複雑・ファジー小説
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- 私は貴方たちを忘れない
- 日時: 2016/06/29 09:33
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。
主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。
他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。 時代は1867年のころからです。
追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.31 )
- 日時: 2016/08/15 21:45
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「今からいうことをよく聞いて・・・。君はこのまま逃げなさい。」
「嫌です。逃げるなら井上さんも一緒にいきましょう」
必死だった。このまま一人だけ逃げるわけにいかない。
「歳さんの元に返さないとね。」
もう覚悟を決めてしまっている。だけどそんなことできない。涙が自然に頬を伝う。優しく笑うと刀を抜き銃弾をはじいていく。
「早くいけっ」
背中を泣きながら見ていることしかできずにいた。足が動かないのだ。震えながら全てを見ていた。
井上は後ろから一突きされ地面に倒れていく。
「おい、こいつも新選組の仲間か。」
仲間うちで話をしている。井上から陽菜に視線がうつった。
「旗色が悪いからと言って寝返るなんてあなたたちはそれでも武士ですか?」
責めるように陽菜は睨む。
「ああ。武士だ。」
「勝ちさえすれば誰もが官軍になれる。」
にやりと笑いながらも迫りくる敵に小太刀を抜いた。あざわらっている男らに本当に腹が立つ。
隠れて様子を見ていた緋色と紫衣は憤りを感じた。
「志のある長州男子はそんな卑怯な真似はしない。」
「桂さんたちは誇りをかけて戦っている。」
本気で許せないと思った。緋色も同じように考えているのか腰の刀に手をそえてすうっと冷めたい目で睨んでいる。
「ここまで侮辱されて黙っていられない。」
草むらの中に紫衣を残してその場を離れた。生かしておけない。
三人の男を緋色は切り捨てることに迷いはない。次々に上がる血は花びらのように舞う。刀をしまうと紫衣も出てくる。
「だあれ?」
怯えていたがすぐに刀を向ける。
「よせ。俺は長州を侮辱されたから斬っただけだ。」
表情を変えずに緋色が説明をする。恨みも憎しみもない。ただそこにいる人をその目にはうつすだけ。
「長州?」
また睨んでくる。そこには井上の遺体と淀の兵士の遺体が転がっていた。緋色はもう興味もうせたらしい。無言だった。
「私たちはただ淀の藩士たちの動きを見に来ただけです。」
「その様子では寝返ったのだな。」
下を向いて刀を鞘にしまう。
「望月陽菜さん。また会いましたね。」
優しく声をかけた。ばっと顔を上げた。不思議そうに。
「覚えていませんか。御陵衛士の時。私は立川紫衣と申します。」
「しいさん?」
にこりと笑い頷く。
「陽菜っ」
土方が向こうから駆けつけてきた。緋色はすぐに位置を変える。彼女の護衛のため後ろに下がらせた。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.32 )
- 日時: 2016/08/15 22:08
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「こいつは」
土方はあちこちに転がる遺体に目をやり途端に厳しい顔をした。
「源さん。てめぇか。やったのは」
「土方さん。ちが・・・」
慌てて陽菜は彼を止めようとした。
「黙ってろ。」
怒鳴られてびくっと小さくなる。緋色は表情を少しも変えないが内心はかなり憤りを感じていた。
「俺の役は終わりだ。」
それだけを言う。禁門の変と池田屋でのかりを返すべきか。長州としての誇りを踏みにじられてきた彼らにとって深いほどの憎しみは消えない。
土方としては仲間を殺されその上負けてばかりの戦にどうにもならない感情をもてあましていた。
紫衣は緋色のささやかな変化に感ずいていた。
「緋色君?」
そっと横目で様子をうかがう。ぴりとした。これは殺気だ。知っていた。この人は人斬りと普段が余りにも穏やかな気配を身にまとっていたから忘れてしまう。今のこの人を止められるだろうか。
土方と緋色はお互いに刀に手をかけて睨み合いをしている。
陽菜は土方により後ろに下がる。
彼女には土方は止められないと判断した。すうっと息を吸い声を張るのは紫衣だった。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.33 )
- 日時: 2016/08/16 13:29
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
「淀城の兵士の動きを見に来ただけです。私たちはたまたまこの場に居合わせただけです。そこにいる井上さんを殺したのは緋色君ではありません。」
凛とした声を張り上げ紫衣は緋色の刀の柄をおさえつける。
「緋色君。何をしているのです。私たちは一刻も早く戻り本陣に報告しなくてはならないはずです。」
冷静な声でとがめられて我に返る。柄から手を放す。怒られてしまう。
「すみません。」
素直に謝ると視線を外しうつむく。ばっが悪いらしい。
それを見ていた土方はあっけにとられた。人斬りの緋色を止めることのできる女がいるとは・・・・。こちらも我に返ると陽菜が泣きそうに顔をゆがめていた。
「すまなかった。陽菜。」
その言葉に陽菜は頭を振る。今にも涙が零れ落ちそうだ。
「源さんを埋めてやろう。」
優しく声をかけられてようやく声を出す。
「はい」
気が付くと長州の二人はいなくなっていた。
長州男子の志か・・・。誠の武士よりも武士らしく。潔く散る。
「同じかもしれねぇなぁ。目指しているもんは・・」
土方は独り言を呟く。地面に穴を掘るために少し山に入り木の枝を見つけてきた。
紫衣は新選組の人たちを思う。走りながら『誠の旗を掲げて真っすぐに突き進んでいく。』心の内で呟く。
「紫衣さん?」
走りながらも彼女を様子を見てくる。何か思うことがあるのかと。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.34 )
- 日時: 2016/08/18 15:59
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
長州側。
「遅くなりました。」
「紫衣。緋色君。ご苦労様。」
緋色は一歩下がりひかえている。
「紫衣どうかしたのかい?」
桂に伝えるため下を向きながらも口を開く。
「桂さん。淀城は私たちの方に向きを変えました。それと」
言いにくそうに視線を外したままだ。
そんな彼女に不思議そうにさせ後ろに視線を投げかける。
「俺が淀城の兵士を斬りました。長州を侮辱したもので」
「そうか。」
それだけ言い、下がらせた。
紫衣は目をさまよわせていた。まだ何か気にかかることがあるのだろう。
「私は余計なことをしてしまいましたか?」
困ったようにさせそっと見上げた。
「さっきの話かい。」
「はい。新選組の人を助けてしまいました。」
桂を想うといたたまれない。
憤りが消えない。それは心の奥にしまってある感情。
「あの日。あの時を私は忘れない。同志を、同胞をどれほど失うことになろうとも前を進むしかない。」
あまり多くを語ることをしない。この人は感情がないわけでも冷徹でもない。ただ口にしないだけ。
「桂さん。例え敵であろうと目の前に死にそうな人がいたら助けると思います。」
ばっと面を上げて桂に言う。強い目をしていた。
「わかった。君の言いたいことは」
目を閉じて桂はそれだけを言った。一度だけ優しく抱きしめられた。すぐに離れてしまう。紫衣は「はうっ」とおかしな声を上げてしまう。
「すまない。いつも苦労ばかりかけて。」
「いいえ。そんなことありません。」
慌てて首を振る。頭を撫でられて少しだけ顔を上げて、切なそうに微笑んだ。
新選組側。
陽菜たちは井上を埋葬してやるため土方は穴を掘っていた。
「土方さん。一体何があったんだ。」
原田、永倉、斎藤がやってきた。
「源さんを埋葬する。手伝ってくれ。」
それっきり下を向きひたすら穴を掘る。それでようやく井上が死んだと知る。声もなく陽菜は泣いている。斎藤は井上の近くに転がる兵士を横目で見る。わずかに目つきを鋭くさせて。
「あれは・・・」
「源さんのかたきだ。ほおっておけ」
陽菜は手の甲で頬をこすりつけて驚いたみたいに土方を見た。
「わかっていた。けどよぅ。どうにもなんねぇ感情をあいつは・・・みすかしてきやがったんだ。」
ぐっと枝を近くの地面に深くつき立てる。両手で枝を握りしめてしばらくそのままでいた。
「土方さん」
何か言おうと口を開く。
「それを止めたのがあいつだった。敵ながらたいしたもんだよ。」
斎藤たちが来た時には紫衣と緋色は背を向けて去って行くところだった。
「あのものたちは依然どこかで見たことがあります。」
「あるだろうぜ。」
旧幕府軍はその後淀城下に放火してさらに南下していく。
男山、橋本方面に撤退していく。脱走者も多くでてくる。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.35 )
- 日時: 2016/08/21 21:25
- 名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)
6日。橋本の戦いでは地の利は旧幕府軍にあった。しかし対岸で守備していた津藩が朝廷に従い攻撃を開始した。
「嘘だろう。なんで対岸から」
思いもよらない西側からなんてと戦意喪失していった。その後淀川を下り大阪へと逃げていく。
「もう、刀や槍の時代じゃねぇんだな」
流石の土方も刀を握りしめて沈んでいた。この時永倉、斎藤、らで20人が殿をつとめた。
「後ろを振り返るなっ」
「早く、いけっ」
「なんとしてでもここを守れ」
迷わず敵陣に突っ込むみ、仲間を逃がした。
陽菜は心配になった。
「大丈夫でしょうか?皆さんは・・・」
思わず後ろを振り向き足が止まる。その腕をつかんだは土方だった。
「止まるんじゃねぇ。何のためにあいつらが殿をつとめたと思っていやがる」
叱責された。その腕をしっかりつかまれてひたすらに逃げていく。また足を動かしていった。
大阪城。
「鳥羽伏見の戦いにもはや勝ち目は見いだせません。しかし・・必ずや体勢をととのえ薩長の官賊どもに目にものをみせてご覧にいれます」
と幕臣が言う。慶喜公の心の内では『頼みもしないのに勝手に戦をやっておき、まだ戦うだとっ!バカものどもめ。俺の立場がこのままでは危ういな。』そう考えていた。
「うむ。その方らの忠義。まことに嬉しく思う。すぐに戦の準備をいたせ」
幕臣たちはその言葉を信じた。しかしこの男は別のことを考えていた。口ではそう言いながら逃げる算段ををしていた。
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