複雑・ファジー小説
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- 私は貴方たちを忘れない
- 日時: 2016/06/29 09:33
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。
主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。
他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。 時代は1867年のころからです。
追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.26 )
- 日時: 2016/08/05 15:08
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
楓と紫衣はお茶を用意して皆に配っていく。
「大久保さん。私が行きましょうか。土佐の板垣さんと後藤さんを動かしてみせます。」
目がすわっていた。近くにお茶を置く。
「楓ちゃん?」
びっくりしたように楓を見て桂のお茶を置き横に座る。
「紫衣さん。僕にお茶は?」
ぼそり佐々木が口にするが相手にされていない。哀れな男だ。楓も佐々木の声なんて届いていない。一応用意はしてあったが仕方なく自分で湯呑を手にしてすする。
すいっと眉を寄せた。すると目つきが鋭くなる。
「待て。策があるならここで話せ。勝手な行動はするな。」
ずずーとお茶をすすりじろりと睨む。仕方なく説明をした。
「土佐藩の本陣に行き二人に会います」
挑むように大久保を睨む。「文句あります?」と生意気な顔つきだ。
「本気かい。楓」
「本気です。」
思案にくれたように桂も眉をよせる。この顔は「またとんでもないことを言い出した」と呆れたようだ。
「・・・」
紫衣は桂と楓と大久保を見比べていた。何も口にしないが。
「どうかしたかい?」
桂にちらりと横目で問われた。
「いいえ。特に何も」
首をふる。大胆な行動にでる友に感心していた。
「ですが僕は楓さんの意見に賛成です。僕ではこれ以上はなにも言えません。」
佐々木はてずまりだった。藩を動かそうとはしているがうまくいかない。困り果てていた。いつだって考えるのは国のこと。
大久保がおもむろに体の向きを変えた。背を向けたので目をぱちぱちさせている。
「単身乗り込んでいくつもりなら、こいつを持っていけっっ」
ぶつぶつ文句を言いながらも筆を動かしていく。綺麗な文字がつづられていた。
「ただいっても門前払いを受けるだけだろう」
「鳥頭が」と最後の言葉は口に出されなかった。自然と口元をゆるませていた。内心では面白くてたまらなかった。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.27 )
- 日時: 2016/08/08 18:36
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
大久保は些細なことでも面白がるそんな男だった。
知らずに口元が緩んでいた。『藩を背負っている私たちにはできぬことをする』
むうっとさせていた。
「ちょっと。なんで笑っているの?」
別の意味で動揺したのはその場にいた人たちだった。
「大久保さんが笑っている」
「そんなに驚くことですか?」
楓にはごく普通のことだった。不思議そうに言う。
「割と大久保さんは笑いますよ。」
当たり前のように彼女はしている。ふと思いつき懐をあさる。
「これ。深く考えすぎないでください。胃をまた悪くさせるだけですよ。」
紙につつまれた薬を手の平にのせた。それを見て嫌な顔をする。
「こんなもの、気休めにしかならんだろう。」
「ないよりましです。煙草も吸いすぎないようにしてください。あと必ず寝てください。」
「いちいち煩い奴だな・・・」
このまま喧嘩になってしまう。
土佐藩士のいる本陣には佐々木と護衛に中村がついた。
本陣にて。
「そこを通してください。」
「小僧に話などない」
バカに仕切った顔をされ嘲笑された。土佐藩の兵士は西洋の軍服を着ていた。楓たちの前に出て道をふさぐ。楓はぶちっと切れた。
「大久保様より文を預かっています」
お取次ぎをお願いします。声を張り上げて奥まで届くようにさせた。頬はひくひくさせている。内心かなり頭に来ている。「邪魔」と怒鳴りつけてやりたいがこらえていた。
「文だと?」
いぶかしんで見てくる。負けてたまるか。兵士たちを睨む。
「何を騒いでいる」
後藤と板垣〈乾〉がやってきた。ようやく姿を現したか。不敵に笑う。『待っていた』
姿がとらえた二人はすぐに理解を示す。「こ」小娘と言いかけ後藤は口をつむぐ。中に通される。
「佐々木。姿が見えないと思ったがそういうことか」
佐々木は後藤に部下としての礼をとった。片膝をつく。
「はい。このままでは土佐藩は面目が立ちません。」
「どうにかしろ。ということか。」
じろりと上から佐々木を見下ろす。刃のように鋭い目であった。
楓は怒っていた。
「いつまで日和見を続けるつもりですか?」
責めるように後藤と板垣につめよっていく。
「坂本さんの言葉を忘れたのですか?」
「忘れたとは言わせない」と後藤の目の前に立つと胸を拳で叩く。
「忘れたわけではない」
すぐさま切り返してきた。強い口調だった。楓の肩をつかみ引き離した。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.28 )
- 日時: 2016/08/10 18:19
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
後藤はままならない情勢に苛立っていた。
「勝手なことばかり言うな。」
「俺たちだってできることはやっているんだよ・・・」
心の底から疲れているように見える。困っているのは同じなのだ。
「そこをなんとかしてください。」
楓に言われるまでもない。わかっているのにどうにもできずにいる。
「坂本さんは土佐も加わり三藩で討幕をと口にしたはず・・・」
このままではいずれ負けてしまう。ぎりっと唇をかみしめる。
「それとも・・・」
そばで聞いていた中村がとっさに口をふさいだ。
「ふぐぅ・・・」
楓は頭にくると誰であろうとくってかかる。はがいじめにされ暴れていた。
「楓さあ。いけません。」
「はなして・・・」
あっけにとられてしまう。
「わかった。半次郎さん」
手が離された。思い出した。預かっていたものがあったのだ。
「大久保さんからです。」
後藤に差し出した。受け取った後藤は中をあらためた。ぴきりと青筋が浮かぶ。
「どうかしたかい。」
板垣も後藤から文を受け取り文面に目をやる。
「これは・・・」
ぐしゃりと文が握りしめられた。憤りが伝わってくる。
≪さっさと軍を動かせ。今更臆病風に吹かれたか。腰抜けめ≫
簡単にいえばそんな感じに書かれていた。
「おのれ・・・大久保め」
「ふっ。いってくれるではないか」
二人を見事にあおった。
4日には旧幕府軍が一時巻き返していたが指揮官たちの戦死に富の森に後退していった。
伏見方面。土佐藩兵たちがようやく動いた。知らせを聞いた大久保は
「土佐のフルダヌキめようやく動いたか。」
忌々しいと舌打ちをした。楓は苦笑するしかない。
「まあ。動いてくれたのです。」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「ああ。敗走していきますね。」
「あっけないものだな。」
5日にはこの日の戦いで多くの戦死者が出ていた旧幕府軍だったがそれでも戦うことはやめなかった。富の森も失う。ただただ敗走していくしかなかった。「錦の御旗」が翻ったのは午後のことだった。
「おい、あれを見ろっ」
旧幕府軍は息を飲む。新選組の人たちも太鼓の音に笛の音色に誰もが力尽きてしまう。
「うそだろっ」
「なんでだよっ」
永倉や原田らは文句を言う。組下のものたちも動揺していた。
「組長。あれは・・」
兵士たちも声は離れていた陽菜にも聞こえていた。
「錦の・・錦の御旗が翻ったと」
陽菜は土方を見上げた。
休んでいた土方は皆の前に姿を現し声を張る。
「てめぇら。動揺してんじゃねぇよ。いいかっ。今この時から俺たちは何が何でも勝つしかなくなった。」
土方の一括にしーんとなる。次には皆びしっとなる。
「そういうことだろうっっ!!」
「はい」全員が土方に従う。
また二人に戻った。
「本当はどうなのですか?」
不安な顔をしていたのか、頭を撫でられた。本人は気が付いていないが優しい顔をしていた。口元さえゆるませて
「心配すんなって、必ず勝ってやる」
まだ強い目をしていた。この人はあきらめていなかった。どんなに負けたとしても立ち止まってしまえば終わりなのだ。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.29 )
- 日時: 2016/08/11 17:26
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「錦の御旗」が翻ったのはこの日の2時頃だった。
土方は一人になり空を見上げていた。力なく森の中一つの木に背中を預けて悔しさに耐えていた。誰にもこの姿を見せることはない。指揮官がへこたれるわけにいかないのだ。『ちきしょうっっ。なんで俺たちが賊軍になるんだよ』苛立ちを拳にうつして強く握りしめる。今はそれだけしかできなかった。
そんな土方の姿を陽菜はただ黙って少し離れたところから見ていることしかできなかった。
「望月。一人で行動するな。」
後ろから声をかけられ、ばっと振り返る。そこにいたのは斎藤一だった。僅かに頬をゆるませ次にしゅんとさせた。
「すみません。でも、土方さんが・・・」
それっきりなんて言えばいいのか、わからなくなった。視線を土方のいる方に流しまた陽菜を見る。
「今は一人にさせてやろう」
あんな土方を見たのは初めてだった。切なくなり瞳をうるませていく。
「今は。あの方の代わりに俺がその涙を払う」
この人も不器用な人だった。それだけ言い背を向けた。意味がわからないがつまり背中で涙をぬぐえっ?ということか。そっと背中に寄り添い頬を押し付け目を閉じる。声は出さなかった。
新政府軍が「官軍」旧幕府軍が「賊軍」となった。
旧幕府軍は富の森を失い、淀城に入り戦況の立て直しをはかろうとした。しかし彼らはこの時知らなかったが、朝廷側や新政府軍と淀藩兵は戦う意思などなかった。
「くそったれ。誰か援軍を呼びに淀城まで走ってくれねえかっ」
土方の指示に皆が疲れ切っていて声をあげる人はいない。
「私が行きます。皆さんはこの戦で疲れています。少しでも休んでください。」
陽菜が名のりをあげた。土方たちは反対した。
「バカ言ってんじゃねぇよ。」
「そうだぜ。陽菜ちゃん。」
永倉も止めた。
「陽菜。お前は何言ってんのか、わかっているのか。」
原田もそして斎藤にも止められてしまう。
「望月。俺も反対だ。」
皆優しい。それに答えたい。
「皆さんは必死に戦っているのに私は何もできない。それが嫌なんです」
本気の目であった。この娘は何も我儘は言わない。でもいざとなると強くなる。曲げない。自分の信念のもとでなら直のこと。
土方たちが必死に止めているのには理由がある。あちこちに寝返った敵軍がうろついているのだ。陽菜は自分を守ることはできない。
「私も一緒にいくよ。」
井上だった。
「井上さん?」
「歳さん。この娘と一緒に私が援軍を呼びに行くよ。それで許可をくれないか」
穏やかにさとされ仕方なく折れた。
「無茶はするな」
「はい」
二人は真剣に見つめ合う。
その後。井上と陽菜は淀城に向かって走っていく。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.30 )
- 日時: 2016/08/13 15:17
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
淀城目線。
「おい。門の外に誰かいるぞ。」
「ん?」
門番たちが外の様子を見ていた。あさぎ色の羽織が目につく。二人組だ
った。
「なんだ。何か叫んでいる。」
「幕府のものです。援軍をお願い申し上げます。」
それに続き開門を願い出る。
「どうする?」
顔を見合わせた。その時上のものが出てきた。
「幕府のものは何人も中へ入れてはならん。」
これにより彼らの次の行動は決まった。
「銃をかまえろっっ」
藩士たちに指示をだす。上から下にいる新選組の二人を狙っていた。
新選組目線。
ぜえぜえっと息をみだし陽菜は井上について走っているだけで一生懸命だった。ようやく城の前にたどり着いた。井上が声を張り上げた。
「井上さん」
陽菜はおかしいと辺りに目を走らせた。上を見る。兵士たちが銃をかまえていた。井上の袖を引く。
「あれは何をしているのでしょうか?」
井上も上を向く。はっとした。あれは・・・
「危ないっ」
ばっと陽菜を下がらせた。ダーン。足元に弾がはじける。砂粒が跳ねた。
「どうして?」
わけがわからない。次々と銃声が鳴り響く。
「ここは引くしかない」
陽菜の手をつかみ背を向けると走り出した。
「なんで?」
困惑しかない。
走りながらも井上は言う。
「つまり寝返ったということだ。」
悔し気に唇をかみ前を鋭く睨む。
「そんな・・」
絶望しかない。手を引かれひたすら山道を抜けていく。
「いそがなくては」
このことを早く土方に伝えなくては・・・。
「土方さんたちになんて伝えたらいいのですか。」
悲し気に目を伏せる。
「仕方がないよ。このまま伝えるしかない。」
少し休んでそんな話をしていた。さとされて陽菜は膝に手を置いて息を整えていた。
「もう少しで歳さんと合流できるから望月君。頑張って」
「はい」
登ってきた道を下りていく。井上が気が付く。人影が見えた。
「あれは。土方さん?」
目を細めてよく見ようとした。陽菜も気が付いたのだ。
突き飛ばされた。悲鳴が上がる。地面に転がる。その時銃声が鳴る。
「井上さん」
何が起きたのか。慌てて起き上がった。井上が片腕をおさえつけていた。地面が赤く染まる。
「井上さーん」
叫ぶ。彼は前に立ちたてとなっていた。
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