複雑・ファジー小説
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- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.193 )
- 日時: 2019/12/22 11:54
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
香織達は声をかけずいつでも撃てる体勢のまま、ひとまず様子を窺う。やがて騒々しい機械は止まり部屋は静寂に包まれる。冬美は研かれた大鉈を水に浸し沈める。濡れた手を台に乗せそれを眺めながら
「・・・・・・どうやってここに入った?」
と気迫のある声で問いかけてきた。
「久しぶりね冬美、3ヶ月ぶりってとこかしら?」
香織は質問には答えず久々に再会した3人目の標的を睨む。
「零花と伊織が殺され次は私だと確信していた。牢獄から脱走したと聞き耳を疑ったがまさか本当に来るとはな。お前は昔からしぶとかった。この私と互角の実力を持ち何度も手こずらされた」
「変わってないわね。あなたってホント、普通の人間らしさがないわ。戦うために生まれた化け物みたい」
香織は多少驚きつつも皮肉を返す。冬美がようやく身体を振り返らせ香織と対面した。そして不気味に顔をにやけさせる。
「その派手な仮面は何だ?笑わせに来たのなら生憎だが、愉快にはなれん。ほう、隣にいるのはもしかして彼氏か?なかなかの美顔だが軟弱な体格の男は好みではない」
メイフライはむっとしたが嫌みには動じなかった。狙いをずらさず銃口を相手の額に合わせる。
「残念な形とはいえ久々にかつての親友と会えたんだ。ちょっとばかり話をしないか?なあに、油断させて不意を突くつもりはない。恐いなら銃を向けたままでいい」
「どういうつもり?」
先が読めない行為に香織は更に警戒する。
「ただ話がしたいと言っているんだ。仲が良かった昔みたいにな」
冬美は面持ちを変える事なく物柔らか口ぶりで言った。背後にある武器に手を伸ばす気配はない。彼女は懐かしそうに過去の内容を語り始める。
「お前との出会いは確か、高校1年の時だ。すぐに親しくなって、どの部活に入部するか悩んだ日は今でもいい思い出。結局、私は柔道をお前は剣道を選んだ」
「・・・・・・」
「辿る道が違っても負けずと活躍し互いに頂点を譲らなかった。幸せな気持ちだったよ。最高のライバルがいた事が」
「そうね。あなたは高校に入学したときにできた初めての友達、心から尊敬していたわ。いつかあなたを越える・・・・・・気がつけば、それが私の目標になってた」
香織は微小な笑みを作り、共感を抱いた。メイフライはその横で黙ってやりとりを聞き続ける。
「お前はいじめに遭い、濡れ衣で逮捕されるという最期を迎えた。私は1人取り残され学園での生活は空虚なものとなった」
「ライバルがいなくなって寂しかった?」
「はっ、嬉しさと悲しみの五部と五部と言ったところか・・・・・・」
冬美は切なそうに下を向く。ゆっくりと平静なため息をつくと
「どんなに絶望の淵に追い込まれてもお前は這い上がりこうして戻って来た。どこまでも私を追い詰めるか・・・・・・」
「ええ、当然よ。やられたままなんて性に合わないもの。あんな所で大人しく干乾びる程、潔い性格じゃないのでね」
香織ははっきりと強気に言い放った。
「既に2人殺しているみたいが、初めて人の命を奪った気分はどうだ?血が恋しくなったか?」
「全然、楽しいどころか達成感も満足感も得られなかった。生きた心地のしない最悪な気分よ」
「そうか・・・・・・」
冬美は感想を聞き、返した返事はそれだけだった。
「冬美、私はのんびり会話をしに来た訳じゃない。この格好を見れば嫌でも分かるでしょ?ここに来た理由は2つ、あなたを殺しに来た」
「2つ目の理由は何だ?」
殺すと言われても冬美の前ではただの口の悪い発言に過ぎなかった。やはり怯えた仕草を露にせず関心を引かれたように問いかける。
「詩織を殺した張本人の名を無理にでも吐かせる。殺すのはその後よ」
メイフライも引き金を軽く引き脅しをかける。
「詩織を殺した男は誰だ?楽に死にたかったら洗い浚い白状しろ!」
「何だと・・・・・・?まさか、あの女の仇を討つためにわざわざ来たのか?自分のためではなく・・・・・・ふっ、ははは・・・・・・笑わせるな・・・・・・この偽善者がっ!!」
高笑いしたと思いきや彼女は険しい形相で香織を怒鳴りつけた。並々ならぬ迫力に2人は一瞬、全身を身震いさせる。無意識に二、三歩、後退りしてしまう。
「汚れた人間の分際で正義の味方気取りか!?自分の立場を弁えろっ!!」
冬美はこれ以上のない憎悪を剥き出し怒りを吐き捨てる。力任せに握った拳からは爪が食い込みぽたぽたと血の雫が滴り落ちた。
「お前が妹に何をしたかこれまで一度も忘れた事はない!重い後遺症を負わされ人生そのものを大きく狂わされた!あいつの右手はもう治らない・・・・・・スプーンすら持てないんだ!これだけの事をしておきながら罪の意識さえないんだろっ!?」
平常心のない罵声に対し香織は強く否定した。
「それは違う!私だってあの日の事故をずっと悔やんでいたわ!一生消えないだろう罪悪感がトラウマになって・・・・・・だからあなたにいじめられても当然の報いだと自分に言い聞かせながら毎日耐え続けた。でも、殴られるより犯した過ちに苦しむ方がよっぽど痛かった・・・・・・!」
必死に訴えるが沈静を失った彼女に思いは届くはずもなかった。
「片手が使い物にならなくなって妹は私に泣きついて何度も叫んだ・・・・・・あいつを同じ目に遭わせて殺してくれってな!私も裏切られたショックでまともに息が出来なかった!本当は私を蹴落とすための汚い策略だとも思った!」
「たちの悪い誤解だわ!そんな卑劣な考え、した事もない!」
だがやはり相手は聞く耳を持たず
「お前を陥れるチャンスが訪れた時は天が味方したんだと感じたが、歓喜までは抱けなかった。何故なら自らの手でお前を殺せなかったんだからな。それが長い間、心残りだった。だが、お前はこうして私の前に現れ、再び復讐のチャンスを与えてくれたわけだ」
「冬美・・・・・・」
「この悲劇の全てが現実ではなくただの悪夢にすり替わったとしても私はお前を許さない。妹の笑顔を奪った償いとしてまずはいたぶり切り刻んで、その後であの世送りにしてやろう。今度こそ逃がさん」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.194 )
- 日時: 2019/12/22 11:57
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
無慈悲な台詞を最後に冬美はボタンを外し上着を脱ぎ捨てた。その下は肌が露出する下着ではなかった。香織達は見慣れない代物に目を丸くする。冬美が隠し着ていた物は半袖の軍用スーツだった。森林迷彩柄でその上に黒いベストが被せられている。至る所に弾薬入れのポーチが付いた防刃防弾のアーマーだ。
鍛え上げられた彼女筋肉が堅く盛り上がり太い血管が浮かび上がる。その姿は熟練の兵士の面影を見事に再現していた。同年代の女子とは思えない肉体に香織は威圧感を感じた。同時にプレッシャーも。この世の物とは思えない殺意の目線を浴びせられ勝てる気力が損なわれていく。
(化け物だ・・・・・・俺が束になっても敵いそうにない・・・・・・!香織さんはこんな奴と互角に競い合っていたのか・・・・・・!?)
メイフライは暴力の塊と化した標的の姿に恐怖した。想像を絶する戦いを目前に1つの感情以外何も考えられなくなった。
「私との戦いに備えるために随分と切磋琢磨したのね?見違えたわ」
肝を冷やす仲間とは裏腹に香織は動揺しなかった。これからの修羅場を覚悟しているのか堂々と好敵手を睨み返す。
「お前の事だからきっと鍛錬は怠らないと予測していた。こっちは訓練時間を倍に増やしておいた。今ならお前に対して圧勝も簡単かもな?」
「すっかりなめられたものね」
冬美は軽くストレッチし調子を安定させる。そして近くの壁に飾られた無数の武器の中から1つの山刀を得たんだ。スチール製のミリタリーマチェーテで45センチの刀身、幅が刀より広い。重量は軽く片手だけでも容易に振り回せる。
「お前もこの中から好きな物を選べ。どれも上質だ。自信がないなら長剣を手にしても構わん」
「せっかくの親切の不意にして悪いけど私は今まで通りこれでいく」
香織はショットガンの狙いを冬美から逸らし右腰のホルスターからピストルを抜き取った。銃火器を隣にいたメイフライに手渡す。
「か、香織さん・・・・・・!?」
「メイフライさん、こいつだけは一騎打ちで勝負しなきゃいけない。昔のように正々堂々戦って決着を着けるわ」
「博仁さんに告げられたばかりの教訓を忘れてしまったんですか!?どんな手を使ってでも・・・・・・!」
「分かってる」
香織ははっきりと頷いた。しかし、非道な手段には同意せず
「私は最後まで卑怯者でいたくないの。正攻法であいつに勝たなきゃ意味がない」
「香織さん・・・・・・」
「もし私が敗北したら迷わず引き金を引いてここから逃げて下さい。死体は持ち帰らなくていい」
香織は装備を預けたメイフライを部屋の隅まで下がらせる。仮面を取り外し情けを捨てた形相を曝け出すと刀のグリップに手を伸ばした。
「随分と立派な打刀だな?どこかの名刀じゃないのか?」
「これが今の私が持つ竹刀、あなたを斬る白刃よ」
ゆっくりと引き鞘から刀身を抜く。しっかりと両手で握り剣道と同じ構えをする。
「前もって言っておくが私にだって人を殺す度胸は十分に備わっている。2人を殺害した勲章を付けているからと言って、自分が有利だと誤解しない事だ」
冬美も狂喜の面持ちでマチェーテを手の平で器用に回した。刀身を斜めに傾け刃こぼれのない鋭い刃先を向ける。やはり、目は笑っていなかった。
「この時をずっと待ちわびていた。お前との決闘、興奮で胸が張り裂けそうだ。命を懸けた最初で最後の大勝負。はっきりさせようじゃないか。どちらが聖でどちらが邪か」
「私もあなたたとの戦いを心から待ち望んでいた。でも、1つだけ間違っているわ冬美」
香織は軽く表情を緩めて
「ここに聖なんて存在しない。どちらも邪よ。私達は両方汚れてる・・・・・・」
「どちらも汚れているだと?ほざけっ!!」
冬美は声を張り上げ先手のマチェーテを大きく振り下ろした。香織は反射的に刀身を傘にし攻めを防いだ。甲高い音に飛び散る火花、振動と衝撃が伝わり手に痛みが走る。
「やるじゃないか」
刃の競り合いに腕力を加えながら冬美は相手の出方に少しばかり尊敬を表した。
「あなたもね」
香織も共通の態度を取りのしかかる重さに抗う。しかし、力の差は誰が判断しても歴然。徐々に追い込まれていく。このままでは耐えきれずやがて押し倒されてしまうだろう。
「どうした?手が震えているぞ?」
冬美は好機、容赦なく圧倒する。
「力だけが剣技じゃないわ」
不利な状況に動揺せず香織は冷静さを保っている。ふと受け止めていた刀を離し、防御の構えを崩した。支えがなくなったマチェーテが勢いよく振り下ろされ床へ深々とめり込んだ。
「ぬっ・・・・・・!?」
予測しなかった手段に冬美は大きな隙を作り出してしまう。驚愕し顔を上げたが相手の姿は消えていた。直後に気配がした真横を振り向くと中腰で刀を斜めに斬り上げる香織の姿があった。
「ちっ・・・・・・!」
冬美は舌打ちと同時に飛び下がり危機一髪それをかわしたが完全には避け切れなかった。素早い斬撃が右脇腹を掠っていたのだ。アーマーに浅く傷つけ見事に真っ直ぐな線を残した。
「テクニックも必要よ」
香織は元の態勢へと戻し教訓の台詞を口にした。
冬美は喰らわされた傷跡をなぞった。表面の繊維が裂けセラミックの感触が指に伝わる。楽しいのか感心したのか何とも言えない表情。肩の骨を痛々しく鳴らし深く刺さったマチェーテをいとも容易く引き抜く。
「やはり私の相手はお前じゃなきゃ務まらないらしい。これほどまでに楽しませてくれるとはな」
「私も誰かと戦う喜びと興奮を強く感じたのは久しぶり、懐かしい日々を取り戻したみたい。感謝しておくわ」
香織も命懸けのやり取りに快感を湧かせ謝意を示す。
「勝負がつくまで本気でぶつかりましょう。一世一度の戦いなんだから、ね?」
「同感だ。どちらかが死ぬまで手加減はなしだ。本気でかかって来い」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.196 )
- 日時: 2018/03/09 08:43
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: iqzIP66W)
無慈悲な台詞を最後に冬美はボタンを外し上着を脱ぎ捨てた。その下は肌が露出する下着ではなかった。
「!」 「!」
香織達は見慣れない代物に目を丸くする。冬美が隠し着ていた物は半袖の軍用スーツだった。森林迷彩柄でその上に黒いベストが被せられている。至る所に弾薬入れのポーチが付いた防刃防弾のアーマーだ。
鍛え上げられた彼女筋肉が堅く盛り上がり太い血管が浮かび上がる。その姿は熟練の兵士の面影を見事に再現していた。同年代の女子とは思えない肉体に香織は威圧感を感じた。同時にプレッシャーも。この世の物とは思えない殺意の目線を浴びせられ勝てる気力が損なわれていく。
(化け物だ・・・・・・俺が束になっても敵いそうにない・・・・・・!香織さんはこんな奴と互角に競い合っていたのか・・・・・・!?)
メイフライは暴力の塊と化した標的の姿に恐怖した。想像を絶する戦いを目前に1つの感情以外何も考えられなくなった。
「私との戦いに備えるために随分と切磋琢磨したのね?見違えたわ。」
肝を冷やす仲間とは裏腹に香織は動揺しなかった。これからの修羅場を覚悟しているのか堂々と好敵手を睨み返す。
「お前の事だからきっと鍛錬は怠らないと予測していた。こっちは訓練時間を倍に増やしておいた。今ならお前に対して圧勝も簡単かもな?」
「すっかりなめられたものね。」
冬美は軽くストレッチし調子を安定させる。そして近くの壁に飾られた無数の武器の中から1つの山刀を得たんだ。スチール製のミリタリーマチェーテで45センチの刀身、幅が刀より広い。重量は軽く片手だけでも容易に振り回せる。
「お前もこの中から好きな物を選べ。どれも上質だ。自信がないなら長剣を手にしても構わん。」
「せっかくの親切の不意にして悪いけど私は今まで通りこれでいく。」
香織はショットガンの狙いを冬美から逸らし右腰のホルスターからピストルを抜き取った。銃火器を隣にいたメイフライに手渡す。
「か、香織さん・・・・・・!?」
「メイフライさん、こいつだけは一騎打ちで勝負しなきゃいけない。昔のように正々堂々戦って決着を着けるわ。」
「博仁さんに告げられたばかりの教訓を忘れてしまったんですか!?どんな手を使ってでも・・・・・・!」
「分かってる。」
香織ははっきりと頷いた。しかし、非道な手段には同意せず
「私は最後まで卑怯者でいたくないの。正攻法であいつに勝たなきゃ意味がない。」
「香織さん・・・・・・」
「もし私が敗北したら迷わず引き金を引いてここから逃げて下さい。死体は持ち帰らなくていい。」
香織は装備を預けたメイフライを部屋の隅まで下がらせる。仮面を取り外し情けを捨てた形相を曝け出すと刀のグリップに手を伸ばした。
「随分と立派な打刀だな?どこかの名刀じゃないのか?」
「そうよ。これが今の私が持つ竹刀、あなたを斬る白刃よ。」
ゆっくりと引き鞘から刀身を抜く。しっかりと両手で握り剣道と同じ構えをする。
「前もって言っておくが私にだって人を殺す度胸は十分に備わっている。2人を殺害した勲章を付けているからと言って自分が有利だと誤解しない事だ。」
冬美も狂喜の面持ちでマチェーテを手の平で器用に回した。刀身を斜めに傾け刃こぼれのない鋭い刃先を向ける。やはり目は笑っていなかった。
「この時をずっと待ちわびていた。お前との決闘、興奮で胸が張り裂けそうだ。命を懸けた最初で最後の大勝負。はっきりさせようじゃないか。どちらが聖でどちらが邪か。」
「私もあなたたとの戦いを心から待ち望んでいた。でも、1つだけ間違っているわ冬美。」
香織は軽く表情を緩めて
「ここに聖なんて存在しない。どちらも邪よ。私達は両方汚れてる。」
「どちらも汚れているだと?ほざけっ!!」
冬美は声を張り上げ先手のマチェーテを大きく振り下ろした。香織は反射的に刀身を傘にし攻めを防いだ。甲高い音に飛び散る火花、振動と衝撃が伝わり手に痛みが走る。
「やるじゃないか。」
刃の競り合いに腕力を加えながら冬美は相手の出方に少しばかり尊敬を表した。
「あなたもね。」
香織も共通の態度を取りのしかかる重さに抗う。しかし、力の差は誰が判断しても歴然。徐々に追い込まれていく。このままでは耐えきれずやがて押し倒されてしまうだろう。
「どうした?手が震えているぞ?」
冬美は好機、容赦なく圧倒する。
「力だけが剣技じゃないわ。」
不利な状況に動揺せず香織は冷静さを保っている。ふと受け止めていた刀を離し防御の構えを崩した。支えがなくなったマチェーテが勢いよく振り下ろされ床へ深々とめり込んだ。
「ぬっ・・・・・・!?」
予測しなかった手段に冬美は大きな隙を作り出してしまう。驚愕し顔を上げたが相手の姿は消えていた。直後に気配がした真横を振り向くと中腰で刀を斜めに斬り上げる香織の姿があった。
「ちっ・・・・・・!」
冬美は舌打ちと同時に飛び下がり危機一髪それをかわしたが完全には避け切れなかった。素早い斬撃が右脇腹を掠っていたのだ。アーマーに浅く傷つけ見事に真っ直ぐな線を残した。
「テクニックも必要よ。」
香織は元の態勢へと戻し教訓の台詞を口にした。
冬美は喰らわされた傷跡をなぞった。表面の繊維が裂けセラミックの感触が指に伝わる。楽しいのか感心したのか何とも言えない表情。肩の骨を痛々しく鳴らし深く刺さったマチェーテをいとも容易く引き抜く。
「やはり私の相手はお前じゃなきゃ務まらないらしい。これほどまでに楽しませてくれるとはな。」
「私も誰かと戦う喜びと興奮を強く感じたのは久しぶり、懐かしい日々を取り戻したみたい。感謝しておくわ。」
香織も命懸けのやり取りに快感を湧かせ謝意を示す。
「勝負がつくまで本気でぶつかりましょう。一世一度の戦いなんだから、ね?」
「同感だ。どちらかが死ぬまで手加減はなしだ。本気でかかって来い。」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.197 )
- 日時: 2020/08/24 18:40
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
2人は再び向き合い鋭く尖った先端を向け構える。まわりの環境を『無』とし目の前の相手から視線を微かにも逸らさない。睨み合いが延々と続く。両者共に微小の隙さえ見せず動く瞬間を見計らう。狭く無音の空間にあるのは緊張と集中だけだった。静穏の吐息に頬を伝る汗、剣呑の空気が漂い時間だけがゆっくりと過ぎていく。
香織達の壮絶で行く先が読めない決闘の様子をメイフライは黙って眺めていた。先に動いたら負け、斬るか斬られるか、そんな多大なプレッシャーが彼自身にも伝わってくる。だが、手出しは出来ない。彼女との約束を守り勝利を信じる事しか出来なかった。その時・・・・・・
「・・・・・・あっ!」
メイフライはうっかり手を滑らせ抱えていた銃器を誤って手放した。ショットガン等が散らばりガチャンッ!と音を立てた。
「!」
香織はそれに気を引かれ一瞬だけ視線を正面から逸らしてしまった。その瞬間を冬美は見逃さなかった。
「うおおおおお!!」
またしても先手を取り勢いよく冬美は斬りかかる。害意の叫びに香織は即座に向き直るとそれを受け止めがグリップを握る力が弱かった。刀は弾かれ大きく横にずらされた。強い衝撃に同じ方向に身体ごとつられる。そこへ次の斬撃が彼女の頭部に目掛けて振り下ろされた。メイフライが思わず目を塞ぐ。香織はサッと頭だけを後ろへやり何とか直撃を免れる。マチェーテはギリギリ当たらず風を斬る音を立て顔面の中心を過ぎる。
反撃のチャンスを作るためバックステップで距離を置いた。十分なスペースを得ると間を開けず攻め立てる。長い刀身を頭上で振り回し斜めに斬りかかかるがまたも抑えられた・・・・・・が、競り合いから刃を遠ざけ瞬時に突きを喰らわす。素早き刃先が眼球の直前に迫る。冬美は頭部を傾けこれも間一髪かわした。耳と刀身の隙間は僅か数ミリ、なびいていた数本の髪が舞い落ちる。
「ほんのちょっと遅かったら片耳になっていた。惜しかったな?」
冬美は唇を引きつりにやけた歯を見せつけた。狂喜とも言える痛快の笑みを睨んだ相手の視線に合わせる。途端にマチェーテをぶつけ力づくで刀を弾いた。目に留まらない電光石火のスピードだった。
不意打ちに近い打撃が刀身に行き渡りやがて手と手首に激痛が伝わった。グリップから左手が投げ出されたが怯んだ態勢を立て直し片手だけで振り払う。冬美がお辞儀の素振りをし斬撃をくぐった。勢いのない白刃が頭上を遅く通過する。
「日本刀というのは両手で扱うものだ」
冬美は余裕に台詞を零し腕を脇腹に絡ませ香織にしがみついた。そのまま自慢の筋肉で絞めつける。
「があぁあっ・・・・・・!」
胃や肝臓が潰され香織は地獄の叫びを上げた。死んだ方が救われる痛感、天井を見上げながらカッと口を開け唾液を垂れ流す。彼女の力ではこの強固な拘束はほどけない。臓器が破裂するのも時間の問題だ。
「痛覚に響くだろう?これが私の特訓の成果だ。ずっとこの痛みを汚れたお前に実感させてやりたかった」
「がっ・・・・・・ああ・・・・・・!」
「妹の苦しみはこんなものではなかった。逃れられない圧迫に悶えて悶えて悶え切って、後悔しながら死んでいけ。じゃなきゃあいつに笑顔は戻らんっ・・・・・・!」
万力と呼べる力を更に加える。この世の物とは思えない鬼畜な感触に神経が暴れ狂う。
「ああああっ・・・・・・!」
香織は泡を吹き出し目をぐるりと上にやった。びくびくと痙攣が止まらない。
「勘単には殺さん。ゆっくりと昇天させてやる」
「ぐっ・・・・・・この・・・・・・!」
窮地に追い込まれても香織は大人しく死ぬ気などなかった。徐々に抜けていく気力を振り絞り右手に力を込めた。刀を上げ手の中でグリップを回転させ両手で掴んだ。下に向けた刀身を限界まで掲げると冬美の脳天目掛けて振り下ろした。
だが・・・・・・そこに冬美の姿はなかった。刀は相手を仕留め損ないざくっと床に突き刺さる。
「はあはあ!?」
香織は息が詰まった呼吸をし思いがけない顔をした。気がつけば拘束が解かれ腹部の痛みが和らぎ始める。しかし、その心地いい解放感は束の間の安らぎだった。
「そう来ると思ったぞ?実にお前らしいやり方だ」
正面からあいつの声がした。顔を上げた瞬間、香織は胸倉を掴まれ頭突きをお見舞いされる。岩に岩を叩きつけた惨い音、額に震動が伝わり意識が遠のく。香織は倒れなかったが相手の姿がはっきりとしない。視界がぼやけどれが何なのか判断するのは不可能に近かった。頭が思うように働かず聴覚も違和感に蝕まれる。ただ1つだけ明白なのは殺すべきあいつがこっちに距離を縮めている事だけ。
「戦いに必要な物は3つ・・・・・・」
目の前にいる冬美の声が木霊して聞こえる。香織は慌てて刀を探すがどこにあるのかすら分からない。次第に世界が歪んでいく。
「私の言う力とお前が主張したテクニック。そして最後は・・・・・・『頭』だ」
冬美はマチェーテを横に振った。誰でも避けられそうな鈍い一撃・・・・・・
「・・・・・・?」
香織は首に何かを感じた。何故かは知らないがおびただしい量の血が噴き出している。触ると生温かく止まらない。床に降り注ぎ真っ赤に染め上げる。最初は何が起こったのか分からなかったが息が苦しくなりようやく理解した。
「かっ・・・・・・!」
香織は喉を切り裂かれた。気管支に穴をあけられ酸素が肺まで行き届かなくなる。出血を止めようと必死に押さえたがどうしようもなかった。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.198 )
- 日時: 2020/08/24 18:42
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「おっと、すまないな?いささか本気を出し過ぎたようだ」
冬美は猟奇的な光景を面白そうに眺めていた。そして狂喜の表情を一変させ
「いいんだ、敗者はとっとと死ねば」
彼女はそう無慈悲に吐き捨て首を掴み片手で軽々と投げ飛ばした。香織は壁にぶち当たり背中にかなりの衝撃を受けた。彼女はがっ・・・・・・!とだけ漏らし目と口を大きく開いた。直後に胃の中の物と血を一緒にぶちまけ地面に全身を打ちつける。飾られていた大量の刀剣が飛び散りばらばらと降り注いだ。
「香織さんっ!!」
メイフライは深刻に叫び香織に駆けつけた。言い表せない絶望に青ざめ彼女を抱きかかえる。喉に負わせられた傷口を死に物狂いで塞いだが
「か・・・・・・がぁ・・・・・・かああ・・・・・・」
まともに呼吸が出来ず最早枯れた声しか口から出せなかった。当然、出血はまだ続いている。
「そ、そんな、嫌だ・・・・・・!しっかりして下さいっ!死んじゃだめだっ!!」
「無駄だ。そいつはもう助からん。じきに息が止まり命は果てる」
冬美が歩み寄って来て言った。先が長くない恋人に悲しむ彼の姿を実に退屈そうに見下ろしていた。
「いつまでそんな肉の塊を抱いているんだ?彼女の死を見届ける気か?随分とロマンチックだな?反吐が出る」
冬美の発言にメイフライの理性が切れた。言い返す事なく香織を寝かせると殺意の形相を振り向かせ短刀を抜いた。飛び掛かり心臓を刺そうとしたが容易く手首を捕まれる。払い除けようとしたがびくともしない。
「私を仕留めるつもりか?止まって見えるぞ?やはりお前は軟弱な彼氏だ。香織の実力には遠く及ばん」
そう言って腹に少々本気の膝蹴りを1発喰らわす。うずくまったメイフライの背中に想い肘を落とし終いには投げ倒した。床を転がり部屋の隅に追いやられる。身体中に深い打撲を負い起き上がれず腹部を抱え吐き気に近い咳を吐き出す。
「げほっ!・・・・・・おえっ・・・・・・!」
「お前は後で始末してやろう。その前に恋人が無様に殺されるところをそこで見物させてやる」
「や・・・・・・やめろ・・・・・・」
冬美は無視し背を向ける。メイフライは手を伸ばすが届くはずもなく無力という悔しさに拳を握り目を閉ざす。
「もっと私を手こずらせるものかと期待したがとんだお門違いだったな。こんなにあっさり負け犬の醜態を晒す事になるとは」
冬美は無残に倒れる香織の前で立ち止まった。少しの間、抵抗する気力も出せるはずもない彼女を悪意のある面持ちで見下ろす。
「私の投げ技は効いたか?なんと哀れな・・・・・・だが安心しろ。今楽にしてやる。実に呆気ない決闘だったが、まあいい。汚れたお前の死で妹の苦しみを癒せるのだからな」
弱り切った相手にとどめのマチェーテを振り上げる。
「天国で親友に会えればいいな?さよならだ」
命の別れを告げ外しようがない追い打ちを振り下ろした。スチールの刃は垂直に香織の顔面に落とされる。頭蓋骨は綺麗に半分に砕かれる。美しい顔立ちは処刑と共に醜く変貌するだろう。
「・・・・・・なっ!?」
・・・・・・だが、聞こえたのは冬美の勝どきではなく予想外の声と耳に響く金属音だった。
「・・・・・・?」
メイフライは顔を上げ不可解な瞬間を目撃する。その光景に驚愕し鳥肌を立たせた。
「き、貴様・・・・・・!?」
香織は死んではいなかった。動けないはずの身体を起こし手元にあった冬美のコレクション(武器)を拾い瞬時に斬撃を防いでいたのだ。
「私は・・・・・・死ぬわけには・・・・・・いかない・・・・・・あなたを殺し・・・・・・親友の復讐を成し遂げる・・・・・・まで・・・・・・」
左手で冬美の腕を掴み思いきり引き寄せる。バランスを崩し間近に迫った彼女の顔面に拳をお見舞いした。皮膚に覆われた硬い骨がめり込み多大のダメージを与えた。
「ぐあぁっ・・・・・・!」
思わぬ抵抗に冬美は鼻を押さえ後ろへ倒れ込む。香織はひゅーひゅーと喘鳴呼吸を繰り返しふらふらと立ち上がる。命拾いさせたナイフを捨て傍にあった愛刀を手中に戻した。
「首を斬られ、あれだけの血をぶちまけながら・・・・・・!?お前、化け物か!?」
常識を無視した展開に流石の冬美も恐れ戦く。しかし、すぐさま態勢を立て直し口内に溜まった血を吐き捨てた。屈辱を味わった事で更に怒りを露にする。
「殺り損ねて残念だったわね・・・・・・?私はくたばりはしないわ・・・・・・死ぬのはあなたよ・・・・・・」
「・・・・・・死に損ないが、それでこそ私のライバルに相応しい。・・・・・・だがな」
赤い体液を拭い劣勢に立つ香織に対し
「その状態では延々には持ちこたえられないんじゃないか?長くても数分の余命だ」
「やってみなきゃ分からないわ・・・・・・もしかしたらそっちが・・・・・・逆転負けする可能性だってあるでしょ・・・・・・?」
香織は無理に健全に振る舞い再び刀を向ける。喉につけられた切り傷はいつの間にか塞がり出血は治まっていた。顔色にも変化はなくさっきの致命傷が嘘のように回復の傾向を見せていた。
「斬っても潰しても叩きつけても死なんとは・・・・・・やはりお前は私を驚かせる天才だ・・・・・・で、どうする?このまま永遠に一騎討ちを続けるか?こうは言いたくないがそろそろ飽きてきた」
「じゃあ降参すればいいんじゃない・・・・・・?」
香織が嫌みの混じったジョークを言った。
「断る。有利な状況で白旗を上げるバカがいるか?そんな生き恥を晒すくらいなら腹を切った方がマシだ」
返って来た返事に納得し香織はグリップを握り構えた。
「なるほどね、そう言うと思ったわ」
冬美は呆れた鼻息を鳴らし彼女も相手と同じ素振りをした。
「あなたには正攻法では勝てない。プライドに傷をつけるのは嫌だけど外法な手段に頼らせてもらうわ。
次の交戦で決着を着ける・・・・・・!」
「ほう、銃でも使うつもりか?」
「安心して。そこまで卑怯な真似はしない。戦ってからのお楽しみよ」
それだけ言うと香織は深呼吸し精神を安定させる。
「次で幕切れか・・・・・・面白い。どんな結果になろうと恨みっこなしだ。さあ来い!汚れた人間らしく卑劣なやり方で勝利を掴んでみせろ!」
「望むところよ。復讐を果たすため、私はあなたを斬る!」
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