複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.104 )
日時: 2019/01/24 19:40
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 暗い気分が晴れないまま眠りについてから目を覚ました。冷たい石の上で寝ている感触に気づき目蓋を開けるとそこは部屋ではなく見た事もない世界だった。薄暗く陰気な空間、夜よりも気味が悪い所に彼女はいた。立ち止まっていてもしょうがないので果てしなく見える岩の道を歩いていく。しばらく進み辿り着いた先は異様な玉座だった。

 彼女は驚愕した。何故なら玉座へと続く華麗なカーペットの線に合わせるように復讐の標的である同級生達が並んでいたからだ。彼女達は香織を睨んでいたが襲う気配がなく罵声すら浴びせずその場を動かない。殺意の眼差しに怯えながら卑劣ないじめを繰り返してきた人間の間を通り過ぎる。香織は玉座に向け顔を上げると再び驚愕した。座っていたのは親友の詩織だったからだ。彼女は修道服を身に纏い首にロザリオをぶら下げていた。つい最近殺したはずの流血に染まった零花を膝に寝かせ頭を撫でている。

 ・・・・・・何かが違う。目の前にいるのは本当に詩織なのか?姿は本人そのものだが妙に違和感を覚えた。いつもの優しさが少しも感じられず負に近いオーラを放っていた。まるで罪を犯した香織を許せずそのためにこの寂しげな世界に呼び寄せたみたいに・・・・・・

 彼女は赤い瞳で香織を睨みつけそっと口を開いた。


「どうして・・・・・・殺したの・・・・・・?」


 血の着いた手を安らかに眠っているような零花の死体から離し滴る血を香織に見せつけた。

「香織ちゃんはそんな人じゃなかった・・・・・・誰よりも人を傷つける苦しみを知っていたはずなのに・・・・・・」

「・・・・・・私は・・・・・・!」

 言葉が詰まる。重苦しい空気の中、あなたのためにやったなんて言えるはずもなかった。この世界は夢での中で現実でない事は分かっていたがそれでも恐かった。憎悪や復讐心で理性を壊されてもこんな事して天国にいる親友が喜んだりしないのは薄々分かっていた。だから深く失望して自分を考え直させるために・・・・・・

「確かに零花ちゃんは悪い事をした・・・・・・お金のためにみんなで寄ってたかって私に暴力をふるい・・・・・・男の人に犯させて殺した・・・・・・でも・・・・・・!」

 詩織は涙を流し訴えた。

「この子にだって家族がいる・・・・・・!友達だって仲間も・・・・・・!いつか自分の罪を悔いる日だって訪れていたかもしれない・・・・・・!それなのにあんな酷いやり方で殺すなんて・・・・・・!この子がどれほど痛かったか・・・・・・想像できる・・・・・・!?」

 後悔の念に駆られ香織も涙を流して"ごめんなさい"と言おうとした時

「許さない・・・・・・もう私にはあなたを好きでいる事ができない・・・・・・!」

「え・・・・・・?」

「あなたはもう友達じゃない・・・・・・人を殺す香織ちゃんなんていらない・・・・・・!」

「いやっ、そんなこと言わないで!もうあんな事しない!・・・・・・だからっ!!」

「・・・・・・さようなら・・・・・・」

 虚無そのものが崩壊する。玉座以外が砕け散り黒いだけの底に落ちた。空も星のない夜色に変わり絶望に染まっていく。息苦しくて・・・・・・寒い・・・・・・香織も割れ目の下へ引きずり込まれた。カーペットを掴んだがそれも無意味だった。布が破れ永遠よりも遠い地獄へと堕ちていった・・・・・・


 後味の悪い夢から覚めた後、涼しい空気を浴びるため靴を履き部屋を出る。居住エリアの室外は相変わらず静かで涼しい空気が立ち込めていた。やはりまだ夜なのか香織以外の人間は見当たらずただの廃墟のように誰も姿を現さない。それを好都合だと考え早速、羽を伸ばす。

「・・・・・・はあ〜・・・・・・」

 ゆっくりと息を吐き軽いストレッチを行う。運動不足でもないのに首を回したり身体を捻じってみると面白いくらいに骨の音が鳴り響いた。おそらく表現しがたいスリルを味わった会議や悪夢などのストレスが原因なのだろう。精神にダメージを伴うと肉体にも影響が出るとはよく言った正論である。

「・・・・・・!」

 突然、香織は何かに気づき動きを止める。空気が一変した直後、氷に触れたような寒気を感じた。そして背後で身に覚えのある足音が・・・・・・

「久しぶりだな、哀れな友よ」

 背後の影が言った。更に話を続ける。

「ようやく1人目の標的を葬ったわけだがなかなか楽しませてもらったぞ。両腕を斬り落とし血を吹き出しながら無抵抗に怯える相手を見下ろし最後は首をはねる・・・・・・悪くない芸術だ。素人にしては完璧に近くやり遂げたな。・・・・・・だが私の好意である『仮面』を忘れたのはいささか腹が立ったぞ?」

 男が香織が実行した復讐ゲームの序盤を個人的に評価する。満足したのかまだ物足りないのか何とも言えないが"まあいい"と満足げに鼻で笑う。彼女の隣まで三歩足を進め手すりに腰かけた。

「久しぶりね、ファントムさん」

 気が抜けた粗末な挨拶を返した。呼んだ男の方を見向きもせず無意味に正面の壁を眺める。命のやり取りが絡んだ修羅場を経験し過ぎてまともに驚けなかった。

「初めての人を殺めた気分はどうだ?エクスタシーは見出せたか?」

「真逆よ、最っ高に最悪な気分・・・・・・全然楽しくなんてなかったわ・・・・・・吐いたし」

 香織は人としてまともな答えを堂々と言い放った。

「暴力を嫌い『まとも』などという生き方に酔い痴れれば当然、人間の本性など満足に発揮できるはずもない」

 正論に対しファントムは平穏無事などつまらないと言わんばかりの論を述べる。それを理解するのは不可能に近い香織を紫色の妖々しい紫目で見下ろす。

「明日はもっと最悪よ。私達がしでかした違反行為を話し合う会議が開かれる。もしかしたら、下手をすれば死刑になるかも知れない・・・・・・」

「そいつはいい。お前が罵られながら極刑に処される所を見てみたいものだな」

「ちょっと、ふざけないで!」

 ファントムの闇の深いジョークに香織は当たり前に怒りを露にした。真剣に睨みつける女子高生を見て初めて声に出して笑う姿を見せた。静かで不気味な笑い声が崖の中の居住区に響いた。1分後に愉快な声は止んだ。ファントム自身も香織と同じように息を吐き身体の力を緩めた。久々に笑ったのかまだ愉快そうに笑みを浮かべている。

「再会を果たしていろいろ聞きたい事がまだたくさんあるけど最も言いたい質問をするわね?私の居場所の特定といいこの隠れ家に侵入したといいどうして零花の殺害パターンまで知ってるの?失礼な言い方かもしれないけどあなたって本当に人間?失礼だけど私にとってはそうは見えない」

 素直じゃない性格なのか誰しも気になる質問にはやはり教える事はなく

「私の正体に関してはいつか話そう。こう見えてもプライバシーというものを重んじる人格なのでな。少しは可愛く見えたか?」

「全然よ」

 香織ははっきり言い放った。

「前とさほど変わらない筋肉女子だ。まあいい、そろそろ本題に入るとするか。今日、お前の元を訪れたのは大事な話があるからだ」

「大事な話・・・・・・?」

 香織はこれで何度目なのか嫌な予感を感じた。想像もつかない展開を頭の中で思い浮かべ予想する。早速ファントムは坦々と口を開く。

「これはそう遠くない話になるが・・・・・・内容はお前がついさっき見た悪夢の事だ」

「人の夢の中まで覗けるの?覗き魔のレベル通り越してるわね・・・・・・」

 皮肉を無視してファントムは話を続ける。

「お前は薄暗く冷たい岩だけの世界の中で親友の森川詩織と出会った。覚えているだろう?」

「ええ、私に失望して最後は玉座ごと崩壊させて無よりも深い地獄へと落とした。それがどうかしたの?」

 思い出すのも嫌だったが詳しく頭の中の幻想を説明する。

「あれは『森川詩織』ではない」

 ファントムはそう呟いた。香織は大した反応を示さなかった。

「確かにあの子は詩織には見えなかったし雰囲気も大きく違っていた。ただ目が赤くて修道服とロザリオを・・・・・・でも、それのどこが大事な部分が・・・・・・?」

「あの女は実在する・・・・・・この現実世界にな」

「はあ!?」

「夢に入り込みお前を引き寄せた・・・・・・彼女はお前を狙っている」

 少し驚いたがそれだけだった。詩織に似た誰かが現実にどこかにいる時点でも信用が難しいのに自分を狙ってるなんてとても真剣には聞けるものではなかった。

「今まであなたの証言に偽りなんてなかった・・・・・・だけどそれだけは信じられないわ」

 すぐに冷静で否定的な言葉を返す。

「やはり無理があるか?」

 ファントムもはなから予想していたような言い方をした。

「ええ、まずあり得ない。夢の中に入り込んで宣戦布告するなんて今時そんな発想流行らないわ。仮にそれが事実だとしても詩織じゃないあの子はどうして私を狙うの?恨みもない人間を敵視する愚かな理由を教えてほしいわね」

 香織は興味どころか分かりやすい呆れた視線をファントムに向けた。聞き流す事に退屈を覚え無意識に錆びた手すりを指で叩き始めた。

「理由は私にも分からない。しかし彼女はいずれお前の前に姿を現すだろう。気をつけるべきだ、奴は私よりも遥かに強力な力を持っている」

 忠告か脅しか境界線が分からない口調で注意を促す。彼の顔は快楽殺人者らしくない少しばかり深刻そうな表情に変わっていた。

「一応頭の中にしまっておくわ。言いたい話はそれだけ?」

「以上だ、では私は立ち去らせてもらう。やらねばいけない仕事があるのでな」

「前にも同じような事言ってたけどあんた普段何して・・・・・・っ!」

 突然2人の背後から扉が開く音がした。香織は会話の途中でびくっと身体を震わせすぐさま振り向いた。部屋から出てきたのはメイフライで彼自身も開けた瞬間目に飛び込んだ香織を見て彼女と同じ素振りをした。

「あれ?香織さんも随分早いんですね?何してたんですか?」

「え・・・・・・?い、いえっ!ちょっと悪い夢見たからそれで・・・・・・」

 メイフライはひとまず納得したのか

「・・・・・・そうでしたか」

 香織は念のためまわりを見回したが既にファントムの姿はなかった。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.106 )
日時: 2019/12/22 08:04
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

参照数3000をとうとう越えました!
読者の皆様には本当に頭が上がりません。
この小説を始めてから1年と2ヶ月が経ちますが物語はまだまだこれからが見所です。

ここでこんな話をするのはどうかと思いますが私は最初から今みたいな文章をを書けたわけではありません。
他の熟練の方々が優しい評価と厳しい助言をしてくださった事で今の自分があり作品が進化を遂げたのです。

夏の大会で『銀賞』を受賞した事は今でも誇らしい気持ちで一杯です。
2016年の中でも最も忘れられない思い出でした。
このサイトの方々には今でも感謝しております。

冬の大会はちょっと怪しいですが(笑)
例え今回受賞出来なくても別に構いません。
私的には「こういう作品もあるんだ」と受け入れてもらえるだけで十分幸せです。

今年は奇想天外な出来事が山ほどありましたがその年ももうすぐ終わりますね。
私にとっては辛い事もありましたが最高の1年でした。
改めて本当にありがとうございました。

インフルエンザなどにかからないよう十分にお気を付けください。
ちなみにノロには『ラクトフェリン』が有効らしいです。

それではいい年末をお過ごしください。
マルキ・ド・サドでした。

                  Merry Christmas!

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.123 )
日時: 2017/03/22 08:47
名前: 宮小路たまき (ID: YD.TDOUy)
参照: ダークで書いてます

もっちゅもちゅカレ−ライスおいしいよ−

オバスノナリス!!


きえぇぇぇえいいい

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.161 )
日時: 2019/12/22 08:07
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 翌朝、組織の掟を破った3人は会議室には連れて行かれず、まずは寝室で並ばされた。香織の隣に落ち込んだ顔を俯かせるメイフライがいて、その隣には頬に痣ができた博仁がいる。愛利花が前に立ち、厳しい目つきで彼らを見下ろす。その様子を慎一と透子が不安を隠せない表情で見つめていた。

「気が進まないけど、ここでの反省会を始めるわ。それが済んだら、私はここの幹部にあなた達の不正を報告し、会議を開く。言いたい事や文句があるなら今のうちに吐き出しなさい」

「別に文句なんかねーよ・・・・・・」

 博仁は自分を殴った相手から目を逸らし、反抗的な態度を取る。

「また殴られたいの?」

 愛利花が鋭い脅しをかけ、博仁は何も言い返さなかった。

「やっぱり、処罰されるのは俺だけじゃだめですか!?香織さんは・・・・・・!」

「答えは否、どんなに綺麗事を並べても、私の意思は変わらない。昨日も言ったけど、会議には3人を首席させる。何か質問のある人は?」

 すると、香織はゆっくりと手を上げた。

「何?香織?」

「あの、皆さんに大事な話があります」

 そうはっきりと言った。

 先が読めない展開に香織を取り囲む人間達は何も言えなかった。互いに顔を合わせ短く言い合うとすぐに向き直った。とにかく、部屋にいる人間は話を聞く準備を整える。

「大事な話?」

「ある頼みを聞いてほしいんです」

「何だ?言ってみろ。場合によっては承諾できないかも知れないけど」

 愛利花も表情を合わせ、この先の返答を促す。香織はまず最初に静かに深呼吸して精神を落ち着かせると、おそるおそる発言を行う。

「詩織を殺した奴らに対する復讐を続けたいんですが・・・・・・」

 当然、その場にいた皆は無反応では済まなかった。こんな事、口にされるなんて信じられないと言った感じだ。間違いなく神経を疑われただろう。

「ははは、何だそんな事か。気持ちは分かるが、頭を縦に振る事はできないな」

 博仁だけは冷静な態度で即答した。

「香織、あの無断出撃で1番悪いのは俺だ。だから、そんなろくでなしが言う資格はないが、この事が幹部にバレたら罰ゲームでは済まないぞ?確実に俺達全員に死刑宣告が下る」

「そうですよ!また身勝手な行動を繰り返したら、絶対に殺されてしまいます!憎い奴を1人葬っただけでも幸運だったんだ!これ以上、危険過ぎる真似はやめましょう!」

 メイフライも強く訴えかける。

「あ、でも慎一や透子が吊るされても愛利花だけは助かるな。何たってここの司令官にとっては唯一の肉親だからな」

 博仁が隣を見て嫌みを口走る。

「うるさい!お前は黙れ!・・・・・・香織、やっぱりあなた戦場の事と言い病院の屋上で襲われた事と言い輸送任務で可笑しくなったのよ。今日はともかく明日になったら精神薬を飲んでもらうわ。これ以上メンタルが悪化する前にね。」

 香織の話に誰1人賛成の意見を唱える者はいなかった。予想した通り猛反対の言葉だけが返って来るだけだ。

「ばかばかしくて聞いてられないわ。幹部に連絡してすぐに会議の準備を始めるわ。あなたには厳しい音沙汰が必要ね」

 愛利花は不機嫌気味に香織の証言を真っ向から否定する。付き合ってられないと呆れ果てながら薬を取りに奥の棚へそそくさと足を進めた。ところがそれを妨害するように博仁が肩を掴んで引き止める。

「放して!私にはもうついて行けないわ。この子には反省の兆しが微塵も感じられない」

「どうせ会議にかけられるんだ。だったら最後の情けとして最後まで話を聞いてあげようじゃないか。お説教タイムはその後でも遅くはないだろ?」

 愛利花はすぐにでも嫌と言いたかったが、仕方なくその意見を承諾した。"はあ〜っ・・・・・・!"と長いため息をつき、腕を組むと

「さっさと言いたい事を言いなさい。私の気が変わる前にね」

「牢獄で絶望に沈んでいた時、ある人がやって来て私に復讐の機会を与えてくれたんです絶対に信じてくれないとは思いますが、その正体は・・・・・・ファントム・・・・・・」

「ファントム・・・・・・?・・・・・・!ちょっと待て!ファントムって、あのファントムか!?」

 思わず博仁はこれまた半信半疑の顔を浮かべ、聞き返した。慎一も驚愕混じりに

「ファントムと言えば、今この国を騒がせている連続殺人犯じゃないですか!無差別に100人以上もの人間を殺害し、警察は手掛かりすら掴めず、動機はおろか犯人の性別すら明らかにされなかった・・・・・・そのファントムなんですか!?」

「ええ、その通りです。彼が復讐を条件に私を牢獄から脱走させ・・・・・・そして、これを渡した・・・・・・」

 香織は仮面を少しの間眺めると、すぐに慎一に持たせる。不思議な事に嘘を言っているようには聞こえなかった。

「私は実際にそのシーンを見た訳じゃないから、とても信じられ・・・・・・」

「いや、香織の言っている事は偽りではないかもな・・・・・・」

 揺るぎない不信感を抱く愛利花の台詞の途中で博仁は口を挟んだ。彼はその根拠を語り始める。

「俺はBJからスカウトされた香織を救出するために刑務所へ向かった。本当は俺1人で警官になりすまして、こいつを逃がすはずだったんだ。だが、こいつは普通に刑務所から出て来やがった。まるで冤罪で捕まったのが嘘だったかのようにな。その時、手にしていたのがこの仮面だ」

「それって・・・・・・」

 さっきから、黙って話を耳にしていただけの透子も聞き捨てならないような表情を見せた。

「じゃあ、香織さんが言っている事は・・・・・・」

 メイフライが信じ切れない震えた声を出したその時だった。


「うわあっ!!?」


 慎一が突然、まるで幽霊を見たかのような叫びを上げ、背中から大きく倒れ込む。床に落とした仮面を怯えた様子で見下ろし、指を指しながら言葉を詰まらせた。

「おいおい、びっくりしたぜ・・・・・・!急にどうしたんだ!?」

「こ・・・・・・こここ・・・・・・これ・・・・・・やばいです!た、ただの仮面じゃ・・・・・・あ、ありませんっ!」

「・・・・・・何だってぇ?どういう事だ?」

 博仁は鼻で笑い、小馬鹿にした言い方で平常に仮面を拾うと、そっと顔の上部を覆い隠した。すると・・・・・・

「嘘だろ・・・・・・?何だよこれ!?」

 と驚愕の声を響かせ、慎一と全く同じ感情を露にする。あまりにも気味が悪かったのか、慌てて仮面を取り外した。

「一体、何が見えたんですか!?」

 今度はメイフライが手にして身に着けてみる。そして、やはり全く同じ反応を繰り返した。

「私にも貸して!」

 透子もおもちゃを欲しがる子供みたいに必死に装着者へ手を伸ばした。最後は愛利花が"まさか・・・・・・"と相変わらずの態度で顔を仮面で覆う。

「え・・・・・・何これ?・・・・・・こんなのあり得ないわ!」

 ファントムの仮面を顔から離すと全員が唖然とし、香織を見た。

「・・・・・・香織、お前・・・・・・凄い代物を貰ったもんだ・・・・・・」

「これまで生きてきた中で1番驚きましたよ・・・・・・しかし、俺達の目に見えたものは何だったんでしょう?」

 メイフライは半分落ち着きを失いながら、独り言のように聞いた。2本の指に顎を乗せ、博仁は自分なりに推測する。

「俺もすぐに外したから詳しくは言えんが・・・・・・お前らが視界に入った時、その人間のデータが見えた気がする。身体や精神の状態、そして経験した過去の内容など・・・・・・恐らくこれは人の全ての情報を覗き見る事ができる『スキャナー』なんだろう」

「あり得ない・・・・・・!だってこの仮面、目の部分にレンズすらないのよ!?今の科学でもこんなの作れないわ!」

 現実感を無視した代物に愛利花は納得できず、興奮混じりに騒いだ。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.163 )
日時: 2019/12/22 08:13
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「私も牢獄で全く同じ事を言いましたよ」

 香織は軽く笑うと、自分の私物を自慢するかのように説明を付け加えた。

「情報のスキャンだけじゃありません。赤外線機能や暗視機能、透視も可能です。ファントム曰くエディスの仮面と言うらしいです」

「これ1つで頭が混乱して・・・・・・現実と言うものが分からなくなりそうです」

 メイフライは仮面の仕組みに恐れ戦き無理に苦笑した。

「だが、この魔法の仮面のお陰で1つだけはっきりした。香織が話した事は紛れもない事実らしい・・・・・・こんなもんを見せられたんじゃ、信用せざるを得ないな・・・・・・」

「私の話した内容を認めてくれるんですね?じゃあ復讐の続行を許可してくれますか?」

 香織は期待を膨らませ再度問いかける。されど愛利花は懲りずに頭を縦には振らなかった。

「あなたの頭が正常なのは分かった。でもやっぱり頷けないものは頷けないわ。あなたの個人的な復讐には肯定できない。1人の身勝手の行動で組織全体が危険に晒されるのよ?私はここの司令官の娘、支部の安全を守る義務があるわ。それにさっきメイフライも言った通り、これ以上、掟を破り続けるなら極刑は避けられないわ」

「・・・・・・でも!」

「でも?・・・・・・透子、あなたも何か言いたい事があるの?なら遠慮しないで喋りなさい」

 透子は一度、息を飲み込むと

「香織さんは誰よりも好きだった親友を殺されたんですよ!?友達を失っただけじゃなく、その濡れ衣を着せられ幸せな日々さえも奪われて・・・・・・香織さんや詩織さんの家族だって、大切な親族を失って一生哀しみに暮れなくちゃいけない!・・・・・・それなのに、悪をやっつけるはずの私達が何もできないなんて・・・・・・そんなの理不尽過ぎます!」

 否定しかしない愛利花の服を引っ張り必死に訴える。

「そこが問題なんだ。確かに掟破りは重罪だが、たった1人の親友を殺された香織の復讐を邪魔をするのも、心がモヤモヤして気持ちが悪い。餅が肺に詰まった気分だ・・・・・・」

「でも、愛利花さんが正しいのも事実、1人の過ちが全体の連帯責任になってしまいますからね・・・・・・」

 メイフライも暗い面持ちで言った。

 それからは全員がだんまりを決め込んでしまった。なかなか満場一致のアイディアが閃かず、互いに困り果てた表情を見せ合った。誰も些細な意見すら挙げないまま、時間だけが過ぎていく。部屋は薄暗く不気味なくらいに静寂、時計の音だけが聞こえる。

 博仁は隣の人間の肩を指で突き何か案はないか?を目で伝えた。愛利花は険しい表情で彼を視界から外すと、どうしようもなさそうに頭を横に振る。メイフライも透子もこの件に関しては既にお手上げのようだ。答えが出ず、ずっとここで立ち尽くす中・・・・・・

「・・・・・・香織さん、復讐を再開しましょう」

 突然、誰かが淡々と言い放った。香織や彼女を取り囲む全員がはっと顔を上げ言った誰かに視線を浴びせる。声の正体は慎一だった。

「はあ!?何言ってるのよ!?あんたもイカレちゃったの!?」

 愛利花は愛利花らしい反応をし思わず彼の両肩を思いきり掴んだ。

「何故、あんたが賛成するのよ!?もしかしてこの子の情に流されて・・・・・・そんなのは完璧な偽善よ!あんたもここの一員らしく組織の掟に従い・・・・・・!」


「偽善なのはどっちだっ!!」


 普段は大人しい慎一が怒鳴り声を響かせた。予想外の出来事に不意を突かれ、今まで厳しい態度を保っていた愛利花は言葉が詰まり何も言えなかった。彼から手を放し、鋭い形相で睨まれながら後退りする。

「ブラックジョーク・・・・・・法律の力も役に立たず、神さえも手を下さない悪を駆逐する存在が俺達なんだ。犯罪に人生を壊された被害者の聲を聞き、彼らの恨みを晴らす・・・・・・ 金や掟に囚われ、本当に裁くべき人間を野放しにする方がよっぽどの偽善だ!」

「慎一さん・・・・・・」

 ただ隣で聞いていたメイフライもその熱意に胸を打たれた。それよりもいつも静かで引っ込み思案だった人間が、こんなにも深い人間性を秘めていた事に驚きを隠せなかったのだ。彼だけじゃない。博仁も透子も同じ気持ちを強く抱いていた。

「香織さん」

「は、はい・・・・・・!?」

 次に慎一は香織の方を向いた。表情を変えず真剣な口調で

「これは復讐ではなく、正義の戦いです。組織の掟と天秤にかける必要はない。香織さんの戦いは俺の戦い、喜んで協力します」

 そして、ようやく厳しい気を緩め、相好を崩した。

「おい、何2人だけでいい感じを作り出してるんだ?そう言う事なら俺も乗るぜ」

 博仁も心が晴れた、すっきりとした態度で慎一の隣に並んだ。

「俺も仲間に入れて下さい!いつか誰かのためになる本当の正義の戦いをしてみたかったんです!」

「私も手伝う!皆でやればきっと上手くいくよ!」

 メイフライも透子もためらいもなく同意した。

「あんた達、自分が何を言っているか理解してるの!?絶対にバレるわ!ここにいる全員が死刑よ!?」

 焦りを隠せない愛利花とは反対に博仁は実に冷静な態度で

「お前だって本当は嫌だったんじゃないのか?金を貰い、人を殺すだけの汚れた毎日が。心の奥底では誰かのために命を懸けたいと思ってたんだろ?」

「・・・・・・っ!」

「なんだ、図星か?お前も分かりやすい奴だな?少しはこの俺を見習い・・・・・・」

「うるさいっ!」

 愛利花は赤らめた顔を必死に覆い隠した。それを見ていた香織達は愉快に笑い出す。

「さてさて、埼玉のジャンヌ・ダルクこと、姫川香織の聖戦に参加する奴は5人集まった。あと1人、入ってくれればパーフェクトなんだがな〜?」

 そうわざとらしく言って、博仁は孤立した彼女を見た。

「・・・・・・」

「来いよ。一緒に戦おうぜ?」

 愛利花は両手の拳を力任せに地面に向けて振り下ろす。真っ赤になった顔を曝け出した。

「ああもうっ!分かったわよ!協力すればいいんでしょ!?やるわ!だけど、もし見つかったら私だけが罪を逃れるからねっ!?」

「よし!これで全員だな。今更、抜けたいって言っても無駄だぜ?決めた事は最後まで貫こう」

「でも、本当にバレないようにしないと大変ですよ?」

 メイフライが少し弱腰になる。

「心配無用、そこは何とかする。俺を誰だと思っているんだ?シールドチームのエースだぞ?」

「頼りないわね。信用できないわ」

「はっ、お前の父親でさえ、俺のカリスマで騙してみせるさ」

 話が丸く収まり一同はひとまず解散する事にした。最後に今までの会話は他の連中には絶対に内密にしろと言い聞かせる。メイフライ達はそれを心得ると一旦は解散し、それぞれのプライベートを満喫する。

「香織、ちょっといいか?」

「何?」

 博仁が去り際に香織に声をかける。彼はさっきまでとは違う別の表情で振り返った。。何か重要な事を伝えておきたいようだ。

「俺達はめでたく団結したが、忘れてはいけない。これは誰の戦いなのか分かっているな?」

 香織は迷わず返事を返した。

「言われなくても分かってるわ。力を貸してくれる皆のためにも絶対に負けられない」

「そうだな。だが、1番言いたかったのはそれじゃないんだ」

 博仁はこれからの予定を相談する。それは武器に関した内容だった。

「復讐をやり遂げたいのなら、刀を振り回すだけの侍のままじゃだめだ。銃の扱いも学ばなければならん。ちょうど、武器庫にショットガンとピストルが余ってる。お前なら、すぐに使いこなせるようになるだろう。一人前の兵士になるんだ。どうする?やるか?」

 香織は余裕そうに鼻で笑ってみせると

「私も毎日が剣道ばかりで飽き飽きしていたところよ。銃は嫌いだけど、使い慣れて損はないわね」

「決まりだな。今日は無理しないで1日休んでいろ。ただし、明日からは地獄だからな?」

 そう言い残して、博仁も部屋から去って行った。香織は見送りを終えると眠そうに口を開け、休息につく。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。