複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.240 )
日時: 2020/09/20 22:13
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 バンは幅を開け精肉工場とすれ違うと少し離れた鉄塔の横で停車した。何年も放置され今にも倒れそうな古びたタワー。風に揺れ軋む金属の音が車内からでもはっきり聞こえる。

「着いたぞ。全員降りろ」

 香織達はバックドアを開け車両から外へと足を踏み入れる。冷たい気温にさらされながらかつては栄えていたであろう広大な一帯を見回した。

「何もない空虚な場所ね。埼玉の中心部にこんな寂しい所があったなんて・・・・・・」

 凍えた両手に吐息を吹きかけ香織がひっそりと言った。

「失恋を形で表現したらきっとこんな感じになるんだろうね」

 姫川の例えに誰も反応しなかった。

「しかし、こんな所に人がいるんでしょうか?今まで博仁さんの情報に誤りなんてありませんでしたがこういう場所に連れて来られる度に毎回疑いを抱いてしまいます」

「心配するな。どうやら今回も当たりくじを引いたらしい」

 運転席を降りた博仁が後ろにある工場を指差した。片方の手には双眼鏡を手にしている。

「ちょっとばかり工場を偵察してみたが鉄パイプやバールで武装してうろついている人間をいくつか見かけた。服装は全員学生服、恐らく標的の取り巻きで間違いないだろう。ターゲットである渚本人の姿はなかったが工場内にいる可能性が高い」

「渚がいる事には間違いないのね?だったら行きましょう。一刻も早くあいつの亡骸を拝みたいわ。」

 理性を捨てかけた香織を博仁が冷静に留まらせる。

「待て、焦んなよ。いくらお前が強くても向こうは集団、囲まれたら厄介だ。それに鬱陶しい手下を相手にしている隙に奴に逃げられるケースも考えられる。ここは隠密になって少しずつ敵陣を制圧していくべきだ。城を落とすにはまずは砦からって言うだろ?この鉄塔を狙撃ポイントに利用しよう。上から姫川が援護するからお前ら2人は無線で俺に指示に従え。今回は俺も戦いに参加させてもらう」

「え?参加するって・・・・・・怪しいわね。一体何をするつもりなの?」

「大した事じゃない。ちょっとしたお手伝いをするだけさ。行くぞ姫川、先に鉄塔を上れ。俺達が配置につくまでお前らはここで待機していろ」

 姫川は劣化した鉄格子の間から梯子がある真下に侵入しライフルを背負いながら身長に上っていく。博仁も双眼鏡を首にぶら下げ後に続いた。香織とメイフライは誤って転落しないか不安を募らせ上に遠ざかる2人を見守る。

 長い鉄塔の中央にさしかかるとそこには数人の人間が乗れそうな円状の足場があった。下よりも吹き荒れる風が強く足元から低い地面が覗ける分厚い網目の構造をしている。しかし、この位置からは十分に工場を見渡せこれ以上狙撃に相応しい場所はなかった。姫川は早速、準備に取り掛かる。背負っていた対物ライフルを足場に降ろし折り畳んでいたバイポット(二脚)を伸ばしスコープのカバーを外した。軽い調節を手際よくこなしていく。

「香織の復讐もこれで4人目か・・・・・・最後までやり遂げられればいいんだが・・・・・・」

 横にいた博仁が愚痴を零す形で独り言を囁いた。

「ねえ?香織って親友を殺し自分を陥れた連中に復讐しようとしてるんだよね?事件に関わっている奴らって具体的にどんな奴らなの?」

 特に重要でもない質問に博仁は振り返った姫川ではなく向こうを眺めながら答えた。

「ほとんどは学校で香織をいじめていたクラスメイトだ。だが、そいつらはあくまでも金で動かされた共犯者に過ぎない。主犯はあいつの親友をレ○プして屋上から突き落とした黒幕の男だ。組織の情報網を生かして詳細を調べているが正体はおろか手掛かりすらも掴めてない。これまで殺してきた標的をも尋問してきたが収穫はゼロに等しかった。黒幕は恐らく大規模な犯罪組織の一員か、バックに余程の何かがいる奴だと思われる。本当に存在しているのかも怪しい」

「レ○プなんて最低だ。人間のする事じゃないよ。そうか、香織も学校でいじめに・・・・・・とても辛い毎日だっただろうね・・・・・・分かるよ・・・・・・」

「分かる?お前もいじめられた経験があるのか?」

 姫川はライフルに視線を戻すとまあね・・・・・・と弱々しく力のない声で言って

「他の皆と馴染めなかった僕は中学の頃に集団リンチに遭ってね・・・・・・不登校になってしまったよ。何とか高校に進学したけど結局1年で中退しちゃった。精神を病んでしまってね・・・・・・長い間、入院していた時期もあった。僕の人生は呪われていたよ」

「お前にもそんな過去があったのか・・・・・・すまん・・・・・・軽い気持ちで嫌な過去を詮索してしまって・・・・・・」

 姫川は返事をせず少しだけ間を開ける。すると彼は曇らない表情を変えずに再び口を開いた。

「どんなに傷ついても過去を乗り越えて行くしかないんだ。人生は災難の連続、どれだけ遠くに逃げてもそれは僕達の前に立ちはだかる。こんな物騒な物で人を殺す最低な現状だけどいつかそんな日が終わる事を信じて僕は戦う。それに僕は1人じゃない。新たな仲間達がたくさんいる。香織やメイフライ、博仁や他の皆も・・・・・・」

「・・・・・・そうだな、不幸をいちいち恐がってちゃ人間やってらんないよな・・・・・・でもまさか、お前の口からそんな言葉を聞かされるなんて思っていなかったが。お前は俺なんかよりもずっと大人だな。いささか頼りないが優しい兄貴ができたみたいだ」

「ちょっと、それ褒めてるの?」

 仲のいい兄弟のような平凡なやりとりに2人はぷっと頬を膨らませ軽く笑いを吹き出した。やがて白い吐息を長く吐き出すと表情を改めやるべき事に専念する。姫川はうつ伏せに横たわり匍匐(ほふく)の姿勢を取ると右手でストックを押さえ腕の付け根に固定する。セーフティロックを外し左手の人差し指でトリガーに触れた。右目をつぶらせはっきりと開けた左目で長距離用のスコープを覗く。

「ところでさ・・・・・・」

 今度は姫川が聞いた。

「僕が援護するのはいいとして博仁は何しに来たの?ただ、応援にしに来たわけじゃないんでしょ?」

「勿論だ。狙撃手にはもう1人の存在が必要不可欠だろ?」

 博仁は楽しそうに言って双眼鏡を持つ手を揺らした。そして、自身も姫川の隣で同じ姿勢を取り工場を眺める。

「俺が組織に入ったばかりの新人だった頃、とある先輩に『観測手』の知識を叩きこまされた。どうでもいい心得が数年後に役立つ事になるとはな。勉強はやって損はない」

「なるほど、確かに狙撃手は観測手と行動するのが基本ってどこかで聞いた事がある。まあ、頼りにしてるよ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.241 )
日時: 2019/01/03 21:26
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 博仁は無線を通じて下に声をかける。

「聞こえるか?今から作戦を開始するがお前らはまだ動くな。外の見張りを片付けたら指示を出す」

「"分かったわ。あんまり待たせないでよね?"」

 すぐに香織の返答が返って来る。

「どこから攻める?」

 姫川がスコープから目を逸らさずに聞いた。

「見張りを殺る時はまず上から・・・・・・見ろ、最上階の足場に2人いる。奴らクロスボウを持ってるのか?・・・・・・恐らく香織の復讐の矛先が向けられる事を予測して武装を強化したんだ・・・・・・ったく国がおかしくなってからああいう物を一般人が持ち歩くようになっちまって・・・・・・まるで紛争地帯だ」

「僕達もそうじゃない?」

 揚げ足を取る姫川に博仁は"黙れ"とだけ言った。

「とにかく上を一掃するぞ。下の見張りが建物内に入りよりやりやすい環境になった今がチャンスだ」

「分かった。標的を指定して。僕が撃つ」

「よし、まずは1人目だ。12時の方向にクロスボウを持った女。距離は約200メートル、奴が孤立するのを待て」

「了解。合図は任せる」

 姫川は大きく吸った息を止め手中力を高める。銃口の向きをずらし最初のターゲットに狙いを定めるとスコープの視界から外れないよう追う。向こうはこちらの存在に全く気づいてないどころか狙われている事さえも知らずに油断している。

「移動する的を無理に撃つ必要はない。この強風じゃ撃った弾丸は大きく逸れる。まだ引き金は引くな」

 しばらくもしないうちに標的は読み通り足場の端に立ち尽くした。退屈そうにクロスボウを掲げながら背伸びとあくびを同時にしている。仲間との距離は離れ風の流れが緩やかになった瞬間を逃さなかった。

「撃て」

 博仁の短い合図のほぼ同じタイミングで姫川は引き金を引いた。空気が弾ける発砲音が鉄塔の一定範囲内だけに響き反動で全身が一瞬の痙攣のように震える。サプレッサーが取り付けられた銃口から50口径の弾丸が発射されショートリコイルで次弾が装填される。

 弾丸は衝撃波を帯びながら一直線に突き進む。風を切る音にターゲットは違和感を覚えたが直後に視界が黒く染まり意識を喪失した。女の胸部と腹部の間に大穴が空き胃を丸ごと吹き飛ばし肺と心臓、内臓などの臓器が半分以上消える。背中を位置も容易く貫通した弾丸は工場の壁にめり込みリンゴくらいの空洞を作った。

「命中を確認、ターゲットダウン」

 無残に変わり果てた屍をスコープ越しに眺めながら姫川が言った。一旦は安堵し長い吐息を吐き出す。

「くそ、やばいぞ・・・・・・」

 しかし、博仁は喜ばしい反応とは逆にネガティブな台詞を零す。双眼鏡の拡大レンズはライフルとは違う方向に向けられていた。

「仕留めたターゲットの方へもう1人が近づいてくる。恐らく着弾の音に気づいたに違いない」

「どうする!?死体を発見されて騒がれたらまずい!すぐに撃った方が・・・・・・!」

「だめだ。万が一外してしまえば狙撃がバレて奴は逃走する。それこそゲームオーバーだ。様子を見た限りじゃ幸運にもあいつは仲間が死んだ事に気づいていない。とにかく、早くあいつに狙いを定めろ。落ち着いて俺の指示に従うんだ」


「おい、どうした?」

 異変を察した見張りが倒れ込んだ女に声をかける。胴体の大半を失い溢れ出た血だまりに浸る仲間の姿に彼の顔は青ざめた。

「嘘だろ・・・・・・おい!しっかりし・・・・・・!」

 男は我を忘れ叫ぼうとしたがその声は途中で遮られた。びちゃっ!と液体がぶちまけられたような音がして砕かれた肉や骨の塊、血液が八方に降り注ぎグロいアートを描く。男は頭部を失い上半身ごと綺麗に消し飛んだ。死んだ事に気づかないまま無事だった下半身は崩れ塞ぎようがない傷口から体内の中身を放出する。

「屋上はクリア、よくやったな」

 博仁は両目から双眼鏡を遠ざけると口角を上げ狙撃手の肩に勢いの弱い拳をぶつける。

「危なかったね。なかなかのスリルを味わえたよ」

「真下のチーム、聞こえるか?」

「"聞こえてるわよ"」

「上階の見張りは一掃した。少なくともこれであっちから狙撃される事はないだろう。工場に進め。何かあったらまた援護してやる」

 鉄塔の下で香織とメイフライが真剣な眼差しを互いに見合わせる。それぞれの武器を鞘から抜き取り標的が潜んでいる決戦の舞台へと足を進めた。

「準備はいいですね?行きましょう」

 不気味に聳える廃墟と化した工場に一歩二歩と近づいていく度に香織の緊張は増していく。それはこれから人を殺すという罪悪感が原因ではなかった。目の前に存在する敵の巣窟に何が待ち受けているのか知る由もなかったからだ。次の標的はどんな罠を張りどんな手を使ってくるのか?先が読めない展開が不安を煽る。

「香織さん・・・・・・」

 メイフライが厄介な事態に小さく声をかける。香織もその理由を既に知っており正面を凝視しながら無言で頷いた。

「まずいな・・・・・・いきなり次の問題発生だ」

 姫川がいつでも3発目の弾丸を撃てる状態のまま深刻に言った。博仁は実に冷静に銃口の照準が合わせられた遠い先を眺める。スコープは工場から出てくる3人の敵を捉えていた。全員、こちらがここに来る事を予測していたような悪意ににやけた面持ちで次第に香織達との距離を縮めていく。

「前方に3人。鉄パイプとバールを持った男と女が1人、クロスボウを持った男が1人」

「どうしましょう?ここで騒ぎを起こす訳にもいかないし・・・・・・」

 香織はちらっと一瞬、視線をメイフライにやってぼそっと呟いた。この状況を抜け出せる策はないかと思い悩む彼の横顔が窺える。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.242 )
日時: 2019/03/11 19:02
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「やばいよどうする?あいつら間違いなく香織達に気づいてるよ。いくら僕の腕でも一気に3人を片付けるのは至難の業だ。博仁も黙ってないで早く指示を出して」

 焦りが強まり姫川も落ち着きを失い始める。

「あの中に渚の姿はない。くそ、奴がいれば楽に作戦を終わらせられたんだが、簡単にはいかないか・・・・・・」

 博仁は淡々と愚痴を零し再び無線に口を近づけ

「"香織、メイフライ、そのまま奴らを刺激しないよう慎重に近づけ。まだ攻撃はするな"」

「それ本気で言ってるの!?あっちは飛び道具を持ってるのよ!?何もしなかったらやられちゃうじゃない・・・・・・!」

 無線から正気を疑った返事が返る。

「外で音を立てる訳にはいかん。心配は無用、たった今いい案が浮かんだ。いいか?俺の作戦通りにするんだ。一度しか言わんからよく聞け。まず・・・・・・」

 香織とメイフライは迫って来る敵との間を狭め立ち止まると堂々と対峙した。まるで互いにこの先は通すまいと陣取ったように動かない。気迫のある面構えに不良達は目を丸くし交互に顔を見合わせたが道を譲ろうとはしなかった。相変わらず鼻につく笑顔が鬱陶しい。

「ほう、ひょっとしてお前が姫川香織か?渚の奴が必ず来ると言っていたから半信半疑で見張っていたがまさか本当にのこのこやって来るとはな・・・・・・度胸だけはあるな」

 鉄パイプの男がわざとらしくからかった口調で言った。相手はこちらをなめているのか攻撃の姿勢を取らずすっかり油断している。背後にクロスボウの持った連れを控えさせているためか過剰なほどに自信に満ちていた。

「おいおい、腰に差したその日本刀はなんだ?ドンキホーテで買ったのか?どこで手に入れたか知らないが、んなもんで俺達がビビるとでも思っているのかよ?剣道部の達人だか何だか知らないがいくら器用に扱えても刀なんて時代遅れ、飛び道具の前では無力だろ?」

 今度はバールを手にした柄の悪い女が

「しかもさぁ、1人で来るのが恐いから彼氏を連れて来るなんてどんだけ弱腰なの?ウケるんだけどぉ。見てみなよ頼りなさそうなこの顔、こいつ絶対童貞だって!」

 メイフライを指差しながら下品な嫌みを吐き捨てせせら笑う。それに内輪受けした他2人も腹を抱えて爆笑する。その中の1人が中傷を口走りそしてまた愉快に大笑いした。

 2人は彼らの挑発には動じず品のない光景をじっと眺めていた。香織達は好き放題に侮辱の雨を浴びせられているにも関わらず怒りに顔をしかめるどころかにんまりと破顔している。たちの悪い不良達はそんなただならぬ様子なんか気に留めず耳障りな声を立て続ける。

「あのさ、ぷっ!ぎゃはは!こいつ香織って名前だっけ?そう言えば渚が言っていたんだけどさ!こいつ・・・・・・!」

 後ろに身を置いていたクロスボウを持った不良が何かを言おうとしたがその台詞を途中で絶やした。風に似た細い音が瞬きする間に過ぎたかと思うとぷしゃあ!と何かが派手に弾けた。噴水のように飛び散った赤い雨が前にいた不良男女に降りかかる。服や肌の大半が真っ赤に染まり生臭い臭いと生ま温かい感触が背中を中心に伝わる。

「え・・・・・・?」 「は・・・・・・?」

 不良達は笑った顔を留め絶句する。突然の出来事に何が起きたのか理解に追いつけなかった。しかし、体に付着したのが紛れもない地である事に気づきおそるおそる背後を振り返ると仲間の姿が見当たらない。原形を壊されぐちゃぐちゃになった肉片が花火の形を真似、盛大に散乱している。分断され腰から上がない下半身が足元に転がっていた。

「ひぃー!!」

 仲間が殺され女は甲高い悲鳴を上げた。男も鉄パイプを落とし震えた手で吐き気に苛まれた口を覆う。香織とメイフライはその隙を逃さず不意に襲い掛かる。

 メイフライが絶叫する女に腕を絡ませうるさい口を強引に塞ぎ短刀の刃先を背中に深く突き刺した。刀身は皮膚を貫き肉の中を進んで胃を突き破る。女は傷口からだらだらと血を零し目線を上にやると力の抜けた手からバールを落とす。

 香織も刀を横に振るい無防備になった男の脇腹に刀身を過らせる。腹部を浅く裂かれ相手が蹲るタイミングに合わせ背中へと回り込む。そして、グリップを額の位置まで振り上げた刀を勢いよく振り下ろした。男の左腕が胴体から切り離され短く宙を舞った。

「ぎゃああああ・・・・・・!!」

 致命傷の痛みを感じたのはその後だった。

「童貞で結構、お前みたいな売春女よりは清潔でマシだ」

 メイフライはそう耳元で囁き絶命した女を粗末に投げ捨て手に付着した血を服に拭う。香織は出血で直に息絶えるであろう男に止めを刺さなかった。長い刀身の先を首に向けたままお互い正面に向かい合った。

「ひぃいい!・・・・・・お、お願いです・・・・・・殺さないで下さい・・・・・・!」

 油断が仇となり追い込まれた男は怯えきった命乞いをする。

「俺達を殺そうとした奴に助かる選択肢はないんだよ」

 メイフライは弱者を蔑むようににやけ非情な台詞を吐き捨てる。

「頼む・・・・・・家族がいるんだ・・・・・・!だから、命だけは・・・・・・!」

 香織は男を睨み喉笛と刀身の先の間を更に狭くし

「この工場の中に渚はいるの?」

 と鋭く尋問した。

「い、います・・・・・・!」

「工場内にいる仲間の人数は?」

「じゅ・・・・・・20人ほどです・・・・・・」

「そう、分かったわ。情報をありがとう」

 香織は礼を言うと突きつけた刀身を遠ざけ剣技の構えを崩した。

「これで・・・・・・許してくれるんですよ・・・・・・ね?」

 男が声を震わせながら安堵の笑みを浮かべると

「いいわよ。でも・・・・・・」

 香織は突如、力んだ顔で刀身を横に振るった。ひゅんと音がして血が飛び散り笑顔の頭部が地面を転がる。

「許してあげるけどその代わり、首は自分で繋ぎなさいよ?」

 香織はそう頭部に告げると刀の付着した体液を掃った。

「面倒な問題は片付きましたね。ここからは手段を選ばないやり方で派手に暴れてやりましょう」

 メイフライも腕の関節に挟んで拭った短刀を手の中で回し死体を跨いだ。

「"お前達が工場内に入ってしまえば狙撃での援護は不可能になる。中はどうなっているか分からん。くれぐれも油断するなよ?"」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.243 )
日時: 2019/02/02 19:24
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 工場の中は不良集団の溜まり場となっていた。煙草を吸い飲酒を楽しむ者、盗んだ財布の紙幣を数える者、監禁した女の裸写真をに興奮し盛り上がる者。彼らは元は加工場だった広いエリアを改装し自分達だけのテリトリーとして利用していた。

 その中心に1人のリーダーらしき女が玉座のようなソファーに腰かけていた。不良らしい雰囲気は漂ってはおらず穏やかな眼差しを持つ。艶のある黒い長髪、男を魅了してしまう豊満な体つき、細長い素足も美しい。格好もまわりのだらしない制服姿とは違い雑誌に載ったモデルが着るようなお洒落なファッションだった。彼女はマニキュアを塗った自身の爪を見つめて嬉しそうに微笑む。薬品の入ったボトルをテーブルに置くとグラスに注がれたスパークリングワインを一口飲んだ。

「淳く〜ん?」

 そして柔らかい声で手下を呼び寄せる。

「は、はい!」

 淳と呼ばれた不良は恐れ多そうに彼女の傍まで来て深くお辞儀する。

「君、こないだ理奈って子を枕営業に誘い込んで売春・・・・・・じゃなくて社会貢献をさせたのよね?成果はどうだった?」

「はい、流石は渚さんが選んだ女でした。客もお気に召したようでかなりの評判でしたよ。得られた収入は300万、店の方からもまたよろしく頼むと」

「そう、上出来ね。貴方もよく働いてくれたわ。はいこれ、お利口さんにはお給料の20万」

渚は口にした金額が詰め込んであるだろう分厚い封筒を淳に渡した。

「恐縮です。しかし、渚さんには頭が上がりませんよ。暴力団と繋がりがあるあなたがいるお陰で俺達も稼ぎには不自由せずいい仕事ができます。この恩は返しても返し切れません」

「ふふっ、ありがと。世の中はね、お金を持っている人が1番強くて偉いの。弱い人は死ぬまで不幸な人生を送るわ。私達、勝ち組の一生の奴隷としてね。幸せになる秘訣、それは他人を利用し踏み台にしてのし上がる事よ真面目に努力して生きようなんていう人はこの世の仕組みが分からない負け犬。社会を動かしているのはお金と暴力、そして権力よ・・・・・・ところで・・・・・・」

 渚は果物の盛り合わせからブルーベリーを摘まみ口に含むと

「外の見張りをしている大輔くんと理恵ちゃんはまだ帰らないのかしら?あの子達にもご褒美をあげようと思ったんだけどな〜」

「変だな?そろそろ戻って来てもおかしくない頃合いなんですが・・・・・・あ、誰か来ましたよ?」

 不良集団の仲間である女子高生がテリトリーへ近づいて来る。酒に酔ったようにふらふらと歩きその様子にどこか違和感を感じた。

「あらぁ?由美じゃない?廊下を見張ってたんじゃないの?」

「・・・・・・」

 由美の返答はそれだけだった。渚の問いに反応しその場にいた全員が由美に注目する。

「おい由美、どうしたんだよ?渚さんの話聞いてんのか?」

 近くにいた不良の1人が問いかけた時

「死にたくな・・・・・・ぐぶっ!」

 大量の血と共に力尽きうつ伏せに倒れた。背中には刃物で斬られたグロテスクな傷口があった。

「きゃああああ!!」

 由美の死に驚愕で息が詰まりその中の1人の女が悲鳴を上げる。快楽の場は瞬く間に騒然の場となった。

「え!?由美死んだの!?嘘でしょ!?由美!」

「近づくな!全員、武器を持ってて敵襲に備えろ!」

 悪事に塗れた娯楽を中断し不良達はそれぞれの物騒な凶器を手に取った。

「一体誰が襲って来たというの・・・・・・?まさか、敵の組組織!?」

「分かりません!ですが、外に出るのは危険過ぎます!俺の後ろにいて下さい!」

 淳が部屋の奥へ移動させ自らの体を盾とする。

「おい!誰か来るぞ!」

 ハンマーを手にした男子高生が叫んだ。その場にいた不良達は静まり返り警戒心を強める。だんだんと大きくなる遠くからの足音、影が明かりに照らされ襲撃者が姿を現した。

「久しぶりね、渚」

「・・・・・・え?あなたひょっとして香織ちゃん?」

 血が滴る日本刀を片手に香織とメイフライが渚を睨む。

「あらあら、誰かと思えば。久しぶりね?しばらくの間、会ってなかったけど元気そうで安心したわ。隣にいるのは彼氏さんかな?なかなかのイケメンね?」

「無駄話はなしにしましょう。率直に用件を言うわ。渚、今日ここであんたを殺す」

 渚がわざとらしく友好的に接するが香織は温和な態度に流されず脅しをかける。

「私を殺す?うふふ、香織ちゃんったら物騒だな〜。私、あなたに恨まれるような事・・・・・・したっけ?」

 惚けた台詞に香織は口調を鋭く

「あんたは私をいじめの標的にし暴力や嫌がらせで散々な目に遭わせた。でも、そんな事は今はどうでもいい。1番許せなかったのは私の親友を殺しその罪を私に擦り付けて・・・・・・だからその復讐を果たしに来た。零花も伊織も冬美も死んだ。今度はあんたが地獄に行く番よ」

「それ、本気で言ってる?」

 渚がクスッと吹き出したのを合図にその場にいた取り巻き達が一斉にせせら笑った。途切れない下品な笑い声が騒がしく響く。侮辱の雨が止んだ頃、彼女は面白おかしい口調で

「あははは、香織ちゃんって面白い子ね。本当にいじめ甲斐があるわ。あなたねぇ、たった2人でこれだけの人数を相手にできると思ってるの?随分とかっこいい格好をしてるけど映画の主人公にでもなったつもり?」

 見下した台詞にまた何人かがゲラゲラと爆笑する。香織は口角を上げ余裕の強調を強めながら

「ええ、ここにいる全員を殺すつもりよ。武器を手にして群れを作れば無敵になれると思ってるの?はっきり言ってこんな連中、私達2人だけで事足りるわ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.244 )
日時: 2019/02/17 18:23
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「ああん!?何だとこのアバズレ!」

「日本刀持ってるからって調子に乗ってんじゃねえよ!」

「渚さん、こんなクソ共さっさと片付けちまいましょう!」

 すっかりなめられた不良達が逆上し殺意を剥き出しにする。無論、香織達は威圧に引く事もなく

「言っておくけど私達は2人だけでのこのこ足を運んだわけじゃないわ。外には出ない方がいいわよ?"ぐちゃぐちゃ"になりたくなかったらね?」

 と台詞の語尾に忠告を付け足した。

「なるほどね、香織ちゃん達が本気なのは分かった。でもね、あんまりくだらない事ばかり言ってると流石の私も理性捨てちゃうわよ?」

 渚は手の平を打ち合図を出した。すると十数人の不良が前に出て横二列の陣形を作った。そして、猟銃や拳銃を構え香織とメイフライに狙いを定める。

「随分と心強い親衛隊だな。でもこいつら、ちゃんと扱い方知ってるのか?」

 メイフライが鼻で笑い小馬鹿にする。

「香織ちゃん、死ぬのはあなた達の方よ。外の見張りを殺して殴り込んだのはいいけどこうなる自体までは想定してなかったようね?いくらあなたが剣の達人でも飛び道具の前では無力でしょ?」

 渚は淳の背中から勝ち誇った顔を覗かせる。その優位に立つニヤリととした笑顔が鼻につき苛立ちをが湧く。更に追い打ちとして

「あなたの友達の詩織ちゃんだっけ?前から気に入らなかったのよね〜。大した実力もない癖にいい子ぶって、ああいう子を見ると反吐が出るのよ。殺しておいて正解だったわ。まあ、枕営業に引きずり込んでからでも遅くはなかったでしょうけど」

 香織は限界寸前の憎悪に強く歯を噛みしめ

「その不細工な顔を切り刻まれたらもう一度言ってみろよ・・・・・・胸だけが取り柄の風俗嬢・・・・・・!」

 口の悪い挑発を吐き捨てられ遂に渚も堪忍袋の緒が切れ怒りが爆発する。

「どうやら本当に死にたいようね・・・・・・いいわ、望み通りにしてあげる・・・・・・あのアバズレ共を殺せっ!!」

 射撃部隊が一斉射撃を行い無数の弾丸が壁にめり込み穴だらけのアートを作った。香織とメイフライは掃射を浴びる前に出入り口の影に二手に隠れた。弾丸が過ぎる横に身を潜め相手側の攻撃が止むのを待つ。しかし、何人かが弾切れになっても別の何人かが装弾を終え撃ってくるのだ。それが延々と繰り返されなかなかこちらに反撃のチャンスが回らない。

「どうします!?これじゃ埒が明かない!こっちも銃で対抗して・・・・・・きゃ!」

 香織は影から顔を覗かせるが絶えない弾幕に手も足も出せなかった。

「動かないで下さい!出ればハチの巣にされてしまいます!」

「じゃあどうすれば!?」

「大丈夫、俺に策があります!」

 メイフライは短刀を握ってない片方の手を左ポケットに入れ何かを取り出した。スプレー缶のような形状をした物で先端のヒューズに丸いリングが付いている。

「爆弾ですか!?」

 香織が大声で聞くと

「これは手榴弾ではありません!フラッシュバンと言って閃光と音を放ち相手を一時的に怯ませる無力化兵器です!念のためにと思って隠れ家から持って来ました!」

「そんなのがあったんだ・・・・・・とにかくそれを使えば奴らに隙を生ませる事が可能かも知れませんね!」

「香織さん!俺がこいつを投げ込みます!敵が行動不能になった所に斬り込んで一掃しましょう!」

 香織は強く頭を縦に振り"やってくれ"と手の動きで表現した。メイフライは壁に背を預け深く深呼吸し精神を安定させる。人差し指をリングに引っ掛けピンを抜くと部屋の内側へ放り込んだ。

「耳を塞いで!」

 フラッシュバンは地面を転がり銃を撃ちまくる不良達の足元で止まった。香織がメイフライの仕草を真似し間もなくフラッシュバンが爆発する。花火のように無数の白い閃光が光り鼓膜が破れるほどの轟音が鳴り響いた。

「ぎゃああああ!」

「め、目が見えない!がああああっ・・・・・・!」

 目と耳をやられた不良達は戦意を喪失した。視界を奪われ所構わず銃を乱射した事で同士討ちとなり死傷者が出た。全員が弾を撃ち尽くすと混乱の最中、香織とメイフライは隠所から飛び出し斬りかかった。目を塞ぎ絶叫する集団に刀を振るう。刀身はいとも容易く3人の腹部をまとめて掻っ捌いた。返り血を浴びる前に次の標的に走り下段の構えで刃を斜めに斬り上げる。そいつの始末が済むともう1人の頭上を叩き割り無理矢理黙らせた。

 メイフライも胸部を突き刺し蹴り倒すと近くにいた2人の喉を一気に掻き切った。不良達の間を器用に走り抜け急所に傷を負わせ確実に仕留めていく。香織達は敵に抵抗する機会を1秒たりとも与えず殺陣の手を緩めなかった。やがてテリトリーの人数は半数以下となり大勢で立ち塞がっていた銃兵は屍の山と化した。

「・・・・・・ひいっ!」

 渚は晴れた視界に広がる光景を目の当たりにして心の奥底から恐怖を抱いた。さっきまで生きていた手下達の無残な死体が転がっていたからだ。その中心で香織とメイフライが殺意を剥き出しにした眼差しでこちらを凝視し

「形勢逆転ね。言ったはずよ?ここにいる全員を殺すって」

 2人は死体を踏みつけ渚に迫る。

「なっ、何してるの!?早くあいつらを殺して!」

 生き残った数人がやけくそに襲い掛かるが焼け石に水だった。香織は大振りの鉄パイプかわすタイミングに合わせ刀身を前に斬り出す。胸の脇から血を吹き出しふらふらと倒れる不良、もう1人は恐怖に侵され戦う素振りを表さなかった。武器を放棄し命乞いをしようとした矢先、首を刎ねられ死体の仲間入りとなった。メイフライもちょうど返り討ちにした女を横に投げ捨てる。

「あ、ああ・・・・・・」

 渚は淳の後ろから出ようとする度胸さえもなく残った不良達と身を寄せ縮こまった。香織は刃先を突きつけ

「あんたのクズな人生も今日で終わりよ。その前に1つ聞きたい事がある。詩織を殺した男の正体を白状しなさい。素直になってくれれば楽に殺してあげない事はないわよ?」

 と尋問し刀を更に近づける。

「・・・・・・お、男の正体なんて知らない。私はお金を受け取っただけで・・・・・・」

 渚は如何にも動揺した様子で香織から目を逸らす。嘘をつき真実を隠しているのは明白だった。

「そう・・・・・・」

 香織はそれだけ言って刀を鞘に収めた。渚達を安堵させたのも束の間、ホルスターからマリアを抜き4発の銃弾を浴びせる。弾は渚を挟んでいた不良達の額を正確に打ち抜き4人を射殺した。

「ひぃぃ!!」

「私、今凄く機嫌が悪いの。あまり怒らせないでくれる?」

「分かった!知ってる情報は全部話すから!」

 観念したのか渚は言いにくそうに

「あなたの親友を殺した男の名は・・・・・・」


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