を言うわ。お陰で問題は解決した事だし後は中にいる人間を排除するだけよ」
香織は表情を変え背負っていたショットガンを抱えるとポンプをスライドし散弾を薬室へ装填する。メイフライのその動きに合わせピストルを片手にドアノブを掴む。
「"命を懸けた戦いに卑怯も正道もない。どんな手を使ってでも息の根を止めろ。たとえ相手が好戦的な戦闘マシーンだろうが、俺はお前の勝利を信じている。必ず生きて帰って来いよ?"」
香織は"勿論"とだけ返答し、無線での会話を終了する。8発の弾がこもったショットガンをしっかりと握り息をのむとメイフライに合図を送る。
「いきますよ?」
メイフライが頷き思い切って扉を押し開ける。2人は銃口を正面に固定し素早くドームに突入した。冬美の後ろ姿がすぐさま目に映る。
彼女の訓練場は普通とはとても呼べない異質な光景が広がっていた。天井と床を除く壁一面に無数の武器が綺麗に並び飾られていたのだ。兵士が扱っているようなナイフや山刀、旧時代から存在する刀剣もいくつかあった。銀色の輝きを放つ鋭利なコレクション。この物騒な空間を簡単に例えるなら武器庫そのものと呼べるだろう。
冬美はコレクションの1つである大鉈の手入れを行っていた。作業台に置かれた機械式の砥石に刃を擦りつけ切れ味を整えている。ガリガリと耳障りな音に弾けた火花が舞う。しかし、香織達が来たにも関わらず彼女は振り返る事もない無反応だった。だんまりをきめこみ真面目に作業に明け暮れる。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33