複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.260 )
日時: 2019/10/16 20:41
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 香織とメイフライは待ち伏せを視野に入れ、慎重に豪邸内へと侵入した。しーんと物音1つない暗闇の中、至る所に銃を向けるも、こちらに害を成す者は現れない。1つの部屋に2人の人間がいるだけだ。

 玄関を抜けると、そこは広々としたロビー。壁や絨毯には上品なデザインが施され、天井には巨大なシャンデリアが吊るされていて高級感が溢れる構造となっていた。正面には2階へと続く螺旋階段があり、手前には大理石の像が。像は騎士の姿を象っており、馬に跨った騎士が剣を天井に向けて掲げていた。

「どうやら、始末した警備員はあれで最後だったようですね?」

 見張りの全滅を確信したメイフライが香織にだけ聞こえる声で言った。

「そうみたいですね。復讐と関係がない人間を殺すのはいい気分がしません。そのせいなのか、気持ち悪いです・・・・・・」

 人を殺す事には慣れているものの、香織は良心の呵責に軽い吐き気に苛まれる。

「俺は警察を恨んでいるから、罪の意識なんて少しも感じません。香織さんも直に慣れます」

 メイフライが無慈悲な言葉を発した時、ふいに電力を絶ったはずの豪邸内に灯りが灯った。急な出来事に焦った2人は混乱しかけた感情を押し殺し、互いに背を預ける。扉、物陰、通路などに無意識に銃口を向け、警戒した。

「博人さん、灯りが・・・・・・!」

 突然のギミックにメイフライが深刻になって無線に話しかける。

「"ああ、驚いたな。恐らく、非常電源が入ったんだろう。外を見張っているが、今のところ異常なしだ。奴らの仲間も集まる様子もないから安心しろ。せっかく、金持ちの家へと招かれたんだ。ゆっくりと家人との茶会を楽しんで来い"」

「香織さん、警備隊の増援が来ない保証はありません。邪魔が入らない今が楓を葬るチャンスです」

「ええ、さっさと死に顔を拝んで早くこの場を離れましょう」

 香織はエディスの仮面の機能を透視に切り替え、豪邸一帯を見渡した。2階を右に曲がった最奥の部屋、そこに1人の生命反応が検知される。個室に閉じこもり、酷く怯えている姿が映し出された。

「いたわ。あいつで楓で間違いない」

 香織は像のとすれ違い、我先にと上階への段差を踏む。メイフライも彼女の後に続いた。

 2人は足音を立てないよう廊下を進み、楓が引きこもっている部屋の前で立ち止まった。室内からは啜り泣く女の声が壁を通して聞こえる。香織は一気にけりをつけようとドアノブを回そうとしたが、メイフライがとっさにその手を掴んだ。彼は頭を横に振ると小声で

(多分、扉には鍵がかかっています。ここは衝動的にならず、油断させて不意を突きましょう。ここは俺に任せてくれませんか?)

 メイフライは怪訝になった香織を背後に移動させ、何を思ったのか扉をノックした。

「楓さん、警備員の山下です。ちょっとだけよろしいですか?」

 と警備員に成りすまし偽証を述べる。

(・・・・・・うう、ぐすっ・・・・・・!)

 楓は泣くばかりで返事をよこさない。メイフライはもう1度、同じ行動を試した。

「楓さん、警備員の山下です。停電したのは配電盤が故障しただけなので恐がらなくて大丈夫ですよ。ちょっとだけお話しが・・・・・・」

 やはり、返事は返らない。しかし、メイフライの耳は聞き逃さなかった。カシャンと何かを引いて戻した微小の音を。聞き覚えを感じた途端、彼は血相を変え、いきなり香織に抱きついた。

「きゃあっ・・・・・・!?」

 理由を聞く暇も与えられず、香織はメイフライに体に押し倒されて床に背中を打ちつける。次の瞬間、途切れのない破裂音が響き、飛び出した大量の光線が扉の無数の穴を作った。

「え・・・・・・えっ・・・・・・!?」

「くっ・・・・・・!」

 メイフライも予想外の出来事に逆に不意を突かれてしまったが、素早く姿勢を立て直すと香織の手を引きながら、蜂の巣状と化した扉から遠ざかる。2人は楓がいる部屋の通路の真逆の方向へ走った。どこでもいい別の部屋の扉を蹴破り、そこに身を潜めると姿勢を低く相手の動きを窺う。

「ここに隠れていて下さい。絶対に廊下に出てはだめです」

「どうしてですか?一体、何が起きて・・・・・・?」

 未だに現状を理解できない香織の質問を無視し、メイフライは廊下の奥を凝視した。

「うっ、うああああ・・・・・・!」

 穴だらけの扉が開き、涙でかおをぐしょぐしょにした楓がふらふらと姿を現す。今の彼女はかつては健気だったであろう令嬢らしき面影はなく、醜い容姿をしていた。ぼさぼさに乱れた髪に痩せ細った体、顔も酷くやつれている。片手には銃器を手にしているが、ハンドカンとは形状が微妙に異なっている。レシーバーが四角く、銃身が短い。グリップの下からは長い弾倉がはみ出ていた。

「まさか、サブマシンガンか・・・・・・!」

 メイフライは銃の種別を呟き、僅かに出した頭を引っ込めた。

「"いきなりの連射音に耳がイカれるかと思ったぜ・・・・・・まさか、標的が撃ったのか!?"」

 博仁の驚愕が、無線を通じてこちらに伝わる。

「はい、楓はMAC-10短機関銃を所持。弾倉も複数携帯している可能性があります」

「"今、お前らはどこにいるんだ!?"」

「楓がいる方向とは真逆の部屋に隠れています。すぐに身を潜めなければ撃たれてしまう危険性があったので」

 メイフライは標的の詳細と今の状況を詳しく説明する。

「どうする?内側を把握できない限り、狙撃は不可能だ」

 姫川は射撃の姿勢を保ったまま、スコープから顔を隣の観測手へと逸らした。そのやや早い口調は焦りを感じさせる。

「何とかして外へ誘き出せないか?」

 博仁は冷静に提案を持ちかけるが

「"無理です!廊下に出れば、即座に撃たれてしまいます!"」

 ネガティブな返答が返る。

「サブマシンガンなんて代物は普通じゃ手に入らない。恐らく、闇サイトで仕入れたもので間違いな。流石は悪徳貴族、護身用の道具さえも高級品とは・・・・・・」

「こないだの由利子を連れ出した病院にの時みたいに、また僕が直接助けに行くのは・・・・・・」

 姫川も頭を働かせるが、あっさり否定される。

「やめておけ。お前は万が一の事態に備えて、ここを離れない方がいい。サブマシンガンは屋内戦に特化した殺戮兵器。遠距離が特権のライフルが相手を務めるには、あまりにも不利だ。救援に行ったところで全身を穴だらけにされて終わりだぞ。ボディーアーマーを着ていないなら尚更な」

「じゃあ、どうすれば・・・・・・!?」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.261 )
日時: 2019/11/01 20:19
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「"私だけでやるしかないようね・・・・・・"」

 2人の会話に香織が口を挟む。

「マシンガンには及ばないけど、こっちにだって近距離戦にむいた銃がある。少なくとも、ライフルよりは満足に戦えるわ。それに忘れないで。楓を殺すのは私の役目、あいつの息の根は必ず止める」

「"そうか・・・・・・いくら状況が状況とはいえ、助太刀できないくて悪いな。だが、向こうは高性能の武器を手にしただけの気狂い女、経験を積んだお前らが死なない方に賭ける"」

「どうも、何かあったら真っ先に知らせて」

 香織は無線でのやり取りを打ち切り、メイフライの隣に並んだ。

「香織さん、まずは俺が反撃に出ます。俺が全弾を撃ち尽くして装填する間に香織さんが撃って下さい。交互に撃ち合うんです」

「いい作戦ですね。こっちも派手にぶっ放して驚かせてやりませんか?」

「望むところです」

 2人は各自使用するハンドガンのサイレンサーを取り外した。作戦の内容通り、メイフライが先に先攻として廊下に顔を覗かせ、相手の状態を窺う。楓は徐々にこちらへ距離を縮めていく。引き金に指をかけ、サブマシンガンの銃口はこちらに狙いを合わせている。

 メイフライは先手を打とうと素早く死角から飛び出す。ハンドガンを構えるも相手の視界に入った瞬間、銃をいち早く乱射された。鼓膜に響く銃声、たった数秒で何発も発射された弾丸は壁や床を抉り、飾られた花瓶を粉砕する。

「・・・・・・っ!」

 メイフライは弾が当たらない場所へ、とっさに体を引っ込める。幸運にも被弾は避けられた。

「あああああ・・・・・・!!死ねえ!!死ねえええ!!」

 奏はばら撒いた空薬莢を踏み、一歩、また一歩と間合いを詰めて来る。

「あの女、完全に乱心してやがる・・・・・・!」

 メイフライは苦い顔を作り、身を露出せずに銃だけを部屋の影から出して何発も発砲した。盲目的な射撃は標的には命中しなかったが、弾がめり込んで飛び散った建物の破片が当たる。

「ひいいい・・・・・・!」

 撃ち返された事に恐れ戦き、楓は情けない悲鳴を上げると、自身も慌てて物陰に隠れた。メイフライが空の弾倉を取り外している間に今度は香織が位置を交代し、マリアの弾丸を浴びせる。しかし、いくら貫通力に優れた徹甲弾でも分厚いオブジェクトの奥までは貫けない。

「ううっ、ぐすっ!うああああ・・・・・・!」

 楓もサブマシンガンの薬莢を落とし、震えが止まらない手で何とか次弾を装填した。レシーバーの上部にあるスライドを引くと、再び銃口を向け飛び出した。香織は舌打ちと同時に身を下がらせ、弾幕の直撃を未然に防ぐ。

「まともに対峙できないわね・・・・・・お陰で狙いが定まらないわ」

「どうします!?これじゃ埒が明きません!無駄撃ちを繰り返して、こっちの弾がなくなったらまずい!他に行き場のない閉所に追い込まれ、姫川が援護できないとなれば・・・・・・正面からじゃ歯が立たない!」

 為す術もない状況にメイフライは悔しそうに歯を噛みしめる。香織も弱腰になりかけた矢先、視界に入ったある物に脳裏が過った。

「正面・・・・・・そう!それよ!正面を活かせばいいのよ!」

「・・・・・・え?」

 訳が分からず、今度はメイフライが怪訝な顔をする。香織はマリアをホルスターに収めると、今度は背負っていたショットガンを抱えた。スライドをコッキングすると、自分達がいる部屋から見て正面にある別室に2発、太い銃声を響かせる。近距離では高威力を誇る散弾は3秒もかからず扉を粉砕し、強引に入り口を作り上げた。

「香織さん・・・・・・何をするつもりですか!?」

「成功する確率は5割と言ったところかしら・・・・・・一か八かの賭けね・・・・・・」

 香織はそれだけ言って立ち上がると空薬莢を弾き出した。部屋の奥へ行き助走をつけると、だっ!と床を蹴って部屋の外へ走り出した。

「香織さんっ!!」

 血迷ったとしか言えない行為にメイフライは叫んだ。止めようとしたが間に合わず、香織は廊下に身を晒し、全身を的にした。

「死ね死ね死ね死ね死ねぇえええ!!」

 楓は発狂し、弾を連射した。光弾の雨が掠める中、香織はショットガンを構えると1発だけ発砲し、扉を破壊した向かいの部屋へと転がり込む。放たれた弾丸が命中し、サブマシンガンの銃口の狙いが天井へと逸れた。関節から千切れた手がグリップを握ったまま、血を吹き出しながら宙を舞う。

「ぎゃああああああっ・・・・・・!!」

 楓はこれまで以上の悲痛の叫びを上げると、血が溢れ短くなった右腕を押さえて蹲る。ちょうど、そこへ武器と片腕が床に当たり、貧相な音を立てた。騒々しい銃声はもう聞こえない。

「形勢逆転ね?あんたの負けよ。楓」

 廊下に出た香織は堂々と敗者に迫り、いつでも撃てる銃口を突きつける。

「お前ぇぇぇ!!よくもぉぉぉぉぉ・・・・・・!!」

 楓は顔を上げ、香織を睨んだ。しかし、その鬼の形相は一瞬にして冷め、命乞いの余裕すらない恐怖に蝕まれていった。

「私の手首を切った事、覚えてる?ようやくその借りを返す事ができて清々したわ。でも、詩織を殺した分はまだ償っていなかったわね。その報いも受けてもらうわよ?これからたっぷりとっ・・・・・・!」

 香織は鬼の形相を見せつけ、脅しをかける。

「いやっ・・・・・・いやあああああ!!」

 楓は自分を殺そうとする目の前の人間から逃げようと、勢いよく後がない後ろへ身を退けた。直後にバランスを崩し、誤って手すりから身を乗り出してしまい下階へと落下する。悲運な事にその真下には像が置かれていた。騎士の模型が掲げていた剣先が背中の皮膚を突き破り、瞬く間に腹部を貫通する。些細な判断ミスは生身の人間が串刺しになるという、見るに堪えない悲劇を生んだ。

「あ・・・・・・が・・・・・・があ・・・・・・あ・・・・・・」

 楓は海老ぞりの姿勢で激しく吐血する。言葉では言い表せない激痛を表情の形が物語っていた。大量の体液を漏らした、やがて痙攣さえも止まり息絶える。

「うわあ・・・・・・こんなにも酷い死に方はない・・・・・」

 惨い死に様を目の当たりにし、流石のメイフライも思わず死体から目を逸らした。痛んだ腹部を指で撫で、口をへの字にする。

「しかし、ハイリスクな賭けでしたけど見事な戦法でしたね。もう、香織さんは俺なんかより、ずっと優秀な兵士です」

「"死んだのか?"」

 数分ぶりに博人からの質疑を受ける。

「ええ、北見楓は死んだ。詩織の殺人に関わる人間はまた1人消えたわ。さあ、用が済んだ事だし早く隠れ家へ帰りましょう。上品の欠片もない最悪なお茶会だった」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.262 )
日時: 2019/11/13 20:07
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 楓の死から1ヶ月後・・・・・・


「あれから1ヶ月以上経ってるけど、テレビやネットは未だにあんた達が犯した事件のニュースで持ちきりよ。世間を対してかなりの影響を与えてしまったわね」

愛利花が苦笑を浮かべ、スマホのネットニュースの記事をスクロールする。被害者が無残な姿で死亡していただの、護衛に当たっていた警備員までも全員、惨い手口で殺害されただの、史上に残る猟奇的犯罪だの、読者の関心を引きそうな内容がずらりと書かれていた。

「国会議員の娘がエグいやり方で殺害されたんだ。政府は本格的に脱走犯の香織という存在を危険視したらしいな。とっくにブラックリスト載せられてるかも知れん。まあ、あれだけの大量虐殺をやったんだから当然の結果だ」

 世間を騒がせたにも関らず、博仁は自分とは関係なさそうに平然としていた。達成感も不安感もない全くの無感情で、温いコーヒーで一息入れる。

「僕も確認したけど、外の世界は凄い事になってるね。ツイッターやSNSでも大騒ぎになってるし、一部では香織を英雄視してる人もいるみたい。ヒーローになったご感想は?」

 姫川の悪ふざけに香織は"やめて"と冷静にインタビューを否定し、悩ましい表情を繕う。

「楓を殺せた事には清々しさを感じてる。けれど、後先の事をもう少し考えるべきだったわ。今や埼玉は大勢の警察が動員され、血眼になって私の逮捕を急いでいる。実に厄介な状況よ」

 メイフライもうかれるどころか、彼女と同意見だった。

 「香織さんの言う通り、もっと慎重に行動すべきでした。警察だらけになった街に出向くなんてかなりのリスクが伴う。詩織さんの殺害に関わる残りの連中の抹殺も一層難しくなるでしょう。それだけじゃない。これだけの厳重な包囲網を張られてしまっては、この組織自体も無暗に動けなくなる。もし、この1件の真相がバレて上に知られたら、俺達は間違いなく銃殺刑ですよ?」

 深刻に事の重大さを述べられても、博仁は動揺とは裏腹にいつもの動じない態度を保つ。

「なるほどな。お前の力説に一理あるが、心配すべき心配は俺達の掟破りが組織にバレるかどうか、たったそれだけだ。俺は東京出身だが、埼玉の地形はほとんど知り尽くしている。お前の嫌いなポリ公ですら知らない秘密の通路なんて百も承知なんだよ。あと、残りのターゲットの件についても安心しろ。街に警察が溢れれば治安は嫌でもよくなる。奴らも身を隠すどころか、逆に油断するさ・・・・・・でもまあ、次の作戦はもうちょっとほとぼりが冷めてからでもいいか」

「だといいんですけどね・・・・・・」

 メイフライが疑心を捨て切れず、そうであってほしいと願った。

「うだうだ考えていても仕方ない。とにかく、自体が治まらない以上、行動は起こしにくい事実はどうしようもないわ。しばらくは退屈な日々が続きそうね」

 愛利花がのんびりと言って博仁はそれを否定した。

「いや、そうでもないぞ。この隠れ家で重要な仕事が残っている。そろそろ、始めてもいい頃合いなんじゃないのか?」

「・・・・・・え?重要な仕事とは?」

 メイフライは首を傾げる。その意味を以心伝心に把握した香織は席を立つ。

「由利子を尋問するのね?」

「ご名答、最新の磁気治療であいつの症状はまともに会話ができるほどに回復してるはずだ。医務室から連れて込よう。取り調べはここで行う」

「ここで?まさか、あの病人を痛めつけるつもりですか?」

 部屋の片隅にいた慎一が心配になって聞く。

「場合のよっては暴力を振るわざるを得ないかもな。野蛮なシーンが苦手なら席を外してもいい。尋問に必要な人数は足りてるから慎一、透子、それと静流は部屋の外にいるか、違う場所へ行ってたらどうだ?」

「いえ、自分も同席させて下さい。香織さんの復讐を肯定した1人として、この場を抜けるわけにはいきません」

「大した仲間意識だな。よし、異論がある奴はいないな?香織、俺と一緒に医務室に行くぞ」


 医務室のベッドの上でゆっくりと食事を取る。閉鎖病棟にいた頃と比べ顔色もよく、暗かった表情も晴れやかなものとなっていた。やつれていた体も今ではちょうどいい体型を取り戻し、重かった病状もかなり改善した様子だ

「ご馳走様でした」

 僅かにおかずが残った食器をテーブルに置いた。膨れた腹を撫で、満足そうに息を吐くと仰向けに横たわり、のんびりと寛ぐ。しかし、こちらに歩みを寄せて来る香織が目に映った途端、穏やかな面持ちは曇る。

「香織ちゃん・・・・・・」

「どう?体の調子は?」

「お陰様で、元気になったよ・・・・・・重い病気を患っていたのが嘘みたいにね・・・・・・何か用?もしかして、私を殺しに・・・・・・?」

「勘違いしないで。まだ、あの世行きは当分お預けよ。ただ飯を食わせて死なせたんじゃ、面目が立たないしね。あなたには色々と聞きたい事がある。付き合ってもらうわよ?」

「聞きたい事?」

「最初に忠告しておくが、お前は患者ではなく捕虜としてここにいる。どんな酷い仕打ちをするのも俺達の自由だ。これからお前には知ってる情報を洗い浚い喋ってもらうからな」

 博仁も前に出て、脅しと厳しい視線を浴びせる。

「ここでやるのもなんだから、ひとまず場所を変えましょう。1人で歩ける?」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.263 )
日時: 2019/11/24 17:26
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 由利子が狭い一室に連れ込まれ、取り調べが始まろうとしていた。香織、メイフライ、博仁、愛利花が中心に座らせた1人の病弱な捕虜を取り囲み、逃走を未然に防ぐため、姫川が部屋の出入り口に陣取るという配置だ。尋問に参加しない残りのメンバーは奥の片隅で待機する。

「準備はいいでしょ?早く済ませましょう。本音を明かせば、こういうやり方は嫌いなのよね」

 愛利花が早急に促し、前にいた博仁が最初の質問をする。

「率直に聞くぞ。お前は森川詩織を殺害した張本人が何者なのか知っているな?そいつの事を詳しく教えろ」

「あの男の何が知りたいの・・・・・・?」

「名前、顔や体の特徴、職業に年齢など、些細な事も全てだ。大人しく要求に従ってくれれば、痛い思いをしなくて済む」

 厳しい言葉を投げかける博仁に代わって、香織が特に気になった質問をする。

「閉鎖病棟にいた時、あなたは黒幕の本名を知ってると証言した。つまり、楪智祐は偽名という事になるわね。じゃあ、本当の名を教えなさい。張り手が飛ぶまでの10秒以内にね」

「え?あ・・・・・・ああ、あの人の本当の名は・・・・・・『西園寺 周(さいえんじ あまね)』・・・・・・」

 由利子は恐れを押し殺し、ゆっくりと白状した。

「周・・・・・・それが黒幕の実名か・・・・・・質問はまだ終わってないぞ?その周の特徴は?どんな顔つきをしているのか、具体的に説明しろ」

「周は短くて・・・・・・綺麗に整えられた黒髪を生やしていた。赤い目にかっこいい顔立ち・・・・・・ホストみたいだった・・・・・・あ・・・・・・!あと・・・・・・」

「あと?続けて」

 途中で途切れた台詞に香織は返答を急がせる。

「変わったブローチを付けてた・・・・・・カラスに似た鳥の紋章の・・・・・・」

「紋章?最近流行りのオリジナルアクセサリーかしら?」

 愛利花が露骨に顔をしかめ、メイフライが尋問を進める。

「ブローチは多分、重要じゃない。その周の住所は?普段、何をしている人間なんだ?」

「私が周と会う時はいつも、閉鎖病棟から連れ出される時だけだったから・・・・・・彼の家がどこにあるかまでは知らないの・・・・・・仕事は何をしているのかと聞いても教えてくれなかった・・・・・・ただ、俺はいつか世界を変えるんだって言ってた・・・・・・」

「周は大層な夢想家みたいだな。狂ってる奴は発想も狂気染みてる。まあ、強姦殺人を平然とやるくらいだ。まともな奴じゃない事は元から知っていたがな」

 博仁が男の狂った人格を蔑み、自身の皮肉に笑った。

「あなたは周と会う度、どこに連れて行かれるの?もしかして、ラブホテルとか・・・・・・?」

「うわぁ・・・・・・鬱病の女の子をラブホテルに連れ込むって相当やばい・・・・・・狂気のレベル軽く超えちゃってるよ・・・・・・」

「あんたは黙ってて!」

 愛利花が強い声を張り上げ、姫川を強引に黙らせる。性に関連した4度目の質問に由利子は顔を赤らめるどころか、気分を害した表情を作り出した。そして、それだけは違うと言わんばかりに素早く首を横に振る。

「決して、卑しい事はされてないよ・・・・・・私がいつも連れて行かれるのは・・・・・・人気のない森の奥・・・・・・」

「森の奥?」 「森の奥?」

 香織と博仁の台詞が偶然に重なる。

「誰も立ち入らない森の中に1軒の家がある・・・・・・私と周は1週間に一度、そこで生活の・・・・・・」

「どんな風に過ごしているの?」

「2人で色々な話をした・・・・・・彼、私と同じ絵を描くのが好きで・・・・・・あと、お菓子やお茶をご馳走してもらったり・・・・・・一緒に映画を見た時もあった・・・・・・」

「囚われている割には随分と丁重なもてなしをされてるね。最早、正式なお付き合いじゃん」

 姫川の空気が読めない発言に全員の鋭い視線が彼に集まり

「あ、ごめん・・・・・・僕は黙ってるよ・・・・・・」

 軽く謝罪し、慌てて皆から目を逸らした。

「その家はどこにあるの?場所は分かる?」

 香織がおもむろに聞いて

「うん・・・・・・何度も行ってるから分かるよ・・・・・・そこに行きたいなら、案内してあげる・・・・・・」

「嘘はついてないだろうな?もし、俺達を欺くつもりなら、後悔するぞ?」

 メイフライは簡単には信用せず、声を鋭く尖らせる。

「誓って、香織ちゃん達を騙すような真似はしない・・・・・・だって、周がいなくなった方が私にとっても都合がいいし・・・・・・」

「博仁、あんたはどう思う?」

 愛利花が眉をひそめ、判断を委ねる。

「俺が見た感じでは、偽証をしてるようには思えない。この女が道化である可能性も否定できんがな」

「お願い、信じて!私は嘘なんてついてない・・・・・・!」

 由利子は必死になって真実だと訴えかける。疑いの視線に囲まれた威圧感に怯え、自身の体を抱く。

「じゃあ、信じてほしいならその家に案内してくれない?」

 香織は事実や偽りを特には追求せず、単純に要求を突きつける。

「簡単に信用しない方を勧めるわ。あなたをおびき寄せるための罠という線も視野に入れておきなさい」

 愛利花も神経質になって、忠告を与えるが

「由利子は本当に周に対して相当な恐怖を抱いているわ。閉鎖病棟での、あの怯え方は決して演技ではなかった。どんなに純真に扱われても、この子にとってはトラウマでしかなかったのよ」

「香織ちゃん・・・・・・」

「それにその森に行けば、周と接触できる可能性も捨てきれないしね。運がよければ、詩織を殺した黒幕を討つチャンスに巡り会えるかも知れないわ」

 博仁は衝動的になりつつある香織に冷静さを植え付ける。

「落ち着け。その理屈は正しいかも知れんが、過剰な期待はやめておけ。俺はお前の望みが裏切られる方に賭ける。まあ、お前がどうしても行きたいと言うなら、車を出さん事もない。この復讐劇の主人公はお前だ。脇役の俺達はそれについて行くだけだ。で、誰も知らない秘密の森の奥にあるメルヘンチックなデートスポットには、いつ向かうんだ?」

「明日がいいわ。今回は案内人が必要ね。由利子、現状ではあなただけが頼りなの。体調はまだ悪い?」

「ううん、もう大丈夫・・・・・・あそこに行くのは凄く恐いけど・・・・・・香織ちゃんと詩織ちゃんをの人生を狂わせた償いができるなら、どんな協力も惜しまないよ・・・・・・」

「なら、異論はないわね?明日の朝になったら、由利子の案内で周の隠れ家を探し、中を探索する。もし奴がいたら・・・・・・必ず、この手で・・・・・・!」

 香織は握った拳に力をこめ、爪を皮膚に食い込ませる。一方、メイフライは胸の奥底から湧き出る違和感に不安を覚えていた。

(万が一の事態に備え、十分に戦える装備を用意しておいた方がいいな。妙な胸騒ぎがする・・・・・・周はBJの情報収集能力を用いても探し出せなかった奴だ。前に愛利花さんが言った通り、ただの犯罪者ではない気がしてならない・・・・・・)

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.264 )
日時: 2019/12/06 18:22
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 地面を覆った枯れ葉や枝を惹き、1台のバンが森の中を通り過ぎる。静寂な自然の世界にエンジン音を響かせながら、奥へ、更に奥へと進んでいく。周辺には霧が立ち込め、緑地の景色が満足に見えない。当然、人らしい姿も目撃していなかった。

「鬱陶しい霧だな・・・・・・10メートル先も見えやしない」

 異様な環境に博仁がぼやく。スピードを調節し、慎重を重視した運転を続ける。助手席には大人しく振る舞い、窓越しから草木だらけの景色を眺める由利子がいた。

「おい?本当にこんな所に建物なんてあるんだろうな?」

 口調の厳しい質問に由利子の隣を振り返る。

「うん、あるよ・・・・・・もうすぐ行けば大木があって道が2つに分かれている・・・・・・着いたら左に曲がって・・・・・・」

 と道しるべを教え、再び似てばかりの景色に黄昏る。


 更に車を走らせていると由利子の証言通り、百年樹とも呼べる太い大木が現れる。道は左右に分断され、2つの道がそれぞれに伸びていた。迷わず斜めに車線を傾け、左折する。バンはだんだんと獣道となりつつある道中で停車する。博仁は前席に由利子を残し、車を出るとバックドアを開いた。乗っていた3人がこちらを凝視し、香織が何があったのかと怪訝な顔で尋ねた。

「異常はない。由利子が言うには、この先を進んだ先に周の隠れ家があるそうだ。ここからは徒歩で向かうぞ。武器を用意しろ」

「でしたら、このまま車で向かった方が早いんじゃないですか?わざわざ歩行する必要は・・・・・・」

 メイフライが不満そうに博仁の命令に意見すると

「最悪な事態を避けるためだ。いくら人里離れた山の奥地とはいえ、隠れ家まで無人とは言い切れん。頭が切れる周の事だ。どんな罠を張っているか予測できん。もし、銃で武装した奴の取り巻きがいるとしたら?そんな所に堂々と車で突っ込んだら全員が蜂の巣だ。ここは慎重に近づいて、密かに偵察してやろう」

「隠密作戦ってわけか。だったら、こっちとしても好都合だね。自然地帯はスナイパー戦には最も適した舞台だ。迷彩服を着て来て正解だったよ」

「全く似合ってないぞ?」

「ほっといてくれ」

「やる事なす事に集中しろ。俺達は既に敵地の真ん中に足を踏み込んでいる。いつ襲われてもおかしくはない状況なんだぞ。まとめてやられるリスクを少しでも減らすため、ここは2人ずつに別れよう。香織はメイフライと一緒に行け。俺は姫川と行動する」

「だったら、道を外れた方がより効率的ね。茂みを進んだ方が気づかれにくいでしょ?」

 香織のそう提案し、真っ先に車両から降り立った。続いてメイフライ、最後に姫川がライフルを引きずって外へ出る。

「ねえ、私も連れて行ってくれない・・・・・・?」

 助手席から由利子もやって来て同行させるように頼んだ。

「却下だ。第一、お前は戦えないだろ?病人は大人しく待機していろ」

 博仁が断固拒否するが、由利子も負けずと後に引かず、素直に頭を縦には振らなかった。

「お願い・・・・・・こんな不気味な場所で1人になるのは嫌・・・・・・足手まといにならないように気をつけるから・・・・・・」

 世話が焼ける病人に4人の表情が歪む。メイフライが叱りつけようと前に出ようとしたが香織が止めに入り、代わりに対面した。泣き出す一歩手前の由利子を睨んで

「常に私達の後ろにいる事、勝手に声は出さない事・・・・・・その条件が守れないなら置いて行く。いい?」

「ちょっと、香織さん・・・・・・!」

「その考えには僕も反対かな。香織、君はちょっと人に対して甘過ぎる。病人を護衛する余裕なんてないでしょ?彼女はバンに残しておくべきだ」

 メイフライも姫川も否定を覆す気はなかった。

「この子にはまだ、案内の役目が残っているわ。どうしても邪魔になるなら、口と手足を縛って森の中に捨てていけばいい」

「身勝手も程々にしてもらいたもんだな。ただでさえ、お前と一緒にいるだけで危ない橋を渡ってるってのに・・・・・・」

 香織に反省の面影はなく、3人の反対を押し切ると

「じゃあ由利子、最後の道案内を任せたわ」

 とだけ言って、我先にと茂みに紛れ込む。


「ここを越えた先に秘密の隠れ家があるのね?」

 由利子はこくりと頷いて

「この峠は英語のUに似た形をしていて中心の窪みが広場になっているの・・・・・・そこにあいつと過ごした家がある・・・・・・」

 細やかな情報に対し、香織は礼を言ってその事を無線を通して別の位置にいる博仁達にも知らせた。傾いた斜面を真っ直ぐに上り、メイフライも渋々と由利子の手を貸し登山に助力する。

「"おい、身を屈めろ。問題発生だ"」

 峠の頂上についた途端、博仁からただならぬ声が伝わる。香織達は理由を聞かず、反射的にその指示に従った。体をうつぶせにして草原の上に横たわる。

「何かあったんですか?」

 メイフライが声のトーンを合わせ、問いかける。

「"例の建築物を発見した・・・・・・が、同時に人間らしき姿を複数、確認した。姫川がライフルスコープで偵察している。お前らの位置からは見えないか?"」

「まだ、何も見えないわ。もうちょっとだけ前に行く」

 薄っすらと霧が晴れ、一軒の建物が見えた。峠と森に囲まれ、平らな地帯の中心にぽつんと存在していた。外見はかなり前からあったような一階建てで、外面殆どが変色した木材でできている。丸い柱に挟まれた正面玄関。裏側には煉瓦造りの煙突が突き出て聳え立つ。その横には暖炉用の太い薪が大量に積まれていた。

 その周辺を謎の人物達が数人、巡回に当たっていた。若い年齢層の男女で白と黒の衣装に首にぶら下げた赤いスカーフ、全員が同じ格好をしている。光のない深紅の瞳を持ち、ある者は一定の場所に留まり、ある者は周りに気を配りながら辺りを警戒している様子だ。

「建物周辺を巡回している人間は全部で6人いる。屋内に関しては不明。武装しているから見張りで間違いない。でも、変だな。奴らが所持しているのは旧式の拳銃と軍刀、それに銃剣が取り付けられたライフル・・・・・・どれも現代遅れの代物ばかりだ。それにあの服装は一体・・・・・・?」

 スコープを覗きながら、姫川は1人の見張りの動きを追う。

「随分、時代遅れなボディーガードだな。てっきり、SPみたいな奴らを予想してたんだが・・・・・・あれじゃ、まるで数世紀前の自警団みたいだ。旧装備愛好クラブ専用のシークレットパーティーでもやってるのか?」

 博仁も思わずジョークを零してしまう。

「あいつらは・・・・・・!」

 香織の表情が一変し、目が大きく開いた。理由は彼女にとって、奴らは見覚えのある存在だったからだ。奴らは詩織の酷似した魔物が生み出した虚無の世界にて、自身と冬美を殺害しようとした人とは異なる者達。その名前もはっきりと覚えている。

「絶望の使徒・・・・・・!?どうして奴らが・・・・・・!?」

「あ、あの人達・・・・・・こんな所にもいるんだ・・・・・・」

 由利子も酷く怯え、メイフライにしがみつく。


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