宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第一話



「はよっす」
「昨日のアレ見た?」
「宿題やってないよ、どうしよ・・・・・・」
いつも通りの会話と、笑い声。その中に混じって、タイヤと床がこすれる音がする。
騒がしい音にかき消されてしまいそうで、しっかりとした音だった。
私は振り向いた。
車イスに乗ったその子は、こっちに向かってくるところだった。目があうと、その子は横を向いて、目をそらした。
――三好凛、だっただろうか。
足が悪いようで、いつも車イスに乗り、耳にイヤホンをつけていた。

「おっはー、友里!」
肩を大きく叩かれる。
振り向くと、親友の萩元陽子が笑っていた。
「おはよう。もう、びっくりしたじゃん」
私は笑う。
「友里こそ、何ボーッとしてたの?」
私は指を差した。
「ああ、三好凛ねー。ああやってクールぶってんだよ。いい加減クラスの輪乱すの、やめてほしいよ、ホント」
陽子が聞こえよがしに言った。その声が聞こえているのかいないのが、三好さんは前を見て、平然としていた。
私は陽子や皆のようには思わない。三好さんは、もっと深い物を秘めているような気がする。

転校生の噂を広めたのは、陽子だった。
「ねぇ、うちのクラスに転校生来るんだって。めっちゃ美人だってよ!」
男子がおぉー、とどよめいた。
「マジで? どこ住んでたのかなぁ」
「大阪だって。生の関西弁、聞けちゃうよ」
陽子の周りには、あっという間に人だかりができた。陽子はクラスの人気者だ。
――でも、車イスに乗った転校生の挨拶は、皆の期待を大きく裏切った。

「大阪から来ました、三好凛です」
――それだけ、だった。
よろしくも何もない。皆、唖然としていた。
休み時間、陽子を筆頭に大勢の女子が三好さんに質問を浴びせた。
でも、三好さんはそれに対して、簡単な受け答えしかしなかった。
三好さんの周りは、少しずつ人が減っていき、三好さんは孤立した。
だからと言って、三好さんは寂しそうではなく、むしろ清々した、という顔をしていた。
それがまずかったのかもしれない。

「車イスに乗って、悲劇のヒロインぶっている」

その言葉を最初に発したのは、陽子だった。
三好さんはそんな陽子達を冷ややかに見つめ、鼻で笑った。
私は三好さんのそんな態度に強く惹かれたけど、クラスで孤立するほど強くなかった。