複雑・ファジー小説
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- 私は貴方たちを忘れない
- 日時: 2016/06/29 09:33
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。
主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。
他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。 時代は1867年のころからです。
追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.6 )
- 日時: 2016/06/29 10:48
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
「君は、まっく。そんなに強くかんでは唇が切れてしまうよ。」
こんなところばかり強くなってと切なそうに眉をよせる。唇を指で撫でられた。その瞬間お互いに無言で二人だけの時間だった。さらさらとなでられている。動いたのは桂で少し身をかがめて近くなる距離に自然と紫衣は目を閉じた。触れたのはあたたかなぬくもりと吐息。一度、二度と繰り返す触れるだけの口づけにしだいに酔いしれていく。
本当はもっと深く、口づけをかわしたい。男の心情だったがそれをやるととたんに怯えてしまうのだ。
顔を朱の染めてながらも桂の襟を握りしめていた。
「私。本当はこのまま一緒にいたいです。それじゃだめなんです。もっと強くならないとあなたを守れない」
「守ってほしいなんて誰が言ったんだ。俺はそんなこと望んではいない」
正面から抱きしめ本心をぶつけてきた。彼女は胸に顔を押し付け背中に腕を回す。
「ごめんなさい」
「謝るな、俺がそれではいじめているみたいじゃないか」
口調がくだけた感じになっていた。視線を上に向けるとすねたようにむすりとしていた。
これ以上は何も言えなくなり額を肩にのせた。そしたら髪をなでられた。
この恋人は恥ずかしがりやで照れやすくまだまだ大人になりきれていない。
その後。十一月十八日。この日はのちの油小路事件と呼ばれることになる。
料亭「花の屋」に密偵として潜入した。楓と紫衣だった。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.7 )
- 日時: 2016/07/03 13:09
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
ここは料亭「花の屋」。
二階建てのつくりとなっている。二人の身元を確実にしたのは名の知れた薩摩の男と土佐の男だった。仮の名もその時つけられた。紫衣は「黄衣」楓は「紅葉」あまりはなれた名にするとわからなくなるので。長い廊下を歩いている。酒や料理を運んでいた。宴会場に向かう。「桐の間」という名前だ。その時一人の男とすれ違う。
伊東申子太郎は二人の姿を見かけた。
「どうしてここにお二人がいるのですか?」
真意を探る眼差しだった。二人は素早く辺りを見回して廊下に立っている男のそばによる。
「実は先日のことでお礼をと、借りをかえしにきたのです」
声の大きさに気をつけながら楓が耳元にささやく。伊東も愚かでない。意味をすぐに理解した。
「でも何もお役に立てなかったのでは・・・」
坂本のことをいっている。沈んだ声をだして顔も暗い。「おしい人を亡くした」といっていた。
「新選組の人たちと今後のことを話しあっているところです」
二人は顔を見合わせる。
「新選組?手を切ったのではないのですか?」
ふかかいと目を伊東に向ける。もし裏切るなら伝えなくてはならない。
「それはそれ。これはこれ。ということです」
裏切るつもりはないといった。
そんなことを話していると廊下の向こうから一人の男が歩いてきた。
「伊東さん。こんなとこにいたのか?皆が待っている。」
「あら。土方君わざわざどうも。」
突然口調を変えた男はくねくねさせている。二人の娘はびくっとさせた。あまりの変わりように驚いてしまう。しかし今ので目の前にいるのが新選組副長の土方と知る。あわてて二人は背中を向けてその場から去ろうとした。
「おい、まて」
声をかけられた。びくっと体をはねさせる。ばれた?そんなはずはない。ゆるりと体を反転させた。
「はい」
「なんでしょう?」
二人はその場に腰を下ろす。伊東はいなくなっていた。楓は気になり面をあげた。一体どんな顔をしているのか。目を見開く。なんて綺麗な人だと声もなくただ男の容姿に見とれていた。
じろじろと見られていることに土方が気が付かないわけがない。はっきりと刻まれていく眉間のしわ。
「おい、てめぇ。いつまで人の顔見てやがる」
低い声にすごみが増す。「なんだろう。この感じ」誰かに似ている。
「おい、なんとかいったらどうなんだ」
さらに威圧感が増していく。背後に何か黒いものが見えた・・・・気がした。「ひっ」紫衣はすでに恐ろしさのあまり怯えて傍にいる楓の腕にすがりついている。
「いいえ。失礼しました。」
我に返り謝罪をした。小さな声で「こ、こわい」紫衣が呟く。
「ふん。まあ。いい」
鼻を鳴らすと腕を組んだ。
「お前らに頼みがある」
「はい」
返事を返ししていたが頭の中では別のことを考えていた。ものすごく既視感がある。
「ねえ。誰かに似ていない?」
「なんのこと?」
二人でこそこそ話をしていた。
「おい、聞いているのか?無視するとは言い度胸だな。」
怒鳴りつけられた。びくっと震えた。あわてて謝る。
「すみませんでした」
「たく。なんなんだよ。さっきから」
ふしんがつのってきたのか土方は睨みを強くさせてくる。睨むとまた怖いこと。それを見て楓は失言をした。
「鬼みたい」
ぼそりと呟くがしっかり土方にはそれが届いていた。
「誰が鬼だ」
怒鳴りつけらてしまうのだが、楓はなれているのか気にしない。
ついに我慢の限界を超えた土方は楓の襟をつかみ引き立たせた。びりびりしてくるほど殺気を向けられたというのに楓は表情も変えない。
「だってさっきから眉間のしわすごいですよ。お兄さん。」
バカにしているのか。とさらにすごむ。目の前で行われていることに紫衣はあっけにとられていた。怖い人なのに全然こたえていない友人に「すごい」と感心すらしてしまう。ここに大久保がいたなら「何をやっているのだ。バカ者」と怒鳴る声が聞こえてくるはずだ。『ん?大久保さん』そうだとひらめいた。『そうだ。大久保さんに似ているのだ』
今は何も言わないでおこうと判断した。
舌打ちがした。
「話が進まねえ。」
ぎろりとこちらを向いた。
「酒を注文するから伊東さん。さっきの男にたらふく飲ませてやってくれ。いいな。」
「はい」
ぎろりと睨み去っていく。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.8 )
- 日時: 2016/07/05 13:07
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
言うだけいい、土方は楓をはなしさっさと背を向けた。
「大丈夫?」
楓を心配して一応聞いてみた。
「平気」
と返す言葉にきょとりとしてから
「あのね。思い出した。あの人、大久保さんに似ている。」
襟元を正しながら楓はぽんと手を打つ。
「それだ。」本人が聞いていたなら怒るに違いないことを平気で口にする。
「あの、眉間のしわといい、鬼の形相といいまさにそっくりだな」
うんうんと頷いている。
「それって楓ちゃんが悪いんじゃない?」
思わんつっこみをいれてしまうほど無自覚だった。
「そう?いつもあんな感じだと思うけど」
無意識とは恐るべし。
「気づいていない?」
「別にあの人、不機嫌そうだし睨んでくるし。木戸さんだっていつも無表情だし同じでしょ。」
「ちがう。あの人は感情を表に出さないようにしているだけ」
少しはなれただけでなのに会いたくなる。こつんと壁に頭を預け想いをはせた。
「さてと・・・いい?」
「うん」
二人はお互いに頷く。頭をすぐさま切り替えていく。
「お酒飲ませてくれって?」
「どういう意味かな」
紫衣は考え始めて首をひねる。
「よくわからない。とりあえず言われた通りにお酒用意しよう」
結論づけて歩き出す。
女中のふりをして酒、料理を運んでいる。伊東のそばには楓が近藤のそばには紫衣が座る。
「どうぞ」
楓が酒をすすめると伊東は知らぬふりをして軽口をたたく。
「うふ、可愛い女中さんね。」
「おい、伊東さん。女中にちょっかいをかけるなよ」
皆が笑い合う。ちらりと辺りを見回す。酌を続けていく中、鋭く観察をしていた。
「君もありがとう。」
「いいえ」
優しい声に静かに首を振るのは紫衣。
「私は近藤という。君は」
突然名を尋ねられた。僅かに戸惑いながら仮の名前を口にする。
「黄衣。〈きい〉といいます」
酒をつぎながらなんてことはない話をしている。
楓は伊東に酒をついでいく。
「楓さん。もしやここへは密偵として来たのですか?」
ひそりと囁く声に土方に視線を一度流してこくりと頷く。
「悪いことは言わない。この集まりはただの集まりではない。すぐに帰ったほうがいい。あちらのお嬢さんをつれて」
「?」
男の真意がよくわからないが、何かがおきようとしている。それだけはわかる。伊東はその顔を見て小さく笑い酒を飲んでいく。
「私はそろそろおいとまさせていただきますわ」
席を立つ伊東に楓は首をかしげる。が雰囲気ががらりと変わる。やはりなにかがおかしいと理解する。『どうすればいい?私の役目は全てをみること』
「おい、つげ」
器を差し出してきた土方に仕方なくそれに合わせる。
「どうぞ。」
土方に酒をつぎながらも頭を回転させていく。土方は無言で酒をあおっていく。ずいぶん無茶な飲み方をする。自然と眉をよせていく楓。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.9 )
- 日時: 2016/07/05 21:08
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
その場の空気が変わる。土方の無理な飲み方といい、一体何があるのかと気にかかる。
「土方様、どうぞ」
そのまま飲み干せとそそのかす。「さっさと飲め」といっている。じろりと土方は睨む。
「何をたくらんでいやがる」
「何か?」
にこりと笑い土方を見てくる。
「何をあせっていやがるんだ」
さとい男だ内心のあせりに気が付いた。簡単には流されてくれない。
「あせってなんていませんよ」
またにこりと笑い酒をそそぐ。酒のとっくりはもうからになる。あちこちにからになるとっくりが転がる。土方はあなどれない。
「すみません。お酒がきれてしまったようです。私と黄衣で新しいのを用意します。」
いうだけいい、二人は立ち上がる。土方がぱしりと腕をつかんだ。楓と土方の視線が交わる。それはとがめるように真意をさぐるような目であった。楓はそれを笑み一つで流すとつかまれた腕をはずした。
「別の方にお相手を頼んできます」
全てをその笑みで隠してするりとかわすのだ。今度こそ去っていく。
裏口に二人は出てから
「抜け出せた」
「紫衣。これからのことだけど」
真剣な顔をし友を見た。女中の姿で腕を組み壁に背中を預けている。かなり行儀が悪い。
「楓ちゃん。着物。汚れる」
とがめられ、あわててそこからはなれる。腕はそのままでいた。
「何かいる」
紫衣の言葉にぱっとそちらを見る。前方に視線を向けた。
「いこう」
不敵に笑い楓がうながす。
「最後まで見る覚悟はいい?」
友の言葉にこくりと頷き引き締める。
「血を見ることになるかもしれない」
「どういう意味?」
こてんと首をかしげる。
「感なんだけど人が斬られるかもしれない声を出さないでいられる?無理なら帰って」
辛辣なる言葉であったが真剣な想いだった。人がとくに近しい人が斬られるところを見ている。それでも悲鳴すらあげない。声を殺し気配を消して様子を見ていた。強い精神力がなくては耐えられない。
「気配に敏感な人たちだから近くによりすぎないようにしないと」
空を見上げた。天気がよく雲一つない。星がまたたいている。
「よく見える」
「?」
意味が分からずに目をぱちぱちしている。
「つまりこの明るさなら相手の顔が見える。ぎゃくもね」
なるほどと納得した。
- Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.10 )
- 日時: 2016/07/07 16:32
- 名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)
気配を悟らせないように狭い路地に身を隠した。伊東の姿を探していた。料亭「花の屋」からそんなに時間は過ぎていない。紫衣が楓の袖を引く。ぐいっと。
「あれ。」
声をひそめて前を指先で示す。瞳を細めて示された先を見た。
「後をつけているみたい」
伊東の後ろをついていく男は鞘をはらう。背中から刀をふりかぶり、ずばっと斬りつけた。ぱっと血が夜の闇に舞う。抵抗できずに伊東はそのまま地面に倒れる。おそらく伊藤はもう、生きていない。
こんなにも簡単に人は死ぬのだ。声もなく二人はただ見ていた。知っている人が死んだとしても楓は討幕の仲間が死ななければいいのだ。冷静に動ける。紫衣は動揺はしているが我を失いはしない。強くなった。
遺体となった者を引きずっていく。
「何をしているのかな」
もっとよく見ようと身をかがめていく。背中を壁にして
そして遺体を広い道に連れていくと放置した。
「どうして?」
「うーん。何かこれだけじゃないと思う。」
「別の目的もあるのかな?」
ただ異体を捨てるだけならこんなことしない。
その後。御陵衛士たちが駆けつけてきた。
「伊東先生」
「よくも先生を」
恨み言をこぼしていく男たち。
「先生をこのままにしておけない。」
籠を用意してそこに乗せようとしていた。これこそ罠であった。
そこには彼らを囲むようにあさぎ色がはためいていた。
「まさか」
「あれは」
はっと息を飲みこんでしまう。新選組。見間違いではない。ありえない。これほど鮮やかな色はない。あのだんだら模様。刀や槍をかまえていた。
「おのれー」
「貴様らー」
「卑怯者ー」
次々と刃を交差していく。
この日の出来事を二人は路地の影に隠れて見ていた。声を殺していた。
新選組の原田、永倉ら隊士たちが囲んでいたのだ。
「なにこれ」
「何が起きているの」
小さく呟くと、あたりを見回す。これ以上はまずい。
乱闘が始まる。人と人が殺しあっていたのだ。
へたに動けば音が出て気づかれる。よく知っている楓は動けない。
ふっと別の気配を感じた。ぞわっとした。鳥肌が立つ。
「どうしよう」
「え?」
紫衣にはわからない。
「楓ちゃん」
くりっとした目を友に向ける。その時足音がしたようやく気がつく。
「はは、もう逃げられない」
あきらめたように肩をすくめた。
「一人なら逃げられる?」
「え?なにいっているの。」
とんでもない言葉を聞いた。肩をつかむとただ紫衣は首をふる。強い言葉でいさめる。
「バカなことはやめろ。私にあなたを置いていけ逃げろというの?」
本気で怒りを表す。
「冗談じゃない。」
「私も冗談を口にしているつもりはない。」
本気だと伝えてくる。
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