複雑・ファジー小説
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- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.91 )
- 日時: 2019/01/15 20:37
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「・・・・・・あ」
その時、香織は何かを思い出した。
「仮面・・・・・・忘れた・・・・・・」
「仮面?おいおいパーティじゃないんだ、あんな物持ってくる必要はないだろ?」
博仁は呆れて鼻で笑う。
「香織さん、気を引き締めて下さい。道場には一緒に行きますがこれはあなたの戦い、主役はあなたです」
メイフライが真剣な表情で目の前に座る新入りの覚悟を確かめる。
「ええ、分かってます。零花は私自らこの手で葬ります・・・・・・!」
武者震いした右手をもう片方の手で抑え込む。心臓の鼓動が早くなり息も乱れてきた。汗も出始める。そんな香織の様子を少し不安そうな目で見つめる。
「今のうち武器と防具を装備しておけ。目的地にはすぐに着く」
博仁がハンドルを強く握りしめ自分の役目に集中する。
「香織さん、隣にあるのがあなたの装備品でしょう。囚人服を脱いで戦服に着替えてください。俺は目を塞いでおきますから」
「別に構いません。気にしないしそんな事、言っている場合じゃないと思いますので」
2人はケースに手を伸ばしこれからの戦の準備をする。香織は刀とバトルスーツを取り出しメイフライは短刀をポケットにしまう。
「装備完了!」
「こっちも完了しました!」
戦闘準備はすぐに整った。
「とうとう始まるのね・・・・・・血で染め上げてやるわ・・・・・・!」
香織は殺意に満ちた眼差しで街の方向を見ながら武器を強く握り締める。
「2分後に街に入る。それと念のためにカーテンを閉めろ。香織、忘れてないと思うがお前は無実とはいえ脱走した重罪人、警察に見つかれば厄介だ」
「了解よ」
「最後に・・・・・・お前は本当に同級生を殺せるか?共に3年近くも一緒に過ごしてきた・・・・・・」
「そんなの関係ない。私にとってあいつらは敵、死んだ方が世のためになる害虫に過ぎないから」
博仁は前を見ながら軽い笑みを浮かべる。
「分かった。もうこれ以上士気が下がるような質問は言わん。悪かったな」
「ところで香織さん、あなたを陥れた容疑者の1人、零花ってどんな人だったんですか?いじめっ子ですか?」
メイフライが質問する。返答に困り香織は難しそうに頭をかく。最初の標的は人としての欠点があり過ぎてどこから話せばいいか迷った。
「いじめっ子ではありません。できの悪い剣道部の副主将です」
「へーなるほど、じゃあ香織さんの次に強かったんですね?」
香織は半笑しながら首を横に振り話を続ける。
「もし私とあいつが姉妹だったらケンカしない日なんてなかったと思いますよ」
「そんなに仲が悪かったんですか?」
「いえ、私に勝てないから嫉妬して勝手に目の敵にしてるだけです。あいつが副主将だなんてこれっぽっちも認めてません」
香織が呆れを隠せない様子で言う。
「でも強かったんでしょ?」
「反則と言ってもいい方法で戦っていたから勝てる可能性が高かっただけです。県大会では見事反則負けになりましたよ。あいつは竹刀を粗暴に振り回して相手の脚に大怪我させたんです。竹刀も相手の骨も真っ二つに砕けて、会場は大騒ぎでした」
メイフライも苦笑いをして
「野蛮な女ですね、剣道をバトルゲームとしか考えてないタイプですよそれ」
「ええ、私も同じ事を思っていました」
その以心伝心に2人は声を出して笑った。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.93 )
- 日時: 2019/01/15 21:06
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「その女に対してますます殺意が沸いただろ?これで心置きなく斬り捨てられるな」
博仁も運転席から口を挟んだ。
「じゃあ今から簡単な作戦を説明するぞ?標的のいる道場の近くまで来たらお前らをバンから降ろす。建物に入って奴を殺ったらすぐに戻って来い。何か質問はあるか?」
「本当に簡単ね・・・・・・」
香織やる気をなくしたように言いついでに簡単な質問をする。
「博仁さんは行かないんですか?」
「あのな、万が一俺が死んじまったらもう終わりだと思え。誰がお前らを安全に隠れ家まで帰すんだよ?」
香織はむっとした顔で運転手を睨んだ。今度はメイフライが先輩らしい真面目な質問をする。
「もし道場に零花だけでなく奴の仲間がいたら?いくらこちらが戦い慣れているとはいえ多数に相手にするのはリスクが高すぎると思います。香織さんは俺より強いかもしれませんが殺しに関してはまだ素人です」
「心配無用、調べ上げた情報が正しければ奴はそこで『1人』で剣道の特訓をしているみたいだ。クズ女にしては中々の努力家らしいな。喜べ、例え大勢を相手にする事になったとしてもとっておきの秘密道具を用意してある。着いたら渡す」
街の外れは都会とは裏腹に田舎の風景が広がっていた。人工的な産物が見当たらない草や木の楽園、自然と夜の静けさが不気味な風景を作り出す。道場が近くに迫りすぐ下の坂道でバンは停止した。
「はあ・・・・・・!はあ・・・・・・!」
息がさっきよりも乱れ目から涙を零す。それを見たメイフライは彼女の肩に手を置き精神を落ち着かせると
「涙を拭いて、詩織さんの仇を討つんでしょ?」
本来の目的を思い出させ士気を高めさせる。
「着いたぞ。車から降りるんだ」
戦闘担当の2人は車内から出ると上の方にある道場を見た。白い明かりが点いていて中を照らしている。よく見ると人影が見えそれははっきりと動いていた。音は聞こえなかったが人がいるのは確か、どうやら情報が的中したらしい。
「零花・・・・・・!」
香織が刀を強く握りしめ憎悪を顔に出す。ギリギリと鞘を締め付ける音が静かな暗闇に響く。
「よし、さっき話したとっておきの秘密道具を渡す」
博仁は運転席の足元から得体の知れない箱を取り出しそれを2人の前まで持って来てご丁寧に蓋を開けた。
「・・・・・・それって、ピストルですか・・・・・・!?」
予想以上だった代物にメイフライは驚愕する。香織も驚いた様子で目を丸くした。
「『ベレッタ92』、軍用の自動拳銃だ。装弾数は15発、無駄撃ち厳禁だ」
「これがあれば圧勝は確実ですね。いや、負ける方が難しいかも・・・・・・」
「戦いに卑怯も正道もない。どんな手を使ってでも息の根を止めるんだ。特殊な改造を施してあるから銃声も反動も大幅に軽減されている。自慢じゃないがこの品は・・・・・・」
「そんなのいらない・・・・・・」
香織が得意気な話の途中で否定的な言葉を割り込ませる。
「何故だ!?」 「どうしてですか!?」
「さっき言われた通りこれは私と零花の戦いなの。そんなので勝っても意味などないわ。あいつには何度も竹刀で頭を叩かれた。だから今度は私が本物の真剣で奴の脳天を叩き割ってやる番よ」
「同じやり方で返したい気持ちは分かる。だが一応持っていけ。追い込まれた時に役に立つ」
「いらないわ」
「・・・・・・ならいいが、それで後悔しても俺を恨まないでくれよ?」
香織は拳銃を受け取らず刀を腰のベルトに差した。メイフライは受け取った拳銃の弾倉に弾が入っているか念のために見た。大丈夫そうだと確認すると弾倉をはめスライドをコッキングする。2人は軽く準備運動をして痛々しい骨の音を爽快に響かせた。
「よし、ウォーミングアップはすんだな。2人ともX-12を装備するんだ。」
「前に言っていた無線機の事ね?」
「これも念のためだ」
博仁から小型無線機を受け取り香織はバトルスーツの襟の裏、メイフライは耳の下にくっつけた。スイッチを入れ起動を確認すると準備は全て整い道場に足を進める。
「じゃあな2人共、存分に戦ってこい。決着が着いたらまた会おう」
少し歩いてついに道場の前まで来た。香織はいきなり出入り口の扉を開けずガラス越しに中を覗いた。部活の時と同じような構造のホールが見えちょっとした懐かしさを感じる。肝心の零花の姿は見当たらない。
「誰もいませんね。でも、明かりが点いてるという事は人がいる。博仁さんの情報は正しかったみたいです」
メイフライも不安が和らいだのか安心する。ポケットに手を入れいつでも銃を抜ける態勢を取った。その時、無線から声がする。
「"香織、今話せるか?言い忘れていた事があった"」
「何よこんな時に、緊張感がないわね」
博仁はすまんと文句をスルーし会話を続ける。
「"いいかよく聞け、これは『戦い』であって『狩り』じゃない。それ故に最悪な事態を想定しなけらばならない。意味が分かるか?零花は確かに救いようがない低能だろうが正面から本物の刀に挑むほどバカじゃないはずだ。それにお前が脱走したと分かった以上、復讐の標的にされる事も承知してると思う。向こうも罠を張っているかも知れん。十分に気をつけろ"」
「よく分からないけどあいつも銃を持ってるって事?」
「"それは分からん、だが油断だけは絶対にするな"」
それだけ言うと無線からは何も聞こえなくなった。香織は少し不安になり"もっと早く言え"と愚痴を零す。
「もし相手が銃を持っていたら俺に任せて下さい。殺しの腕は俺の方が上ですから」
「頼りにしています」
香織が先頭に立ち道場の扉を開けた。メイフライが後方で援護するように彼女の背中についていく。警戒しながら中に入り込む。
「あの、メイフライさん・・・・・・」
「はい、何でしょう・・・・・・?」
2人は小声でコミュニケーションを取る。
「もし私が零花と出くわしたら一騎打ちの勝負をさせてください・・・・・・じゃなきゃ気が済みませんので・・・・・・」
「本当に大丈夫ですか・・・・・・?」
「私が返り討ちに遭い命を落としたら迷わず引き金を引いてください・・・・・・」
「・・・・・・分かりました。」
最後にメイフライはそう答えた。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.95 )
- 日時: 2019/01/24 17:11
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
扉を抜けホールに足を踏み入れた。気配がない広い空間が2人を迎え入れる。久しぶりの畳の匂い、これからこの緑の床が血で赤く染まるのだ。大量の血しぶきを想像するだけで目まいがしそうになるが不要な考えを殺意で紛らわせる。香織は"出てこい!"と叫んで脅かしてやろうと考えたがやめる事にした。これは殺人鬼が考案した復讐ゲーム、驚かさなきゃ面白くない。理性はまだ保っているはずなのにそんな感覚が今になって芽生える。本人は認めたくはなかったが早く相手を切り刻みたいという感情が生まれていた。
「は〜、やっぱ練習かったるい・・・・・・」
声がしたかと思うと向こうに見える扉が開きついに零花が姿を現した。メイフライは瞬時に銃を抜く姿勢を取り標的を睨み付ける。香織は刀には手を触れずただ殺意の目で歯を強く噛みしめただけだった。
髪が少し伸びていたがそれ以外は何も変わっていない零花。夢にまで出てきて自分を苦しめた憎き宿敵にようやく再会を果たした。2ヶ月間、特にこいつを殺したいという思いで過ごしてきた。奴の冷酷な面を想像しながら地獄の訓練を一度も休まなかった。久しぶりに会った予想した通り堕落した根性は健在のようだ。罪もない人間を殺したにも関わらず平然とした表情をしている。
「もう帰ろっか・・・・・・うわっ!?」
剣道着と防具を着たまま汗を拭きながら後ろを振り返る。直後に幽霊を見たようなリアクションをし動揺を隠せずタオルを床に落とす。恐れ戦いたのか身体を震撼させたが目を合わせた途端、元の状態に戻った。何だお前かと余裕そうに可愛くない笑みを浮かべる。
「へえ〜、生きてたのか。逃げ出したと聞いたがとっくに射殺されてるのかと思った」
毎度お馴染みの嫌味口調、狼のような八重歯を見せる。憎悪を抱いた香織に対して愉快そうに汚い発言を続ける。
「その似合わない服装は何だ?お前に迷彩服なんてキモ過ぎだしはっきり言って笑えない。それに後ろにいるのはもしかして彼氏?お前まさか・・・・・・とうとう処女卒業か!?おめでとうぎゃははは!」
「・・・・・・よかった、これで心置きなくあなたを殺せるわ」
香織は呆れた口調で言ってため息をついた。
「さっさと殺っちゃいましょう。こんなアバズレがいたんじゃ男性は外を歩けませんよ」
メイフライも零花がこんなにも質が悪いとはと心の中で言った。想像を絶する気品のなさにこれに合った皮肉すら思いつけなかった。
「お前が私を殺す?下らないジョークは家でやれ。まさか2人係で襲う気か?」
「安心して、私はあんたと違って卑怯な手段はとらない。正々堂々と一騎打ちでケリを着けましょう」
それを聞き零花はそう来たかと腹を抱え大笑いした。
「あんたは私の大切なたった1人の親友を殺した・・・・・・、今度は私が殺す番よ」
「はあ?親友?・・・・・・ひゃははっ!あんなデカパイ、死んで悲しむ奴がいるとはね。世界はやっぱ広いですな!」
その発言に香織の頭の中で何かが切れた。それが開戦の合図だった。彼女は最後まで子供のように怒鳴ったりはしなかった。今までしなかった鬼のような形相でちょっとだけ拳を握りしめる。そして刀のグリップに手を伸ばした。
「絶対に許さない・・・・・・言い残すことはないわね・・・・・・?」
それだけ言うと香織は刀を抜いた。
「!」
銀色の刃を見た零花は今までバカにしてきた奴に対して初めて恐怖した。今になって本気で殺意を抱いている事を理解し後退りする。しかしそれはいじめる側のプライドが許さなかった。丸腰の状態でどう抗うつもりなのか分からないが逃げ出す仕草は見せず逆に睨み返した。
「て、てめえ〜・・・・・・!」
零花は何を思ったのかそそくさと出て来たばかりの部屋の中へ入っていった。
「待てっ!!」
理性を捨てすぐさま後を追おうとしたがメイフライが引き止める。
「行ってはだめです!罠かも知れませんよ?」
例え相手が無防備でも決して油断を許さなかった。修羅場を豊富に経験した彼には分っていた。手負いの獣と不利な状況なのにも関わらずほとんど動じない相手には『切り札』がある事を。あの動きだけでそれを見抜いていたのだ。
零花が再び姿を現した。奴は丸腰でいるのをやめ何かを手にしている。竹刀ではなかった。刀身が持っている人間の背よりも長い大きな日本刀だった。香織は驚かずにはいられなかったが顔には出さなかった。悪党はどこまでも汚いと呆れながら向こうよりずっと短い刀を構える。
(くそ、まさか大太刀を切り札として隠していたとは・・・・・・レプリカだろうが真剣である事には変わりない。この勝負、香織さんが不利だ・・・・・・)
メイフライが戦況を分析する。難しく考えなくても武器を見ただけで容易に結論を出せた。認めたくないがかなり勝算の低い命懸けの剣道だ。
「命乞いしていいぞ?そしたら楽に殺してあげてもいいかも」
零花が有利な立場に調子に乗って挑発したが香織は何も言わず無反応だった。集中力を高め決着が着くまで喋らないと決めていた。剣道の時と同じ姿勢を保ちながら相手が先に動くのを待った。まわりの空気を気にせず心を無にし恐れを捨てる。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.97 )
- 日時: 2019/01/24 17:10
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
共に剣道を熟知しているだけあってお互い隙を見せなかった。いきなり先手を打とうとはせず忍耐強く攻撃のタイミングを見計らう。香織は相手じゃなく相手の持つ大太刀を見た。こちらの攻撃が届かない長い鋼の刀身を見つめどう動くか考える。心臓の鼓動だけが聞こえ汗が額から滲み出てくる。先に動いたら負けだ。
「はあ〜・・・・・・」
心力を安定させるため軽く息を吐く。白い吐息が湯気のように空気中に消えていった。裏腹に零花の方は気楽そうな顔で大太刀を軽々と構えていた。自信過剰になり勝利を確信しているのだろう。目が疲れ香織は2回だけ瞬きをした。それが一瞬の油断だった。
「てぇやあああっっ!!」
同時に零花が刀を縦ではなく大きく振り回して横に勢いよく振った。目にも止まらぬ速さで風を斬り裂く。狙いは香織の首だ。
武器で受け止める暇もなかった香織はとっさに上半身をお辞儀のように動かし斬撃をかわした。しかし完全にはよけ切れておらず頭部のてっぺんに刃はかすってしまっていた。僅かであるが髪の欠片が落ち葉のように床に落ちる。
「・・・・・・っ!」
香織は悔しそうに再び刀を構え集中する。ただでさえ向こうが有利なのにさらには先手も取らせてしまった。ますます勝機が薄れてゆく。無論これで終わりではなかった。
「おらおらぁっ!!」
容赦なく長い刃を振り下ろす。隙などない雨のような攻撃を何とか短い刀で受け流す。中々反撃する機会が回ってこない。だが
「!」
体を回転させ数多い中の一撃を綺麗にかわす。そしてそのまま標的の背後へ回り込んだ。見事に戦況を覆された零花は想定外の反応を示した。素早く身体を回転させ全身振り向かせるが刃は既に振り下ろされていた。しかしそれは惜しくも外した。逆転のチャンスだったが失敗に終わる。反射神経が優れていたのは香織だけじゃなかった。零花は今の斬撃をギリギリ避けていたのだ。かすりもせず服にすら当たらなかった刃先は畳を浅く切り裂いた。すぐに横振りの反撃がくる。香織はそれをバックステップでかわす。
しばらく互角のテクニックがぶつかり合い決着は簡単には着かなかった。どちらも息が全く乱れておらず戦意を決して緩めない。真剣な眼差しだが命懸けの勝負を楽しんでいるようにも見えた。事実、香織は死ぬかもしれない真剣勝負に面白味を感じた。最初は歩くのもままならないほどの緊張感はもう消えていた。
だが忘れてはならない。彼女の犯した過ちを。ライバルを蹴落とすために卑怯な手段に手を染め罪のない無関係な詩織を殺したのだ。それなのに平気な顔でのうのうと生きている。反省もせず犯罪を犯した自覚すらない。命を奪ったくせに笑っていた・・・・・・それを香織を逆鱗の鬼へと変えた。
(絶対に・・・・・・私はお前を許さない!!)
「死ねえぇぇっ!」
零花が叫び力強く大太刀を縦に振り下ろす。同時に香織が左斜めに斬り上げる。しかし刃は交わる事はなく片方の刃は違う部分に命中した。頭に響く金属音の代わりにプシャッ!と水が弾けた音がした。その正体は不気味な程の真っ赤な血液だった。噴水のように勢い良く吹き出し香織の顔を含む上半身にぶちまけられた。着ていたスーツに染み込み鉄臭い臭いを放った。
宙を舞った大太刀がメイフライのすぐ前に落下し畳に深く突き刺さる。それを持っていた人間の手がグリップを握りしめたままだった。骨まで見える切り口から血が流れ出て緑の畳に広がった。零花の両腕は見事に切断され刀ごと吹き飛んだ。
「ああああああああああああっっっ!!!!」
零花はこの世のものとは思えない悲痛の声を上げた。どちらかと言えば一種の雑音のように聞こえる。
「振りが遅い。」
香織は返り血を気にせず短くそう言い放った。
「ああああっ・・・・・・!私のっ・・・・・・腕があぁぁ・・・・・・!!」
一瞬の出来事だった。武器を持つ手を斬り落とされもう相手に勝ち目などない。零花は血を止める術もなく最早醜くのた打ち回るしかなかった。負わせられたばかりの激痛と出血で全身を激しく震わせ顔から涙と唾液を赤子みたいに垂らした。
「やりましたね。見事な逆転でした」
メイフライが両者の元へ駆けつける。ちらっと息絶えそうな標的を見るとすぐに香織に視線を向けた。
勝利を確信しやり遂げたと達成感を軽く抱いたがこれで終わりではなかった。さっさと止めを刺す前に1番重要な役割が残っていた。香織は容赦を捨てたまま再び勝った相手に刃先を向け一歩だけ近づいた。
「・・・・・・い、いやああああ!殺さないでぇ!!」
さっきまで男口調だった面影は消え零花は女々しく命乞いをする。
「詩織を殺した男の名前を言いなさい。そうしたら助けてあげない事はないわ」
「うう、私は知らない・・・・・・!お金を山分けされただけで顔は見てない・・・・・・!」
「お金ですって?」
「詩織を差し出す代わりに大金を貰う・・・・・・そういう契約だった・・・・・・本当にそれしか知らない・・・・・・!」
「金のために関係ない人間を売り強姦させて殺したのか、どこまで汚れた女だ!」
メイフライも香織と同じ感情を抱き標的を怒鳴り付けた。
「ううっ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
ようやく零花から謝罪の言葉が出た。だが腕を失ってから反省しても遅いのだ。出血が酷く放っておいてもすぐに息絶えるだろう。
「・・・・・・」
香織は刀を振り上げる。
「い、いや・・・・・・!お願い殺さないで・・・・・・!」
手元が狂わないようしっかりと握り締め集中する。とうとうこれからどれよりも嫌がっていた殺人を犯すのだ。この行為を行えば本当に後戻りはできなくなる。人間をやめ悪魔になる『儀式』だ。本当はメイフライに頼みたかったがそれは自分誓いに反していた。仲間の手を汚させる卑怯な最後にしたくなかった。これは香織の戦い、幕引きは彼女がやるしかない。
「メイフライさん、目を閉じていてくれませんか?」
「・・・・・・分かりました。それが望みなら」
メイフライは言われた通り右腕で両目を覆い隠す。止めの刃に当たらないよう後ろへ下がる。
「あ、ああ・・・・・・そんな・・・・・・やめて・・・・・・!」
「ごめんなさい、もし地獄で会えたらまた私を竹刀で叩けばいいわ・・・・・・」
グリップにこれ以上のない力を入れ思い切り振り下ろす。刀身は目にも止まらぬ速さで肉と骨を切り裂いた。零花の首が飛んだ。
今までで1番寒い春だった。桜が咲いているのに雪に触れたように寒い。何かが心を押し潰していた。博仁は任務を終え無事に帰ってきた2人の姿を確認した。特に変わった様子もなく安堵したのか軽く微笑む。バンを降り吉報を期待した顔で駆け寄った。優しく声をかける。
「殺ったのか?」
「ええ・・・・・・」
「頑張ったな、さあ帰ろう」
2人を車に乗せバックドアを閉める。自身も運転席に座りエンジンをかけた時だった。
「・・・・・・うぷっ!」
突然、香織の腹部から何かが込み上げてきた。感覚はなかったがそれが何なのか理解した。体から力が抜け床に倒れ込み隠れ家で食べた夕食を吐き出した。
「おえええぇぇっっ!」
「!」 「!」
2人は当然驚愕しメイフライがすぐさま駆け寄りハプニングに対応する。焦らず冷静に"大丈夫ですか?"と声をかけ背中を摩る。
「おいおい、何も俺の愛車の中で吐かなくてもいいじゃねえか!」
壮絶な戦いを見届けたメイフライとは裏腹に博仁は冷たい態度で文句を言った。長年の相棒を汚され結構なショックを受けた様子だった。
「げほっ・・・・・・おえっ・・・・・・!」
「まあいい、殺しは初めてだからな。大目にに見てやる。くそっ、芳香剤持ってくるんだった・・・・・・!」
吐き気が治まった香織をゆっくり座らせ安静にさせる。嘔吐物は2人が処理した。博仁は不機嫌そうに運転席に座り鼻の息を止めながらアクセルを踏んだ。なるべく車体を揺らさないよう慎重に元の道を進む。
「・・・・・・」
香織は零花の首をはねた瞬間が脳裏に焼き付いていた。最近まで一緒に過ごしていた人間をとうとう殺害した。憎しみの方が勝っていたからなのか罪悪感はそんなに感じていなかった。だがどんな理由を抱えても決して許されるものではない事だけは忘れられなかった。
「帰ったら服を着替えてすぐに寝ましょう。顔を拭くタオルを持って来ますよ」
今回は戦いに参加しなかったメイフライも疲れたのかこれ以上何も喋らなかった。欠伸をして隠れ家に着くまで目をつぶった。
「寒い春だぜ・・・・・・」
バンが再び街中に入る瞬間、博仁はそう呟いた。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.99 )
- 日時: 2019/01/24 18:27
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
久々に感じる獣道を抜け無事に隠れ家へと帰還することが出来た。安心感で生きた心地をようやく少しだけ取り戻す。香織はバトルスーツを脱ぎ血の着いていない部分で顔を拭く。それを刀ごと装備品のケースにいい加減に押し込んだ。そして複雑な思い出のある暑苦しい囚人服に着替えた。
崖の一部に見える入口が開く。初めて来た時と同じく兵士が現れ武器を向けたまま車の正面をライトで照らす。僅かな間で仲間の顔を認識すると大丈夫そうに頷き
「随分長い散歩だったな」
銃口を下ろし友好的な態度で駆け寄って来た。
「ああ、新入りの奴が久しぶりに外に出たいって言いだしやがって。なんたって2ヶ月間も隠れ家の中でオケラのみたいに過ごしていたんだ」
窓を開けて返答した。相手の感情に合わせ怪しさを隠し適当に誤魔化す。
「そうか、だがほどほどにしてくれよ?1人の失態で全員を危険にさらす場合もあるからな」
兵士は納得したのか他の見張りと共に戻っていった。バンも後に続く。運が味方したのか博仁の信頼が厚かったお陰なのか分らないが幸運だった。車内の確認は行われず武器の無断所持はバレずに済んだ。出入り口付近で出撃前に協力してくれたエンジニア達が出迎えてくれた。運転手から報告を聞こうとはせず簡単な後始末を優先する。バックドアを開け2人を先に降ろすと装備品を数人係りで回収し台車に乗せ向こうへ運んだ。博仁にとっての仕事も終わり気を抜いた表情を見せ
「お前らはもう寝ろ。明日は違う実戦に駆り出されるかもしれないからな」
それだけ言うとガレージ収納を残ったエンジニアに任せ自身は近くにあった休憩用の椅子に座る。熱いコーヒーをアルミコップに注ぎ黒い液体を飲み一息つき紙を挟んだクリップボードを片手に残業を始める。
「お疲れ様でした。先に部屋に戻ってて下さい。顔を拭くタオルを持って来ますから」
メイフライも去って行った。こうして香織は組織から見れば形の違う初めての実戦を終えた。だが彼女にとって零花の死は新たな悪夢の始まりに過ぎなかった。殺すべき標的はまだ大勢残っている。肝心の黒幕に関しての情報も得られず収穫は皆無に等しかった。
「・・・・・・」
これからの事を考えるのは今度に後回しにして香織はふらふらと寝室へ歩いていく。
手すりを掴みながら階段を上りようやく辿り着いた。すぐには入ろうとはせず一旦部屋の前で立ち止まる。仲間と再会できるというのになぜか素直に喜べなかった。今まで抱いた事がない気持ちに意識が不安定になる。
(・・・・・・何をしているのよ、早く中に入らないと。心配かけた事を謝らなくちゃ・・・・・・)
そう自分に言い聞かせる。無断で命懸けの賭けに出た事は無論、言わないつもりでいた。自分が原因で家族同然の仲間にまで危険が及ぶのが嫌だからだ。だからさっきまでの真実は今日出撃した者だけの秘密にする。止まらない震えをできるだけ無理に抑えつけドアノブを回し中に入る
「ただいま・・・・・・」
疲れたような"ただいま"の挨拶が静かな部屋中に伝わった。3人がしばらく聞いていなかった声に気づき扉の方向へ視線を合わせる。
「香織・・・・・・」
やはり全員が心配していたのかただならぬ表情に変え慎一と透子が真っ先に香織に駆け寄る。彼らにとってはたった数時間のプライベート、時計の針の流れは大きく異なっていた。部屋で好きな事に明け暮れている間、血しぶきが舞う復讐劇の主役を演じていたのをここにいる誰が予想できるだろうか?
「博仁さんに呼び出されてから数時間経っても戻ってこないから心配してたんですよ!?」
透子も同じく
「どこに行ってたんですか!?急に呼び出されて、何かあったのかなって凄く不安でした!」
予想通りの反応をし安心してもなお落ち着く気配を見せなかった。香織は気力に余裕がなかったため短めに謝罪し博仁と同じくいい加減に嘘をついた。
「司令官に呼ばれたんです・・・・・・ただちょっと色々この隠れ家について教えてもらって・・・・・・」
「そう・・・・・・」
愛利花はひとまず納得しこれ以上の詮索はしなかった。
「ところで一緒に部屋を出たメイフライさんはどうしたんですか?」
慎一がついでに聞いた。だがこれ以上嘘をつく事さえ疲労で無理があったため無視した。
「もう疲れたから寝ていいですか・・・・・・?」
「あのバカ親父と共に時間を過ごして疲れたでしょう?内容は聞かない事にするからゆっくり休みなさい」
香織はだるそうに慎一と透子の隙間を通り抜ける。騙している罪悪感は今は抱けそうになかった。とにかく睡眠を取りたいという一心で寝床に入る。
「・・・・・・!」
愛利花が視線を逸らした直後、何かに気づいたのかすぐに元の方向を振り返った。突然、香織が潜り込んだばかりのベッドに手を入れ力ずくで彼女を引きずり出す。
「・・・・・・え?ちょっと愛利花さん!何してるんですか!?」
慌てて止めに入った慎一を突き飛ばし暴力的な行為を続ける。透子も理由も訳も分からないまま怯えるだけで精一杯の状態だった。"痛い・・・・・・!"と声を上げろくに抵抗も出来ない香織を容赦ない力で床に叩きつける。馬乗りになって両肩を掴み動きを封じながら上半身だけを起こした。
「あんた、何で顔に血が着いているの?」
「・・・・・・!!」
拭い忘れた秘密を厳しく追及され香織の頭の中は真っ白になり口が縫われたように麻痺する。迂闊としか言い様がなかった。さっき車の中でちゃんと拭き取ったつもりでいた。怒りの目が香織の目線と重なった。彼女の10本の指が皮膚を圧迫し骨までめり込もうとしてるのが分かる。痛くて叫びたいくらいなのになぜか涙が出てこない。
「頭に怪我をした痕跡がないのならこの血液はあなたのじゃないわよね?誰の血?」
「あっ・・・・・・あっ・・・・・・」
「答えなさいっ!!」
代わりに愛利花が涙を浮かべ怒鳴りつけた。
香織は後悔した。ここに博仁が来てバンに乗せられ詳細を知った時にすぐに戻ればよかったのだと思った。殺して戻ってきてから"すみませんでした"なんて通用するわけがない。何もかもあの運転手のせいにしたかったがもう遅かった。
「香織さんの血じゃない・・・・・・?まさか・・・・・・そんな・・・・・・香織さん、上の許可は取ったんですかっ!?」」
慎一も今の状況を理解し真っ青になった。何故なら香織が行った違反行為の罰の恐さを十分に知っていたからだ。
「慎一、司令室から幹部を1人呼んで来て・・・・・・!」
「何言ってるんですか!そんな事したら香織さんが!」
「関係ない、もう一度言うわ。呼んで来て」
愛利花は非常の塊となり違反者を睨み続ける。
「きっとこれには訳が・・・・・・!」
「黙れっ!!」
「ひいっ・・・・・・!」
破裂音のような激怒に慎一も震え涙を流した。透子は本格的に泣き出した。
「姫川香織、あなたをこれから会議にかける。泣いても逃げ道はないわ。覚悟しておく事ね?」
「香織さん、タオルを持って来ましたよ・・・・・・!?」
ちょうどメイフライも部屋の中へ入ってきた。だがそれがバッドタイミングである事に気づかされた。取っ組み合いのケンカをしているような2人の姿勢を見てそれが何を意味しているのか理解した。濡れたタオルを埃がたかった地面に落とす。びちゃっ!と湿った音がした。それを握りしめていた手は震え出していた。
愛利花は彼を呆れたように睨み
「どうやらあなたも共犯者みたいね・・・・・・博仁といいあんたといいホント男ってバカばっかりっ!!」
「・・・・・・これには訳が・・・・・・」
メイフライも慎一と全く同じ御託を並べる。
「それはさっき聞いたわ」
「香織さんは悪くありません!あの時、博仁さんを無理にでも引き返させなかった俺の責任です!会議にかけるなら自分だけにして下さい!罰は全部俺が受けますからっ!」
決死の覚悟で説得する。そして香織と博仁はこの隠れ家に必要だと必死に訴えた。
「なるほど、あなたの気持ちは伝わったわ。でもその要求は聞き入れられない。どんな理由でも起きては守らなければならない。翌日、あなた達3人を会議にかける。ちょっと博仁を所に行ってくる。あいつに関しては1発ぶん殴らなきゃ気が済まない。あんた達はとにかく寝て疲れを癒しなさい。明日は大変な騒ぎになるだろうから」
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