複雑・ファジー小説
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- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.199 )
- 日時: 2020/08/24 19:05
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
2人は次の交えで全てを決めるつもりだった。香織は劣勢で冬美は優勢、アンフェアな決着が訪れようとしている。そしてその時はすぐにやって来た。
「おおおおっ!!」
冬美が決まって先生を仕掛ける。マチェーテを勢いよく前に押し出し喉の貫通を狙う。香織は刀を横に回し目前で弾くと刀身を斜めに傾けひらりと回避した。2人は背後へ飛び距離を置くともう一度構え直した。人ではなく武器を睨む。両者共、刀身の動きを読み先の戦法を練る。
休む時間を与えず今度は香織が先手を打った。しかし、繰り出したのは遅緩な大振り。手元を誤ったような動きが大きな隙を生み出す。
「なめるなっ!!」
冬美は怒鳴りこちらに向かってくる鈍い刀身をずらし更に反撃する。防ぐ術もない無防備な香織に幅広い刃を突き立て脇腹にめり込ませた。その一撃はバトルスーツを貫通し体内を貫通した。肉から突き出たマチェーテからは黒い血がべったりと付着し垂れ落ちる。慢心した笑みで視線を上にやる。だが、香織も痛みに耐え全く同じ表情を作っていた。
「・・・・・・っ!」
その不可思議な意味を悟ったがすでに手遅れだった。決死の策略に冬美はごふっ!と血を吐き出した。殺戮心の塊だった面影は冷め女々しく涙を溢れさせる。アーマーに覆われていない首元の胸部に刀が鍔近くまで刺さっていた。刀身は肉を裂いて体内をくぐり骨を砕き、腰から抜ける。
「これが私の作戦・・・・・・わざと攻めを喰らい油断と隙を作らせる・・・・・・こうでもしなきゃあなたには通用しないだろうから・・・・・・」
香織は痛々しい声で刺されたマチェーテと刺した刀を一斉に引き抜く。相打ちとなった2人から血しぶきが噴き出した。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
冬美は身体を抱きしめ数歩後退りをする。やがて脚が崩れ情けなく倒れると悲痛の唸りを上げた。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
修羅とも呼べる勝負はついに決着が着いた。香織も力が入らなくなり刀を落としその場に座り込む。残った痛感に歯を噛みしめた。
「やりましたね。香織さん・・・・・・」
メイフライが足を引きずり殺し合いを終えた2人の傍に寄る。体力の限界で倒れかけた香織を支え安堵の微笑を浮かべた。
「見事な勝利でした・・・・・・よく頑張りましたね・・・・・・!」
褒誉の言葉は途中で涙声に変わる。
「恐かった・・・・・・今日で終わるのかと思った・・・・・・」
香織も唇を震わせ鼻を啜った。
「だけど、首を切られても生きてるなんてあなたは一体・・・・・・」
「分からないわ・・・・・・どうして死ななかったのか、自分でも不思議に思う・・・・・・」
そう言って静かな吐息を吐き出す。
「ううっ・・・・・・!があああああ・・・・・・!!」
冬美は治まらない激痛に苦しんでいた。深く負わされた体内の傷に最早、悶える事しか出来なかった。両方の穴からの流血が酷くしばらくもしないうちに彼女は息絶える。2人はその様子を凝視していた。
「あの状態じゃ尋問は無理そうですね?せめてもの情けとして安楽死させた方が彼女のためかも知れません」
メイフライが言った。
「そんな事はありませんよ」
香織は自信ありげに否定し立ち上がった。打ち負かしたばかりのライバルの隣で膝を下ろす。ポーチから取り出したケースを開けモルヒネを手にする。
「え?香織さん何してるんですか!?」
予想外の行動に驚くメイフライの発言を聞き流し針を入れ中身を注射する。
「がっ・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・!」
投与された鎮痛剤が神経を麻痺させ苦痛を和らげる。のたうち回っていた冬美は大人しくなった。全身が解放感に包まれ気楽な面持ちを作った。
「はあはあ・・・・・・何だ・・・・・・?痛みが消えた・・・・・・?」
「冬美・・・・・・!」
名を呼ばれ彼女は固く閉ざした目蓋をそっと開いた。心配そうに自分を見下ろす香織がいた。
「助けてくれたのか・・・・・・?どうやったのかは知らんが・・・・・・」
冬美は明るく顔を和ませ
「敵に手を差し伸べるなんて・・・・・・優しいな・・・・・・お前、まさかここまで強くなっていたとは・・・・・・」
「あなたも凄く強かったわ。もう少し油断していたら私が負けてた」
今の2人の間には憎悪の欠片もなく互いを尊敬し合う仲になっていた。殺意は消え穏やかな雰囲気が漂う。
「この一戦で私はまた強くなれたわ。ありがとう」
「ふ、そいつは違う・・・・・・礼を言うべきなのはこっちの方だ・・・・・・」
「え?」
冬美は香織から目を逸らし
「私は妹の幸せを奪われずっとお前を憎んでいた・・・・・・理性を失い復讐心だけが心の支えだったんだ。でも、私にはもう1つの感情があった・・・・・・何だと思う?『後悔』だ。卑怯な手段に頼り関係のないお前の親友を手にかけ・・・・・・その罪を擦り付けた。私はお前よりも遥かに汚れていたんだ・・・・・・」
「・・・・・・」
「過ちを犯したあの日から毎日・・・・・・罪悪感に押し潰された。本当はお前に殺される事を望んでいたのかも知れん・・・・・・そして今日、思いは現実となった・・・・・・」
「そんな事ないわ!」
香織は滲む涙を拭い強く言い放った。
「私だって取り返しのつかない事をした!恨まれても仕方がない立場にある・・・・・・あなたに罪があるなら私も同罪よ!」
「格好つけるなよ・・・・・・聖女気取りか・・・・・・?」
冬美は作り笑いし辛く咳き込んだ。
「ねえ?詩織を殺した男は誰?何者なの?」
香織が情報を聞き出すが
「さあ・・・・・・私は金を受け取っただけで奴の姿は見ていない・・・・・・渚と由利子が若い美形の男性だと話しているのを聞いたが・・・・・・期待に応えてやれず悪いな・・・・・・」
返って来た返事は朗報ではなかった。
「渚と由利子・・・・・・あいつらが何か詳細を知ってるかも知れないわね・・・・・・」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.200 )
- 日時: 2020/08/24 19:09
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「げほっ・・・・・・!!」
冬美が激しく吐血した。
「冬美っ!!」
香織はとっさに彼女の冷たくなっていく手をしっかりと握り締める。
「すまない・・・・・・もうろくに目が見えない・・・・・・寒いんだ・・・・・・」
震える身体は人間の肌とは思えない程、青ざめていた。呼吸も乱れ始めている。
「どうやら・・・・・・私の命はここまでのようだ・・・・・・短い人生だったが悔いはない・・・・・・」
冬美は僅かに余った力を振り絞り部屋の隅にあるバッグを指さした。
「あそこに男から貰った大金が入っている・・・・・・勝利の報酬として持っていけ・・・・・・それと気に入ったコレクションを好きなだけな・・・・・・私にはもう必要のない品々だ・・・・・・」
香織は頭を横に振りきっぱりと断った。
「あれは不正に満ちた汚れたお金、私もあなたも使うべきではない。それにこれらの武器は最後まであなたの物よ。受け取れないわ」
「そうか・・・・・・」
「香織さん、任務は完了です。早くここから離れましょう?誰が来るか分かりません」
メイフライがドームの出入り口に視線をやり撤退を促す。彼女は迷わず頷き
「・・・・・・ですね。行きましょう」
「香織・・・・・・!」
立ち上がろうとした時、冬美に手を引かれた。
「どうしたの?」
「最後に・・・・・・頼みを聞いてくれないか・・・・・・?」
「頼み?」
香織は首を傾げる。
「お願いだ・・・・・・私の事をまた・・・・・・『友達』だと・・・・・・言ってくれ・・・・・・いつまでもお前と引き裂かれたままの・・・・・・仲でいたく・・・・・・ない・・・・・・!」
「・・・・・・ええ、いいわよ」
香織は冬美の上半身を起こし両腕で包み胸を当てた。これから死にゆく人間に温かい温もりを与えながら
「あなたは永遠のライバルであり最高の友達・・・・・・共に分かち合い笑い合った日々を私はいつまでも忘れない・・・・・・」
「ああ・・・・・・ありが・・・・・・とう・・・・・・かお・・・・・・り・・・・・・」
その言葉を最後に冬美の心臓が止まり彼女は静かに息絶えた。満面の笑顔を浮かべた頭が垂れる。
「さようなら・・・・・・冬美・・・・・・」
香織は遺体を血の池の上に寝かせると顔を撫で目を閉ざす。そしてマチェーテを握らせ胸の上に置いた。
「博仁さんと合流しましょう」
三度目の任務を果たした2人は武器を収め立ち去る。安らかに眠る冬美を残して・・・・・・
外は暗く涼しい風が吹いていた。太陽はとうに沈み空は夜に覆われている。一帯は相変わらず静寂で明かりを点けた民家が建ち並ぶ。2人は外灯のない歩道に出て無線で博仁を呼んだ。
「すぐに行く」
一言だけ応答を返しバンはあっという間に来た。ブレーキをかけ香織達の横で停車する。よくやったと言わんばかりの顔をしながら運転席から降り立つ。
「お前らが生きてあそこから戻って来たって事は・・・・・・殺ったんだな?」
博仁が確かめるように聞いた。2人は黙ったまま頭を縦に振る。
「黒幕に関する情報は得られたか?」
香織は落ち込んだように下を向いていた。彼女の代わりにメイフライが質問に答える。
「残念ですが・・・・・・3人目の標的も詩織さんを殺害した男については何も知らないようでした。・・・・・・ただ、渚と由利子という人物が情報を持っているような証言を得られました」
「そいつらが鍵を握っている可能性があるな。次の狙いはそいつらに定めよう。乗れ。隠れ家に帰・・・・・・ちょっと待て香織、お前・・・・・・怪我したのか!?」
博仁は血が染み込んで広がった脇腹に気がついた。
「特殊な耐衝撃性ファイバーを貫通するとは・・・・・・冬美は相当の怪力だった様だな・・・・・・」
「それだけじゃありません・・・・・・喉も斬られたんです・・・・・・!」
メイフライが言いにくそうに重い口を開いた。博仁は何だって・・・・・・!?と驚愕し醜い傷ついた皮膚を覗き露骨に顔をしかめた。
「信じられん・・・・・・普通ならとっくにくたばっているはずだぞ!?」
「・・・・・・」
香織は姿勢を変えず理由を話す事はなかった。疲れ切ったため息をして眠そうに瞬きをする。
「この話の続きは後にして今は隠れ家への帰還を優先した方が。人が来る前に」
「それもそうだな。まずは帰ってこいつに処置を施すべきだ・・・・・・なんてこった、メイフライの次はお前かよ・・・・・・」
博仁は2人を後ろの席に乗せた。バックドアを閉め運転席に戻るとアクセルを踏む。タイヤが回りバンはこの地区の出入り口へと走り出す。
「・・・・・・」
香織は窓越しから冬美のいるドームを切なそうに見つめていた。やがて建物が死角になると過ぎ去って行く暗い景色に黄昏る。
彼女は親友をまた1人失った。復讐のため自らの手で葬ったのだ。罪を重ねのしかかる罪悪感といつかは下る罰の恐怖。冬美にいなくなり残った家族はどうなるのか?彼女と誰よりも親しかった妹は一層、憎しみを抱くのだろう。自分を犠牲にし救ってくれた詩織も愛想を尽かしているかも知れない。単純な後悔しかなかった。
「怪我した所、大丈夫ですか?」
向かいに座るメイフライが言った。
「もう平気です・・・・・・痛みはまだ残ってますけど血は出てません・・・・・・」
「トラウマになる程の戦いでしたが色々と学ばされました。倒した相手を嘲笑う事なく救いをもたらし、許す気持ち。あんなに誰かに敬服したのは初めてです。香織さんは俺なんかより遥かに器が大きい存在だ。その鋼の精神を見習わなくてはいけません」
「私は尊敬される事は何一つしてません・・・・・・友達を殺した罪人です・・・・・・」
香織は素直に喜べなかった。脳裏に焼き付いた冬美の最期を振り返りながら
「もしかしたら他にも選べる方法があった気がして・・・・・・殺し合わなくても彼女とはまた仲を戻せたんじゃないかって・・・・・・」
メイフライは席を立ち泣きそうに目を潤ませた香織の隣に座った。彼女を抱きしめ手の平でそっと背中を撫で下ろす。
「泣きたかったら思いきり泣いていいんですよ?気分が晴れるまで俺がずっと傍にいますから」
「ううっ・・・・・・あああああ・・・・・・!」
香織は今まで抑えていた悲しみの声を上げメイフライにぎゅっとしがみついた。無目に顔を寄せ熱い涙を堪えず流す。
「辛かったですね。そう、涙はここに吐き出して下さい」
狭い車内でしばらくは止みそうにない泣き声が響く。メイフライも目をつぶりその苦しみが癒えるまでそのままでいる。
「鬼の目にも涙・・・・・・か」
ハンドルを回し博仁がぼそっと呟いた。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.201 )
- 日時: 2020/08/24 19:12
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
月の光が届かない山奥の道をバンが走っている。でこぼこの地面の上をガタガタと揺れながらゆっくりと。タイヤが踏み外さないようライトを頼りに草の生えていない通路を進んでいく。
「もうすぐ着くぞ。降りる準備をしておけ」
運転に集中しながら博仁が後ろの席に声をかけた。
「問題ありません。着替えも装備の片付けもとっくに済んでます」
返事を返したのはメイフライだけだった。
「香織の容態はどうだ?ちゃんと生きてるか?」
「ええ、壮絶な戦いで疲れてしまったんでしょう。泣き止んでからすぐに寝てしまったんです。息はしているから心配ないと思いますが・・・・・・」
「帰ったら愛利花に治療を頼まないとな。例え不死身だとしても首と脇腹をやられているんだ。傷口が感染してないか心配だ」
「俺が香織さんを部屋まで運びます。前みたいに怪しまれないといいんですけどね・・・・・・」
博仁が祈るしかないなと台詞を零しメイフライは苦笑し鼻で笑った。それから時間が経たないうちにバンは崖の前で行き止まった。ゲートが開き銃口を向けた数人の兵士がゾロゾロと出て来た。運転手を確認しお決まりの車内検査を済ませ中へと招き入れる。
「また随分と長い偵察だったな?」
兵士が少し訝しげに聞いた。
「ああ、帰りに喫茶店に寄ったんだ。たまには外に出て息抜きさせないとな」
博仁が友好的な態度で平然と誤魔化す。
「ちっ、羨ましいな。俺もたまには街に出かけたいもんだ」
隠れ家に戻った一行はバンをガレージに止め地面に降り立つ。車両と装備の後始末を作業員に任せ真っ直ぐ部屋へと向かう。
「お帰りなさい博仁さん。作りたてのコーヒーを用意してますよ」
エンジニアの1人が陽気に手を振る。
「いつも悪いな。今はちょっと忙しいから後でご馳走になる」
博仁も同じ仕草を取り相手にそう伝えた。彼はまわりから上手く対処するため先頭を行き熟睡した香織を背負うメイフライが後ろを歩く。
「ねえ博仁?その子どうかしたの?」
予感は的中、また誰かが聞いてきた。他の車両の整備をしていた若い女のエンジニアだった。
「ああ、ちょっとな・・・・・・偵察の帰りに喫茶店に寄ったんだがこいつ、ココアを3杯も飲みやがって。お陰でこの様だ」
博仁は軽く笑いながら外にいた時と同じ言い訳を並べた。
「あら、いいわね。久しぶりの贅沢じゃない?」
「俺達だけいい思いさせてもらって悪いな。今度街に出かけたら土産でも買ってくるよ」
「約束よ?」
立ち去る仲間を見送り博仁はひとまず安心の吐息をした。他人の目を気にしながら改めて先を行く。
廊下を抜け居住区の階段を上がり仲間が待つ部屋に辿り着いた。一室の扉を開けメイフライ達を先に入れる。
「待たせたな。英雄達の帰還だぞ」
「香織っ!」 「香織さん!」 「お兄ちゃん!」
3人共、我先にと駆け寄って来た。透子が両腕を広げ真っ先にメイフライに抱きつく。相変わらず博仁は人気がなかった。
「どこも怪我してない?」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
メイフライは笑顔で透子の頭を撫でる。
「あなた達には勝利の女神がついているわね。またもやり遂げてしまうなんて」
「愛利花、お帰りの挨拶は後にして応急処置を施してくれないか?今度は香織が負傷したんだ」
「何ですって!?」
全員の視線が香織に向けられる。
「目立った外傷はないけどどこをやられたの!?」
「脇腹と喉だ」
「喉!?」 「喉!?」
愛利花と慎一は驚愕の声を合わせた。まさかと思いながら半信半疑で首を覗くと2人は悍ましい顔に一変させ
「どれくらい出血したの!?」
「ああ、えっと・・・・・・詳しい量は説明できませんがかなり・・・・・・」
メイフライが悩ましく曖昧に答える。
「慎一、医務室から大型の医療キットを取って来て!それとO型の血液パック!急いでっ!」
「わ、分かりました!大急ぎで持って来ます!」
慎一は慌てふためき部屋から飛び出して行った。
「早くベッドに運んで!緊急のオペをやるわよ!」
博仁はメイフライから香織を下ろすと指示通りの姿勢で寝かせた。上着を脱がせ捲り刺された脇腹を露出させる。だが、貫通したはずの傷口は縫い合わせたように塞がっていた。血は既に固まり自然に回復している。まるで数日前に治療を済ませた跡のようだった。
「どういう事・・・・・・!?」
愛利花は目を丸くし博仁と酷似した反応を示す。彼も隣に来て実に不思議さを抱いた口ぶりで
「お前もそう思ったか。これだけの致命傷を負ってもこいつはピンピンしてやがる。普通、首なんか切られたら血が勝手に止まるなんてまずあり得ないんだ。はっきり言ってこいつが人間なのかも怪しい」
愛梨花は冷静に身体の仕組みを分析し
「確かにちょっと気持ち悪いけど好都合と考えるべきかも知れないわね。出血は止まっているし感染や腐ってる所も見当たらない。もしかしたらメイフライの時よりも簡単にいくんじゃないかしら?」
「そうなる事を願いたいものですね・・・・・・」
メイフライも起きる気配のない香織を心配そうに眺めながら言った。
慎一が頼まれた物を抱えて戻って来た。それを受け取り愛利花は早速、『闇医者』という仕事に取り掛かる。だが、喉も脇腹もほぼ完治に近づいているため止血剤やワイヤー、包帯すらも必要なかった。やれる事と言えばただ、こびりついた体液を拭い消毒で洗うくらいだった。
「これで完了って事にしていいのかしら?とにかく医療キットは必要なかったみたいね」
僅かに使用したアルコール瓶をケースにしまった。ゴム手袋を外し処理と後片付けを慎一に任せる。香織に上着を着せると布団を肩までかけベッドのカーテンを閉める。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.202 )
- 日時: 2020/08/24 19:37
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「これで本当に大丈夫なんですか?香織さん、死んだりしませんよね?」
簡単な応急処置を一部始終見物していた透子が不安を取り除けない口調で聞いた。
「大丈夫よ。透子ちゃんがいる限りお姉ちゃんもお兄ちゃんも死にはしないわ」
愛利花は顔をほころばせ幼い彼女を慰める。
「もっとも、こいつはバズーカ砲でも直撃しない限りくたばらないだろうがな」
博仁も楽しそうに余計な口を挟む。
「いい加減にして。殴るわよ?」
「はいはい・・・・・・」
「香織さんはただ者じゃないですね。初めて会った時から普通とは違うオーラを感じていましたよ」
慎一が深い尊敬を言葉にして言った。彼女をすっかり英雄視しているのか少し興奮しているようにも見える。
「でも、いくら自分の戦いとは言え本人が怪我したら・・・・・・」
「香織さんは誰の手も借りずたった1人で打ち勝ったんです。俺なんかよりずっと強い、彼女はもう立派な兵士ですよ」
メイフライも強く訴えた。カーテンの向こうに眠る恋人を温和な表情で見守りながら。
「彼女はよく頑張りました・・・・・・こんなにも凄い人が傍にいてくれて嬉しい限りです・・・・・・」
その時
「邪魔するぞ」
いきなり、誰かが勢いよく扉を開いた。香織以外の人間が一瞬、ビクッと身体を震わせ扉の方に視線を変える。明るい空気が一瞬で静まり返り緊張感にすり替わった。
「・・・・・・」
隠れ家の司令官、忠信が堂々と部屋を訪ねる。凄まじい剣幕でメンバー達を見下ろしている。全員がすぐさま正しい姿勢を取り敬礼する。
「どうしたの父さん?」
娘である愛利花がおそるおそる問いかける。忠信は室内へ足を踏み入れ
「姫川香織はいるか?」
とだけ聞いた。彼らが動揺するのは当然だった。密かに行っている復讐計画が知られた可能性は十分に考えれる。取り返しがつかない程の数々の違反行為、主犯は勿論、共犯者にも極刑が下る。ここにいる人間達は罰の恐ろしさを熟知していた。
(非常にまずい・・・・・・やばいぞ・・・・・・!俺達の秘密がバレたか・・・・・・!?)
博仁は下を向き顔を真っ青にする。氷を擦りつけられたような冷や汗の感覚が背筋に浮き出てきた。
「いるけど訓練に疲れて熟睡しているわ。この子がどうかしたの?」
愛利花が何か隠しているようなオドオドとした口調で聞き返す。
「どうしても今は無理か?」
「無理矢理、起こすのは可哀想よ。それにしても司令官が直々に訪れるなんて・・・・・・何の用事?」
「主役は寝ているのか?まあ、お前達が起きているなら別に構わない」
「どういう事?詳しく説明してもらえる?」
首を傾げる娘に対し忠信は何食わぬ顔で話を続ける。
「聞くまでもないが、『ブラックジョーカー』は知っているな?」
「ええ、ブラックジョークを指導者で組織の全権を握る人物よね?素顔を目にした人はいないみたいだけど?」
「さっき、司令室で通信が入った。そのブラックジョーカーが香織に会いたいそうだ。大事な用があるらしく、明日にも東京に出向いてほしいとの事だ」
思いもしなかった意外な知らせに一同はざわめきだした。
「行くのは香織1人だけじゃない。お前達全員が東京に向かう権限が与えられている」
「いきなりそんな・・・・・・どうして?」
慎一が疑問を抱くと
「さあな。だが、指導者直々の命令だ。逆らう事は許されんぞ?指示は伝えた。十分に英気を養って、当日に備えておけ」
忠信はそれだけ言って早々に部屋から去って行った。寝床は少しの間、静寂な空気に包まれる。博仁は次に香織が眠るベッドのカーテンを開け、寝顔を覗く。
「全く、肝心の本人は何も知らず、呑気に寝てやがる。俺も今日は寝て、ひとまず疲れを取る事にする。翌日の重要任務のためにな」
博仁も立ち尽くすメイフライ達を背に軽く手を振り部屋を後にした。
「俺は反対です。香織さんは、ただでさえ今日の戦いで死にかけてるのに・・・・・・!」
タイミングの悪い展開に慎一は納得できずにいた。
「気持ちは俺も同じです。ですが、指導者に逆らえばそれこそ命はない。香織さんに復讐を続けさせたいのなら従うしか道はないでしょう」
「何かをしようとすると何でいつも邪魔が入るんだ・・・・・・!?」
「腹が立ちますが仕方ありません。ひとまず休みましょう?明日までまだ数時間ある。短いこの時を大事にするべきです」
メイフライは香織のベッドのカーテンをしめ透子に歩み寄った。"大丈夫、心配いらないよ"と安心を促す声をかける。
「ふざけんな・・・・・・!」
慎一は反感の言葉を吐き捨て梯子を上った。心のモヤを気にしながらコレクションの整理を始める。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.204 )
- 日時: 2020/08/24 19:42
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
暗さが広がる世界で香織は目を覚ます。ひゅーひゅー・・・・・・強い風が吹き荒れている音がする。寒い雪のような感触が身体中に現れ冷たさを感じる。まるで光のない寂しげな冬の山にいるようだ。自分の両手で身体を包みゆっくりと目蓋を開けて見る。風に押し流される一面の雲、空は灰色に染まっていた。吐いた白い吐息が空気に溶け消えていく。
「居心地のの悪い空虚な夢の世界・・・・・・またここに来てしまったようね・・・・・・」
香織は仰向けに横たわった姿勢で晴れる気配のない空を見上げながら言った。これから待ち受ける出来事はもう大体予想がついていたのだから。懲りずに現れるだろう『あいつ』の存在を思い浮かべると呆れずに入られなかった。面倒な気持ちに埋め尽くされたが早く出向いて終わらされようとしぶしぶ思った。
香織は上半身を起こすと虚無の世界を見渡した。すぐにここが平らで狭い空間だという事を理解する。石造りのベッドの横を見た。その先には道と呼べる橋や足場はなく何もない。反対側を向くと階段があった。段差はしばらく続き遠くに頂上が見える。
「何あれ・・・・・・?」
高く聳えるいくつもの柱が見えた。円形に間を開けて並べられ上の土台が繋がっていて中心を綺麗に取り囲んでいた。ここからでは人の姿は見えずはっきりとしないがあそこへ向かうべきだという事は分かった。
「あそこであいつが待っているのね・・・・・・そして『彼女』も・・・・・・」
香織はベッドから降り立つと先の長い階段を上り始める。砂や埃が混ざった強風が当たり思うように真っ直ぐ進めない。顔を覆い腕の隙間から覗かせた片目を頼りに大きな石の段を一歩ずつゆっくりと踏みつけ上へ向かう。歩き始めてすぐ少し上の段差でつむじ風が巻き起こり人間の姿を象った。黒い人影に顔や肉体が構成され全身が色づいていく。やがて本物と呼べる1人の人間を生み出した。
最初に葬った零花が決まって現れた。憎いだけの形相で害意に満ちていたが襲い掛かって来る気配はない。伊織の悪夢の時とは違い彼女は罵声を吐こうともなかった。下ろした両手の拳を握り震わせただ立ち尽くしていた。香織は睨み返したがすぐに目を逸らしてすれ違い足を進める。
頂上に近づく度、つむじ風が吹き荒れてはいじめっ子達の残像が次々と作り出されていく。生み出された残像は階段の隅に立ち香織の間に並ぶ。全員が零花と同じ感情を抱きだんだんと通り過ぎる彼女の姿を険しい視線で追う。
あれから時間を掛けようやく最後の階段を上り終えた香織は頂上へと辿り着いた。そこは滑らかで広大なフィールドとなっていた。柱の円中にある地面には得体の知れない黒い紋章が大きく描かれている。まるで幻想をテーマにした物語に出てきそうな舞台だった。
フィールドの真ん中にも2人の人影がありこちらを遠くから眺めていた。香織がここまで来るのをずっと待っていたのだろう。1人は外れようがない予想が的中、詩織に似た少女がいる。奴の隣にいるもう1人はこの日、死んだばかりの冬美。現実の世界と同様の格好をしており刀で負わされた首元と腰に惨い傷もそのままだった。そこから流れ出た黒い血が服を汚し地面に滴り広がっていた。表情は暗くこちらに歩いてくる香織を悲しそうに見つめ
「香織・・・・・・」
そう静かに呟いた。
「よく来たね・・・・・・待っていたよ・・・・・・」
決して笑顔ではない少女がそっと口を開き歓迎する。香織は2人から少し離れた場所で立ち止まる。
「ええ、せっかくこの悪趣味な世界に招待されたんだもの。喜んで出向いてやったわ」
ケンカを売るような強気な言い方で言い返した。
「・・・・・・で、今度は冬美を使ってどうするつもりなの?」
そう関心がない態度で問いかけると
「それは後になったら教える。まずはここにいる3人で話をしようよ?」
少女の返答はそれだけだった。彼女は胸に下げたロザリオを指で掴み上下左右に動かす。小さな十字架を手放し下ろした両手を組むと目から涙を一粒流した。
「今日もまた、あなたは人の命を奪ってしまった・・・・・・こんな事を繰り返して、残念でならないよ」
「また長々しいお説教の時間?勘弁してほしいわね」
香織は腕を組み実に面倒臭そうに愚痴を零した。呆れた視線でため息をつく。
「これで3人目・・・・・・くだらない復讐のためにどれだけの罪を重ねるつもりなの?いつも優しくて悪い行いを誰よりも嫌っていた香織ちゃんはもういないんだね・・・・・・」
「前にも言ったはずよ?復讐を終えるまで私は鬼畜であり続けると。そして詩織の顔を装っただけのあなたに何を言われようが構わないって事もね」
すると少女は怒りを露にし少し声を張り上げた。
「親しかった友達を殺してでも成し遂げたいものなの?冬美ちゃんもかけがえのない友達だったんでしょ?」
香織は視線の向きを冬美に変えた。血塗れの格好で辛そうに立ち尽くすだけの彼女をじっと見つめる。本当は取り返しのつかない自身の過ちを胸の奥底から感じていた。罪悪感だってあった。後悔の重さに耐えられなくなり香織は思わず手にかけた冬美を視界から外してしまう。
「この子はあなたのせいでとても苦しい思いをしたんだよ?かけがえのない妹さんが一生の不幸を味わう羽目になって。大事な家族を傷つけられいつもいつも正気を失うような憎しみにもがき苦しんでいた。そして最後はあなたに刺され血を吐きながら短い一生を終えた・・・・・・残酷過ぎるよ・・・・・・!殺された私の復讐をしたい気持ちは痛いほど理解出来る!だけど殺したら香織ちゃん!あなたが悪者になっちゃうんだよ!?」
「・・・・・・」
追い打ちとも呼べる必死の訴えに香織はそのままの姿勢で沈黙する。言葉のない静寂が続き吹き荒れる風の音だけが絶えず響いていた。
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