複雑・ファジー小説
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- 私は貴方たちを忘れない
- 日時: 2016/06/29 09:33
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。
主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。
他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。 時代は1867年のころからです。
追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.71 )
- 日時: 2016/10/30 13:18
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
薩摩のいる本陣。
「た、大変です。」
伝令役の兵士が駆けつけてきた。
「なんだ」
大久保、西郷が立ち上がる。少年姿の楓は彼らの前に現れると片膝をつく。
「長州藩の大村様よりの伝令です」
人払いを頼み顔を上げてにこっと笑う。いつもの明るい楓そのものだった。
「楓さぁ。久しぶりか」
西郷はそばにより肩を叩いてくれた。ちらと大久保を目にした途端固まる。「なんです。その顔」どこかにいるヤクザのような凶悪な顔をしていた。「ゆっくりしていけばどうだ」と言われて我に返る。
「いいえ実は大村様より西郷さんに大至急お越しくださいといっていました」
西郷はすいと立ち上がると襖を開ける。
「おいだけいきもうす。利通はここにいろ」
ぱたんと閉められる。気まずい沈黙が続く。
「元気そうですね」
おずおず口にしたらぎろりと睨まれた。「こわっ」びくと肩が上がる。
「な、なんで睨んでくるの。私何かしましたか」
「何かしたかだとっ?」
ごびが僅かに上がる。それだけでやばいと思った。殺される。本気でそう思った。眉間にしわがより低い声で言った。地獄の声に聞こえた。それほど恐ろしかった。
「数日前のことだ。罪人の首をさらしていた。何者かに襲撃を受けた。目を覚ました時にはさらしていた首と明らかに違う首があったらしい。気絶しているうちに何が起きたのかと皆が恐怖に震えたらしい。お前身に覚えはないか」
すごい。一気にまくたてられなおかつ冷静すぎる言葉にも怒気が含まれているとこれほど怖いのかと思った瞬間だった。震えあがった楓は
「し、知りません」ぶるぶるとしながらも頑張って抵抗してみた。
「嘘をつくな、調べはとっくについているんだ。おかしな恰好した大柄な男二人に小柄な少年三人だとな」
なんならそいつらを捕らえ尋問してもいいぞ。
「はい、私がやりました」
あっさりと白状することになった。「卑怯者」と心の中で罵ったらまるでそれを読んだのか「反抗的だな。いい加減にせねば貴様。つるす」という目で見られた。「すみませんでした」仕方なく謝る。
「なんです。今更。好きにさせてください」
ふんと顔をそむけた。
「薩摩の面目をつぶすつもりか」
目に鋭い光が宿る。
「薩摩の面目何て私は知りません。」
立ち上がりかけたので遮って「落ち着いて」慌てた。「絞め殺したい」殺意がこもった目つきをされた。楓は身の危険を感じながらも続きを言う。
「いいですか。私は私です。薩摩、長州、土佐なんて関係ありません」瞳をきらんと光らせる。簡単にやろうとしていることを説明していく。
「行ってどうする。」
「なにもただ、自分の目で見てみようと思っただけです。薩摩に迷惑かけません私が薩摩の名を語るのはこれで最後にします」
「勝手なことばかりいいおって」
「はい。勝手ですね。でも、そんな私を選んだのはあなただ。」
不敵に笑う。本当に生意気なことばかり言う。ぴんと指ではじかれた。「いたっ」といい額を撫でている。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.72 )
- 日時: 2016/10/31 22:02
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「薩摩の名を語るつもりがないなら十分に注意をしろ。敵にも味方にも」
大久保の言いたいことを知り頷き瞳をゆらした。それは寂しさを一度だけ見せるがすぐに心の内に隠す。あまり時間はない。お互いによく知っている。先に楓が動く。手を伸ばし膝たちになると肩に縋り付いていく。ただ男の温もりを忘れないように体で覚えようとしていた。男もようやく動いた腰を引き寄せると強く強く力をこめて何も口にしない。
「全てが終わったら必ず帰ります。その時は待っていて。」
頬を大久保に押しつけて言う。次に口付けをかわす。触れるだけのそれにすぐさま離れた。人の気配にさっと離れていく。まるで風のようだ。お前は本当に自由な女だな。私は何時になったら捕まえられるのだ。くしも用意しているというのにしばらく大久保は何かを想い天井を見上げていた。人の気配にすいっと視線を襖に向けた。そこには西郷が立っていた。
「楓さぁは」
「もう、いった」
「そうか」
大きい目でただ見てくる。
「なんだ」
眉を寄せる。
「いいや何も」
「で。どうなったんだ」
次には西郷は指揮官の顔になる。
「上野の討伐が決まった」
「それで?」
「5月15日。大村どんは我が薩摩藩に正面黒門口の突撃隊に選んだ」
「なんだとっ」
大久保は慌てて地図を広げた。正面を薩摩兵が背後を長州兵が横から佐賀藩の攻撃になる。
「これでは一番の被害が薩摩になるではないか」
ぎりぎりと眉間にしわを寄せて見取り図を睨みつけた。苛立ちがつのる。
「吉之助。お前はどうするつもりだ」
「おいはそれしかんと思う」
「・・・・」
無言でいたが大久保は不敵に笑い言う。
「ならば決まりだな。私が悪役になってもいいぞ。」
友はいつもこう言う。目的のために自分を捨てて悪者になろうと鬼になるのだ。本当は誰より仲間を想っているというのに。心配になるのだ。本心は言わない。それでいいと思っている。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.73 )
- 日時: 2016/11/04 22:59
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「いいや。利通だけが悪者になう必要はん。そん話はおいからしもんそ。」
〈利通だけが悪者になる必要はない。その話は俺からしよう。〉
西郷がそう言い、席をはずすべく立ち上がる。向かうべくは同志の元であった。大久保も同じく立ち上がる。
「我が薩摩藩に一番難しい役をさせてくれといっておいたぞ。」
西郷は言ったとたんに部下たちは一気に盛り上がった。流石は西郷隆盛であった。
5月15日午前7時のこと。
薩摩藩兵が突入した。寛永寺の表門だ。その日は朝から雨が降っていた。この突撃部隊が突破しないと次にいけない。
楓が遠くの山から様子を見ていた。また勝手に拝借してきた双眼鏡を使うと薩摩兵が黒門口を攻めているところで彰義隊の兵たちも激しく抵抗している。軍服を雨よけに使い頭からかぶる。帽子は特別に用意してくれたのだ。
「時間の問題ね。もうすぐ、突破できる」
腰のベルトにつるしてある懐中時計に目を落とす。これも同じく失敬してきた貴重な品物だった。
「あのーバカ者ー。また勝手に人のものを」という声がどこかで聞こえた気がした。きっと気のせいだ。開き直った楓ほど怖いもの知らずはいない。またであった時に説教を受けること間違いなし。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.74 )
- 日時: 2016/11/05 17:27
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
上野では休むことなく攻撃が続いている。昼飯に握り飯を口にした。食べながら懐中時計に目をやる。それは昼の12時を指していた。
「もう、そろそろか」
双眼鏡で上野の方をみた。恐らくここさえ突破できれば勝敗が決まる。薩摩藩兵が黒門口を通る。
彰義隊は表門を突破されて後退を余儀なくされる。後ろからは長州藩に攻撃を仕掛けられた。隊列は崩れていく。その隙をついて不忍の池の対岸より佐賀藩がアームストロング砲をこれでもかというほど打ちまくった。あえて部隊を配置していなかった北東から彼らは敗走していく。全て作戦どおりに進む。
「時間は夕方の5時頃か。本当に一日で終わるなんて、流石大村益次郎という感じかな」
ぼそり呟いた。双眼鏡で人の動きを見ていた時はっと息を飲む。
「あれは、まさか」
上野の林の中に見知った人を見つけた。急いで山を下りていく全く、こんなことばかりしているから落ち着きないと言われるのだ。同盟を結んだ藩兵たちは捕虜を捕まえようとするだろう。そこにいたのは新選組の原田左之助だった。
「何をしているのです。原田さん」
楓がその男に言う。男は木に背中を預けて息だけをしている。目を閉じていた。
「原田さん。聞こえていますか」
少し大きい声で呼んだ。
「この・・声は・・・楓・・か」
息を乱しながらも何とか片目を開けた。肩で息をしている状態だった。これでは一人では立つこともできない。深く傷つき男はこっちを見上げてくるだけ・・・。いつだって人が死ぬときはこんなにもあっけない。
『坂本さん、中岡さん、高杉さん』強く拳を握りしめる。
「そうです、立てますか?ここにいたら捕まりますよ」
立ってもらわなくては移動ができない。話ながらも素早く止血をしていく。
「槍はここに置いていきます。さぁて立って」
「楓は・・容赦ねぇ・・な」
「無駄な話をしている場合ですか?」
あちこちから怒鳴る声や銃声が聞こえてきている。時間がなない。焦りが彼女を襲う。腹のあたりから血が出ている。間違いなく重傷だった。声をかけて軍服を脱がせて止血をしたが止まらない新しく血がにじんでくる。ぎりっと唇をかんだら血の味がした。
「死に急がないでと言ったでしょ。何をしているの?」
苛立ちが募る。「どいつもこいつも死にたがりやがって」武士の生き方はだから好きになれない。肩をかしながらも歩いていく。ここからはなれなくてはならない。
「別に・・死に急いだわけじゃねぇ・・よ」
「話すな。」
鋭くさえぎりひたすら林の中を進んでいく。住民のいない小屋に隠れることにした。時間稼ぎになるだろう。扉を開けて中に入り原田を座らせる。横にさせてやりたいがそれはできない。同盟軍がいつここにくるかわからないから・・・。乱暴に止血をしていたので傷の様子を診て眉を寄せる。
「血が止まっていない」
どうしよう。どうしよう。『ねぇ。私、どうしたらいいの?大久保さん』知らずに大好きな人に助けを求めていた。
「原田さん。聞こえていますか。原田さん」
焦りばかりが先に立ち名を呼ぶことしかできずにいた。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.75 )
- 日時: 2016/11/08 22:39
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
何度も何度も原田の名前を呼んで意識を戻している。
「ああ・・聞こえて・・いる」
かすれた声に顔をしかめる。まずい。このままでは・・。原田は汗をかいて壁に背中を預けたまま、はぁはぁと息をしているだけ。目だけはかろうじて開けている。『神様。私はまた、目の前で人を失わなくてはいけないの』ぐったりしている男を見ながら絶望を味わう。とにかく血を止めなくては新しく布を用意した。男の裸をみても動揺しない。ただ死ぬところを見るのが怖いのだ。
「いやだ。絶対にあきらめない」
死なせない。原田に水を飲ませたらうっすらと意識が戻ってきた。
「どうして?」
「ん?どうしてって、嫌だった。人が死ぬのは」
楓は自分の来ている軍服を脱ぎ原田の体にかけてやる。体温を少しでも戻さないといけない。
「楓は・・寒くないのか」
「大丈夫」
というと立ち上がり外に視線を向ける。
「まて、どこに行くつもりだ」
鋭い目を楓にやる。体は辛そうに見えるのに目だけはぎらぎらしている。
「外の様子を見に行きます」
「なら俺も」
立ち上がろうとしたが体に力が入らないのでふらついた。あわてて楓が支える。
「何を言っているのです。あなたは大怪我をしているのですよ。動くのは無理です。ここにいてください」
「しかし」
なにか言おうとしたがさらに言う。
「だめですよ。原田さんは少しでも休んでください。」
きっぱり言った。そして彼に荷物の入ったカバンを預ける。中身は薬、双眼鏡、懐中時計、ぴすとる、弾、簪、着替えなどがある。着替えだけ取り出し原田に時計を手渡す。
「これは右に動き長い針がこの位置まできても私が戻らなければ逃げてください」
10分過ぎて戻らなければ逃げろと伝える。楓は武器になるものすら置いていくつもりでいた。命綱であるぴすとるもだ。原田は楓を引き留めてこれだけでもと突き返す。
「こいつは俺が持っていても使えぇよ」
背中を預けながらそう言った。力は入らないので左の手でぴすとるを渡す。
「すぐに戻ります。できるだけ身軽になりたいので」
「こいつはたいした重さはねぇだろ」
ひどくゆったりな台詞で原田は伝えていく。
楓は仕方なく受け取る。兎に角大切なものを取りにいかなくてはならない。原田の槍と楓の小刀だった。それだけは取り戻さなくてはこの先にいけない。決意をして外に出ていった。外は相変わらず雨が降っていた。
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