複雑・ファジー小説
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- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.68 )
- 日時: 2019/01/10 01:11
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
気がつくと香織はグランドに立っていた。そこは間違いなくかつて通っていた母校だった。不思議に思った。もうここには戻れないはずなのにかつての人生の空間の中にいるのだから。しかし、誰もいなかった。不意に彼女はある事に気がついた。決してあってはほしくないものが・・・・・・一階の教室のすぐ横、つまりはグランドの端っこにそれはあった。ブルーシートだった。あの時と同じ場所に覆いかぶさっている。中身は見えなかったが滲み出ていた血が砂の地中に染み込んでいた。とてつもなく嫌な予感がした。香織は走りブルーシートの傍にそっと歩み寄る。
(この中で詩織は死んでいた・・・・・・あの子が天国に行ってからもう1週間近く経つんだ・・・・・・)
更に2歩近づく。目をつぶりながら右手でシートを掴む。力強く引っ張り上げ後ろの方へ投げ捨て重い目蓋を開けると
「!?」
香織は驚愕した。地面には血痕がべったりと付着していたが死体はなかった。これはどういう事だろうか?
「ううううう〜・・・・・・」
「・・・・・・!!」
後ろから誰かの唸り声が聞こえた。背中に冬のような寒気を感じた。体が硬直する。この世のものとは思えない苦痛の声。ずりっ・・・・・・ずりっ・・・・・・と音がする。後ろにいるそいつは何かを引きずっているようだ。涙が出ないのが不思議な程の恐怖を感じた。動けないはずなのに震えだけはする。とてもじゃないが振り向けない。だがこのまま立ち止まっていたら後ろから襲われる気がした。吐き気がする。何故なら後ろから服に付着した血よりも濃い生臭さが漂っていたからだ。
「か・・・・・・おりちゃ・・・・・・ん・・・・・・」
後ろのそいつは香織の名を口にした。哀れに思った彼女はおそるおそる後ろを振り向く。そしてその行為に後悔した。
「かおりィィィ・・・・・・!!」
「あ・・・・・・ああ・・・・・・いや・・・・・・」
詩織だった。間違えようなんてなかった。それが分かったのは髪型を目にしたからだ。彼女の顔は腐りたただれ落ちているかのようにぐちゃぐちゃになっていた。片方の眼球が取れ口の部分でさくらんぼの様にぶら下がっている。手足の関節は逆方向に折れ曲が立っていられるのがやっとの様子だった。服は制服で香織のよりもまだ新しいどす黒い血で染まっていた。腹部の黒さは血の塊ではなかった。穴だった。赤子をえぐられたようなその大きさの穴からは流れ出た内臓が地面に当たっていた。何かを引きずる音はそれだった。
「いやあああああ!!」
香織が叫んだ。足の力が抜け後ろへ倒れ込む。涙が止まらなくなり今度こそ動けなくなった。変わり果てた親友の姿から目が離れない。相手の苦しみが体の奥までに伝わり吐き気が限界を感じ取る。
「おぇぇぇぇ!」
胃の中に溜まっていた消化物をその場で吐きだし残りの嘔吐物と唾液が混ざった液体の残りを出しながら咳をした。詩織はそんな香織を見下ろした。
「なんで私だけがこんな目にィィィィ・・・・・・!!どうしてあの時助けに来てくれなかったァァァ!!」
「ご、ごめんなさい・・・・・・!あ、あ・・・・・・あ・・・・・・ああ・・・・・・あの時は・・・・・・お母さんが病気で・・・・・・!」
「ふざけるなァァァッ!!」
そう怒鳴りつけ両手で香織の首を絞めつける。
「がっ・・・・・・!」
骨が砕かれる音と共に視界がかすんできた。体の感覚が抜け青空が黒く変色していった。
「お前も私と一緒になれッッ!!同じ苦しみを味わわせてやるッッッ!!」
「あああああああっ・・・・・!」
「ああああああああっ・・・・・・!!」
香織が叫び声を上げ目を開ける。自分の首をおさえながら飛び起きのた打ち回る。恐怖の感情に耐え切れなくなり泣き声を上げた。我慢しようにも止められなかった。上から音がした。愛利花も香織の叫び声で叩き起こされたらしい。慎一もメイフライも目が覚めたのか驚いた様子でこちらの方に駆け寄る。透子はまだ眠ったままだった。
「大丈夫!?何があったの!?医務室に行く!?」
香織は返答を返す余裕もなくわめき続けた。
「ちょっと俺、他の部屋に行って大丈夫だと伝えてきます!他の人達もびっくりしたと思うから!」
メイフライはそれだけ言うと他のメンバーに事情を説明するため部屋から出ていった。
「慎一も何ボサッっとしてるの!?早く安定剤を持ってきて!」
「は、はい!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!」
「苦しい経験をしたのね・・・・・・大丈夫、大丈夫よ。私がついているわ。だから安心して」
愛利花はそんな香織を優しく抱きしめる。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.71 )
- 日時: 2019/12/22 07:56
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
しばらくして香織はようやく落ち着きを取り戻した。涙が止まり呼吸も安定してきた。震えも大分楽治まった。抱きしめられながら何度も息を吐く。目覚めた直後の感情も時間の流れで薄く濁ってきた。目の前には昨日出会ったばかりの人間しかいない。今頃になって現実の世界に解放された気分に包まれる。
「うっ、ぐすっ・・・・・・!」
「偉かったわ、今までずっと耐えてきたのよね」
「ただいま、全部の部屋に行って事情を説明してきましたよ。あ、やっと落ち着いたんですね。よかった・・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・・私のせいで・・・・・・」
「気にする必要なんてないわ。さっきみたいになったのはあなたが最初の人間じゃないから」
愛利花がそう言ってメイフライは穏やかな表情で続ける。
「俺達は今はこうして明るく振る舞ってるけどこう見えても深い闇を背負っているんですよ」
「深い闇・・・・・・皆さんもやっぱり辛い過去が・・・・・・」
「そうよ、死んだ方がマシという最悪な人生を送ってきたわ」
「俺もです。母親よりも毒薬を愛した日もありましたよ」
最後に慎一もそう言った。
「数日前、私は親友を殺されました・・・・・・私が受けていたいじめに巻き込まれたんです。屋上で誰かに犯されその場から投げ落とされて・・・・・・現場に駆けつけた直後に私は逮捕され不正裁判にかけられ無期懲役の判決を・・・・・・!」
数日前の悲劇を思い浮かべると血涙が出るほど憎しみが湧いてくるがそれに耐え自分の過去を打ち明けた。
「そんな酷い事があったの・・・・・・実は私もね・・・・・・」
愛利花が下を向いて口を開き皆の視線が彼女に集まった。
「母を殺されたわ。何者かに家に押し入られ鋭利な刃物で刺し殺された。盗まれた物はなく警察は怨恨による犯行だと睨んだけどそれが不自然だった。母は誰からも恨まれる理由なんてなかったんだもの。結局、この事件は未解決のまま」
「この組織にはどうやって?」
「大切な家族を失い心を病んだ父は仕事をやめ酒浸りになった。私も憂鬱な状態から抜け出せず部屋に引きこもる日々を過ごしたわ。そんな時、ブラックジョークのメンバーが家に来て自分達に加わるよう説得されたの。最初は混乱したけど断る理由なんてなかった。こんな理不尽で腐った世の中を壊したかった。人の幸せを踏みにじる悪党に復讐したかった。それで私と父は組織に加わる事を誓い共に第二の人生を始めたってわけ。ここにいればいつかは母を殺した犯人に辿り着けると思ってね」
今度は慎一が
「俺も過去に大切な人を奪われました。宮城の介護施設で働いていた頃、夜間の休憩中に飲み物を買おうと外に自動販売機へ足を運んだんです。そしたらいきなり後ろから通り魔に襲われ暴行されました。逃げようとしたんですがそいつがナイフを突きつけてきて恐くて立つ事もままならなかったんです。その時、親友が助けに来てくれて通り魔を追い払ってくれた。彼女がいなかったら俺は今頃ここにはいなかったでしょう。ですがその直後、親友は倒れました。腹部を刺されていたんです。彼女は俺の身代わりになって犠牲になった・・・・・・通り魔は未だに捕まらず、彼女は帰らぬ人となった・・・・・・あの日の事件が今でもトラウマです・・・・・・!」
次にメイフライが
「俺は幼い頃に両親を早くに亡くしたった1人の肉親である弟と共に孤児院に引き取られ、そこを出た後は情報屋として働きました。有力な情報を警察に提供しその報酬の金で弟を養っていました。でもそんな幸せな日々は長続きしませんでした。弟が無実の罪で捕まって警察に暴行され殺されて・・・・・・だから分かったんです!警察が正義感溢れるの組織だと思ったら大間違い、奴らは金さえもらえれば不正も平気で働くクズ共だ!ってね・・・・・・」
気がつくと今度は皆が泣きそうな顔になっていた。愛利花が涙を見せないためかすぐさま視線を逸らし慎一が両手を強く握り締めメイフライが下を向く。
「じゃあ、ひょっとして透子ちゃんにも・・・・・・」
香織が言って愛利花が勿論と言わんばかりに頷く。
「ええ、普段優しくて幸せそうに見えるけどこの子も辛い過去を背負っているわ・・・・・・口にするのも嫌なほどね・・・・・・辛い過去を抱えているのは決して自分だけじゃないわ。さて、暗い話はここまでにしてそろそろ食事の準備ができている頃だから何か食べに行きましょう?朝ご飯を食べないと後で苦労するわよ」
「そうですね、朝に弱い俺にとって起きたばかりの朝食はきついですが、何か食べないと脳に血は回りません」
すっかり目が覚めた愛利花と慎一が靴を履き食堂へ向かう準備をする。透子はまだ起きる気配はなかった。
「起きて透子ちゃん、休日のように寝てたいのは君だけじゃないんだよ?」
メイフライが透子のパジャマを掴み軽く揺する。意識を取り戻したのか"ううん・・・・・・"と小さな声を上げ横に転がる。
「もう朝なの・・・・・・?」
「よし、全員起きたようね。一緒に食堂に向かいましょう」
「分かりまし・・・・・・あ、ちょっと待って下さい!」
香織が呼び止めるように焦った声を出した。何やら大事な事を思い出した表情だった。
「どうしたの?もしかしてまだ具合が悪い?」
「いえ、昨日博仁さんから武器庫に来いって言われたんです!いくつか渡したい物があるって・・・・・・!」
「そう、じゃあすぐに向かった方がいいわね。誰か案内してくれる?」
「俺が案内しますよ。皆さんは食堂に行って下さい」
慎一が自分を指差し簡単な頼みを承諾する。
「あんたってホントに女の子ラブよね・・・・・・」
「とんでもない。こう見えても俺は男女平等主義者です。相手が香織さんじゃなくてメイフライさんだったとしても同じ事をしてましたよ?」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.72 )
- 日時: 2016/06/26 13:54
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
参照1600突破大いに感謝です!
そういえばこれも最近知ったどうでもいい話なんですが、
百年戦争時代ジャンヌ・ダルクの異端審問の裁判長を務めたフランス聖職者のピエール・コーション(1371年 - 1442年)という人物がいます。
彼ははジャンヌの裁判後もイングランド派の聖職者として行動しました。
1431年12月16日にパリで開かれたイングランド王ヘンリー6世の「フランス王戴冠式」にも臨席しました。
シャルル7世がパリを奪還するとルーアンへ逃れ1442年12月18日に同地で死去。
彼の命日が私の誕生日と同じ日でした。
以上ですwwww
これからもこのマルキ・ド・サドをよろしくお願いします。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.76 )
- 日時: 2019/01/15 19:53
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
「ここが武器庫です。全部本物ですよ。あまり長居したくないんですよね。恐怖感が増すから」
慎一が少々不安がはみ出た様子で言った。確かにこのような物を見せられたら驚愕できない方が難しい。軍用と思われる無数の銃器が綺麗に並べられ厳重に保管されていた。
「この中から好きな物を選んでください。あ、でもサイトやサイレンサー、フォアグリップがカスタマイズされているのは他の人が使ってるから触れないように」
香織は何も言わず銃をしばらく眺めた。そして何となく気になった質問をした。
「全部でいくつあるんですか?」
「この隠れ家の武器全部ですか?う〜ん・・・・・・俺は記録係じゃないから詳しくは言えませんが聞いた情報が正しければ300丁のアサルトライフル、200丁のサブマシンガン、120丁のショットガン、60丁の軽機関銃、400丁のハンドガン、あとは100個のシールドといくつかの爆弾ですかね」
「刀とかないんですか?銃はちょっと自身がないです・・・・・・」
「えっと・・・・・・刀ですか?」
慎一が首を傾げ疑問を抱く。どうやら呆れさせてしまったようだ。
「どうやら約束通り来てくれたようだな・・・・・・ん?なんだ慎一も来ていたのか。こんな所でデートなんかするもんじゃない」
少し遅れて博仁がやってきた。片手に金属製の長いトランクを持っている。相変わらずのジョークを零し2人に対して明るさのない頬笑みを浮かべた。彼はトランクを真ん中のテーブルに置くと香織に"こっちにきてくれ"と言った。
「長いケースですね。何が入っているんですか?」
「お前の装備だ。BJのお気に入りの品だそうだ」
それだけ答えると早速、バックルを外し蓋を開けた。慎一も興味本意で横から中身を覗き見る。中々の大きさなだけあって色々な代物が入っていた。1番最初に視線を向けたのは
「これ、刀ですか?」
「名は『和泉守兼定』、レプリカだと思ったら大間違いだぞ」
「和泉守兼定!?実物ですか!?」
慎一が驚愕した。
「あの、この刀ってそんなにすごいんですか?」
「凄いも何も・・・・・・新撰組の副長『土方歳三』の愛刀ですよ!?何でそんな物がここに!?」
「さあな、BJからのプレゼントだそうだ。こんな凄いもん渡されるって事はよっぽど気に入られたんだな」
香織は兼定を手に取り深紅の鞘から半分刃を抜く。曇りのない銀色の鋼は数百年前の代物とはまるで嘘のようだ。感じる重さは命の重さ、斬られた者の痛みが伝わる。竹刀とは全く違う感覚、刀身に殺気が漂う。
「武器という物は持つ者の命に共鳴する。その刀もお前を気に入るだろう。今日からこいつの主人はお前だ。大事に扱えよ?」
そう言い博仁が真顔で香織を見つめる。支給した武器の相性を目で確認すると次は
「戦闘に行く時はこれを着ていけ。改良型のバトルスーツだ」
どこかの国の兵士が身に付けるような迷彩柄の衣装だった。勘に狂いがなければおそらく男性用。しかしよく見ると両肩、両肘、両膝、胸部の部分に革で出来たアーマーが取り付けられている。
「あの、これ・・・・・・」
「おいおい、いまいちな反応だな。もっと喜べ」
「戦争映画の見過ぎ・・・・・・」
博仁は気を取り直して装備の説明を続ける。
「これはただの軍用戦闘服じゃない、スーパー繊維を編み込まれ作られた。また防刃、防弾にも優れ相手が銃を使って来ても40口径の弾丸までなら余裕に防げる。厚着だが軽くスポーツウェアのように動きやすいし耐寒性に優れ夜の真冬も寒さも凌げるぞ。おまけに装着された『レザーアーマー』には『鉛』が埋め込まれている。気になるお値段?そんなもんあるか」
スーツを香織が武器を持ったままの腕に投げると次は
「これは正式名称『X-12』、組織が作った小型無線機だ。メンバーの大半は『おはじき』と呼んでいる。主に体に付けて使用する。12キロの距離までが有効範囲、レーザーポインターもついているが役立つかはお前次第だ。なくすなよ?意外とレアな代物なんだ」
それ以外はそれほど大したものはなかった。携帯食料にスポーツドリンク、あとは2本のモルヒネ。ちなみに銃は入ってなかった。
「あれ?」
ふと、香織がある事に気がついた。それは最後の支給品のスマートフォンだった。自分のではなかったがどこかで見たような・・・・・・真っ白な柄でシールやキーホルダーの装飾はない。これを使っている人間に身に覚えがあった。直後に持ち主の顔を思い出す。
「このスマホ・・・・・・詩織のじゃない!」
「すまないな。警察に没収されたお前のを持って来たかったんだが残念ながらその余裕はなかった」
「だったら店から盗めばよかったじゃない!それもだめだけど・・・・・・!もしかしてあの子の家に忍び込んだの!?」
「ああ、そっちの方が簡単だったからな・・・・・・不快にさせたのなら謝る・・・・・・」
「あり得ない!本当に悪趣味極まりないわね!私が詩織だったら呪ってるわ!」
感情を抑えるのを忘れ恐い目つきをした男を罵る。慎一は女の怒りに恐怖したのか黙したまま2人から目を逸らしていた。どれでもいいから武器を見つめ今の状況に干渉していないふりをした。
「中身は覗いた?」
「ほとんど覗いてない。データもそのままだ。ただ、少しばかり改造させてもらった」
その言葉に香織がとうとう博仁を本気で怒鳴りつけようとした時だった。発狂する前に彼の口が開いた。
「最初の部分しか見てなかったんだがお前の名を口にした動画が見つかった。おそらく『ビデオレター』だと思う」
「ビデオレター?」
その言葉を聞き一旦たかぶった感情を静め親友のスマホを手に取る。スイッチを押し電源を入れる。10秒後に可愛い猫の待ち受け画面が表示された。ファイルを開くと色々な動画が記録されている。遊園地に行った時の動画、ペットの動画、他にもたくさんあった。例のビデオレターは最後列にあって無邪気に笑う笑顔のサムネイル、だが少し切なそうに表情で正面を向いていた。
「これね・・・・・・」
「それだ、見てみろ」
香織はすぐには画面に触れなかった。この映像を見るには覚悟が必要だったからだ。生きていた頃の親友を見ればこれまで以上に悲しくなる。そうなるのが恐かった。しかし、その弱さを押し殺し画面を人差し指の指先で軽く叩いた。雑音が混じった詩織の声が再生される。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐 ( No.78 )
- 日時: 2019/01/15 19:59
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
- 参照: ht
(メッセージの内容)
ちゃんと映ってるかな?大丈夫かな・・・・・・よし、ええっと・・・・・・ハロー香織ちゃん
あなたがこれを見ている頃には私はもう飛行機の中で海の上だと思う・・・・・・この事をもっと早く言えばよかったね・・・・・・
あの時は泣いていた私を抱きしめて優しい言葉をかけてくれたけど本当はちょっと怒ってるよね・・・・・・?
私も自分が許せない。一番の友達のあなたに嘘をついていたんだから・・・・・・黙っててごめんね・・・・・・
そういえば香織ちゃんは覚えてる?2人で助けた猫ちゃんの事、私ははっきり覚えてる。あれは今までの人生の中で一番いい思い出だった
だって香織ちゃんと出会えたんだから。これよりいい日なんて多分来ないと思う
ぐすっ・・・・・・ごめん・・・・・・さっきから涙が止まらなくて・・・・・・
香織ちゃんはとても強い子だから今の困難をきっと乗り越えられるよ・・・・・・!いじめにだって絶対負けない・・・・・・!
それに、永遠にさよならをするわけじゃない。いつか必ず帰ってくるから!
その時は皆が呆れるくらいいっぱい遊ぼう!お土産もたくさん買ってくるから!
だから香織ちゃん・・・・・・私のこと・・・・・・忘れないでね・・・・・・私達は何があっても何が起こっても永遠に友達だよ・・・・・・!
(詩織!ご飯よ!)
分かった!今行く!・・・・・・あはは、なんかごめんね。せっかくのムードが台無しだよね・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
じゃあね、香織ちゃん・・・・・・また会う日まで・・・・・・
「詩織・・・・・・!あああああああ・・・・・・!」
映像が終わった直後、香織は泣き崩れた。親友の死の悲しみを改めて実感した。メモリーに保存されたホログラムが目の前にあるだけで本物の笑顔はもう見れない。そう思うと心臓が締め付けられ潰される痛みが奥からやってくる。忘れられない親友の笑顔が香織の頭の中を埋め尽くす。目から零れ落ちた熱い涙が止まらない。
「・・・・・・詩織ィィッ!」
「・・・・・・」 「・・・・・・」
博仁と慎一の2人は何も言わず新たな仲間の想いをそっと理解した。下を向いたまま言葉にならない声を聞き続けた。
「博仁さん・・・・・・慎一さん・・・・・・私はもう迷わない・・・・・・!例えどんなリスクを犯してでも詩織の仇を討つわ・・・・・・!」
それを聞いた博仁は"そうこなくっちゃ"と言わんばかりに口角を上げた。
「その熱意は買おう。だが、今すぐはだめだ」
「どうして!?」
「姫川香織の情報はお前が牢獄でゴキブリと戯れている間に全て調べ上げた。だが何度も県大会で優勝しても殺しに関しては新兵にも及ばない。しばらくは地獄の猛特訓だ。ソルジャーチームとシールドチームは必ず行う。かなりきついぞ?それでもやるか?俺は女の忍耐強さは信用する方だが」
「愚問ね、やるに決まってるでしょ!」
香織は即答した。
「ならばさっそく特訓だ・・・・・・と言いたいところだがその前に飯を食え。腹が減っては戦はできぬって言うだろ?」
「じゃあ行きましょう。炊き込みご飯なくなっちゃいますよ?」
慎一は自分にとってのメインディッシュを逃したくない一心で香織を促す。
「博仁さんも一緒に朝ご飯食べませんか?」
「俺はもう食べた。これからの大事な会議に出席しなきゃならない。部屋のお仲間達とゆっくり味わってこい」
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