複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.174 )
日時: 2019/01/30 21:44
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「隠れてないで出ておいでよ〜?手加減してあげるからさ〜」

 伊織の間の抜けた声が物静かな空間に木霊する。

「素直に出て来て正々堂々と戦おうよ香織ちゃん。ひょっとして私が恐ろしいの?剣道部のキャプテンが聞いて呆れちゃうな」

 言いたい事を口走り挑発を続ける。

「あなたの友達の森川詩織って子、バカで低能な女の子だったよ。簡単な嘘に騙されて屋上までついて来たら犯されて屋上から投げ落とされた。でも、幸せだったんじゃないかな?死ぬ前に楽しい経験が出来た事なんだし、私としては羨ましいくらいだよ」

「殺してやるわ・・・・・・伊織・・・・・・!」

 親友を侮辱され香織は冷静さを失いかけ息を荒くする。憎しみを込めショットガンをこれまで以上に強く掴む。

「"香織さん、チャンスが来たら俺が合図を出します。最初に俺が飛び出して撃って奴の注意を引きつけます。そうしたら香織さんが後ろから撃って下さい"」

「分かりました」

 香織は高ぶった気持ちを抑え無理に精神を安定させる。機会が近づくほど緊張が増していく。

「ここにはいないのかな〜?ひょっとするともう外に逃げたのか?」

 伊織が気を許した状態で部屋の中心を踏んだ時だった。

「今だっ!!」

 メイフライが叫んだ。同時に隠れていた場所から飛び出し引き金を引いた。5発の乾いた銃声、空の薬莢が足元に降り注ぐ。弾はどれも命中せず標的のまわりに撃った数だけの穴を作った。

 伊織は不意打ちに怯む事なく何食わぬ顔で火炎瓶をステージにいる相手に投げつける。メイフライは瞬時に身体を転がし回避した。真後ろの壁にそれは当たり、割れて中身が燃え広がった。

「・・・・・・っ!」

 伊織は後ろに気配を感じた。振り返ると勢いよく走り寄ってくる香織の姿が目に映る。余った火炎瓶を取り出し反撃を狙ったが手遅れだった。

 香織がショットガンを構え引き金を引く。銃口が火を噴き計り知れない反動が全身に衝撃を与える。鼓膜が破ける程の轟音が体育館を越え外まで響き渡った。散弾の塊が伊織の左脚に深くめり込む。ぐちゃっ!とトマトが踏みつけたような音がして血が弾けた。衝撃波の空洞が広がり彼女の部位は関節から真っ二つに切断された。

「うぁっ!」

 薬で神経が麻痺した伊織は痛みに泣き叫ぶ事なく代わりに間の抜けた声を出した。身体を支えていた台を失いバランスを崩してうつ伏せに倒れる。それでも尚、抵抗しようと起き上がり落とした火炎瓶を拾って火をつけようとしたが・・・・・・

 香織がスライドを動かし2発目を発砲する。伊織の右腕が飛び黒い血が心臓の鼓動に合わせ噴き出す。火炎瓶を握った手は宙を舞い、いい加減な方角へ落下した。砕けて漏れ出した化学薬品と血液が床に混ざり込む。

「・・・・・・え・・・・・・」

 頭部に血を浴びたが伊織は何が起きたのか分からず自分の腕を見た。さっきまであったては丸ごと消え綺麗さっぱりなくなっている。ようやく状況が飲み込めると急に涙顔になり

「う、腕が・・・・・・いやあああああ!!私の腕がああぁぁぁ!!」

 今までの平然さが一変、号泣し泣き崩れた。生き甲斐を奪われた彼女からは最早、絶望しか感じ取れなかった。

「・・・・・・」

 銃口から煙が上るショットガンを向けながら香織はその様子を眺めていた。

「やりましたね!見事な早業でした!」

 作戦は成功で幕を閉じメイフライが歓喜して駆け寄って来た。香織は彼を見て軽く表情を緩める。だが、目は笑っていなかった。無残に敗北した標的に視線を切り替え

「まだ戦いは終わっていないわ」

 香織は抱えていた銃をコッキングし薬莢を弾き出すとスワットスリングを肩にかけ背の位置に戻した。今度は刀を抜き鋭い先端を身動きする事も不可能に近い伊織の鼻先に向けた。

「ああああ・・・・・・手は私の全てだったのに・・・・・・!もうピアノを弾く事ができなくなった・・・・・・!」

「あなたは私の大事な親友を殺しその手を汚した。そんな汚い指先でピアノに触れる資格などないわ」

 香織は非情な言葉を淡々と言い放ち相手の胸を蹴飛ばして床に押し倒す。足で相手の腹部を挟み今度は喉笛に刃先を合わせる。

「詩織を殺した男の名前を言いなさい。言う通りにすれば苦しみから解放してあげるわ」

「うう・・・・・・!」

「言えっ!!」

 香織は容赦なく険しい形相で怒鳴りつけた。

「・・・・・・殺してやる・・・・・・」

 伊織がボソッと囁いた。ここまで追い込まれても彼女は殺意を剥き出しにする。手負いの獣のように香織を睨んだ顔で見上げる。

「殺してやる・・・・・・殺してやる・・・・・・!」

「まだ自分の立場が分かってないのね?面白い、やってみなさいよ?でもこの状態で火炎瓶を投げれるのかしら?」

「お前だけは・・・・・・必ず・・・・・・!」

 伊織は震えた左手をスカートのポケットに入れる。しかし、取り出したのは火炎瓶ではなかった。細い缶のような物で尖った先端の横にリング状の何かが付いている。

「・・・・・・伏せてっ!!」

 突如にメイフライが叫んだ。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.175 )
日時: 2019/01/30 21:53
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)


伊織が親指を輪にかけ引き抜いた。直後にそれは爆発した。

 地震のように体育館が大きく揺れる。火と黒煙が立ち込め誰かの血と肉片が辺り一面に降り注いだ。轟音が響き渡り止んだ頃、煙は晴れた。爆発のあった跡に原形を留めていない肉の塊が横たわっている。その正体は伊織だった。

「・・・・・・げほっ!」

 香織は何が起こったのか分からず倒れた姿勢で咳を吐き出す。彼女は奇跡的にも生きていたのだ。気がつくと何か重い物が覆いかぶさっていた。それは香織を守る形でしっかりと包み込んでいる。温かい体温が身体に伝わる。

「ぐっ・・・・・・ああ・・・・・・!」

 もう1人の人間の声がした。痛みに苦しむ弱り切った唸りを上げている。

「メイフライさん・・・・・・?」

 メイフライが香織を瞬時に庇い爆風の直撃を防いだのだ。生身の盾となり彼は重傷を負った。服はボロボロに破れ炎を浴びた背中や脚の皮膚が焼けて剥がれていた。破片がめり込んだ所から血が流れ出てくる。

「まさかっ・・・・・・!ああ、そんな・・・・・・!」

 起きた出来事を理解した香織はメイフライをどかしふらふらと起き上がった。変わり果てた伊織の死体を気にも留めず足元を見下ろした。真っ青になり唖然とした口を両手で覆った。

「うう・・・・・・!」

「私のせいで・・・・・・!」

「"おいっ!"」

 その時、無線から博仁の呼ぶ声がした。仲間の叫びで香織ははっと我に返る。

「"ようやく陰湿女との戦いに決着が着いたかと思いきやいきなりの爆発音、耳がイカれると思ったぜ!お前ら無事か!?一体何があったんだ!?"」

 香織は涙声になりながらも起きた事を可能なだけ詳しく話す。

「伊織が爆弾を使って自爆した。メイフライさんが私を庇って・・・・・・大怪我を負ってしまって・・・・・・!」

「"なんて事だ・・・・・・それが奴の切り札だったのか・・・・・・"」

 実に深刻そうな一言をこぼし改めて現状を聞き出す。

「"メイフライの状態は!?"」

 香織は倒れているメイフライの隣に跪き

「服は破けて背中や脚に酷い火傷を負ってる!あっ・・・・・・!それに血も出てる!」

「"出血・・・・・・恐らく爆弾の破片が体内にめり込んだんだろう・・・・・・立てそうか!?"」

「ううん、かなり苦しんでてとても動けそうにないわ」

「"非情にまずい、今の銃声や爆発で近所の連中も感ずいたはずだ!ポリ公共が押し寄せてくるのも時間の問題かも知れん!香織、そいつを連れてここまで来れるか!"」

 香織はメイフライの腕を引き起き上がらせようと試みた。だが、緊張と混乱で力が思うように入らなかった。肩を抱こうとしたが重さに負け2人共、地面に倒れ込んでしまう。

「だめ・・・・・・体に力が入らない・・・・・・」

「もう時間がないぞ!?あいつが放った日も火も校舎の半分を燃やし尽くしている!全校が火事になるのも時間の問題だ!ポリ公が来る前に焼け死ぬかもな・・・・・・!」

「じゃあどうしたら・・・・・・!?」

「他に選択肢はない!今から俺もそっちに行くからお前はここを出る準備でもしていろ!」

「・・・・・・分かったわ」

 香織は爆風で遠く離れた刀を拾いに行き鞘に納める。すぐにまたメイフライの元へ寄り態勢を崩した。

「か・・・・・・香織さん・・・・・・」

 今にでも息絶えてしまいそうな細い声でメイフライが香織を呼んだ。

「メイフライさん・・・・・・!大丈夫ですか・・・・・・!?」

「体中が痛くて死にそうです・・・・・・あの・・・・・・頼みがあるんですが・・・・・・?」

「何ですか・・・・・・何でも言って下さい・・・・・・」

 メイフライは苦痛に何度も激しい呼吸を繰り返しながら

「はあはあ・・・・・・俺を・・・・・・ここに置いていってくれませんか?」

 香織は勢いよく頭を横に振り当然、否定を返した。仮面を外し顔を寄せ叫んだ。

「何言ってるんですか!?仲間を置いていくわけないでしょう!?」

「俺のせいで香織さん達に危険・・・・・・な目に遭わせたらいけません・・・・・・1人の責任は皆の責任に・・・・・・なります・・・・・・から・・・・・・!」

「だったら私の責任です!責任を取ってあなたを助けます!絶対に死なせはしない!」

「香織さん・・・・・・」

「死んだら終わり!隠れ家にいる愛利花さんや慎一さんにも二度と会えなくなっちゃうんですよ!?あなたが命を落として唯一親しくお兄ちゃんと呼べる存在を失ったら透子ちゃんがどれだけ悲しむか考えて下さい!!どんな時もあなたは私の傍にいてくれて守ってくれた!今だってそう!そんな恩人を見殺しになんてしたら詩織を殺した奴ら以下になってしまうわ!お願いだから生きて!一緒に帰りましょう!メイフライさんはここで死ぬべきじゃありません!」

 香織はメイフライの手を強く握り必死に訴えた。彼女の目から溢れた涙が彼の顔に流れ落ちる。

「"そうだぜメイフライ、香織の言う通りだ!お前の死に場所はここじゃねえ!死んだってメリットなんかこれっぽっちもないぜ!?俺も仲間を見捨てて隠れ家に帰る気なんて一寸たりともねえ!お前は生きて帰る事だけを考えろ!"」

「くっ・・・・・・!香織さん・・・・・・博仁さん・・・・・・!」

 メイフライも痛みではなく嬉しさで涙を流し固い絆を心身で感じながらメイフライは静かに微笑んだ。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.176 )
日時: 2019/12/22 08:20
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 しばらくしない内に博仁が2人のいる体育館へ走って来た。彼が通って来た出入り口のトンネルから薄い煙が出ているのが見えた。無線で言われた通りこの廃校はもう長くはもたないだろう。博仁は急いで駆け寄り動けないメイフライの肩を抱き立たせた。

「ようやく2人目の標的を葬ったわけだな!黒幕の情報は得られたか!?」

「ううん・・・・・・」

「そうか・・・・・・まあ、詳しい戦果報告は後だ!香織、お前も手伝ってくれるか!?1人より2人の方が運びやすい!」

 香織は迷わず頷き博仁の反対側に回り負傷者の肩を持った。手も足も痺れたように力が入らないがさっきよりは負担が軽い。

「ゆっくりしてはいられない!急いで俺のバンに戻るぞ!?乗ったら早急にこの地区からおさらばだ!」

 香織と博仁はメイフライを慎重に支え体育館を抜ける。白く焦げ臭い煙が立ち込める廊下を止まらずに通っていく。有毒な気体を吸わないよう出来るだけ口を塞ぐ。仲間の足を引きずり玄関に辿り着くとそこはもう火の手が回っていた。伊織がいた音楽室の一帯はもう通れないくらいに炎が燃え上がっている。

「・・・・・・げほっ!」

 熱さと息苦しさで香織は辛そうに咳を吐いた。

「大丈夫か!?・・・・・・くそっ!ここは危ない!早く外に出るぞ!」

「・・・・・・ええ。」

 3人は二度目の復讐ゲームの舞台となった廃校から飛び出した。外は涼しく日がすっかり沈み夜になっていた。夜風のそよぐ冷たい空気が今だけは美味しく感じられた。

「・・・・・・!」

 香織は背後を振り返り建物を見上げ唖然とする。校舎はほとんどが炎に包まれ治まる事を知らない。誰が見ても紛れもない大火事、燃えた瓦礫が地面に叩きつけられる。例えるならまるで焼け落ちる根城といったところか・・・・・・

 香織達は以前、侵入した金網フェンスの穴から抜け出し一直線に車両へ。バックドアを開け広いスペースにメイフライを寝かした。後ろの席に2人を入れるとドアを閉め博仁は運転席へ乗り込む。そしてエンジンをかけ思い切りアクセルを踏んだ。

 窓の外で数人の人間達が集まり野次馬として燃える廃校を見上げていた。互いに何かを話し合ったりスマホのカメラで写真を撮る者もいた。その横を3人が乗ったバンがいつもより早いスピードで通り過ぎる。見えない遠くから消防車の鐘の音も鳴り出していた。

「間一髪だったな。負傷者1名以外は全て運がよかった」

 スリルを体感しながら博仁は運転に集中しこの地区から抜け市街地の道路に出た。


 バンを走らせてから10分くらいが経過した。香織が乗る輸送スペースは深刻な空気が漂っていた。メイフライの止まない唸り声が香織の罪悪感をきつく締め付ける。

「メイフライの容態はどうだ?」

 博仁が前を見ながら聞く。

「さっきからこの状態が続いてる・・・・・・よくなる気配が全くないわ・・・・・・!」

 香織は彼の看病をしながら不安そうに言った。

「思ったよりも重傷かもな・・・・・・だが、1番の問題はこの事態をどう誤魔化すかだ。隠れ家の連中に何て言い訳すればいいか・・・・・・!愛利花の親父にバレたらゲームオーバーだぞ!?」

 いつも動じない博仁も流石に焦りを隠せない有様だった。

「全部、私のせいよ・・・・・・あいつを追い詰めて慢心していたから・・・・・・あの時油断さえしなければ・・・・・・!」

「自分を責めるのも後だ。とりあえず応急処置を施さなくては。こんな事もあろうかと椅子の下に中型の医療キットをしまっておいた。やれるか?」

「私は医療の経験なんて少しもないわ・・・・・・はあ、ここに詩織がいてくれたら・・・・・・」

「何だって?どうしてこのタイミングでお前の親友の名が出てくるんだ?」

 意外な発言に博仁は間の抜けた言い方で質問を返した。

「あの子は保険委員長だったの・・・・・・」

「思い出に浸ってる場合か?とりあえず傷口に消毒でもしていろ。このまま放っておくと火傷した皮膚が感染するぞ?」

 香織はせめてできる事だけはしようと言われた場所から医療キットを取り出し中身を開ける。消毒液や包帯、止血剤、軟膏、絆創膏、シップの他にもメスやハサミやピンセット、薄い毛布までも入っていた。これ1つで十分な処置が可能だ。人1人の命は救えるだろう。

「アルコール・・・・・・これが消毒液で・・・・・・こっちが包帯ね?」

「香織さん・・・・・・」

「!」

 ふと後ろからメイフライの呼ぶ声がした。香織はとっさの反応で振り返ると彼は優しく微笑んでいた。

「メイフライさん!」

 香織は安堵した表情で彼に駆け寄った。

「お願いがあるんです・・・・・・モルヒネを打ってくれませんか・・・・・・?」

「も、モルヒネですか・・・・・・?」

「はい・・・・・・本当は自分で打ちたいんですが・・・・・・腕も痛くて・・・・・・」

「分かりました・・・・・・」

 香織は自分のポケットから頼まれた薬品を取り出した。蓋を外し鋭く長い針を剥き出しにし注射器に異常がないかと確認を済ませ

「あの、これをどこに打てばいいですか?」

「脚に打って下さい・・・・・・」

 言われた通り香織は左脚の破れたズボンを捲り太い血管を探した。ようやく見つけると指でその個所を擦り注射器を斜めに向ける。

(誰かに注射を打つなんて初めて・・・・・・さっきの戦いよりも緊張するわ・・・・・・)

 心臓の鼓動が乱れたような形で激しく揺れ動く。失敗すればどうなるかなんて想像するだけで恐ろしかった。だが、その邪念がどうしても頭から離れない。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.177 )
日時: 2019/12/22 08:48
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「じゃあ・・・・・・いきますよ?」

 香織は無理に震えを抑え針の先端を皮膚に刺し込む。

「ぐっ・・・・・・!」

 メイフライが一瞬、全身をびくっと痙攣させた。

「あっ!ごめんなさいっ!痛かったですか!?」

「大丈夫・・・・・・もうちょっと深く刺して下さい・・・・・・」

 メイフライは平気そうに親指を突き立てる。彼の指示通り針を更に深くに刺し込んだ。

「もう十分です・・・・・・早く薬を・・・・・・」

 そう聞いて香織はプランジャを押す。ガスケットが圧迫され容器の中のモルヒネが体内に注入される。注射器を空にしたら早急に針を抜く。

「はあ〜・・・・・・」

 早くも鎮痛剤の効果が出たのかメイフライは爽快な表情を浮かべた。どうやら痛みが緩和され少しはマシになったらしい。

「ありがとう香織さん・・・・・・」

 繰り返した吐息が止まりメイフライは礼を言った。

「よかった・・・・・・何とかなるものね・・・・・・!」

「何だやり遂げたのか!?お前センスあるじゃねえか!」

 博仁も嬉しさにつられ香織の成功を称賛した。

「まだ・・・・・・ですよ・・・・・・」

「え?」

 香織は束の間の喜んだ顔を一変させる。

「まだ、俺の身体には爆弾の破片が残っています・・・・・・それを摘出しなきゃ・・・・・・」

「そんな・・・・・・無理です!私は医者じゃないんですよ!?」

 と当然の返答を必死に返した。

「背中が痛くて、気持ち悪い・・・・・・うぐぅっ、もう耐えられないっ・・・・・・!このまま放っておいたら・・・・・・感染よりも酷い事になりそうな気がして・・・・・・頼みます・・・・・・そうなる前に・・・・・・」

「・・・・・・」 「・・・・・・」

「それにこの怪我が隠れ家の皆にバレたら俺達は今度こそ終わりです・・・・・・だから今の内・・・・・・治療して・・・・・・」

 香織と博仁は何も言い返せなかった。何故なら、メイフライが言っている事も正論だったからだ。無理を言っているが仲間同士の秘密を守るための頼みだった。狭い車両の中で悩みに悩む沈黙が続く。

「・・・・・・香織、消毒液にピンセットを浸せ」

しばらくして博仁が生真面目な口を開く。

「・・・・・・え!?まさか、嘘でしょ!?」

「メイフライが正しい。体内に残った破片は洒落にならん。手遅れになる前に取り出す事が最善の方法だ」

「無茶言わないで!もし失敗したらメイフライさん死んじゃうかも知れないのよ!?私は仲間を殺すような真似はしたくないっ!」

「そのメイフライが直々にお願いしているんだ。例え失敗しても好きな人に殺されるなら本望だろう」

「こんな時にくだらない冗談を言わないでっ!!」

 香織は博仁を怒鳴りつけついには頭を抱えた。"絶対に無理だ!できる訳がない!"そんな失敗の思いで頭が埋め尽くされる。冷静さを失い自分の過ちを心の底から後悔する事しかできなかった。

「・・・・・・!」

 その時、香織の手に人の肌のような温かい感触が伝わった。それに気がつき顔を上げると彼女に手を伸ばすメイフライの姿があった。彼はもうすぐ息絶えそうな弱った声で

「嬉しかったです・・・・・・香織さんが必ず生きて連れて帰ると言ってくれた事が・・・・・・俺あの時、本気で死ぬつもりでした・・・・・・それで仲間が助かるならといいなと思って・・・・・・でも、それは間違いでした・・・・・・香織さんの思いが伝わった瞬間、かっこつけてた自分が恥ずかしくなってしまって・・・・・・不幸ばかりの最悪な人生だったけど・・・・・・あなたのお陰で希望を感じて、まだこの世界で生きていきたいと思えたんです・・・・・・だから・・・・・・恥ずかしいお願いですが、また俺を生き永らえさせてくれませんか・・・・・・?俺は絶対に死にませんから・・・・・・!」

「メイフライさん・・・・・・」

「・・・・・俺が死んだら透子ちゃんが悲しみますからね・・・・・・それに香織さん、まだまだあなたと共に戦いたい・・・・・・!またとない聖戦なのに序盤で死んだら情けないですから・・・・・・」

 そう言って彼は苦し紛れな笑い声を上げた。

「これで理解しただろ?本当に申し訳ないと思っているならさっさと準備をしろ。この状況で仲間を救えるのはお前だけだ」

 博仁が真面目な口調で早く治療を進めるよう促す。

「・・・・・・分かった。やるわ」

 香織は不安を捨て切れなかったが医療処置を試みる決心をした。まず横たわったメイフライの身体を転がしうつ伏せに倒す。見れば見る程トラウマになりそうな惨たらしい傷が露になる。長く眺めていると吐き気に見舞われそうなくらいだ。

 背中をよく見ると確かに爆弾の一部と思われる割れた破片がいくつか突き刺さっている。だが最も厄介なのは身体の内側へ埋め込まれた物、これが1番の問題だった。運よく脚には同じような痕跡は見当たらない。あるのは酷い火傷だけ。

 香織はピンセットを取り出し消毒に浸した。摘出の準備が整うと目をつぶり胸に手を当てながら呼吸を落ち着かせる。まず最初に選んだのは突き出た大きな破片だ。

「じゃあ、取りますよ?」

「お願いします・・・・・・」

 ピンセットで破片を挟みゆっくりと慎重に引き抜く。

「うぐっ・・・・・・!大丈夫・・・・・・!続けて下さい・・・・・・」

 時間を掛けようやく1つ目の破片を取り除く。刺さっていた痕の傷口から血が流れ出てきた。破片はまだ残っていたため香織は手を休めず2つ目の処置を始める。メイフライの必死に痛感に耐えながら1つまた1つと摘出していく。目に見える異物は全て抜き取った。残りは・・・・・・

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.178 )
日時: 2019/12/22 08:53
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「体内に埋まってしまった小さな破片、これで最後ね・・・・・・」

「慎重にやるんだ。落ち着いてやればきっと上手くいく」

 香織は指で傷口を広げ慎重にピンセットを刺し込む。目を背けたくなるような穴は気持ち悪い音を立て黒い血を吹き出した。

「・・・・・・がああっ!」

 肉の中を突き入れられたメイフライの悲痛の叫びが狭い車内に響く。博仁もその苦痛に精神が掻き切られる思いだった。だが、ハンドルを放せず耳を塞ぐ事すら出来ない。聞くに堪えない背後の状況を想像し鳥肌を立たせた。

「メイフライさんっ!!」

「うう・・・・・・これくらい・・・・・・!さあ早くっ・・・・・・!」

 香織は苦い顔をしながらも更にピンセットを深く食い込ませる。

「ああああっ・・・・・・!!」

 すると器具の先端が何かに当たった。柔らかい肉とは違い堅い感触が器具を通して伝わる。

「あったわ・・・・・・間違いない・・・・・・!」

 それが破片だと香織は確信した。彼女は顔に顔を寄せ懸命に負傷した仲間に声を掛ける。

「メイフライさん!破片、ありました!もうちょっとの辛抱です!今取り除きますから!」

 それを聞きメイフライは安堵した面持ちを見せ頷いた。彼は服の袖を強く噛みしめこれからの痛みに耐える手立てをした。額からは汗と涙が滲んでいる。それは香織も同じだった。

「これで最後です!我慢して下さい!」

 香織はピンセットのグリップを握り破片をしっかりと挟む。そしてゆっくりと時間をかけて持ち上げる。

「ふぅー・・・・・・ふぅー・・・・・・!!」

 鋭利な破片が体内を裂き神経が刺激される。メイフライは目蓋を閉め意識が遠のく中で仲間の事だけを考えた。そして、この地獄が終わるのを待った。

 その時、ぶしゅっ!と湿った音がした。傷口から再び血が噴き出しそこから何かが抜ける。返り血を浴びた香織の持つピンセットの先には黒い体液が滴る破片があった。

「はあはあ、やったわ・・・・・・これでメイフライさんは・・・・・・」

 香織は力尽きる寸前のような声で言って持っていた物を落とした。直後に全身の力が抜け地べたに倒れ込んだ。

「何だ?終わったのか・・・・・・!?す、すげえ!本当にやっちまったのかよ!?」

 博仁は成し遂げた奇跡の瞬間に大いに歓喜した。感激の言葉で称えられたが今の香織にはそんなのはどうでもよかった。彼女はふらふらとやっとの思いで上半身を起こしメイフライの元へ寄り添った。そして、手をしっかりと握り優しく身体を抱き寄せた。生きている証拠である彼の体温はまだ消えずに残っている。

「ありがとう香織さん・・・・・・もう大丈夫・・・・・・俺は生きる事ができ・・・・・・」

「もう何も喋らないで・・・・・・ぐすっ、よく頑張りましたね・・・・・・!偉かったです・・・・・・!」

 香織は自分の手で助けられた仲間の頭を撫でしばらく離さなかった。抑えていた気持ちが張り裂け彼女は大声を上げ泣き出した。


「香織、まさか寝てないよな?まだ応急処置は終わったわけじゃない。早く火傷部分を消毒するんだ」

 数分ぶりに博仁の声が運転席から聞こえた。彼はハンドルをぐるりと回し道路を右に曲がった。バンの進路は変えられ隠れ家とは別の方向へと走る。

「軟膏と包帯も忘れるなよ?止血剤と絆創膏もだ。出来るだけ寄り道して時間を稼ぐ。早くやれ」

 話を聞いた香織はううん・・・・・・と眠そうに目蓋を開く。気がつけばまだメイフライの身体を抱きしめそのままでいた。彼女は動かない彼の胸部に手を当てる。心臓は動いており正常に呼吸もしていた。

「そうね・・・・・・感染したら大変だわ・・・・・・」

 香織はメイフライから離れ医療キットを漁り言われた物を取り出した。軟膏と止血剤、包帯と絆創膏を床に並べる。準備した物に間違いがないか確認すると博仁に知らせる。

「よし、まずは火傷部分を全て消毒液をかけろ。終わったら次の指示を出す」

「メイフライさん?」

「・・・・・・香織さん、どうしました・・・・・・?」

 メイフライが頭の向きをずらし細い目で香織を見る。

「今から火傷した所に消毒液を塗ります。そうしたら軟膏を塗って包帯を巻きますので」

「いいですよ・・・・・・モルヒネも大分効いてきた頃だろうし・・・・・・さっきの痛みよりはずっとマシなはず・・・・・・」

 香織はピンセットを新しい物と取り換え脱脂綿に消毒液をたっぷりと浸す。それをまずは脚から撫でるように塗り込んでいく。

「ううっ・・・・・・!」

「出来るだけ早く終わらせますから頑張って下さい」

 強いアルコールが染みヒリヒリとした衝撃が伝わる。直後にじんじんと焼けたような熱い感覚がやって来る脚が終わると今度は腰、それも済ませると背中とその傷穴、仕上げに軟膏を満遍なく塗る。

「至る所まで消毒と軟膏を塗ったわ。これで火傷の問題は解決ね」

 長い作業に一息ついた香織は額の汗を拭う。話を聞いていた博仁が再び指示を出す。

「次は傷口を塞ぐ必要があるが・・・・・・お前、流石に糸で縫うなんて不可能だろ?止血剤を傷口にふりかけろ。その上に絆創膏を張るんだ」

 粉末状の止血剤を3箇所の破片が刺さった跡に十分な量を撒く。すぐに絆創膏を張り出血を食い止める。

「メイフライさん、立てますか?」

「・・・・・・何とか・・・・・・」

 香織はメイフライを慎重に起き上がらせ椅子に座らせた。破れた服を脱がし身体のほとんどに包帯を丁寧に撒いていく。彼は脚から胸部までがミイラとなった。


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