複雑・ファジー小説
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- 私は貴方たちを忘れない
- 日時: 2016/06/29 09:33
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。
主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。
他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。 時代は1867年のころからです。
追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.116 )
- 日時: 2017/01/26 18:54
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
土方は人の気配にかっと目を開けた。陽菜を守るように指示を出す。敵か味方かわからない。体には力が入らなくてもそれでも陽菜だけでも守らなくてはと最後の力をこめた。
「陽菜。後ろに下がれ」
「でも」
悲痛な顔をする。とてもではないが戦える状態ではない。
「いいから」
強い声で言われたので仕方なく従う。刀に手をかけて敵に備えてかまえた。
「いやぁ。迷った」
「ここどこ?」
呑気な声がした。力が抜けそうになった。聞き覚えのある声だった。
「うーん。わからない」
唸る声までしてくのだ。土方たちは嫌な予感がしてくる。
何故かまた迷っていたのだ。さほどまであっていたはずなのに。また違うところにでてしまった。がさがさと草を踏み分けて進んでいく。「「あれ」」声が揃う。間抜けな声を出す二人だった。よく知っている人たちにお互いに驚いて固まることしばしば・・・・。
「どうしてここに」
ようやくそれだけを言うと土方の額に青筋が入る。
「それはこちらのセリフだ」
眉間にしわをよせてそう言われた。
「探していたところだった」
「ちょうどよかった」
二人はにこりと笑う。
「どういう意味だ?てめぇらなんでここに嫌がる」
土方は大量に汗をかきながらも言う。本当は話をするのも辛いはずだ。陽菜は心配でたまらない。そっと横をうかがうと顔色が悪いくなってきている。口を挟める状態ではない。
「説明は後にしましょ。陽菜ちゃん無事でよかった」
楓は陽菜に視線を向けて言う。陽菜は力が抜けへたり込んでしまう。
「土方さん。どうしますか?」
うっすら笑みをたたえた楓は挑発してくる。
「どうするかだとっ?」
ぎらんと鋭く睨んできた。まるで獰猛な獣のそのもので。まさに狼と呼ばれていたころのままであった。
「このまま五稜郭まで戻り何ができます」
「なにが・・・だ、とうっ」
地を這うような低い声にも楓は引かない。お互いに譲れないものがあるのだ。それは陽菜にもわかるが、そろそろ限界が近くなってきているのが分かる。ぜぇぜぇと肩で息をしながらもなんとか地面に足をつけているのだ。『土方さん』そっと手を伸ばして土方に座るように指示を出した。せめてと思ったのだ。休ませなくてはいけないと考えての行動にずるりと力が抜けていく、とっさに陽菜が支えて二人も手をかしその場に座らせる。
「土方さん?」
いぶかしむ。どうにも様子がおかしいと楓は眉を寄せる。
「土方さんは怪我をしているんです」
「なっ」息を飲み次にはきっと吊り上げた。
「こらっ。何で言わない?」
黙っていたことに腹を立てているらしい。
「はぁ。はぁ。なんで話す必要性があるんだよ」
むかっとしたらしく。ぐいっほとんど乱暴に襟をつかみ引きよせる。
「ばかっ。本当にむかつく。そういうところ。ある人を思い出すから・・・」
涙を半分浮かべながらも怒鳴りつけてきた。
「楓ちゃん?」
「似ているんだ。あの人に・・・我慢強く誰よりも人のために生きる人」
楓の目には土方が大久保と重なって見えていたのだ。死に急ぎすぎているようにしか見えないことになおさら腹が立って仕方がないのだった。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.117 )
- 日時: 2017/01/27 17:44
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
襟をつかむと乱暴に引き寄せる。
「そういうところあの人に似ている。だから腹が立つ」
「楓ちゃん」
陽菜は慌てて土方から離そうとしたがそれより早くぱっと手を離す。どさっと地面に落ちた。もう、力も入らなくなるなっているらしい。
「この話の続きは手当てをしてからですね」
唇を大きくへの字に曲げてそう言う。ふんといった。ふてふてぶてしい態度であった。血の気が引いてしまっている土方に目を向ける。紫衣も気が付いてから薬の入ったカバンを下して中を開ける。手当てをするために準備をしていく。
「みせてください」
抵抗もできないほど疲弊していた。前は陽菜が手当てをしたため肌蹴られている。布は血がにじみ真っ赤になっていた。役になんて立っていない。それをほどいていくと傷の様子をみていた。そして「これはひどい」というように口元を両手でおおう。楓も手をかすため薬を用意していく。酒を手にすると陽菜に目をやり一言。
「陽菜ちゃん。おさえて」
容赦なく酒を傷にぶちまける。「う、わっ」呻く声を出し慌てて陽菜は彼を押さえつける。紫衣は布を取り出し傷に巻き付けていく。血を止めることに成功した。
「土方さん無理はだめだよ」
「陽菜ちゃんのために」
「わかっている。何度もいうんじゃねぇ」
舌打ちまでしている。ようやくそんな土方を見れてほっとした。顔色も戻ってきたようにも見える。涙がにじむ。
手当てがすんで続きを離し始める。まだこの男を説かなくてはいけない。
「たとえ土方さんが一人戦う意思を見せたとしても意味がないでしょう」
正論をついてくる。
「あなたが死んでは陽菜ちゃんはどうなるのです。敵の手に落ちればどんな目にあわされるか・・・」
あなたにはわかるはずだといった。土方は迷うことなく切り返す。
「それはねぇ。お前らがそれを許すはずねぇだろ。じゃなきゃこんなとこまでくるはずねぇだろ」
確信だった。友をそう簡単に見捨てるはずがないと。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.118 )
- 日時: 2017/02/02 12:41
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
楓と紫衣は少なくとも望月陽菜を友達だと思っている。お互いに敵同士だとかそんなことはどうでもいいと考えていた。心配だったからここまで来たのだろう。あえて口にするつもりも必要性もない。土方にそれを見事に指摘されてちっと舌打ちした。忌々しいことと土方を睨んでいた。
だが、それを否定したのは意外にも紫衣だった。「どうかな」ぼそりといった。
「新選組副長の小姓を見逃すとは思えないのですが・・・」
鋭い指摘を切り返してきた。この女もまた冷静に物事を判断してきた。
そうなのだ。戦況はどう転ぶかわからない。こうしている今も。
「私たちは確かに陽菜ちゃんを助けたい。でも話のわかる連中ばかりじゃないからねぇ」
片目を閉じ楓も言う。
「捕らえられてはどうすることもできません」
最後を締めくくる。しーんとなった。
陽菜は不安そうに土方たちを見守る。楓はあくまでも事実だけを伝える。土方はただ黙り込んでいる。紫衣は黙り込んで考え込む土方を見てふいに桂小五郎を思い出していた。この人も武士なのだとわかるが女の気持ちはどうなるのか。置いていかれたら生きていられないと切なくなり涙がにじむ。
「だからあなたには生きていてもらわないと困ります」
全ての憂いを払拭するように明るく太陽のように笑う。
ふうっと息を吐き出して空を見上げた。黙り目を細める。何を考えているのかわからない。
「最後に思いっきり暴れてやろうと思ってたんだがな。それも許されねぇか」
「土方さん」
陽菜の悲痛の声が聞こえる。彼はいろいろ考えていた。この戦の行く末はわかりきっている。
「大鳥さんたちはどうしてんだろうな」
「わかりませんよ。あったことありませんし」
「知っている。独り言だ。聞き流せ」
むっとして黙る。決意をした彼は楓を真剣な目で見つめる。
「降伏する」
「そうですか」
感情をこめずに楓は返す。内心ではほっとしていたのだ。これでこの男を死なせずにすむと。次には陽菜が土方に飛びついていく。
「悪かった。だから泣くなよ。陽菜」
「うっ。うっ。ひっく。」
泣き声だけがその場に響く。胸元に縋り付き肩を震わせていた。優しく彼女の背中を撫でていく。
「降伏について頼みがある」
「うん?」「?」二人はこてんとした。その間もずっと陽菜は泣き続けている。素になるとただの娘に戻るのだ。その落差に驚きを隠せない。片腕に抱えながらもそう思い小さく笑う。
「頼みとは」
「そい言えば」
一つ思い出したことがある。彼の言葉を遮り「斎藤さんをご存知?」
「どの斎藤だ?」
いぶかしむ彼にはたと説明をした。新選組の斎藤一と言うとかっと目を開ける。
「斎藤だとっ」陽菜もようやく泣き止んだ。それよりも驚くことが起きて涙が引いてしまう。二人の剣幕に小さく悲鳴が漏れてぺたんと座り込んでしまう。
「すまん」
「いいえ」
我に返り土方が謝る。陽菜が手を貸してくれたので手を伸ばして立ち上がる。
「そうだった。原田さんには会いましたか」
「あった」
「斎藤さんとは会津で分かれてしまったのです」
寂し気に瞳を揺らしている。楓は手をひらりと振る。「「?」」意味不明な行動に戸惑う。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.119 )
- 日時: 2017/02/06 11:51
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
「陽菜ちゃんたちは会津で分かれたんですね。ふむ。私と紫衣はその斎藤さんに会いましたよ?」
「えっ?」
「なっ」
驚きの声を上げる土方たちを静かにと黙らせる。楓が土方の口をふさぐ。紫衣が陽菜に「しっ」指を立てた。ここはまだ戦場だということを忘れてはいけない。
「どこで。いつだ?いつ、あったんだよ」
「降伏したその日」
落ち着かせてからそう言うと陽菜は泣き崩れる。顔を両手で覆ってしまう。突然泣き始めてしまう陽菜にどうしたらいいのかと土方に目をやる楓。彼自身動揺していることがわかりあきらめる。手拭を渡して陽菜の涙を優しくふいてやっているのは紫衣だった。
しばらく間が空いた。
「斎藤は会津の地で最後まで戦うと言っていたから・・・・」
死んでしまっていると思っていた。
「生きています。斎藤さんが感謝すると言っていましたね」
「あいつらしい。」
「生きていればまた会えますよ」
陽菜は手拭で顔を拭きながらこくりした。土方は陽菜をなだめるため頭を撫でている。
「そういえば頼みとは何ですか?」
ふいに問いかけられて紫衣へ鋭い視線を投げかける。
「降伏するにあたり新選組の奴らをどうにかできないかと思ってよ」
和んでいた雰囲気を引き締めた楓は声を低めて答える。
「上官くらす・・・・えっと階級と言えばわかりますか?助命嘆願はかなり骨の折れることです。あなたも経験しているはずです」
それは近藤のことであろう。助けられなかった。胸がずきっと痛くなる沈鬱になる土方を陽菜は腕を伸ばして膝立ちになり抱きしめる。頭を抱きしめられた。
「大丈夫だ」
温かい抱擁から抜け出してそう言う。
「お前らだろ。近藤さんの首を取り換えたのは」
無言の肯定だった。
「ありがとうな」
照れたのか楓はふいとそらす。
「わかってんだ。そのくらい。謹慎ですめばいいほう。陽菜たちだけはどうにかできねぇかと思ってよ」
「いいえ。私も土方さんと一緒にいきます」
会津の降伏の時も女たちは見逃されていた。
「あなたは今からただの幕府軍の一兵と名乗ってください」
「は?」皆の目が点になった。意味が分からない。
「楓ちゃんどういう意味」
陽菜が耐えきれずに聞いてくる。実にいい笑顔でこう言う。
「土方さんをただの謹慎だけですませたいなら名前、身分を変え別人になるよりほかありません」
その手があったかと嬉しそうにした。腕を組み真剣に悩みだした。
「だから・・そうですね。うーん。何がいいでしょうか」
三人はあっけにとられている。何を悩んでいるのかと思うが今は楓の策に乗るよりほかないと口を挟まないよう耐えている。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.120 )
- 日時: 2017/02/06 22:07
- 名前: 小鈴 (ID: C1fQ.kq4)
「今日土方歳三は死んだことにしましょう。あなたはただ上官に命じられて戦っただけの一兵士です。名前は「相原誠」で」
楓は勝手に土方の偽名を決めてどや顔をしていた。【あいはら まこと】聞き誰それと言いたくなるも必死に耐える。三人だった。
「楓ちゃん名前の由来は?そい言えば斎藤さんの時も「一瀬伝八」ってつけていたよね」
「うん。由来は特にない。」
言いきった。とどめというようにこう言う。
「偽名だから適当でいいでしょ」
ふふんと言わんばかり腰に手を当てていた。適当か。やはりな。皆がそうだと思った。がくりと力が抜けた。流石は楓と呆れた目で見ていた。
「苗字は適当だけど名は本気で考えたんだよ」
伏せ目がちの視線を感じて耐えきれず言い訳を始める。『嘘だろ。それ』土方と紫衣は見抜いていたが陽菜は違った。感動していた。
「もしかして・・・新選組の旗の誠の字からとったの?」
ぱちくりしている。次に今閃きましたという顔をしてから真面目な顔をして頷く。
「そ、そう。うん。武士よりも武士らしくあろうとした。土方さんにぴったりでしょ」
どうだと言わんばかりに身をのけぞらせる。『どうせ、それも嘘だろ。今考えたことに違いない』と疑った。突然笑い始める土方にぎょっとした。
「へんなこと言いましたか?」
楓は恐れをなした。ついに頭がおかしくなったかと怯える。
「おい、失礼なこと考えてんだろ」
じろりと睨みつけられた。少しばかり殺気も向けられひっと怯える。
「俺は今から相原誠だな。」
「陽菜ちゃんのことは心配いりません。安心してください」
「ああ。頼んだ」
と言い陽菜を一度見てから苦笑する。
「他の人たちは黒田さんに任せるよりほかありません」
「わかった」
交渉成立した。彼らは気を緩めていた今ここは敵陣の中であることを忘れかけていた。敵がすぐそばに来ていることに気がつかなかった。
それに気が付いたのが土方だった。ふいに木を背中にして立ち上がる楓も土方の動きにばっと振り返る。陽菜は土方を支えるため立ち上がる。紫衣は楓の視線を追いかける。そこに誰もいない。しかし二人は気が付いていた。戦場に常に出ている土方と動物的感の働く楓は違った。意識を集めて鋭く睨んでいる。
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