複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.220 )
日時: 2020/08/29 06:22
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 司令室の構造は円形となっており部屋全体にコンピューターが設置されていた。中心には近未来を連想させる得体の知れない大型の機械が天井と地面を繋げている。ボディは光のラインが複雑な模様を描き球体型のコアらしき物体がゆったりとした速度で回転している。自動ドアが開き、そこへ香織と徹がやって来た。

「ようこそ司令室へ。最新鋭のハッキング技術で地上のメインコンピューターや監視カメラを乗っ取り東京全体の様子と情報を監視しているのだ。この場所は司令官、幹部、許可された者以外の立ち入りは禁じられており無断で侵入した者は処罰の対象となる。ましてや部外者が入る事は滅多にないからある意味ラッキーと言えるな。君を待つブラックジョーカーもここにいる。正確にはちょっと異なるが」

 長々とした説明を聞き流し香織は訪れて間もなく中心の機械に関心を寄せた。

「この近未来の機械は一体何なの・・・・・・?現代の技術で作れる物とは思えないけど・・・・・・?」

 と自身の目を疑った感想を述べる。

「私もこの不可思議なオーパーツ(場所や時代とはそぐわない物品)については説明のしようがない。ブラックジョーカーだけが扱え本人曰く『マザーコンピューター』だそうだ。それ以外は不明だ。この組織の指導者は存在事態が謎めいた不思議な人間なのでね。私を含むここにいる一員達も素性はおろか、素顔すら見た事がない。一部の者達の間では正体を当てる事に賞金を用いた賭けが流行り出すくらいだ」

 徹は早速、次世代コンピューター手前の制御コンソールの元へ行き認証スキャンを済ませるとスピーカー型のマイクに顔を近づけ

「ブラックジョーカー、聞こえますか?司令官の村雲徹です。あなたが会いたいという人間を連れて参りました」

 すると、マザーコンピューターの球体の色が変わりブオンと聞き慣れない音が鳴る。ホログラムのモニターが映し出されブラックジョーカーが姿を現した。初めて会った時と同じく画面は黒く人らしき形があるがやはり肝心の素顔は確認できない。そして前と同様、モザイクで本来の声を隠した状態で言葉を発する。

「村雲、ゴ苦労ダッタ。下ガッテイイ。私ハ久々ニ再会シタ彼女ト話ガシタイ」

「はい、仰せのままに」

 ブラックジョーカーは命令通り徹を香織の後ろへ下がらせ話し相手を変えると

「久シブリダナ、姫川香織。コノ組織デノ生活ニハ慣レタカ?以前ト比ベ随分ト逞シクナッタヨウニ見エルガ?」

 香織は自分に言葉を発しているモニターを見上げ堂々とした構えで言い返した。

「この数ヶ月間の間、色々あったのよ。久しぶりねブラックジョーカー。またこうして話をする事になるなんて思いもしなかったわ」

「プレゼントヲ渡シタアノ日以来、元気ニシテイルカ気ニナッテイタガ心配ノ必要ハ皆無ノヨウダナ」

「ええ、こっちも人生がかかってるもんだから。しぶとく生きてるわ」

「相変ワラズ強気ナ運動女子ダ。ヤハリ、オ前ヲ見込ンダ私ノ勘ニ狂イハナカッタ」

 ブラックジョーカーも実に機嫌がよさそうに自身を褒め称える。低い笑い声が気味の悪さを一層に引き立てる。

「東京ノ街ハ野蛮ナ政府ノ巣窟トナッテイタダロウ?危険ナ網ノ中ヲ潜リ抜ケ無事ニ辿リ着ケタトハ相当運ガイイナ。私ノタメニ命ヲ懸ケテクレタ。コレ程嬉シイ事ハナイ」

「感動に水を差すようで悪いけど、勘違いしないでと言っておくわ。東京支部に来た理由は任務のため、指導者の命令に背く訳にはいかないから仕方なく埼玉から足を運んだのよ。ところで、わざわざここに私を呼び寄せたのは何か渡したい物があるからなんでしょ?それをさっさと貰ったら埼玉支部に戻らせてもらうわ」

 香織は面倒くさいやりとりを嫌がり早く用事を済ませようと事を促す。

「フム・・・・・・確カニ地上ハマトモナ秩序ガナク、帰リタイト言ウ衝動ニ駆ラレルノモ分カランデモナイ。ダガ、静カデ邪魔ノナイ場所デ少シバカリティータイムト洒落込マナイカ?オ前ト直接会ッテ色々ト語リ合イタイノダ。私ダケノ個室ニ招キ入レヨウ。コッチダ」

 短い語尾を付け足した直後、司令室で何かが動く機械音がした。香織がいる今の位置とは正反対にある壁が上に沿って上がっていき隠し扉が現れる。モニターが消え気を緩めた徹は彼女の傍へ寄り

「私の役目は終わった。ブラックジョーカーの個室には君1人で入るんだ。すぐに行った方がいい。あの方は待たされるのが嫌いなんだ。もう1つ、いくら気に入られてると言っても組織の指導者に対してあの口の利き方は感心しないな。面会の際ではくれぐれも無礼な振る舞いは避けてくれ。いいな?」

 香織は何も言い返さず円形の通路を時計回りに辿り扉の前まで止まった。人体の生命反応がセンサーに感知されドアが縦に沿って自動で開く。今思えばこれからブラックジョーカーに会い遂にその正体を目撃するかも知れないのだ。次第に激しくなる鼓動に胸を圧迫されながら彼女は息を呑み再び足を進める。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.221 )
日時: 2020/08/29 06:22
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 ブラックジョーカーの個室に香織は予想を裏切られ目を丸くする。出迎えたのは基地やシェルターと言った狭苦しいものではなかったからだ。行き着いた先は誰もが住みたいと言いたくなる程の環境のいいリビングルームだった。部屋の環境は心地いい充実さをほぼ完璧に再現しているのだ。そこは最早、穏やかでのんびりと過ごせる理想的な家庭の一室。

「司令室の奥にこんな素敵な場所が隠されていたなんて夢にも思っていなかった。ブラックジョーカーには驚かされてばかりね。性格や特徴が掴めない人だけど趣味はいいみたい」

 部屋全体を見渡し感心と呆れを同時に抱いた。しかし、肝心のブラックジョーカーの姿はなく家主が歓迎に訪れる気配はない。本来の理由を忘れてはいなかったが好奇心に負けた香織は少し部屋の至る所を見て回る事にした。

 最初にキッチンへ足を運んだ。瑞々しい林檎を手に取るとそれをかじる事なくパイナップルとバナナの上に積み重ねた。香織はかつての日常を送っていた頃の思い出に浸る。

「お母さんの料理はいつも美味しかった。また家族と食卓を囲んでご飯が食べられる日は来るのかな・・・・・・ん?あれは何?」

 テーブルに置いてあった1冊の本に気がつく。興味を抱き近くに行って確かめると文章だらけのページが開かれたままになっていた。台詞や内容を視線でなぞり小説である事を確信する。

「この小説、ファンタジー小説みたいね。タイトルは・・・・・・」

 手に取った本を畳み表紙を覗くと香織は目を丸くした。

「『〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上』・・・・・・この小説知ってるわ!累計発行部数300万部を突破した有名な作品よ!お兄ちゃんが大ファンで私も読んだ事がある!」

 と感激に満ちた声を上げ最初のページを勝手に開き直した。

「サーフェリアの次期召喚師であるルーフェンの活躍を描いた物語。召喚師としての人生を生きる彼の存在はやがて死を司る西方の国サーフェリアの歴史を大きく変える事となる・・・・・・」

 香織は登場人物や用語を暗記し第3章の1話『籠鳥』から夢中になって読み始める。

「面白いわね。この後どうなるのかしら?」

 ここに来た目的をすっかり忘れてしまっていた香織は気がつけば中盤まで一気に読み進めていた。ドキドキと胸が高鳴る興奮にページを捲ろうとした時

「・・・・・・!!」

 突然、がたっ!と何かがぶつかる物音がした。我を忘れていたところに不意を喰らったため受けた驚愕は相当なものだった。香織はびくっと全身を震わせ反射的に上階に視線を送る。何かが動き壁の死角へと消えはっきりしないが人間の形に見えた。香織は恐れ戦いた表情を浮かべ何かが隠れた箇所をじっと見つめた。すると

「クスクス・・・・・・香織、コッチニオイデ・・・・・・」

 こちらを呼ぶ声は間違いなくあそこから聞こえてくる。声にはモザイクがかかっており低い静かな台詞が恐怖を更に掻き立てた。視線を逸らす事すらままならずひんやりと冷たくなった背筋が震えを生む。

「・・・・・・もしかして、今のがブラックジョーカー?」

 小説を置いた香織は引き寄せられるかのように声の正体を追う。おそるおそる階段を踏みつけ時間を掛けて2階に上がると廊下の先にある扉が堪えきれない笑いと共に閉まった。子供染みたいたずらに香織はだんだんと苛立ちが芽生え始める。

「私をバカにしてるつもりね?だったらこっちも驚かせてやるわ」

 むっとした表情でどかどかと廊下を突き進み強引な力で扉を前に突き出す。一気に押し入るとそこは快適な寝室。明かりのないしーんとした静寂を漂わせる。しかし、入る瞬間を目撃したにも拘らず部屋は最初からいなかったように無人だった。

 香織は神隠しのような現象に不思議な顔をした。確かに寝室は薄暗いが闇に視界が遮られているわけでもなく誰かがいればすぐに気づく。部屋の範囲はここだけで他へと続く扉もなければ隠れられそうな所もなかった。

「いない!?確かにここに入ったはず・・・・・・!」

 言葉を漏らしたその時、嫌な予感が脳裏をよぎり同時に危険な気配がした。まさか・・・・・・!と思いとっさに横を向いた瞬間、それは視界に飛び込んできた。顔面に迫る拳を香織は反射的に受け止める。手の平に衝撃が重い衝撃が伝わる。香織は無意識にカウンターを打ち込むが相手はそれをかわし後方倒立回転で引き下がった。

 不意を突いてきた者の正体はこれもまた異様な姿だった。どういうつもりなのか全身が黒づくめの格好で顔を同色のフードと人顔の仮面で覆い隠している。奴は首を左右に傾げ骨を鳴らすと格闘の構えを取り再び襲い掛かって来た。

「え!?ちょっ・・・・・・何!?」

 訳を理解する猶予も与えられないまま容赦なく迫る拳の連発をとっさに防ぐ。ためらいのない一撃一撃に抵抗の隙が回って来ず徐々に後ろへと追いやられていく。不利な状況を覆そうと香織は一か八かの判断で足払いで相手の態勢を崩そうとした。しかし、相手はその手段を読んでいたのか浮かせた体を回転させ直撃を免れる。地面に着地すると細い腕1本で全身を軽々と持ち上げ回し蹴りをかます。当たる直前、香織は仰向けに伏せ何とか回避した。蹴りは彼女の顔の上をすれすれに通過する。

(常人とは思えない身体能力は一体!?戦い慣れた私を苦戦させるなんて・・・・・・こいつも戦法を熟知しているとでもいうの!?)

 香織は驚きながらも倒れた姿勢を立て直し、距離を置き今度は自分から先制を仕掛ける。突進する勢いに合わせ右腕を力任せに振り上げた。だが、相手は抗おうとはせず棒立ちという余裕の態勢を取り攻撃が迫るのを待った。彼女の拳が仮面に届こうとした時、その手は弾かれ矛先をずらされた。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.222 )
日時: 2020/08/29 06:31
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・っ!?」

 香織は再び間を開けようと下がろうとしたが、何故かそれは叶わなかった。手首の圧迫に気づき視線をやると腕が掴まれていたのだ。必死に引き離そうとしてもびくともしない。相手は強制的に腕を曲げそれにつられた香織は軽々と投げ飛ばされる。

 "きゃっ!"と弱々しい声を上げベッドの角に背中を打ちつける香織。痛みを押し殺し起き上がろうとしたが先に胸倉を掴まれそのままマットレスの上に押し倒された。自身の顔に迫った仮面、唯一露にされた殺意の眼差しがこちらの視線と重なる。瞬く間に頭が恐怖で染まり血の気が引いた全身の感覚が消える。戦う気力さえ奪われ、香織は叫び声も上げられないまま拳を振り下ろされた。

 しかし、痛みと衝撃は走らなかった。何故なら相手の拳は鼻の先で止まっていたからだ。

 香織は涙を浮かべ今にも泣き出しそうな面持ちで息を切らした。その様子を黒い仮面が黙って見下ろしていた。そいつは掴んだ胸倉を放し突然、歓迎を現わす形で両手を広げ首を傾げると

「ハロー香織!アンドウェルカムマイパラダーイス!ナカナカスリルノアルサプライズダッダタデショー!?」

 楽し気に言って腹を抱えて笑った。

「・・・・・・え?どういう事・・・・・・?」

 香織は突然の急展開に訳が分からず溜まった恐怖に震えながら

「あなたが、ブラックジョーカー・・・・・・なの・・・・・・!?」

 と力尽きそうな声で聞いた。

「当タリ前ダ。ホワイトジョーカーニ見エル〜?」

 ブラックジョーカーは品のない洒落を言ってピストルを象った両手を小刻みに揺らす。モニターで面した時と比べ性格があまりにも異なっている。神がかり的な戦闘マシーンから一変、悪趣味なジョークを好むコメディアンとなっていた。

「あ、あんたねえ!」

 香織は怒りに我を忘れ勢いよく起き上がると

「冗談でもやっていいレベルと悪いレベルがあるでしょう!?後を追って部屋に入ったらいきなり殴りかかって来て!本気で殺されるかと思ったわ!それが暗殺組織を束ねる指導者のもてなし方なの!?バカじゃない!?しかも、何なのよ!?羽目を外し切った軽々しいその態度!?モニターで話す時とは全然性格が違うじゃない!?」

 と好きなだけ自我のない文句を浴びせる。流石のブラックジョーカーもその勢いには敵わずなだめる姿勢で後退りしながら言った。

「ゴメンゴメン、コレガ私ナリノ歓迎ノヤリ方ナンダ。自分ガ選ンダ人間ノ実力ヲドウシテモ試シテミタクテ・・・・・・確カニ悪戯ガ過ギチャッタネ。ソレハ素直ニ認メル。デモネ、不意打チヲ防ギ私ト対等近クニヤリ合エルナンテ驚イタヨ。アナタガ並外レタ能力ヲ秘メテイル人材ダト感ジテイタケドコレ程ノ実力ノ持チ主トハネ」

「お陰で寿命が10年縮んだわ!」

「モウ二度トシナイト誓ウカラ許シテ。マアトニカク、ヤット面会デキタネ?ヨウコソ香織、改メテ自己紹介サセテモラウケド私ガBJノ創設者デアリ組織ノ最高権力者デアルブラックジョーカー。ヨロシクネ?」

 そう言って右手を差し伸べる。香織は苦笑もできない複雑な気持ちでとりあえず相手と握手を交わした。

「コノ秘密基地ニツイテノ感想ハ?ヤッパリ素敵ニ思ウデショ?全部私ガデザインシタンダ」

「確かに部屋は気に入ったわ。お世辞も必要ない快適で不便のない環境だし私も可能ならここで暮らしていたい」

 ブラックジョーカーはソウデショウと上機嫌に何度も頷いた。

「ところで私とティータイムをしたいんじゃなかったの?ふざけたサプライズはここまでにしてそろそろ本題に入りましょう?」

「ソウスルベキダネ。ココデ話スノモ何ダカラ下ノリビングデ話サナイ?果物トジュースヲゴ馳走シテアゲル」

「ありがとう、最高のもてなしね。でも、その前にいい加減仮面を取ったら?不気味だし素顔を隠したまま客人に接するなんて失礼だと思う。それこそ礼儀やモラルに反するわ」

 香織の意見にブラックジョーカーは急にしゅんと活気さを失った。落ち込んだのか沈黙し顔を下に向けながらも

「・・・・・・ワカッタ、一理アル。コノ隠レ家ノ人間達ニハ正体ヲ明カシタ事ナンテナカッタ。普通トハ違ウ変ワッタ自分ノ顔ヲ見セタクナカッタンダダ。ナノニ不思議、香織ニ対シテナラ心ヲ開ケソウ。私ノ秘密ヲ打チ明ケテモ構ワナイト気サエスル」

 ブラックジョーカーは要望通りフードを脱ぎゆっくりと外した仮面を床に落とす。今まで誰にも知られなかった指導者の素顔が曝け出される。香織は思いがけない素顔にはっと驚き言葉を失った。

 ブラックジョーカーの正体は香織と同年代くらいの少女だった。髪が艶のある滑らかな髪が肩まで垂れる。その綺麗に整った精悍な顔立ち。目は茶色と緑の左右の色が違うオッドアイというあまりない体質。

「・・・・・・あなた、女の子だったの!?」

「うん、そうだよ。今までずっと男だって思ってたでしょ?」

 ブラックジョーカーは恥ずかしそうに微笑んだ。

「特別に本名も教えてあげる。『宇佐木 永羅(えいら)』、これが私の名前」

「永羅・・・・・・いい名前ね。まるで洗礼名みたいな響きがあってかっこいいわ」

 香織は偽りのない正直な感想を述べる。

「ありがとう。私って左右の目の色も違う変わり者だから何か言われるのが嫌で、それが理由で自分の正体を隠してきたんだ」

「オッドアイを持つ人間なんて生まれて初めて見た。珍しいかも知れないけど隠す必要なんてないと思うわ。顔だってモデルみたいで素敵よ?誰もあなたをバカになんてしない。」

「えへへ、お世辞でもそう言ってくれて嬉しい」

「お世辞なんかじゃないわ。本心よ」

 永羅は照れ臭い表情を作り

「やっぱり、香織は優しいね。あなたは清らかなオーラを纏ってる。私そういうの目に見えてすぐに分かっちゃうんだ」

「たまに自分でも不思議に思うんだけど私ってそんなに魅力的かしら?」

 香織は自身に対し理解に苦しむ顔をした。

「じゃあ、お互いの素顔をご対面させたところで早速お話ししましょう?私にとってこんな事、滅多にできるものじゃないもの。先に下に行って小説でも読んで待ってて?着替えたらすぐに行くから。似合うでしょこの服?とあるゲームのコスプレなの」

「あはは・・・・・・かっこいいわね。とっても似合ってる」

 これに関しては香織は本心を隠しお世辞を言った。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.223 )
日時: 2020/08/29 06:40
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 待っている間、香織は1人リビングルームで暇を潰す。椅子に腰かけさっき中断した小説の続きを読み進めていた。そんなに経たないうちに永羅が階段を降りてやって来た。彼女の服装は黒い厚着をやめ袖や裾の短い爽やかな私服へと変わっている。

「ねえどう?この服?素敵でしょ?」

「ええ、涼し気なのがいいわね。コスプレなんかより、こっちの方があなたには似合っているわ」

「ありがと、実は私もこの服が凄く気に入ってるの。あれ?またそれを読んでるの?香織って小説も読むんだね?意外だなぁ。あなたは剣道一筋だと思ってた」

「失礼ね。私だって本くらい読むわ。恋愛漫画にハマってた時期もあったのよ?」

「恋愛漫画!?あはははは!へえ〜そうなんだ〜。ガーリッシュな香織可愛すぎるよ〜!」

 香織は頬を赤らめ"うるさい"と恥ずかしそうに呟く。永羅はゲラゲラ笑いながら、キッチンに足を運びもてなしの準備に取り掛かった。5分くらいしてテーブルに果物の盛り合わせと氷が浮かぶ炭酸ジュースが並べられる。永羅も自分の分のスイーツを置き香織の向かいに座る。

「素敵、高級レストランのデザートみたい。永羅は料理も得意なんだ?」

「ふふっ、まあね。遠慮しないで召し上がれ」

 香織は手に取ったフォークでオレンジの器に盛られたイチゴを口に運んだ。続いてブルーベリーとバナナの甘味を味わう。

「美味しい?」

「うん、美味しいわ」

 にこにこと微笑む永羅の問いに表情を似せる香織も言われた台詞を真似する。

「香織がここに来た最初のお客さんだよ。組織を設立した時から私はずっと1人だったから寂しくて。こうやって誰かに会って温かい気持ちになったのはホント久しぶり。何だか嬉し過ぎて涙が出ちゃうな」

 そう言って彼女も冷えたソーダで乾いてない喉を潤す。泣きそうに濡れた目蓋を擦る様子を香織はじっと眺め、そして聞いた。

「あなたはここで1人で暮らしているの?」

 その問いに今度は永羅は肯定の返事を元気に返した。

「うん、孤独は辛いけど別に生活には困ってないし、テレビやゲームもあるからまだ心には余裕があるかな?でも私はあなたを含む1万人の兵員を率い組織全体を動かす指導者、ブラックジョーカーなんだよ?余計な感傷に浸っている暇はない」

「あなたも大変なのね・・・・・・ところで永羅?私もあなたにいくつか聞きたい事があるんだけど。いい?」

「いいよ。質問されるのは嫌いじゃない。知りたい事があったらどんどん聞いて?万が一言いたくないものがあったらその時は黙秘するから。」

「言いたい事は積もりに積もって山ほどあるけど私が1番知りたいのはあなたの事よ」

「私の事?」

「あなたは色々な才能で溢れている。特にあの並外れた身体能力は普通じゃない。俊敏な動きに軍人をも圧倒できそうな強さ・・・・・・あんなの相当な訓練を重ねなきゃ不可能な技よ?あなたも兵士なの?」

 特技を評価され永羅は照れた顔を浮かべたが頭を横に振りそれを否定した。

「ううん、違う。私は兵士や武術家、どちらでもないよ。確かに幼い頃から運動神経はよかったけど戦いの術を学んだ過去はない。無論、剣道の経験もね」

「・・・・・・なのに、あれだけの能力を!?生まれつきの才能?」

「自分の素質が恐ろしく感じる時もたまにあるよ。他には?」

 永羅は次の質問を促す。

「この隠れ家の司令室にあるマザーコンピューターについて教えてくれない?徹さんはあなたが詳細を知ってると言っていたけど?」

「謎の球体が回っているあれ?・・・・・・実は私もよく知らないんだ。私が初めてここに来た時からあって、だけど何度かいじっているうちに色々と仕組みが分かってきたから有効に活用する事にした。あれ1つで日本全体のあらゆるものを把握できるんだよ」

「そんなのが何故、東京の地下に眠っていたのかしら?誰が何のために作ったのでしょうね?」

 永羅は興味を持った反応をせずさあ?とだけ言った。

「次の質問は?」

「じゃあ、これは私がもっとも知りたかった事なんだけど?あなたはどういう理由で、どんな方法でBJという強大な組織を作り上げたの?それが気になっていつもモヤモヤしていた。教えてくれる?」

 すると永羅は人格が変わったように晴れ晴れとしない生真面目な面持ちを作った。噛んでいた果物を飲み込むとフォークを置いて香織を睨んだ。

「その問いは私にとっても重要なものだね。これも自分だけの秘密にして胸の奥にしまっておきたかったけど心を許したあなたには特別に話してあげる。本音を言えば打ち明けた方が少しは気分がなるかも知れない」

 永羅はまずどこから話せばいいかを考えやがて出だしが決まると長々と語り始める。

「この組織を作るきっかけになったのはずっと昔に起きた不幸な出来事が関係してる。12年前、裕福な家庭で育った幼い私を両親は千葉の孤児院に引き取らせたの。理由は教えてくれなかったけどお母さん達は私に1つの指輪を託し去って以来、迎えに訪れる事はなかった」

「気の毒な過去に同情するわ。でも、不可解な点もある。不満のない家庭が子供をいきなり施設に引き取らせたりするってあるのかな?普通に考えれば有り得ないとしか・・・・・・生活だって充実していたんでしょ?」

「うん、決してお金持ちじゃなかったけど食べ物や仕事も困らなかったし家族関係も全然悪くなかった」

 合わせた視線を逸らさず永羅は更に続ける。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.224 )
日時: 2020/08/29 07:32
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「さっきも言った通り私はオッドアイが原因で他の子供達に酷いいじめを受けたんだ。バカにされたり仲間外れにされたりの日々にいつしか心を閉ざすようになって気がついたら素顔を隠す人生が当たり前になっていた。時が経ち16になった私は両親を探すため東京に戻る決意をし手掛かりになるかも知れない指輪を持って孤児院を去った。勿論、顔を隠したまま。自分が生まれ育った故郷には帰れた。だけど、そこで悲劇が起きた・・・・・・」

「悲劇?」

「東京の人気のない夜道を歩いていたら、偶然にも事件を目撃してしまったんだ。服を剥ぎ取られ、傷だらけになっていた女性を死体を集団の男が取り囲んでいて。そのうちの1人が私の存在に気づき、襲いかかってきた。口封じのために私まで殺そうとしたの」

「酷い・・・・・・」

 香織は残酷過ぎる実態に唖然とせずにはいられなかった。

「私は必死に抵抗したけど、脇腹を刺されてしまった。痛いなんてものじゃなかったよ。血が止まらず全身が寒くなるのを感じた。意識が朦朧とする中、追っ手を振り切って路地裏に逃げ込んだ。でも、ついに力が入らなくなって倒れた。治まらない激痛と殺されかけた恐怖だけが脳裏に焼き付き、泣く事しかできなかった」

「・・・・・・」

「逃げた私を探し出そうとする殺人鬼達の足音が迫った時、私はここで人生が終わってしまうのかと絶望した。でも、運は私を見放さなかったんだ。偶然、自分はマンホールの上に倒れていたのに気づき、必死に力を振り絞って地下へと逃げ延びたんだ」

「死神にも仲間外れにされたってわけね」

 香織の皮肉めいたジョークに誰も愉快に笑わなかった。

「下水に降りた私は本来の目的を忘れ、暗闇をスマホのライトを頼りに彷徨い続けた。壁の矢印やネズミの後を追ったりして安全な出口を探しながらね。安全な場所を求めてしばらく進んでいくうちにやがて1つの扉の元へ行き着いた。どこに繋がっているのかなんて予想できなかったけど長い歩行で疲労が溜まっていたし、とりあえず中に入って英気を養う事にしたんだ」

「なるほどね、読めたわ。その扉の先がここに通じていたのね?」

「香織って勘も冴えてるんだね?ご名答、後にBJの発祥の地、後に東京支部の隠れ家になる場所へ足を踏み入れたんだよ」

 以心伝心のやりとりに2人は思わずくすっと笑みを浮かべた。だんだんと飲み込めてきた話に香織は納得と同時に興味が芽生え始める。

「それでどうなったの?早く続きを聞かせてくれない?」

「初めてここに来た時は驚きの連続だった。広々としたいくつものエリアがあって武器庫や医療施設に居住区、そして大量の食料、何もかもが完璧に揃っていた。ここがさっきあなたも言った通り元々どんな所なのか、誰がどんな目的で存在していたのかは永遠の謎。だけど、私は死刑を免れた殉教者のように歓喜した。その安堵も束の間だったけどね・・・・・・」

「えっ?束の間って・・・・・・また問題が起きたの?」

 永羅は一旦話を取りやめ残ったソーダで乾いた喉を潤す。半分も減っていないフルーツを頬張り、少しだけ休息を取ると改めて話の後半を語り始める。

「この場所を最初に発見したのは私だけじゃなかったんだ。探索の末、大広間に出るとそこに大勢の人間達が集まっていたの。銃で武装した奴らが民間人を取り囲んでいて・・・・・・奴らは一斉にやって来たばかりの私に銃口を突きつけた。今度こそ人生の最期を覚悟したよ。でも、撃たれなかった。1人の自衛隊員が前に出て泣き崩れる私を見ろした。そして、優しく抱きしめてくれた。彼こそが後に東京支部の司令官となる村雲 徹だった」

「徹さんが?」

「彼は後ろにいた部下達に銃を下ろすように命令した。その後、私を食料と水を提供してくれた。私だけじゃない。他の皆にも平等に分け与えていた」

「彼らは何者だったの?」

 香織は首を傾げる。

「分からない。でも、徹は元自衛隊で大佐を務めていた事は後で知った。徹は皆の前で言った。日本は将来、絶望の淵に追いやられる事。この暗黒時代は必ず忍び寄るとも。だからこそ、ここにいる全員が武器を持ち協力し合って自分達を守っていこうと。私を含む皆は彼の演説に心を打たれ団結し、最終的には自警団を作る事となった」

「それがブラックジョーク・・・・・・」


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