複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.179 )
日時: 2019/12/22 08:58
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「これで応急処置は終了よ」

 香織は生きた心地がしなかった慣れないオペを全て終わらせた事にひとまず喜ぶ。達成感のある笑顔で天井を見上げた。

「見事な大義だった。俺が軍人だったら勲章を授与したいくらいだぞ?血の痕跡を消して私服に着替えろ。これから隠れ家に帰還する」

「香織さん・・・・・・」

 メイフライが彼女を呼ぶ。

「包帯だけじゃ寒いです・・・・・・そこの毛布、掛けてくれませんか・・・・・・?」

「勿論、服がないから冷えますよね?」

 香織は苦笑し横たわっているメイフライに頼まれた物をそっと覆いかぶせる。医療品を片付け使い物にならなくなった彼の服で車内に飛び散った血と手に付着した血を綺麗に拭き取る。それをいい加減に装備品のケースに押し込んだ。次は急いで身に着けていた武器とレザーアーマーを外しバトルスーツも脱ぐ。そして同じように自分のケースにしまう。

 進路を正しい道に戻しバンはようやく街を出た。止まらずに隠れ家のある山に続く橋を渡る。バックドアの向こうで消防車から鳴り響く音がまだ聞こえていた。これから自分がさっきまでいた廃校に向かうのだろうと香織は確信する。


 3人が乗った車は夜の山を登りライトを頼りに進む。いつもの獣道を抜ければ皆の待つ隠れ家に着く。1日も離れなかったはずが彼らにとっては久々の我が家へ帰る旅人のような感覚だった。

「二度目の決戦お疲れだった。今回は戦争映画みたいで本気でハラハラしたぜ」

 博仁が事の重大さを軽視したような軽い口調で言った。

「残る標的はあと8人、戦いはまだ始まったばかりよ」

 香織は裏腹に真剣な返事を運転席の男に返した。死にかけた戦いが終わった後でもすぐに次の標的の事を考える。

「そう篤くなるな。まずは美味い飯に在りつきろくでなしの1人を葬った事の祝杯を上げようじゃないか。3人目はその後でも遅くない」

「そうかも知れないけど・・・・・・」

 香織は心配の視線を横で眠るメイフライに向け

「メイフライさんの怪我はどうやって誤魔化すつもりなの?見つかった時点で終わりよ?」

「こういうのはどうだ?そいつを毛布で包んで俺が背負っていく。眠っているように見せかけてな。医務室に連れて行くのはやばい。だからお前達の部屋に運ぶ」

「ちゃんと傷の手当てをしなくていいの?」

「それは帰ったら考えるさ」

「はあ・・・・・・」

 呆れるしかない無計画さにため息しか出なかった。


 いつもの獣道をいつも通りに抜け3人が乗ったバンは数時間ぶりに隠れ家に帰還した。岩の壁を装ったゲートが開きやはり武装した兵士が数人現れた。彼らは運転席に近寄り博仁の存在を認識する。

「随分と長い偵察だったな?何か見つけたのか?」

 兵士の1人が言った。

「街には何もなかった。だが運悪く渋滞にはまってしまってな。一言で言えばガソリンの無駄だった」

 博仁は何食わぬ口調で帰りが遅くなった理由を誤魔化した。

「大変だったな。お勤めご苦労、中に入って休息を取れ。報告書は・・・・・・一応書いてくれるか?」

「了解した」

「それと後ろの席も念のため確認させてくれないか?知ってると思うが組織の決まりなんでな」

「勿論、手早く済ませてくれると助かる」

「そのつもりだ」

 車両の背後へ回り窓越しから中を覗き見る。1分もしないうち、どこも異常はないと確認した兵士は仲間を引き連れ隠れ家の内部へと姿を消した。博仁もアクセルを踏み後に続く。

 ガレージに着くとバンは停車し今日の役目を終える。博仁はすぐに車両から降りエンジニアよりも先にバックドアを開いた。中には負傷したメイフライ、無茶な応急処置を施した香織、どちらもぐったりとうつむいていた。相当に疲れ果てたのか死んだように動かない。

「起きろ香織。寝るのは部屋に戻ってからにしろ」

 博仁は毛布で傷を覆い隠すメイフライを背負い香織を立たせる。そして彼女の耳元に口を寄せ

「いいか?部屋に着くまでは油断できん。途中で何かを聞かれても絶対に喋るな。俺が何とかしてやり過ごす」

「・・・・・・分かったわ」

 2人は怪しまれないよう普段と変わらぬ表情でガレージの中心を歩きその場を後にする。余計な動揺を防ぐため可能なだけまわりを見ないよう注意する。当然、不自然な行為をしているのだから誰かとすれ違う度に異様な視線を感じていた。

「おい!」

「!」 「!」

 早速、誰かに話しかけられた。横を見ると片手にレンチを持つ作業服の青年が立っていた。彼は背中に抱かれたメイフライを指差し

「そいつ、どうかしたのか?」

 と何か怪しんでいるような口ぶりで聞いた。

「ああ・・・・・・こいつか?偵察任務に同行したんだが途中で寝ちまいやがって。昨日は徹夜して3時間しか寝てなかったらしい」

「そ、そうなんです・・・・・・だから無理しない方がいいと止めたんですが・・・・・・彼、どうしても行きたいと聞かなくて・・・・・・」

 香織も必死に思いついた言葉を繋ぎ合わせ口裏を合わせる。

「そうか。まあ、睡眠不足は色々とたち悪いからな。邪魔して悪かった。早く寝かしてやれよ」

 青年はそれだけ言って仕事に戻って行った。

(何も喋るなと言っただろ!?)

 博仁は隣にいる香織を睨み小声で罵倒した。

(ごめんなさい・・・・・・)

「はあ〜、まあいい。行くぞ?」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.180 )
日時: 2019/12/22 09:01
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 ガレージから時間を掛け何とか居住区まで辿り着いた。これまでに4人の人員から訝しげに呼びかけられたが全て博仁が上手くやり過ごした。ここは不気味な程、物静かで誰の姿もない。ふと向かいの上階に並ぶ1つの寝室から男女数人が出てきてこちらへ向かってくる。しかし会話に夢中だったのか誰も香織達には目もくれず楽しく盛り上がった状態で通り過ぎて行った。

 博仁は解放感のこもった息を体内から吐き出し

「ここまで来れば大丈夫だろう。まさか後ろに司令官が立ってたりしてな?」

「冗談でもそんな恐い事言わないで。早く行きましょう」

 笑えないジョークを軽く批判し一行は階段を上る。そしてまた少し歩いて愛利花達の待つ部屋の前で止まった。

「扉を開けてくれるか?生憎、俺は手が離せん」

 香織は勿論だと言わんばかりに頭を縦に振り扉を大きく開いた。先に博仁とメイフライが入るよう優先する。

「愛利花、慎一、それに透子はいるか?英雄達のお帰りだ」

 博仁のただいまを合図に奥にいた愛利花達が我先にと一斉に押し寄せて来た。

「香織っ!」 「香織さんっ!」

 留守番していた3人はさっきまで暗かった表情を晴れやかにした。愛利花は無事に戻って来た嬉しさに真っ先に香織を抱きしめた。外の寒さで冷たくなった彼女の頬に涙の感触が伝わる。

「きっと帰ってくるって信じていたわ・・・・・・お帰りなさい・・・・・・!」

「俺も出て行った皆が心配で仕方ありませんでした。ここにいる間、不安だけの時間が過ぎていくばかりで」

「香織・・・・・・2人目を殺ったのね?」

「はい・・・・・・ですが・・・・・・」

 香織が目を背け何かを言おうとした時・・・・・・

「お兄ちゃん・・・・・・どうかしたの?」

 最後列にいた透子が前にやって来て言った。眠っているのようには見えないメイフライの脚に触れ

「お兄ちゃん・・・・・・?」

「・・・・・・」

 呼んでも返事がない。

「3人共、ひとまず退いてくれないか?歓迎会は後だ」

 博仁は焦りを見せながら愛利花達の列に割り込み背負った人間を本人のベッドに運ぶ。柔らかいクッションに身体を下ろしうつ伏せに寝かせる。

「待って、彼に何があったの?」

 状況を飲み込めない愛利花は実に深刻そうな口調で返答を促す。博仁は負傷したメイフライの首に手を当て生きてるかどうか確かめる。そして彼を近くで見下ろし重そうな口を開く。

「メイフライが負傷したんだ・・・・・・」

 そう言って毛布の位置をゆっくりとずらし、見るに堪えない破損した肉体が再び曝け出される。白い包帯に血が染み込み醜い色に染まっていた。鉄臭い異様な臭いが空気に乗って狭い一室にいる人間全員の鼻を刺激する。それはまるで死んで腐り始めたミイラを眺めている光景にも見えた。愛利花は唖然とし両手で口を覆い吐き気に苛まれた慎一は思わず視線を逸らした。全身が凍りついた透子は死人のような目で人形のように立ち尽くしていた。

「そんな・・・・・・嫌だよこんなの・・・・・・お兄ちゃん死んじゃうの・・・・・・?」

 透子はまわりにいる背の高い人間達に問いかける。すぐにメイフライの元へ駆け寄り動かない身体を必死に何度も揺すった。

「お、お願い・・・・・・!死なないでっ!私を1人にしないでっ!!」

「やめるんだ透子!そんなに乱暴にしたら怪我が悪化するぞ!?」

 博仁が無理に彼女の両手を引き離し取り押さえる。

「嫌っ!放してっ!!」

「いい加減にしろ透子っ!」

 透子はとうとう泣き出し博仁を突き飛ばす。今度はわめきながら愛利花に走りすがりつく。

「慎一、早く扉を閉めろ!他の奴らに聞かれたらまずい!」

「は、はい・・・・・・!」

 慎一は慌てて部屋の出入り口へ走った。顔をだけを出し誰もいない事を確かめ一瞬で扉を閉ざす。

「うわああああ!!」

「大丈夫よ。お兄ちゃんは絶対に死んだりしないわ。また透子ちゃんとお話しとか遊んだりできるから・・・・・・だけど・・・・・・」

 愛利花は顔を上げると優しかった顔を一変させ

「何をやったらここまでの重傷を負うの!?香織、博仁、説明しなさいっ!」

 と次は彼女が大きく怒りの台詞を吐き出した。

「ご、ごめんなさい・・・・・・!私のせいなんです・・・・・・!」

 泣きそうに謝る香織に対しても

「それじゃ分からないわ!何でこうなったかって聞いてるの!」

「あの、ですから・・・・・・」

「いいんだ香織、事情は全て俺が話す」

 博仁は立ち上がり愛利花の前まで行くと詳しく理由を語り出した。

「廃校で2人目の標的の手足を吹っ飛ばして追い詰めた時、そいつは香織を道ずれにするためにあろう事か爆弾を使って自爆したんだ。それをメイフライが盾となり爆風の直撃を防いだ。そしてここまでの怪我を負ってしまったんだ。もしこいつがそうしなかったら香織も一緒に吹っ飛んでいただろう」

「何てこと・・・・・・どれくらいの怪我を負ったの・・・・・・!?」

「身体の裏半分に大火傷を負い背中に破片が3つめり込んだためバンの中で応急処置を行った。モルヒネを打った後、香織が勇気を出して全部摘出したがな」

「はあっ!?医療班でもないのにまさか・・・・・・手術したの!?しかも走る車の中で!?」

「まあ、否定すれば嘘になるな・・・・・・」

 博仁は腕を組み回りくどい答え方をした。愛梨花は失神しても可笑しくないくらい真っ青となり当然の反応、2人の神経を疑った。言いたい事があり過ぎる様子で言葉が詰まる。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.181 )
日時: 2019/12/22 09:07
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「あ、ああ・・・・・・あんた達・・・・・・頭おかしいんじゃないのっ・・・・・・!?バカよバカ・・・・・・!!そんな事して失敗したら彼、死んでたかも知れないのよっ!?」

「信じられません・・・・・・!気は確かですか!?」

 話を聞いていた慎一も彼女と同じ考えを口にする。

「メイフライが自ら望んだ事だ。それに取り除かなかったら本当に危なかった」

 博仁はまわりに流されず冷静に返答を返した。

「あんた達といると人間というのが分からなくなるわ!命がいくつあっても足りない!心臓が止まりそうよ!」

 愛利花は頭痛に見舞われたような素振りを見せる。気を害したのか具合が悪そうにしゃがみ込んで自分の頭を抱える。そして僅かな時間、同じ姿勢を保ちまた罵りを続けた。

「そもそも何で医務室に運ばなかったのよ!?冷静沈着なあんたならそれくらい知恵が回るでしょ!?」

「知恵が回らないのはお前だ」

「何ですって!?」

 愛利花は吐き捨てられた今の一言にカッとなり思わず博仁に飛び掛かった。胸倉を掴み本気の力で相手をベッドの柱に背中を叩きつける。それでも彼は平然とした態度を崩さず

「いいか?落ち着いて考えろよ?仮に医務室に連れて行ったとして、医師に聞かれたらどう言い訳する気だ?すぐにお前のバカ親父に報告されて俺達全員、蜂の巣だ」

「あんたねえ・・・・・・!」

 愛梨花が殺意の形相で右手を振り上げる。流石にまずいと思ったのか慎一が力強く握られた拳を押さえ止めに入る。

「仲間割れはやめて下さい・・・・・・気持ちは分かりますがだめです。今は早くメイフライさんにまともな治療を施したほうがいい、このまま放っておけば危険です」

 そう宥めて暴力沙汰を阻止する。愛利花は"これ以上言っても無駄か・・・・・・"と皮肉を漏らし、一呼吸して粗雑に博仁を手放した。

「・・・・・・ちょっと医務室に行って医療キットを取って来るわ」

「じゃあ俺も行きますよ。薬を調達しますので」

「あなたはここに残って透子の面倒を見ててくれない?医務室には私1人で行く」

 愛利花は泣いている透子を慎一に任せ不機嫌そうにこの場から出て行った。

「ナイスな正論だったな。助かったぜ」

 顔面への拳を避けられた博仁が調子のいい態度で親指を突き立てる。

「黙って下さい。俺だって怒りますよ?」

 慎一が睨んで言った。


「何とか傷の手当ては終わったわ。穴は全部縫いつけたしもう一度消毒も済ませた。感染の心配はないはずよ。私に医療知識があって幸いだったわね」

 切った包帯をテープで固定し愛利花はまともな治療を終わらせた。しゃがんだ姿勢で香織達の方を振り返ってふっと相好を崩す。長時間の慎重な作業に彼女の顔は汗にまみれていた。香織達もそれに合わせぱあっと明るい表情を作り出す。これ以上のない吉報にここにいる全員が大いに喜んだ。透子が嬉し涙を流して事なきを得たメイフライに駆け寄る。

「お疲れ様でした。どうぞ」

「ふう、ありがと・・・・・・」

 愛利花はベッドに背を付け座り込んだ。慎一からタオルを受け取り濡れた箇所を拭き取る。そして血で真っ赤に染まった両手を消毒液で洗い流した。

「命に別状はないけど全治2ヶ月ってところね・・・・・・しばらくは無理に動かさない方がいいわ」

「よかった・・・・・・本当によかった・・・・・・!」

 香織も泣きながら組んだ手を鼻に当て涙声で心からの謝意を示す。

「ぐすっ・・・・・・ありがとうございました・・・・・・!」

「気にする必要はないわ。私達は仲間じゃない」

「しかし、お前に医療の知識があったなんて驚きだな。2年間ずっと一緒にいたが、全然知らなかった」

 博仁が信じられなさそうに思わず苦笑した。

「もしあなたも怪我したら私の所にいらっしゃい。品のない性格の治療までは保証できないけどね」

「何だとこの・・・・・・まあ、こいつを助けてくれた事には素直に礼を言うぜ。お前がいてくれてよかった」

「ふふっ、全然嬉しくないけど、どういたしまして。・・・・・・ところで香織?」

 愛利花は視線を博仁から香織にずらし

「あなたはすぐにでも次の標的を葬る気なのよね?」

 と唐突に聞いた。

「え?・・・・・・ええ・・・・・・そうしなきゃ家族をあいつに殺されちゃうから・・・・・・」

「メイフライがいなくても大丈夫?彼がいなかったらあなたは死んでいたところなのよ?」

「それは・・・・・・」

 不意打ちのような質問に言葉が詰まる。

「それもそうだな。俺も認めたくないが、お前は命のやり取りに関してはまだ未熟だ。玄人の助けがなきゃ正直厳しいだろう?」

 博仁も珍しく彼女に意見を合わせ細い目で隣に立つ人間を見る。

「私は・・・・・・」

「私は・・・・・・何だ?」

 すると香織はぐっと涙をこらえて

「私は大丈夫です・・・・・・!メイフライさんの助けがなくても私は1人で戦えます!だってこれは私の戦いなのだから!」

 それを聞いた2人はすぐには何も言わず黙っていた。彼女の覚悟を試す真剣な眼差し、しばらくの間、部屋は静寂に包まれる。気がつくと慎一も透子も同じように香織を見つめていた。

「ふっ・・・・・・」

 数分が経って博仁はよく言ったと言わんばかりの顔をして口をにやけさせる。

「そうだな。これはお前の戦いだ。自分の力だけで生き残らなきゃ意味などない」

 そして愉快に笑いだした。

「そういう風に言うと思ったわ。そう、怪我を負ってでも抗い続け、敵を殺さなければあなたの戦いとは呼べないわ」

 愛利花も深く感心たように頷き表情を和ませた。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.182 )
日時: 2019/12/22 09:18
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「今日の仕事でもうくたくた・・・・・・今日はゆっくり休みましょう。難しい話の続きはまた明日でもいいでしょ?慎一、医療キットの片付けを手伝って?」

「了解です」

「俺もかなり疲れた・・・・・・今日の戦いはホントに生きた心地がしなかったからな。あれは上手くいけば映画化できる程の壮大なストーリーだった」

 呆れた愛利花はバカとだけ言い放ってメイフライの傍から離れない透子に寝るように促す。

「明日も忙しくなるだろうからあなたも寝なさい。彼は大丈夫よ」

「本当に?お兄ちゃんまた元気になる?」

「勿論よ。その時はまたたくさん遊べばいいわ。さあ、あなたのベッドはどこかな?」

 愛利花は透子を持ち上げ彼女を上のベッドに乗せる。その時、何かを思い出したのかあっ・・・・・・と声を漏らし

「そういえばあなた達、夕食は食べた?」

 その問いかけに香織と博仁は残念そうな顔をする。

「そういえば食べてないな・・・・・・」

「私も・・・・・・メイフライさんも・・・・・・まだ・・・・・・」

 2人はとにかくメイフライを救う事だけ考えていたため余計な事は頭になかった。それに何度も死にかけた廃校での恐怖と気持ち悪い応急処置のトラウマが未だに残っている。まともとはお世辞にも言えない理由が重なり当然、食欲など湧くわけもなかった。

「私はいらないわ」

「左に同じ、俺も何も口にしたくねえ。仕方ないから今日は3人揃って晩飯抜きで決まりだな」

 2人はきっぱりと遠慮した。

「ちょっと待ってよ。メイフライはどうするのよ?」

 納得しきれない愛利花が言った。

「おいおい、まともに飯が食えそうな状態に見えるか?心配するな。人間は一食食べなくたって死にはしない。明日になったらスープでも運んで来てやる。今のこいつに必要なのは睡眠だ」

「あんたはこれからどうする気?」

「俺か?報告書をちゃっちゃと済ませてコーヒータイムを満喫するよ」

「何も口にしたくなかったんじゃなかったの?」

 再度呆れる愛利花に対し博仁は自分を指差し

「コーヒーは別だ。あれさえあれば3日は断食できるぜ?」

 と自慢げにアピールした。

「さっさと出て行きなさい」

 愛利花はそれだけ言って手をを振り払って彼を追い払う。

「香織、本当にお前は平気か?よかったらカロリーメイトぐらいなら持ってこれるぞ?」

「言ったでしょ?何も食べたくない。気持ちだけ受け取っておくわ」

 香織は苦い顔で再度否定しベッドに潜り込む。カーテンを閉めそれっきり出て来なかった。

「そうか・・・・・・まあ、明日を迎えれば自然と腹が減るだろう。じゃあな。いい夢見ろよお前ら」

 博仁は寝床に着く仲間を背中に去って行った。扉を閉ざす音がした。

「明日になっても食欲なんて出るわけないじゃない・・・・・・」

 薄暗く狭いスペースの中で香織はぼそっと愚痴を零した。冷たい布団を胸まで被り何もない天井を見上げる。そう早くは寝なかった。これからの展開を考え将来を想像する。

(さっきは強気になってあんな事言ったけど本当は恐くてしょうがないわ・・・・・・この先、私にはどんな運命が待ち受けているのかな?私は無事に家族を救えるの?もし途中で命を落としたら・・・・・・例え全ての復讐をやり遂げてもずっとこの組織の一員として生きて行かなきゃならない・・・・・・どこにも逃げ道のない永遠の地獄・・・・・・幸せだった過去の日々に戻れるなら何でするわ・・・・・・)

「片付け、終わりましたよ」

 カーテンの外から慎一の声がした。

「ご苦労様、あなたも休みなさい。皆、そろそろ電気を消すわよ。いい?」

 愛梨花が確認して寝室の灯りは消えた。

(心配しても何も変わらない。やるべき事は今日はもう眠って次に戦いに備えるだけよ)

 香織はそう自分に言い聞かせ静かに目蓋を閉ざした。


 夜の海底のような闇の中で私は浮かんでいる・・・・・・何も見えないけど恐くない・・・・・・不安も感じない・・・・・・深い眠気にいざなわれているけどまだ夢の中ではないようだ・・・・・・

 今日は1人の人間の命をまた奪ってしまった・・・・・・何よりも嫌がっていた殺人を再び犯した・・・・・・許されるなんて決して思ってはいない・・・・・・人を捨て、ただの悪魔と化した私を見たら家族はどう思うのだろうか・・・・・・

 それに あの子・・・・・・いや、あの子はもういない・・・・・・私のせいで犠牲になってしまった・・・・・・もう、その姿を見る事も触れる事もできない・・・・・・

 私の人生は壊れた・・・・・・1つの絶望によって、これ以上はないほどの崩壊を味わった・・・・・・すぐにでもやめたい・・・・・・死んで楽になりたい・・・・・・中途半端な人生だったが、これっぽっちも未練などない・・・・・・

 悩めば悩むほど、不安は膨らんでいく・・・・・疲れた・・・・・・苦しみも心地よさもない虚無の中へと沈んでいきたい・・・・・・今は全てがどうでもいい・・・・・・お休み、愚かな私・・・・・・

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.183 )
日時: 2019/12/22 09:27
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 どこかでピアノを奏でる音が聞こえる。まるで憎しみを具現化したような刺々しい音色だった。楽曲の構成は奇妙な物で終奏はなく序奏と間奏が繰り返し行われる。残酷、しかし美しくもあった名の知らぬ曲は止む事を知らず永遠に鳴り響いていた。

 そこは夜よりも薄暗く黒い水よりも陰気な空間。建物の瓦礫らしい無数の残骸が宙を舞いどこかへ飛び去って行く。それはやがて灰色の霧の中へと吸い込まれた。

 そんな寂しげな場所のある所に大きな岩が浮かんでいた。浮島にも見えるそこでは緑が生い茂、太い木が1本、真ん中にそびえ立っていた。その木陰に1人の香織がいてベッドの上で静かに眠っている。組んだ手を腹部の上に置きとても気持ちよさそうな表情だ。

「う・・・・・・ううん・・・・・・?」

 寒い感覚に気づいた香織は目を覚まし空虚な空を見上げる。辺りを見渡すといつの日か訪れた虚無の世界が広がっていた。

「あの時と同じ夢・・・・・・またこの世界に来てしまったみたいね・・・・・・」

 香織は目を擦り起き上がった。そしてベッドを降りふらふらと岩の道を歩き始める。

 滑ったら落ちてしまいそうな通路は遠くの果てまで続いていた。滑らかな道のりとは決して呼べない。そもその道と呼べるのかも怪しい。終点は見るに痛々しい氷柱を集めて作り上げたような城が見える。あそこまで行くには結構な時間が掛かるだろう。確信は出来なかったが香織にはあそこで何が待ち受けているのか予想がついていた。

「あ・・・・・・!」

 少し進んで香織は立ち止まった。何故なら先に道は見当たらず途中で途切れていたからだ。おそるおそる下を覗くと足場が見える・・・・・・が、降りたら確実に痛みが伴うだろう。だが彼女には嫌な予感が頭を過っていた。最後まで行かなければこの世界に取り残され永遠に出られないのでは?そんな不安に駆られた。

「飛び降りるしかないわね・・・・・・」

 香織は嫌々ながらも淵に座り崖に足を下ろす。そして間を開けて次に足場へと身を投げた。

「痛っ・・・・・・!」

 地面に足がつき思った通りの結果となった。下半身の痛みに耐え切れず仰向けに倒れ込む。

「いたた・・・・・・とりあえず1つ目はクリアね・・・・・・ゴールまでまだ遠いけど・・・・・・」

 辛そうな言い方で起き上がろうとした時だった。香織の目の前に黒い煙が漂い始めた。それはつむじ風のようにまわりながら一箇所に集まり瞬く間に人の形が作り上げられていく。そしてそんなに掛からない内に1人の人間を生み出した。

「!」

 現れたのは香織が最初に殺した零花だった。奴は嫌悪な眼差しで見下ろし近寄って来て

「"お前は人殺しだ香織!地獄に堕ちて苦しめっ!!"」

 指を指して罵声を浴びせる。

「何ですって!?あ、あんただって詩織を殺したじゃない!」

 香織は突然の態度展開に驚いたが負けずと言い返す。

「"私はただ金を貰っただけ、。お前と違って自分の手は汚してない!"」

「お前っ・・・・・・!」

 子供染みた言い訳に香織の理性が切れた。とっさに立ち上がり勢いよく殴り掛かったが、拳は当たらなかった。零花の身体が歪み元の煙となって消え去る。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・!」

 そこには必死に怒りを鎮める香織だけがいた。

「幻に怒ったってしょうがない。こいつはとうに死んでる。十分に地獄を味わわせてやったしね」

 気を取り直し改めて先へと足を運ぶ。


「"よくもあいつを殺したな!"」


「"伊織は友達だった!なのにあんな事しやがって!"」


「"ろくでなし!お前はクズ以下だ!伊織を返せ!"」


「"くたばれ!そして罪の報いを受けろ!"」


 次の足場へ移る度、煙が現れてはかつていじめをしていた同級生達の姿を象る。全員が憎しみを共通点とした態度で怒りの台詞を発した。どれもこれも吐き出されたのは伊織の事ばかり。香織は罵りの雨に心を痛めたが、全て無視した。

「・・・・・・」

 精神が押し潰されそうな複雑な道にもようやく終焉が迫る。香織のすぐ先には高く聳え立つ最果ての城があった。反対を振り返れば遠くに浮かぶ浮島、最早遠い過去のように感じた。

「やっとここまで辿り着いたわね・・・・・・いつまでもここにいたくない。早く行って終わらせましょう」

 香織は城内へ続く城の入り口に向き直りまた歩き始める。傷ついた胸に当てた手を下ろし落ち着いた素振りで中へ入り込んだ。

 そこは以前の玉座とは雰囲気がほぼ変わらない大きな一室だった。上品な豪邸の広間のように豪華な作りが施されてはいるが空虚な空気が漂っている。天井で揺れるシャンデリアも今にでも真上から落ちてきそうだ。ステージには1台のグランドピアノが置かれ手前には無数の観客席が並ぶ。どうやらコンサートホールを再現しているらしい。

 ピアノのを弾いているのは廃校で自爆して生涯を閉じた伊織。だが、楽しそうな面影はなく狂気に満ちた面様だった。彼女は鍵盤に指を力任せに叩きつけ音を奏でている。

 最前列の席に例の少女がいた。姿そのものが詩織に酷似した不可解な存在。灰色の修道服を身に纏い首にロザリオをぶら下げていた。その場を動こうともせず黙って怒り狂った彼女の演奏を赤い瞳でただ見つめていた。その美しい表情からはどこか哀れみを感じる。


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