複雑・ファジー小説
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- 私は貴方たちを忘れない
- 日時: 2016/06/29 09:33
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。
主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。
他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。 時代は1867年のころからです。
追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.56 )
- 日時: 2016/09/30 17:36
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
会談の前日にとあることを計画していた。町人を集めた勝は
「あんたらに頼みがある」
「頼みですか」
お互いに顔を見合わせると勝に真剣な目を向ける。火消屋の男たちであった。一度だけ勝は外に視線を投げて声をひそめて本題に入る。
「やってもらいたいことがある。おいらが明日の交渉失敗したら町に火を放ってくれ」
ぎょっとして皆が立ち上がりかけ手で制した。
「つまり。俺たち。火消に火を放てっていうんですか」
「ああ、そうだ」
本気の目で答えた。勝にとって捨て身の策であった。江戸焦土作戦であった。この話事態西郷にもれるようにしていた。それすら作戦の内であったのだ。
「後世の歴史が狂といおうが賊といおうがそんなことかまうものか。処生ひけつは誠の一字だ」
とのちに言った。
3月13日。
江戸の藩邸にて待っていた。二人も同じように待っていた。勝は腹を決めていて誠をぶつけるのみだ。
庭から西郷が一人で歩いてきた。
この日勝と西郷は和宮の処遇の問題と徳川の降伏条件の確認のみで深く突っ込んでの話はされなかった。質問と応答のみで終わった。
3月14日二回目の会談であった。勝よりの前の日の降伏の条件の回答であった。この時二人の娘は邪魔しないように控えていた。
「上野で謹慎中の慶喜公は恭順の意志をしめしている。水戸に移してはどうだろう」
「なるほどそれでよろしいでしょう。それから武器と江戸城は明け渡していただきます」
勝は答えるよりも先に言う。
「それから軍艦も渡していただきます」
「軍艦はすぐに渡すわけにいかない。時間はかかるがどうにかしよう」
「わかりもんした」
その後いくつか話をしてようやく話のまとまりを見せた。ここまできてようやく勝が最後をしめくくる。
「江戸への総攻撃は中止でよろしいか」
「中止でよろしか」
西郷のその一言で安堵の息をついた。緊迫していた雰囲気を皆がゆるめた。
「楓さぁ。紫衣さぁ。ゆうとやいもした。」
西郷が鋭い空気をがらりと変化させた。にこりと楓は笑い、紫衣は今にも泣きそうな顔をしていた。
愛宕神社に向かう。勝は西郷を誘い神社の上から見下ろした。
「江戸の町を戦火で焼失させるには忍びない」
皆が頷いた。
4月の11日に江戸城無血開城となる。勝は江戸の中を走り回って作戦の中止を触れ回る。戦わずして勝利を得た瞬間であった。
新選組側。4月2日
下総流山にて陣を敷く。斎藤はこの時近代化を進めるために兵たちの訓練にあたっていた。本隊とは別行動になっていた。
翌日。陽菜は近藤にお茶を差し出す。
「ありがとう」
と言いお茶をすすった。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.57 )
- 日時: 2016/10/05 13:53
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「ああ、ありがとう」
お茶を持ってきた陽菜に礼を近藤が言う。外を眺めながら陽菜へと言葉を続ける。
「君はここから離れたほうがいい。」
僅かに空いた隙間から空を見ている。懐からお金が入った袋を渡される。
「受け取れません。」
断わりながら頭を振った。
「それにこれは私のわがままなんです。どうしてもそれだけはできません。」
はっきりと断っていた。
「皆さんの役に立ちたいのです」
嘘をつき続けるのだ。そうでなくてはあの人のそばにいられない。
「君は・・・」
近藤はその時になりはっとした。ようやく気が付いた。この娘は土方のことを・・・。
「わかった。君に頼みがある。歳のそばにいてやってくれ。そしてその支えになってやってほしい」
「そばにいます。ですが、近藤さんの変わりにはなれません」
眉を寄せて言うと肩を叩かれて優しく頷かれた。
「わかっているとも。望月君。」
階段を駆け上がってくる音がしてそちらを見た。土方が島田を連れて戻ってきた。
「すぐに逃げる用意をしてくれ。囲まれている。」
外を見ると敵がすぐそこまでせまっていた。
「2、300はいます」
「せめて桁が一ケタ違うならどうにかなったんだがな。」
土方は問答無用と陽菜と近藤を逃がそうとした。
「島田。近藤さんと陽菜を連れていけ俺がおとりになる」
「無茶です。」
「黙っていろ」
上から怒鳴られてびくっと小さくなる。
「歳。俺が本陣にいこう」
「え?」
「なに、いってんだよ。あんたがいったら死ににいくようなものだ」
「ここにいるのは警備のためだと言えばいい。新選組の近藤とは名乗らんよ」
「そんなもん。簡単にバレルに決まってんだろ。大将のあんたがいねぇでどうすんだよ」
肩をつかみ苛立ちをこめて必死に土方は説得していた。
「俺にあんたを置いていけと言うのかよ。」
「ならばこれは命令だ。すぐに兵を連れてここを出ろ。」
「命令?俺に命令をすんのか。なににあわねぇことしてんだよ。」
力が抜けて近藤の肩から手が滑り落ちていく。
「すまない」
一度謝り土方を見る。
「局長の命令は絶対なんだろう。自分だけ特別扱いか。」
そう言われてしまえば拳を握り歯を食いしばることしかできない。
「局長命令なんだな」
「彼女を連れていってやれ」
はっとして首を動かした。泣いてしまいそうに顔をゆがませながらも陽菜は片手で口元をふさいでいた。『そうだ。俺にはこいつがいる』
「逃走経路を確保しねぇとな」
土方は踵を返していった。
裏口から兵士らを逃がしていく。
「お前らは先にいけ」
「はい」
島田らが出ていく姿を確認してから陽菜と土方も出ていく。土方は振り返り「いいのか?」名残惜しむように近藤に問うがうんと頷く。
小さな木戸であった。陽菜が出て土方が後に続く。
これが陽菜が見た近藤の最期の姿であった。
「いくぞ。ついてこい」
迷いを振り切るように林の中をひたすらかけていく。
「おい、そこで何をしている」
声をかけられた。島田たちのいる方だ。土方はいきなり抜刀し、斬り捨てていく。
「いけ、はやく」
その声に島田が兵士らをひきつれて逃げていく。
「運が悪かったな。今の俺は虫の居所が悪いんだ」
一人残らず斬っていた。
「貴様らそこで何している」丘の上で数人の兵士が銃を構えていた。土方が敵兵に向かい突っ込んでいく。陽菜はどうしようか迷いそこにとどまる。すべてが終わるのをまち、土方のそばにいく。夕日に照らされたまま立っている彼を見た。
「あいつらは逃げられたか」
「はい。」
「そうか、ならお前も先に行け」
陽菜はそこから動こうとしなかった。刀を握りしめたまま背中を向けている彼を一人になんてできなかった。「このままどこかにいってしまう」そんな危うさがあった。とてもではないが放ってなんておけない。
「どうした、早く行け」
怒鳴られようとも従うなんてできない。
「すみません。その命令はきけません。」
「なんだと」
「邪魔にならないようにします。だからここにいさせてください。」
あきらめたのか何も言わなくなった。
「俺は何のためにここまでやってきたんだろうな。あんなところで近藤さんを敵に譲りわたすためか。同じ夢を見ていたはずなのになんで俺はここにいるんだ。近藤さんを見捨ててどうしててめぇだけ助かってんだよ。ぜってぇみすてちゃいけねぇ人見捨てて俺だけ生き残って」
最後の言葉は慟哭のようであった。肩を震わせている土方の両手を伸ばして陽菜は涙をにじませていく。『泣いている』そう思った。『私がいます。一人で苦しまないで』広い背中に自らの額を触れさせた。想いを気持ちを少しでも分かち合うように。
「土方さんが近藤さんを想っているように近藤さんも死んでほしくなくてもっともっと生きて欲しくてどうしてもああ、するしかなかったんだとおもいます」
「俺のため?ならこれから俺はどうすればいいんだよ。あんたがいなくて」
二人はただただ寄り添っていた。悲しみを少しでも和らげるように。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.58 )
- 日時: 2016/10/06 22:41
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
土方たちは会津を目指してひたすら前進していく。近藤を助けようと助命嘆願したが聞き入れることはなかった。
野営をしている中土方と陽菜は木の根元に座っていた。蛍が飛んでいる。
「結局。俺たちは江戸から追い払われたんだ。あの人は早期停戦を考えていたらしい。」
目を細めて薄暗い空を見上げながらもどこか寂し気に聞こえた。
「何を信じればいいんだ」
「私にはうまく言えませんが、ここにいる人はみんな土方さんを信じているのだと思います」
「見失っちまったもんはてめぇで探せってことか」
4月12日に土方は旧幕府軍の陸軍に加わる。4月19日に宇都宮での戦いが始まった。
宇都宮城は新政府軍と藩士ら800名は籠城戦をしていた。早朝土方と秋月たちは三手にわけ攻撃を開始。土方隊は下河原門より攻撃を秋月隊は中原門を攻撃した。新政府軍の激しい抵抗に「ひっ」悲鳴を上げて腰が引けていた。
「逃げるな」
「そ、そんなこと」
土方は一喝するともう一度言う。
「あいつらは旧式の銃を使っている。命中率は低い」
次々に撃ってくる攻撃にも怯むことなく土方は突撃をかけていく。あっという間に走り抜けて敵兵を斬り捨てていく。
「すごい」
「続け」
「土方さんに続けっ」
叫ぶと皆もつっこんでいった。
この日の夕方には城を攻め落としていた。大鳥隊がついたときすでに終わっていた。
4月23日伊地知率いる救援隊が加わり新政府軍は勢いを盛り返した。あっけなく彼らに城を奪い返されてしまう。この時土方は足に怪我をしてしまう。清水屋旅館で療養する。日光へと撤退していく。
4月25日のことだ。
楓と紫衣の二人は江戸にいた。町の人が噂をしている。
「新選組の近藤が処刑されるって」
「本当か?」
「あの、人斬り集団の大将だろう」
話を聞いた二人は顔を見合わせる。
「あの人のことだよね」
「うん」
話は聞いたことがあったが顔は知らない。
「見に行く?」
楓が声を低めて聞いてくる。前だけを見つめている。人の死ぬところなんて見たくはないが気になる。
「行く」
紫衣も気になっていた隣にいる友の手を握ると歩き出した。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.59 )
- 日時: 2016/10/08 20:57
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
たどり着いたとき多くの人だかりができていた。人の間を縫うように前に進む。そこには興味と憎悪という感情をこめた人が集まっていた。物見遊山で。人というのはそういう残酷な一面をあわせもつ。楓と紫衣は違った。近藤という男を見てみたかったのだ。前に歩いていくと竹でさくがつくられて内と外に分けられていた。
「なんて穏やかな顔なの」
これから死にゆく人の顔というよりもただ真っすぐに前だけを見つめていた。武士というものなのか。
「近藤さーん」
叫び声が聞こえた。楓が顔を向けるとがたいの大きい男が二人で何やら必死に叫んでいた。一人は槍を片手に握りもう一人は筋肉質だった。
「まさか」
呟くと目を細める楓と紫衣も目を伏せ記憶をたどる。
「原田さん、永倉さん」
ぼそり言ったたしかそんな名前だった。
その間も二人の男はなおも言い争いを続ける。
「バカヤロー。死にてぇのか」
ぎりと拳を握りしめられて悔し気に口にしている。
「陽菜ちゃん?」
紫衣は視線を後ろにやった。顔を後ろに振り向かせている友に「え?」同じように振り返る。娘?なのか少年が青ざめた顔をして立っていた。
「陽菜ちゃん。大丈夫」
心配そうにさせながらもそばによるので楓もついていく。ぼんやりしていたが瞳がこちらを見た。
男二人もこちらに気が付いた。
「てめぇら。どうしてここに」
原田が言う。敵意を込めた目であった。永倉も同じように刀に手をかけている。
「場所をかえませんか」
楓が降参というように両手を上に上げた。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.60 )
- 日時: 2016/10/11 12:19
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
その時だった。わぁぁ。と歓声が上がる。皆がそっちを見た。原田が後ろから抱え込み陽菜の両眼を大きな手の平でふさぐ。近藤が首をはねられる姿に何も言えなくなる。
「見るな」
「原田さん?」
陽菜はそれでもなんとなくわかっていた。
楓と紫衣にとっては他人だ。それでも何も感じないわけでない。人がなぜこうも簡単に殺されなくてはいけないのか。
「紫衣は見なくていい」
「ううん。私も見る。見なくちゃいけないんだと思う」
「そう・・だね。これが戦の代償か。勝てば官軍負ければ賊軍とはよくいったものだね」
楓の拳は強く握りしめられていた。処刑執行人が首を高々に掲げている。
「俺たちは何のためにここまでやってきたんだろうな」
原田により目をふさがれていた陽菜の頬を涙が伝い落ちていく。彼の指を濡らしていく。
「なんでだよ。お前らなら知ってんだろ。教えてくれよ。近藤さんが腹もきらせちゃくれねぇなんて。」
永倉が紫衣の肩をつかんでゆする。彼女は唇を噛みしめていた。されるがままでいた。
騒ぎに気が付いた役人が駆けつけてきた。
「おい、そこでなにしている。」
「まずい、逃げるぞ。」
全員がその場から逃げていく。
逃げたその先に後ろを確認して建物の陰に隠れた。楓は壁に背中を預けた。紫衣は息を整え男二人は余裕の顔をしていた。陽菜も肩で息をしていた。
ここから先を冷静な頭で考えていく。新政府軍とか旧幕府軍とか関係ない。
「坂本さんなら今を見たら何て言うかな。」
ぼそりと言われた。顔を紫衣の方に向けた。こつんと頭を壁に預ける。
「陽菜ちゃん。大丈夫か」
永倉が心配して様子を見てくる。走っただけでなくかなり動揺していた。大切な人の死は何時だって残酷にその身にのしかかる。
「そういえばどうして二人がここにいるのです?」
原田に問うと槍を握りしめたまま鋭い目を向ける。
「それはこっちの台詞だな」
そのまま睨みあう。
「坂本さんなら」
またうつむき考え出す。
「あの人ならきっと嘆いているだろうね。戦なんてくだらない。」
楓は紫衣の言葉に答えを出した。
「あ・の・。坂本のことか?」
永倉に問いかけられて鋭い目を向ける。陽菜はきょとりと首をひねる。
楓は原田へ向けた。殺しそうなほど冷え切った瞳だった。
「坂本竜馬。」
ぶつきりで名を言う。永倉は空を見上げた。どこまでも青空がひろがっていた。
「言っておくが坂本を殺したのは俺たちじゃないぜ」
きっぱりと言う。
「そのくらいわかります。何しろ証拠がありすぎました」
ふっと楓が笑うと原田もにやりとした。そのくらいお互いわかっていたのだ。
「あの人の首。そう言えば罪人は3日?ううん。何日もさらすらしいね」
見せしめのため。何を考えているのか誰にもわからない。
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