複雑・ファジー小説
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- ジャンヌ・ダルクの晩餐
- 日時: 2020/09/22 17:50
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
ボンジュール!マルキ・ド・サドです。
自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。
コメントやアドバイスは大いに感謝です。
悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。
私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)
タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。
【お知らせ】
小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!
・・・・・・お客様・・・・・・
銀竹様
風死様
藤尾F藤子様
ふわり様
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.265 )
- 日時: 2019/12/24 19:57
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
「どうやら、あいつらと関りがある人がもう1人いるみたいね」
意外な発言にも香織は大して驚かず、沈着冷静に言うと
「病院に閉じ込められていた頃、監視者の目を盗んで一度だけ逃げだしたの・・・・・・そうしたら、どこからともなく現れたあいつらの1人に捕まって・・・・・・呆気なく連れ戻された・・・・・・そして、酷く乱暴された・・・・・・」
「"どういう事だ?お前、あの連中と面識があるのか?"」
聞き捨てならない香織の囁きに博仁が関心を持つが
「何で知ってるかは説明しても信じてくれないだろうし、詮索はしないで。1つだけ教えてあげられる事があるとすれば、あいつらは人間とは全く別の生き物・・・・・・殺戮目的のためだけに生み出された魔物よ」
「"魔物だって・・・・・・?"」
現実と裏腹の証言に博仁は半信半疑に陥るが、メイフライは単純に信用を覆さなかった。
「つまり、閉鎖病棟でこいつを監視していたゾンビの仲間というわけですか」
メイフライが抱きつく由利子を無理矢理、引き剥がしながら言った。
「ええ、奴らは知能的で様々な手段で対象の殺害を図る・・・・・・まさか、現実世界にも実在していたなんて・・・・・・」
「"とにかく、普通の人間が敵う相手じゃないんだね?どうする?諦めて隠れ家に帰る?"」
姫川が引っ込み思案になって、退く事を案に出すが
「いいえ。せっかくここまで来たのに、おめおめと逃げ戻るなんて嫌よ。魔物と言っても、私達が殺せない相手じゃないわ。こっちにも武器があるんだし、あれくらいに人数だったら倒せる可能性もなくはないかも」
「"人間の武器が通用する相手なんだろうな?不死の化け物じゃないと断言できる根拠は?"」
博仁が不安だけが勝った問いを投げかける。
「殺した事があるからよ。身体能力は高いけど、肉体そのものは生身に人間と同じ。斬れば赤い血が出るし、心臓を刺せば死ぬ。私はメイフライさんとこっち側を無力化するから、反対は姫川と上手くやって?由利子はここでお留守番、安全になるまでそうしてなさい」
「"待て。先走るな。衝動的にならず、まずは俺と姫川で敵の出方を窺わせてほしい"」
「了解。とりあえず、場所を変えるから攻撃の準備ができ次第、合図を送って」
香織は一旦、無線でのやり取りを打ち切りるとエディスの仮面を顔に被せた。メイフライを隣に置き、使徒がいる横側へと回り込む。由利子は自分を残して距離を伸ばす2人を草むらの隙間から眺めていた。一方、狙撃班は緑地に紛れ、狙撃の準備に取りかかる。
「魔物の人数は全部で6人、煙突付近の2人に真逆の茂みにも2人・・・・・・残りは建物の入り口に陣取ってやがる」
「しかし、こんな近距離から対物ライフルを撃つのか・・・・・・胸がもやもやしてしょうがない・・・・・・」
複雑な違和感とも言える妙な気分に姫川が唇を平たくする。
「気持ちの悪さには同情するがメリットがないわけじゃない。標的との距離が狭いなら、風向きを気にしなくて済む」
「・・・・・・だね。誰から撃つ?」
「1発の弾丸で2体同時に仕留めたいが、この位置からでは望めない願望だ。面倒だが、1人ずつ仕留めていくしかない。どうにかして奴らを孤立させる必要がある」
「できるの?」
「任せておけ」
博仁は単刀直入に即答し、狙撃ポイントを外れる。姫川から数メートル離れた位置に移動すると、何かを手に掴んで建物の周辺に投げつけた。アーチ状に宙を舞った投擲物は地面に当たり、甲高い音を鳴らす。
「っ!?」
音が耳に届いた使徒達は形相を変え、無意識に同じ個所へ注目した。男が同胞の女に、ここに留まるよう身振りで指示し、銃を抜いて調査に出向く。
「"片方を上手く誘い出せたぞ。女の方を先に撃て"」
姫川は吸い込んだ空気を肺に溜め、集中力を高めるとライフルを固定し、狙いを安定させた。スコープの照準を標的に合わせ、引き金を引く。近距離で発射された50口径の弾丸は一瞬より速い音速のスピードで女に命中した。みぞおちを貫通し、そこから広がるように肉や骨が砕けて散乱する。全身の原型が消え、血溜まりだけが残った。
仲間の死も、スコープに捉えられている事も知る由もない男は博仁が投げた異物を拾い上げ、手の平に乗せる。じっくり眺めてみると、その正体は傷1つない美しい硬貨だった。
「銀貨・・・・・・?」
その囁きを最後に頭が粉々に弾け飛んだ。
「クリア。こっちが先に制圧しておいたぞ」
博仁が吉報を伝え、姫川が一時気を緩めて呼吸を再開した。
「"了解、こっちも静かに行く"」
香織は左の腰に差していた日本刀のグリップを握り、長い刀身を鞘から抜く。メイフライも短刀を抜刀した。2人は峠を滑り、姿を欺くのに草木の影に身を隠す。多葉植物を隔てて使徒が2人、無防備に背中を晒していた。
「ちっ・・・・・・どうして俺達が見張り番をしなくちゃならないんだ。こんなとこに立ち入る人間なんていねえよ。退屈過ぎておかしくなりそうだ」
飽き飽きとする役職に使徒の男が不満をぼやく。隣にいた女使徒は威厳のある態度で説教を垂れる。
「文句を言うな。私達はここに"保管されている物"を守る義務がある。こうした重要な任務に任命されたのだ。名誉ある事だと誇らんか」
熱意を伝えても、使途の男はやる気を奮い立たせず
「ちなみに周様はここに何を隠しているんだ?かなり大切な物なんだろ?」
「さあな?私も詳しい内容までは聞かされていない。とにかく、やるべき事に集中しろ。精鋭らしく振る舞・・・・・・がっ!?」
堅苦しい教訓は途切れ、口から吐き出たのは言葉ではなく、大量の血。急な激痛に襲われた女使徒は"何が起こったのか?"と言わんばかりの苦し気な面持ちを作り、短い唸りを繰り返しながら胸元を見下ろすと、長い刀身に心臓を貫かれていた。
予想だにしていなかった不意打ちに慌てふためく暇をも与えず、メイフライはもう1人の叫びと身動きを封じて、喉に短刀を鍔が当たる深さまで突き刺す。使徒の男は強引に首を回し、自身を襲った犯人であるメイフライを睨んだ。やがて眼光の色は衰え、抵抗する力も失った横暴な手は真下にぶら下がる。
「こっちも無力化したわ。後は建物の出入り口に奴らだけね」
「"ご苦労、たまには俺も実戦に参加するか。1人は俺が狩る。恐縮だが、片方を手伝ってくれ"」
博仁は建物の壁にくっつき、玄関を覗く。足元にあった拳ほどの石を拾い、大胆に身を晒すと
「おい」
と堂々と呼びかけ、見張りの注意を引いた。
「ぐごっ・・・・・・!」
顔面につぶてがめり込んだ使徒は顔を覆って蹲った。一気に接近し蹴り倒すと、馬乗りになってナイフや胸や腹を滅多刺しにする。使徒が同胞を救おうと剣を抜いたが、反対からの斬撃により頭部を瞬く間にはねられた。首のない死体が武器を落とし、ふらふらと崩れ落ちる。
「これでクリアだ」
博仁が達成感のある言い方をして、肌にべっとりと付着した返り血を服で拭う。メイフライも敵の全滅に安堵し、ひとまずは短刀を手放した。
「早速、この建物を調べましょう。仮面の能力で透視したけど、生命反応はなかった。でも、一応気を配った方がいいわね」
「同感だ。この立派な別荘自体が"トラップホーム"の可能性は十分にあるしな。姫川、問題は片付いたんだ。スコープでのバードウォッチングに明け暮れてないで、とっとと集合しろ」
「"了解了解"」
「メイフライ。他人を使い走りにする趣味はないんだが、あの病人を連れて来てくれないか?万が一のための身代わりにしてやる」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.266 )
- 日時: 2020/01/06 20:34
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
扉を開き、5人が内側を覗く。中は薄暗いためか、狭いはずの廊下がどこまでも永遠に続いているような、奇怪な錯覚を生む。一度入ったら闇に手を掴まれ、永遠に閉じ込められてしまいそうな・・・・・・そんな悍ましい気がしてならなかった。
博仁は由利子を先頭に歩かせ、自身はその後ろに続く。短い廊下を渡り、両脇に部屋が点在する通路の前でひとまずは足音を止めた。
「こりゃ、隠れ家と言うより別荘と呼んだ方が正確かも知れないな。山地ではこういった建物があるのは珍しくない」
「だとしても変だな。車の窓から景色を眺めていたけど、この山には湖とかキャンプ場とか、観光として利用できる場所は見当たらなかった。霧のせいで見えなかっただけかも知れないけどね・・・・・・周はどうして、こんな未開の地とも言える所に別荘を構えたんだろう?」
姫川が個人的な不可解な部分を誰にでもなく問いかけ、メイフライが"さあな"とだけ返事をする。
「犯罪者が好むような悪趣味なデザインを施しているのかと思ってたけれど・・・・・・実際は案外、普通の家なのね」
香織は壁に手を触れ、特に珍しくもない廊下を交互に見渡す。ふと、彼女の視界の範囲に首を垂れ、浅く蹲る由利子が映った。かつて、周と過ごしていたトラウマに苛まれているのだろうと大して気にも留めなかったが、念のため身を案じる。
「由利子、大丈夫・・・・・・?」
「普通じゃない・・・・・・」
「え?」
「この家は狂ってる・・・・・・部屋には入りたくない・・・・・・」
由利子は全身に寒気を伴い、歯をがちゃがちゃと震わせる。
「部屋に入りたくないって、どういう事だよ?」
メイフライが機嫌を損ねた口調で理由を尋ねるが
「入れば分かるよ・・・・・・」
そ れだけ告げると由利子は沈黙し、何も教えようとはしなかった。
「はっきりしない奴だな・・・・・・まあいい。メイフライと姫川は左側の部屋を調べてくれ。俺と香織、あと、こいつもついでに右側を覗く」
「了解。何か気になる物を見つけたら、すぐに知らせて下さい。姫川、お前は奥の方を頼む」
「はいはい、仰せのままに。あ〜もう、これだけ狭いとライフルが邪魔でしょうがないな・・・・・・」
2人を捜索に向かわせ、香織と博仁は手前の室内へと踏み込んだ。しかし、部屋に顔を出した瞬間、足の動きは止まり表情は冷え固まる。そして、由利子が言った"入れば分かるよ・・・・・・"の意味を即座に理解した。目の当たりにした光景に流石の博仁も苦い顔を作れずにはいられなかった。愕然とした香織も口を覆い、その場に立ち尽くす。
大量の絵画が展示会のように置かれていた。描かれた内容はどれも鬼畜そのものを表現している。血だらけの姿で犯されている女の絵、手足を切断され犬に臓器を貪られた女の絵、目隠しをされたまま解剖されている女の絵、顔半分が腐り、蛆がたかった女の絵、眼球を抉り抜かれている女の絵。
それよりも遥かに残酷な描写もいくつも存在した。猟奇的で精神に異常をきたした者でなければ描けないであろう代物ばかりだ。
「こいつは・・・・・・ピカソ顔負けの美術館だな・・・・・・いかん、ずっと眺めているだけで吐き気が・・・・・・うぇっ・・・・・・」
嘔吐の兆候が表れた博仁は絵画から視線を逸らし、額に手を当てる。
「狂ってる・・・・・・頭がおかしいとしか言えない。こんなのを好き好んで描いているなんて、神経を疑うわ・・・・・・」
「そこが前に話していたリビング・・・・・・周が私とお茶やお菓子を食べたとこ・・・・・・」
由利子は絵の世界が目に触れるのを避けるため、部屋の外で詳細を語った。
「死体安置所よりたちが悪いマッドネスルームでティータイムと洒落込むとは・・・・・・うぇぇ・・・・・・も、もう出よう。鬱になりそうだ」
「私も頭痛がしてきた・・・・・・」
不快感が堪えリビングを後にすると、ちょうどそこへメイフライと姫川が合流した。2人も健全な顔色を失い、さっきまでの平静の面影はない。
「この家は悪魔の別荘です!俺が立ち入った部屋には人間の物と思われる臓器や脳、眼球が大量に保管されていました!」
「こっちは本物の人間で作られた若い女の剥製がたくさん、コレクションのように並んでいた。ホラー映画によく出てくるシリアルキラーの秘密基地だ。こんなにやばい狂気スポットが日本にあるなんて・・・・・・しかも、僕達はリアルにその中心部にいる・・・・・・信じられないよ・・・・・・」
「言いたい事は色々あるが1つだけはっきりしたのは・・・・・・周は女を家畜、あるいは玩具の材料という価値観でしか捉えられない正真正銘のサイコ野郎だったわけだ。想像していた人物像より遥かに酷え。22年生きて来て、大勢の狂人と出くわしてきたが・・・・・・これほどの鬼畜はいなかった。現実世界にもジェイソンはいるんだな」
博仁は周の存在自体に対して、好き放題に誹謗中傷を吐き捨てる。
「この別荘はまともな人間がいていい場所じゃない!数分で理性が病んでしまいます!脳が半分、壊死そうだ!」
メイフライもこの環境に留まるのはとても耐えられない様子だ。
「残念ながら香織のかつての日常を奪った事件の黒幕はいなかったようだね。奴の悪趣味を通り越したコレクション以外、特に気にかかる物はなかったよ・・・・・・ただ・・・・・・」
「ただ・・・・・・?」
姫川の違和感を漂わせる語尾が香織の関心を引く。
「この廊下の先に"謎の開かずの間"があったんだ。開けようとしたんだけど・・・・・・鍵がかけられていて入れなかった。僕のライフルを使えば、壊せるかも知れないけど・・・・・・」
「やめておけ。恐らく、そこは生身の女を芸術作品に変えるための地獄の作業場だ。おい、頼むぜ?こっちは冗談抜きでこの別荘を去りたいんだが?さっき食べた朝食をお前らの前でぶちまける醜態をさらしたくない」
博仁はこれ以上の詮索を中止すべきだという意見を皆に勧めさせた。正気が衰えていくメイフライも一刻も早く、狂った環境から遠ざかる事を優先する。
「姫川?その開かない扉は廊下の奥にあるのよね?」
しかし、香織は帰る選択肢を選ばず、好奇心を掻き立てた。
「マジかよ・・・・・・香織。実はお前、こういった世界観にそそられるのか?そんな一面があったとは驚きだ」
提案を受け入れられず、いらいらしだした博仁の皮肉に香織はむきにならず、冷静に対応した。
「違うわ。多分、その部屋に"探していた答え"がある・・・・・・」
その聞き捨てならない発言に男3人は怪訝になり、由利子は首を傾げる。そのうちの1人が問いかけようとした矢先、香織は早々とそこへ向かう。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.267 )
- 日時: 2020/01/17 21:32
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
姫川が偶然目にした開かずの間は黒い鉄板の扉だった。中心には現代社会では実用されていないような古臭い鍵穴があり、取っ手はない。メイフライは手の平を平らで冷たい鉄壁を上下に撫で下ろす。短刀の切っ先で叩くと甲高い音がして、グリップを握った拳に弱い衝撃が刃を通して伝わった。
「この部屋には入ってないの?」
香織が念のために聞いてみると
「うん、前から気になってはいたけど・・・・・・恐くて聞けなかった・・・・・・」
由利子は、くよくよと縮こまって、相変わらず当てにならない答えを返すばかりだ。
「叩いた音からして、この扉は相当分厚いな・・・・・・あくまでも推測だが、爆薬を使っても破壊は困難だろう。個人的には取っ手のない所が妙に気になるが・・・・・・」
「それって、僕のライフルでも壊せないって事?本当だったら、まるで要塞の装甲だね」
博仁と姫川が真面目な理屈を述べ合う。破壊が通用しない為す術なしに2人は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「壊せないんじゃ、入れませんね。建物は一帯はもう十分に捜索したんだ。いい加減、帰りましょう」
嫌気が限界に上り詰めていくメイフライが、1人で外に出ようと列から離れようとするが
「待て。俺にはもう1つ、気になる事がある。香織、さっきお前が言った"探していた答え"とはなんだ?この中に何があるのか知っているのか?」
博仁が問いに香織は黙って首を横に振った。
「この先に何があるのか、私にも想像がつかない。でも・・・・・・」
香織は台詞を一通り話す事なく、ポーチからじゃらじゃらと錆びついたネックレスチェーンを抜き、それに繋がれた古い鍵を宙にぶら下げた。鍵の頭には埋め込まれた緑の宝石が妖しい輝きを放つ。それは1ヶ月前、香織が楓を殺す当日の前夜に隠れ家に姿を現したファントムから貰った代物だ。
「なんだそりゃ・・・・・・?随分と立派なアンティークをお持ちだな?先祖代々伝わる、姫川家の家宝か?」
「・・・・・・え?もしかして、それで鍵が鉄の扉を開けられたりして・・・・・・!?」
「待って下さい!何で香織さんがそんな物、持ってるんですか!?一体、どこで!?」
「1から10まで詳しく教えるのは面倒だから、種明かしは後回しにさせてくれない?とにかく、これを試してみる・・・・・・ここで合っていれば、開くはずよ・・・・・・」
香織は浴びせられる質問攻めを聞き流し、やるべき事に専念する。博仁達を下がらせ、自身が前に出ると鉄の扉と対面した。手の平に乗せたアンティークキーを少しだけ眺め、きっとした顔を上げる。差し込むと鍵は鍵穴にぴったりとはまり、ストッパーの深さまで刺さった。右向きに回した直後、かちっとシリンダーが回転し、開錠の音が鳴る。
その直後、扉は時間をかけて中心に隙間を作り、二手に分かれて開いた。まるで映画のワンシーンに出てくる古代遺跡の仕掛けように。開かずの間は封印が解かれ先へと続く道へと繋げた。内側から流れ込んで来るひんやりとした空気、足元の階段が下へと真っ暗な闇の底へと伸びている。
「信じられない・・・・・・本当に開くなんてね・・・・・・あは・・・・・・あはは・・・・・・」
奇想天外な展開について行けず、姫川が意思とは関係ない作り笑いをした。
「見ろ。この先はどうやら、地下へと続いてるようだな・・・・・・ますます、嫌な予感がしてきた。おい、由利子。お前が先に行け」
「い、いや、行きたくない・・・・・・!やめて・・・・・・!」
博仁は嫌がる由利子の両腕を掴み、強引に前列につかせ段差に上がらせる。
「待って、この子じゃ心許ないわ。私が先に降りる」
「・・・・・・しつこいが、罠かも知れんぞ?」
心遣いのある忠告に対し、香織は最初からそれを想定しているかのように頷くと、再びエディスの仮面をはめた。
「私には暗闇への対策がある。病人を下手に行かせるよりは、ずっといいと思うわ。由利子は姫川と一緒に来ればいい」
「ぐすっ・・・・・・ありがとう、香織ちゃん・・・・・・」
自信を庇った事を悟り、由利子は半泣きになりながら謝意を示す。仮面の下で香織は微笑み、背中を反対に翻すと暗闇の底へと沈んで消えた。
段差を慎重に踏み、下階に降りると足元が平らになり、そこにまた1つの扉があった。木製で取っ手が付いた違和感のないまともな開き戸だ。板の上部に掛札があるが、得体の知れない文字で読めない。
「おいおい・・・・・・また扉かよ・・・・・・何か、おちょくられてる感じがするのは俺だけか?」
懐中電灯を片手に、博仁がやる気のない声でぼやいた。
「こういうの、ドラマとかで見た事ない?ほら、扉を開けたらまた扉で、開けても開けても無限に続いて・・・・・・いてっ!?」
姫川の子供染みた冒険心に呆れたメイフライが彼の肩を軽くどついた。睨んだ顔を振り返らせる狙撃手の横を素通りし、列を抜かす。
「こりゃ、なんだ?英語じゃないのは分かるが、ラテン語とも違う・・・・・・どこかの古代語なのか?誰か、読める奴はいるか?」
博仁は書かれた文字に釘付けになり眉をひそめる。当然、返って来たのは"分からない"を雰囲気だけで伝える沈黙だけだ。異質な道具を用いた1人を除いては・・・・・・
「"宝物・・・・・・庫・・・・・・"」
「え?香織ちゃん・・・・・・読めるの・・・・・・?」
由利子が少し疑いを抱いて尋ねると
「仮面のスキャンが文字を解読してくれた。多分、間違ってはいない。ここは何か重要な物を保管している・・・・・・おかしいわね。透視機能が全く効果を成さない・・・・・・」
「宝物庫か・・・・・・ここを潜った先にある物が、俺の予想を裏切る物である事を祈ろう。皆、武器を手に取れ。何が待ち受けているか分からないからな」
BJのメンバーは銃器を構え、扉を挟む両脇の壁に背を預ける。香織が取っ手を回し、ゆっくりと扉を開くと彼女とメイフライは顔だけを内側に覗かせた。
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.268 )
- 日時: 2020/01/30 21:14
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
そこは例えるなら、何世紀も前に作られた古く、小さな礼拝堂。部屋は円形の形状をしており、壁、床、天井、一面が壁画となっていた。少女の肖像画が横二列にずらりと並び、部屋を1周するようにで飾られている。溶けかけた蝋燭に火が灯され、薄暗く辺りを照らす4つのシャンデリアの中心にベッドに酷似した台があり、被せられた赤い布が膨らむ。正面の奥にも祭壇らしき物が見えるが同じく布で覆われ、詳細を上手く把握できなかった。
至る方向に銃を向け、警戒しながら部屋に踏み入る香織達。厳しく気を配るが脅威がない事を確認すると、とりあえず緊張を緩め、一旦は銃口を床へ下ろした。
「奇妙な所だな・・・・・・上階の恐怖フロアといい、このオカルト的な地下といい、周はどんな趣味をしてるんだ?」
「これ全部、周の芸術作品にされた人達なのかな?・・・・・・凄く、気持ち悪い。何か、生きてるみたいだし、侵入者の僕達を睨んでる気が・・・・・・」
博仁が単純に思った感想を述べ、姫川が身を竦める。
「周は宗教にも興味があるんですかね?」
メイフライの曖昧な分析に対し
「どうだろうな?狂気的な人材に限って、宗教絡みのオカルトにのめり込むイメージが強いが・・・・・・何とも言えんな」
由利子も初めて訪れる未知の場所に物珍しさを隠せなかった。自身の手が届く範囲にあった肖像画の1つにおそるおそる、触れようとした矢先
「触るなっ!」
不意に博仁の怒鳴られ、、びくっ!とその手を引っ込ませる。
「とにかく、香織さんの言う"答え"を早く探し出しましょう」
「そうね。私もここには長居したくない。まずはどこから調べましょうか?」
香織が誰を重視するわけでもなく、周りに意見を求める。博仁は礼拝堂の気になった部分を観察し
「当てにならない勘だが、肖像画に秘密があるとは考えにくい。やはり怪しいのは中心にある台と奥にある祭壇だな。どちらを先に調べたい?」
「じゃあ、まずは台を調べるわ」
「決まりだな。なら、布を退かせ。援護するから、気が変わらないうちにさっさと済ませろ」
万が一に備え、銃を構える博仁とメイフライ。香織は声を殺し、慎重に台の上に手を伸ばした。秘せられた得体の知れない存在を探ろうとする行為に心臓が激しく脈打つ。死体、罠、最悪な展開が意思を無視して脳裏に浮かぶ。しかし、香織は恐れに抗い、布を掴んで躊躇なく引き離した。覆っていた物がずれ、台の上に乗っていた正体が明らかになった時、全員の表情が変わる。
「こ、これは・・・・・・」
台の上には1人の女が横たわっていた。後頭部が長く結われたボサボサの白い髪、胸に赤いリボンを締め、シャツの上にジャケットを羽織っている。美しい肌と精悍な顔を持ち、背が高く脚が長い。卑劣にも頭上へと強引に伸ばされた両手首は縛られ、拘束されていたのだ。女は目をつぶり、安らかな表情のまま動かない。
「随分と美しい肌をしているな。外国人か?」
日本人とは異なる容姿に博仁は顎に手を乗せ、女の顔を客観的に見る。
「嫌な言い方だけど、この人は周の芸術作品の材料になる前の・・・・・・?」
姫川が言って
「多分な・・・・・・」
メイフライが生返事を返した。
「これが、香織ちゃんの求めていた答え・・・・・・?」
由利子に問いかけられても、香織は肯定する兆しはなかった。
「分からない・・・・・・でも、この人・・・・・・"どこかで会ったような"・・・・・・不思議と"懐かしい"感じがする・・・・・・」
その謎めいた発言に香織以外の人間は怪訝な顔を互いに見合わせる。彼女の手が女の肌に触れ、その魅了の面持ちがはっと我に返った。
「・・・・・・この人、まだ生きているわ!」
「何だって・・・・・・!?」
博仁は深刻な形相を浮かべ、半信半疑で女の首に手を当てた。微かだが、血の巡りと脈の感触が指に伝わる。
「マジかよ・・・・・・まだ息があるぞ!」
「俺が拘束を解きます!姫川!お前、応急処置はできるか!?」
「問題ない!医療に関しては少しは知識がある!」
「私はどうしたら・・・・・・!?」
香織も人溜まりに加わり、助力を申し出るが
「お前に医療の心得なんてないだろ?言い方は悪いが、邪魔はしないでくれ。負傷者の介護は経験者に任せて、お前はさっさと答えを探せ」
メイフライが銃を収め、代わりに短刀を鞘から抜く。縄に刀身を喰い込ませ、のこぎり代わりに裂いて拘束から解放した。手首に深い痕が残った腕を胴体の隣に置くと、姫川が身体の容態を確かめる。
「意識は喪失している・・・・・・目立った外傷は見当たらず、肉体的な暴力を受けた形跡もない。だけど、呼吸は浅く、体温はほとんど感じられないな。体に異常はなくても精神に深いダメージを負ってるかも・・・・・・」
詳しい分析を聞く度、博仁は頷く。ついでに"こいつは助かりそうか"と尋ねるが
「何とも言えない。だけど、酷く弱っている可能性は否定できない。とにかく、あまり体には負担をかけない方がいい」
「要するに危険な状態と言うわけか?」
判断に困った時、誰かの唸りが耳に届く。女が口を開き、首を傾けたのだ。姫川を強引に下がらせ、博仁が代わりにその位置に身を移す。少し乱暴に胴体を揺すり、頬を優しく叩きながら
「おい!あんた!きこえるか!?しっかりしろ!」
と必死に強く呼びかけると
「う・・・・・・うう・・・・・・」
女は再び眠そうに唸って、閉ざしていた目蓋をそっと開いた。細めがやがて広がり、つぶらな瞳が天井とこちらを見下ろす博仁達を映し出す。その角膜は血珀のように紅い。
「大丈夫か!?俺の言ってる事、理解できるか!?」
「あ、あなた方は・・・・・・?」
女は自身を挟んで立つ彼らを交互に見つめ、問いかける。
「安心しろ。俺達は敵じゃない。味方とも名乗れないが、この別荘の住人と違って少なくとも女を解剖したりはしない」
女は最初、無言となり偽りを疑い警戒したかに見えた。しかし、敵意のない気配を認識したのか、礼儀正しく謝意を示す。
「・・・・・・感謝します・・・・・・何とお礼を申し上げればよいか・・・・・・」
「異性に感謝されるのは嬉しいが、礼なら状況が安全になった後に言ってくれ。とにかく、あんたをここから連れ出して安全な場所まで連れて行く。1人で歩けるか?」
「え、待って下さい!もしかして、この人をも隠れ家に連れ帰るつもりですか!?愛利花さんが黙っていませんよ!?」
メイフライはこれまで何度も繰り返してきた身勝手な行為に反論を唱えた。リスクを考慮し、別の提案を持ちかけるが
「この女の顔は周に顔を知られてる。街に逃がしたとしても、追われてすぐに捕まる。そうなったら、今度こそ丁寧に殺されるぞ?俺もせっかく救った命を台無しにはしたくない。更に理屈を付け足せば、この令嬢が香織の探していた物じゃないとも限らんしな。愛利花に関しては心配するな。今までのように、俺が上手く説得しておく」
- Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.269 )
- 日時: 2020/02/11 18:29
- 名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)
香織はそんな彼らを背に礼拝堂の最奥部へ移動する。祭壇の近くへと歩み寄り、閉館した劇場の幕らしく垂れ下がる赤い布を見上げる。由利子も彼女と同じ凝視する個所を眺め、ふらふらと傍に寄りつく。2人はすぐには事を起こさず、詳細を分析し難い物体を眺める。
「ここには何が隠されているのかな・・・・・・?」
「さあ、見当もつかないわ」
由利子が聞いて、香織がおもむろに答える。
「考えていても時間の無駄よ。とにかく、こっちの方の布も退かして調べてみる」
「私も手伝う・・・・・・」
香織と由利子は互いに反対の端を掴むとタイミングを合わせ、力一杯に手前へと引く。壁から外れた布は、ばさっ!となびいたマントのように真下へとずれ落ちた。囚われの女に次ぐ第二の秘密が暴かれる。
隠秘が解かれ、姿を現した祭壇。細長い台の上には花が添えられ、銀細工の置物の間に小さな宝箱があった。それを捧げるように上にはまわりの物とは異なる一際大きな肖像画がこちらを見下ろす。
「え・・・・・・」
その絵画が目に触れた途端、香織は感情を奪われ絶句した。釘付けになった視線、まるで幻に誘われたその表情は無となり、我を忘れる。無意識に口から零れ落ちた言葉は
「嘘・・・・・・でしょ・・・・・・?」
「香織ちゃん?どうしたの・・・・・・?」
香織の様子が急に豹変した事に由利子は顔をしかめる。
「皆、来てっ!早くっ!!」
彼女の過剰な慌てぶりと必死の叫びに女を除く全員が敏速に振り返った。
「姫川。恐縮だが、この女を頼む」
「え?ちょっと!」
ただならぬ声に招かれ、博仁とメイフライは姫川に女の看護を任せて急ぎ礼拝堂に駆けつける。
「一体、どうしたんだ?探し物はあったのか?」
博仁は少しばかり期待を寄せたが、香織はそれどころじゃないと言わんばかりに肯定しなかった。何も喋ろうとはせず、指を差して肖像画に関心を寄せさせる。不思議に思いながらも、言う通りにした彼らも直後に唖然とした。
「冗談だろ・・・・・・?」
そして、最初の目撃者と言い方が違うだけで意味が合う事を言った。
「これって・・・・・・"透子"ちゃん・・・・・・?」
肖像画に映し出された温和に微笑むおっとりとした少女。その人物には身に覚えどころか、それ以上の縁があった。容姿、顔、年齢、全てがあまりにも一致していたのだ。知っている者なら、誰が確認しても本人だと証言するだろう。
「そ、そんなっ・・・・・・あり得ない!何でこんな場所に透子ちゃんの絵があるんだよっ!?」
理性が崩れ去ったメイフライは興奮状態に陥り、目前の現実そのものを否定、逃避した。博仁が宥めるが、彼はその手を振り払い、尚も乱心する。一月経っても落ち着く兆しが芽生えそうもない勢いだ。
「どういう事なんだ?何故、周の隠れ家に透子の絵がある?」
博仁は腕を組み、普段よりも生真面目になりながら肖像画を睨んだ。
「これが本人で間違いないなら、透子ちゃんと周の関係性は否定できないね。ここにいると退屈しないな」
そこへ姫川も加わり、更に個人的な理論を付け足す。
「周と関わった女はこの別荘が証明している通り、全員が殺されてる・・・・・・だけど、透子ちゃんだけは例外だ。特に大事に飾られてるこの肖像画から推測して、奴に重要視されている事は容易に説明がつくよ。この子だけは殺されずに生かされている・・・・・・こんな最悪な推測はしたくないけど・・・・・・透子ちゃんが周の手先、もしくは近親者の可能性も視野に入れる必要がある・・・・・・」
その発言にメイフライは逆上した。姫川に飛び掛かり、胸倉を掴むと首に圧迫感を与え、強引に身体を揺さぶる。怯えた顔面に怒り狂った顔面をうんと近づけ、凄まじい剣幕で怒鳴った。
「ふざけんじゃねえ!!あの子が周の家族なわけないだろ!!ふざけた事ばかり抜かしているとお前を先に殺すぞっ!!」
香織と博仁が重苦しい事態に割って入り、絡まった2人を無理矢理引き離した。姫川は潰されかけた喉を押さえながら、俯いて激しく咳を吐き散らす。
「仲間割れしてもしょうがないわ!メイフライさんもまずは落ち着いて下さい!姫川の推理はあくまでも1つの説に過ぎない!まだ、透子ちゃんが周の手先だと決まったわけではないわ!ここは感情の高ぶりを鎮めて冷静になって!」
香織は何とか皆をまとめさせると、正確な推理を始めるため、透子の詳しい経緯を聞き出した。
「博仁さん。私は組織に入って1年も経たない。だから、透子ちゃんの事に関してほとんど知らない事だらけだわ。ちなみにあの子はいつからBJにいるの?」
アリバイを聞かれ、納得した博仁は"なるほどな"と素直に相手が知りたい事を話した。
「お前が組織に加入した時には透子は既にいた。あいつがBJの元へやって来たのは1年前だ。ちょうどお前が来た頃と月日が重なるな・・・・・・周が関係している証拠にはならんが、あいつにはいくつか謎があってな」
「謎?」
香織は更に探求すると
「透子はお前と違って、組織の勧誘を受け連れて来られたわけじゃないんだ。昨年、ガレージで車両のメンテナンスに明け暮れていた俺は外に不審者がいるという報告を聞かされて、偵察に出向いたんだ。そうしたら隠れ家の出入り口付近にあいつがいて、1人で泣いていたんだよ」
目蓋を大きく、疑問と驚愕を両方抱く香織に博仁は続きを語り出す。
「驚くのも無理はないな。最初は気味が悪くて仕方なかったし、正直幽霊が出たんじゃないかって本気で思ってしまったよ。誰も踏み入れない樹海のど真ん中で子供が1人でいたんだからな。誰がどんな理由で連れて来たのかは分からない。最初は森に捨てられた子供だと思ったんだが、多分違う。あそこは普通の人間が簡単に立ち入れる地帯ではない」
「それでどうなったの?」
「俺は透子を隠れ家に招き入れ、事情聴取をした。どうして、あの場所にいたのか?どうやってここまで来れたのか、色々と問いただしたんだ。だが、返ってきた答えはほとんどが"分からない"の一言だった。あの子には隠れ家に行き着いたまでの以前の記憶がなかったんだよ。唯一、覚えていたのは優しい両親がいたというだけで、他の事は今に至っても思い出せずにいる」
「・・・・・・」
「俺は上層部の許可を得て透子を組織の一員とし、寝る場所を提供した。部屋で偶然知り合ったメイフライに懐いて親しくなり現在に至る。これが身寄りのない哀れな少女の物語の全てだ」
「透子ちゃんにそんな過去があったなんて・・・・・・」
話を一通り語り終えた博仁。香織は知られざる過去を知り、その奇怪極まりない内容に今すぐには言葉を放つ事ができなかった。彼女の唖然の形に固まった面持ちが緩んだのは、少しばかりの沈黙の時間が流れた後だった。
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