複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.211 )
日時: 2018/07/01 08:38
名前: ふわり ◆6pSLJAtzfk (ID: 6uQJhp0p)



いつも読んでいますがお気に入りの小説です

これからもがんばってください

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.212 )
日時: 2018/07/29 22:58
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ふわり様、嬉しい言葉とエールをありがとうございます!
お気に入りの作品として読んで頂けるなんて嬉しい限りです。
その温かい応援が私の努力の励みになります。
この作品はまだまだ続きますのでよろしければこれからもご愛読下さい(*´ω`*)

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.213 )
日時: 2020/08/24 19:59
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「なあ、香織・・・・・・」

 橋の半分を過ぎた時、冬美が自分を支えて歩く香織を呼んだ。

「どうしたの?冬美?」

「何か・・・・・・懐かしくないか・・・・・・?」

「え?」

 香織はすぐ隣を見て意味が分からないままくすっと笑った。

「どうしたのよいきなり?急にそんな事言い出すなんて?」

 冬美も香織の破顔につられ理由を話した。

「思い出さないか・・・・・・?高校に入学してお前と親しくなった時、いつも2人で帰り道を歩いてたよな・・・・・・?」

「あはっ、確かにそうね。河川敷の道を通って色々な話をしながら帰宅していた」

 香織もずっと忘れていた記憶が頭に浮かび懐かしそうに言った。

「あの頃が1番幸せだった・・・・・・私の人生の中で・・・・・・心に残った日々だったよ・・・・・・」

「そう?私はやっぱり、違う部活に入部してもお互いにライバルとして競い合っていたあの頃かしら?」

「それも忘れたくない過去だな・・・・・・」

「でも・・・・・・」

「ん?何だ・・・・・・?」

 香織の途切れた一言に冬美は首を傾げる。

「何より嬉しかったのはあなたとの関係を取り戻せた事、傷つけ合った最後だったけど・・・・・・許し合えてよかった・・・・・・」

 それを聞いた冬美は真面目な表情で黙ったがまたすぐに微笑み

「奇遇だな・・・・・・私も今同じこと考えてたんだ・・・・・・不思議だよな・・・・・・何年も憎んでたのに今じゃちゃっかりよりを戻しているんだ・・・・・・まるであの悪夢が嘘だったかのように・・・・・・」

「憎み切れなかったのね・・・・・・やっぱり友達の絆はそう簡単に切れるものじゃないのよ」

 香織も納得したように頷いた。

「私の人生は・・・・・・ハッピーエンドで幕を下ろせそうだな・・・・・・これで心置きなく成仏でき・・・・・・げほっ・・・・・・!」

 急に冬美が顔を下に背け口から血を吐き散らした。苦しそうに長く咳き込みまた大量に吐血する。気がつけば彼女から流れ出た血が辿って来た場所に赤い道しるべを描いていた。

「大丈夫!?しっかりして!」

 香織は深刻になり思わず彼女の背中を摩った。

「おぇ・・・・・・私なら大丈夫だ・・・・・・ごぼっ・・・・・・がっ・・・・・・げ・・・・・・早く・・・・・・行こう・・・・・・」


 2人は道を戻る事なく進んでいきとうとう終着点まで辿り着いた。近くに来て改めて見上げるとそれはまるで空を支える太い柱。放たれる光は影を照らす太陽のように眩しく内側から美しい讃美歌に似た音色が響いて聞こえる。灰色の虚無の空気がその中へと吸い込まれていく。冬美はもう大丈夫だと香織から離れ自分だけで身体を立たせる。彼女は目の前にある扉をすぐには潜ろうとはせずしばらく間を置いて眺め続けた。やがて2人は別れを惜しむ切ない表情を作り互いに向き合った。

「お前・・・・・・現実に帰ったらやっぱり復讐を続けるのか・・・・・・?」

「ええ、そのつもりよ。それが私に背負わされた宿命だから」

 香織はためらいを抱かず堂々と答えた。

「気をつけろよ・・・・・・?零花、伊織、そして私が手にかけられ、あいつらはお前の報復の手が伸びている事を知っていて既に警戒している・・・・・・中には護衛を雇った奴もいるんだ・・・・・・」

「ありがたい助言ね。感謝するわ」

 礼を言った直後、2人の会話が途切れる。何故か次の言いたい台詞が思い浮かばず違和感のある気持ちが胸を包み込んだ。何とも言えない僅かな数秒間、沈黙が過ぎていった。

「ここで本当にお別れだな・・・・・・香織・・・・・・最後まで付き合ってくれてありがとう・・・・・・」

「・・・・・・あなたは天国に、行ってしまうのね・・・・・・」

 その台詞を発した途端、香織はさっきと重ね涙が止まらくなった。冬美は悲しむ親友の頭に手の平を乗せると

「泣くんじゃない・・・・・・お前がいつかこっちに来る日までずっとあの世で待っているからな・・・・・・だからそれまでにお前はあっちの世界で一生懸命に生きろ・・・・・・いっぱい笑っていっぱい泣け・・・・・・あと、たまにでいいから私の事も思い出してくれ・・・・・・」

「う・・・・・・うん・・・・・・!冬美!・・・・・・あなたという友達を絶対に忘れない・・・・・・!」

 香織は号泣に抗いながら力強く約束の言葉を送った。

「それでこそ私の一生のライバル・・・・・・強くて優しいお前のままでいろよ・・・・・・じゃあ、私はそろそろ行くとするか・・・・・・」

 冬美は香織の髪を撫で下ろし頬に当てた手を下ろすと扉の方へ歩み寄っていく。

「香織・・・・・・」

 彼女は立ち止まり後ろで見送る親友の方を振り返ると

「『さよなら』は言わない・・・・・・だってこれは永遠の別れじゃない・・・・・・だから、"また会う日まで"・・・・・・」

 それが冬美の最後の言葉だった。彼女は扉をくぐり光の中へと吸い込まれていった。眩しさで薄れていく影が見えなくなると扉は隙間なく閉ざされ二度と開く事はなかった。

「冬美・・・・・・冬美・・・・・・!」

 香織はうずくまり泣き崩れた。たった1人、孤独に残されて。役目を終えた虚無の世界は崩壊を始める。淀んだ空間は揺れ形ある物全てがいとも簡単に崩れ去っていく。香織は足場を失い底のない無へと堕ちていった。扉がそびえる岩場へと手を伸ばしながら・・・・・・



 目蓋を開けると香織は自分が横たわっている事に気づく。次第に晴れていく霞んだ視界、そこは狭いベッドの上だった。覆われたカーテンの外からまだ熟睡している愛利花達の寝息が聞こえる。時計の針の音だけが聞こえる薄暗い部屋の中で彼女はここが現実世界だと確信した。香織は仰向けのまま天井を見上げた。その表情は曇っている。悲しい夢から覚めた反面、憂鬱な感覚が全身に重くのしかかった。その原因の正体は目覚める前から分かっていた。

「・・・・・・」

 生死の狭間で死の道を去って行った冬美の後ろ姿、そして最後に告げた言葉が頭から離れない。ただ、もっと一緒にいたかった・・・・・・そんな別れを惜しむ思いで胸が締め付けられる。あれは偶然見ただけの夢だったのか?それとも本当に親友の魂と巡り会えたのか?どっちにろ胸に穴が開いたようで息苦しかった。

 香織は無意識に涙を流していた。それを自覚したのはもうしばらく経った時の事だった。ここにいると有耶無耶の状態に悩まされ無性に外の涼しい空気が吸いたくなる。とりあえず、かけられた布団をずらし上半身をゆっくり起こした時

「・・・・・・っ!」

 突然、抉られるような鋭い激痛が走った。香織はびくっと一瞬、全身を身震いさせ肩を押さえうずくまる。そこは虚無の世界で傷を負わされた部分だった。

 手を退かしおそるおそる肩を覗く。驚愕した彼女は僅かに開いた口から吐息のような声を出した。服が滑らかに切られており繊維に血が染み込んでいたのだ。内側の皮膚には何かがきつく巻かれて傷を塞いでいる。それは虚無の世界で冬美が手当て施してくれた際に使用したお手製の包帯だった。香織はまさか・・・・・・!と思わず零し自分の目を疑った。だが、この傷を目の当たりにして嘘偽りだと片付ける方が難しい。これは確かに2人があの世界で戦い生き残った証だった。

「夢じゃなかったんだ・・・・・・守ってくれてありがとう・・・・・・冬美・・・・・・安らかに眠って・・・・・・」

 香織は親友の形見に触れ静かに冥福を祈った。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.218 )
日時: 2020/08/24 20:42
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 東京

 香織という重要人物を乗せ、首都に出向いた輸送車はとある建物の前でブレーキをかける。それは3階建てくらいの高さのある幅の広い大きな映画館だった。上に『スターシアター』とアピールするみたいに店名が書かれ、壁や入り口付近には様々な形を象ったネオンが派手に張り巡らされている。

 数年前に閉鎖されたまま放置されてたのか劣化が酷い。封鎖したシャッターは品のない落書きアートに利用され窓は薄く濁っていた。一部破損した個所もあり割れたガラスが鋭く尖っている。ずらりと飾られた数々の映画広告はどれも10年以上前に上映された物ばかりだった。

「ここが待ち合わせの場所らしい。廃墟の映画館とはなかなかロマンチックだな。相手は俺達をデートにでも誘うつもりなのか?」

 くだらないジョークを口走った。

「めでたく到着ね。手間取る事なく無事に来れたのはいいとして私達が探している人は?ひょっとして映画館の中にいるのかしら?」

「いや、可能性は低いな。あのタイプのシャッターは機械式で人間の力では開けられない。建物を観察した限り侵入できそうな穴は1つもない。ちょっと降りて周辺を偵察してくる。お前はここにいろ」

 博仁はシートベルトを外すと助手席に愛利花を残し車を降りた。彼は映画館の横にある信号方面の角を曲がる。裏に回ると、そこはホームレスが住み着きそうな路地裏に似た狭い空間だった。日が当たらないため薄暗く妙な臭いが漂う。その下にはゴミ捨て場、コンテナの穴からネズミが這い出ていた。動いていなくても壊れていない室外機や換気扇、やはり侵入できそうな所はない。

「・・・・・・ん?」

 博仁は何かに気づき目を凝らした。少しばかりの向こう側に人影が視界に映ったのだ。正体は長い白髪の少女で映画館とは真逆の壁に背を寄せスマホをいじっている。シャツもズボンも帽子も全身黒づくめの格好をしており耳掛け型のイヤホンを着けていた。

 博仁はまさか・・・・・・と呟きその人間に迫った。念のため暗器を忍ばせた隠しポケットに手を入れながら。スマホを眺めていた人影もこちらへ距離を縮める彼の存在に気づき二度視線を送るとイヤホンを外した。ついでにスマホもしまい寄り添った壁から背を離した。

「おい、あんた・・・・・・」

 博仁がおそるおそる話し掛けた時

「姫川香織を連れて来た?」

 少女は出会って間もなく率直に聞いてきた。その顔は暗く無表情で晴れやかさを感じさせない。いかにも病んでいる光のない暗い目の片方は帽子と髪で隠れていた。彼女は相手とは裏腹に警戒すらせず平然とした態度を取る。

「あんたが東京支部の・・・・・・?」

 今度は博仁が問いかける。少女は頷かず帽子を取った手をだらんと地面に垂らし

「ブラックジョーク東京支部のソルジャーチーム第5部隊所属、『小野塚 美都樹(みづき)』。姫川香織は連れて来た?」

 と自身の名を名乗り再び同じ質問を繰り返した。

「ああ、お望みの客人は連れて来た。表の輸送車に止めてある」

 美都樹と名乗った少女は特にこれといった反応をせず再び帽子を斜めに被った。外したばかりのイヤホンも耳に付け武器を抜く寸前の姿勢を取る博仁の隣をすれ違う。彼女は行ったん足を止め振り返ると

「東京支部の入り口は別の場所にある。ついてきて。隠れ家に案内する」

 美都樹に先導され輸送車は映画館の隣にあったパーキングビルへ移った。2階のスペースに入り、エンジンを切る。車体から降りた一同は僅か数分の案内役を務めた彼女の元に集合した。微妙に傾いた車道を中心に横位置一列に並ぶ。

「あなたが姫川香織?」

「はい!そ、そうです!」

 美都樹がおもむろに聞いて香織が緊張しながら無意識に敬礼する。

「生真面目で緩みのない性格、データ資料の情報は正しかった・・・・・・ようこそ、東京支部はあなた達を歓迎する」

 その時、どこからともなく、ここにいる誰でもない声が聞こえた。美都樹は胸ポケットにしまっていたX-12の無線機を取り口元へ当てる。香織達は警備隊が駆けつけて来たと勘違いしてしまい少し動揺してしまった。

「こちら第5部隊の『NO.1215』。聞こえています、オーバー」

 彼女は何かしらの番号を名乗り応答する。無線から発せられる声がごちゃごちゃとした雑音で上手く内容を聞き取れない。唯一理解できるのは相手が男性である事くらいだ。

「"・・・・・・?"」

「たった今、重要人物である姫川香織と接触しました。現在はパーキングビルにいます。オーバー」

 美都樹は話す口調をこれまで以上に真剣にし会話を交わす。

「"・・・・・・!・・・・・・?"」

「姫川香織を含む埼玉支部の人数は6人です。彼らに対する対応は?オーバー」

「"・・・・・・!・・・・・・!"」

「了解しました。では、すぐそちらに向かいます。アウト」

美都樹は通信会話を終了する。

「なあ?ちょっといいか?」

 一同を背に先頭を歩こうとする美都樹を博仁が呼び止める。

「東京支部の隠れ家は地下にあるんだよな?」

「・・・・・・そうだけど?」

 美都樹はおもむろに肯定した。

「東京支部は地下に作られ私達はそこを根城としている。ちょうどこの真下にあって敵の足元に潜んでいるから逆に見つかりにくい。ことわざで言えば灯台下暗し?セキュリティも地上よりも厳重で武器や兵器も十分に揃っている。本部の戦力は伊達じゃない。敵が余程の軍勢で攻めてこない限り陥落はあり得ない。そして最新技術のコンピューターでこの東京全体の防犯カメラをハッキング、監視しているため動きや行動経路を把握できる。東京の裏社会は我々が支配しているのも同然」

 懸命じゃない力説に香織達は素直な驚愕の表情を互いに見合わせた。これから訪れる隠れ家の中はどんな壮大な場所なのか?香織達はそれぞれのイメージを膨らませながら大人しく美都樹の後について行く。

 香織達は階段の横にあったエレベーターに詰めて入った。7人という大人数なだけに狭い一室は息苦しく圧迫された上半身が痛む。背の低い透子は顔を挟まれる。美都樹はそんな窮屈な状態をお構いなしに『閉じる』のボタンを押し扉を閉ざした。次に6759と入力するとエレベーターは地下に向かい降下し始めた。

「エレベーターのボタンがパスワードになっているのか・・・・・・面白い仕組みだ」

 博仁は納得した台詞をぼそっと呟く。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.219 )
日時: 2020/08/24 20:48
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 東京支部に初めて足を踏み入れ、最初に目の当たりにしたのが広々としたブースだった。奥へ行く度にコンピューターを扱う兵士を囲むように数人の兵士が一帯を監視している。手前にはセキュリティゲートがあり機械を操作する兵士と見張りの兵士が1人ずついた。美都樹はゲートをくぐらせる前に皆を立ち止まらせると

「不謹慎なのは承知の上だけど外から来たあなた達には念のためにボディチェックを受けてもらう。もし、この中に武器や金属類を持っている人がいるんだったらそこの彼に差し出して」

「同胞にすらも気を許さずここまで徹底しているとは・・・・・・まあ、この中に裏切り者がいないとも限らんしな」

 博仁がもっと不謹慎な台詞を呟き、隠していたポケットピストルを取り出した。それを差し出された預かり用のボックスの中に放り込む。香織達も決まりに従った。

「他に持ち物はない?・・・・・・なら、全身をスキャンするから1人ずつゲートを潜って」

 香織を先に行かせ次々と全員が検査に引っかからず通る事が出来た。無線機を無線機やスマホなどを所持していた美都樹に関しては警報が鳴ったが構わず通過する。彼女は何かに気づいたらしく突然に姿勢を正し独り言を口にした。

「どうやら来たみたい」

 奥の正面から男が4人の親衛隊を従えこちらへと向かってきた。体格がよく年齢はまだ若いと言える短髪の男だった。正装であるネクタイと黒いスーツを身に着け右腿のホルスターに拳銃を収めている。いかにも隊長らしきその男は香織達の前で足を止めるとその場にいた兵士達は一時、持ち場を離れしっかりと敬礼する。

「姫川香織を連れて来たと聞いたが?お前の真後ろにいるその少女か?」

「はい、彼女が姫川香織です」

 美都樹は間を開けず返事を返し自身も敬礼した。

「任務の遂行、ご苦労だった。そして、埼玉支部の諸君ようこそ、私は東京支部の司令官を務めている『村雲 徹』だ。君達と会えて光栄に思う」

 そう言ってやはり彼も敬礼した。香織達は緊張感に苛まれながらとりあえず姿勢を合わせる。

「堅苦しい挨拶はさておき、早速隠れ家へ招待しよう。内部を見物させてやるがくれぐれも部下達の職務を妨害する行動は慎むように。ではこっちだ」

 香織達は親衛隊に囲まれ徹の後ろを連行されるようについて行く。ちょっとした真っ直ぐな通路を抜け何度か角を曲がりやがてあった入り口へと入った。


 最初に訪れた場所は特に珍しくもないただの平凡な一室だった。壁や床、天井は白く病院の待合室にも似た地味な外見を表現していた。八方には大勢がまとめて通れるくらいの幅広い通路のトンネルがいくつもあり大勢の人員が行き来している。

 深い地下なので窓はないが液晶テレビがあり、最近のアニメ映画が映し出され休憩中の兵士達が集まっては盛大に盛り上がっていた。ちょうど反対側には外部から得た代物を売るちょっとした雑貨屋が経営しておりそこにも人だかりができていた。

「ここが隠れ家の中心部であり人員にとっての憩いの場だ。地下での暮らしは充実が限られた退屈な社会、こういった所では羽目を外す場所が必要不可欠となる。いくつもの別れ道から食堂や訓練場、居住エリアや司令室。あらゆるエリアへと繋がっている」

 徹は香織達の方へ振り返るとさっきよりも生真面目な表情を作り

「私による観光案内は終了だ。これから香織を司令室に連れて行く。ブラックジョーカーとの面会が許可されてるのは彼女だけだ。それ以外の者は立ち入りを禁じる。ここで寛ぐのもよし、さっきのガレージを見物するもよし、食堂で料理を注文するのも自由だ。用事が終わるまでのんびりと過ごしていてくれ。付き添い達の世話はお前に任せる」

「了解しました」

 美都樹はすぐさま答え短く敬礼した。

「え?俺達は入れないんですか!?」

「本人がそう望んでいるのでな。気を悪くしたのなら謝るが決まりは決まりなんだ。悪く思わないでくれたまえ」

「面会が終わる時間は?」

 納得しきれないメイフライの前に出て博仁は冷静に聞くと

「さあ、それはブラックジョーカー次第だ。もしかしたら長い時間を費やす事になるかも知れない」

 徹は腕を組みすっきりとしない返答を返した。

「指導者直々の命令なら仕方ない。素直に従うしかないわ。じっとしてても始まらないし私はお腹が空いたから食堂で何か食べる事にする。因みにメイフライと慎一はどうするつもり?」

「俺ですか?俺は隠れ家を回って面白い所がないか見学してきます。こんな経験、滅多にできるもんじゃないでしょ?」

「俺は透子ちゃんの傍にいます。迷子になったら探すのに苦労しちゃうと思いますので」

 2人はまだどこか無邪気で浮かれた様子で言った。

「じゃあ俺も雑貨店でお気に召す掘り出し物でも探してるか。どうせ他にやれる事はないんだし、ちょうど緊張を紛らわす時間が欲しかったところだ」

 博仁も退屈な時間などお構いなしに早速、店に集う兵士達の人ごみに加わる。

「全員やりたい事は決まったようだな。では、後は頼んだぞ。姫川香織は私についてくるんだ」

「はい」

「香織、待ちなさい」

 司令室へのトンネルを行こうとしたところを愛利花が呼び止める。彼女はこちらに振り向いた香織の肩に手を置いた。

「忘れないで?場所や雰囲気が違ってもここはBJの隠れ家であり私達の仲間よ。だから緊張せず気楽にいきましょう。ブラックジョーカーとの面会はきっといい思い出になるわ。それともし彼の正体を知れたら勿体ぶらないで私達にも教えなさいよね?」

「勿論です。じゃあ、私もまたとない経験を楽しんできます」

「行ってらっしゃい。香織」

 2人は笑顔で手を振りそれぞれに違う行き先へと別れた。


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