複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

私は貴方たちを忘れない
日時: 2016/06/29 09:33
名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)

小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。

主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
    立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。

他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。  時代は1867年のころからです。

追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉  

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.141 )
日時: 2017/03/24 13:42
名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)

土方は陽菜の体を心配してそう言うのに本人は土方を心配してくる。似たもの同士。
「私は大丈夫です。それより相原さんのほうが心配です」
まだ傷は治ってはいないはず手当てをするための道具がない。眉を寄せている。
「もう、平気だ」
土方はその視線に耐えきれずそらした。『こいつ何もわかってねぇ』こんなにも熱のこもった目をしているのに無意識なのか。ふうっとため息をつく。
「時期に奴らが尋問のためにここにやってくる。それまで体を休めておけ」
不満げな顔をしている。ベッドに二人で歩いていく。小さな部屋にあるベッドに腰かけ陽菜をそのまま横にさせて布団を上からかけてやる。頬をなでて乱れた髪を手でととのえることも忘れない。
「ううー。落ち着きません」
「そうか?」
口元を緩ませている。その顔はしっている。からかう時の表情だ。
「相原さん。からかっていませんか」
「くくっ。そんなわけ・・・くっ。ねぇだろ」
あきらかに笑っている。むっと睨む。『土方さん、楽しそう』なんだか悔しい。唇をとがらせていたがくるり背を土方に向けた。また楽し気に笑う声が聞こえた。それを無視して目を閉じる。するとうとうとし始める。これだけは聞こうと口を開く。
「疲れていませんか」
「大丈夫だ」
土方も疲れていた少し考えてするりと陽菜の隣に滑り込ませると抱きしめた。一度だけびくっとし大人しくしていた。大好きな人の腕の中にいて安心したらしい。



大久保と楓。
後ろ襟をつかまれ引きずられていく。
「だ、誰か。助けっ。」
目に映る人たちに助けを求めたのにとっさにあさっての方を向いた。
「は、な、し、て〜」
悲鳴だけが残された。

部屋を開けて捨てられた場所は風呂場だった。しばし茫然。
「汚れをおとせと言うことか」
確かにこれはないというように汚れていた。急いで軍服を脱ぎ汚れを落としていく。女物に着替えを済ませていく。風呂場を出たら命じてきた目で。
「口で言ってください」
じろと睨まれた。すぐにそらされる。椅子に座れと言うことらしい。座ったら丁寧にくしでとかされた。濡れた雫も手拭でふかれていった。広げられた手拭により視界を奪われる。「怒っている」横目で見たら憮然とした顔が見える。
「怒ってる?」
「その髪はどうした?」
意外なほど穏やかに言われた。
「自分で切った」
「バカ者。女の結びが出来ないではないか」
一房手で絡めて渋い顔をしている。
「戦場をかけまわるにはこれしかなかったもので」
「また無茶をしたものだ」
きれいにほぐされた髪の毛を指にからめせたまま唇で触れる。びくっと肩が跳ねる。
「相変わらずなれぬか?」
「ふいうちはずるい」
真っ赤になったまま顔をそらす。この人がどれだけ心を痛めているかを知らないわけがない。
顔をそらしたまま口を開く。
「このままで聞いてください」
言わねばならないことがある。面と向かっては言えない。『私はあなたを怒らせることしかできない』振り返れないと思っていたらぐいと肩をつかまれてくるりと反転した。
「尋問を始める」
ふいにそう言われた。きょとりとさせ次に強い目をした。
「どうぞ」
「その前にそれどうにかならんか」
無念すぎるとその頭をさされた。
「いや。あの・・・どうにもできなくなりまして・・・・」
だんだん小さくなっていく。珍しいことだ。懐から布とリボンを取り出した。
「うごくな」
固まる。そのままくしでまとめて布でくるみリボンでしばった。
「あの?」
鏡を渡された。後ろを確認して目を丸くした。そこには黄色のリボンが揺れている。気を取り直してお互いに向かい合う。ここから話を始める。大久保はスーツを着ていた。ネクタイが目に付く。黙っていれば文句なしのいい男。その口の悪さが全てを台無しにしていた。
「いままで何故報告してこなかった?」
「やりようがありません」
どうやって連絡をしろというのか。すいっと背筋を伸ばしてそう言う。心にやましいことなどない。
「お前ならいくらでも思いつくだろ」
辛辣な言葉が返ってきた。確かにいくらでも策はあった。黒田に会いに行っているくらいだ。

ここから反論を開始した。やはりいつまでもしおらしいのは合わない。



Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.142 )
日時: 2017/04/23 18:30
名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)

ここから反論を開始する。
「薩摩藩とは縁をきり面目をつぶさないと・・・・するなっ。とあなたがいった」
半分睨むように見たことを後悔した。「何口答えしてんだ。殺すぞ」と言う目で見られた。楓は耐えられず目をそらす。
「なんだ。おかしな奴だな」
ふんと笑われた。
「り、理不尽だ」
「なにがだ。それは私のセリフだろう」
「だって・・・・」
「言い訳するな」
「なにそれ・・・」
悔しい。ぎりりと拳を握った。
「言いたいことははっきりいえ。中途半端が一番嫌いだ」
楓は不満ですと言う顔で大久保を見た。
「理不尽じゃないか」
敬語をすっ飛ばして文句をたれてくる。相当ご立腹らしい。面倒な女だ。
「い、いろいろやらかしたかもしれないが間違ったことはしていない」
言いきったらほほーうとひくーい声で言われた。
「それに戦いは終わりでしょ。これからはどうなるのです」
ようやく冷静になったらしく。居住まいを正した。
「どうなる?ではないどう作るかだ」
「ならば、お願いがあります」
そのまま頭を下げてくる。それを見た大久保の眉が持ち上がる。
「なんだ」
「降伏している人たちの許しを与えてください」
眉を寄せて渋い顔になる。またこいつはとんでもないことを言い出す。
「誰を許せと。特別あつかいはできんぞ」
「幹部クラス。全員」
堂々と言った。決して自分に非はないというように。
「おい、誰一人処分せず謹慎のみにすませろということか」
「そうです。あそこにいる人々は優れた人材の宝庫です。すなわち宝です。それを殺しては国を作ることなど夢のまた夢。もっと広い視野で見るべき。新しい日本を作るのでしょう。戦をするのはこれで最後にしてください」
まくしたてるように言いきった時息をつく。大久保は黙って話を聞いている。やがてくっくっと喉を鳴らす。
「何がおかしいの」
ムカッとした。
「正論だな」
「そうでしょう」
「坂本君はお前のように生きたかったのだろう。だが、彼は志半ばで命を落としてしまった。残された私たちにはこれしかやりようがなかった。彼を失ったことはまことにおしい」
それっきり口を閉ざしてしまう。背を向けると大久保は肩を震わせていた。泣いているかと思った。思わず立ち上がり両手を広げて抱きしめる。
「そうですね。おしい人を失くしました」
広い背中に頬を押し付けて目を閉じる。
「彼ら自身を説いてみよ。双方ともに。それができれば考えてやらんこともない」
にやりと唇を持ち上げた。いつもの男に戻っていた。肩を震わせていたように見えたが気のせいだったかと思うほどあっさり顔だけ向けてくる。不遜で偉そうに命じてくる。
「やって見ろ。お前ならできる」
期待を込めた言葉だ。譲歩をしてくれている。言葉を聞き考えてくれる人なのだ。この人は。助けたい。それはまぎれもない本心だ。
「わかりました。やってみせます」
こちらも答えなくてはならない。意思の強い目をしてそう言う。
「ああ。」
こうして二人だけの話し合いは終わる。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.143 )
日時: 2017/03/30 12:59
名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)

木戸と紫衣。
手首をつかみすたすた前を歩いていく。半分引きずられながらついていく女。男の足は緩まずついていくのにやっとだ。兵士たちは慌てて廊下のはじによけていく。ある部屋に入ると鍵を閉める。
背中しか見えない男のまとう雰囲気が凍えるほど冷気をまとっていることを感じている。
「さて」ふいに声をかけられてびくっと肩が跳ねる。
「風呂に入りなさい」
いきなりそう言われた。
「え?」
今一意味がわからず問い返す。
気分を落ち着かせるため息を吐く。そうしなければ怒鳴りつけてしまいそうだった。
「それとも」
くると向きを変えた木戸はにこと笑う。紫衣はみたとたん固まる。『こ、こわーい』目を丸くさせて真っ白になった。口元だけが優しく笑っている。笑っているのだがその目は少しも笑っていなかった。
「君は俺に脱がしてほしいのか」
「は、はい」
ごびがわずかに上がる。理解が追いつかない。首を横にさせる。本能で逃げようとした。後ろに下がるが逃がさないと一歩足を踏み込んでくる。少しずつ後退していくとかかとが壁につく。だんと平手が壁をたたいた。びくっと小さく震え目を閉じる。
「何故逃げる?」
「に、にげて・・・なんて・・・・」
視線を思いっきりそらしているのだ無理がある。くいと顎をつかまれ正面を向かされる。『う、うごけない』ぐぎぎと音がしそうだ。背中は壁に押し付けられている。抵抗のため男の胸を押しているのにびくともしない。
「汚いにもほどがあるだろう」
顎から手をはなされ腕をつかまれ風呂場におしこめられた。
「きゃっ」
悲鳴がもれる。ぴしゃと閉められた。
ううーっと自然とうめく。乱暴。心の中でつぶやいた。いつになく乱舞な仕草に冷え切った声に怒っているとわかる。
「着替えは」
「用意させる」
そっけなく言われた。着ているものを脱ぎでいく。汚れを洗い落としていく。全てを終わらせて脱衣所に戻ると女物が用意されていた。着物だった。短くなった髪の毛はそのままにして一枚一枚羽織身なりを整えていく。扉を開けておずおず出ていく。
下を向きゆるりと歩いていくと憂いをまとった綺麗な娘になっていた。
「乾かしたのか」
「はい」
沈んだ声で答える。全てを殺した木戸は冷静になっていた。うながされて裸足のまま歩いていく。床にはカーペットが敷かれていて冷たくはない。下駄を差し出されて従いはく。

椅子に座るようにいわれて大人しく座る。
「言いたいことはないのか」
木戸はスーツ姿で裾をはらい座った。
「いいえ。特には」
すうっと細められる目。無言で視線だけで見られることの方が恐ろしい。
「俺に少しも話すことがないということだな」
確認された。声だけでもわかるかなり怒っているとますます上げられなくなる。
「ごめんなさい」
「なんのための謝罪だ」
謝ったのにあっけなく返された。ぐっとつまり答えられない。
「それにその髪についてもだ。なにやっているんだ」
「これはその・・・・この方が男に見えるとみんなで話して決めました」
「そろいもそろって・・・」
呆れた目を向けられさらに小さくなる。
「何も言いかえす言葉もありません」
「もったいないことを・・・それほど切ってしまえば女の結びかたができないだろう」
「はい。おっしゃるとおりです」
ひたすら耐えることを選ぶ。膝の上に手を置いた。言いかえしてはいけない。倍になって返ってくる。
「どうするつもりだ」
「どうしましょう」
にこりと微笑まれた。ただしぞくっとするほどの謎な笑みで。大変ご立腹らしい。
「そのみっもない髪をどうにかしないか」
さすがにがーんと突き刺さる言葉だった。
「ですが・・・」涙目で木戸に言う。
「どうしたらいいのでしょう」
と木戸に助けを求めていた。懐からリボンと布を取り出す。
「?」
「前を向いて」後ろを見ていた紫衣は大人しく前を向いた。
くしで丁寧にとかしていき布でまとめていく。最後にリボンでしばった。手鏡を渡されて後ろを見てかんたんした。
「話は間だ終わっていない」
ぴしゃりと言われ息を止める。厳しい声だった。
「共にここへ来た二人はどこの誰だ」
「し、知りません」
どもりながらもそう言う。
「へえー」
冷徹な目を向けられた。目が泳いだ。
「ほ、ほんとうです」
びくびくしながらも嘘をつく。がたと椅子から立ち上がる。
「名前は?」
ことさらゆるりと問うてくる。内心あせり冷や汗が伝う。
「知っているんだろ」
首を振りながら知らないと続けている。
「目が泳いでいる」
紫衣は木戸の剣幕にテーブルから離れ壁にまで下がっていた。壁と木戸に挟まれて身動きが取れなくなった。上から見られて迫られていた。
「い、いわない」
首を振り続ける。
「強情だな」
耳元にささやくとふっと息を吹きかけられた。
「やっ」
耳をおさえる。身をよじるのに逃げられない。
真っ赤になり睨んでくるが怖くはない。可愛いだけだ。無自覚なのだから始末に負えない。
意地悪く笑っている木戸を見た。どうしても吐かせたいらしい。
「いわないなら続けるよ。どこまでたえられるか見ものだな」
『私はどうして何もできないの?楓ちゃんのように説得することができない』
その強すぎる想いが自然と唇をかみしめる。そのことを気が付いた男が唇を開かせる。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.144 )
日時: 2017/03/31 23:00
名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)

「よせ。」
強く噛みすぎて血がにじんでいた。男は無理やり唇を開かせるとそこを指でなぞっていく。女はその指から逃げようと顔を振る。それが気に食わないとぐいっと顎を乱暴につかまれ次には唇を奪われていた。驚きに目を見開く。
「ふっ」
きつく瞼を閉じて懸命に耐えていたが苦しくて息ができない。それは深く吐息までも奪うような口づけに次第に力が抜けていく。一度唇を男ははなしその隙に女は空気を求めて口を開ける。それを待っていたように再びふさがれた。
「うん。」
必死にそれから逃げようと頭をふるが許されない。そのまま意識がもうろうとしてふらっとしたらどんと背中を壁に打ち付けられた。
「いたっ」
思わず漏れる声すら無視をされる。この人は何がしたいのかわからなかった。ただ無言のまま手を動かしていく。それの目的のままに。女の着物は簡単に乱れされていく。ぐいっと襟をつかみばさっと前を大きく開かされた。ようやくわかったのだ。この人のやろうとしていることに気が付く。
「まってっ。お願いだから木戸さん。なんでこんなこと」
手を伸ばしやめてくれと懇願したがどんどん着物は脱がされていく。裾も大きく開かせてそこに手を差し伸べてなぞられた。
「いや。やめて」
何度やめてくれと口にしたかわからないが全て無視されて好きにされた。ついに耐えきれないと絶叫を上げた。
「いやぁぁぁ」
知っていた。本当は二つの面を持っていると。残酷な面とそれをも隠す優しい面。忘れていた。全ては志の前では粗末なことと簡単に捨ててしまう。そう言う人だ。

絶対に知ってはずなのに何も言わないと口をつぐむ。紫衣に腹が立った。それほどに守りたいのかと。わかっていた。こうと決めたら頑固になる。口が堅いだから信用した。一気に着物を引き下ろすと本気で悲鳴を上げた。
「やめて、怖い、いや」
同じことを繰り返す。我を失い暴れ木戸から逃げようとした。気が付くと涙をこぼしていた。子供のように泣きじゃくっていた。木戸を冷静にさせるには十分だった。
「やだ、やだ、やだ」
頭を振り抵抗して泣いている。
「おちつけ」と言って乱れた着物を元に戻しそのまま胡坐をかき膝の上に紫衣のせた。とんとんと背中をたたいた。次第に落ち着き始める。深いため息をつく。
「悪かった。もうしない。だから泣き止め」
といいながらもひたすら宥めていく。片手は髪を撫でて乱れた髪を元に戻してやり別の手で肩を撫でていった。
泣きながら木戸の肩に顔を押し付けぼそりと言う。
「あの人たち助けて」
「あの人たち?」
「私たちの大切な友達」
「友達?」
問われても言いたくないというように額をこすりつけたまま黙る。
こうなっては決して言わない。すねてしまったのかもしれない。顔を上げない娘にやれやれと思いながら続きを問いかけた。
「名前は友人だろう」
「・・・・望月陽菜ちゃん」
間が空きそれだけ言いまたつぐむ。
「そうか」
片腕に抱えたまま考え始める。
「もう一人は助けなくていいの?」
意地悪く聞こえばっと顔を上げる。
「助けてあげて。陽菜ちゃんの大切な人です」
きらんと光る目を見た木戸はぽつりと言う。
「土方歳三」
目を丸くさせて木戸を見上げていた。どうしてわかったとその顔は言っていた。
「だろう?しかしあの男は死んだと報告がきていた」
確信があったのだ。あの顔を見間違えるわけがない。
「どういうことかな。君が言わないならあの娘に聞こうか?」
にっと唇を持ち上げる。
「やめて・・・・」
悲鳴のように声を上げる。
「なら教えてくれないか?」
すきをあたえず畳みかけてくる。ずるい人だ。睨むように見た。
「言いたくない」
と言いぼすっと顔を伏せる。
「頑固だな」
次第に笑いがこみ上げてくる。
「助けたいのだろ。知らなくては助けられないよ」
まるで知恵を出し合い言葉で遊んでいるように楽しそうにいってくる。これは悪いくせだった。何故か楽しくたまらなくなってくる。どこまでやれるのか試しているみたいだった。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.145 )
日時: 2017/04/04 13:59
名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)

助けたいのなら素性を明かせと言う。木戸と言う男は狡猾に恋人呼ぶべき女にも容赦なく問い詰めていく。正論を口にしている。そこに計算が挟まれているとはわかりにくい。
仕方なく紫衣は目を伏せいう。
「あの人はただの兵士です。名前は相原さんといいます。陽菜ちゃんは・・・小姓です」
言葉に迷いながらもそれだけを言う。そこに矛盾が生まれることも知りながらも・・・。
「ただの兵士に小姓はつかない。君もそれくらい知っているだろう」
鋭き刃がそこをついてくる。
「本当です」
「紫衣」
問われたが冷たさはなくできるだけ優しくしようという気づかいが見える。それには答えられないと首を振る。
かたくなな姿に木戸は仕方ないと抱えたまま立ち上がる。
「ふえっ?」
いきなり体を持ち上げられて思わず声が漏れる。
紫衣を見上げた木戸はにこと笑う。
「君には負けたよ」
「え?」
よくわからないが納得してくれたようだ。そのまま部屋の外に出ていった。慌てて首の後ろに手を回して落ちないように支える。そうしなくても落とすつもりはなかっただろうが・・・。



ところ変わって大久保と楓。
「ところで楓。お前がともに連れていた二人は誰だ?」
「そんなことを聞かれても・・・」
困ったと眉を下げた。
「おい。誤魔化すとはいい度胸だな。説明せねば奴らともども拷問にかけるぞ」
「ちょっと。なにそれ」
「文句しか言えんのか。いちいちうるさい。」
そう言うと楓の頬をつねりながらも追及をゆるめない。
容赦なく横に引っ張ってくるその手を払いたいのに許されない。
「不問にしてくださいますか」
なんとかその手を振り払いきっと言う。
「さあな」
ふっと鼻で笑う。
あえて見ないふりをして素早く辺りを見回して声を低める。
「新選組副長土方歳三とその小姓」
言った瞬間立ち上がりすごんでくる。
「だいたい察しはついていたでしょ」
「つくかっ。バカ者。大体奴は死んだのではなかったのか。報告がきていたぞ」
大久保に指摘されて遠い記憶をたどる。
「でまも流れましたし。嘘か真かそれを見極めるのもあなたの仕事・・・いたたっ。」
最後まで言わせてくれない。むかっとしたのか耳を引っ張ってきた。手加減なしにだ。本当に手の早い男だ。心の声が聞こえたらしい。口をつままれた。
「いたいでしゅっ。」
抗議したことすら許せないと物騒な目で見てきた。「こいつ今すぐ殺してやりたい」殺意と熱意がこもった目をしていた。ぶるっと久しぶりに嫌な汗をかく。
「ごめんなさい」
全面降伏した。
「最初からそう言え。」
「なんてっ理不尽な」拳を固めていた。
「待てっ。では小娘は本当に土方の小姓か?」
「十一月十八日。油小路事件。二年前くらい前です。あったことありますよ。覚えていないのですか?」
「ぐちぐちと長い。名前は」
「望月陽菜ちゃんです」
「・・・・」
間が空いた。
楓は両手をばばーんと広げ自信に満ちた顔をしていた。
「本当に覚えていないのですか?」
そもそもまつりごとにかかわりのないことまで記憶しない。それが大久保である。
「かわいい子ですよ。桜が似合いそうな雰囲気です」
「そんなこと聞いていない」
しかし、新選組か・・・にやりとやばい顔をして笑う。
「悪いこと企んでいますね」
「ならば仲間の仇は打て。そうだな」
「・・・そういうと・・思いました・・・」
「黙っていろ」
「いいえ。黙りません」
これだけは言わなくてはならない。強い目をさせてすうっと目つきを鋭くさせる。
「陽菜ちゃんは友達です。それに薩摩とか仲間とか今は忘れてください」
的を得過ぎている言葉に大きい声を出す。
「だまれっ」
「黙りません」
大久保に負けない声を出しさえぎる。
冷え切った声に鋭すぎる目つき。見てわかっている。どれだけ大切な人を奪われてきたのか。仲間を同志を・・・
「坂本さんを殺したのは新選組ではありません」
「そのくらい少し頭をひねれば気が付く。証拠がありすぎた。」
つまらなそうに吐き捨てた。ふいとそらされる視線。
「ならば冷静に判断をしてください。わかるでしょう。大久保さん。試すのならばいい。処罰をするのはやめてください。陽菜ちゃんの大切な人です。」
炎が見えるようだ。それくらい熱を感じる眼差しだった。
「試すならばいいのか」
「はい」
「おかしな女だ」
負けたというように肩をすくめる。
「あとお願いが・・・」
「まだあるのか」
嫌そうに顔をした。
「陽菜ちゃんの着替えを用意してあげてください。髪飾りも」
なんて図々しくもいってくる。
「なんでそんなことまでしてやらねばらなんのだ」
憮然としたがにこりと笑いかけられてその通りにさせられる。








Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。