宇宙の中で ―HANABI― 秋桜 ◆AxS5kEGmew /作


第二十八話



入ると、まず最初に驚くほど大きな犬が飛びついてきた。確か、セントバーナードという種類だった。
でも、本当に驚いたのは、中にいる子供達だった。普通に座っている子供もいる。
でも、目の焦点が定まっていない子がいた。涎をたらしている男の子や、意味もなくにこにこしている女の子。「うー」と唸っている子もいた。
私は犬に顔を舐められながら、一歩後退した。後ろからきた祥子さんにぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい。こら、ハナ! ダメでしょ」
この犬はハナというらしい。
祥子さんは、私の後退は犬に驚いたからだと思ったみたいだ。
祥子さんの声に気づいて、子供達が一斉にこちらを向いた。
「しょーこさん」
にこにこしていた子が駆け寄ってきた。私は脇によける。
「この子、だーれ」
女の子が私を指さした。汗が流れる。さらに後ろへさがった。
「このお姉ちゃんはね、凛ちゃんのお友達よ」
「りんちゃんのぉ?」
「そうよ」
女の子は不思議そうに私を見つめた。その時、凛が車イスに乗って部屋に入ってきた。
「あー、りんちゃん。お帰り」
子供達が凛の周りを取り囲んだ。凛はうっとおしそうに手ではらう。
「ちょっと、退いて。進めへんやろ」
でも、私のように後ろにさがったりしなかった。凛は私を見て、ため息をついた。私は激しい自己嫌悪に襲われた。
「さぁ、お茶でも飲んでいってくださいな」
祥子さんは私の背中を押した。私は恐る恐る歩きだす。
「だーれ」
子供達が私に興味を示したようだ。だーれ、と言いながら、私の体を小さな手のひらで触る。そんな動作にも、私は少しびくついた。
「りんちゃんの、おともだち!」
さっきの女の子が必要以上に大きな声で言った。周りの子供達はおともだち、と繰り返しながら跳ねた。
前を見ていなかったせいで、誰かにぶつかってしまった。謝ろうとしたとき、足がすくんだ。
「うー、うー」
男の子が唸った。唸りながら、私を見上げた。喉の奥で、「ヒィ」という乾いた音がする。
「ほら、あんたら邪魔やろ」
凛が車イスで子供達を押しのけた。助かった、と思った。恥ずかしいけれど。
「自己責任言うたやろ」
凛は私を見て、またため息をついた。怒っている感じではなかった。
「お茶が入ったわよぉ」
祥子さんは歌うように言った。凛と私が席に着くと、
可愛らしいクマのマグカップが2つ分置かれた。
「あの、いいんですか」
「何が?」
祥子さんは花柄のエプロンを揺らしながら答えた。
「あの子達の分は……」
「いいのよ。こぼしちゃったりしちゃうから」
祥子さんは言いながら席について、私の顔を見て微笑んだ。
「ここね、両親がいなくなったり、事情があって育児が出来なくなってしまった子や、体に障害がある子供を預かる施設なの」
「そうなんだ……」
私はマグカップの中身を啜った。すごく美味しいミルクティーだ。
「こうへんかったらよかった?」
凛はミルクティーを見つめながら、唐突に言った。