複雑・ファジー小説

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ジャンヌ・ダルクの晩餐
日時: 2020/09/22 17:50
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww
こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。
私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。

コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。

私は小説が不器用なので全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


【お知らせ】

小説カキコ大会2016年夏では銀賞を受賞させていただきました!
更に2018年夏の大会では銅賞を受賞!
これも皆様の温かいエールの賜物です!本当にありがとうございました!


・・・・・・お客様・・・・・・

銀竹様

風死様

藤尾F藤子様

ふわり様

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.250 )
日時: 2019/07/03 22:04
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・」

 寂しい病室のベッドの上に由利子がいた。驚くわけでもなく、恐がる様子もなく、沈黙しながら俯いている。まるで既に息がない死体のように、全く反応を示さない。

「久しぶりね。由利子」

 香織が殺意がこもった鋭い声で話を持ち掛ける。すると、由利子は背筋の骨を痛々しく鳴らし、ゆっくりと頭を上げた。視界に映ったのは、かつて学園生活を共にした頃の面影がない醜い表情だ。目から光が消え、肌白い顔は酷くやつれている。今までの標的達とは異なり反抗的な意はなく、救済を求めているような・・・・・・

 変わり果てた同級生の素顔に香織は絶句した。血の気が引き、全身に寒気が走る。そして、憎いはずの相手に対し、哀れみを感じてしまった。

「久しぶりだね・・・・・・香織ちゃん・・・・・・」

 ようやく口を開き、今にも途切れそうな声を出す由利子。笑顔を繕っているつもりなのだろうが、相好を崩しているようにはとても見えない。

「私を、殺しに来たんだよね・・・・・・?」

「ええ、よく知ってるじゃない」

 香織は感情を押し殺し、容赦なく皮肉を吐き捨てる。

「分かるよ・・・・・・?だってある人が教えてくれたんだから・・・・・・」

「ある人って誰?」

「あなたに・・・・・・復讐のチャンスを与えてくれた人・・・・・・」

「そう・・・・・・」

 その誰かの正体を察した香織は何を思ったのか、マリアの銃口を下ろした。

「メイフライさん、お願いがあるの。ちょっとだけ、この事2人で話をさせてくれませんか?」

「え・・・・・・香織さん・・・・・・!?」

「ほんの少しだけでいいんです」

 困惑したメイフライだったが、真剣にこちらを凝視する香織を信用する事とした。彼もまた、しぶしぶと頷き銃を下ろすと

「香織さんがどうしてもと言うのなら・・・・・・!俺は部屋の外にいます。異変を感じたらすぐに戻って来ますので」

 メイフライは心配した表情を向き直らせ、病室から立ち去っていく。扉が閉まり、部屋には香織と由利子が残される。互いに視線を合わせる2人きりの空間は重苦しい空気が漂う。

「全てが狂ったあの日から、もう数ヶ月が経つんだね・・・・・・香織ちゃんはその間、どう過ごしてた・・・・・・?」

 最初に由利子が問いかける。

「詩織を殺した濡れ衣を着せられ捕まってから、警察の取り調べで暴行されたり、裁判で無期懲役の判決を言い渡されたり散々な思いを味わったわ。その後、ファントムと出会い牢獄を脱走した私は復讐のために自分を陥れた犯人を殺して回った・・・・・・その他にも色々あったわね」

「そう・・・・・・なんだ・・・・・・」

「あなたの方こそ、随分とやつれたわね?黒かった髪も真白に染まってしまって・・・・・・まるで別人みたいよ」

「私も香織ちゃんと同じ・・・・・・色々あったからね・・・・・・」

 由利子は話を短くまとめ、無理に口角を上げる。作り笑いをした途端、気持ち悪そうに口を覆い、嘔吐に近い咳を吐き出す。

「大丈夫?」

「・・・・・・げほっ!・・・・・・う、うん・・・・・・平気・・・・・・」

「しかし、まさかあなたがファントムと知り合いだったなんて予想すらしてなかったわ」

 香織が大して驚きのない態度で言い放つと

「うん・・・・・・たまに黒い花を買ってきてくれるの・・・・・・変な人だけど、優してくれる・・・・・・でも、あの人がここを訪れる事は二度とないよ・・・・・・だって、香織ちゃんが私を殺しに来たんだから・・・・・・」

「そうね。私もつまらない話はここまでにしたいわ」

 香織はマリアの銃口の狙いを再び由利子に定める。引き金に指をかけ、抵抗もままならない病人を睨んだ。

「わざわざここに足を運んだのはお見舞いのためじゃない。詩織を殺し、私をはめた奴に対する復讐のため。由利子、次はあんたがあの世に行く番よ」

 由利子の反応は無に等しかった。恐怖でベッドから転げ落ちて床を這いつくばるどころか、その場を動こうともせず、ただ目の前の殺意に微笑む。

「私を殺すの・・・・・・?今までそうしてきたみたいに・・・・・・」

「ええ、命乞いだけなら聞いてあげるわ」

 肯定の返事を耳にした途端、由利子は初めて幸福に満ちた明るい笑顔を繕う。

「いいよ・・・・・・私を殺して・・・・・・」

 その一言に香織の表情は固まる。一瞬、自分の耳を疑った。

「逃げも隠れもしない・・・・・・だから・・・・・・私を殺してほしいの・・・・・・」

「あなた・・・・・・死ぬのが恐くないの?」

 気を許さず香織が問いかけると、由利子の笑いを含んだ顔が崩れ、彼女は急に泣き出した。不安定な感情に苛まれ、涙で顔をぐしょぐしょにしながら

「うう、ぐすっ・・・・・・私ね・・・・・・もう、生きていたくないの・・・・・・死んでこんな人生終わりにしたい・・・・・・!」

 身も心も病んだ人間にこんな迫真の演技ができるはずがない。本当に死を望んでいるのだと、香織は確信した。同時に今まで手にかけた奴らとは違い、何の手立てもなく異例な要求をしてきた事に胸が詰まる。そして、心から自分が犯した過ちを悔やんでいる事も・・・・・・

「ぐすっ・・・・・・えぐっ・・・・・・あれから、ずっと後悔してた・・・・・・したくもない、いじめをやらされて・・・・・・えぐっ・・・・・・殺人に加担して・・・・・・香織ちゃんを陥れて・・・・・・ぐすっ・・・・・・!」

「由利子・・・・・・」

「私・・・・・・詩織ちゃんがいたから救われたの・・・・・・」

「・・・・・・何ですって・・・・・・?あなた、詩織と面識があったの?」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.251 )
日時: 2019/07/23 19:15
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 香織にとって、その事実は知らなかった。聞き捨てならない告白に強い関心を抱く。抱え込んでいた辛さを打ち明けた由利子は、少しだけ落ち着きを取り戻し

「ぐすっ・・・・・・幼い頃から内気な性格で・・・・・・人と関わるのが苦手だった私は学校に行っても、友達なんかできなかった・・・・・・いつも教室の片隅で読書を繰り返すばかりで・・・・・・1人で過ごすのには慣れていたけど・・・・・・やっぱり、孤独は寂しかった・・・・・・」

「・・・・・・」

「そんな時、詩織ちゃんが私に話しかけてくれたの・・・・・・あの子も読書が好きで面白い本をたくさん紹介してくれた・・・・・・それ以来、私達は親しくなって・・・・・・毎日、お互いの好きな物や憧れている人の事とかを教え合った・・・・・・嬉しかった・・・・・・友達がいるってこんなにも温かくて・・・・・・こんなにも幸せな気持ちになれたんだから・・・・・・それなのに・・・・・・!」

 語尾の台詞と共に再び由利子の表情が曇る。

「私は詩織ちゃんを裏切ってしまった・・・・・・いじめっ子に逆らえなくて、あの子を屋上に誘い込んだの・・・・・・乱暴されて、無理矢理犯されるあの子の姿を・・・・・・私は扉の隙間から覗いていた・・・・・・でも、恐くて助けられなかった・・・・・・後で詩織ちゃんが死んだと知らされた時は・・・・・・自分を呪ったよ・・・・・・私は親友だけじゃなく、自分の生き甲斐さえも失って・・・・・・」

「それであなたは心を病んで・・・・・・」

「香織ちゃんと詩織ちゃんがいなくなった後、皆は次に私をいじめの標的に選んだ・・・・・・良心の呵責と虐げられるストレスが原因で私は倒れた・・・・・・病院で診察を受けたら重度の鬱病だと診断されてね・・・・・・罰が当たったんだと思ったよ・・・・・・だって、償っても償いきれない罪を犯してしまったんだから・・・・・・」

 背負った十字架の重さに耐えられず、由利子はまた不幸な感情を露にしてしまう。顔を覆う形で頭を抱え、深く俯いて苦しそうに唸り続けた。香織はそんな彼女を何も言わずに視界に留めていた。

「ぐすっ・・・・・・だからお願い・・・・・・私を・・・・・・殺して・・・・・・」

 由利子は必死に最後の望みに縋った。

「このまま生かしておいた方が、あなたをより苦しめられるかも知れないわね」

 香織は冷静沈着に冷酷な提案を述べる。

「いや、行かないで・・・・・・もう限界なの・・・・・・病気や罪の意識に苛まれながら・・・・・・こんな牢獄みたいな病室で孤独に生き永らえるなんて・・・・・・耐えられないよ・・・・・・!」

「・・・・・・冗談よ。私もあなたを生かす気なんてないわ。そんなに死にたいなら喜んで殺してあげる」

 香織は由利子の髪を鷲掴みにし、強引に頭を上げさせると彼女の額にマリアを突きつけ、引き金を・・・・・・引かなかった。

「どうして・・・・・・撃たないの・・・・・・?」

 期待が外れた事に不安がる由利子に

「あなたの脳天を撃ち抜く前に聞きたい事がある。詩織を殺した張本人を教えてくれない?」

「え・・・・・・?詩織ちゃんを殺した張本人・・・・・・」

 その問いに由利子の眼差しが更に不安の形に変貌する。

「冬美が死ぬ直前、あなたがそいつの事を知っていると証言したわ。名前は楪智祐・・・・・・そいつについて、詳しく説明してほしいの」

「い、いや・・・・・・!いやっ!お願い殺して!私を殺してぇ!」

 突然、さっきまで無気力で静かだった由利子が冷静さを失い、パニックに陥った。何かに怯えているのか、頭を強く抱えながらベッドの上でのた打ち回る。全身の激痛に悶えるように凄まじく発狂した。

「やだ・・・・・・どうしたの・・・・・・!?落ち着きなさいよ」

 暴れる由利子を身柄を必死に押さえつける。病気でやせ細った人間とは思えない凄い力だ。香織の言葉が、何かしらのトラウマを呼び覚ましてしまったのだろうか?

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!」

 動きを封じても尚、由利子は手がつけられないほどに暴れ狂った。拘束を解こうと、立てた爪が皮膚に食い込み、引っ掻かれた傷から血が滲む。香織は歯を食いしばって、皮を剥がれる痛みに耐える。

「嫌だ!"あんな所"にはもう行きたくないっ!」

「お、落ち着きなさい・・・・・・うう、大丈夫だからっ・・・・・・!」

「行きたくない!あんなのは二度と見たくない!・・・・・・いやああああ!」

 息つく暇もなく発狂を繰り返し、悲鳴を上げる由利子。その時だった。

「・・・・・・びふっ!?」

 パン!と乾いた音を耳にした由利子は頬に痛感を感じ取った。乱心に水を差され、強制的に顔を向きを横に逸らされる。最初は何が起こったのか理解が追いつかず、無意識に痛みに走った部分を手でなぞった。ゆっくりと正面を向き直ると、手の甲を肩に寄せた香織がこちらを睨む。

「あんたねえ・・・・・・本当にそんなんでいいの?」

「え・・・・・・?」

 今度は香織が由利子の肩に指先を強く喰い込ませると、怒った顔をうんと近づけ

「私は復讐の欲を抑えきれず、クラスメイトを殺して回った正真正銘のクズ・・・・・・でも、私からすればあなたも相当な卑怯者よ」

「私が・・・・・・卑怯者・・・・・・?」

「ええ、そうよ。自分1人じゃ何もできない卑怯者よ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.252 )
日時: 2019/07/23 19:18
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 由利子は反論の機会すら与えられず、香織の怒りに流されるまま

「あんたは自分に甘えてんのよ。自分の力だけで戦うのが恐いから、何でもかんでも言いなりになって。そして、自分がしでかした過ちに嫌気が差したから、死んで楽になりたいって・・・・・・ふざけんなっ」

「わ、私は・・・・・・」

「わ、私は・・・・・・じゃない。悔しくないの?そんな情けない自分が?」

自分の弱さを指摘され、由利子はむっとしたのか一瞬だけ香織に睨み返す。だが、すぐに曇った面持ちを作り、根暗な顔を逸らしてしまう。しかし、多少は共感しているのか、微かに恥ずかしさを隠しているかにも見えた。

「孤独のあんたに手を差し伸べ、幸せを与えてくれた詩織を裏切ってしまったんでしょ?だったら、その罪を償おうという発想は浮かばないの?本当に死にたいなら、せめて最期を迎える前に正しい事をするべきよ」

「詩織ちゃんを・・・・・・裏切った罪を償う・・・・・・」

 香織は勢いを緩めず、拍車をかける。

「その心にまだ良心が残ってるなら、鬼畜としてではなく人間として死になさい」

「どうすれば・・・・・・天国にいる詩織ちゃんに・・・・・・"ごめんね"を・・・・・・言えるかな・・・・・・?」

 由利子は再び、香織の方へ視線を移し答えを求めた。

「簡単よ。あんたのやるべき事は1つだけ・・・・・・詩織を殺した張本人、あんた達の背後にいる黒幕の正体を教えるだけでいい。素直に従ってくれれば、私はここであなたに対して引き金を引く」

「言えば殺してくれるんだ・・・・・・だけど、ごめんなさい・・・・・・やっぱり、教えられない・・・・・・」

「はあ?何でよ・・・・・・?ちゃんとした理由を話してくれる?」

 声を震わせ、再び恐れ戦き始める由利子の情緒不安定な性格に呆れ果てる。舌打ちし、髪をくしゃくしゃに掻き回した。

「私は・・・・・・冬美ちゃんが言った通り、事件の真犯人を知っている・・・・・・でも、それは絶対に口にしてはいけないの・・・・・・」

「・・・・・・どういう事?詳しく説明してくれない?」

「だって私・・・・・・"監視"されてるから・・・・・・!」

 香織はぽかんとした顔を傾げ、念のため回りを見回す。病院には由利子を除いては誰もいなかった。この場所にいるのは3人。それ以外の何者かが潜み、こちらを見張っている気配はない。だが、不自然な事に由利子が嘘を証言しているようには思えなかった。

「監視されてる・・・・・・?」

 由利子はだんだんと膨らんでいく恐怖に身を縮こませ

「詩織ちゃんが殺された後、その男の人は次に私を気に入って誘ってきた・・・・・・断りたかったけど・・・・・・詩織ちゃんと同じ目に遭わされるのが嫌だったから・・・・・・従うしかなかった・・・・・・その人の家に行った事もあるし・・・・・・本名だって知ってる・・・・・・でも、付き合っていくうちに・・・・・・その人のとんでもない秘密を知ってしまったの・・・・・・」

「・・・・・・ようやく気になっていた点がはっきりしたわ。私も実のところ、最初から不自然さを感じていた。病気のあなたを入院させるなら、設備が整った普通の病院でもいいのに、何でわざわざこんな牢獄みたいな所にあなたを放り込んだわけが」

 不可解な謎が解け、納得する香織。由利子は3回頷いて、改めて続きの内容を話す。

「あの男に言われたの・・・・・・自分の事を他の誰かに口外したら・・・・・・お前の目をくりぬき、生きたまま解剖するって・・・・・・私は必死になって、絶対に誰にも言わないと約束した・・・・・・でも、信用されなかったらしくて・・・・・・秘密を漏らさないように・・・・・・この病院に私を監禁した・・・・・・」

「可愛そうね・・・・・・で、どうしてもそいつの詳細を喋らないつもり?」

 香織が同情するわけでもなく、おもむろに問いかけると

「うん・・・・・・誰だって、残忍な殺されたくはないでしょ・・・・・・?」

「そう・・・・・・」

 断固黙秘する由利子に香織の返答はそれだけだった。ベッドに放り投げたマリアを拾い、相手を撃たずにホルスターに収める。何を思ったのか、ベッドの布団を掴んで大雑把にずらし

「1人で歩ける?」

 と手短に聞いた。

「え・・・・・・?何をするつもりなの・・・・・・?」

 不可解な行動に困惑する由利子の言葉を無視し、もう一度、同じ台詞を繰り返す。

「自分1人の力で歩ける?」

「あの・・・・・・意味が分からない・・・・・・私を殺してくれないの・・・・・・?」

「可能なら、すぐにでもあの世へ送ってやりたいくらいよ。けど、あんたを殺すわけにはいかなくなった。ここがあの男に監視されてるなら、そいつの魔の手が届かない安全な所まで連れて行く。必要な情報を吐かずに死ぬなんて困るわ。知ってる情報を全部喋ってもらうまで、絶対に死なせないから」

 由利子は肯定とは真逆に、何度も首を横に激しく振った。

「だめ・・・・・・あの男からは決して逃げられない・・・・・・!だって、あの男は・・・・・・!」

「詳細は後で聞くわ。早くベッドから降りなさい」

 由利子は嫌々ながら言われた通りに動こうとするが、病魔に侵された体は本人の意思に従わなかった。起き上がろうと試みた直後にバランスを崩し、全身がベッドから転げ落ちる。彼女は相当弱っているらしく、歩くどころか平常に立っていられる事さえも困難な状態だ。

「仕方がない。あまり気が進まないけど、こうするしかないわね」

 香織は傍に寄り、痛がる由利子を両腕で抱き上げた。自分と大差ない背丈のはずだが、肉がないのか体重は力のない人間が抱えていられるほど軽い。

「香織ちゃん・・・・・・ぐすっ・・・・・・」

「しっかりしなさい。あんたには、大事な役目がたくさん残ってる。まずはここから逃げましょう。約束を果たしたら、お望み通り殺してあげるわ」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.253 )
日時: 2019/07/28 20:49
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

 香織は病室の出口の方へ行き、両手が使えないので蹴りを入れて扉を強引に開く。部屋を出ると突然の衝撃音に驚き、こちらへ警戒するメイフライがいた。

「何だ・・・・・・香織さんでしたか。急に大きな音がしたから標的が逃げ出したのかと思い、つい身構えてしまいましたよ・・・・・・って、香織さん、どうして由利子を腕に抱えているんですか?殺したんじゃ・・・・・・」

「大事な理由ができてしまい、由利子をここで殺すわけにはいかなくなったんです。私はこの子を隠れ家に連れて行くつもりよ」

 流石のメイフライもこれには香織の正気を疑わずにはいられなかった。誰もが口にしてしまうだろう否定意見を淡々と浴びせる。

「この女があなたの大切な親友を奪った人間だというのを忘れたんですか!?これじゃ、わざわざ復讐に出向いた意味がない!狙撃の腕が立つ姫川ならともかく、こんな弱り果てた病人なんて役に立たないし、隠れ家に連れ帰っても結局は殺処分になるだけですよ!メリットなんかないんです!」

 すると、外で待機している博仁も無線を通じて横槍を入れる。

「"悪いが香織、その提案は認められないな。復讐劇の主人公はお前だ。そのはずのお前が復讐を破棄したら俺達が協力する意味もなくなる。親友を手にかけた連中を残らず根絶やしにすると誓ったんじゃなかったのか?"」

「確かにハイリスクだけど、メリットがないわけじゃないわ。由利子は楪との関係が深く、奴の詳細を誰よりも知ってる。それに誰も殺さないとは言ってない。知りたい情報を全て聞き出したら、息の根を止める。必ずね・・・・・・」

 姫川もスコープ越しに香織を凝視し、彼女の身勝手な行為に反発する。

「"博仁とメイフライの意見に僕も賛成だ。僕や静流を組織に入れただけでも立場が危うくなりかけたのに、これ以上面倒を増やせば流石に上も黙ってないと思う。尋問なら、ここでやっても別にいいでしょ?どうして、わざわざ病院から連れ出す必要があるの?"」

 香織に焦りはないものの、緊張感のある口調で

「ここは『監視』されているからよ。とにかく、今からそっちに行くわ。いつでも車を出せる準備をしていて」

 香織がそう要求した途端、不可解な異変が起こった。狙撃のためにずらしていた廊下全体のカーテンが突如、独りでに閉じ窓からの景色を遮ったのだ。陰気で薄暗いだけの世界が豹変し、異質な空間を作り出す。

「!」 「!?」

「おい、どうした!?急にカーテ・・・・・・ザザッ・・・・・・しまっ・・・・・・か・・・・・・ガガガ・・・・・・かお・・・・・・ザザ・・・・・・」

「これは一体・・・・・・博仁さん聞こえますか!?どうぞ!」

 メイフライは不具合を起こした無線に声をかけるが、応答がない。2人は怪奇現象に身を引き締め、銃の引き金に指をかける。

「恐い・・・・・・恐いよ・・・・・・」

 由利子は香織に抱きついて離れない。さっきよりも震えが激しくなり、廊下に視線をやるのを酷く拒んだ。

「何が起こってるの・・・・・・?」

「奴らが・・・・・・奴らが襲ってくる・・・・・・」

「奴ら?由利子、そもそもあんたを見張ってる奴らって何者なの?」

 香織が率直に問いかけた時


「うう〜・・・・・・」


 どこからか、誰かの唸り声が耳に伝わった。間もなく生を捨てる断末魔のようにも聞き取れる。

「あ・・・・・・ああ〜・・・・・・」

「うぅ〜・・・・・・」

「ええ〜・・・・・・え・・・・・・え・・・・・・」

 声の数は増え、他の病室の扉が開いた。由利子を見張る監視者が次々とその姿を現す。彼らは一見すると患者衣を着た人間だが、様子がかなりおかしい。肌は緑に変色し、滅多刺しにされたかのように全身が血に塗れ、目や鼻、口からも赤い体液を垂れ流していた。全員が包丁や鉄パイプなどの凶器を手に、ふらふらと近づいてくる。

「何だよこいつら・・・・・・」

 メイフライが露骨に顔をしかめ、銃口の狙いを奴らに定める。

「おかしい・・・・・・エディスの仮面を使っても、生命反応は探知されなかった・・・・・・こいつら、ただの人間じゃない!」

「いや・・・・・・いやあああ!!」

 由利子は香織に一層強くしがみつき、騒ぎ出した。

「由利子、お願いだから暴れないで!大丈夫、あんただけは何があっても死なせない」

「どうします!?姫川の援護がない以上、俺達だけで包囲を突破するしか・・・・・・!」

 メイフライは苦渋な横顔を振り返らせ、香織に言った。

「メイフライさんは正面をお願いします!私は反対側を一掃しますので!」

「そんな姿勢で戦えるんですか!?俺が代わりに援護を・・・・・・!」

「心配しないで下さい。私ってこう見えても力持ちだし、この状態でもちゃんと撃てます」

 香織の余裕の表情をメイフライは信用したのか、大きく頷き

「もし、苦戦を強いられたら俺に言って下さい!すぐに助けますので!」

「ええええ・・・・・・!」

 監視者の群れが一斉に凶器を振りかざし、3人に襲う。香織とメイフライは互いに背を預け、銃を発泡した。

「ぐぇあ・・・・・・!」

 4発の銃弾を喰らい、先頭にいた監視者が倒れた。致命傷を負って痙攣するそいつを踏みつけ、そろぞろと新手が距離を縮める。メイフライも正確に急所を狙い、1発だけ引き金を引いた。銃弾は間違いなく、心臓に命中したはず・・・・・・ところが、相手は反動でのけ反っただけで痛手を負った様子はない。

「どうして死なないんだよ!?ゾンビか!?」

「くっ・・・・・・!」

 香織は全弾を撃ち尽くしてしまう。スライドが後退したマリアから空の弾倉を落とすと膝で由利子の腰を支え、ポーチから新たな弾倉を取って装填する。メイフライも撃ってリロードを繰り返し、銃声を絶えず響かせる。彼が陣取る廊下側の方が監視者の数が多い。どんなに攻撃しても奴らは退くどころか徐々に間合いを詰めてくるのだ。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【大改造中】 ( No.254 )
日時: 2019/08/04 20:28
名前: マルキ・ド・サド (ID: FWNZhYRN)

「・・・・・・うわっ!」

 接近を許してしまい、監視者が鉄パイプで殴りかかる。メイフライは間一髪、その一撃をかわして銃口を向けるも、その手を掴まれた。だが、抗いをやめる事はなく、封じられていない片手を短刀に伸ばし、鞘から抜いて相手の喉に突き刺す。

「メイフライさん!そっちは大丈夫ですか!?」

「だめです!こっちは数が多くてきりがない!そっちの状況は!?」

「まだ2人残ってます!」

 メイフライは舌打ちし、すでに絶命ばかりの監視者から短刀を抜き取ると、迫ってきたもう1体を蹴り飛ばした。まだ数多い群れを食い止めるのを諦め、香織の側にいる残りを撃って仕留める。

「香織さん後退しましょう!一旦、十分な距離を置いて2人で迎え撃つんです!弾はまだありますか!?」

「あっちに行ったら、追い詰められてしまいます!余計、不利になるだけですよ!?」

「奴らに捕まったら、それこそ一巻の終わりだ!ここは少しでも間を開けるべきです!」

 メイフライは香織の肩を押すと先に廊下の奥へ行かせ、自身も引き下がった。残弾が僅かとなった弾倉を捨て、新たな弾倉を込める。

「あいつら、撃っても撃っても倒れない!弱点はないんですか!?」

 香織が弾を連射しながら隣に叫ぶ。

「あいつらは心臓を破壊しても効果がない!頭部を撃って下さい!多分、そこが弱点だ!」

 2人は発砲を続け、4人の監視者を倒したが残りはまだ10人近くもいる。奴らは先が読めない妙な動きをするため、なかなかエイムを合わせられない。それに加えて戦いづらい姿勢のうえ、腕の中で由利子が体を揺らすせいで狙いがずれるのだ。貴重な弾薬も底を尽きようとしていた。

「メイフライさん!弾倉が・・・・・・!」

「くっ!こっちもです!こうなったら、接近戦に持ち込むしか・・・・・・!」

 香織とメイフライは不利に追い込まれていく。焦りで戦況を覆す手段も思い浮かばない。最悪な事態が2人の頭を過る。


「かがめっ!!」


 死を覚悟しかけた時、ここにいる3人ではない誰かが叫んだ。その声はこちらを追い詰めようとする監視者の背後から聞こえた。

「・・・・・・えっ!?」

 香織は理解が追いつかず、戸惑った。メイフライはその正体を悟ったのか、反射的に香織の背中を庇い、強引に床に伏せさせた。直後に鳴り響いた空気が弾ける発砲音。目にも止まらぬ光線が監視者達をまとめて引き裂き、衝撃が窓ガラスを砕く。それは香織達の頭上を通過し、壁を貫き大穴を空けた。

「げほっ・・・・・・な、何が起きたの・・・・・・?」

 香織は降りかかる破片や塵に咳き込みながら、おそるおそる顔を上げる。遠くでスコープを覗き、対物ライフルを構える姫川が見えた。

「2人共!怪我はない!?」

 姫川は銃口を下ろし3人に駆け寄る。

「まさか、今の・・・・・・あんたがやったの・・・・・・?」

「完全にイカれてやがる・・・・・・!俺達まで粉々にする気かよ・・・・・・!?」

 香織とメイフライは無謀過ぎる行為に信じられないと言わんばかりに彼の神経を疑った。

「ごめん、他に手がないと思ってね・・・・・・上手くいってよかったよ」

「下手すりゃ、俺達まで死んでたぞ・・・・・・でもまあ、助かった・・・・・・ってか、何でお前がここにいるんだ?狙撃ポイントにいたはずだろ?」

「カーテンが勝手に閉まった時、凄い胸騒ぎがしたんだ。君達が危険に晒される気がして・・・・・・それでいても立ってもいられなくなって、僕も病院に潜り込んだというわけ」

 姫川が説明を簡単に済ませる。

「君達まで殺しかけた反省文は後で書くから、今はここを出よう。博仁も待ってる。車を出す準備も整ってる頃合いだ」

「う、うう〜・・・・・・」

 監視者達は体の大部分を失っても尚、襲い掛かろうと起き上がる。

「急ごう!早くここから逃げ出すんだ!」


 3人は由利子を連れ、急いで病院を抜け出す。外では博仁がバンにエンジンをかけ、予め待機していた。香織達の無事を確認すると、バックドアを開ける。

「マジで連れて来ちまったのかよ・・・・・・愛利花の奴にどう説明すりゃいいんだ!?」

「博仁さん!説教は後です!早く車を出して下さい!」

 バックスペースに踏み込んだメイフライが早く運転席に乗るよう、手の甲を仰ぎ促した。

「な、なんだ!?どうしたんだ!?訳が分からん!」

 博仁は困惑しながらも指示に従い、バックドアを閉め運転席に乗り込むと、アクセルを踏みバンを急発進させる。追って来た監視者達が病院の出入り口から流れ込むように湧いて出て来た。しかし、遠くへ去って行く車両を見て諦めたのか、ふらふらと元いた場所へ戻って行った。

 香織は失神した由利子を座席に寝かせ、3人はぐったりと腰を下ろす。危うく命を落としかけたスリルに早い呼吸が止まらない。この緊張は、しばらくしても緩まないようにも感じた。

「壮絶な救出劇だったね・・・・・・前の戦いよりも心臓がバクバクしたよ・・・・・・」

 少しだけ平常心を取り戻した頃、姫川が無理に苦笑した。

「それにしても、病院で由利子を監禁していたあいつらは何だったんでしょう・・・・・・?」

「分かりません・・・・・・ただ1つ明白なのは、俺達を殺そうとしていた事です・・・・・・」

 香織は隣で横たわる由利子に視線をやった。それに合わせ、男2人も同じ箇所へ注目する。

「こいつが詩織さんを殺した楪智祐へ繋がる鍵を握っているんですよね?」

「命懸けで救い出した価値はあるのかな?今回も外れくじだったりして・・・・・・」

 メイフライと姫川の不信に香織は自信が欠けた言い方で

「私も不安だけど、この子に賭けるしかないわ。多分、大丈夫よ・・・・・・」

「1番の問題はこの女を隠れ家に連れ帰って、どう言い訳するかだ。愛利花さん、絶対怒るでしょうね」

「おい、後ろ!聞こえてるか?」

 運転席から博仁が呼びかけ、会話に加わる。

「俺も運転しながら考えていたんだが、その女を合法的に連れ帰る手段がある。俺達は偵察任務と偽って、今回の復讐ゲームに出向いたんだ。そいつはその際に偶然捕まえた『捕虜』という事にすれば、上手く誤魔化せるんじゃないか?いずれバレるとしても、多少の時間は稼げるはずだ」

「果たして、上手くいくのかな〜?まあ、実際に捕虜だけど・・・・・・」

 姫川は丸っきり期待してない口ぶりで博仁の提案に対しても不信感を抱く。


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