複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

私は貴方たちを忘れない
日時: 2016/06/29 09:33
名前: 小鈴 (ID: ZfyRgElQ)

小鈴です。『貴方たちを忘れない』の続きを書こうと思います。
時代背景は幕末で登場人物たちも前回と同じ人たちが出てきますので読まれる方は前回からお願いします。注意としましてできるだけ史実にそい書いていきますが途中で捏造も入りますのでよろしくお願いします。
初心者ですので書き間違いもあると思いますが流してください。

主人公 楠 楓〈くすのき かえで〉十七歳少女
    立川 紫衣〈たちかわ しい〉十七歳少女
この二人を視点にして書いていきます。
登場人物 大久保 利通。桂 小五郎。西郷 隆盛。新選組。土方 歳三。

他にもいろいろ出す予定ですので、楽しみに待っていてください。  時代は1867年のころからです。

追加 大久保利通〈三十七歳〉桂小五郎〈三十四歳〉  

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.46 )
日時: 2016/09/04 22:13
名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)

「立川。」
木戸は人前だからと上の名前を呼んでいた。呼ばれた彼女は振り返る。
「はい」
にこりと笑う。その時向こうから兵士がやってくる。
「時間です」
「わかった」
西洋の黒い軍服に身をつつみ髪が短くなっていた。
「いってきます」
紫衣はできるだけ笑みを浮かべて男を見ていた。振り返ってはならない。背を向けたら迷わずに歩き出す。木戸はその背中を小さくなるまで見送っていた。
楓は元気よく手をふっていた。また会えると信じて軍艦にのりこんでいく。船が動き出していく。

月明りをたよりに進んでいく。甲板に立ち楓は考えていた。
「なに。考えているの」
「何も。ただ私にできることは何かな?」
「勝さん。さがす」
「もちろんそれも大事だけど・・・」
紫衣はとたんに片言に戻っていた。友にならい空を見上げる。星がまたたいていた。

新選組側。
2月12日近藤は江戸城に召し出されていた。
「新選組に上野で謹慎中の慶喜公の警護をまかせたい」
「謹慎?でございますか?」
将軍は陸軍総裁の勝に事態のしゅうしゅうをまかせた。自らは上野で謹慎している。慶喜は本気で保身をはかっていた。つまり戦う意思がないということ。
「甲府城を拠点に新政府軍を向かいうちましょう」
提案してきたので勝は
「それはいい。甲府城は江戸を守るために築かれた城。甲府を拠点にして戦うことは理にかなっている。軍資金と大砲を用意するから甲府へいってくれ。」
内心では『これでうっとおしい奴らを追い払える』と考えていた。勝自身戦うつもりはなかった。新政府軍と講和を目指していた勝にとって『余計なことをするな』という気持ちだったはずだ。


2月28日上野警護へ命令が出る。
「鳥羽伏見での雪辱をこれではらせる」
いきりたつ。この時土方は西洋式に軍をあらためていた。
「これより我らは甲陽鎮撫隊と名をあらためる」
声高々に近藤が馬の上でいった。皆が近藤に熱をあげていた。
ひどく冷静な顔をしているのは古株の人たちだった。この時から彼らの心ははなれていった。


甲府に向かう途中。少し休みをとっていた。斎藤が土方に問う。
「副長。率直な意見をお聞かせ願えますか。この戦・・・」
一度言葉をきり次に鋭く土方をとらえる。
「勝てますか?」
土方は暗闇の中迷いなく答えた。前だけを見て。
「勝てねぇだろうさ」
その声にはっと陽菜は土方を見た。片膝を立てたまま続けていう。
「こんなことあいつらにいえねぇだろう。」
切なさをたたえて陽菜の頭をなでてやる。
「こんなとこまで引っぱてきておいてなんだけどよ。よかったのか」
まだ土方の手は頭にのっている。その温かさに陽菜は自然に笑うことができた。
「後悔はしていません。それに何度もいったはずです。ここにいたいです。」
息を止めたようだ。わずかに目元をゆるませた。
「すまねぇ。迷っているのは俺の方だ」
斎藤は二人に気を使いその場をはなれた。この二人にも休みが必要だろうと。誰が見ても二人はひかれあっているようにみえた。だというのに皆に気を使い自分より人のことを気に掛ける。二人であった。


Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.47 )
日時: 2016/09/05 18:44
名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)

触れそうで触れないその距離が切なく風が吹いていく。土方が陽菜を引き寄せた。
「あのっ」
おろおろしだす陽菜にさらに力をこめる。
「寝ろ。ここにいる」
そのまま腕の中に抱きしめられた。とても温かい。でもと遠慮がちに声をかけた。
「なにもしねぇよ。だから寝ろ」
命じられて落ち着かない。土方は黙り目を閉じてしまう。
「いいのかな。私だけ」
一人事が聞こえてきた。小さく笑みを浮かべて寝たふりを続けていた。
力をぬいて土方に背中を預けて目を閉じた。
「ふっ。ようやく寝た」
苦笑をもらして土方は陽菜を抱き利き手に刀を握り直す。今度こそ眠るために目を閉じた。娘の温もりを感じながら、甲府へと目指す。

新選組は3月1日に江戸を出発する。しかしこの時天候の悪化に時間を浪費していく。
3月4日には土佐の板垣と薩摩の伊地知らが先鋒隊として300人が甲府城へ入る。


「大変です」
島田が伝令を伝える。
「どうした?」
「甲府城に敵が入っているようです。」
「なんだと」
土方が目つきを鋭くさせる。永倉が苛立つ。
「もたもたしているからこんなことになるんだ」
「兎に角近藤さんと合流だ」
永倉と原田をなだめる。

その後の勝沼での戦いは無謀としか言えなかった。明らかに数が違いすぎたのだ。
「俺が援軍を呼びにいく。あともう少しだけこらえてくんねぇか」
永倉は土方を見てようやく落ち着く。
「わかったよ。あんたにそれをいわれちゃあな」
仕方ないと苦く笑う。
「頼む」
「わかったよ。土方さん」
原田も頷く。

土方は知らない。援軍を願い出るも黙殺されてしまうことを。

山の中二人は向かい合う。
「会津の援軍は本当にくるのですか?」
陽菜は心配だった。
「お前はもう、離れろ。女が戦場にいるな。」
「お断りです。私は男としてここにいるんです。皆さんの・・・」
嘘だ。本当は。あなたの役に立ちたくてここにいるのだ。そう、叫べたらいいのに。心とは別のことを口にする。
「私ここにいたいです。そばにいたいです。」
どうか、と深く頭を下げて懇願した。
それを見下ろしていた土方はため息だった。
「バカやろう」
小さく呟くと一度だけ目を閉じて自分の頭に手をやり心を落ち着かせる。
「ならば命令だ。局長に常に従いその役に立て。」
「はい。必ず近藤さんを守ります。」
「ただし絶対に死ぬな。盾になんてなろうとすんじゃねぇぞ。俺は死ねなんて命令はしねぇからな。」
「はい。死にません。」
「いい返事だ。」
馬にまたがると土方は去っていく。

この戦も大敗をし撤退をするより他なくなった。
ずるずると後退していくことになる。負けてばかりの戦により次第に旧幕府軍は数を減らしていく。脱走するものが多くなっていた。


楓と紫衣は軍艦に乗り江戸を目指していた。やるべきことをするために
勝に西郷からの書状を届けるために。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.48 )
日時: 2016/09/14 18:06
名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)

楓と紫衣の二人は勝の自宅を目指す。声をかけると奥さんがでてきた。
「あいにく、勝は不在です」
「そう、ですか」
肩をおとす。仕方なく二人はそこを離れて町を見て歩くことにした。
「それにしても、戦がせまっているように見えないね。」
江戸は人々がいきかい、にぎあいをみせていた。勝は昼は城に行っていていない。どうしてもこれだけは渡さねばならない。
「どうしよう」
顔を合わせため息をつく。
「どうしたらいいの。」
紫衣が書状を持っている。
「自宅でまたせてもらう?」
「そうだね」
ダメ元で引き返した。
「中でまたせていただいてもいいですか」
簡単にあらためて挨拶をした。
「かまいません。勝はいつ戻るかわかりませんよ」
いいながら客室に案内されていく。
「もちろん」
「私たちは勝さんに渡さなくてはいけないものがありまして・・・・」
適当に話をしていく。嘘はつかない。話を合わせるためにはぐらかすだけだ。
「わかりました。勝に伝えておきます」
お茶を用意してくれたので口をつけたとたん、怪しい男たちがのりこんできた。ぎょっとして立ち上がりかけたら、奥さんは首を振る。
「どうして」
一度だけ笑う。冷静に座ったままでいた。随分きもがすわっている人だ。
「いつものことです。それに好きにやらせておけと勝がいっていました」
あっけにとられていた。三人の男らは嵐のようにやるだけやらかしていった後を見て呟く。
「嫌がらせだ。」
部屋の中は何がそこにあったかわからないほどあらされていた。勝の自室は西洋のものがちらほら見える。
「たくっ。ひでぇことしやがるぜ」
ぼやきながらも勝が帰宅する。小物、机、道具をもとに戻していく。
「ところでお前らは何もんだ」
二人に声をかけた。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.49 )
日時: 2016/09/18 11:11
名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)

ぽかーんとしていたが我に返る。
「勝に大切な話があるとか」
「あ?」
くるりと体の向きを変える。
「後にしてくれ」
部屋の散乱した姿に納得する。二人の娘も手伝い始める。
「そういえば噂があります。勝は腰抜けだとかふぬけだとか。薩長のイヌとも」
疲れ切った勝は縁側に腰を下していた。
「言いたい奴には言わせておけ」
「女中に手を出したとか」
勝は口を閉じた。腕を組んだまま。
「・・・」
二人から視線を感じたが遠い目をした。
「い、い、言わせておけ」
かなり動揺していた。
「まさかこの人たちも・・・」
黒い笑みを浮かべた。怖い。奥さんの顔が・・・
「ちがっ」
言い訳を始める勝に冷え切った目を向けた。

しばし間が空いた。
「ではあらためまして」
すいっと背筋を伸ばすと頭を下げた。
「立川紫衣と申します」
「私は楠楓と申します」
名前を聞いたとたん腕を組み考え始める。
「ん?立川・・・」
「お久しぶりです」
儚く笑う。
「紫衣。そうか。お前生きていたのか」
懐かしそうに目を細めた。
「歩きながら話をしていいですか」
「おう」
三人は自宅を出て歩き始める。町の中を見ていて
「江戸はのどかですね」
楓の言葉は皮肉のこもった言い方だった。
「ああ。」
しばらくして江戸の町が見渡せる位置に立つ。
「おいらはここが好きだ」
そう言った時の勝の横顔は真剣そのものだった。楓は黙って見つめる。見極めるつもりでいた本当に信じられるにあたる人物か。実際に見てみなくてはわからないことばかりだ。
「勝さん。あなたの考えを聞かせてください」
横顔を見つめながら言う。とたんに勝は雰囲気を変化させた。鋭き低い声で言う。
「やめておけ。誰が聞いているともかぎらねぇ。うかつなことを言うと」
一度だけ言葉をきりとんとん己の首を示す。
「首が飛ぶぜ」
ひやりとした。冷え切った眼差しは次には消えている。

Re: 私は貴方たちを忘れない ( No.50 )
日時: 2016/09/21 17:32
名前: 小鈴 (ID: JQzgI8be)

「へぇー」と内心楽しんでいた。『この猫っかぶり』毒を吐く。紫衣も勝の雰囲気に気が付き小さく笑う。また正面を向いた。ばっと勝と楓の二人は後ろを振り返る。
「え?」紫衣は数秒遅れて振り返ると「まったく」と勝の声が耳に届いた。
「うっとおしい」
憮然と楓も言った。眉を吊り上げている。どうやら怒っているらしい。
後をつけてきたていたことには気が付いていた。ただそしらぬふりをしていた。勝は腕を組んで傘の男に寄っていく。
「なにもんでぃ」
と言った途端傘の男が刀を抜き斬りかかってきた。すぱっと袖を切った。
「うっわ」
声を上げた。どう見ても情けない姿をさらす。「演技」だった。本当はそれさえ見抜いていた。よけることもできたはず・・・
「え?」
驚いたことにこの男はすたこら逃走していた。気が付くと目の前から消えていた。
「逃げた」
紫衣が呟く。
「私たちも逃げるよ」
楓が腕をつかむと勝を追いかけていく。
「おい、まてっ」
「まてっ。と言われて待つバカはいない」
と言いながら全力で走り抜けていく。
「し、しんじられない。」
ぜぇはぁ。息を乱しそれでも勝を追いかけていく。かなり疲労こんぱいになりながら肩で息をしていた。
「おいらは・・・死ぬわけにいかねぇんだ」
疲れ果てている二人にそばを食べようと言う。この男にだんだん腹が立ってくる。ずいぶんのんきなものだ。
「そばを食べている場合かっ」
勝の着物の襟をつかんだ。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。