宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作

第十五話
「はよー……」
今朝は驚くほど寒かった。教室も、外の温度と差ほど変らない。
「おはよー、寒いね」
陽子が白い息を吐きながら、笑った。自分の席に行くと、椅子が冷たくて座るのに勇気がいった。
「今日体育とかマジムリ」
「やっば、宿題忘れた」
「テストいつ?」
皆、いつも通りだ。笑ってしまうほど普通。クラスメイトが一人、いなくなったって、このクラスは一つも変らない。それに安心して、ぞっともした。
私がいなくなったって、陽子たちはいつも通りなのだろうか。入院したって――この世から消えてしまっても。
馬鹿げた考えだ。自分でもそう思う。でも、この考えは、なかなか消えなかった。
一時間目、読書タイムが終わり、先生が教室に入ってきた。教団に立ち、皆を見回した。
「えー、三好の事だが、三好は入院した。命に別状はないそうだ」
良かった――。
そう思う事も、無責任だ。分かっていても、そう思った。
「そこで、だ。誰か、三好のお見舞いに行かないか?」
クラスが沈黙する。
皆三好さんと仲が良かったわけでもなく、むしろクラスの大半が嫌っていた。あの素っ気無い態度で、泣いてしまった女子もいた。
私は下を向いた。こんなフインキは嫌だった。
クラスの沈黙も、外の車の排気音も、随分と遠く聞こえた。
三好さん。
三好さん、どうして抵抗したの? 賢い三好さんなら、倒れる事は予想出来なくても、抵抗すればもっと酷い事をされるって分かっていたんじゃないの?
分からない。三好さんが分からない。
三好さんの言葉だって、全く分からない。意味を聞いても教えてくれない。
三好さんは、私なんかに分かってもらおうと思っていないんだろう。でも、私は三好さんを知りたい。知りたいと思う自分が不思議だ。
私は三好さんに憧れている。格好いい。でも、好きじゃない。あんな風になりたいとは思わない。だって、私には"親友"がいる。一人は嫌だ。
自分の頭の中の親友が、すごく薄っぺらく見えた。
――助けて、三好さん――
あの声だ。また。頭にキンキンと響く、懇願。
私は驚いた。三好さんに助けを求めている。何故だろう。どうして三好さんに。何故か、あの素っ気無さが恋しくなった。
「じゃあ、佐々木、いいか?」
「はいっ」
先生に不意に声をかけられ、反射的に返事をしていた。
「三好のお見舞い、頼んだぞ」
先生は満足そうに言った。
思考が止まった。

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