複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.205 )
日時: 2020/08/24 19:45
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「正論ね・・・・・・あなたの言う事にほとんど間違いはない・・・・・・」

 しばらく経ってようやく口を開いた。

「冬美を殺してしまった事、あれからずっと後悔してるわ。犯した罪に泣きわめいてももう遅い。これから先、死ぬまで背負った十字架の重さに潰されながら生きて行かなきゃいけないでしょうね・・・・・・妹さんに対しても謝りたい気持ちでいっぱいよ。そう、全部私が悪い。何もかも・・・・・・悲劇の引き金を引いたのは私・・・・・・だけど・・・・・・」

 香織は顔を上げ後に退かない態度でこう言い放った。

「確かに、私は自分が許せない・・・・・・でも、詩織を殺したあいつらはもっと許せないの!あの子はたった1人の親友だった!私がいじめだらけの辛い世界で生きたいと思える希望そのものだった!だけど死んでしまった・・・・・・学校の屋上で無理矢理犯されて突き落とされた!あの子は何も悪くないのに!だから私は誓ったんだ!どんな犠牲を払ってでも最悪な結末が待っていたとしてもこの絶望だらけの運命を受け入れて奴らを必ず追い詰めると!例え過ちを認めるしかない正論を押し付けられても復讐をやめる気など絶対にないわ!」

「もうやめて!!」

 少女は力の限り叫んだ。

「私なんかのために自分の人生を汚さないで!香織ちゃんは十分戦ったよ!私を殺した皆だって後悔してる!もう終わりにしようよ!」

「・・・・・・違う!全部違うっ!!」

 香織は説得に耳を傾けず強く否定した。

「あいつらは後悔なんか絶対していない!人を1人殺して私の人生を台無しにして!逮捕されるどころか大金を貰ってのうのうと生きてる!零花も伊織もそうだった!罪の意識すら持たず自分が殺した人間を侮辱していた!これほど誰かを憎んだ事はなかったわ・・・・・・憎悪だらけの最悪な人生よ!この気持ち、あなたには分からないでしょうね!?」

「分かるよ!!」

「何でそんな事が言えるのよ!!?」

「だって・・・・・・私はあなたの親友の詩織なんだから・・・・・・!」

「黙れっ!!」

 怒鳴り返され少女は身体を身震いさせた。興奮に激しく呼吸する香織を見る。

「あなたは詩織なんかじゃない。ただの偽物よ。本物の詩織は死んだ」

「香織ちゃん・・・・・・」

「あなたが何者なのかは知らないけどそんなのどうでもいい。だけど、あの子の顔をして悪ふざけをするのは許さない。もう二度と私の前に現れないで」

 怒りに任せたい感情を抑えながらも冷静に言い放った。

「・・・・・・やっぱりね。そう言うと思ったよ」

 その時、優しかった少女の声が鋭く凶変した。赤い瞳が髪の影に覆われ強く噛みしめた歯を剥き出しにする。さっきまでの穏やかな面影は消え去り黒い負のオーラが立ち上る。それは彼女の手の平に渦巻くように集まり瞬く間に刀身の長い剣を生み出した。伊織の悪夢を舞台としたコンサートホールで一度は香織を見逃した漆黒の魔剣だ。

「人を殺す事だけの人生を生き甲斐にしている人間に価値なんてないよ・・・・・・親しかった仲間や家族だってもうあなたを愛しはしない・・・・・・醜いだけの現実の世界で制裁を下そうと思っていたけどそういう訳にはいかなくなった。だからね、香織ちゃん・・・・・・あなたはここで短い一生を終えるの・・・・・・」

「なるほど、その剣で今度こそ私を斬るという魂胆ね」

 逃げ場のない世界で死を宣告されても香織は一歩も下がろうとはしなかった。恐れどころか微動だにもせず平然とした表情を崩さない。

「半分は正解・・・・・・でも、殺すのは私じゃない・・・・・・」

 少女は香織を視界から外し隣に立つ冬美の方を振り向いた。冬美も沈黙を保った無表情で少女に視線を送る。

「冬美ちゃん、あなたがこの子を殺すんだよ。首を刎ねてもいい、身体中を好きなだけ刺してもいい、あなたの自由で構わない。裏切りで友情を踏みにじられ可愛がっていた妹さんも傷つけられてずっと悔しかったんだよね?だったら今ここで復讐を果たして。これは私があなたのために用意した最初で最後の晴れ舞台、逃せば後はない」

 そう言って魔剣を血塗れの彼女に手渡した。

「自分の手は汚さないつもり?とんだ卑怯者ね」

 香織は外法な行いに呆れ皮肉を吐き捨てる。

「・・・・・・」

 冬美は両手に抱えた黒く染まった魔剣をじっと眺め続けた。やがてグリップを握り憂い顔を上げると無防備な香織に目を合わせる。彼女に逃げる気配はなく抵抗の兆しすら感じられなかった。

「香織ちゃんは丸腰、これ以上のチャンスはないよ。今のあなたなら簡単に勝てるでしょ?さあ早く殺してしまいましょう」

 少女は気に乗じるように促すが冬美は剣を構えようとはしない。人形のようにそのままの姿勢で動かなかった。

「どうしたの?この子が憎くてしょうがないんでしょ?だったら・・・・・・」

「・・・・・・る・・・・・・」

 冬美が微かに口を開けぼそっと何かを呟いた。

「え?」

 風に揺られる白い息を長く吐き出し、力のない声でもう一度言った。

「断る・・・・・・」

 否定を答えに冬美はあっさり剣を手放す。地面に打ちつけられた鋭利な刃は跳ねて甲高い音を鳴らした。

「なんで、どうして・・・・・・!?」

 少女は驚愕し唖然とした。思いもしなかった返事に平静さを失い理由を問いかける。

「もう憎しみは抱きたくない・・・・・・誰かを恨んでばかりの人生は苦しくてしょうがない・・・・・・もうたくさんなんだ・・・・・・復讐なんて何よりもくだらない生き方・・・・・・いくら繰り返したところで笑顔は生まれない・・・・・・虚しさしか残らないんだ・・・・・・」

 冬美は目の前にいる香織を真剣に見つめたまま

「私が間違っていたんだ。妹の身に悲劇が起きた日、憎しみを抑えられず弱い自分に負けてしまった・・・・・・あの時、友達を許す勇気があったらもっと幸せな結末を迎えていたかも知れない。卑劣ないじめからこいつを守って一緒に辛い日々と戦っていたかも知れない。こいつの親友も死なずに生き永らえていたかも知れない。腸が煮えくり返る程の許せない衝動に駆られても心の奥底ではそうなる運命を望んでいたんだ。憎くなんかない。私はこいつが好きで好きでしょうがないんだよ!」

「冬美・・・・・・」

「香織、この大切さをお前が気づかせてくれた。お陰で本当の自分を取り戻せた。ありがとう、お前という親友に出会えた事が何よりの宝だ」

 彼女は悲し気な面持ちを捨てやっと晴々とした明るい笑顔を見せた。香織もその微笑みにつられ短く笑った。

「私もよ冬美、あなたがいたから毎日が楽しかった。どんなにいじめられても人生を踏みにじられてもあなたを完璧に嫌いになんてなれなかった。いつの日か仲直り出来る日が訪れるのをずっと待っていたわ。そしてその思いは現実になった。最高に幸せな気分よ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.206 )
日時: 2020/08/24 19:48
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 冬美は香織の方へ行き彼女をそっと抱きしめた。胸に顔を乗せ温かいぬくもりを肌で感じた。香織もそんな彼女を優しく見下ろし髪を撫で下ろす。

「温かい・・・・・・」

 その様子を少女は実に不快な気持ちで眺めていた。希望が失せたような憂鬱な表情で1人寂しく立ち尽くしている。

「つまらない。しらけちゃったよ・・・・・・」

 思い通りにならなかった展開に虚しい台詞を零した。だが、それが悪夢の幕引きではなかった。少女は右手をかざすと一筋の黒い邪気を空に向けて放った。

「!」 「!」

 灰色の雲に雷鳴が鳴り響き渦巻き始める。寒気を及ぼす風が一層激しく吹き荒れ地面が揺れ出した。

「一体、何が起こっているの・・・・・・!?」

 2人は異変が起きた世界を見渡した。空を見上げた直後、黒い雨が降り注いだ。氷のように肌に突き刺さる冷たい雫は地面を暗闇の色に塗り潰す。

「せっかくの私の好意を踏みにじるなんて愚かな子・・・・・・わざわざここに連れて来て損した・・・・・・」

 雨水が湧き上がり形を作り出し人間の姿が構築される。それは2人を取り囲む包囲網と化として抜け目を遮った。若い年齢層の男女で白と黒の衣装に首にぶら下げた赤いスカーフ、全員が同じ格好をしていた。銀色にぎらつかせる白刃の剣を手にし光のない深紅の瞳で香織達を睨む。

「こいつらは・・・・・・!?」

 冬美は香織から離れ八方に現れた彼らを見た。

「この子達は私の邪悪なオーラで生み出した絶望の使徒・・・・・・そして対象者を抹殺するだけの存在・・・・・・命乞いは通用しないよ」

 少女は背中から生やした灰色の堕天の翼を羽ばたかせ空中に舞い上がった。地面から離れ小さくなった香織達を見下ろし

「虚無の世界で死んだ者は存在自体が消され無に溶け込む。つまり現実の世界には二度と戻れない。冬美ちゃん、あなたは香織ちゃんと同じ運命を辿る。どこにも逃げ場なんてないよ。絶望を抱えながら無様な終焉を迎えればいい」

 冷酷な言葉を別れとして少女は渦巻く雲の中へ消えた。香織達は処刑人達の中心に取り残される。

「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」

 負の力で造り出された使徒達は何も言わず剣を上段、中段とそれぞれに構えた。威圧感を与えながらじりじりと迫ってくる。

「香織、私から離れるな。絶対にだ」

 冬美が落ち着いた態度で言った。2人は互いに背中を合わせ背後を預ける。

「こんな展開、予想だにしてなかったわ。どうする?」

 絶体絶命の状況の中で香織が振り返る事なく言った。

「こっちは2人、相手は集団。確かに勝算はないに等しいかもな。だが、対抗する術はある」

 冬美は香織の処刑を拒み落とした剣を再び手に取った。大人の身長近くもある長い刀身、両手で持っても結構な重さが伝わる。しかし、それを反対にいる親友に差し出す。

「これを使え。剣道が得意なお前の方が上手く扱えるだろう」

 香織は後ろにちらっと視線を送り頭を横に振った。

「ううん、それはあなたが使って。ただせさえ怪我を負っているのにその上丸腰なんて危険過ぎるわ」

「はっ、私を誰だと思ってる?様々な武術を学んだ戦闘マシーンだぞ?武器などなくても十分に戦える」

 冬美は心配無用とアピールし両腕の拳を構える。その表情は笑っていた。

「まさかあなたと共に戦えるなんて思ってもみなかったわ。悪くない展開だけど何か変な感じ」

「こんな事言うのは凄く恥ずかしいが私は正直嬉しいぞ?何故ならあの時した殺し合いが最後の戦いではないんだからな」

「ふっ、そうね・・・・・・少し前まで水と油の関係だった私達が今はこうして生き残ろうとしている。ここで消えても悔いはないくらいに嬉しい気持ちでいっぱいよ」

 香織も照れ臭そうに地面を見ていた。そんな無邪気な顔を上げ同時に剣を構える。

「反対側は任せたが決して無理をするな。それと絶対に死ぬんじゃないぞ?」

「あなたこそね」

 2人はこれから始まろうとしている死闘に集中する。武装した使徒達は集団という威圧感を与えながらじりじりと迫って来る。輪の形を描いた包囲網は小さくなり動ける範囲が狭まっていく。そして剣が届く僅かな距離でぴたりと足を止めた。彼らはいきなり襲い掛かろうとはせず2人の出方を窺った。相変わらずのたちの悪い視線を送り剣先を八方から向ける。香織と冬美は脅かすように構えた姿勢を素早く切り替える。使徒達はその動きに合わせ目を大きく開いた。片足を一歩後ろへ引きずり後退、そしてまた動きを止めた。

 そんな重苦しい状態がしばらく続いた。香織は気を緩めず使徒1人1人を観察する。尋常ではない殺気を漂わせているものの攻めかかろうとする気配はまだなかった。だが、それだけにプレッシャーが精神を蝕み緊張を膨れ上がらせていく。ためらいの感情を漏らさず平然とこちらを殺そうとしているのが分かる。

(隙がない・・・・・・先に動けば負ける・・・・・・)

 香織は心で思いながらグリップを握る手に力を加えた。心臓の鼓動が次第に激しくなり呼吸の速さが増していった。背中を合わせていて冬美の背中も震えているのに気づく。

「冬美・・・・・・」

 香織が吐息のように呟いた。

「うおおおおお!!」

「があああああ!!」

 途端に使徒達が殺意に狂った雄たけびを上げ悪魔の素顔とも言える血相を露にした。肉に飢えたぎらつく歯を剥き出しにし獲物に襲い掛かる。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.207 )
日時: 2020/08/24 19:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「香織、来るぞっ!!」

 戦いの幕開けに冬美が迫力のある剣幕で怒鳴った。香織側の正面から2人の男性使徒が剣を振り上げ突っ込んでくるのが見えた。

「死ねえぇ!!」

 香織は最初の一撃を頭を低くしてかわした。反対側から迫る次の斬撃に対し魔剣を勢いよく上に斬り上げた。刀身は使徒の両腕に食い込み骨と肉を滑らかに裂いた。そのままひゅんと風を切りもう1人の喉笛を通過した。返り討ちにされた使徒達は負わされた傷から赤い血しぶきを空へと噴き出した。地面に倒れ耐え難い苦痛にもがき苦しみあっさりと息絶えた。

 冬美も自分に向かってくる剣を素手で容易に受け止めた。手加減のない膝蹴りをかまし硬直した使徒の武器を奪うと顔面に深々と突き刺した。片目と脳を破壊され命果てる直前の相手を軽々とそいつの仲間に投げつける。それに当たり怯んだ別の相手に一気に駆け寄り心臓を貫いた。

「やるわね冬美!」

 既に3人目を片付けた香織が楽しそうに彼女の活躍を称賛する。4人目の攻撃を防ぎ拳をお見舞いする。

「楽しむ事が戦いの本筋だ!どちらが多く倒せるか勝負しようじゃないか!」

 冬美も絶好調な返事を返し掴んでいた2人の使徒の頭を互いに打ちつける。やられた両者の頭蓋骨が砕け折れた丸太に似た惨い音を鳴らした。

「全員でかかれぇっ!!」

 最も距離を置いていた使徒が叫んだ。一気に討ち取るための戦法に持ち込む。状況が更に不利になっても2人は怯む事なく勢いを緩めない。

 香織は武装を解き丸腰となった使徒の胸部に魔剣を突き刺す。正面から3人が突っ込んできたのでそいつを盾にした。狙った標的を仕留め損ない4人分の剣が哀れにも彼の上半身を貫いた。香織はすぐに死体を捨て同時に抜き取った刀身を女の使徒の口目掛けて押し込んだ。

 人間ではない彼女は口と首の付け根からどす黒い血を垂れ流すと目線を真上にやり倒れた。仲間の敗死に気を取られた使徒の胸倉を掴み地面に投げ倒すともう1人を一刀両断し抵抗する間も与えず葬った。そして倒れていた奴を最後に刃先をねじ込み追い打ちをかける。

「死にたい奴からかかって来い!」

 冬美は返り血に塗れながら愉快に叫んだ。目は笑っていない。その姿は殺戮を楽しむ鬼神そのものだった。

「怪我を負ったあいつを先に殺せ!!」

 使徒の大半の矛先が彼女に逸らされる。香織を殺そうと奮起していた数人も援軍として加わる。

「なめられたものだ・・・・・・だがな、冥土の土産に覚えておけ。手負いの獣は飢えた獣よりも凶暴なんだよ!」

 斜めから斬り下ろされた剣を受け止め腕の関節に硬い肘を落とした。使い物にならなくなった右手をぶらつかせ女々しく泣き叫ぶ男の使徒。そのまま頭部を鷲掴みにされ終いには地面に叩きつけられる。更に後ろから3人が迫って来た。冬美は先頭にいた使徒の刀身がギリギリに届く前に蹴りをお見舞いした。腹部の衝撃にのけぞった隙に武器を持つ腕を切断した。胴体を離れた腕は剣のグリップを握ったまま宙を舞う。

「ぎゃあああ・・・・・・ごふっ!?」

 使徒は痛感の叫びを上げたが突然の吐血に声は途切れる。鋭い痛みが腹部にも加わり剣が胃を抉っている事に気づいた。狂喜に笑う冬美の顔が間近に見えたがすぐに意識が消え失せ視界は黒く染まった。剣を抜き死体を押し倒すと血を撒き散らして落ちてきた腕付きの剣を左手で受け止め次の標的に投げつける。剣は回転しながら真っ直ぐ飛び最後列にいた狙いを定めていた使徒の額に刺さった。中段の構えで斬りかかる次の使徒に今度は返し技で武器を奪い首と肩の付け根に刃先を落とし心臓を串刺しにした。

「あ・・・・・・ああ・・・・・・」

「痛いか?楽にしてやる」

 冬美は深く体内を抉った剣を簡単に抜くと女使徒の身体を反転させた。硬い筋肉が盛り上がる両腕で頭部を抱きしめ力づくで捻じ曲げる。

「冬美っ!」

 香織は残った相手を斬り捨て始末を終えると急ぎ助けに向かう。自分には見向きもしなかった使徒の口を背後から塞ぎ魔剣で背中と胸を上斜めに突き上げた。手の中で絶叫を漏らすそいつを横に投げ捨て次の無防備の使徒を斬ろうとした・・・・・・しかし・・・・・・

「!」

 男女の使徒が、待ち伏せていたかのように急に香織の方を振り向いた。2つ短い刃が思い魔剣の大振りを防御する。香織は一瞬、焦りを見せたが何とか冷静さを保つ。競り合いで圧倒しようとはせず一度後ろに飛び下がった。敵は時間を与えず同時に襲い掛かかる。

「・・・・・・くっ!」

 香織は男の攻撃を防ぎ女の横振りをかわした。受け止めていた刃を弾きそのまま反撃するが

「!」

 男使徒は香織の両方の手首を押さえ当たる直前の大振りを防いだ。そして、掴んだ手を手錠のように絞め攻撃の術を封じる。香織は力づくで抵抗するもののびくともしない。

「今だ!こいつを殺れ!」

 大きくできた隙を見逃すはずもなく背後から女使徒の猛攻が迫る。香織はとっさの判断で蹴りを向かってきた奴に喰らわした。これから嘔吐でもするかのような気持ち悪い声を上げ女使徒は仰向けに押し倒された。次に男使徒を額の頭突きで怯ませ金的に膝を打ち込んだ。

「ひぎゃああああ・・・・・・ああああああああ・・・・・・!!」

 あまりの激痛に股間を押さえうずくまる男使徒。情けない顔を上げた瞬間、魔剣の刀身が喉元を通り過ぎる。骨の中身が見える切り口から血を撒き散らし落ちた頭部が地面を転がっていった。すぐさま残ったもう1人を仕留めようと武器を構えた姿勢の向きを変える・・・・・・が女使徒は既に態勢を立て直していた。勢いよく振った剣が香織の肩の皮膚に食い込む直前だった。反射的に身体をずらすもやはりかわし切れず肉を浅い傷を負った。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.208 )
日時: 2020/08/24 19:52
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「痛っ・・・・・・!」

 鋭く走った痛みに斬られた所を手で覆い顔をしかめる。距離を置くため後ろへ下がろうと試みたが、さっきの報復として腹部のくぼみを蹴り返された。今度は香織が飛ぶように倒され地面に背中を打ち付けられる。

「香織っ!!」

 その危機を目の当たりにした冬美は使徒の1人を突き飛ばし包囲網から脱すると親友の元へ走った。彼女を殺そうと圧倒する女使徒を妨害し息の根を止めるはずの剣先を危機一髪ずらした。女使徒は舌打ちし残忍な目つきで冬美を睨んだ。攻撃の矛先を彼女に変えるも二刀を持った相手には敵わず輪切りに腹部を掻っ捌かれた。

「うぇっ・・・・・・うげああああ!!」

 返り討ちにされ女使徒は膝をつくと溢れ出てくる中身を押さえ泣き叫んだ・・・・・・が、額の先にある脳に止めが刺さり大人しくなった。

「香織っ!大丈夫か!?」

 冬美が振り返った時、残った人数全員で攻め寄せてくる使徒達が見えた。今度、彼らは無防備な香織に狙いを定めたのだ。最悪な事に彼女は衝撃の強い打撲に起き上がれず動けない状態だった。大分数は減ったものの相手は集団、冬美1人では守り切るのは難しい。

「・・・・・・!」

 逃げ場のない状況に香織は凍りついた。抵抗すらままならずどうすればいいのかさえも分からなかった。何もできず迫って来る使徒達を恐怖の眼差しで見上げる。

「香織ぃぃ!!」

 冬美が叫び剣は一斉に振り下ろされる。香織は刀身の雨が当たる瞬間、ぎゅっと目をつぶった。


 ザクザクザクザクザクザクッ!!


 身体に深く突き刺さるいくつもの剣の音がした。

「・・・・・・?」

 だが、何故か香織は痛みを感じなかった。代わりに生温かい液体の感触が顔に伝わり鉄臭い臭いが漂い始める。不思議に思いおそるおそる目を開くと自身に何かが覆い被さっている事に気づく。そこから剣の先端が短く突き出ておりそこから垂れて出てくる黒い液体が・・・・・・紛れもなくそれは血だった。事切れそうな吐息の音で自分を守った何かの正体を知り香織は青ざめた。

「冬美・・・・・・!」

 冬美は自ら盾となり香織を庇っていたのだ。やがて彼女は意識を失いピクリとも動かなくなった。

「そ、そんな・・・・・・いや・・・・・・いやああああああ!!」

 香織は呼吸のない親友にのしかかられながら泣き叫んだ。どんなに名前を呼んでも目を開ける事はなかった。悲劇の場面を使徒達は何食わぬ顔で見下ろしていた。正面に立っていた1人が退屈そうに鼻で笑い同胞達に命令する。

「手こずらせやがって。だが1人は片付いた。もう1人の始末は任せる」

身体に刺さっていた剣は抜かれ背中から余った血が噴き出す。
冬美は後ろへと退かされ粗末に投げ捨てられた。
使徒達は今度こそ逃がさんと香織を取り囲み改めて終止符を打とうとする。
再び剣が振り上げられた。

「ひぃ・・・・・・!」

 香織は血の気が引いた顔を両手で視界を遮り死を覚悟した。

「があああああ・・・・・・ぶふぉっ・・・・・・!?」

 男使徒の1人が突然に絶叫し血を吐き出しその場にいた全員の視線が彼の方へ向けられる。よく見ると胸を背後から剣で突き立てられていた。何が起こったのか理解する暇もなく倒れる使徒の後ろに1人の人間の姿があった。信じられない事に瀕死の重傷を負ったにも関わらず冬美は生きていた。だらだらと刺された傷口から血を溢れさせながらもゾンビのように起き上がったのだ。

「冬美・・・・・・!?」

「・・・・・・私の・・・・・・!」

 修羅とも呼べる形相で冬美は使徒2人の首を両手で絞めつけた。

「がっ・・・・・・かあ・・・・・・!」 「げえぇ・・・・・・ぐがっ・・・・・・!」

 死にかけているとは思えない凄まじい握力、皮膚に食い込んだ爪が気管を塞ぐ。

「私の・・・・・・親友に触れるなああああああ!!」

 冬美は力の限り怒鳴って掴んだ手に力を加えた。醜い音と共に首の骨が粉々に砕かれる。口から血の泡を吹き出し目線を真上にやった使徒達を捨てもう1人に飛び掛かった。

「し、信じられん!こいつ化け物か!?」

 驚きのあまり気を取られている隙を見て香織は魔剣を握りしめた。横たわった姿勢のまま刀身を横に振りしとの両脚を切った。

「あああああああ!!」

 身体を支えていた台を失い倒れ込む使徒。香織は態勢を戻すと致命傷を与えたそいつを無視し残った2人に斬りかかる。不覚にも不意を突かれてしまった男使徒はとっさに反撃する。斬撃は一見すると相打ちにも見えたが刃は重ならず片方の刀身は違う所に食い込んだ。甲高い金属音の代わりにぶしゅっ!と液体が弾ける音がした。同時に血が地面にぶちまけられる。

 両腕を落とされ使徒は絶叫と共に涙と唾液を垂れ流した。更に魔剣を突きつけられ口と喉を貫かれる。事切れそうな声を詰まらせ最後は頭部を一回転に捻じ曲げられた。もう1人が襲ってきたので香織は変な方向のに顔が向いた使徒の口から魔剣を抜いた。降り注ぐ刀身の雨を全て受け流し肘打ちを入れ怯ませる。後ろへと押しやられた使徒は苦戦を強いられた表情で今度は剣の先端を先に構え素早い突きを繰り出した。香織はそれを難なくかわし相手の手を押さえたのが同時だった。横に振られた魔剣は風を切る音を鳴らし女使徒の目を半分に切り裂いた。

「がああああああ!!」

 視界が黒に染まり女使徒は顔を覆い痛感の悲鳴を空へ放った。手の中から血涙が零れる。絶望した直後、刀身が彼女の頭から腹部まで通った。女使徒は綺麗に真っ二つにされ皮を剥いたバナナのように上半身の半分半分が横に広がった。醜い物体と化した死体は後ろへ倒れ地面に血の池を作った。

 冬美は唯一戦える使徒を掴み倒し体重をかけのしかかった。馬乗りになった状態で何回も使徒の顔面に硬い拳を振り下ろす。何回も何回も何回も何回も何回も何回も・・・・・・精悍な顔立ちが醜く壊れてもどんなに血を吹き出してもやめなかった。やがてもう何度目は分からない拳を掲げた時、彼女は血を吐き既に命を手放した使徒にぶちまけ死体の上に覆い被さった。

「ひっ・・・・・・ひいいいぃ!!」

 最後の1人となった使徒は殺意の形相で自分を見下ろし近づいてくる香織に恐怖した。武器を手にする事もかなわず情けなく逃げようとしても彼には脚がなかった。命乞いする間も与えられず呆気ない最期を遂げた。

「はあはあ・・・・・・くっ・・・・・・うう・・・・・・」

 突き立てた魔剣を手放し香織も地べたに倒れた。力が抜け固まった全身を生きている実感を強く味わう。戦いは終わった。広場は無様に返り討ちにされた使徒達の死体で埋め尽くされていた。おびただしい血と肉の塊で一杯だった。嵐は止み虚無の世界は再び虚しく寂しい空間へと静まり返る。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.209 )
日時: 2020/08/24 19:54
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「う・・・・・・ううっ・・・・・・冬美・・・・・・!」

 香織は当分は治まりそうもない震えを無理に抑えふらふらと立ち上がった。傷を負い血が出た肩を掴み戦場の跡地とも呼べる地獄絵図を見回す。もう生きている敵は1人たりともいなかった。無残に切り捨てられた死体から湧き出た生肉の臭いが鼻を刺激する。

「あ・・・・・・!」

 死体の山から変わり果てた冬美の姿が目に留まった。香織は夢中になって彼女に駆け寄り死体を踏んで転んでもすぐに起き上がって感覚のない足で走った。彼女は無我夢中で冬美を仰向けに抱いた。そして、繰り返し名を呼んだ。しかし、冬美は目を細く開いていただけで返事はなかった。体温はまだ残っているものの、口から血をだらだらと垂れ流す。

「私の・・・・・・せいだ・・・・・・私のせいで・・・・・・」

 最早、それしか言えなかった。無力な自分をどこまでも悔やんだ。だが、どんなに自分を罵っても心は晴れるはずもなく無念な想いが増していく。香織は止まらない大粒の涙を零しいつまでも冬美を抱きしめていた。何もかも絶望し泣きわめこうとした時

「・・・・・・げほっ・・・・・・!」

 一瞬、誰かが咳きをし香織の腕にびくんと痙攣が伝わった。吐き出された血が顔に点々と付着する。

「・・・・・・!!」

「い・・・・・・痛てえよ・・・・・・香織・・・・・・」

「ふ、冬美・・・・・・!?」

 冬美はこちらを見上げ和んだ微笑みを浮かべていた。苦し気な呼吸をしながら一瞬、走った痛みに顔をしかめる。香織は驚愕のあまり思い当たる言葉が出ず自身の正気を疑ってしまった。

「冬・・・・・・」

「何だよ・・・・・・またお前に抱か・・・・・・れたのかよ・・・・・・恥ずかしいか・・・・・・ら離れてくれ・・・・・・ないか・・・・・・?」

「ふ、冬美・・・・・・よかった・・・・・・本当によかったっ!!」

 香織は歓喜に狂いとうとう泣き出してしまった。死を免れた親友を一層強く抱きしめる。いてえ!と叫ぶ冬美の声を無視してしばらく離さなかった。


 2人は大量に転がる死体の中、変わらない姿勢でその悍ましい光景を眺めていた。部位のない死体、頭部がぐちゃぐちゃになった死体、人の原型をとどめていない死体。残酷に斬り捨て彼らの命を奪った感触は無論、心地いいものではない。しかし、相手は全て自分達を亡き者にしようとした人ならざぬ者達、人間を殺した感覚はなく罪の意識や罪悪感は感じなかった。

「まさか、本当に生き残れるとはな・・・・・・正直ここで死ぬのかと思った」

 冬美はぼーっとした顔で横たわっている使徒に視線を合わせぼそっと言った。

「私も今だに信じられない・・・・・・2人だけでこんな大人数を相手にして死に損なうなんて。余程、運がよかったのね」

「お前がいなきゃ多分助からなかった・・・・・・やはりお前は最高のパートナーとしか言えんな・・・・・・」

「お互い様よ。あなたが助けてくれたから私は無にならずに済んだ。・・・・・・あと、ごめんなさい・・・・・・」

 最後に付け足した台詞に冬美は意外な顔をした。

「はあ・・・・・・?何でこのタイミングで謝るんだよ・・・・・・?」

「さっき私達を殺そうとした少女に詩織を殺した奴らは許さないって言ったのを覚えてる?お互いに和解したはずなのにあなたをまだ許していないような発言をしてしまった・・・・・・」

「何だ・・・・・・そんな事か・・・・・・」

 気にするに値しない理由に冬美は苦笑する。

「そんなのすっかり忘れていた・・・・・・まあ、何て言うか・・・・・・私がお前の親友を死に・・・・・・至らしめたのは紛れもない事実なんだからな・・・・・・ああ言いたくなるのも無理はないさ・・・・・・」

 と温和な態度で香織の頬に手を当てた。

「そんな事ないわ・・・・・・私だっ・・・・・・痛っ・・・・・・!」

 斬られたばかりの肩の痛みに香織は静かに唸った。体液が染み込んだ服の穴を捲ると見るに堪えない傷口が見えた。血は固まらずまだ出血が続いている。

「大丈夫か・・・・・・?そう言えばお前、怪我・・・・・・したんだったな?今、手当てしてやる・・・・・・」

「何言ってるのよ?私なんかよりもあなたの方が・・・・・・」

 冬美は鼻で笑ったが表情の形は生真面目に

「認めたくはないが、私はもう死んでいる・・・・・・今更、傷を塞いでも意味なんかない・・・・・・あの世行きの運命は変えられん・・・・・・」

「でも・・・・・・その傷で起き上がれる?」

「ああ、さっきより大分痛みも引いてきた・・・・・・お前が言った通り私は人間とは・・・・・・かけ離れているのかも知れないな・・・・・・」

 冬美は1人で起き上がると着ていた服の一部を細長く引き千切る。それを包帯代わりとして香織の肩に丁寧に巻き付けきつく結んだ。

「痛くないか・・・・・・?」

「ええ、ありがとう・・・・・・悪くないわ」

 傷の手当てを施され香織は礼を言った。ついでに1つの質問を付け加える。

「戦いは終わってめでたく生き残れたけど、これからどうするの?」

「私か?言っただろ・・・・・・あの世に行くしかないって・・・・・・ほらあそこに・・・・・・」

 冬美は正面を指差し香織はその方向へ視線を送る。最初に来た時は気づかなかったが遠くに浮島が浮かんでいる事を今になって知った。塔のように高くそびえ立つ扉があり僅かに開いた隙間から白い光が差し込んでいた。そこへ繋がる岩の橋が長々と伸びている。

「多分、あそこが私にとっての・・・・・・あの世への入り口・・・・・・」

 冬美は思った事を口に出し立ち上がったが脚のバランスを崩し跪いた。香織は慌てて彼女を支えゆっくりとまた起き上がらせる。

「どうやらあなたとはここでお別れのようね・・・・・・」

 香織は切なさを隠しきれずに言った。

「そのようだな・・・・・・こんな結末、望んではなかったが・・・・・・再びお前と会えて嬉しかったぞ・・・・・・」

「私もよ冬美、例え生と死の別れ道で離れ離れになっても絶対にあなたを忘れない。私達は永遠の友達よ」

 それを聞いて冬美は嬉しさにぐすっと鼻を啜り涙を拭いながら

「じゃあ・・・・・・一緒にあそこまで行ってくれるか・・・・・・?」

「勿論よ。行きましょう」

 2人は肩を抱きながら死体置き場を後にし終点に続く階段を下った。香織達は平らな岩の橋を時間を掛けて渡っていく。一歩足を前に出すにつれ少しずつ扉へと近づいていく。あそこまではまだ結構な距離がある。親友同士、一緒にいれる時間はまだ十分にあった。だが、その裏腹に永遠の別れをする時はそう遠くないという事も2人は口に出さずとも分かっていた。


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